照会事例から見る信託の登記実務(21)

登記情報[1]の記事、横山亘「照会事例から見る信託の登記実務(21)」から考えてみたいと思います。

登記官としては、信託目録の制約を受けていると考えられることから、承諾をする権限を付与されているかどうかは、信託契約の内容によるのではないでしょうか。登記官としては、信託目録の記録内容を手掛かりとせざるを得ず、最終的には信託目録の解釈問題になると思われます。

 記事記載の通りだと思います。もし、信託目録に承諾をする権限について、何も記録がない場合は、どのように考えればよいでしょうか。何も記録がない場合は、信託法26条のとおり、受託者には承諾する権限が付与されていると考えます。詳細に記録されている場合、例えば受託者は、受益者の承諾を得て信託財産に(根)抵当権、質権その他の担保権、用益権を(追加)設定し、登記申請を行うことができる、と記録がある場合は、受託者の権限に制限があると考え、受託者の承諾だけでは完全ではなく、受益者の承諾も必要になると考えます。

最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決

土地所有権移転登記手続

裁判要旨

一 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。

二 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52445

民法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

(第三者のためにする契約)

第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。

2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。

3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

・信託行為の成立と売買契約時の存続。

・売主と買主が、売買物件の所有権が、売主から買主が指定した者、(今回は受託者)に直接移転する、第三者のためにする特約を付した売買契約の成立。

・受託者が、売主に対して売買契約の利益(所有権移転)を受ける意思表示。

・受託者に所有権が移転したこと(売買代金の支払いが所有権移転の条件となっている場合は、受託者が買主に売買代金を支払ったこと。)。

・登記には記録されないが、契約不適合責任の有無。

宅地建物取引業法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC1000000176

(自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限)

第三十三条の二 宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

一 宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令・内閣府令で定めるとき。

二 当該宅地又は建物の売買が第四十一条第一項に規定する売買に該当する場合で当該売買に関して同項第一号又は第二号に掲げる措置が講じられているとき。

(手付金等の保全)

第四十一条 宅地建物取引業者は、宅地の造成又は建築に関する工事の完了前において行う当該工事に係る宅地又は建物の売買で自ら売主となるものに関しては、次の各号のいずれかに掲げる措置を講じた後でなければ、買主から手付金等(代金の全部又は一部として授受される金銭及び手付金その他の名義をもつて授受される金銭で代金に充当されるものであつて、契約の締結の日以後当該宅地又は建物の引渡し前に支払われるものをいう。以下同じ。)を受領してはならない。ただし、当該宅地若しくは建物について買主への所有権移転の登記がされたとき、買主が所有権の登記をしたとき、又は当該宅地建物取引業者が受領しようとする手付金等の額(既に受領した手付金等があるときは、その額を加えた額)が代金の額の百分の五以下であり、かつ、宅地建物取引業者の取引の実情及びその取引の相手方の利益の保護を考慮して政令で定める額以下であるときは、この限りでない。

一 銀行その他政令で定める金融機関又は国土交通大臣が指定する者(以下この条において「銀行等」という。)との間において、宅地建物取引業者が受領した手付金等の返還債務を負うこととなつた場合において当該銀行等がその債務を連帯して保証することを委託する契約(以下「保証委託契約」という。)を締結し、かつ、当該保証委託契約に基づいて当該銀行等が手付金等の返還債務を連帯して保証することを約する書面を買主に交付すること。

 保険事業者(保険業法(平成七年法律第百五号)第三条第一項又は第百八十五条第一項の免許を受けて保険業を行う者をいう。以下この号において同じ。)との間において、宅地建物取引業者が受領した手付金等の返還債務の不履行により買主に生じた損害のうち少なくとも当該返還債務の不履行に係る手付金等の額に相当する部分を当該保険事業者がうめることを約する保証保険契約を締結し、かつ、保険証券又はこれに代わるべき書面を買主に交付すること。

宅地建物取引業法施行規則

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=332M50004000012_20210901_503M60000800053

(法第三十三条の二第一号の国土交通省令・内閣府令で定めるとき)

第十五条の六 法第三十三条の二第一号の国土交通省令・内閣府令で定めるときは、次に掲げるとおりとする。

一 当該宅地が都市計画法(昭和四十三年法律第百号)の規定により当該宅地建物取引業者が開発許可を受けた開発行為又は開発行為に関する工事に係るものであつて、かつ、公共施設(同法第四条第十四項に規定する公共施設をいう。)の用に供されている土地で国又は地方公共団体が所有するものである場合において、当該開発許可に係る開発行為又は開発行為に関する工事の進捗の状況からみて、当該宅地について同法第四十条第一項の規定の適用を受けることが確実と認められるとき。

二 当該宅地が新住宅市街地開発法(昭和三十八年法律第百三十四号)第二条第一項に規定する新住宅市街地開発事業で当該宅地建物取引業者が施行するものに係るものであつて、かつ、公共施設(同条第五項に規定する公共施設をいう。)の用に供されている土地で国又は地方公共団体が所有するものである場合において、当該新住宅市街地開発事業の進捗の状況からみて、当該宅地について同法第二十九条第一項の規定の適用を受けることが確実と認められるとき。

三 当該宅地が土地区画整理法(昭和二十九年法律第百十九号)第百条の二の規定により土地区画整理事業の施行者の管理する土地又は大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法(昭和五十年法律第六十七号)第八十三条の規定において準用する土地区画整理法第百条の二の規定により住宅街区整備事業の施行者の管理する土地(以下この号において「保留地予定地」という。)である場合において、当該宅地建物取引業者が、当該土地区画整理事業又は当該住宅街区整備事業に係る換地処分の公告の日の翌日に当該施行者が取得する当該保留地予定地である宅地を当該施行者から取得する契約を締結しているとき。

四 当該宅地又は建物について、当該宅地建物取引業者が買主となる売買契約その他の契約であつて当該宅地又は建物の所有権を当該宅地建物取引業者が指定する者(当該宅地建物取引業者を含む場合に限る。)に移転することを約するものを締結しているとき。

2については、仮に、信託の目的中の「処分すること」の文言に包括的な処分権限が付与されているというのであれば、そもそも「2 信託財産の処分」の項を設け、具体的な処分権限の内容を書き下す必要はないことになります。

 登記官は、信託目録について、そのように審査しているのだなぁ、と思いました。私は、具体的な処分権限については信託設定時に予想できること、受益者の承諾など制限が付いているものを中心に記録するようにしていました。登記官としては、具体的な処分権限について記録した場合、受託者はその権限しか持っていない限定列挙という風にみられることになります。

 そうであれば、今後、信託設定時に予想できることについては記録せず、受益者の承諾など制限が付いているものだけを記録し、その他は受託者の裁量による、などと記録した方が良いのかなと感じました。

 もう1つやり方としては、登記出来る権利と登記原因を全て信託目録に記録することです。


[1] 724号、2022年3月P54~(一社)金融財政事情研究会

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