渋谷陽一郎「民事信託支援業務のための執行指針案100条(4)」

市民と法[1]の記事からです。

日本の法制度上、特別法として任意後見制度が存在し、第一次的な認知症対策としての利用が想定されている。この任意後見制度を利用しないまま認知症を進行させてしまえば、一般法としての法定後見制度を利用するほかない。

最近考えることなのですが、民法と信託法との関係について。

信託法は民法との関係でいえば特別法だから、信託法が優先する、だから後継ぎ遺贈型の受益者連続型信託が認められる。遺留分も・・・というようなことが当初(今も?)言われていて、私も特別法であることに関してはなるほど、などと考えていました。

ただ、特別法だから常に民法に優先するかといえば、東京地判平成30年10月23日のように遺留分に関しては民法が適用されるように(侵害額の相手方、計算方法は特別については受益権説で良いのか議論があるとして)、必ずしも特別法が常に優先するわけではないということが明らかになってきました。

では、民法と信託法のどこが民法優先適用、どこが信託法優先適用となるのかのメルクマークは、どのように考えていけば良いのか、私は個別に一つずつ考えていかないと分からなくなりそうです。現状の私の考え方は次のとおりです。原則として民法に規定のない事項に関しては信託法が優先する、民法より義務が厳しいものに関しては信託法が優先すると考えています。その他に、民法より権利が拡充されている規定に関しては、民法と信託法だけではなく、その他の一般法と特別法との関係を踏まえて、どの程度であれば不合理ではないと言い切れるのか、と考えて決めています。

それはおそらく記事のなかにある、

今、司法書士の家族信託組成コンサルティングと称される業務に対して、その法的能力や公益意識を評価する弁護士、法学者、裁判官の声は、全く聞かれない。


という「公益」に関しても考える起点になるような気がします。

単なる親子や親族の信頼関係と、信託契約を媒介し、信託の法的効果を享受するための信託の信認関係は全く異なる(なお、平30.10.23判決は親子間でも、契約の内容が優先される旨を判事した)。

ここは、改めて考えてみると結構難しい課題だと感じます。法定後見だと一身専属権を除く全権代理、任意後見もいくつか代理権目録に工夫するとしても基本的に法定後見と同じ権限を後見人が持つと思います。

 ただし民事信託に関しては、一部の財産に対して詳細に決めることが多く、今までの家族関係と受託者と受益者の関係が、事案によってはかなり異なるものになる可能性があります。それだと対応できないので、出来るだけ現在の事実関係に寄せて、将来の可能性については一番高いと思われる事項を記載するように努めることが必要なんだろうなと考えているところです。希望は書いても良いけれど、まずは信託行為の変更を頻繁に行わないような記載が必要なのかと思います。

[1] 126号、2020年12月P20~民事法研究会

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