家族信託の融資について、受託者(債務者)が亡くなって変更になった場合、後任の受託者が就任を承諾すると、債務はその時点で自動的に後継受託者に移るのか。

(1)信託行為後の融資(金3000万円)

(2)受託者は信託財産のためにする意思で融資を受けた

(3)連帯保証人は受益者

(3)融資は受託者の権限内の行為

(4)融資された金銭は信託財産責任負担債務となる

(5)信託口口座へ入金がされている

(6)限定責任信託ではなく、責任財産限定特約もされていない

(7)亡くなった受託者の相続人はA,B,Cの3名、そのうちのAが新受託者

(1)から(7)の事実を前提とします。

1、受託者(債務者)が死亡した場合、後任の受託者が就任を承諾すると、債務はその時点で自動的に後継受託者には移らないと考えることができます。後継受託者は、自らが債務者となって債務を負ったわけではないからです。

2、債務は死亡した受託者の相続人に及びます(信託法76条、民法896条)。

3、債権者は、死亡した受託者の相続人A,B,Cに対して金1000万円ずつ債務の履行を請求することができます。

4、B,Cが自身の財産から債権者に対して債務の履行を行った場合、後任の受託者Aや信託財産法人管理人に、信託財産からの償還を請求することができます(信託法75条6項)。

後任の受託者Aが、自身の財産から債権者に対して債務の履行を行った場合、Aは履行した金額について信託財産から自身の財産へ移すことが可能です。信託財産が足りない場合、(1)受益者へ通知して返してもらう(返してもらえなければ受益権の停止、信託の終了)、(2)不動産などがある場合は売却(信託行為に別段の定めがない場合)、などの措置を取ることができます(信託法49条、50条)。

・ただし、受益債権など、信託財産に属する財産のみを持って履行する責任を負う債務については、前受託者は履行責任を負いません。

5、新受託者は、信託財産の帰属主体となり、責任財産を信託財産に限定しながらも、重畳的な債務引受をして、債務者となったことになると考えることができます(信託法75条8項)[1]

したがって、債務金3000万円のうち、金1000万円については、債務者A(責任財産は信託財産とAの財産)、金1000万円については、債務者B(責任財産は信託財産とBの財産)、金1000万円については、債務者C(責任財産は信託財産とCの財産)ということになります。

6、連帯保証人は受益者のままであり、債権者は請求・執行が可能です。

受益者が自身の財産から信託財産を通さないで直接、債権者に対して債務を履行した場合、債務は消滅し受益者とA、B、Cの関係は民法上の保証人の求償関係になると考えられます。


[1] 道垣内弘人『信託法』P287~

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