受益者代理人などの権利

民事信託契約書のうち、受益者代理人などが行使する権利を取り上げる。

1     受益者代理人などが行使する権利
1―1            条項例

チェック方式

第○条(受益者代理人などが行使する権利)

□1受益者代理人が就任している場合、受益者代理人は受益者のためにその権利を代理行使する[1]

□2受益者に民法上の成年後見人、保佐人、補助人または任意後見契約に関する法律上の任意後見人が就任している場合、その者は受益者の権利のうち次の代理権および同意権を有しない[2][3]。ただし、任意後見人、保佐人および補助人[4]においては、その代理権目録、代理行為目録および同意行為目録に記載がある場合を除く[5]

□(1)受託者の辞任申し出に対する同意権[6]

□(2)受託者の任務終了に関する合意権[7]

□(3)後任受託者の指定権。

□(4)受益権の譲渡、質入れ、担保設定その他の処分を行う場合に、受託者に同意を求める権利。

□(5)受益権の分割、併合および消滅を行う場合の受託者への通知権。

□(6)受託者が、信託目的の達成のために必要な金銭の借入れを行う場合の承諾権[8]

□(7)受託者が、信託不動産に(根)抵当権、その他の担保権、用益権を(追加)設定する際の承諾権[9]

□(8)受託者が、本信託契約に記載のない特別の支出が見込まれる場合に、本信託の目的に従い費用を支出するときの承諾権[10]

□(9)受託者が、各受益者と信託事務処理費用を受益者の負担とする場合の合意権[11]

□(10)本信託の終了に関する合意権。

□(11)残余財産の受益者が行う、清算受託者の最終計算に対する承諾権[12]

□(12)本信託の変更に関する合意権[13]

□(13)本信託契約書の閲覧請求権。

1―2            解説

2項では、信託法上の受益者代理人、民法上の後見人等及び任意後見契約に関する法律上の任意後見人の間の権利関係を調整する。受託者の信託事務処理を円滑にするのが目的である。3号に関しては、信託法62条2項の新受託者への就任催告を行うことは出来ると考えられる(信託法92条1項16号)。10号に関して、信託法166条の利害関係人には、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見人も含まれると考えられる[14]


[1] 信託法139条。

[2] 同意権のある補助人および保佐人は、同意権者となる。後見人等および任意後見人は、受益者の意思決定について支援(協働)することは可能。受益者の固有財産の増減という理由のみで支援・(不)同意を行うならば、信託制度との融合は難しくなるのではないかと考える。

[3]受益者代理人と任意後見人(職務分掌を含む。)または補助人は、同一人の方が望ましいと考える。その理由として管理する財産が重複する可能性が高いこと、受益者代理人に身上監護を行う権限があれば、信託財産の管理に加えてフルサポートが可能なことが挙げられる。また間接的に任意後見監督人、補助監督人及び家庭裁判所の関与がある。そのような受益者代理人兼任意後見人(補助人)ならば、指図権を与えても受託者の裁量権が充分に発揮できないという事態は少なくなるのではないかと考える。

[4] 補助制度は、利用方法によっては任意後見とほぼ同じ役割を果たす。参考として、新井誠ほか編『民事信託の理論と実務』2016日本加除出版P81~。

[5] 任意後見契約に関する法律第2条1項1号。成年後見制度の利用の促進に関する法律11条1項5号。民法13条、17条。平成28年12月20日第6回成年後見制度利用促進委員会議事次第P7に「成年後見人等は、本人の自己決定権の尊重を図りつつ、身上に配慮した後見事務を行うことが求められており、後見人が本人に代理して法律行為をする場合にも、本人の意思決定支援の観点から、できる限り本人の意思を尊重し、法律行為の内容にそれを反映させることが求められる。」 との記載があり、委託者兼受益者には当てはまるが、その他の受益者においては個々の調整を要する。 成年後見制度利用促進基本計画2017年、3成年後見制度の利用の促進に向けて総合的かつ計画的に講ずべき施策(4)制度の利用促進に向けて取り組むべきその他の事項①任意後見等の利用促進。遠藤英嗣『家族信託契約』2017日本加除出版P143~では、「原則、成年後見人は信託上の受益者や委託者の権限(指図同意権を含む)の代理行使はできない。例外として信託法が具体的な定めを置いている受益者等の監督権と、信託受益権の保存管理のための代理権である。」としている。

[6] 信託法57条1項但し書。委託者および受託者が本信託のために定めた条項であり、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見人の権限は及ばないと考えられる。後見制度支援信託の対象財産を広げていくことにより後見人などの事務負担を減少させることが可能ではないかと考える。

[7] 信託法56条1項7号。

[8] 受託者の行う借入れに対して差し止め請求することは可能(信託法44条、92条1項11号)。

[9] 受託者の行う担保設定に対して差し止め請求することは可能(信託法44条、92条1項11号)。

[10] 後見人等は本人財産の管理をその職務の一部とし、受益者代理人と利害が対立する可能性があり承諾にはなじまないと考える。

[11] 信託法48条5項。各受益者の固有財産の状況は異なり、受益者の固有財産を減少させるような合意は、後見人等にとって難しいと考える。

[12] (清算中の)信託財産の現状報告請求、書類の閲覧請求は可能(信託法92条1項7号、8号)。しかし、清算受託者の最終計算を承認するか否かの妥当な判断は、法定後見人および代理権目録に記載のない任意後見人には負担が大きいのではないかと考え本稿では除外した。

[13] 信託法150条の裁判の申立は可能と考える。遠藤英嗣『家族信託契約』P32では、後見人等が受益者に代理し得る監視監督や信託給付等の権利の「等」の解釈により、合意は可能とされている。しかし、後見人等が委託者と受託者が契約により設定した信託契約の変更の合意を行うのは妥当ではないと考え、本稿では除外した。

[14]道垣内弘人『条解信託法』2017弘文堂P740

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