信託事務処理に必要な費用

民事信託契約書のうち、信託事務処理に必要な費用を取り上げる。

1     信託事務処理に必要な費用
1―1            条項例

チェック方式

(信託事務処理に必要な費用)

第○条 信託事務処理に必要な費用は次のとおりとし、受益者の負担により信託金銭から支払う。信託金銭で不足する場合には、その都度、またはあらかじめ受益者に請求することができる[1]

□(1)公租公課[2]

□(2)信託監督人、受益代理人およびその他の財産管理者に対する報酬・手数料。

□(3)受託者の交通費。

□(4)受益者と□【親族・友人】の旅行費。

□(5)受益者とその親族友人の葬儀、法要および墓参にかかる費用[3]

□(6)受託者が信託事務を処理するに当たり、過失なくして受けた損害の賠償[4]

□(7)その他の信託事務処理に必要な諸費用。

□(8)【                       】

□2受託者は、信託事務の処理に必要な費用に関して算定根拠を明らかにして受益者に通知することなく、事前に信託金銭の中から支払い、または事後に信託金銭から償還を受けることができる[5]

1―2            解説

信託事務処理に必要な費用の条項は、信託財産の管理方法と重複する部分があり必要がないのではないか、1つにまとめても良いのではないかと考えることもできる。本稿では、(1)信託事務処理に必要な費用が信託の終了事由にもなり得ること(信託法52条、54条など)、(2)受託者変更の際の事務引継ぎを円滑に進めるため、(3)受益者が変更となった場合の費用に関する合意を行うための明確な基準作りのため、の3つの理由から条項を設ける。

1項各号には、受益者にとって、公租公課など信託財産から支払うべき義務的な費用と旅行費など権利的な費用に分けることができる。

2項は、信託法48条3項の但し書を利用している。受託者は、受益者に対して算定根拠を通知することは不要だが、前払・事後償還を受ける額を通知する必要がある。

2     備考 信託目録におけるその他の信託の条項欄の利用方法について

不動産信託登記における信託目録には、その他の信託の条項という欄がある(不動産登記法97条1項11号)。この欄の利用方法について1つの方法を考える。受託者が法人である場合(個人の場合はその親族)、法人の構成員全員の住所氏名と、不動産を売却するには全員の署名および実印がある承諾書(3か月以内の印鑑証明書添付)が必要なことを信託目録に記録する。このような記録を信託目録にしておくと、要件が揃わなければ信託不動産を売買により所有権移転及び信託の抹消の登記申請することは出来ない。法人が受託者の場合の代表者または個人が受託者の場合でも、勝手に信託不動産を売却されてしまう可能性があり、実際に信託で何か出来ないか相談を受ける。受託者に訴訟等を提起することになるが、親族内での紛争を予防するという目的で、このような利用方法もあると考える。信託監督人の承諾を要する、受益者の同意を要するなどと定めることも考えられる(原則として信託財産の管理方法に記録される)が、その場合でも印鑑証明書の添付や、信託監督人の住所氏名などを記録することは検討することが出来ると考える。


[1] 信託法48条。

[2] 信託法21条1項9号。

[3]法務省法制審議会民法(相続関係)部会「民法(相続関係)等の改正に関する要綱案(案)」では、葬儀費用その他の必要生計費の仮払い制度等の創設が記載されている。

[4] 信託法53条1項1号。

[5] 信託法48条2項、3項但し書き。

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