信託フォーラムVol.7「信託口口座をめぐる実務と課題」の整理

 

1、信託口預金口座と預金口座と信託口座がある[1]

(1)預金口座・・・金銭消費寄託契約により開設される。信託財産の独立性が担保できない。

(2)信託口座・・・信託行為により開設される。信託財産の独立性が担保できる。委託者の判断能力の衰えや、死亡による主観的事情に左右されない。

(3)信託口預金口座・・・預金契約上の預金契約者と、信託行為上の受託者としての当事者の二面制を持つ。法的には預金契約。分別管理され、帳簿上も信託財産と明示され、受託者がコントロール権を持つ場合、信託としての機能を持つ。

2、(3)について、信託財産の独立性を担保するための要件

(ア)物理的に他の資金管理口座から分別管理されている。

(イ)預金債権が帳簿上も信託財産に帰属されることが明らかにされている。

(ウ)受託者が、預金をコントロールする権利を持っている。

(ア)、(イ)、(ウ)全てがそろえば、信託財産の独立性は担保される[2]

(ア)についてですが、名義が同じだと物理的に分けて管理されていても、差押えは執行されるのではないかと考えます。

(イ)についても同様で、帳簿は債権者から見えないので、支払いが滞って差押えができる状態であれば、とりあえず申し立てるのではないかと考えます。そして差押え申し立ては通り執行されるのではないかと考えます。

(ウ)についても受託者が本当にコントロール権を持っているのかは債権者から分かりません。

成年後見人就任に際して、「本人氏名成年後見人成年後見人氏名」と通帳の表紙に記載され、通帳の表紙をめくると本人氏名のみがカタカナ表記されている金融機関があります。キャッシュカードも同じです。

(3)の信託口預金口座という名称についての説明で私が疑問に思うのは、まず信託契約があり契約した後に金融機関で口座を開設します。信託契約をした後は、受託者として信託事務を処理するための義務の1つとして口座を開設するのであって、寄託者というのは銀行からみた場合ということになります。

そうすると、寄託者というのは金融機関からみた場合のある1面を指しているに過ぎず、当事者の二面制というよりは、受託者としての付随的な面と捉える(受託者であるが、金融機関からみると寄託者でもある。)方が、理解が進むのではないかと考えます。

3、管理口座の課題

(1)誰のための口座か

受益者のための口座となります。

(2)信託を構成するために、議論すべき事柄

(ア)対象となる受託者の範囲

(イ)信託契約上の位置付け

(ウ)書式の統一化

(エ)信託法上、信託財産の独立性が認められるための要件

   (オ)「信託口」口座のために最低限必要なとなる民事信託の仕組みや要件   

(カ)受託者の分別管理義務、善管注意義務の履行がどこまで必要か

   (キ)「信託口」口座を開設するための金融機関にとって確認すべき事項や確認の方法

   (ク)現実の信託事務処理に支障や中断等を生じさせないための予防的かつ手続き的な問題(金融機関に対する事務委託やその内部手続の問題)    (ケ)「信託口」口座が開設されて以後、金融機関はどのような方法で、どこまで民事信託のコンプライアンスを監視するか。

・他の方法

(1)預金契約に特約を付ける[3]

(2)信託監督人を付ける[4]


[1]澁谷彰久「信託口預金口座の法的性質と課題」『信託フォーラムvol.7』日本加除出版 P53―

[2] 前掲澁谷P54

[3] 吉原毅「家族信託の発展と金融機関の対応について」新井誠編『高齢社会における信託制度の理論と実務』2017日本加除出版 P131~

[4] 渋谷陽一郎「民事信託の実務における新局面」『信託フォーラムvol.7』日本加除出版 P31―

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