信託の変更

1、どのような場合に必要となるか。

(1)信託財産の管理方法の変更

   (例)土地について、売却はしない方針を売却する方針に変更する。

(2)受益者に対する給付内容の変更

  (例)一か月に給付する金銭の額について増額、減額する。

・変更できる人(信託法149条)

 
  3者の合意 信託の目的に反しないことが明らかであるとき 信託の目的に反せず、受益者の利益に適合することが明らかであるとき 受託者の利益を害さないことが明らかであるとき 信託の目的に反せず、受託者の利益を害しないことが明らかであるとき 信託行為の定め
委託者  
受益者  
受託者  

イ について

イで記載されている「信託の目的」は、委託者がこの信託で実現しよう、到達しようとしてとして目指す事柄[1]であり、受託者の行為(事務処理方針など)を決定する基準ではありません。

「反しないことが明らか」についての基準は、現在のところ明確とはいえません。ウ、オについても同じことがいえます。

・実務対応

カ、の信託行為の定めによって、信託の目的を基準としないで、受益者と受託者の合意により信託の変更が可能となるようにする。

 なお、その場合でも、信託の目的に明らかに反することはできません。

ウ について

受託者による単独の意思表示。委託者が現存するときは、委託者と受益者に通知が必要となります。

・実務対応

例えば、信託財産が増加していないのに受益者への金銭給付を増額する場合、

信託の目的が受益者の安定した生活と定められているならば、信託の目的に反しないか、受益者の利益に適合するか、明らかとはいえないと考えることができます。

・実務対応

政省令の改正による変更など、手続き的な面での変更に限った利用が有効と考えられます[2]

エ について

 委託者と受託者が合意したことを、受託者に伝えたときに信託の変更の効力が生じます。

委託者と当初の受益者が同一人であれば、単独で信託の変更をすることができます。

エでいう「受託者の利益」とは何でしょうか。信託した不動産を売却することができる、という定めがあり、受託者が売却した後に、信託した不動産は売却することができない、という信託の変更などが当てはまると考えられます。この場合に売却にかかる手数料などを受託者が立替えて支払っていた場合、受託者は立替えた金額を信託財産から返してもらうことが出来なくなる可能性があります。

実務対応

・単独で信託の変更をすることができる場合があることから、委託者又は受託者の意向によっては、エについては適用しないと別に定める必要が出てくるものと考えます。

オ について

要件

(1)信託の目的に反しないことが明らか

(2)受託者の利益を害しないことが明らか

(1)、(2)を全て満たしたときに、受益者のみで信託の変更が可能です。受益者が受託者に信託の変更を伝えたときに効力が生じます。

実務対応

(1)、(2)ともに要件が抽象的なのはイ、ウ、エと同じです。しかし、信託が受益者のためにあると考えるとこの条項をあえて除く必要はない場合が多いのではないかと考えます。なお反対説として、浪費者などが受益者の場合などを挙げ、家族信託においては、自由に許容してはならない事例が多い[3]という考えもあります。しかし信託の目的に反する変更や受託者の利益に反する変更はできないので、この指摘は妥当ではないと考えます。受託者は、信託を終了することも可能であり手当もなされています(信託法163条)。

カ について

信託行為に定めた方法で信託の変更を行います。

可能な定め

・信託の変更は、委託者のみですることができる。

→委託者が信託財産を出しており、受託者も変更の定めを了解した上で就任したと考えることができます。受益者もそのような定めがある信託の受益権を取得し、放棄しなければ、了解したものと考えることができます。

不可能な定め

・抽象的ですが、

(1)信託の目的に反する、

(2)受益者の利益に適合しない、

(3)受託者の利益を害する

ような定めはできないと考えられます(イからオまでの裏返し)。

2、その他

・限定責任信託

限定責任信託の定めを廃止する場合の信託の変更

→登記が効力要件(信託法221条)

・受益証券発行信託(受益証券を発行するという定めのある信託、原則として受益証券を発行するが、特定の内容の受益権について受益証券を発行しないという定め)は、かっこ書きの定めを、「信託の変更」によってすることはできない。

【条項例】

(信託の変更)

第○条 本信託の変更は、信託目的の範囲内において受託者と受益者又は受託者と受益者代理人との合意による。

(信託の変更)

第○条 本信託の規定は、委託者及び受益者の義務を加重、追加または制限しない限り、委託者の同意なくして、受託者及び受益者の書面による同意により、変更することができる。

(信託の変更)

第○条

―本文略―

ただし、残余財産の帰属権利者を変更することはできない[4]

(信託の変更)

第○条

―中略―

2 受益権が移転した場合、受益権の個数は、移転日における本信託の受益債権の総額に対する、各受益者が有する受益債権の割合の1%につき1個とする。

3 前項の場合、各受益者に計算後の受益債権が指定される受益債権の分割・併合があったものとする。


[1]道垣内弘人『信託法』有斐閣2017P391

[2]寺本昌広『逐条解説 新しい信託法』2007商事法務P342

[3] 遠藤英嗣『新しい家族信託』2016日本加除出版P293

[4] 三宅史記「広島銀行の民事信託の取組み」『信託フォーラムvol.7』2017日本加除出版P143

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