インフィル所有権型自己信託 子育て時代に購入したファミリー住宅を、定年等を機会に移住・住みかえする場合

 

(『民事信託の理論と実務』2016 日本加徐出版 P292~)

1、長期優良住宅の制度が導入されて、木造戸建住宅でも構造・躯体(スケルトン)部分は100年以上の耐用年数が期待できる時代になった。
子育て時代に購入したファミリー住宅を、定年等を機会に移住・住みかえする場合

2、住宅の構造躯体部分(スケルトン)を20年~30年といった定期借家契約によって借り、経済的な耐用年数が居住期間程度しかない内装・設備(インフィル)は自分の好みで投資するマイホームリースとでもいうべき仕組みがあれば、入居者にとっては期間所有権的なものとなる。

3、借主が施工した内装・設備は原則として構造躯体に付合してしまう(民法242条、87条)。貸主との間では借主に権利を留保することができるが(民法242条但し書)、これを第三者に明確に公示する手段がなく、独立して換価することもできないため、内装・設備を担保に借入れをすることが難しいという問題がある。

4、
(1)借主のインフィル所有権を明確にするために、インフィルも含めた住宅の所有者である貸主が、借主を受益者とし、自身を残余財産受益者とする自己信託を設定する。
(2)受益者が借り入れるインフィルローンの貸主である金融機関のために信託財産である住宅全体について抵当権を設定する。
(3)(2)と同時にローンについて重畳的債務引受を行い信託財産責任負担債務とする。
(4)借主が債務不履行になった場合には、抵当権実行を回避するため貸主が約定弁済を継続する一方、借主との間の定期借家契約を催告の上解約し、別の者に通常賃貸をする等の工夫により対応する。


自己信託設定公正証書

(目的)
第○条 本信託は、次の事項を目的として、第○条記載の信託財産を受託者が管理、運用、処分する。
(1)受益者の安定した居住の確保

(信託財産)
第○条 本信託設定日の信託財産は、次の第1号から第2号までとする。設定後
に第3号から第4号によって発生した財産も信託財産とする。
(1) 別紙1記載の不動産の所有権(以下、「信託不動産」という。)
(2) 金銭○○万円(今後、「信託金銭」という。)
 (3) 受益者から追加信託を受けた財産
 (4) その他の信託財産より生じる全ての利益

(信託設定者)
第〇条 自己信託を設定する者は、次のとおりである。
 住所                       
 氏名 貸主 生年月日

(後任の受託者)
第○条 受託者の任務が終了した場合の後任受託者は、次の者とする。
住所                     
氏名 貸主の子 生年月日 

(信託財産責任負担債務)
第○条 別紙2記載の債務は、信託財産責任負担債務として受託者が引き受ける。

(信託財産の管理方法)
第○条 
1 受託者は、信託不動産について次の信託事務を行う。
(1)所有権の権利の変更登記と信託登記の申請
(2)信託不動産の性質を変えない修繕・改良行為
(3)受託者がその裁量により、信託不動産に受益者を債務者とする抵当権の設定契約及び抵当権設定登記の申請
(4)(3)の際に、受益者の債務について重畳的債務引受
2 受託者は、信託金銭について次の信託事務を行う。
(1)信託に必要な表示または記録等
(2)受託者個人の財産と分けて、性質を変えずに管理
(3)その他信託目的を達成するために必要な事務
(4)受益者が信託財産責任負担債務について期限の利益を喪失した場合の債権者への支払い
3 受託者は、信託事務の一部について必要があるときは、受託者と同様の管理方法を定め、第3者へ委託することができる。
4 受託者が信託事務処理費用を信託財産から支出する場合、支出の前に受益者に対して前払いを受ける額及びその算定根拠を通知する必要はない。

(計算期間)
第○条 本信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。最初の計算期間は信託の設定日から始まり、最後の計算期間は信託の終了した日までとする。

(公租公課の精算)
第○条 本信託の税金や保険料などは、設定日の前は設定者、設定日とその後は、信託財産から支払う。

(信託財産に関する報告)
第○条 受託者は、計算期間に行った計算を、固定資産税の納税通知書及び領収書と信託口通帳を受益者へ提示する方法により受益者へ報告する。

(受益者)
第〇条 本信託の受益者は、次の者とする。
住所                       
氏名 借主 生年月日

(受益権)
第○条
1 次のものは、元本とする。
 (1)信託不動産の所有権
 (2)信託不動産の利用権
 (3)信託金銭
2 次のものは、収益とする。
 (1)信託財産から発生した利益
3 元本又は収益のいずれか不分明なものは、受託者が判断する。
4 受益者は、受益権を譲渡、質入れ及び担保設定その他の処分をすることができない。

(委託者の地位)
第○条 委託者は、本設定書に記載された権利義務のみを有し、死亡と共に委託者の地
位は消滅する。

(信託の変更)
第○条 本信託の変更は、受託者と受益者の合意による。

(信託の期間)
第○条 本信託の期間は、設定日から終了した日までとする。

(信託の終了)
第○条 本信託は、次の場合に終了する。
(1)受託者と受益者が合意したとき
(2)受益者が亡くなったとき
(3)定期借家契約の期間が満了した時

(清算受託者)
第○条 この信託が終了したときの受託者は、引き続き清算の事務を行う。

(残余財産の引渡し方法)
第○条 清算受託者が、残余財産の帰属権利者に、信託財産の全てをその債権関係とともに引き渡し、最終計算の承認を得たときに、清算手続は終了する。

(残余財産の帰属権利者)
第○条 本信託における残余財産の受益者は、貸主とする。

(契約に定めのない事項)
第○条 本信託に定めのない事項は、受託者と受益者が協議の上決定する。

別紙1

信託財産目録

第1 信託不動産

(1)土地
所在      
地番      
地目      
地積

(2)建物      
所在 
家屋番号 
種類 
構造 
床面積㎡

第2 信託金銭 金○○万円


以上

信託財産責任負担債務
本店
商号 ○○銀行 
取扱い支店 ○○支店
設定時の債務 金○○万円(平成○○年○○月○○日付けリフォームローン契約) 
連帯債務者
住所
氏名 借主
住所
氏名 貸主


以上

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