東京地裁平30・9・12判決

1 信託設定が遺留分制度を潜脱する意図でなされたものであり公序良俗に反

して無効であるとされた事例

2 信託における遺留分減殺請求は受益権を対象とすべきであるとされた事例

 

東京地裁平30・9・12民事第17部判決請求一部認容〔控訴〕

平成27年(ワ)第24934号、共有権確認等請求事件

 

〔判決要旨〕

l 本件信託のうち経済的利益の分配が想定されない不動産を信託財産とした部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって公序良俗に反して無効である。

2 信託契約による信託財産の移転は形式的な所有権移転にすぎないため、信託においては受益権を遺留分減殺の対象とすべきである。

<参照条文> 信託法91条 民法1031条

 

1 事案の骨子

本件は、A(平成27年2月18日)の長男である原告Xが、二男である被告yに対し、Aが死亡13日前にした信託契約(以下「本件信託」という)が意思無能力又は公序良俗違反により無効である等の主張に基づき、本件信託に基づ

き行われた不動産l~ 16 (以下「本件不動産」という)の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続等の請求をする事案である。

 

2 事案の概要

(1) 当事者等

当事者等に関し、Aは、平成27年2月18日に死亡しその相続人は、長男であるX、二女であるB及び二男であるYの3名である。

Aは、平成27年2月1日及び同月5日時点に、本件不動産と不動産17~22 (以下「売却済み不動産」といい、本件不動産と併せて「A所有不動産」という)を有しており、同月1日に、Bとの間で、Aの全財産の3分の1に相当する財

産についての死因贈与契約(以下「本件死因贈」という)を、Yとの間で、Aの全財産の3分の2に相当する財産についての死因贈与契約を締結した。

 

(2) 本件信託の内容

Aは、平成27年2月5日、Yとの間で、Aを委託者、Yを受託者とし、次の内容の信託契約を締結した。

 

信託目的:A死亡後も、その財産を受託者が管理・運用することによって、Y及びその直系血族がいわゆるA家を継ぎ、お墓・仏壇を守っていってほしいとのAの意思を反映した財産管理を継続すること。なお、Aは祭祀を承継するYにおいて、その子孫を中心として管理、運用することにより、末永くA家が繁栄していくことを望む旨が記載されている。

 

信託財産:A所有不動産及び300万円(以下「信託金銭」という)。

信託事務:受託者は、信託金銭を用い、信託不動産に関する公租公課・修繕費その他信託不動産の維持管理に必要な一切の費用の支払のために使い、信託金銭を、受益者の身上監護のために使うことができる。

委託者の権利:委託者の死亡により消滅する。

受益者:当初受益者をAとし、A死亡後の受益者につき、第1順位としてXに受益権割合6分の1、Bに受益権割合6分の1、Yに受益権割合6分の4、第2順位としてYの子供らが均等に取得する。

受益者連続:受益権を有する者が死亡した場合には、その者の有する受益権は消滅し、次順位の者が新たな受益権を取得する。

受益者の意思決定:信託法105条の規定にかかわらずBが行う。

受益者の権利:信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産より発生する経済的利益を受けることができる。

受益権の取得請求:受益者が複数となった場合は、受益者のl人は他の受益者に対して受益権持分の取得を請求できる(取得する受益権の価格は、最新の固定資産税評価額をもって計算した額とする)。

(3) 不動産の内容

本件不動産のうち不動産2~5の土地、7及び8の建物は、Aが居住していた居宅及び物置とそれらの敷地(固定資産税評価額合計3億5241万5200円)であり、そのうち一部を駐車場として第三者に賃貸(賃料収入は年間100万円

~ 180万円程度)している。また、不動産1の土地及び6の建物、9の土地及び10の建物は、賃貸物件である共同住宅とその敷地(固定資産税評価額合計l億2274万9240円、賃料収入は年間950万円ないし1070万円程度)、不動産11~15の土地(非課税)は葬儀社に無償で貸与している倉庫敷地とその付近の私道敷地であり、不動産16は栃木県の山林である(固定資産税評価額2万4874円)。

(4) 本件信託に基づく登記

Yは、本件信託に基づき、平成27年3月10日、本件不動産及び売却済み不動産について、それぞれ同年2月5日に信託を原因とし、受託者をYとする所有権移転登記及び信託登記を了した。

(5) 遺留分減殺請求権の行使

Aは平成27年2月18日に死亡し、Xは、Yに対し、平成28年l月23日、本件死因贈与又は本件信託による譲渡について遺留分減殺請求権を行使した。

また、X、Y及びBは、相続税納付のため、売却代金を本件信託の受益権割合に従って分配することを合意の上、Yにおいて、売却済み不動産を合計2億2431万8619円(譲渡費用控除後)で売却した。

 

3 本判決の要旨

 

(1) 本判決の争点と判断の骨子

本件の争点は多岐にわたるが、信託に関する主なものは、①本件信託におけるAの意思能力の有無、②本件信託は公序良俗に反するか、①本件信託が有効である場合の遺留分減殺請求の対象は信託財産か受益権かである。

上記について、本判決では、①Aが意思能力を欠く常況にあったとは認められないとした上で、②本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない不動産2~ 5・7・8・11~ 16 (以下「対象不動産」という)を信託財産とした部分は、遺留分制度を替脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効であるとし、対象不動産について、所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続をすること、これらについて、平成28年1月23日遺留分減殺請求を原因とする持分一部移転登記手続をすること等を命じた。

  • 遺留分減殺請求の対象は信託財産か受益権かについては、信託契約による信託財産の移転は形式的な所有権移転にすぎないため、受益権を遺留分減殺請求の対象とすべきであるとしている。

 

(2) 裁判所の判断

争点のうち、まず、①本件信託及び本件死因贈与におけるAの意思能力の有無について、本判決では、Aが平成27年1月25日に入院した時点において、意思龍力に欠ける点はなく、その後も同年2月2日には、自ら呼んだ信託銀行の担当者からも遺言について説明を聞くなどして自発的に検討をしており、他方、本件死因贈与及び本件信託を行うまで、意識障害が生じるなどして意思能力を欠く状態になったことをうかがわせる事情は見当たらないとし、本件死因贈与及び本件信託の時点において、Aが意思能力を欠く常況にあったとは認められないと判断した。

次に、②本件信託は公序良俗に反するかについて、本判決では以下のように判断している。すなわち、まず、Aは、本件信託において、A所有不動産を信託財産とし、発生する経済的利益を受益者に受益機割合に従って分配するものとした。しかし、A所有不動産のうち、不動産11~16は、これを売却しあるいは賃貸して収益を上げることが現実的に不可能な物件であり、不動産2~ 5・7・8についても、駐車場部分の賃料収入は同不動産全体の価値に見合わないものであり、これを売却することも、あるいは全体を賃貸してその価値に見合う収益を上げることもできていない。これらは本件信託当時より想定された事態であるといえることからすると、Aは、これらの各不動産から得られる経済的利益を分配することを本件信託当時より想定していなかった。

加えて、本件ではXが遺留分減殺請求権を行使することが予想されるところ、仮に、Xが遺留分減殺請求権を行使し、本件信託におけるXの受益権割合が増加したとしても、対象不動産により発生する経済的利益がない限り、Xがその増加した受益権割合に相応する経済的利益を得ることは不可能である。そして、本件信託では、受話権の取得請求によっても、取得する受益権の価格は、最新の固定資産税評価額をもって計算した額とするとしていることからは、対象不動産の価値に見合う経済的利益を得ることはできない。そうすると、Aが対象不動産を本件信託の目的財産に含めたのは、むしろ、外形上、Xに対して遺留分割合に柑当する割合の受益権を与えることにより、これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であったと解さざるを得ない。

したがって、本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない対象不動産を目的財産に含めた部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効で、あるというべきである。

他方、本件信託のうち、対象不動産以外の目的財産に係る部分については、Xは信託不動産により発生する経済的利益を享受することができるのであり、また、信託金銭300万円についても信託不動産の維持管理に必要な費用等に充てるものとして合理的であり、本件全証拠によっても同部分を無効とすべき事情は認められない。

以上によれば、本件信託のうち、対象不動産に関する部分は公序良俗に反して無効であり、その余の不動産及び信託金銭300万円に関する部分は有効で、ある。

そして、①遺留分滅殺請求の対象は信託財産か受益権かについて、本判決では、信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を遺留分減殺請求の対象とすべきであるとしている。よって、対象不動産以外の本件不動産について、信託財産引継を原因とする所有権移転登記手続及び信託財産引継を原因とする信託登記抹消登記手続請求は、理由がないとされた。

なお、本件信託の遺留分減殺請求に係る減殺率、不動産以外の遺産に係る価額弁償額の算定について、本件信託は、信託契約自体は生前に締結され、Aが死亡した時点でX、B、Yが受益権の持分を取得するものであるから、死因贈与に類似するものとして、遺留分を計算するものとされている。

 

4 解説等

信託銀行や信託会社を受託者としない、親族間などで行われる信託は民事信託とも呼ばれ、ここ数年で急増している。その件数の急増とともに当事者間で紛争となる事態も生じており、本判決も、この民事信託に関して生じた紛争に係るものである。争点としては①委託者の意思能力の存否、②信託契約に関する公序良俗違反の有無、①遺留分減殺請求の対象が信託財産か受益権かというものであり、とくに① については、従来、信託財産を対象とすると考える信託設定行為説と、受話権を対象とすると考える受益権説で考え方が分かれていたところである。

両説では、遺留分減殺請求の相手方(受託者か受益者か)、請求が可能となる時期(信託設定時か受益権取得時か)などで相違があり、本判決では、理由は一言述べるにとどまっているが、受益権説に立って判断がなされたものである。一方で、本判決では、事案の性質上、遺留分減殺請求により受益権を原告が取得したとしても実質的な解決が図られない点について、公序良俗違反により信託契約の一部を無効とする方法で解決を図っている点でも注目される。本判決は現在控訴審に係属しており、その判断も待たれるが、本判決自体についても、これ

までに例がない信託と遺留分減殺請求に関する判断という点で有意義なものと思われ、ここに紹介した次第である。

 

[当事者](一部仮名)

原告X

同訴訟代理人弁護士 千賀修一

同訴訟復代理人弁護士 稲田龍樹・西村志乃

被告Y

同訴訟代理人弁護士 渡造恭子・太田勝久・小幡朋弘・京谷周

 

[主文]

1 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載2ないし5、11ないし13及び15の各不動産について、東京法務局A出張所平成27年3月10日受付第〈略〉号の所有権移転登記及び信託登記同目録記載7、8及び14の各不動産について、同

出張所同日受付第〈略〉号の所有権移転登記及び信託登記、並びに、同目録記載16の不動産について、B地方法務局C支局同日受付略

号の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続をせよ。

 

2 原告のその余の主位的請求をいずれも棄却する。

 

 

3 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産について、それぞれ平成28年l月23日遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を590万0886分の80万6861とする持分一部移転登記手続をせよ。

 

 

4 被告は、原告に対し、1246万4862円及びこれに対する平成30年1月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5 被告は、原告に対し、1131万5759円を支払え。

6 原告のその余の予備的請求及びその余の請求をいずれも棄却する。

7 訴訟費用は、これを10分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

8 この判決は、第4項及び第5項に限り、仮に執行することができる。

 

.事実及び理由・

第1 請求

1 (主位的請求)

(1) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載lないし6、9ないし13及び15の各不動産について、東京法務局A出張所平成27年3月10日受付第〈略〉号の所有権移転登記及び信託登記、同目録記載7、8及び14の各不動産について、同出張所同日受付第く略〉号の所有権移転登記及び信託登記、並びに、同目録記載16の不動産について、B法務局C支局同日受付第〈略〉号の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続をせよ。

(2) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載lないし10の各不動産について、それぞれ平成28年1月23日遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を287万4481分の7万0588とする所有権一部移転登記手続をせよ。

(3) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載11ないし16の各不動産について、原告が7456万5262分の3779万2631の共有持分権(遺産共有)を有することを確認する。

(4) 被告は、原告に対し、7082万6037円及びこれに対する平成29年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 (上記1(2)ないし(4)に対する予備的請求)(1) 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載lないし16の各不動産について、それぞれ平成28年1月23日遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を723万4649分の136万0471とする持分一部移転登記手続をせよ。

(2) 被告は、原告に対し、2627万8113円及びこれに対する平成29年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 (上記 1(1) に対する予備的請求)

被告は、原告及びDに対し、別紙物件目録記載lないし16の各不動産について、平成28年l月23日信託財産引継を原因として、原告の持分割合を873万2245分の152万5772、被告の持分割合を873万2245分の576万5178、Dの持分割合を873万2245分の144万1295とする所有権一部移転登記手続及び信託財産引継を原因とする信託登記抹消登記手続をそれぞれせよ。

4 被告は、原告に対し、7619万6328円を支払え。

 

第2 事案の概要

1 本件は、E (平成27年2月18日死亡。以下「E」という。) の長男である原告が、二男である被告に対し、次の請求をする事案である。

(1) Eが死亡13日前にした信託契約が意思無能力又は公序良俗違反により無効であると主張して、①上記信託契約に基づき行われた別紙物件目録記載lないし16の各不動産の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続(請求 1(1))

を求めるとともに、Eがその4日前にした死因贈与契約も意思無能力により無効であると主張して、②Eが平成10年にした被告に対する同目録記載lないし10の各不動産の遺贈につき減殺請求権を行使し、遺留分減殺を原因とする所有

権一部移転登記手続(請求1(2)) を、①未分割遺産である同目録記載11ないし16の各不動産について原告の共有持分権の確認(請求1(3)) を、④不動産以外の未分割遺産を被告が費消し、原告の共有持分権を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還(請求1(4)を求め、(2) 請求1(2)ないし(4)の予備的請求として、仮に上記死因贈与契約が有効である場合、同契

約による被告に対する死因贈与につき減殺請求権を行使し、①別紙物件目録記載lないし16の各不動産について遺留分減殺を原因とする持分一部移転登記手続(請求2(1)) を、②不動産以外の遺産について価額弁償(請求2(2)) を求め、(3) 請求1(1)の予備的請求として、仮に上記信託契約が有効である場合、信託設定行為につき遺留分減殺請求権を行使し、別紙物件目録記載lないし16の各不動産につき、原告及びEの二女であるD (以下「D」という。) に対する

信託財産引継を原因とする所有権移転登記手続及び信託財産引継を原因とする信託登記抹消登記手続(請求3)を求め、(4) 以上に加え、相続人間の合意により売却した不動産の売却代金の精算金の支払(請求4)を求める事案である。

 

2 前提事実(当事者間に争いがない事実のほかは、後掲証拠により容易に認められる。)

(1) 当事者等

アEは、平成27年2月18日、死亡した。

Eの相続人は、長男である原告、二女であるD及び二男である被告の3名である。

イEは、平成27年2月l日及び同月5日時点において、別紙物件目録記載1ないし16の各不動産(以下「本件不動産jという。) 、別紙売却済み物件目録記載lないし6の各不動産(以下「売却済み不動産Jといい、本件不動産と併

せて「E所有不動産jという。) を有していた。

ウEは、その相続開始時において、別紙基礎となる財産一覧表記載の有価証券及び現金・預貯金、家庭用財産、その他保険金等の財産を有し、公租公課その他債務を負担していた。

また、Eは、原告、被告及びDに対し、同別紙記載の生前贈与を行った。

(2) 公正証書遺言(以下「平成10年遺言」という。)

Eは、平成10年1月23日、次の内容の公正証書遺言をした。

ア別紙物件目録記載lないし10の各不動産及び別紙売却済み物件目録記載lないし4の各不動産を、妻であるF (以下「FJという。)に相続させる。

イFがEより先に死亡したときは、上記各不動産を被告に相続させる。

(3) Fは、平成15年9月23日、死亡した。

(4) Eは、平成27年1月25日、腰痛で動けなくなり、G病院に精査目的で入院し、同月31日までに、胃がんの末期状態であると診断された。

(5) 死因贈与契約の締結(以下「本件死因贈与」という。)

アEは、平成27年2月1日、Dとの間で、Eの全財産の3分のlに相当する財産を贈与し、贈与財産の所有権はEの死亡によって当然Dに移転する旨の死因贈与契約を締結した。

イEは、同日、被告との間で、Eの全財産の3分の2に相当する財産を贈与し、贈与財産の所有権はEの死亡によって当然被告に移転する旨の死因贈与契約を締結した。

(6) 信託契約の締結(甲8。以下「本件信託」という。)Eは、平成27年2月5日、被告との間で、Eを委託者、被告を受託者とし、次の内容の信託契約を締結した。

ア本件信託の目的は、Eの死亡後も、その財産を受託者が管理・運用することによって、被告及びその直系血族がいわゆるE家を継ぎ、お墓・仏壇を守っていってほしいとのEの意思を反映した財産管理を継続することにあるとされ、Eは、祭杷を承継する被告において、その子孫を中心として管理、運用することにより、

末永くE家が繁栄していくことを望む旨が信託契約書に記載された。

イ本件信託契約の締結日における信託の目的財産は、E所有の全ての不動産(以下「信託不動産」という。) 及び300万円(以下「信託金銭Jという。) とする。また、将来において、信託不動産の売却・賃貸その他、運用により得られた金銭、信託財産たる金銭を用いて受託者が新たに建築・取得する不動産の全て等も目的財産とする。

ウ受託者は、信託不動産の維持・保全・修繕又は改良を、自らの裁量で行う。受託者は、信託不動産の管理事務の全部又は一部について第三者に委託することができる。受託者は、信託不動産を無償で使用することができる。

受託者は、信託金銭を用い、信託不動産に関する公租公謀・修繕費その他信託不動産の維持管理に必要な一切の費用の支払のために使うことができる。

信託金銭を、受益者の身上監護のために使うことができる。

エ委託者の死亡により、委託者の権利は消滅するものとする。

オ本件信託の当初受益者は、Eとする。

カE死亡後の受益者につき、次のとおり定める。

(ア) 受益権の取得の順位及び割合

第一順位

原告に受益権割合6分のl

Dに受益権割合6分のl

被告に受益権割合6分の4

第二順位

被告の子供らが均等に取得する。

(イ) 受益権を有する者が死亡した場合には、その者の有する受益権は消滅し、順位の者が新たな受益権を取得する。

(ウ) 受益者の意思決定は、信託法105条の規定にかかわらず、Dが行うものとする。

キ受益者は、信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産より発生する経済的利益を受けることができる。

ク受益者が複数となった場合は、受益者の一人は他の受益者に対して当該受益者の有する受益権持分の一部若しくは全部の取得を請求することができる。なお、取得する受益権の価格は、最新の固定資産税評価額をもって計算した額とする。

 

(7) 本件信託に基づく登記

被告は、本件信託に基づき、平成27年3月10日、別紙物件目録記載1ないし6、9ないし13及び15の各不動産につき東京法務局A出張所同日受付第〈略〉号をもって、同目録記載7、8及び14の各不動産につき同出張所同日受付第

〈略〉号をもって、並びに、同目録記載16の不動産につきB法務局C支局同日受付第〈略〉号をもって、それぞれ同年2月5日信託を原因とし、受託者を被告とする所有権移転登記及び信託登記を了した。

また、売却済み不動産についても、同様に所有権移転登記及び信託登記を了した。

 

(8) 遺留分減殺の意思表示

ア原告は、被告に対し、平成27年7月24日に到達した書面をもって、平成10年遺言により遺留分を侵害されたとして、遺留分減殺の意思表示をした。

イ原告は、被告に対し、平成28年1月23日本件死因贈与又は本件信託により遺留分を侵害されたとして、遺留分減殺の意思表示をした。

 

 

(弁論の全趣旨)

(9) 合意による不動産の売却等

原告、被告及びDは、相続税の納付資金を捻出するため、売却代金を本件信託の受益権割合に従って分配することを合意の上、被告において、別紙売却済み物件目録記載1の土地を3722万4702円、同目録記載2ないし4の土地建物をI億3491万5463円、同目録記載5及び6の土地を5217万8454円の合計2億2431万8619円(いずれも譲渡費用の控除後の金額)で売却した。

原告、被告及びDは、本件訴訟が終了した後に必要な修正申告を行う旨を合意の上、Eの相続に係る相続税申告を行い、原告が納付すべき相続税は、4649万7300円とされた。

上記売却代金の6分のlに相当する3738万6437円が、原告の上記相続税の納付金に充当された。

 

(10) 相殺の意思表示

被告は、平成29年12月6日の本件弁論準備手続期日において、原告に対し、被告の原告に対する立替金支払請求債権975万2024円(相続税立替金911万0863円、生花代等立替金5万4000円、カタログギフト代立替金58万7161円)をもって、本訴金銭請求債権(ただし、相殺の順序を、①売却済み不動産の精算金、②遺留分の価額弁償金の元金、① その遅延損害金の順とする。)とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

 

(11) 価額弁償の意思表示

ア原告は、平成29年4月25日の本件弁論準備手続期日において、Eの相続財産のうち不動産以外に関する部分の遺留分減殺請求については、価額弁賞を請求する権利を行使する旨の意思表示をした。

イ被告は、平成30年l月15日の本件口頭弁論期日において、原告の遺留分減殺請求のうち、不動産以外に関する請求に対して、価額による弁償を行う旨の意思表示をした。

 

3 争点

(1) 本件信託及び本件死因贈与における Eの意思能力の有無

(2) 本件信託は公序良俗に反するか

(3) (本件信託及び本件死因贈与がいずれも無効である場合)

①平成10年遺言による遺贈の減殺率、②未分割遺産の原告の共有持分割合、①被告による未分割遺産の費消による損害又は不当利得の額

(4) (本件信託が無効、本件死因贈与が有効である場合)

①本件死因贈与の減殺率、②不動産以外の遺産に係る価額弁償額

(5) (本件信託が有効である場合)

①減殺の対象は信託財産か受益様か、②本件信託の減殺率、①不動産以外の遺産に係る価額弁償額

(6) 売却済み不動産の売却代金の精算金額

(7) 反対債権の有無、相殺の可否

 

4 争点に関する当事者の主張

  • 本件信託及び本件死因贈与におけるEの意思能力の有無
  •  

(原告の主張)

Eは、本件信託及び本件死因贈与当時、法律行為の意味内容を理解する能力を欠く常況にあった。したがって、本件信託及び本件死因贈与は、Eの意思無能力により、無効である。

すなわち、Eは、本件信託及び本件死因贈与の直前である平成27年l月25日からG病院に入院し、同月31日には末期がんにより数日中にも死亡する可能性があると診断されるなど、重篤な状況にあったほか、意識障害やせん妄、幻覚等の精神神経系の副作用が生じ得る薬剤の投与を受けていた。

現に、原告がEを見舞った際、Eは、目はうつろで、意識がもうろうとしていた。

また、Eは、入院直前まで、財産をおおむね法定相続分に沿って分けようと考えていたのであり、本件信託及び本件死因贈与の内容は、その意向から大きくかけ離れている。

加えて、本件信託及び本件死因贈与は、いずれも被告やDが主導して契約書面を作成しており、その内容は、いずれもDや被告にのみ有利なものとなっている。

したがって、本件信託及び本件死因贈与は、Eが法律行為の意味内容を理解する

能力を欠く常況下でされたと考えるほかない。

 

(被告の主張)

本件信託及び本件死因贈与は、Eの入院時の状況及びこれらの契約書の作成経緯から、Eが意思能力を有しない状況で締結したものでない

ことは明らかである。

すなわち、Eは、平成27年l月25日、精査目的で入院したが、入院時の看護記録には「見当識障害」、「理解力」、「痴呆」等について全く問題ないとされており、末期がんであると宣告された同月31日の患者診療記録にも、看護師とのコミュニケーションについて「返答良好」と記載されている。Eは、同年2月1日、Dが連絡をして病室を訪れた司法書士であるH氏(以下「H司法書士」という。) から、民事信託契約書、死因贈与契約書の案を示されて説明を受け、取り急ぎ、死因贈与契約書に署名押印し、翌日、自身で呼んでいたT信託銀行株式会社(以下「信託銀行」という。) の担当者及びH司法書士の各説明を聞き、両者の提案を比較検討した上で、最終的にH司法書士の提案を採用し、同月5日、公証人の面前で、本件信託及び本件死因贈与についての宣誓供述書に氏名を自署し、公証人もその宣誓を認証した。

同年1月31日から同年218日までのEの患者診療記録を見ても、原告)主張する副作用が生じたこと、その他Eの意識レベルの低下をうかがわせるような記載は存在しない。

 

(2) 本件信託は公序良俗に反するか

(原告の主張)

ア利益相反

本件信託は、被告が信託目的に従うことが、必然的に第一順位の受益者の利益に反するという利益相反状況に陥る構造となっており、公序良俗に反し、無効である。

すなわち、本件信託において、受託者である被告は、その信託目的に従い、信託財産を被告あるいはその直系卑属に限定して引き継ぎ、もってE家を繁栄させることがその義務となっているところ、第二順位の受益者は被告の子供らとされているため、被告としては、第一順位の受益者が死亡するまで時が経つのを待てば、信託目的どおりに被告の直系卑属にE所有不動産が全て引き継がれることになり、E所有不産主の最低限の維持・管理以外の運用をしないことも正当化されることになりかねない。

しかも、被告はE所有不動産を無償で使用することができることも合わせ考えると、その売却が適切と考えられる場面においてもこれを売却することはまず考えられない。

したがって、本件信託は、利益相反を禁じ、受益者本位を理念とする信託法の理念に明らかに反するものである。

 

イ信託制度の濫用、相続秩序の侵害

本件信託は、信託法の諸規定から導かれる信託法の法意・精神に反して信託制度を濫用し、原告が潜在的に有していた遺留分の減殺請求を不当に免れ、もって遺留分制度を中心とする現行相続法秩序を破壊するものであり、公序良俗に反し、無効である。

すなわち、本件信託は、被告に信託不動産の無償使用権が与えられ、形式的に原告に6分のlの受益権が与えられているものの、それによる利益発生の保証はなく、受益権の取得請求をしても固定資産税評価額による買取りに限定されている。

また、受益者の意思表示は、E死亡後はDが単独で、行うことができるとされ、原告は、新受託者の選任に関する意思表示もできず、信託金銭の払渡請求も単独ではできず、解約に関する意思表示もできないなど、原告の受益権の内容が異様に限定されている。

このような限定された受益権では、仮に造留分減殺により原告の受益権割合が増えたとしても、結局原告の遺留分を確保できないことに帰結する。

本件信託は、いわゆる後継ぎ遺贈型受益者連続信託であるが、受益者連続型信託をもってしでも、遺留分についての潜脱は認められなし、遺留分減殺請求規定の適用関係については、民法規定の解釈適用に委ねられているところ、受益権を減殺の対象とする受益権説に立った場合、受益権の総計が遺留分算定の基礎財産となり、信託がされていない場合の財産の総計よりも原告に不利な遺留分割合が算定される。

他方で、信託財産を減殺の対象とするとする信託財産説や折衷説に立った場合であっても、受益者連続型信託である本件信託においては、原告の遺留分から控除される受益権は、実際には原告の生存時にしか存立し得ない終期付き債権にすぎず、原告の相続人には相続されないものである。

受益者連続型信託であっても、信託財産を限定することにより信託財産について遺留分侵害の問題が生じないようにすることや、遺留分割合に相当する価額の全額弁償をすることなどにより、遺留分規定に配慮した内容とすることも可能であったのであり、このような配慮がされていない本件信託は、原告を差別し排除することを意図した、遺留分逃れのための信託契約である。

 

ウ憲法違反

本件信託は、いわゆる「家」制度の骨格に極めて近似した「家」の在り方の実現を目指し、推定相続人のうち男系子孫優先の考えを徹底させ、祭杷主宰者である男子に主要な財産を永続的に移転させようとして、信託法の諸規定を濫用するものであり、民法90条、憲法13条、14条、24条に反し、無効である。

 

(被告の主張)

ア本件信託の目的は、①経済的価値に加え、E家の墓や仏壇を護っていくという観点からも重要な土地の一体的な保有、管理を実現し、もって将来の世代への当該不動産の承継を可能なものとする点、②相続対策の観点からその他の不動産につき処分を含む適切な管理を実現する点から、Eの所有していた不動産を全て信託対象とすることで一体的な不動産管理を実現することにあり、その管理者として最も適任な被告が受託者として選任され、信託法が正面から認める後継ぎ遺贈型受益者連続信託が活用されたものであり、何ら公序良俗に反する点はない。

 

イ利益相反の主張に対して

信託法31条は、利益相反行為を類型化し(1項)、利益相反行為の一部を無効とする(4項)が、受読者が望めばそれを追認して有効とすることができるものとされていること(5項)等からすると、信託契約全体が公序良俗に違反して無効とされるためには、信託法31条の規定では救済し得ないほどの不法性が要求されるというべきである。

本件信託において、原告は、一部の不動産の売却による利益を得たほか、賃料収入も得ており、被告は、自身も本件信託の受益者であり、被告が受託者として不適切に信託財産を管理運用することは被告自身の経済的利益を失わせることにもなるのであって、原告と被告との聞に、原告の主張するような利益相反的な関係はない。

今後、実家の余剰敷地には、賃料収入を増やすべく賃貸物件を建設する計画も立てている。

また、原告と同じ立場に立つDは、本件信託に何ら異議を述べていない。したがって、本件信託は、受託者と受益者の利益相反状況を生じさせる内容ではない。

 

ウ信託制度の濫用、相続秩序の侵害の主張に対して

本件信託の目的は、上記アのとおりであり、原告には6分のlの割合による受益権が付与されている上、実際にも上記割合による売却代金の分配や不動産収入の分配を受けている。

本件信託は、原告の遺留分を侵害する目的で組成されたものではない。

また、本件信託は、Eの生前中にその効力が発生し、Eの下に当初帰属した受益権が、同人の死亡により原告に6分のlの割合で帰属しているのであるから、民法の遺留分制度を破壊するような不平等状態を招来するものではない。

仮に原告の遺留分を侵害するものであったと仮定しでも、そのことをもって公序良俗に違反して無効とされることはないし、ある時点での財産承継を考えるに当たって、未来永劫にわたり推定相続人の遺留分を配慮することは要しない。したがって、本件信託が公序良俗違反に該当する余地はない。

 

エ憲法違反の主張に対して

本件信託に、男子相続になるような内容の記載は一切存在せず、原告による根拠のない一方的な解釈にすぎない。

(3) (本件信託及び本件死因贈与がいずれも無効である場合)

①平成10年遺言による遺贈の減殺率、②未分割遺産の原告の共有持分割合、①被告による未分割遺産の費消による損害又は不当利得の額

 

(原告の主張)

本件信託及び本件死因贈与がいずれも無効の場合、平成10年遺言により、別紙物件目録記載lないし10の各不動産は、被告に遺贈され、同目録記載11ないし16の各不動産は、未分割状態となる。

 

ア平成10年遺言による遺贈の減殺率

別紙I及び2のとおり、遺留分算定の基礎となる財産は、合計12倍、5797万8044円であり、その6分のlの2億0966万3007円が原告の個別的遺留分額となる。

そして、同額に原告の債務負担額である613万9417円を加算し、原告への生前贈与分530万円を控除した上で、未分割遺産の原告の具体的相続分l億8896万3155円(後記イ) を控除すると、原告の遺留分侵害額は、2153万9269円となり、被告に対する遺贈の減殺率は、287万4481分の7万0588となる。

 

したがって、原告は、平成10年遺言により被告に遺贈された別紙物件目録記載lないし10の各不動産につき、287万4481分の7万0588の共有持分を取得する。

イ未分割遺産の原告の共有持分割合

未分割である別紙物件目録記載11ないし16の各不動産の遺産共有持分割合については、被告は、平成10年遺言により遺贈を受けた額が、総遺産12億7639万6293円の3分のlを超過する8億7749万3983円であるから、未分割遺産を取得することはできず、原告とDが取得することとなり、原告とDの各生前贈与額を持ち戻した後の未分割遺産額3億8852万6310円の2分のlに相当するH意9426万3155円が原告の相続分となり、そのうち原告の生前贈与額530万円を引いたl億8896万3155円が原告の具体的相続分である。

したがって、原告は、別紙物件目録記載11ないし16の各不動産につき、総額3億7282万6310に対するl億8896万3155の割合、すなわち7456万5262分の3779万2631の共有持分権(遺産共有)を有する。

 

ウ被告による未分割遺産の費消による損害又は不当利得の額

未分割である有価証券、現金・預貯金、家庭用財産、その他保険金の合計l億3974万0523円のうち、原告の具体的相続分(上記イ)7456万5262分の3779万2631に相当する7082万6037円は、原告の取得分であり、これを被告が費消し

たことは、不法行為ないし不当利得となる。

 

(被告の主張)

否認ないし争う。

(4) (本件信託が無効、本件死因贈与が有効である場合)

①被告に対する本件死因贈与の減殺率、②不動産以外の遺産に係る価額弁償額

(原告の主張)

ア被告に対する本件死因贈与の減殺率

本件死因贈与により、Eの財産の3分のlに相当する財産がDに、Eの財産の3分の2に相当する財産が被告に、それぞれ贈与されたことになるから、原告の遺留分侵害額は、別紙3及び4のとおり、基礎となる財産12億5797万8044

円の6分のlである2億0966万3007円に、原告の債務負担額613万9417円を加算し、原告への生前贈与分530万円を控除した、2億1050万2424円となる。これを、被告とDの受けた死因贈与額のうち、遺留分を超過する部分の割合で

割り付けると、被告に対する死因贈与の減殺額はl億5674万7941円であり、被告の受けた死因贈与の滅殺率は、723万4649分の136万0471となる。

そうすると、原告は、本件不動産につき723万4649分の136万0471の共有持分権を取得する。

 

イ不動産以外の遺産に係る価額弁償額

原告は、被告に対し、不動産以外の遺産の合計l億3974万0523円の723万4649分の136万0471に相当する、2627万8113円の価額弁償請求権を有する。

 

(被告の主張)

否認ないし争う。

(5) (本件信託が有効である場合)

①減殺の対象は信託財産か受益権か、⑦本件信託の減殺率、①不動産以外の遺産に係る価額弁償額。

 

(原告の主張)

ア減殺の対象は信託財産であること

本件信託は、被告自身が信託財産を無償使用することができる旨定められていることから、被告としては、信託財産を運用したり売却したりしてその利益を受益権に分配する必要もないし、その受益権すらも時の経過により必ず被告の家系に承継されることとなっていること、他方、受読者の意思決定はDがこれを行うこととされており、原告の意思決定権限は奪われている上、受益権の買取価額が最新の固定資産税評価額に限定されており、原告は、受益権の行使はおろか、処分すらも著しく制限されていること、このような本件信託は、明らかに遺留分制度の潜脱を狙ったものであり、許されるものではないことからすると、その実質は、受託者への所有権移転行為、つまり受託者への死因贈与に類似するものというべきであり、信託財産の移転行為をもって、遺留分減殺請求の対象となるものと解すべきである。

 

イ本件信託の減殺率

原告の遺留分侵害額は、上記(4)(原告の主張)アと同様に、2億1050万2424円となるところ、別紙5及び6のとおり、Dの取得分は遺留分を超えていないため、その全額につき被告に対する本件信託及び本件死因贈与が減殺され、その

減殺率は、873万2245分の152万5772となる。

ウ本件不動産に係る抹消登記手続請求

本件信託は、原告の遺留分減殺請求権の行使により、信託不動産の持分の一部が当然に原告に移転することで、不動産全体を信託の目的とした本件信託は、その目的を達成することができなくなり、信託契約全体が終了することとなる。

これに伴い、現金300万円のみの信託も無意味となり、結局、本件信託は、その全体が失効する。

その結果、本件不動産は、受益者である原告、被告及びDに引き継がれることになるところ、原告の持分割合は、上記イのとおり、873万2245分の152万5772であるから、残部は被告とDの受話機割合の比率4・1で割り振られ、873万2245分の576万5178につき被告が、873万2245分の144万1295につきDがそれぞれ持分を引き継ぐことになる。

この場合、原告は、その共有持分権に基づく保存行為(民法252条ただし書)として、本件不動産につき、信託財産引継を原因として、原告及びDの各持分割合を上記のとおりとする所有権移転登記手続及び信託登記抹消登記手続を求めることができる。

エ不動産以外の造産に係る価額弁償額

また、原告は、被告に対し、不動産以外の遺産の合計l億3974万0523円の873万2245分の152万5772に相当する、2441万6650円の価額弁償請求権を有する。

オ受益権が減殺の対象となる場合

仮に受益権が減殺の対象となる場合、本件信託においては、受益権の売却時の価額が固定資産税評価額に限定されているから、本件信託により原告が取得した受益機は、7919万8219円にとどまるというべきである。

そうすると、原告の遺留分侵害額は、別紙7及び8のとおり、l億3130万4205円となり、減殺率は、410万4572分の日万5077となる。したがって、被告の受益権6分の4にこの減殺率を乗じた615万6858分の51万5077の割合で、原告の受益権割合が増えることとなる(なお、当審においては、本件不動産について、この主張に基づく請求はしない。)

 

(被告の主張)

ア減殺の対象は受益債権であること

減殺の対象となり得るのは受益債権であり、信託財産説に依拠した遺留分減殺請求を認める余地はない。

原告は、本件信託において、受託者が信託不動産を無償で使用することができるとの規定が存在することから、所有権の実質的な財産価値そのものの移転があるなどと主張するが、受託者である被告は、信託不動産である実家が荒れ果てないように管理や手入れをしている一方で、無償使用など全くしていない。

むしろ、被告は、受益者のために、実家敷地の一部を利用して新たな収益物件を建築することを計画しており、運用が開始されれば、財産的価値・利益を生み出し、受益者に分配されることになる。

原告は、実際に、一部の信託不動産の売却代金の分配や不動産収入の分配を受けているのであり、かかる顕在化した利益は、結局のところ原告の相続人に相続されることになるのであっ、被告が自身及び自身の子孫だけが利益を得られるように本件信託を用いるおそれは存在し得ない。

また、原告は、本件信託において、受益者の意思決定をDが行うこととされていることから、原告の意思決定権限が奪われているなどと主張するが、信託法は、受託者の責任を不当に免じる決定を除き、信託の具体的状況に応じて受益者の意思決定方法を決定することを法律上当然に予定しており、ある受益者が意思決定をう旨を信託行為で定めることをもって、他の受益者の意思決定権限を奪うと評価することはできない。

被告が受託者としての任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたなど重要な事由が存在するときは、信託法58条4項により、原告は、裁判所に対し、受託者の解任を申し立てることができるのである。

さらに、原告は、受益権の買取価額が最新の聞定資産税評価額に限定されていることを問題とするが、これは受託者であるDや被告にとっても同条件であり、買取価額が時価の7割程度になる場合があるとしても、社会通念上不当な基準ではあるとはいえない。Eに遺留分潜脱の意図などないことは、上記(2) (被告の主張)記載のとおりであり、原告の指摘する本件信託の特徴等を踏まえても、信託財産説に依拠した遺留分減殺請求を認める余地はない。

 

イ受益維が減殺の対象となる場合

原告には6分のlの割合に相当する受益権が付与されているので、本件信託による遺留分侵害は生じていない。

原告は、原告、D及び被告に分属した受益権相互の価値が等価で、はないと主張するが、無償使用条項が存在したとしても、被告が自己の受益権のためだけに信託不動産を使用することなどないことは、上述のとおりであり、管理運用権限についても全受益者のために認められているものであって、被告は、実際にも忠実義務や公平義務を遵守して受託者の職務を遂行している。

したがって、遺留分の基礎となる財産の計算上、Eが有していた受益権は、原告、D、被告に等価で分属しているのであって、そのうち6分のlの割合による受主主権を取得した原告は、自己の遺留分を確保している。

 

ウ評価額について

原告主張の不動産の評価額につき、否認ないし争う。

相続債務に、Eの葬儀費用は算入されない。

(6) 売却済み不動産の売却代金の精算金額

(原告の主張)

ア本件信託及び本件死因贈与が無効の場合

原告は、売却消み不動産について、上記(3)(原告の主張)イのとおり、7456万5262分の3779万2631の具体的相続分を取得していたことになる。したがって、被告が原告に対して支払うべき精算金額は、売却代金合計2億2399万2891円

のうち、上記割合に相当するl億1352万8477円から、既に受領した3733万2148円を控除した、7619万6328円となる。

イ本件信託が無効、本件死因贈与が有効である場合

原告は、売却済み不動産について、上記(4)(原告の主張) アのとおり、723万4649分の136万0471の共有持分権を有していたことになる。

したがって、被告が原告に対して支払うべき精算金額は、売却代金合計2倍、2399万2891円のうち、上記割合に相当する4212万1716円から、既に受

領した3733万2148円を控除した、478万9568円となる。

ウ本件信託及び本件死因贈与が有効で、ある場合

原告は、売却済み不動産について、上記(5) (原告の主張) イのとおり、873万2245分の152万5772の共有持分権を有していたことになる。したがって、被告が原告に対して支払うべき精算金額は、売却代金合計2億2399万2891円のうち、上記割合に相当する3913万7940円から、既に受領した3733万2148円を控除した、180万5792円となる。

 

(被告の主張)

本件信託及び本件死因贈与は有効であり、本件信託による遺留分侵害はないから、売却代金の6分のl相当額である3733万2148円を受領した原告に対し、支払うべき精算金はない。

 

(7) 反対債権の有無、相殺の可否

(被告の主張)

被告は、原告に対し、次のアないしウの立替金合計4713万8461円から、売却済み不動産の売却代金の分配金による充当額を控除した975万2024円の債権を有している。

ア被告は、Eの相続に関して原告が納付すべき相続税につき、平成27年12月15日に3200万円、同月16日に1449万7300円、合計4649万7300円を、原告のために立て替えて納付した。

イ被告は、平成27年2月22日、原告が支払うべきEの葬儀での生花代等5万4000円を立て替えて支払った。

ウ被告は、平成27年4月28日、原告が喪主として支払うべき香典返しのカタログギフト代金247万9550円のうち、香典等では不足した58万7161円を立て替えて支払った。

(原告の主張)

上記(被告の主張)のうち、アの1449万7300円を被告が立て替えたことは認め、その余は否認する。

また、相続税の立替金については、本件訴訟の判決又は和解の結果に従って必要な相続税の修正申告がされることが予定されていることからすると、自働債権としての適格性を欠くというべきである。

 

 

第3 争点に対する判断

1 争点(1) (本件信託及び本件死因贈与におけるEの意思能力の有無)について

(1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

アEは、平成27年1月25日、腰痛で動けなくなり、G病院に精査目的で入院した。その際、見当識障害はなく、理解力は良好であり、痴呆の症状は見られなかった。( 甲13)

イ同月31日、医師より原告、被告及びDに対し、Eが胃がんの末期状態であり数日中にも死亡する可能性があるとの説明がされ、以後は、終痛を緩和する医療方針とされた。( 申12のl、乙35、42)

ウ上記説明を受けたDは、夫を通じてH司法書士に相続の対応を依頼し、翌2月l目、H司法書士が原告の病室に訪れた。

同日、E、被告及びDは、H司法書士が持参した死因贈与契約書に署名をし、本件死因贈与が締結された。(甲6、7、乙35、42、証人D、被告本人)

エ翌2月2日、Eは、以前から相続について相談をしていた信託銀行の担当者を病室に呼び、遺産の分割案等について説明を受けた。

なお、Eは、遅くとも同年l月7日の時点では信託銀行に相続に関する相談をしていた。

同2月2日、H司法書士もEの病室を訪れ、信託に関する説明を行った。

H司法書士と信託銀行担当者双方の説明を聞いたEは、H司法書士が説明をした信託の方法により自身の死後の財産の処遇を決めることとした。( 乙11ないし14、35、42、証人D、被告本人)

オ同月5日、E及び被告は、H司法書士が持参した「民事信託契約書」に署名をし、本件信託が締結された。

同日、公証人がEの病室を訪れ、Eは、公証人の面前において、自身の意思で本件死因贈与及び本件信託をしたことを宣誓し、公証人はこれを認証した。(乙4ないし6)

 

 

(2) 上記認定事実によれば、Eは、平成27年1月25日に入院した時点において、意思能力に欠ける点はなく、その後も同年2月2日には、自ら呼んだ信託銀行の担当者からも遺言について説明を聞くなどして自発的に検討をしており、他方、本件死因贈与及び本件信託を行うまで、意識障害が生じるなどして意思能力を欠く状態になったことをうかがわせる事情は見当たらない。

したがって、本件死因贈与及び本件信託の時点において、Eが意思能力を欠く常況にあったとは認められない。

 

(3)アこれに対し原告は、Eが、意識障害やせん妄、幻覚等の精神神経系の副作用が生じ得る薬剤の投与を受けていたこと、現に、原告が見舞った際にEの目はうつろであったこと等から、Eは意思能力を欠く常況にあった旨主張し、原告本人尋問において、Eを見舞った際の様子について、ぼそぼそとした感じで話しており、目はうつろで、意識はもうろうとしているような感じであったと供述する。

しかし原告の主張する薬剤の副作用は、抽象的な可能性を指摘するにすぎないものである上、Eに意識障害やせん妄等の症状が発症したのであれば当然に診療記録に記載されるものであるところ、平成27年2月8日までの患者診療記録(甲12のlないし6)には、原告に意識障害等の症状が生じたことは何ら記載されていないことからすれば、薬剤の副作用等によって、原告が意思能力を欠く常況にあったとは認められない。

イまた、原告は、Eは入院直前まで財産をおおむね法定相続分に沿ってわけようと考えていたのであり、本件信託及び本件死因贈与の内容はその意向から大きくかけ離れていること、本件信託及び本件死因贈与はDや被告が主導して契約書面を作成したもので、その内容はDや被告のみに有利なものとなっていたことから、Eは法律行為の意味内容を理解する常況下ではなかった旨主張し、原告は、Eは信託銀行に依頼をして遺産を3等分することを考えていたと供述する。

しかし、信託銀行の担当者が示した「財産目録と分割案の試算」(乙12の1)は各相続人の法定相続割合を示しているものにすぎず、また、遺言公正証書の案(乙12の3)も、どの不動産をだれに取得させるかを具体的に定めず、単に各相続人に法定相続分である3分のlずつ権利を取得させる旨が記載されており、遺言として特段の意味をなさないものであって作成段階のものである。

むしろ、証拠(甲10)によれば、Eは、生前に毎年、子らに対して金銭を贈与し

「いたところ、原告に対する贈与額は、D及び被告に対する各贈与額の半分程度であったことが認められる。

したがって、上記分割案や遺言公正証書の案から、Eが遺産を3等分しようと考えていたと推認することはできず、その他、本件信託及び本件死因贈与の内容がEの意思とかけ離れていたと認めるべき証拠はない。

(4) 以上のとおり、本件信託及び本件死因贈与当時、Eが意思無能力であったとは認められない。

そうすると、争点(2)(本件信託が公序良俗に反するか)において本件信託が無効とされるか否かにかかわらず、本件信託又は本件死因贈与と抵触する平成10年遺言は撤回されたものとみなされ(民法1023条)、また、未分割の遺産も存在しない(本件信託が無効とされれば本件死因贈与がそのまま有効で、あり、本件信託が有効であれば、本件死因贈与のうちこれと抵触する部分は撤回されたとみなされるが、いずれにしろ平成10年遺言は本件信託又は本件死因贈与と抵触する。)。

したがって、平成10年遺言による遺贈の遺留分減殺請求(請求1(2)) 、未分割不動産の共有持分権の確認請求(請求1(3)) 、不動産以外の未分割遺産について共有持分権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の

返還請求(請求1(4)) は、いずれも理由がない。

 

2 争点(2)( 本件信託は公序良俗に反するか)について

  • 前提事実に加え、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

アEは、本件死因贈与及び、本件信託を行った当時、以下の不動産を有していた。

① Eが居住していた居宅及び物置とそれらの敷地(別紙物件目録記載2ないし5の土地、7及び8の建物、固定資産税評価額(平成27年度のもの。以下同じ。) 合計3億5241万5200円)。

上記敷地は、4筆合わせて約538坪のほぼ成形地であり、そのうち道路沿いの一部分を舗装して駐車場(車両10台分ほど) として第三者に賃貸している。その賃料収入は、年間100万円ないし180万円程度である。

② 賃貸物件である共同住宅とその敷地(別紙物件目録記載lの土地及び6の建物(J)、固定資産税評価額合計5933万2510円。別紙物件目録記載9の土地及び10の建物(K)、固定資産税評価額合計6341万6730円)。

その賃料収入は、Jが年間450万円ないし470万円、Kが年間500万円ないし600万円程度である。

  • 売却済み不動産(固定資産税評価額合計l倍、2508万5460円)
  • 葬儀社に無償で貸与している倉庫敷地とその付近の私道敷地(別紙物件目録記載11ないし15の土地。非課税。)
  • 栃木県〈略〉の山林(別紙物件目録記載16の土地。固定資産税評価額2万4874円)

またEは、上記不動産のほかに、l億3000円の預貯金、有価証券等の財産を有していた(甲10、乙23、24、30、35、48の1・2、49の1ないし5、被告本人)。

イ Eは平成27年2月1日、Eの全財産の3の1に相当するする財産をDに、3分の2に相当する財産を被告に、それぞれ死因贈与する旨の本件死因贈与を行った。

ウしかし、Eは、被告及びその直系血族がE家を継ぎ、墓・仏壇を護っていってほしいという気持ちを有しており、また、相続税納付のためには一部の不動産を売却せざるを得ず、相続人間で協議が調わないために売却ができなくなることを危倶していたことから、同月5日、E所有の全ての不動産と300万円を目的財産として、被告を受託者とする本件信託を行った。

本件信託は、受益者は信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産により発生する経済的利益を受けることができるとするものであり、当初の受益者をE、E死亡後の受益者を法定相続人である原告、D及び被告とし、原告及びDの受益権割合を遺留分割合と同割合とするものであった。

また、第一順位の受話者が死亡した場合の受益権取得者となる第2順位の受益者を被告の子らと定め、受益者が複数の場合、受益者の一人は、他の受益者に対して受益権持分の一部若しくは全部の取得を請求することができるが、その受益権の価格は最新の固定資産税評価額をもって計算した額とするものであった。なお、被告が死亡等により受託者としての任務を果たすことができない場合、被告の長男を新受託者にするものとされていた。( 甲8、乙35、42)

エ被告は、E死亡後、原告及びDと合意の上、E所有不動産のうち売却済み不動産を売却しその売却代金を相続税の納付金に充てた。

また、E所有不動産のうち賃貸物件(売却済み不動産の一部、上記②の各不動産、上記① の駐車場部分)の賃料を収受し、経費を控除した金額を、受益権割合に従い、原告、被告及びDに分配している。

他方、被告は、上記① の各土地については、E家が先祖代々守ってきた土地であることから、これを売却したり賃貸したりする意思はなく、Eの意思に従い、Eの居宅であった建物に置かれている仏壇を護り、庭の手入れをするなどしてこれを管理している。

また、上記④及び⑤の各土地は、ほほ無価値の土地であり、これを売却することも賃貸して収益を上げることも現実的に不可能である。(甲10、22、乙25、30、

31、47、被告本人)

(2) 上記認定事実によれば、Eは、本件信託において、E所有の全ての不動産を目的財産とし、信託財産により発生する経済的利益を受益者に受益権割合に従って分配するものとしたが、E所有不動産のうち、上記④及び①の各不動産は、これを売却しあるいは賃貸して収益を上げることが現実的に不可能な物件であること、また、上記①の不動産についても、駐車場部分の賃料収入は同不動産全体の価値に見合わないものであり、上記①の不動産を売却することも、あるいは全体を賃貸してその価値に見合う収益を上げることもできていないことが認め

られ、これらは本件信託当時より想定された事態であるといえることからすると、Eは、上記①、④及び⑤の各不動産から得られる経済的利益を分配することを本件信託当時より想定していなかったものと認めるのが相当である。

加えて、上記認定のとおり、Eが本件信託前に行った本件死因贈与は、Eの全財産の3分のを被告に、3分のlをDにそれぞれ死因贈与するという、原告の遺留分を侵害する内容のものであったこと、本件信託は、Eの全財産のうち全ての不動産と300万円を目的財産とし、原告に遺留分割合と同じ割合の受益権を与えるにとどまるものであったことからすると、原告が遺留分滅殺請求権を行使することが予想されるところ、仮に、原告が遺留分減殺請求権を行使、本件信託における原告の受主主権割合が増加したとしても(なお、遺留分減殺の対象を受益

権とみるべきことは、後記3のとおりである。) 、上記①、④及び①の各不動産により発生する経済的利益がない限り、原告がその増加した受益権割合に相応する経済的利益を得ることは不可能である。

そして、本件信託においては、受益者は他の受益者に対して受益権の取得を請求することがきるとされているものの、その取得価格は最新の固定資産税評価額をもって計算した額とするものと定められていることからすると、受益権の取得請求によっても上記各不動産の価値に見合う経済的利益を得ることはできない。

そうすると、Eが上記①、④及び⑦の各不動産を本件信託の目的財産に含めたのは、むしろ、外形上、原告に対して遺留分割合に相当する割合の受議権を与えることにより、これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であった

と解さざるを得ない。

したがって、本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない上記①、@及び①の各不動産を目的財産に含めた部分は、遺留分制度を替脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効であるというべきである。

(3) 上記認定に対し、被告は、Eの自宅の余剰敷地に賃貸物件を建てる計画があった旨主張し、証拠(乙32、33、被告本人)によれば、平成28年7月頃、不動産業者が上記敷地に賃貸物件を新築する場合の見積りを提示したことが認められる。

しかし、上記見積りに係る計画がその後具体的に進められたことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、被告は、本人尋問において、Eの自宅敷地を売却したり賃貸したりする意思はなく、それはEの意思でもあると述べていることからすると、少なくとも、Eが本件信託を行った時点において、上記①の不動産の

売却、運用を予定していたとは解されない。

また、被告は、本件信託の目的は、経済的価値のみならず、①E家の墓や仏壇を護っていくという観点からも重要な土地の一体的な保有、管理を実現し、もって将来の世代への当該不動産の承継を可能なものとする点、②相続対策の観点からその他の不動産につき処分を含む適切な管理を実現する点から、Eの所有していた不動産を全て信託対象とすることで一体的な不動産管理を実現することにあり、その管理者として最も適任な被告が受託者として選任され、信託法が正面から認める後継ぎ遺贈型受益者連続信託が活用されたものであり、何ら公序良俗に反する点はないと主張する。

 

しかし、土地の一体的な管理を被告に行わせることは、信託によらずとも遺贈等によっても可能であって、本件信託が信託法上認められた後継ぎ追贈型受益者連続信託であるとしても、民法上認められた遺留分減殺請求権の行使を妨げる内容の信託が許されることになるものではない。

また、相続税の支払の観点からE所有不動産の円滑な処分を実現しようとしたものであったとしても、それは売却の予定されていない不動産を本件信託の目的財産とすることを正当化する理由にはならない。

したがって、被告の主張にはいずれも理由がない。

(4) 他方、本件信託のうち、上記①、④及び①の各不動産以外の目的財産に係る部分については、原告は信託不動産により発生する経済的利益を享受することができるのであり、また、信託金銭300万円についても信託不動産の維持管理に必要な費用等に充てるものとして合理的であり、本件全証拠によっても同部分を無効とすべき事情は認められない。

これに対し、原告は、本件信託は被告が信託目的に従うことが必然的に第一順位の受益者の利益に反するという利益相反状態に陥る構造になっているとして、本件信託全体が公序良俗に違反すると主張する。

しかし本件信託のうち、少なくとも上記①、④及び①の各不動産以外の目的財産に係る部分については、受託者である被告が、第一順位の受益者のために信託財産の処分・運用をしてその経済的利授の分配をしつつ、第一順位の受益者が死亡したときには第二位の受益者に受益権を取得させることができるのであり、本件信託に原告が主張するような構造的な利益相反があるということはできない。

また、原告は、被告に信託不動産の無償使用権が与えられていること、受益者の意思表示はDが単独で行うことができるとされていること等から、本件信託が遺留分逃れのための信託契約であると主張する。

しかし、本件信託のうち上記①、@及び①の各不動産を目的財産とした部分を除くならば、原告は、その死亡により受益権を喪失するまでの問、信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産から得られる経済的利益の分配を受益権割合に応じて受けることができるのであり、仮に遺留分が侵害されているならばそれを行使して利益の回復を図ることができるのであるから、原告が主張する上記の事情があるからといって、本件信託が遺留分逃れのものであるということはできない。

さらに、原告は、憲法13条、14条、24条違反等を主張するが、本件信託の目的にE家の墓・仏壇を被告及びその直系血族において護っていってほしいという意思が示され、受託者が被告さらにその長男と定められているからといって、男系子孫優先の「家」制度の実現を目指したものとみることはできず、原告の主張は採用することができない。

(5) 以上によれば、本件信託のうち、上記①、④及び①の各不動産(別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産)に関する部分は公序良俗に反して無効であり、その余の不動産(別紙物件目録記載l、6、9、10の各不動産及び売却済み不動産)及び信託金銭300万円に関する部分は有効である。

したがって、本件信託に基づき行われた所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続請求(請求1(1))は、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続を求める限度で理由があり、同目録記載し6、9及び10の各不動産の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続を求める点は、理由がない。

そこで、次に、同目録記載し6、9及び10の各不動産につき、請求 1(1)の予備的請求である請求3について、次項で検討する。

 

3争点(5)(減殺の対象は信託財産か受益権か)について

(1) 信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を対象に遺留分減殺の対象とすべきである。

原告は、この点を前提としつつ、本件信託においては、明らかに遺留分制度の潜脱を狙ったものであることからして、その実質は、受託者への所有権移転行為、つまり受託者への死因贈与に類似するものというべきであり、信託財産の移転行為が遺留分減殺請求の対象となると解すべきであると主張する。

しかし、上記2で述べたとおり、本件信託のうち売却、運用の予定されている不動産に関する部分については、受益者たる原告に信託財産より発生する経済的利益を与えるものであるし、遺留分制度の潜脱とは認められないため、原告の主張は採用することができない。

(2) したがって、別紙物件目録記載し6、9及び10の各不動産について、信託財産引継を原因とする所有権移転登記手続及び信託財産引継を原因とする信託登記抹消登記手続請求(請求3)は、理由がない。

4 争点、(4)及び(5)(本件信託及び本件死因贈与の減殺率、不動産以外の遺産に係る価額弁償額)について

(1) 本件信託のうち、有効であると認められる別紙物件目録記載し6、9及び10の各不動産、売却済み不動産並びに信託金銭300万円については、減殺の対象となる受益権の価額をもってこれを評価し、原告、D及び被告が各受益権割合に従ってこれを取得したものとして、遺留分を計算することになる。本件信託は、信託契約自体は生前に締結され、Eが死亡した時点で、原告、D、被告が受益権の持分を取得するものであるから、死因贈与に類似するものとして、遺留分を計算する。

また、本件信託のうち、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産に関する部分については、上記のとおり無効で、あるから、本件死因贈与により、これらの不動産の3分の2に持分を被告が、3分のlの持分をDがそれぞれ取得したものとして、遺留分を計算することになる。

これらを前提とし、本件信託及び本件死因贈与の減殺率を計算すると、別紙基礎となる財産一覧表及び遺留分減殺計算表のとおりとなる。

各自が取得した財産の評価等は、以下のとおり引ある。

ア受益権

  • 別紙物件目録記載lの土地及び6の建物

(J) 本件信託における受益権は、信託不動産の売却代金、賃料等、信託不動産により発生する経済的利益を受けることができるものであるところ、証拠(甲21、乙25、30)及び弁論の全趣旨によれば、①R株式会社は、上記不動産につき収益価格を8720万円ないし9470万円とする試算をしていること、②上記不動産の固定資産税評価額は合計5933万2510円であること、③別紙売却済み物件目録記載2ないし4の不動産(L)の固定資産税評価額は実際の売却代金の約7割であったこと、また、④Lの売却代金はI億3491万5463円であったところ、Jの平成27年における賃料収益は、Lの約7割であったことが認められ、これらを総合すると、その愛益権の価額を上記試算の下限である8720万円と評価するのが相当である。

(イ) 別紙物件目録記載9の土地及び10の建物

(K )証拠(申23、乙25、30)及び弁論の全趣旨によれば、①R株式会社は、上記不動産につき収益価格を9400万円ないしl億0300万円とする試算をしていること、②上記不動産の固定資産税評価額は合計6341万6730円であること、③平成27年における賃料収益は、売却済み不動産であるLの約8割であったことが認められ、その他上記(ア)認定の事実を総合すると、その受益権の価額を上記試算の下限である9400万円と評価するのが相当である。

上記(ア)及び(イ)に関し、被告は、上記各試算(甲21、23)において前提とされた年間収誌が実際の年間収益と異なることを指摘するところ、確かに、これらの試算は簡易な価格試算をしたものであり、レントロール記載の賃料等も実際の賃料ではなく周辺事例に基づく査定賃料が記載されている。

しかしながら、収益還元法は将来に予想される収益から物件価格を評価するものであるから、上記指摘を考慮しでも、上記試算に格別不合理があるということはできない。

また、原告は、上記((ア)及び(イ)につき、受益権売却時の受益権の価格が固定資産税評価額に限定されていることから、固定資産税評価額をもってこれを評価すべきである旨主張するが、本件信託における受益権者は、上記各信託不動産の売却や運用による経済的利益の分配を受けることができるのであるから、上記原告の主張は採用することができない。

(ゥ) 売却済み不動産

売却済み不動産は、いずれも売却代金(譲渡費用を控除した額)をもって受益権の価額と解するのが相当である。

(エ) 信託金銭

本件信託の目的財産とされた300万円については、同価額をもって受益権の価額と解するのが相当である。

イ不動産

(ア) 別紙物件目録記載2ないし5の土地(Eの自宅敷地)及び同記載7、8の建物(Eの自宅建物、物置)証拠(甲山、22)及び弁論の全趣旨によれば、①上記土地につき、R株式会社は、近隣の取引事例との比較等により、成約予想価格を6億4715万円ないしH事t1527万円と算出し、売却価格を6億8120万円とする提案をしていること、②上記価格の算出においては、上記土地を更地として評価していること、③上記不動産の固定資産税評価額は、土地が合計3億5054万4400円、建物が353万4000円、@上記不動産の相続税申告時の評価額は、土地が合計約4億6740万円、建物が合計187万0800円であることが認められ、

これらを総合すると、上記成約予想価格のほぼ中間値である6億8000万円をもって、上記不動の評価額と認めるのが相当である。

  • 別紙物件目録記載11ないし15の土地(私道、葬儀社倉庫敷地)

証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、①上記土地は、いずれも現況公衆用道路として非謀税とされており、通路として使用され、あるいは一部が葬儀社の倉庫敷地として無償で使用されていること、②上記土地の相続税申告時の評価額はO円とされていることが認められ、これらを総合すると、その評価額はO円と認めるのが相当である。

原告は、上記土地について、近傍土地の100分の30の価値がある旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない(なお、原告は訴額算定における評価額の計算方法をもって根拠としていることがうかがわれるが、訴額算定における評価額と、土地の評価額が争われた際の認定が異なることは当然である。)。

(ウ) 別紙物件目録記載16の土地(山林)

証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば、相続税申告時の評価額である29万8488円をもってこれを許価するのが相当である。

ウその他の積極財産

Eがその相続開始時に有していた有価証券、現金・預貯金、家庭用財産、その他保険金等の財産は、別紙基礎となる財産一覧表記載のとおりである(前提事実(1)ウ)。

エ生前贈与

Eは、原告、被告及びDに対し、同別紙記載の生前贈与を行った(前提事実(1)ウ)。

オ債務

Eは、その相続開始時に、同別紙記載の公租公課その他債務を負担していた(前提事実(1)ウ)。

なお、原告は、相続税申告の際に債務とされた葬儀費用326万1001円もEの債務であるとして遺留分減殺額の計算をしているが、葬儀費用を支払った被告が原告に負担を求めないのであればEの債務としないことを争わないとし、被告は、平成30年5月14日の本件口頭弁論期日において、当該葬儀費用分については原告に負担を求めない旨明らかにしている。そのため、葬儀費用がEの債務でないことにつき、当事者間に争いはない。

(2) 以上によれば、別紙遺留分減殺計算表のとおり、原告の遺留分侵害額は、基礎となる財産12億3647万6382円の6分のlである2億0607万9397円に、原告の{責務負担額505万2416円を加算し、原告への生前贈与分530万円及び本件信託による死因贈与額6808万6437円を控除した、l億3774万5377円となり、これを被告とDの各遺留分超過死因贈与額の割合で割り付けると、原告が被告に対して遺留分減殺請求権を行使したことによる本件信託及び本件死因贈与の減殺率は、590万0886分の80万6861となる。

したがって、本件死因贈与に対する遺留分減殺請求として不動産の持分一部移転登記手続を求める点(請求2(1)) については、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産につき、本件死因贈与の遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を590万0886分の80万6861とする持分一部移転登記手続を求める限度で理由がある。( なお、本件では、信託が有効とされた各不動産についての、遺留分減殺請求に基づく受益権割合の確認は求められていない。)

また、原告は、不動産以外の財産について価額弁償を求める(請求2(2))ところ、別紙基礎となる財産一覧表のとおり、被告は、本件死因贈与により、不動産以外の財産として9116万0350円(同別紙の本件死因贈与の番号10ないし16の被告取得額の合計)を得ており、その評価額が本件口頭弁論終結時において同額であることにつき当事者間に争いはない。

したがって、以下の計算式により、被告は、原告に対し、遺留分減殺に対する価額弁償として、1246万4862円及びこれに対する被告の価額弁償の意思表示の日の翌日である平成30年l月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

(計算式)91.160.350×806.861÷5,900.886 =12,464,862

5 争点(6)(売却済み不動産の売却代金の精算金額)について

被告は、本件信託に基づき、売却済み不動産の売却代金のうちl億4954万5746円(別紙基礎となる財産一覧表の本件信託の番号3ないし5の被告取得額の合計)の分配金を得ているところ、上記4のとおり、本件信託における被告の受益権は、590万0886分の80万6861の割合で減殺されることから、以下の計算式により、このうち2044万8222円を原告に対して支払う義務を負う。

(計算式)149.545.746 X 806.861-c-5.900.886 =20.448.222

6 争点(7)(反対債権の有無、相殺の可否)について

(1) 相続税の納付金について

ア証拠(乙37、38、45の1・ 2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成27年12月15日に養母Mから3200万円を借り入れ、同月16日、これに自己資金1449万7300円を合わせて、上記原告が納付すべき相続税4649万7300円を全額支払い、後にMに対して上記借入金を全額返済したことが認められ、売却済み不動産の売却代金のうち原告に対する分配金3738万6437円が原告の相続税の納付金に充当されたことは当事者間に争いがない(前提事実(9)。

そうすると、原告が納付すべき相続税4649万7300円のうち、上記分配金を除いた911万0863円については、被告が原告に代わってこれを立て替えたものと認められ、被告は、平成27年12月16日時点において、原告に対し、原告に代わって支払った相続税911万0863円の立替金支払請求債権を取得したと認められる。

イなお、原告は、上記相続税は、判決又は和解の結果に従って必要な修正申告がされることが予定されているものであって、納税義務や納税額も仮のものにすぎないため、自働債権としての適格性を欠くと主張するが、事後的に修正申告をすることがあるとしても、申告した相続財産に係る相続税の納付義務は確定的に発生しているものであり、また、後に修正がなされた場合には精算をすれば足りるものであって、自働責権としての適格性を欠くものでない。

(2) 生花代、香典返しについて

ア証拠(乙39のlないし3、40、41、43)及び弁論の全趣旨によれば、①Eの葬儀について、当初、原告が喪主を務めることが予定されていたものの、その後、被告がこれを務めることとなったこと、②被告は、葬儀において喪主を務め、参列者等から受け取った香典を管理し、葬儀代金を支払ったほか、平成27年2月22日、原告が喪主として注文していた生花代3万2400円を支払ったこと、また、③被告は、「子供一同」として注文した生花代3万2400円及び「孫一同」として注文した生花代3万2400円についても、これを支払ったこと、さらに、④同年4月28日、香典返しのカタログギフト代金247万9550円を支払ったことが認められる。

イ被告は、原告が喪主として支払うべき香典返しのカタログギフト代金のうち、香典等では不足した58万7161円、生花代のうち喪主として注文した生花代3万2400円、並びに「子供一同」及び「孫一同」として注文した生花代の3分のlである2万1600円を原告が支払うべきものであると主張する。

しかし、喪主を務めたのは被告であるから、香典返しのカタログギフト代及び喪主として注文した生花代は、被告が負担すべきである。

他方、「子供一同」及び「孫一同Jとして注文した生花代の3分のlについては、原告、被告及びDがこれを3分のlずつ負担するとの黙示の合意があったものと推認するのが相当であるから、被告は、原告に対し、2万1600円の立替金支払請求債権を取得するものと認められ。

(3) 上記(1)及び(2)によれば、被告は、原告に対し、相続税の立替金911万0863円(上記(1))及び生花代2万1600円(上記(2)) の合計913万2463円の立替金支払請求債権を有しているところ、被告は、前提事実(10)のとおり、同立替金支払請求債権をもって、原告の本訴金銭請求債権(これらについては、遺留分減殺に対する価額弁償金1246万4862円及びこれに対する平成30年月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(上記4(2)) 及び売却済み不動産の売却代金の精算金2044万8222円(上記5)の各支払請求債権があるものと認められる。) と対当額で相殺する旨の意思表示をしており、売却済み不動産の売却代金の精算金からまず相殺することにつき、当事者聞に争いはない。

したがって、上記相殺により、被告が原告に対して負う売却済み不動産の売却代金の精算金の残額は、以下の計算式により、1131万5759円となる。

(計算式)20,448.222-9.132.463 = 11,315,759

(4) そうすると、原告の被告に対する価額弁者金請求(請求2(2)) は、1246万4862円及びこ1に対する被告の価額弁償の意思表示がされた日の翌日である平成30年l月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金

の支払を、売却済み不動産の売却代金の精算金支払請求(請求4)は、1131万5759円の支払を、それぞれ求める限度で理由がある。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第4 結論

以上によれば、原告の主位的請求(請求1)は、本件信託に基づき行われた所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続請求(請求1(1))につき、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産の所有権移転登記及び信託登記の各抹消登記手続を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとする。

原告の予備的請求(請求2及び3)は、別紙物件目録記載2ないし5、7、8、11ないし16の各不動産につき、本件死因贈与の遺留分減殺を原因として、原告の持分割合を590万0886分の80万6861とする持分一部移転登記手続、及び、価額弁償金1246万4862円及びこれに対する平成30年l月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとす

る。

また、売却済み不動産の売却代金の精算金支払請求(請求4)は、1131万5759円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。

よって、主文のとおり判決する。

[別紙]

裁判長裁判官中村さとみ

裁判官寺内康介

裁判官吉原裕貴

物件目録く略〉

売却済み物件目録〈略〉

基礎となる財産一覧表〈略〉

遺留分減殺計算表〈略〉

基礎となる財産一覧表(主位的請求)〈略〉

遺留分減殺計算表(主位的請求)〈略〉

基礎となる財産一覧表(予備的請求1)<略〉

遺留分減殺計算表(予備的請求1)<略〉

基礎となる財産一覧表(予備的請求2)<略〉

遺留分減殺計算表(予備的請求2)〈略〉

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民事信託手続準則案3

 

3 高齢者本人ではなく親族の利益のための親族間信託の組成に加担しない事

司法書士は、信託登記代理の付随業務として、または、法務局等提出書類作成業務として、あるいは、簡裁訴訟代理等関係業務として、高齢者の福祉や認知症対策等を信託の目的とする親族間信託の組成を支援する場合、そのような信託目的と受託者等の実質的意図の齟齬(権限濫用)を生じさせないため、高齢者である委託者兼受の利益のための信託ではない、高齢者である委託者兼受益者以外の親族の利益のための信託ではないこと、そして、実質的にも受託者の利益のための信託であること、そして、信託の目的に記載された通りの実質を有する高齢者の福祉のための適法で適切な信託が維持されるしくみを有すること、などを確認し、司法書士は、その確認方法・内容・結果を調書化したうえ、信託組成関係者に対して、これに反する場合の効果や制裁の可能性等を説明、理解したことの署名捺印を得るものとする。

その場合、当該司法書士は、当該高齢者の親族または親族の一部に対して、親族の側の利益を図るために当該親族間信託を悪用することはできないこと、それに違反した場合の法的効果や犯罪成立の可能性その他の危険性などを助言し、高齢の委託者兼受益者の保護を犠牲にして、それ以外の者の利益を図るための違法または不適切な親族間信託の組成に加担してはならない。

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―司法書士は、信託登記代理の付随業務として、または、法務局等提出書類作成業務として、あるいは、簡裁訴訟代理等関係業務として、高齢者の福祉や認知症対策等を信託の目的とする親族間信託の組成を支援する場合―

ここまでは、司法書士が民事信託に関わる場合の前提と思われます。
目的
―信託目的と受託者等の実質的意図の齟齬(権限濫用)を生じさせないため―

方法
1、 高齢者である委託者兼受益者の利益のための信託であること
2、 高齢者である委託者兼受益者以外の親族の利益のための信託ではないこと
3、 実質的にも受託者の利益のための信託ではないこと
4、 そして、信託の目的に記載された通りの実質を有する高齢者の福祉のための適法で適切な信託が維持されるしくみを有すること
5、 などを確認して書面化

1,2,3は、内容としては同じだけど、2,3を説明しておかないと、分からなくなってしまう受託者がいる可能性があるので、必要だと思います。

4、は司法書士の能力の問題。間違ったら駄目、というわけではなくて、間違っても変更できるような仕組みを作ることが大切です。ただし、信託の目的(契約書の信託の目的条項だけではなく、総合的に解釈される目的)がずれると、全てがずれて変更で対処出来なくなるので、目的だけは気を付けて、分からなければ信託銀行を参考に必要最低限を書いておくことが必要。
追加する変更は割とやりやすいですが、削る変更は他の契約条項とも関わることが多いので、収拾がつかなくなる可能性があります。

5、などの例としては、受託者に対する成年後見制度についての確認などを挙げることが出来ると考えます。(任意・成年)後見人に受託者が就任するのかに関わらず、成年後見開始の審判申立て、成年後見監督人選任審判の申立てについては、委託者兼受益者の近くにいると思われる受託者が行う場合も多いと思います。

―当該司法書士は、当該高齢者の親族または親族の一部に対して、親族の側の利益を図るために当該親族間信託を悪用することはできないこと、それに違反した場合の法的効果や犯罪成立の可能性その他の危険性などを助言し、高齢の委託者兼受益者の保護を犠牲にして、それ以外の者の利益を図るための違法または不適切な親族間信託の組成に加担してはならない。―

ここは司法書士法とその関連法令、倫理規定と守るという当然の規定だと思います。

 

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渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

民事信託手続準則案3

4 親族受託者等の権限乱用や不正への対策

司法書士は、信託登記代理の附随業務として、または、法務局等提出書類作成業務として、あるいは簡裁訴訟代理等関係業務として、高齢者の福祉や認知症対策を目的とする親族間信託の組成を支援する場合、高齢者である委託者兼受益者の利益を擁護するため、信託当事者および当該信託に関係する親族に対して、受託者の権限乱用や不正を防止するためのしくみを備えるべきことの助言を行うものとする。また、受託者の権限乱用や不正を防止するための助言を行うものとする。


また、受託者の権限乱用や不正が、背任罪や横領罪などの犯罪の構成要件に該当する可能性について警告しなければならない。そして、司法書士は、法律家としての法令順守確認義務の観点から、受託者や受益者代理人等の権限濫用や不正が生じないよう、受託者に対する牽制や監督が可能な信託が組成されるよう支援するものとする。


なお、当該司法書士は、自らが組成を支援した親族間信託に対しては、特段の事由がない限り、信託開始以降も適法かつ適切に受託者の信託事務が遂行されていることの確認に努めるとともに、現に、受託者等の権限濫用や不正の危険を生じ、受益者の利益が害されるような急迫性を生じた場合、これを当該司法書士が知ったときは、速やかに、受益者の利益を守るため、司法書士の法令順守義務の履行として、信託当事者に対して助言、警告するものとして、現に不正等に至ったことを当該司法書士が知った場合、捜査機関等への相談、届出や告発その他、委託者兼受益者または受益者の損害を最小化するためのしかるべき措置をとるものとする。
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―高齢者である委託者兼受益者の利益を擁護するため、信託当事者および当該信託に関係する親族に対して、受託者の権限乱用や不正を防止するためのしくみを備えるべきことの助言を行うものとする。―

例えば、任意後見契約にならって信託監督人を就ける、高齢者である委託者兼受益者が信託契約に加えて任意後見契約も締結しておき、任意後見契約書の中の代理権目録に、受託者に対する監督権を明示して持たせる、などを考えることが出来ます。


―また、受託者の権限乱用や不正を防止するための助言を行うものとする。―

信託契約書作成時、終了時は司法書士が関わるので助言できる(する義務がある)のに対して、何もない時でも(何もないからこそ)受託者や受益者と定期的に連絡を取って様子を聞く必要があります。

―なお、当該司法書士は、自らが組成を支援した親族間信託に対しては、特段の事由がない限り、信託開始以降も適法かつ適切に受託者の信託事務が遂行されていることの確認に努める―

特段の事由としては、受託者とともに受益者(またはその成年後見人)と支援業務契約の解除を行った場合を挙げることが出来ます。

―とともに、現に、受託者等の権限濫用や不正の危険を生じ、受益者の利益が害されるような急迫性を生じた場合、これを当該司法書士が知ったときは、速やかに、受益者の利益を守るため、司法書士の法令順守義務の履行として、信託当事者に対して助言、警告するものとして、現に不正等に至ったことを当該司法書士が知った場合、捜査機関等への相談、届出や告発その他、委託者兼受益者または受益者の損害を最小化するためのしかるべき措置をとるものとする。―

この部分は、司法書士が法定後見人、(任意)後見監督人に就任する場合の業務に近く、注意していれば比較的馴染みやすいのではないかと思います。
親族間信託支援業務だけが特別ではない、という意味で記載がされていると理解しています。

 

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渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

民事信託手続準則案3

5 司法書士の品位保持義務

司法書士は、自己の経済的利益を図る目的で親族間信託組成支援業務を不当に誘致するため、利用者に対して、あたかも親族間信託が万能であり、デメリットがないかのように誤認させ、また、親族間信託を利用すれば成年後見制度が全く不要となると誤認させ、あるいは、一方的に成年後見制度を批判し、専門職後見人を貶め、自らの親族間信託の組成支援報酬金額を不当に成年後見人報酬が高額であると誤認させることで、成年後見制度のネガティブなイメージを世間あるいは利用者に流布し、公益制度である成年後見制度の運営を阻害し、成年後見離れのごとき風潮を助長することのなきように配慮し、法律家としての品位を保持し、他分野の専門業務や公益業務を尊重しなければならない。

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整理してみます。
司法書士が親族間信託支援業務を誘致するために、やったらダメなこと
1、 利用者に対して、あたかも親族間信託が万能であり、デメリットがないか
のように誤認させること

2.利用者に対して、親族間信託を利用すれば成年後見制度が全く不要となると誤認させること

3.一方的に成年後見制度を批判し、専門職後見人を貶め、自らの親族間信託の組成支援報酬金額を不当に成年後見人報酬が高額であると誤認させることで、成年後見制度のネガティブなイメージを世間あるいは利用者に流布すること

守ること
1. 公益制度である成年後見制度の運営を阻害し、成年後見離れのごとき風潮を助長することのなきように配慮し、法律家としての品位を保持し、他分野の専門業務や公益業務を尊重すること。
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やったらダメなこと、1に関してはセミナーなどでメリットなどを話しておいて、相談、受任の直前位にデメリットを言うことです。説明はした、と言い張ることも出来るかもしれませんが、後で言わなくてもいいのにと利用者は思うかもしれません。また、デメリットが原因で全て白紙になるかもしれません。
それなら、最初から言っておいた方が、私達司法書士にとっても時間の無駄が少なくなります。

やったらダメなこと、2に関しては成年後見制度と比較することはよくあります。相談する人が成年後見制度を知っている場合です。
知らない場合は、成年後見制度の説明から始めることが必要です。
違いと共通点などを説明していきますが、私は、お金(最初にかかる費用と運転資金など)については、あまり変わらないと伝えています。
あまり変わらないというのは、先のことは分からないというところがあまり変わらないということです。

やったらダメなこと、3に関しては成年後見人に就任したことがない人や、たくさん就任して嫌な思いをしてきた人、不動産登記を主にしていて成年後見制度が原因で決済が出来なかった人などが多いような気がします。
成年後見制度に関しては、2019年の改正後も批判があるのは事実です。

これは専門職のみではなく、市民の間でも批判的な立場で後見制度を取られる方がいます。
完璧な制度はなく、禁治産・純禁治産制度から少しでも進んでいる点をみながら説明する必要があります。
私も成年後見制度に関しては思うところがありますが、可能な限りどのような制度なのかの事実に絞って話すようにしています。

守ること1、に関しては自分で敵を増やすことになるのであまりお勧め出来ません。

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渋谷陽一郎「民事信託支援業務の手続準則試論(1)~(3)」『市民と法』№113~№115(株)民事法研究会

法制審議会 民法(相続関係)部会


法制審議会
民法(相続関係)部会
第1回会議 議事録


第1 日 時  平成27年4月21日(火)自 午後1時32分
                     至 午後3時25分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の規律の見直しについて

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○堂薗幹事 それでは,予定の時刻が参りましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第1回会議を開会いたします。
  本日は,御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
  私は,官房参事官の堂薗と申します。部会長の選出があるまで,議事の進行を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。
  法制審議会は法務大臣の諮問機関でございますが,その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができるということになっております。この民法(相続関係)部会は,先の2月24日に開催されました法制審議会第174回会議において法務大臣から相続法制の見直しに関する諮問--第100号になりますが--がされ,これを受けまして,その調査審議のために設置することが決定されたもので,その諮問事項は以下のとおりでございます。
  以下,読み上げますと,「高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでございます。
  それでは,審議に先立ちまして,当省深山民事局長より一言御挨拶を申し上げます。
○深山民事局長 民事局長の深山でございます。部会の調査審議を開始するに当たりまして,事務当局を代表して一言御挨拶を申し上げます。
  まず,皆様にはそれぞれ御多忙の中,法制審議会民法(相続関係)部会の委員,幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。
  民法が規律している相続法制につきましては,配偶者の法定相続分の引上げ,寄与分制度の新設等を行った昭和55年の改正以来,約35年間にわたって大きな見直しはされておりません。
  しかしながら,その間にも我が国の平均寿命は伸び,社会の高齢化が進展するとともに,晩婚化,非婚化が進む一方で,再婚家庭が増加するなど,相続を取り巻く社会情勢には大きな変化が生じております。このような変化を踏まえて,現行の相続に関する規律を見直すべき時期に来ているものと考えられます。
  さらに,平成25年9月に,嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた民法900条4号ただし書前半部分の規定が憲法に違反するとの最高裁の決定が出されたことを受け,同年12月に,この規定を削除して嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等にすることを内容とする民法の一部を改正する法律が成立いたしましたけれども,その過程で各方面から,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から相続法制を見直すべきではないかといった問題提起がされました。
  そこで,法務省では,相続法制の在り方について検討を行うため,民法の研究者や一般有識者の方々の御協力を得て,平成26年1月に相続法制検討ワーキングチームを設置し,本年1月28日にその結果を報告書に取りまとめたところでございます。
  しかしながら,相続法制の見直しは国民生活に与える影響が極めて大きく,見直しをする場合の方向性についても様々な考え方があり得ることから,今後の検討は開かれた場で,より多くの関係者から意見を聴取して進めていくのが相当であると考えられます。
  そこで,高齢化社会の進展等の相続を取り巻く社会情勢の変化に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直すことについて法制審議会で御検討いただきたく,今回の諮問がされたものでございます。
  委員,幹事の皆様方には,適切な規律の整備のために御協力賜りますよう,何とぞよろしくお願い申し上げます。
  以上でございます。
○堂薗幹事 それでは,本日は第1回目の会議でございますので,委員,幹事及び関係官の方々に簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。所属と氏名等の自己紹介をお願いしたいと思います。
  それでは,恐れ入りますが,着席順で高橋法制審議会長からよろしくお願いいたします。
○高橋会長 親委員会の法制審議会の会長をしております高橋宏志でございます。民事訴訟法を専門にしており,現在,中央大学に勤めております。
○浅田委員 三井住友銀行の浅田でございます。よろしくお願いします。
○大村委員 東京大学法学部で民法を担当しております大村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○沖野委員 同じく東京大学法学政治学研究科で民法を専攻担当しております沖野と申します。どうかよろしくお願いいたします。
○窪田委員 神戸大学の窪田でございます。やはり民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○潮見委員 京都大学の潮見と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○中田委員 東京大学の中田と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○南部委員 初めまして。労働組合の連合から参りました南部と申します。よろしくお願いいたします。
○藤野委員 初めまして。主婦連合会常任幹事の藤野と申します。市民の立場で初めて参加いたしております。どうぞよろしくお願いいたします。
○増田委員 弁護士の増田と申します。大阪弁護士会に所属しております。よろしくお願いします。
○石井幹事 最高裁事務総局家庭局で第二課長をしております石井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○岡田幹事 内閣法制局から参りました岡田と申します。よろしくお願いいたします。
○垣内幹事 東京大学の垣内と申します。民事訴訟法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○金澄幹事 弁護士の金澄と申します。東京弁護士会所属です。どうぞよろしくお願いいたします。
○西幹事 慶應義塾大学の西希代子と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。
○餘多分幹事 最高裁事務総局民事局第二課長をしております餘多分と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○水野(紀)委員 東北大学の水野と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○水野(有)委員 東京地方裁判所の,こちらも水野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○村上委員 明治大学で日本の近代家族法史を専攻しております村上と申します。よろしくお願いいたします。
○村田委員 最高裁判所事務総局で家庭局長をしております村田斉志と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○森委員 東京家裁家事部の森でございます。どうぞよろしくお願いします。
○八木委員 麗澤大学の八木と申します。専攻は憲法ですが,民法,家族法にも多少興味がございます。ワーキングチームで1年,議論してまいりました。よろしくお願いいたします。
○山田委員 弁護士の山田でございます。第一東京弁護士会所属です。よろしくお願いいたします。
○山本(和)委員 一橋大学の山本和彦でございます。民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○山本(克)委員 京都大学の山本克己です。同じく民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。
○米村委員 千葉大学の文学部から参りました米村と申します。皆様,法学の専門家なのですけれども,私は社会学で,家族社会学,歴史社会学を専攻にしております。どうぞよろしくお願いいたします。
○下山関係官 法務省民事局付の下山と申します。よろしくお願いいたします。
○大塚関係官 同じく法務省民事局付の大塚でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○渡辺関係官 同じく法務省民事局付の渡辺と申します。よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 法務省で官房参事官をしております堂薗でございます。改めまして,どうぞよろしくお願いいたします。
○深山委員 先ほど既にご挨拶致しましたが,法務省の民事局長の深山です。よろしくお願いいたします。
○金子委員 法務省民事局担当の官房審議官の金子でございます。よろしくお願いいたします。
○筒井幹事 法務省民事局民事法制管理官の筒井でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,どうもありがとうございました。
  なお,上西委員におかれましては,本日は所用により御欠席でございます。
  併せて,この機会に関係官について補足して御説明いたします。
  法制審議会議事規則によりますと,審議会がその調査審議に関係があると認めた者は会議に出席し,意見等述べることができるとされておりまして,この規定に基づき御参加いただく方を関係官と呼んでおりますが,この部会におきましても,当省の事務当局のほかに最高裁判所事務総局家庭局の依田局付に関係官として御参加いただくことになっておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。
  依田局付,先ほど自己紹介をちょっと御遠慮されていたようです。もしあれでしたらどうぞ。
○依田関係官 最高裁事務総局家庭局で局付をしております依田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 では,よろしくお願いいたします。
  それでは,次に部会長の選任に移りたいと存じます。
  法制審議会令によりますと,部会長は,当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき会長が指名することとされております。当部会は本日が第1回会議であり,部会長が指名されていない状態でございますので,まず初めに部会長の互選の手続を行いたいと思います。
  それでは,皆様から部会長の推薦をしていただきたいと思いますけれども,御意見はございますでしょうか。
  では,窪田委員,お願いいたします。
○窪田委員 部会長についてでございますが,私からは大村敦志委員を御推薦させていただきたいと考えております。
  本部会に付託されたテーマは相続制度の見直しに係るものですが,そうした相続制度については,いわゆる家族法についての見識と,また,いわゆる財産法についての識見を踏まえての検討が求められるところだと理解しております。大村委員は,改めて申し上げるまでもないところでございますが,正しくこうした民法全般にわたって研究をしてこられ,卓越した御業績を上げてこられました。
  また,大村委員は法制審議会児童虐待関連親権制度部会の委員,法制審議会民法(債権関係)部会幹事を始めとして,様々な立法に携わってこられています。さらに,本日の資料として配布されております相続法制検討ワーキングチームにつきましても座長を務められてきたということを踏まえましても,大村委員に是非,部会長を引き受けていただけたらと私は考えております。
  以上,大村委員を推薦させていただく次第です。
○堂薗幹事 どうもありがとうございました。
  それでは,ほかに御意見ございますでしょうか。
  潮見委員,お願いいたします。
○潮見委員 私も同様の理由で,大村委員を部会長として推薦したいと思います。
○堂薗幹事 ありがとうございます。
  ほかに御意見ございますでしょうか。
  それでは,ただいま,窪田委員と潮見委員から部会長として大村委員を推薦する旨の御発言がございました。ほかに御意見がないようでございますので,部会長には大村委員が互選されたということでよろしいでしょうか。
  では,高橋会長,よろしいでしょうか。
○高橋会長 先ほど御説明がありましたように,部会長につきましては互選に基づき会長が指名するということになっております。ただいま互選されました大村敦志委員を部会長に指名いたします。
  では,大村部会長,よろしくお願いいたします。
○堂薗幹事 ただいま高橋会長に大村委員を部会長に御指名いただきましたので,以後の進行は大村部会長にお願いしたいと思います。
  どうぞ,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ただいま部会長に御指名を頂きました大村でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。非力ではございますけれども,本部会の議事が円滑に進みますよう努力をして運営をしてまいりたいと存じますので,御出席の皆様方には御協力のほどをお願い申し上げます。
  ここで,高橋法制審議会会長は,所用のために退席されると伺っております。どうもありがとうございました。
○高橋会長 失礼いたします。
○大村部会長 それでは,まず最初に,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者の取扱いについてお諮りをさせていただきたいと存じます。
  まず,現在の法制審議会における議事録の作成方法につきまして,事務当局から説明をしていただきます。
○堂薗幹事 それでは,法制審議会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについて御説明いたします。
  法制審議会の部会での議事録における発言者の取扱いにつきましては,平成20年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして,次のような決定がされております。
  以下,読み上げますと,「それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とする。」というものでございます。
  若干,分かりにくい文章になっているような気もいたしますが,要は審議過程の透明化という公益的要請の観点から,原則として議事録を顕名とするとした上で,ただ,それを明らかにすることによって自由な議論が妨げられるおそれがあるという場合には,例外的に顕名としないことができるという趣旨ではないかと思います。
  したがいまして,皆様には,当部会の議事録につきましても発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを,この決定に沿って御判断いただく必要があるものと存じます。
  説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,ただいまの事務当局からの説明につきまして,まず質問等がございましたら御発言お願いいたします。
  特になければ,御意見等,もしございましたら。
  特にございませんでしょうか。
  それでは,当部会につきましては,部会長の私といたしましては,諮問事項の内容等に鑑みまして,発言者名を明らかにした議事録を作成するという方針で臨みたいと存じますが,いかがでございましょうか。
  よろしゅうございますでしょうか。
  では,当部会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにさせていただきます。
  それでは,続きまして,配布されている資料につきまして事務当局から説明をしてもらいます。
○堂薗幹事 それでは,配布資料について確認をさせていただきます。
  まず,部会資料でございますが,事前に送付させていただいたものとして,資料番号1「相続法制の見直しに当たっての検討課題」という書面がございます。次に参考資料でございますが,これも事前に送付させていただきましたが,「相続法制検討ワーキングチーム報告書」と,それから,「これまでの改正の経緯」と題する書面でございます。お手元にございますでしょうか。
○大村部会長 それでは,資料を御確認いただきましたので,次に事務当局に相続法制の見直しの意義や今後の審議スケジュール等についての説明をしていただきます。
○堂薗幹事 それでは,相続法制の見直しの意義について簡単に御説明いたします。
  法務省において相続法制の見直しを検討するに至った直接のきっかけとなったのは,先ほどの深山局長の御挨拶にもありましたとおり,平成25年に最高裁判所において,嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた規定が憲法に違反するとの決定がされたことにあります。
  これを受けて,法務省ではこの規定を削除することを内容とする法律案を作成いたしましたが,これを国会に提出する過程で各方面から,この改正が及ぼす社会的影響について懸念が示されました。
  取り分け,この規定は法律婚の尊重を趣旨とするものであったことから,これを削除することに伴い,法律婚の尊重を図るための措置を別途検討し,バランスをとるべきであるという指摘がされたところでございます。
  また,相続法制につきましては,昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げ等をして以来,大きな改正はされていない状況にございます。
  しかし,その間にも我が国の平均寿命は男女ともに7歳から8歳程度伸長しております。これに伴いまして,相続開始時における配偶者の年齢が70代,80代に達している場合が多くなっており,配偶者の生活保障の必要性が相対的に高まっている反面,相続開始時における子の年齢は40代,50代に達しており,既に親から独立して安定した生活を営んでいる場合が多くなっていることから,子の生活保障の必要性は相対的に低下しているのではないかといった指摘もされているところでございます。
  他方で,高齢者の再婚が増加するなど家族形態にも変化が見られることから,法定相続分に従った遺産の分配では実質的な公平を図れない場合が増えてきているといった指摘もされているところでございます。
  また,高齢化社会の進展に伴いまして,要介護高齢者や独居老人の増加など,様々な社会問題も生じております。これらの問題の解決を相続法制に期待するのは,必ずしも相当でないと思いますが,例えば遺産分割において被相続人に献身的な介護を行ってきた者の貢献をいかに反映すべきかといった問題点を検討するに当たっては,これらの社会情勢の変化も十分に踏まえた上で議論を進めていくことが必要になるものと思います。
  これらの点を考慮して,法務省においては,平成26年1月に省内に相続法制検討ワーキングチームを立ち上げ,相続法制に関する現状の問題点や考えられる見直しの方向性等につきまして議論を整理し,本年1月にワーキングチームとしての取りまとめをしたところでございます。
  このワーキングチームでは,ただいま御説明したような諸事情を考慮して,主に以下の4点,すなわち配偶者の居住権の保護,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現,寄与分制度の見直し,遺留分制度の見直しといった4点について検討を行いました。
  そこで,当部会においても,これらの論点を中心に御議論いただくことが考えられるところではございますが,この点の当否を含め,本日はフリートーキングという形で皆様から忌憚のない御意見を頂戴したいと考えているところでございます。
  次回以降の具体的な検討の内容につきましては,本日の御議論によるところもございますので,ここで確定的なことは申し上げられませんが,次回会議から個別の論点について御審議いただき,中間的な取りまとめをした後にパブリックコメントに付すことを考えております。相続法制につきましては,国民の間にも様々な御意見があると思われますので,パブリックコメントの期間も相当程度確保する必要があるものと考えております。
  現時点では,どの範囲で見直しをするのか不透明な部分が多く,この部会でどの程度の期間御審議いただく必要があるかという点につきましては確たることは申し上げられませんが,おおむね1年半程度は掛かるのではないかと考えているところでございます。
  私からの説明は以上でございます。
○大村部会長 ただいまの事務当局の説明につきまして,御質問がございましたら伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
  よろしゅうございますでしょうか。
  それでは,また何かありましたら後でフリーディスカッションの際に伺うということにいたしまして,本日の具体的な検討,審議に入りたいと思います。
  本日は,事務当局から相続法制の見直しに当たっての検討課題につきまして御説明を頂いた上で,相続法制の見直しにつき,今申し上げましたように皆様にフリーディスカッションをしていただくということを考えております。
  それでは,まず事務当局から,相続法制の見直しに当たっての検討課題につきまして説明を頂きます。
○渡辺関係官 それでは関係官,私,渡辺のほうから事前にお配りいたしました部会資料の1について説明させていただきます。
  本日は,相続法制の見直しについてフリーディスカッションをしていただきたいと考えておりますので,そのための材料という趣旨で部会資料1を作成させていただきました。この部会資料1というのは,大きく分けて二つの構成からなっております。
  一つ目は,第1「相続法制の見直しにおける基本的な視点」という部分でございまして,これは言わば総論に当たる部分かと思います。ここで,相続法制を見直すに当たっての大局的な視点につきまして,委員の皆様方の御議論をお願いしたいと考えておるところでございます。
  そして,二つ目は,第2「考えられる検討項目」という部分でございまして,ここでは考えられる論点ごとに問題点を整理させていただいたというところでございます。各論点における詳細な御議論は次回以降にお願いすることになるかと思いますが,その前提として,基本的な方向性について皆様の御意見を頂戴することができましたら幸いに存じます。
  では,第1の「相続法制の見直しにおける基本的な視点」というところでございますが,事前にお配りさせていただいた参考資料2,「これまでの改正の経緯」でも少し記載をさせていただいておるところでございますが,相続法制につきましては,昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げ,それから,寄与分制度の導入等の改正がされて以来,大きな見直しというものはされておりません。
  しかしながら,その間にも高齢化社会というのは更に進展をしておりまして,その結果,相続開始時点での相続人,特に配偶者の年齢が従前より相対的に高齢化していると思われることに伴い,配偶者の生活保障の必要性が相対的に高まっていると思われますが,それに対しまして,既に経済的に自立しているであろう子の生活保障の必要性は相対的に低下しているというような指摘がされているところでございます。
  また,要介護高齢者が増加し,相続の際にもその療養看護の在り方が問題となることがありますでしょうし,また,高齢者の再婚が増加し,長年連れ添った配偶者と子のみが相続人になるといった典型的なケースばかりではなくなっているようにも思われるところでございまして,このように相続を取り巻く社会情勢にも変化が見られるのではないかと考えているところです。
  このような社会情勢の変化等に応じ,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続法制を見直すべき時期が来ているものとも考えられるところでございますが,皆様の御意見を賜れればと考えております。
  次に,第2の「考えられる検討項目」というところでございます。ここでは,検討項目といたしまして,1として「配偶者の居住権の保護」,2「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」,3「寄与分制度の見直し」,4「遺留分制度の見直し」,5「相続人以外の者の貢献の考慮」,6「預貯金等の可分債権の取扱い」,7「遺言」,これを掲げさせていただきました。
  また,本日はフリートーキングでございますので,検討の対象はただいま申し上げた7点に限られるものでは当然ございませんので,最後に8「その他」として,この七つ以外にも検討すべき論点がございましたら御指摘を頂ければと考えております。
  では,順番に御説明してまいりたいと思います。
  まず,1の「配偶者の居住権の保護」でございます。
  配偶者の一方が死亡した場合に,他の配偶者がそれまで居住してきた建物に引き続き居住することを希望するのが通常かとは思われますが,特にその配偶者が高齢者である場合には,住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を始めるということは,精神的にも肉体的にも大きな負担があるのではないかと考えられます。
  また,高齢化社会の進展により,相続開始の時点では配偶者が高齢のため,自ら生活の糧を得ることが困難である場合も多くなってきているものと思われます。
  こうしたことから,配偶者につきましては,その居住権を保護しつつ将来の生活のために一定の財産を確保させる必要性が高まっているものとも考えられるところでございますが,このような観点から,残された配偶者の居住権を保護するための方策,これを検討すべきであるという御指摘がございますので,この点を検討項目として提示をさせていただきました。
  次に,2の「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」というところでございます。
  相続人となる配偶者の中には,婚姻期間が長期間にわたり,被相続人の財産の形成又は維持に貢献している者もいれば,反対に,高齢になった後に再婚をした場合のように,婚姻期間も短く,被相続人の財産の形成又は維持にほとんど貢献していないというような者も想定されます。
  しかしながら,現行法上は,配偶者の法定相続分,これは一律に定められておりまして,個別具体的な事情は寄与分において考慮されるにすぎないということになっておりますので,必ずしも当事者間の実質的公平が図れていないといった指摘もされているところでございます。
  また,離婚における財産分与においては,配偶者に実質的夫婦共有財産,すなわち夫婦が婚姻中に協力して得た財産,これの2分の1を取得する取扱いが実務上原則化しつつあることからいたしますと,遺産の多くが実質的夫婦共有財産である場合には,配偶者は遺産分割において自己の実質的な持ち分,これを取り戻したにすぎず,被相続人の実質的な持ち分,すなわち名実ともに被相続人の財産となる部分から何ら財産を承継していないことになっているのではないかというような指摘もあるところでございます。
  このような観点から,遺産分割におきましても,財産の形成に対する配偶者の貢献の有無及び程度をより実質的に考慮し,その貢献の程度に応じて配偶者の取得額が変わるようにすべきであるとの指摘がされているところでございます。
  他方で,個々の遺産分割に関する紛争におきまして,遺産の形成に対する配偶者の貢献の有無及び程度を実質的に考慮するということになりますと,この点をめぐって当事者間で主張立証が繰り返され,相続に関する紛争がより一層複雑化,長期化するということが予想されるところでございます。
  また,相続の場合には,離婚における財産分与の場合とは異なり,婚姻関係の当事者ではない他の相続人がこの点について主張立証しなければならなくなるため,これを適切に行うことができるのかどうかというような疑問がございまして,また,さらには結果に対する予測可能性,これの低下を招くというような御指摘もございます。
  このように,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現につきましては様々な指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたというところでございます。
  続きまして,3の「寄与分制度の見直し」というところでございます。
  高齢化社会の進展に伴いまして,要介護高齢者も増加しているものと思われますが,例えば被相続人に複数の子がいる場合のように,被相続人に対して扶助義務を負う者が複数おりまして,療養看護についても同等の役割を果たすことが法律上は求められているにもかかわらず,実際にはそのうちの一部の相続人のみが専ら療養看護を行うなど,貢献の程度に顕著な偏りがある場合も多いと言われておるところでございます。
  しかし,寄与分の要件である特別の寄与というのは,一般に被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献があったことを意味すると解されておりますので,扶助義務を負う者がした療養看護につきましては,寄与分が認められにくいという指摘もされておるところでございます。
  このため,療養看護についての貢献については,高齢者に対する療養看護の重要性が増していること等を踏まえ,寄与分の要件を緩和すべきであるというような御指摘もございます。
  他方で,このような見直しを仮にいたしますと,寄与分を認めるか否かの判断のために,寄与分を主張する相続人だけではなく,寄与分を主張していない他の相続人の貢献の程度についても裁判所が資料収集する必要が生じてくるなど,寄与分を定める事件の紛争の複雑化,長期化のおそれがあるという御指摘もされているところでございます。
  このように,寄与分の程度の見直しにつきましても様々な御指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたというところでございます。
  続きまして,4の「遺留分制度の見直し」というところでございます。
  明治時代に制定された旧民法では,単独相続である家督相続が中心とされていたのですが,戦後の改正で家督相続制度は廃止されております。
  しかし,遺留分に関する規定につきましては最小限の修正を加えたのみで,ほとんどが旧民法の規定を踏襲したものであるため,現行民法のとる共同相続,これを前提として共同相続人間で生じ得る問題について十分な配慮がされていないのではないかというような御指摘があるところでございます。条文上では,受遺者又は受贈者,これが相続人であるか,それ以外の第三者であるかによる区別はされておりませんが,判例上では,例えば次のような整理がされているところです。
  民法第1030条は,贈与は相続開始前の1年間にしたものに限り遺留分算定の基礎となると定めているのですが,このような定めがあるにもかかわらず,受贈者が相続人である場合には,原則として遺留分算定の基礎となる財産についての時期的な制限は設けないということに判例上解されておりまして,また,遺留分の減殺割合について定める民法第1034条の目的物の価額,この規定がございますが,その算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額,これを超える部分のみがこの目的物の価額に当たるというような解釈が判例上されているというところでございます。このように,判例によって遺留分に関する規律の補充がされているという状況にあると言えるかと思います。
  このように,現行の遺留分制度につきましては,戦後の昭和22年の民法改正の際に現行の共同相続制度を踏まえた十分な検討がされなかったために,分かりにくく複雑なものになっているのではないか,このような御指摘がされているところでございます。
  また,続きまして,現行の遺留分制度の趣旨,目的につきましては,学説上も様々な考え方があるようでございますが,一般的には,遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持ち分の清算等が挙げられているところでございます。
  もっとも,これらの点につきましては,高齢化社会の進展に伴いまして,相続が開始した時点で相続人である子も既に経済的に自立していることが多く,その生活を遺留分によって保障する必要性が少なくなってきたとの指摘や,核家族化に伴い経済的に一体性を保つ家族が減少した結果,財産形成に対する相続人の寄与の割合が相対的に低下し,相続人が寄与した分を取り戻すという遺留分の機能,これが必ずしも妥当しなくなっているとの指摘もされているところでございます。
  このような観点から,遺留分制度の在り方そのものを見直すべき時期に来ているのではないかといったような御指摘もされているところでございます。
  さらに,現行法の下では,遺産分割事件は家庭裁判所における家事事件の手続で解決されるのに対しまして,遺留分減殺請求事件は地方裁判所の訴訟手続で解決され,紛争解決手続が異なっているということから,これらの法律関係を柔軟かつ一回的に解決することが困難になっているとの御指摘もございます。
  また,現行の遺留分制度におきましては,受遺者又は受贈者等の財産形成に対する貢献を寄与分として考慮することはできないと解されておりますが,これでは当事者間の実質的な公平を図ることができないといった御指摘もございます。
  そこで,このような事態を解消するため,遺留分減殺請求事件を家庭裁判所で取り扱うこととした上で,遺留分制度におきましても寄与分を考慮することができるようにすべきであるとの御指摘も一方ではございます。
  しかしながら,他方で,このような見直しをいたしますと,当事者が寄与分に関する主張立証を繰り返し,又は家庭裁判所による裁量権の行使の在り方を巡って争うなど,紛争が複雑化する可能性は否定することができませんし,また,訴訟手続によることなく受遺者又は受贈者の財産権の一部を喪失させることの当否についても慎重に検討すべきであるという御指摘もございます。
  以上のように,遺留分制度につきましても様々な御指摘がされているところでございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたということでございます。
  続きまして,5の「相続人以外の者の貢献の考慮」というところでございます。
  現行法上,寄与分は相続人にのみ認められているものでございますので,相続人以外の者,例えば相続人の配偶者等が考えられるところでございますが,そのような者が遺産の形成又は維持に多大な貢献をしている場合であっても,遺産の分配を受けるということはできません。このような結論につきましては,実質的公平に反するとの御指摘がされているところでございます。
  そこで,この点を改め,相続人以外の者であっても一定の貢献をした場合には遺産の分配を求めることができるようにすべきであるという指摘が一方ではございます。しかしながら,他方で,遺産分割におきまして相続人以外の者の貢献を考慮することにつきましては,相続人以外の者にも一定の範囲で権利行使の機会を付与する必要があるため,実際には評価するに足りる貢献をしていない者が遺産分割手続に参加して遺産の分配を求め,そのために遺産分割に関する紛争が長期化するなど,相続人の利益を不当に害するおそれがあるのではないかといった御指摘もございます。
  このように,相続人以外の者の貢献の考慮につきましても様々な御指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたという次第でございます。
  続きまして,6の「預貯金等の可分債権の取扱い」というところでございます。
  現行法上,預金債権等の可分債権は,相続によって当然に分割され,原則として遺産分割の対象にはならないと解されております。しかしながら,預貯金等の可分債権は,各自の相続分に応じて遺産を分配する際の調整手段としても有用でございまして,これを遺産分割の対象から除外するのは相当ではないのではないかというような御指摘もされているところでございます。こういった点を踏まえまして,検討項目として提示をさせていただきました。
  最後に,7の「遺言」というところでございます。
  この点につきましては,特に具体的な問題点を掲げているものではございませんが,現行の遺言制度,例えば遺言の方式,遺言能力,遺言事項等について見直すべきところがないのかどうか,皆様の御意見を広く賜ることができればと思い,検討項目とさせていただきました。
  そのほか,本日はフリートーキングでございますので,先ほどの7点以外の項目につきましても相続法制について見直しを検討すべき事項がございましたら,御指摘を賜れればと思っております。
  資料の説明につきましては,以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,御意見を承る前に,ただいまの事務当局の御説明につきまして何か御質問がありましたら,お伺いしたいと思います。
  いかがでしょうか。相続法制全般についての説明と,それから,検討課題についての説明を一遍にしていただきましたので,なかなか難しいところもあることはございますが。
○浅田委員 まず確認しておきたいことですけれども,今回は七つの議題に加えて「その他」というものも含まれており,フリートーキングの場としていろいろな提案ができ得るものと理解しております。ただ,時間の制約もあり,例えば業界の中での検討が不十分なものもございまして,本日この場で提案ができない場合もあります。その後の審議の場で,もちろん時期を逸しないようにはいたしますが,御提案を差し上げるかもしれませんけれども,そのときにはよろしく御審議を頂けるかということを確認させていただきたいです。
○堂薗幹事 今回の諮問事項の関係で申し上げますと,まず昭和55年からの社会情勢の変化に対応する必要があるということと,それから法律婚の尊重,あるいは配偶者保護の必要性が高まっているのではないかという観点から諮問がされたという経緯がございます。ただ,昭和55年以来の社会情勢の変化というものの中には,様々なものが含まれてくると思いますので,そういった事項について御提案があるような場合には,御提示いただければ,こちらの方で検討させていただきます。
  その関係で申し上げますと,もちろん今日ということではないんですけれども,できるだけ早い時期に御提案いただけると,事務当局としては助かりますので,よろしくお願いいたします。
○浅田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ほかに質問,いかがでしょうか。
○増田委員 先ほどのお話で, ここに書かれている検討課題にかかわらず,相続関係全般について議論をすることはできるということは理解できましたが,民法以外,例えば手続法である民事訴訟法や家事事件手続法などの改正が必要な分野で,この提案の中に入っている遺留分関係以外についても,議論してよろしいのでしょうか。
  つまり,今回は民法部会ということなので,他の法律には手をつけない,という前提で立法の検討がなされる場合もありますが,今回はそういう制約はないと考えていいのかどうかということをお伺いしたいです。
○堂薗幹事 基本的に諮問事項の関係で言いますと,相続に関する規律についての見直しということになりますので,もちろん民法が中心だとは思いますが,先ほど御指摘がありましたように,例えば遺留分事件については家庭裁判所でできないかというようなところも検討対象に含まれてくると思いますので,相続に関する規律に含まれるものであれば,手続法であっても検討対象にはなり得ると考えております。
○増田委員 相続に関わるもの,遺産の分割に関わる手続ならば構わないということですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 民法(相続関係)部会ということでございますけれども,しかし実体法を変えると手続法に及ぶこともあるので,それを排除する趣旨ではないということですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  では,そのほか御質問,いかがでしょうか。
○潮見委員 確認のための質問をさせてください。
  諮問のところで,堂薗幹事がおっしゃったように,昭和55年以降の社会情勢の変化というのと,それからもう一つの柱で,配偶者の保護の可能性を探るという,この2点を挙げられておりましたが,これは「又は」でつながっているわけでしょうか。
  昭和55年以降の社会情勢の変化については,先般の民法の債権関係に関する改正を巡っても,いろいろな議論があったと思います。そうした中で,債権関係部会では何回か申し上げたのですが,その部会での改正の考え方が相続法制にも及ぶ,あるいは及ぶべきであるという部分が多々ございました。そうした部分についてもここで検討をするに値するということなのでしょうか。債権関係法の改正の方も今いろいろ動いているところがございますから,その動きを見ながら,場合によればそちらについても,それなりの審議をここでしても構わないという御趣旨なのでしょうか。それとも,今回の検討課題に挙げられている部分がむしろメインであって,その部分について主として検討するということなのでしょうか。
  非常に一般的なお尋ねで申し訳ありませんけれども,何かお考えになるようなところがあれば御説明いただければと思います。
○堂薗幹事 それでは,ただいまの点ですが,社会情勢の変化あるいは配偶者の生活への配慮というのは,必ずしも「かつ」でなければならないということではないと理解しております。ただ,社会情勢の変化の例示として,諮問事項の中にも高齢化社会の進展,あるいは家族の在り方に対する国民意識の変化が挙げられてはおりますので,主に考慮すべき事項はこれらのものであろうということは言えると思います。
  それから,その見直しの方向性についても,一応,「配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等」となっておりますので,それに限られるものではないわけですが,相続法制全般について無制限にというところまでは想定されていないように思われます。もっとも,先程も申し上げたとおり,改正すべき点について御指摘いただければ,事務当局の方で検討させていただきたいと考えております。
○潮見委員 今のお答えで了解しました。どうもありがとうございました。
○大村部会長 そのほかは,質問はいかがでございましょうか。
  それでは,また質問がございましたら後で出していただくということも妨げませんので,ここから相続法制の見直しについてのフリーディスカッションに移らせていただきたいと存じます。
  先ほどの事務当局からの御説明を伺うと,資料第1で,第1の「相続法制の見直しにおける基本的な視点」という総論的な事柄と,それから第2の「考えられる検討項目」というのがございます。検討項目は1から7まで具体的な項目が挙がっているものと,今直前に話題になっていました「その他」の点というのがございまして,本日の資料は,大きく分けると三つに分かれるように思います。
  ただ,フリーディスカッションということでございますので,皆様から御自由に,この3点のどれにわたるものであっても結構ですので,御発言を頂きたいと思います。
  なお,細かい技術的な点につきましては,この後,個別の問題に即した形で検討を進めていくということになろうかと思いますけれども,本日は初回でございますので,この先の審議全般に関わるような大きな観点からの御意見を頂ければと思います。これは全体についても,それから個別の論点についても,そのように思っております。委員,幹事,どなたからでも結構でございます。
○中田委員 基本的な視点についての意見というよりも,むしろ御質問になるんですけれども,二つございます。
  一つは社会情勢の変化ということに関しまして,相続開始時点での相続人の高齢化という御指摘がございました。他方で,具体的な検討項目を拝見してみますと,配偶者の貢献ということが一つの重要なテーマになっていると思います。そうしますと婚姻期間の長期化という現象があるのかどうかを,もし分かれば教えていただきたいと思います。
  と申しますのは,一方で高齢化があるわけですが,他方で晩婚化ですとか,あるいは熟年離婚の増加というようなことがありますと,必ずしも婚姻期間の長期化というのがあるのかどうかがよく分からないものですから,そこを教えていただきたいというのが一つです。
  もう一点は,それとも関係するんですけれども,全体を通じて相続債務の問題というのが重要だと思うのですが,それが相続人の高齢化ということと何か関係があるかどうかということです。つまり,若いうちですと住宅ローンなんかを抱えていることがありますが,高齢になってくると,だんだんそういうのが少なくなるというようなことがあるのかどうかです。以上の2点についてお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 それでは,最初の点でございますが,配偶者の貢献の程度につきまして,婚姻期間が長期化しているという統計は把握しておりませんけれども,高齢者の再婚が増加しているというようなところはございまして,特に60歳以上の方の再婚の割合というのは,昭和55年当時と比較しますと,かなり増加しているという統計資料がございます。
  そういった観点から,婚姻形態につきましても様々なものがありますので,昭和55年当時にも議論の対象になりましたけれども,今のように一律に法定相続分で取り分を決めるというようなことがいいのかどうかという辺りは,高齢化との関係でもかなり問題になってくるのではないかという気がいたしております。
  それから,2点目の相続人の高齢化と債務との関係については,申し訳ございませんが,正直なところよく分からないところがございますので,もしこの点について何か御存じの方がいらっしゃるのであれば教えていただきたいなと思っているところでございます。
○大村部会長 中田委員,よろしゅうございますか。
○中田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 社会情勢の変化ということと検討課題の関係に関する御質問だったかと思いますけれども,基本的な視点について,ほかにどなたかございませんでしょうか。今の御発言と関わる形,あるいは関わらない形,どちらでも結構です。
○山田委員 昭和55年当時も,既に高齢化社会へ向かってということで,かなり当時,議論があったかと思います。この改正時に想定していた家族像と,今般,先ほど再婚が増えたというお話がございましたけれども,それに加えて何か大きな変化があるということかどうか,55年当時に2分の1に引き上げた際に想定していた家族像について,分かる範囲でお話を伺えればと思っております。
○堂薗幹事 現行法は,全ての事案について法定相続分は一律に定められておりますので,配偶者の法定相続分を定めるに当たっては,恐らく典型的な家族モデルというのを想定して,それを前提に決めているということはあるんだろうと思います。
  実は昭和55年当時も,婚姻期間によって配偶者の貢献がかなり異なることから,婚姻期間によって法定相続分の割合を変えることが検討されました。その当時の部会資料などを見ますと,婚姻期間が20年を超えるようなものについて現行と同じく法定相続分を2分の1にするという案も提案されておりますので,現行の配偶者の法定相続分は,やはり婚姻期間が相当長期間に及ぶ場合を想定して定められたのではないかという推測がされるところでございます。
  ただ,それからかなり家族も多様化して,いろいろなパターンがある中で,現行のままでいいのかどうかというところが正に今問われているのかなと認識しているところでございます。
○山田委員 ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにこの三十数年の間の社会の変化といったことについて,この際,発言をしておきたいという委員や幹事,いらっしゃいませんでしょうか。
○南部委員 55年以降の家族情勢というのは,かなり変わっていると考えております。配偶者の居住権の保護というのは,この間の変化を踏まえると必要かなとは考えます。しかし,現在,家族の在り方というのはかなり変わってきておりまして,配偶者だけに今回限定されて検討されるのかどうかというのが質問です。例えば今,話題になっております同性婚であったり,事実婚に対して,どのように考えていくかということも含めた議論を,今後この場でするのかどうかというのが1点目の質問でございます。
  もう一つ,今マイクを持たせていただいたので,よろしいでしょうか。
  配偶者の貢献に応じた遺産分割についてという項がございます。実際どれくらいのニーズがあるか,救済すべき事例はどれくらいあるのかということを,今日でなくて次回で結構ですので,具体的にデータなどが示せたらお出しいただきたいということでございます。
○堂薗幹事 まず,第1点目でございますが,当然,配偶者の保護を図るという観点から仮に見直しをいたしますと,当然,事実婚の場合はどうなるんだという議論は出てくるんだろうと思います。そういった意味で,この場でそういった点を含めて御議論いただくことになるんだろうと考えておりますが,他方で,この諮問事項にもありますとおり,「配偶者の生活への配慮等の観点から」という,この「配偶者」は法律上婚姻している者を予定しているというところはあると思います。
  それから,配偶者の貢献に応じた遺産分割実現に関して,統計上の根拠をお示しするのは難しいところがあるんですけれども,そういった観点から何か御説明できることがないかどうかという点については,引き続き検討したいと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。そのほか,いかがでしょうか。
○潮見委員 最初ですから,御検討いただけるのであればというお願いです。
  遺留分のところですけれども,今回の検討課題のところの文章にしても,先ほど増田さんがおっしゃられたような部分もありますと同時に,今の遺留分制度というのは,基本的に現物返還というものが原則になっていて,価額賠償あるいは価額返還というのは例外というスキームになっているのですが,果たしてそういうスキーム自体がいいのか。遺留分の減殺請求権あるいは遺留分自体の価値権化という考え方は前からございますし,私自身もそういう方向がある意味では正しい方向ではないのかとも思っているところがあります。
  それはともかくとして,そうした観点からの捉え方が今回の配偶者の保護等との関係でどういうふうに枠付けられてくるのかとか,あるいはそれが望ましい方向なのか,あるいは現状の形がまだなお維持されるべきなのか,さらにそれが手続法的な側面でどういうふうに影響を及ぼしてくるのかといったような観点から,法務省事務当局におかれましても少し整理をしていただければ有り難いところです。要するに,現物返還,原状回復それ自体を所与のものとして考えるのではないという方向で,検討いただきたいというお願いです。
○大村部会長 御意見,御要望として承りました。
  そのほかに,いかがでございましょうか。
○増田委員 要望なんですが,比較法的見地からの検討も必要だと思いますので,事務当局のほうで,できれば諸外国の相続制度について資料を作ってお教えいただければ,大変有り難いと思います。
○堂薗幹事 次回から個別の論点に入っていければと考えておりますが,その際には,できる範囲で参考になりそうな外国法制などについても御紹介できればとは思っております。
  ただ何分,外国法制については我々は非常に不得手な部分がございますので,先生方にもいろいろ教えていただきながら,御議論させていただければと思いますので,よろしくお願いいたします。
○大村部会長 比較法的な資料を可能な範囲で準備いただけるということでございますけれども,ほかにはいかがでございましょうか。
○八木委員 ちょっと卑近な話になりますけれども,昨年来の事件といいますか,社会問題としては,一つはいわゆる後妻業と言われておりますけれども,金持ちの高齢者を狙って結婚して,それで遺産の大部分を持っていくと,こういうのが一つです。
  これはワーキングチームで検討した配偶者の貢献をどう評価するのかという部分で一応解決ができるかもしれませんけれども,この辺り,一からまたここで検討していただくことになるかと思います。もう一つは,これまたここのところ問題になっているのは,高齢者の養子縁組ですね。これまたお金持ちの,どちらかというと身寄りのない方を狙った形で,しかも認知症及び認知症の寸前ぐらいのそういう意思能力を持った方を狙った形で養子縁組をして,その財産を持っていく。こういうのも社会問題になっているようであります。
  この辺り,国民の多くが関心があると思いますので,この辺もワーキングチームの検討課題にはなってなかったと思いますので,この辺も押さえていただければと思っています。
○堂薗幹事 今の点も恐らく高齢者の再婚と同じように,現行の配偶者の法定相続分が婚姻期間の長短にかかわらず2分の1となっていることに伴う問題点だろうと思いますので,御指摘の点を含めて検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。
○浅田委員 最初ですから,全般的な意見を申し上げたいと思います。
  私は銀行界におるものですが,この部会委員の中には他に経済団体の委員はいないという理解です。その立場,視点から一言お話し申し上げたいと思います。
  相続法制については,主には,市民社会,国民社会として法制度がどうあるべきなのかという観点から議論されるべき問題だと思います。
  一方で,例えば私ども銀行でありますと,相続に際しては金融商品,預金という相続財産の重要な部分を占める資産をお預かりしている立場でございます。また,最近においては遺言信託など資産づくりのお手伝いや助言をしているという立場でもございます。また,信託併営業務のいては遺言執行者になるという場合もございます。加えて,例えば個人様宛てに住宅ローンとかの取組をすることもございまして,そうした場合には,私どもは相続人に対する債権者としての立場も有することもございます。
  こうした場合に相続財産,積極財産と消極財産の両方含みますけれども,それの帰趨については,銀行は非常に大きな関心を持っているということでございます。私どもとしては,その帰趨に非常に大きな関心を持っているのに加えて,その内容がどういうふうに確定するのかということにも非常に関心を持つということでございます。
  またその確定の過程において,今回,事務局説明にもありましたように,紛争が長期化,複雑化するということになりますと,つれて取引相手方,例えば銀行にも,その紛争につき合っていかなければならないという状況も生じるわけであります。典型的な例としては,預金の帰属を巡る紛争というのは,日常茶飯事のものです。
  今回の提案を見ますと,配偶者を含めて,いろいろな関係者の利害関係をどちらかというと柔軟に設計していこうと看て取れるわけでありますけれども,その設計においては,取引相手方に対する配慮,権利関係がどう確定するのか,どう確知できるのかということも御配慮いただければと思うわけでございます。
  加えて,今回の提案の中で第2の6「預貯金等の可分債権の取扱い」は,銀行としても非常に関心のある提案項目でございます。
  この点につきましては,業界の中でもまだ議論は十分でございませんので,この場で賛成,反対とかいう意見を申し上げる段階にはございません。ただ,先ほど触れましたとおり,預金をめぐる紛争というのは多いわけでありまして,その中でやはり当然,遺産分割協議をしていても預金は分割承継であるということから来る紛争というのもありますので,この提案というのは非常に私どもとしては関心があると思っています。
  考えてみますに,御案内のとおり,個人向け国債,投資信託,一部の郵便貯金について,不分割債権であるというようなことが判例上言われています。預金に関しては,その性質については一部先ほどの債権法改正の審議で議論されたということもありますので,その点も見ながら,預金の性質,また相続に関する取扱いということも,本席で御議論いただければと思います。
  長くなりましたけれども,以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。御意見,重要な点だと思います。承りました。
  先ほど中田委員からも債務の問題についての御発言がありましたけれども,相続財産中の債務債権双方について検討が必要であるという御趣旨かと思いますが,事務局の方から何かありますか。
○堂薗幹事 御指摘のとおり,昭和55年の際にも,婚姻期間で法定相続分を分けるという考え方について議論がされましたが,その際には,対債権者との関係で非常に困難な問題が生じるということから断念したという経緯がございますので,債権者との関係で法律関係を明確にするという観点は,この手の見直しをするに当たって非常に重要なところだろうと思います。
  それから,預金債権の取扱いにつきましても,例えば仮にこの「6」で書いてあるような方向で見直しをする場合には,遺産分割までの間の法律関係がどうなるのか,個々の相続人による処分といいますか,預金の引出しを認めるのかどうかという辺りを含めて,慎重に検討する必要があると思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
 そのほか御意見,いかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 東北大学の水野でございます。
  先ほど外国法との比較,相続法について比較をという御意見がありましたけれども,比較をするときの難しさを,一言だけ家族法学者の観点から申し上げたいと思います。
  つまり,相続法という小さな,小さなというと語弊がありますね,すごく大きな枠ではありますが,でも相続法という枠だけで比較しますと,間違ってしまうリスクがございます。つまり,家族法全体を通してみる必要があると思います。先ほど八木委員から後妻業があるというお話がありましたけれども,それも日本法ゆえというところがございます。日本の家族法は明治民法の家制度を引き継いでおります。そして,これは非常に特殊な家族法でございまして,家の自治を最大限に認める形で設計されておりました。つまり婚姻とか養子縁組は,言わば家のメンバーの家同士のやり取りでございまして,そのやり取りは極端な私的自治,家の自由にまかせて,単にそれを届け出るだけという形になっておりました。そして,それは戦後の改正でも,家の自治が当事者の自治に変わっただけで,基本的に変わっておりません。もちろん家制度を廃止はいたしましたけれども,そういう我が国の家族法の基本的な特徴を維持したまま,最低限の改正をしただけです。外国の場合には,婚姻の手続にしろ養子縁組の手続にしろ,もっとはるかに重い手続で,それを日本は届出だけでできるという問題があります。
  それから,特別受益を考えるときにも贈与などが問題になるわけですが,贈与であるとかあるいは遺言の場合もそうですけれども,日本では,まったく私的に行われるのが前提です。日本法の基になったフランス法の場合には公証人,ドイツ法の場合には公証人ではなくて相続裁判所などの公的な機関が関わります。フランスの場合ですと公証人がこの特別受益の贈与にも,あるいは夫婦財産制にも関わり,それから遺産分割に当たっても,不動産があったり遺言があったりする場合には,必ず公証人が関わるということになっております。つまり基本的に,日本のようにもめない遺産分割は全部私的自治に任されているという制度にはなっておりません。
  日本で特別受益を主張しますと,相続人すべてが過去にさかのぼって主張をはじめて何が特別受益に当たるかという争いから,すさまじい紛争になってしまいますが,母法のフランスでは,贈与も全部,公証人のところで把握できておりますので,特別受益の計算も,そういうことにならずに機械的に行われるという仕組みになっています。
  そういうふうに公証人慣行が関わる,あるいは裁判所が関わるという重い手続で,夫婦財産制についても事前の関与があり,要所要所が押さえられた結果,夫婦の間のことは夫婦財産制の精算で決着がついて,被相続人個人の財産について遺産分割することになりますが,日本ではその辺りのことが全部まとめて相続紛争となり,そうなった相続の場合には非常に決着が難しいことになっております。
  ただ,人間の身体が複雑系であるのと同じように社会も複雑系ですので,日本の場合にも,何らかのそのような不備を補完するようなものが働いていて,それは例えば私の僅かに知る範囲ですと戸籍のシステムであるとか,あるいは住民登録,それに印鑑証明などで個人の本人意思の確認がかなりしやすい仕組みが出来上がっていて,そういうものに依存する形で相続が運営され,相続財産取引なども行われてきたのだろうと思います。
  もっとも,戦後の改正が家督相続から共同相続に変わったにもかかわらず,それに必要な様々な手続を手当しておりませんでしたので,よくこんなぼろぼろの形で戦後70年間もやれてきたというような相続法の実情であることは確かです。
  申し上げたいのは,相続法の外国法との比較といったときに,相当に構造的な,様々な日本固有の問題を抱えておりますので,そういうものについての目配りもしながら今回の議論をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。関連する制度を見ながら,実質的に比較せよという御指摘かと思います。
  そのほかには,いかがでございましょうか。初回でございますので,是非,検討のための様々な観点,あるいは要検討事項をお挙げいただければと思います。今,検討事項として挙がっているものについての検討の視点も御指摘いただければと思います。いかがでございましょうか。
○沖野委員 検討の視点ではなくて,むしろ範囲についての質問事項です。配偶者の保護であるのか,実質に応じた対応であるのか,その定式化はともあれ,その財産関係に関連するとなりますと,夫婦財産制の在り方ですとか財産分与をどうするかという問題と密接に絡んでくると思います。夫婦財産制や財産分与は,所与のものとして考えていくのか,それとも,それらについても見直しの余地はあると考えてよろしいのかというのが範囲の問題です。
  それから,ちょっと個別の問題かもしれませんし,浅田委員の御指摘で大分分かってきたところもあるんですけれども,一方でのキーワードは多様性とそれに応じた柔軟性,あるいは具体性,具体的な考慮ということかと思うんですが,常にそこにはそれに伴う紛争の多発や複雑化,長期化,あるいは証明等の困難ということが指摘されていて,さらに幾つかの項目については,結果に対する予測可能性の低下ということも挙げられています。そして,特に最後の予測可能性という点なんですけれども,関係者全員にとって予測可能性という問題はあると思うんですが,取り分け誰の予測可能性をこの分野は問題にすべきなんだろうかというのが,あるいは財産法の場合とは違ってきたり,個別の問題で違ってくる面があるかと思いますので,現時点でこのような整理だということがあれば教えていただければと思います。もちろん,むしろそれ自体を検討していくべきだということかとは思います。
  繰り返しですが,先ほど浅田委員から債権者の視点とあるいは対第三者の視点ということがあるというのを御指摘いただきましたので,一部疑問は氷解しております。
○堂薗幹事 まず,夫婦財産制との関係でございますが,当然配偶者の法定相続分などについて検討する際には,夫婦財産制との関係というのは非常に密接に関わってきますので,そこをどう整理するのかという辺りは,この諮問事項にも含まれ得るのではないかと思います。
  例えばでございますが,死別による婚姻関係の終了の場合にも,別産制自体は維持しながら,財産分与と同じように相続の前に夫婦財産を清算する手続を設けるべきであるという御指摘もされているところでございますが,そのような見直しは,要するに相続の対象となる範囲を現行法よりも狭めて,その前の段階で,相続とは別の清算手続を設けるということになるわけでございますけれども,現行法を前提としますと,やはり相続に関する規律の変更ということになると思います。したがって,そういった意味で,夫婦財産制につきましても,正に相続に関する規律の見直しと言えるものについては,検討対象に含まれ得るというのが,一応こちらの理解でございます。
  それから,御指摘いただきました家族形態の多様性とそれに応じた柔軟性の問題と,紛争の複雑化,長期化,あるいは予測可能性の問題,これは正に二律背反のところがございますので,ここをどういう形で調整するのか,どこでバランスをとるのかというのが今回の見直しの最も難しいところであり,重要なところではないかとこちらでも認識しているところでございます。
  相続の場面では,誰にとっての予測可能性を重視すべきかという点については,こちらでは全く定見もございませんので,その点についても御議論を頂ければと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  ほかの御意見,いただけますでしょうか。
○水野(紀)委員 先ほど申し上げるべきことだったように思うんですが,今の沖野委員の御発言で,一言また付け足したいことを思い出しました。
  先ほど申し上げた大体重い手続になっていると申し上げたものの一つは,被相続人が取引社会の中で取引の主体として様々な活動をしておりまして,責任財産を持ってそれに応じて,債権者たちと取引をしているわけですけれども,その主体が消えてしまうということになりますと,その主体の喪失について何らかの整理が必要になります。それは,我々の市民社会の中では非常に必要な作業ですし,それにふさわしい一定の手続が諸外国の場合には組まれているのですが,日本の場合には,先ほど申しましたけれども,家督相続でございましたので,その主体が自動的に次の一人に1対1に引き継がれるということで,かなりその手間を省いても余り困らないということがございました。
  その結果,この部分が非常に後れておりまして,言わば放置されたまま何十年もたっているというふうなことがございます。それは,第三者が絡んできたときには,その途端に銀行業界などにも御苦労を掛けているわけですが,難しいことになるんですが,そうではなくて紛争が生じない限り長々とそのままになっていて,私の大学は被災地にございますけれども,今度の大震災でたくさんの被災地の整理をしなければならないということになりますと,その土地の1筆の土地に一体何十人,何百人の方々の承諾を得なければならないのかということで,非常に現場も困るということになっております。
  そういうふうに,ずっと放置されている限り,いつまでも遺産分割がはっきりしないというふうな形で回ってきてしまったという日本の相続法の戦後の改正の問題点というのも,これも構造的な問題の一つでございます。
  家族法学会,学説自体,相続財産の議論をするときに,誰にどれだけ取らせるかというふうな形の議論は比較的進んでやってまいりましたけれども,その相続の清算の過程について,いかにしてこれを素早くきれいにし,第三者に対する関係でも安定したものにするかという観点からの研究というのは比較的後れていたように思います。
  そういう意味では,家族法学者たち,民法学者たちの力不足を,この部会でいろいろと御迷惑を掛けることになるのかなという気がいたしますけれども,そういう問題も抱えておりますということを申し上げたいと思います。
  民法の先生方が異論がおありでしたら,どうぞ御訂正ください。
○大村部会長 ありがとうございました。民法の先生方に限りませんが,皆さん何かございましたら,御発言を頂きたいと思います。
  今,手続に関するお話がございましたけれども,手続法関係の御専門の方も少なからずいらっしゃると思いますが,何かこういう点に注意すべきだといった御指摘がもしこの段階でございましたら,伺えればと思いますが,いかがでしょうか。
  ほかに御発言ございませんでしょうか。事務局のほうでは,こういう点について伺っておきたいというようなことはありませんか。
○堂薗幹事 この資料では,遺言については,具体的な見直しの方向性を示すことができておりません。現行の遺言制度がどの程度利用されているかという点につきまして明確な統計はないんですけれども,公正証書遺言の作成件数ですとか,あるいは遺言の検認手続の件数などを見ましても,やはり全体の相続に占める遺言相続の割合というのは,まだかなり低いというところがございまして,そういった観点から,もう少し遺言相続が増えるようにすべきではないかという御指摘もございます。
  他方,遺言による相続が増えますと,今度は遺言能力についての争いというのが増える可能性もございますので,遺言能力に関する争いはなるべく生じないようにしながら,遺言相続が増えるような方策はないかと,こちらでも考えてはいるんですが,なかなか妙案がない状況でございます。
  このような観点から,遺言制度の見直しについて何か御意見やご示唆をいただけると,大変助かりますが,何かございますでしょうか。
○窪田委員 遺言そのものが増えるほうがいいのか,そうではないのか,それはやはりよく分からないところがあるだろうと思います。遺言という制度を知らないので利用しないわけではなくて,遺言というのが場合によってはかえって紛争を巻き起こすということがあるからこそ,法定相続に委ねるという選択もあるのだろうと思います。
  その意味では,遺言全般を全部見直すかどうかというのは所与の問題として扱う必要はないと思いますが,ただ,今回の扱う材料との関係で言いますと,ある種の遺言に関しては少し検討を加えた方がいいのではないかもしれないと考えています。
  具体的には後継ぎ遺贈と呼ばれる領域です。後継ぎ遺贈に関しましては,そういった将来の所有権の帰属について,処分することができるのかどうなのかといった抽象的な議論もあるのですが,恐らくは生存中,配偶者に居住権を与えるという一つの方策として使われてきたという側面もあると思います。そうだとすると,今回の相続制度の見直しとの関係では,ある種,目的を共通にするような部分もある。そうだとすると,そうした遺言について一定の手当をする,どのような場合に,どのような範囲で有効とするのかといった点は,検討の対象になるのかなと思います。
  その上で,恐らく先ほどからちょっと出ていた点にも関わることですし,また,どこまで範囲を広げるのかについては難しい部分があるだろうと思いますが,恐らく信託との関係についても,その点ではやはり全く検討せずには済まないだろうなという気がいたしております。限られた範囲でということにはなりますが,そうした点は検討対象になるのかなと感じている次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  沖野委員からも手が挙がっていたと思いますので,続けてお願いいたします。
○沖野委員 遺言に関してなんですけれども,今回の諮問の問題意識というのを十分に理解していないところがありますので,それからはずれるのかもしれませんが,遺言自体については,現行法の下で一体何が遺言でできるのかということが非常に不透明であると感じております。窪田委員のおっしゃった後継ぎ遺贈もそうですし,先ほど例えば債務の関係ですとか,あるいは主体の消滅に伴う清算ということを考えたときに,例えば遺言でこの財産を売却して,そうして弁済をして,それから分けるというような形ですとか,あるいは単純に売却して分けるようにというような遺言というのは,恐らく現在もあるのではないかと理解しておりますし,遺言執行者が付いていれば遺言執行者がやるということになるんですけれども,そもそもなぜそんなことができるのか,例えば売却せよというような遺言ができるのかということを,改めて考えると,なぜできるのかがよく分からないということがあります。財産処分の範疇として何でもできるのであれば,どのような処分もできるのかもしれません。オプションを与えるということなのかもしれません。大元から現行法の下で一体どういうことができるのかと,それがまたどういうことが必要であるのかというのと,両方は絡んでいるんだと思うのですけれども,なかなか制度的な根拠も十分でないまま動いているというところがあちこちにあるように思われます。
  そういったもののうちどこまでを今回対象とするのかという,その線引きが,私自身ちょっとよく分からないところがあります。言い出したら切りがないというところもありまして,遺言執行者の権限だとか,その地位というのを改めて考え直す必要もあるように思います。そういったことを言っていくと,どんどん相続法のいろいろなところを検討していく必要が出てくると思うのですけれども,今回の検討対象とすべき問題としては,様々に波及的に検討課題が生じうる中で,諮問事項の問題意識によってどこで線を引くのかということだとは思うんですけれども。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。遺言事項の明確化という点も,遺言をもう少し積極的に活用すべきだという方向で考えるのであれば,それに資する面があろうかと思いますので,そういった点も含めて,検討させていただきたいと思います。
  どうもありがとうございました。
○沖野委員 先ほどの発言の補足を少しだけさせてください。遺言の活性化自体が,それ自体追求すべき価値なのかどうかということは分からないんですけれども,他方で多様な家族関係に対応するということの一つの方策はあるいは遺言ということかもしれない。ただ,遺言者の濫用ということもあり得ますので,それを抑えながらだということだと思いますけれども,そういう観点から,遺言の手法の一定の活用ということはあるのかと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 制度の見直しにおいては,立法事実の確認が必要だとは思います。その点私はデータ等は持ち合わせておりませんが,日頃銀行実務で経験して感じたことをお話し申し上げますと,特に自筆証書遺言に関してはトラブルが多いということでございます。後日,その有効性をめぐって紛争に発展するのは日常的なことかと思っております。
  紛争の原因には,もちろん遺言能力とか,そういう根本的な議論もありますけれども,一つ気付きますのは,遺言には一定の方式を整えなければならない。方式違背の場合には無効になる懸念があるということであります。例えば日付の記入漏れであるとか,一部パソコンで作ったとか,押印漏れだとかいうことの例に接することが多いわけです。もちろん偽造防止の観点から言ってこれは確保しなければならないということもあるわけですけれども,ただ,このようなパソコンがはやっている時代において,それが必須なのかどうかということは疑問に思うことがあります。
  リテラシーの向上で対応すべきということもあるかもしれませんけれども,常識に照らして,これでいいと思ったものが形式要件の点で後に引っくり返される懸念があり,そのときにはその当人はいないという状況にも鑑みれば,遺言の形式要件については今一度見直したほうがいいのかなとは思います。
  次に,公正証書遺言に関しても,これはもちろん公証人の関与の下,作成されるものですから,法的安定性があると一般的には思われているところでありますけれども,これも例は少ないながら,やはり紛争が生じることがあります。遺言能力をめぐる紛争が後日起こるということもあるわけでございます。
  これは私が考えるに,遺言作成上の運用ということもあるのかもしれないなと思っております。原則どおりの遺言者が口授をして,公証人が作成して,それを遺言者に読み聞かせるというプロセスを経ているというものであれば,その遺言能力が問われる,疑問に思われるということは,遺言の作成時に遺言者がそういうことができたわけですから,事実上ないのかなとは思います。一方で,そういう事例があると仄聞するのですけれども,なかなかそういうことができない高齢の方については,一定の書面をあらかじめ用意して事実上それを口授したという形にして,公証人が読み聞かせ,それに遺言者が「はい」と言って,それで遺言が作成されるというようなことも運用として行われているやに聞いております。こうした場合においては,特に遺言能力をめぐる紛争が多いのかなと思っております。
  公証人が関与して作成した遺言については遺言能力についてチャレンジする場合の要件を厳しくするとか,ないしは有効とみなすとか,さらには銀行に関していえば免責の要件を低めるとか,いろいろなやり方はあるとは思いますけれども,公正証書遺言という一定の方式のものであれば,法的安定性が維持されるような運用制度というのが望まれると思います。
○大村部会長 ありがとうございました。遺言につきましては,今回の具体的な検討課題との関係でも問題になるのではないかというのが窪田委員からの御発言だったかと思います。複数の委員が御指摘になっているかと思いますけれども,柔軟な多様な選択肢をあつらえるということになりますと,それに伴って不安定さが出でくる。遺言についてもそうした不安定さの解消が求められるのではないかという御意見を伺ったと思います。
  そのほか,いかがでございましょうか。
  様々な要請に応えることになると,制度は複雑になってトラブルが増える可能性がある。ならば,こういうトラブルを塞いでおいたら,よりよい制度少になるのではないかということも,それぞれの場面で皆さまお感じになっているのではないかと思いますけれども,そのような御指摘もあれば承りたいと思います。
  他にご発言がなければ,今日のところは,この辺りでよろしいでしょうか。
  本日頂いた意見につきましては事務局の方で検討していただき,次回以降の審議に反映させていただけるかと思います。
  また,今後の審議の中で御意見,あるいは御疑問等も生ずることがあろうかと思いますけれども,そうしたものにつきましては審議会の席上はもちろんですが,あるいは事務局宛に個別にもご連絡を頂ければと思っております。
  ほかに,何かございますでしょうか。
  では,本日はこの程度にさせていただきたいと存じます。
  最後になりますけれども,事務当局に次回の議事日程等についての御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 それでは,ありがとうございました。
  次回の議事日程でございますが,次回は5月19日火曜日の午後1時半から5時半までを予定してございます。場所は本日と同じ20階の第1会議室でございます。
  次回の議題は「生存配偶者の居住権を法律上保護するための措置」を今のところ予定しております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 それでは,民法(相続関係)部会を閉会させていただきます。
  本日は御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第2回会議 議事録


第1 日 時  平成27年5月19日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時17分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,予定の時刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第2回会合を開催いたします。
  議事に入ります前に,本日初出席の委員がおられますので,自己紹介をお願いしたいと存じます。
  上西委員,お願いいたします。
○上西委員 税理士の上西でございます。日本税理士会連合会の常務理事をしております。よろしくお願いいたします。
○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。
  それでは,本日の配布資料をまず事務局の方で確認していただきたいと存じます。
○大塚関係官 法務省民事局付の大塚でございます。
  まず,資料につきまして,御確認をお願いいたしたいと存じます。
  まず一つ目が,両面で13ページの右肩に資料2と書いてあります,「相続法制の見直しに当たっての検討課題(1)」でございます。後ほど,これにつきまして,主なところを御説明いたします。それから,机上に配布させていただいております緑のファイルは,各国の相続法制についての調査研究をまとめた「各国の相続法制に関する調査研究業務報告書」でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  では,資料2に基づいて,説明の方をお願いいたします。
○大塚関係官 最初に御紹介いたしました資料2の内容につきまして,主なところを御説明いたします。
  第1の「問題の所在等」からですけれども,配偶者の一方が死亡した場合でも,他方の配偶者は,それまで居住してきた建物に引き続き居住することを希望するのが通常と考えられます。特に,相続人である他方の配偶者が高齢者であるような場合には,住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を立ち上げるということは,精神的にも,肉体的にも大きな負担となると考えられますことから,高齢化社会の進展に伴って,このような居住権,つまり居住建物の使用を認めることを内容とする権利を保護する必要性は,高まっているのではないかと考えられるところでございます。
  このような相続に伴う居住権の保護に関しましては,平成8年12月17日の最高裁判決ございまして,その内容は,共同相続人の一人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居をしていたときは,特段の事情のない限り,被相続人と当該相続人との間で,相続開始時を始期とし,遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認されるというものでございました。この判例によりますと,この要件に該当する限りは,相続人である配偶者は遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権が確保されるということになります。
  ただ,この判例法理は,飽くまでも当事者間の合理的意思解釈に基づくものであるため,被相続人が明確にこれとは異なる意思を表示していた場合には,保護の対象とされないという事態が生じ得ることになります。
  また,国民の平均寿命が延びたことにより,被相続人の死亡後も,配偶者が長期間,生活を継続するということも少なくないように思われます。このような現状を踏まえますと,生活保障を強化する観点からは,配偶者が住み慣れた居住環境での生活を継続したいと希望される場合に,その意向に沿った遺産の分配を実現するための方策につきましても検討が必要と考えられます。
  現行法の下におきまして,そのような希望に沿う方策を考えた場合には,配偶者がその建物の所有権を取得するか,あるいは所有権を取得したほかの相続人との間で賃貸借契約などを締結するということが考えられるところではございますが,前者の所有権を取得するという方法を採った場合には,評価額が高額となって,配偶者がそれ以外の遺産を取得することができなくなり,その後の生活に支障を来すという場合も生じ得ます。また,後者である賃貸借契約を締結しようとしても,例えば相手との折り合いがつかなくて契約成立に至らないということになりますと,やはり居住権は確保されないということになります。
  このような問題の所在を踏まえまして,今回は配偶者の居住権を法律上,保護するための措置として,遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権と遺産分割終了後の長期的な居住権につきまして,それぞれ検討をしております。これら二つの方策につきましては,内容的に両立しますので,両方併せて採用するということも可能でございます。
  まず,第2の遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権,短期居住権につきましては,  次のような方策を講ずることが考えられます。
  2ページの①から順に読んでまいりますが,配偶者は,相続開始のときに遺産に属する建物に居住をしていた場合には,遺産分割が終了するまでの間,引き続き無償でその建物を使用することができる。
  ②,この短期居住権を取得したことによって得た利益については,配偶者が遺産分割において取得すべき財産の額(具体的相続分額)には含めない。これはつまり,短期居住権は相続における配偶者の取り分とは別個に与えられるという位置付けでございます。
  ③ですが,①のような場合には,被相続人が遺言等で配偶者以外の者に,その建物を取得させる旨定めていたときであっても,配偶者は一定期間,例えば1年間は無償でその建物を使用することができる。
  ④,配偶者は,短期居住権を第三者に譲り渡し,又は建物を転貸することはできない。
  ⑤として,短期居住権は,その存続期間の満了前であっても,配偶者が建物の占有を喪失し,又は配偶者が死亡した場合には消滅すると,このような方策を考えておるところでございます。
  この「基本的な考え方」についてですが,この方策は,最高裁の判例ですとか,あるいはフランス法を参考にして,相続開始から遺産分割終了までの比較的短期間につき,配偶者がその居住建物に無償で居住するということを認めることとするものでございます。
  先ほど御説明した判例では,被相続人がその配偶者との間で使用貸借契約を結ぶ意思を有していなかったことが明らかな場合には,居住権は保護されないということになりますが,この方策によりますと,このような場合であっても,一定期間は居住権が保護されるということになります。
  少し飛びまして,3ページ目の「検討課題」,「法的性質等」に移らせていただきます。
  短期居住権を有する配偶者は,法定の期間,無償でその居住建物を使用する権利を有しますけれども,その法的性質をどのように位置付けるかということにつきましては,大きく二つ,法定の債権,これは法定の使用借権等が考えられますが,このような構成,あるいは新たな用益物権とすることが考えられるところでございます。
  この方策は,配偶者の居住権保護の観点から,③のように,被相続人が配偶者に短期居住権を取得させる意思を有していなかったことが遺言等によって明らかである場合にも,当然に一定期間の短期居住権を配偶者が取得することとし,その点については強行法規性を持たせるということとしております。その場合,いかなる根拠でそれを認めるのかということが問題となりますが,考えられる説明といたしましては,配偶者双方,例えばAさんとBさんが相互に同居・協力・扶助義務を負っており,この義務が一方の配偶者,例えばAさんの死亡によって消滅するものの,このAさんは,自らの死亡後に,他方の配偶者であるBさんが直ちに建物からの退去を求められるような事態が生ずることがないように配慮をすべき義務を負うと,このように解することが可能と考えられ,このような観点から,被相続人であるAさんの財産処分権に一定の制約を課すということが是認されるのではないかと,このような説明が考えられるところでございます。
  他方,短期居住権は,配偶者に一身専属的に帰属するものとし,他人に譲渡することはできず,配偶者の死亡によって消滅することとしております。
  次の(2)の配偶者の具体的相続分との関係につきましては,結論的に②で御紹介したとおり,短期居住権は相続における配偶者の取り分とは別個に与えられることとしております。
  次のページにある(3)の短期居住権の取得要件についてでございますけれども,先ほど紹介しました判例は,使用貸借契約を推認する要件として,共同相続人の一人が「被相続人の許諾を得て建物に同居していたこと」を挙げております。これに対しまして,今回の短期居住権というものは,被相続人の意思に反する場合にも配偶者の居住権を保護するということとしておりますため,必ずしも,短期居住権の取得要件として被相続人の許諾を得ていたということを要求する必要はないように考えられます。
  また,例えば,被相続人が自宅から離れた所で単身赴任をしていたため,相続開始時には配偶者が被相続人と同居をしていなかったという場合についても,配偶者の居住権保護の必要性は,同居していた場合とさほど変わりはないと考えられるところでございます。
  そこで,①では,短期居住権の取得要件としては,「相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた場合」としまして,被相続人の許諾を得ていたことですとか,あるいは被相続人と同居していたということまでは要件としておりません。
  次に,イの「短期居住権の存続要件について」でございますが,相続が開始した時点で,①の要件を満たしていた場合であっても,配偶者がその後自らその居住建物から退去した場合についてまで,あえて特別の保護を付与する必要性までは認め難いと考えられますことから,⑤のとおり,居住建物の占有の継続を存続要件としております。
  次に,4ページ(4)の効力等ですけれども,短期居住権の法的性質をどのように見るかにもよるところではございますが,いずれにしても短期居住権は法定の権利ですので,その権利義務の内容は法定するという必要がございます。具体的には,居住建物について,配偶者に無償での使用権限を認める一方で,居住建物の使用や保管について,配偶者に善管注意義務を負わせるということが考えられるところでございます。
  他方で,所有者側につきましては,仮に短期居住権の法的性質を用益物権と見た場合,居住建物の所有者である各相続人に配偶者に対する義務を認めるのは,なかなか困難ではないかとも考えられるところでございます。これに対して,法定の債権と見た場合には,配偶者に対する義務の内容をどのように定めるかが問題となります。この点につきましては,配偶者が無償で建物を使用することなどに鑑みて,使用貸借の貸主と同じように,所有者は修繕義務などは負わずに,基本的には,所有者は配偶者による居住建物の使用を受忍すれば足りるとすることが考えられるところでございます。
  また,短期居住権は,飽くまでも配偶者の短期的な居住の利益を確保することを目的としておりますので,短期居住権を有する配偶者に居住建物の収益権限を付与するということまでは想定をしておりません。
  この下の(注)について簡潔に触れますが,公租公課につきましては,短期居住権の存続期間中は所有者ではなくて,実際に建物を使用する配偶者が固定資産税などを負担するのが相当ではないかと考えているところでございます。
  次に,イの存続期間につきましては,①でも触れましたとおり,相続開始時から遺産分割の終了までの間としております。
  また,被相続人が相続させる旨の遺言などによりまして,配偶者以外の者に居住建物を取得させる旨,定めておったという場合には,居住建物について遺産分割を行う必要がないということになります。そうしますと,短期居住権が遺産分割終了までの権利だとしますと,この場合は配偶者が短期居住権を取得する余地がないということになってしまいかねませんので,その対策として,③で述べましたとおり,このような場合にも一定期間,例えば1年間については,配偶者に短期居住権を付与することとしております。
  他方で,当該建物の帰属を含めた遺産分割の協議が長期間に及んだ場合には,その間も配偶者が無償で住み続けられることになりますため,例えば配偶者が遺産分割の協議をあえて引き延ばすなどした場合には,他の相続人の利益を不当に害することになるおそれがあるところでございます。
  そこで,短期居住権の存続期間については,上限を設けることにつき検討が必要と考えられるところでございます。
  次に,ウの「第三者対抗力について」ですが,短期居住権にこのような対抗力を付与する必要性があるかどうかは,やや疑問もあるところではございますが,仮にこの後紹介します長期居住権について占有を第三者対抗要件としますと,短期居住権についても同様に居住建物の占有を第三者対抗要件とすることが考えられます。
  ただ,短期居住権について第三者対抗力を付与することとしますと,配偶者は被相続人の死亡と同時に短期居住権の第三者対抗力を取得し,その後に建物を差し押さえた一般債権者に優先するということになろうかと思います。このため,一般債権者の側としましては,履行遅滞にある債務者が高齢であるような場合には,例えば相続開始を避けるために早めに差押えをしてしまって債権を保全するといったようなことが考えられ,その結果,かえって配偶者が早期に家から追い出されるということにもなりかねないのではないかと懸念されるところでもあります。この点につきましては,なお検討が必要と考えているところでございます。
  最後に,(5)の消滅事由につきましてですが,短期居住権の主な消滅事由としては,消滅期間の満了のほか,占有の喪失,あるいは配偶者御自身の死亡が考えられるところでございます。このほかに,配偶者が居住建物の使用,保管について善管注意義務に違反をしたような場合,例えば建物を著しく汚した場合には,ほかの相続人に短期居住権の消滅請求権や解除権を認めるということが考えられるところでございます。
  ここまでが,短期居住権についての御説明でございました。
  次に,6ページの第3と記載しております,長期的な居住権の保護としての方策でございますが,これにつきましては①から⑥に記載しております。
  以下,読み上げますけれども,①配偶者が相続開始のときに居住をしていた被相続人所有の建物を対象として,遺産分割終了後にも配偶者にその建物の使用を認めることを内容とする法定の権利,以下,これを長期居住権と呼びますが,これを新設し,配偶者は遺産分割の協議又は審判等において,終身又は一定期間,効力を有する長期居住権を取得することができるようにする。
  ②,配偶者が長期居住権を取得した場合には,配偶者はその財産的価値に相当する金額を相続したものと扱う。
  ③,配偶者は,これは法的性質にもよりますが,①の建物を占有しているとき又は長期居住権の登記を備えたときは,長期居住権を第三者に対抗することができる。
  ④,配偶者は,所有者の承諾を得なければ長期居住権を第三者に譲り渡し,あるいは①の建物を転貸することができない。
  ⑤,長期居住権は,①の存続期間の満了前であっても,配偶者が死亡した場合には消滅する。
  ⑥,被相続人は,遺言又は死因贈与によって,配偶者に長期居住権を取得させることができる。このような方策を考えているところでございます。
  この方策の基本的な考え方でございますが,この方策は,遺産分割において配偶者が住み慣れた居住環境での生活を継続することを希望する場合に,その意向に沿った遺産分割を実現するための措置を講ずるものでございます。配偶者に居住建物の使用を認めることを内容とする長期居住権を今回新設して,建物の財産的価値を居住権の部分と,その残りの部分とに二つに分け,これによって,配偶者が居住建物の所有権を取得するよりも安い価格で建物に居住する権利を取得することができるようになると考えているところでございます。
  もっとも,長期居住権の存続期間が相当長期に及ぶ場合には,結局のところ居住権の評価額も,所有権を取得する場合とほとんど変わりがないということにもなると考えられます。したがって,長期居住権は,例えば遺産分割時に配偶者が既に高齢に達している場合などにおいて,より有効性を発揮するものと考えられます。
  また,現行法の下では,例えば配偶者の一方である被相続人が,他方の配偶者の居住権を保護するとした上で,その死亡後には,確実に自分の子供が建物を相続できるようにしたいと,このように思っても,遺言等によってこれを実現するというのは,現行法上,困難でございますが,今回の方策を講じた場合には,例えば遺言によって配偶者には居住建物の長期居住権を,子には居住建物の所有権をそれぞれ取得させるということが可能になるものと考えられます。
  次に,長期居住権の法的性質につきましては,法定の債権,例えば法定の賃借権等と構成することや,新たな用益物権と構成するということが考えられます。
  この点につきましては,長期居住権を有する配偶者と建物の所有者との間に一定の債権債務の発生を認めるか否かというところにも関わりますが,例えば建物の一部が損傷したような場合に,その所有にその部分の修繕義務を認めるのでありましたら,少なくともその部分は法定の債権・債務関係ということになると考えられます。
  これに対して,建物の所有者が長期居住権の存続期間中は建物の使用権限がないにすぎず,配偶者に対して義務を負うものではないということにしますと,あえて法定の債権と位置付ける必要はないとも考えられます。特に長期居住権につきまして,占有をもって第三者対抗要件としますと,長期居住権は,通常,発生と同時に常に物権的効力を有することになりますので,その点では用益物権と説明をした方が,実態には合致するのではないかと考えられるところでございます。もっとも,長期居住権を用益物権と仮に位置付けますと,特段の定めを置くのでない限り登記が第三者対抗要件になると考えられますので,新たな登記制度を設けるまでの必要性があるかどうかについては,なお検討の余地があるかと思います。
  次に,「配偶者の具体的相続分との関係」ですけれども,この方策は,ほかの相続人への影響も考慮しまして,②で御紹介しましたように,配偶者は長期居住権の財産的価値に相当する金額を相続したものと扱うこととしております。その結果,配偶者は,居住建物以外の遺産からは,自分の具体的相続分から長期居住権の財産評価額を控除した残額について財産を取得することになり,配偶者が長期居住権を取得しても,ほかの相続人の具体的相続分は変わらないということになります。
  続きまして,(3)の「取得要件」でございますが,長期居住権の発生原因については,全て法定する必要があると考えております。この点につきましては,例えば遺産分割の協議,調停又は審判,あるいは被相続人の遺言,そして死因贈与を発生原因とすることが考えられます。
  イの「相続開始時に配偶者が居住していたことを要件とすべきか否かについて」でございますが,長期居住権は,配偶者の居住権保護の観点から新設する権利でありますところ,その権利主体を配偶者に限定していることに鑑みて,①のとおり,その保護要件として,配偶者が相続開始の時に,その建物に居住をしていたことを要求しているところでございます。
  ただ,配偶者が長期居住権を取得した場合でも,ほかの相続人の具体的相続分には影響を及ぼさないとしていることに照らしますと,配偶者に特段の保護要件まで課さずに,被相続人所有の建物でありさえすれば長期居住権を設定することができるとすることも考えられます。
  なお,長期居住権につきましては,短期居住権と異なりまして,占有を存続要件とすることは想定をしておりません。
  続きまして,長期居住権の内容でございますが,長期居住権は,配偶者にその居住建物の使用を認めるものですが,その財産評価を適切に行うことができるのであれば,制度上は,建物使用の対価について,有償,無償のいずれとすることも可能であり,また事案に応じてそのいずれかを選択することができるということも可能ではないかと考えております。
  他方,長期居住権は,飽くまでも配偶者の居住の利益を確保することを目的とするものでありますので,配偶者がその建物から収益を上げるということまでは想定をしておりません。ただ,例えば遺産分割において,配偶者が終身の長期居住権を取得したものの,その後に御本人の体調が悪化して養護施設に入所する必要が生じてしまったという場合のように,遺産分割の後になって事情変更が生じた場合の対応策として,配偶者に長期居住権の譲渡を認めるかどうかというところにつきましては,別途検討する必要があろうかと思います。
  この点につきましては,居住建物の所有者は建物の使用者がどのようなものであるかについて重大な利害関係を有していること,それから民法上は使用貸借,あるいは賃貸借のいずれにおいても貸主の承諾を得ずに,その権利を譲渡,あるいは転貸することはできないとされていることに照らしますと,配偶者が長期居住権を第三者に譲渡,あるいは転貸するには,建物所有者の承諾を要件とするのが相当と考えられるところでございます。
  10ページのイ,「存続期間」に移らせていただきます。
  長期居住権の存続期間につきましては,基本的には配偶者の具体的相続分の範囲内で,例えば終身期間とすることも含めて,配偶者の希望に応じて定めることになると考えられるところでございます。
  もっとも,所有権を取得する方の相続人は,長期居住権の存続期間中はその建物の使用,収益を自ら行う権限がないということになりますため,できる限り長期間にわたって長期居住権を取得したいという配偶者と,これをできる限り短期間にとどめたいほかの相続人との間で利害が対立することも想定されるところでございます。
  したがって,このような場合に,配偶者とほかの相続人の利害の調整をどうするべきかという点を検討する必要があると考えております。
  次に,ウの「第三者対抗要件について」でございますが,長期居住権は,存続期間が長期に及ぶことが想定されますので,その分,建物所有者によって建物の処分が存続期間中にされるというおそれが高まると思われますことから,このような場合でも,居住権を保護するために,第三者対抗力を付与するのが相当ではないかと考えておるところでございます。
  では,何をもって第三者対抗要件とするかにつきましては,法的性質をどのように考えるかにもよると思われます。
  まず,長期居住権を新たな用益物権と位置付けた場合には,登記を第三者対抗要件とすることになると考えられます。また,配偶者が簡易に第三者対抗要件を取得することができるようにするために,登記だけでなくて占有についても第三者対抗要件とするということも考えられるところでございます。
  これに対しまして,長期居住権を法定の債権と位置付けた場合には,登記を第三者対抗要件とすることも考えられるところではございますが,賃借権と同様に,居住建物の占有をもって第三者対抗力を付与することにも相応の合理性があると考えられます。また,居住建物の占有のほかに登記も第三者対抗要件とすることも併せて考えられるところでございます。
  次に,(5)の「長期居住権の財産評価」でございますが,このような長期居住権を新設するとした場合には,遺産分割において,この財産評価が必ず必要になりますので,では,どうやって財産評価を行うのかというところが問題となります。
  この点につきましては,仮に長期居住権を有する配偶者が無償でその建物を使用できるとするのでありましたらば,この財産評価については遺産分割時に配偶者が自らの相続分によって賃借権類似の権利を取得するとともに,存続期間全体について賃料相当額の全部前払いをしたのと同様の評価をすること,すなわち,建物賃借権の評価額に,存続期間分の賃料総額から中間利息を控除したものを加算するという方法が考えられます。
  これに対して,長期居住権を有する配偶者が,その存続期間中に建物所有者に対して賃料相当額をずっと支払い続けるということを前提としますと,その財産評価は,賃借権自体の評価とほぼ同様の方法によることになるものと考えられるところでございます。
  次に,(6)の「消滅事由」でございますが,これは存続期間の満了と,それから配偶者の死亡が考えられるところでございます。
  このほか,配偶者が使用,保管について善管注意義務に違反している場合ですとか,あるいは勝手に譲渡,転貸をしたという場合には,この義務違反を理由として,長期居住権の消滅請求権,あるいは解除権を建物所有者に認めるということが考えられるところでございます。
  12ページの「その他の検討課題」でございますが,まず,「他の共同相続人との関係(長期居住権の優先取得について)」でございます。
  現行法の下では,遺産分割において,どの相続人がどの財産を取得するかということについて相続人間の協議が成立しない場合には,裁判所が審判においてこれを定めるとされておりますけれども,長期居住権については,配偶者が長期居住権の取得を希望した場合に,他の相続人に優先してその取得を認めることとすべきではないかというところが問題となります。
  この点につきましては,配偶者の保護を十全のものとするために,何らかの優先権を認めるということも考えられますが,他方で,これを無条件に認めてしまいますと,居住建物の所有権を取得するほかの相続人の利益との衝突が問題となり得ますので,優先権を認めるとしても,その範囲を限定するのが相当と考えられます。
  具体的には,こちらの㋐,㋑のような方策を講ずることが考えられるところでございます。
  ㋐は,配偶者が,例えば10年間について,ほかの相続人に優先して居住権を取得できるけれども,この10年なら10年を超える期間の長期居住権の取得を希望した場合には,家庭裁判所の方で,その当否を決するという方策です。
  他方,㋑は,原則として配偶者に優先権を認めるとする一方で,家庭裁判所の方で各種の事情を考慮し,このような優先権を認めるのは著しく不当だと認められる特段の事情があるという場合には,長期居住権の取得を認めない,あるいは存続期間の制限をするということができるようにすると,このような方策が考えられるのではないかと思っておるところでございます。
  次に,イ,「敷地所有者との関係について」ですが,被相続人が建物とその敷地を所有していた場合を想定すると,第三者からの建物退去請求に対して,配偶者がそれを拒むということは可能であると考えておりますけれども,遺産分割により建物とその敷地の所有権を取得したほかの相続人が,その建物のための敷地利用権を設定しないでその敷地を第三者に売却してしまったという場合には,配偶者は,この第三者に対して,敷地の占有権原を主張することができない結果,原則として第三者からの建物退去請求を拒むことができないことになってしまうと考えられるところでございます。
  そこで,このような事態が生ずることがないようにするために,配偶者の居住建物だけでなくて,その敷地についても,例えば新たな用益物権ですとか法定の債権を創設するといったことも考えられるところでございます。
  ここまでが,長期居住権についての御説明でございました。
  最後に,第4の「その他」でございますが,まず,賃貸物件である場合の保護方策について申し上げます。
  ここまで申し述べてきました短期居住権と長期居住権,二つの方策は,いずれも配偶者の居住建物が被相続人の所有だった場合を前提としておりますが,このような場合だけではなくて,配偶者の居住建物が第三者から賃借をしていた建物であった場合も十分考えられるところでございますので,こういう場合についても配偶者保護のための措置を講ずる必要があるのかどうかという点が問題となります。
  このような観点から,例えば,「遺産分割において,配偶者は居住建物の賃借権を優先的に取得することができる」とすることも考えられるところでございますが,他方で,あえてそのような方策までは講じないということも考えられるところでございます。
  その他,配偶者の居住権の保護方策として,ここまで御紹介したほかに考えられる方策がありましたら,併せて皆様方にお伺いしたいと考えております。
  説明は以上でございます。
○大村部会長 どうもありがとうございました。
  御説明いただいたものは,最後に触れられたその他というのを除きますと,第2で扱われています短期居住権についての御提案と,第3で扱われております長期居住権についての御提案に分かれるかと思いますけれども,まず,第2で扱われている短期の居住権の方について,御質問ないし御意見を承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。
○増田委員 すみません,今,第2と言われましたけれども,その前の第1のところでちょっと質問があります。
  現在の判例の到達点について,最判平成8年12月17日で居住権が確保されているという御説明だったと思うんですけれども,共同相続人の一人の居住権,すなわち占有権自体は,既に最判昭和41年5月19日以来,判例はほかの物権法上の共有と同じように認めていて,一部でも共有持分があれば,全体についての利用権があるというのが,確立された判例理論だと考えています。したがって,共同相続人の利用権に関しては,当事者間の合意的意思解釈うんぬんではなくて,現行法上は,共有の理屈上そうなるんだということだと思うんです。ご指摘の最高裁平成8年12月17日判決は,事件自体も不動産の明渡請求事件ではなくて,相続財産を利用している共同相続人に対する賃料相当損害金ないし不当利得の請求事件であって,利用の無償性を明らかにした判例だと思うんですね。
  つまり,確かに判例は,無償性については,当事者間の合意的意思解釈を根拠としてはおりますが,居住権それ自体については当事者の意思解釈でも何でもなく,持分がある以上,当然だというのが,判例法理だろうと思っているんですが,いかがでしょうかというのが一つ目です。
  もう一つは,建物の所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等を締結する方法による場合には,賃貸借契約等を成立することが前提となる,すなわち契約が成立しなければ確保されないといわれておりますが,実際の審判例で,賃借権を設定している事例もあるのではないかと思います。例えば東京高裁の平成22年9月13日決定などは,2年間の短期ではありますが,一時使用のための賃借権を設定しています。これは賃借人が,配偶者ではなくて子なんですけれども,共同相続人の一人のために設定をしている,そういう例もありますし,遺産分割ではないですが,財産分与として賃借権を設定したという裁判例もありますので,現行法を前提にしても,他の相続人の意思にかかわらず居住権を確保する方法はあるのではないかと思います。
  その2点について,取りあえず共通認識があるのかどうか,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 それでは,私の方から御説明いたします。
  まず,1点目ですけれども,基本的に,法定相続で配偶者が少なくとも2分の1の持分を持っているという場合には,第三者から明渡しを請求されることはないのではないかというのは,そのとおりではないかと思います。ただ,ここで考えているのは,例えば,被相続人が相続人の誰か1人に建物の所有権を遺贈した場合も含め,一定期間については例外なく居住権を保護する必要がないかということでございますので,共有についての判例理論だけで全てが保護されているということにはならないのではないかという点があると思います。
  それから,二つ目の賃貸借契約の設定によって,使用権限を設定することができるのではないかという点でございますが,これについても,なぜ遺産分割の審判で契約を成立させることができるのかということが問題になると思います。そもそも契約ですので,本来は,当事者間の合意がないと成立させられないということになりますので,御指摘のような裁判例があることはこちらも承知はしておりますが,理論的な説明が難しいところがあるのではないかと思います。したがって,これらの現在の裁判実務,あるいは判例理論を前提としても,保護が十分ではない部分があるのではないかというのが,こちらの問題意識でございます。
○大村部会長 よろしゅうございますか。更にもし何かあれば,どうぞ。よろしいですか。
○増田委員 前提となる判例理論は,それでよろしいということですね。③はちょっとほかのと異質だと,私は考えていますので,また後で,これについての意見を申し上げますけれども,今回の議論の前提としての判例の考え方は,私が先ほど述べたような考え方でいいということですね。
○堂薗幹事 ただ,御指摘の判例も,「多数持分権者は当然には明渡しを請求することができない」という説示がされているかと思いますが,その「当然には」というのがどういう意味なのかという点については,必ずしも明確にはなっていないように思います。
  したがって,共有に関して,仮に,誰が使用するのかというのが管理に関する事項だということになりますと,共有者間の協議によって多数決で決めることはできることになります。その点については,法定相続分を前提とすれば,配偶者は少なくとも半分は持っていますので,過半数で使用方法を決めるということになったとしても保護されますけれども,相続分の指定がされているような場合を含めて考えますと,現行法の解釈上も,不明な部分はなお残っているのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
  それでは,そのほかいかがでしょうか。
○中田委員 やはり第1なんですけれども,2ページの上から5行目に,二つの方策は内容的に両立するもので,両者を併せて採用できるとあるんですが,この二つの方策の関係について,どう理解したらいいかということです。
  私が拝見して思ったのは,両者は根拠付けも,規律の在り方も随分違っているなということでした。短期の方は,婚姻から導かれる配慮義務に基づいて強行法的な規律をかけるということであり,それに対して長期の方は,生存配偶者の居住保障という,どちらかというと政策的な配慮から新しいメニューを提供するということであるように思いました。そうすると,それぞれにおいて出てくる問題点も違っていると思うんですが,この二つを統一的に考え,根拠付けるということを目指すのか,それとも二つの制度を併存させるという方向でいくのか,あるいはどちらか一方だけでも設けるということを考えるのか,その辺り,この二つの方策の関係といいますか,内容的に両立するということの意味について,お考えをお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 ここで両立するというのは,二つ方策があって,どちらも併せて採用することが可能だという意味でございますが,基本的には,目的や趣旨は全く異なるものと考えております。短期居住権の方は,どちらかというと相続によって急に出ていかなければいけなくなるような事態がないように,明渡猶予期間的な発想で,少なくとも一定期間は住めるようにしましょうというものです。したがって,短期居住権は一定の要件を満たせば,当然に効力が発生するというものであるのに対しまして,長期居住権の方は,現行法上,建物の使用権限だけを配偶者に取得させて,そのほかの部分については,他の相続人に取得させるという形で遺産分割をすることが,なかなか理論的にも難しい面があるので,それを解消するための制度として新たなオプション,選択肢を設けるという趣旨でございます。
○大村部会長 よろしいですか。ありがとうございました。
  先ほど,ちょっと言い方が不適切だったかもしれませんが,第2と第3の間で分かれますので,第2までをまずやるということで,第1についてもどうぞ,もしまだございましたら併せて御質問,御意見を頂ければと思います。
○南部委員 ありがとうございます。南部です。
  第1のところですけれども,裁判の現状ということをお聞きしたいと思います。立法事実として,こういったニーズがどれくらいあり,そしてトラブルになっている事例がもしあれば,お聞かせいただきたいと思っています。
  というのは,例えば父親が死亡して,母親と子供が相続するというときに,ほとんどの場合,母親が高齢であれば,そこに最後まで大体住まわれるのが普通ではないかなというふうに私は思っております。ですので,どういった事例でこういうトラブルが起こるか知りたいと思います。こういう根拠があるので,この法律をどう変えていくかと考えないと,少しポイントがずれていくのかと思います。実態等々,お分かりの先生方がたくさんいらっしゃると思いますので,教えていただけたらと思っております。
○堂薗幹事 まず短期居住権の方は,先ほども御指摘がありましたように,現行の判例によりかなりの部分は,既に保護されているものと思います。ですから,このような規律を設ける意義というのは,その点を法律上も明確にし,更に現行の判例理論によりますと,一部,保護の対象から外れる部分があるので,そこも含めて,保護の対象にしようというところにございます。
  長期居住権の方につきましても,何かこういった事例で困っているというのが具体的にあるというよりは,先ほども申し上げましたように,制度上,所有権を,使用権の部分とそれ以外の部分に分けて分割するというのが難しいので,それを解消するためのものとして考えているところでございます。
○上西委員 上西でございます。
  相続税の申告実務をしている観点から申し上げますと,短期居住権でもめた事案というのは未見です。また,相続事案を手広くやっている同業者と意見交換する中でも,短期居住権について新たに積極的に保護しなくても,事実上の居住権というのは保護されていると思います。
  ただ,長期の居住権につきましては,所有権に至らない居住権--適切な言い方ではないですが,所有権とは違う,もう少し手前の段階の居住権を創設することは,実態から見ると非常に有り難いものになると考えております。
○窪田委員 一つ前に御質問があった関係で,発言させて頂きます。特に短期利用権に関してどういうニーズがあるのかという御質問,これは,さきほどの増田委員の御発言にも関わるのかなというふうに思いますが,少なくとも2分の1の相続分があるので,取りあえずそこから追い出されることはないというのは確かですし,実際にそのまま妻が,あるいは夫が住み続けるということがあるというのも確かなのだろうと思います。ただ,恐らくこの部分というのは,短期居住権を認めて居住できるようにしようという部分と同時に,短期居住権に関しては無償であるという部分を明確にするということが,特に重要な意味があるのではないかと理解しています。
  そういう意味では,増田委員の御発言にあったように,単に利用権を認めるということだけではなくて,これは無償の利用権であるということを含むという意味で,やはり最高裁の判決を受けたという点が重要なのかなと思います。もちろん,どの程度の数の事件があるのかという点について私は存じ上げませんが,現に判例でもそういうふうに登場しているということ,そしてここで示された判例のルールというのが,必ずしもそれほど明確なものではない。当事者の合理的な意思の解釈だというふうには言うわけですけれども,どうも非常によりどころが余り確かなものではないということは言えると思いますので,その意味ではやはり,ちょっと今,短期居住権の話に限ってということになりますが,一定のニーズはあるのではないかと私は理解しております。
○沖野委員 ありがとうございます。
  短期居住権の方ですけれども,これが入ると,現行法下とどう違うのかという点についてです。一つのポイントは強行性と言われましたけれども,例えば相続させる遺言ですとか,あるいは第三者への遺贈などがあったときも,この1年の限りでは無償で居住が確保されるとなりますと,例えば子供に相続させるという遺言をしていて,事実上,そのまま居住を継続していたけれども,1年内にトラブルが起こったというようなことが仮にあったとすると,現行法とは違ってきますし,第三者に遺贈したような例というのは,やはりかなり現行法と違ってくると思うんですけれども,そういうことはない,基本的に変更を生じさせるような事態が現在はないと考えていいのかということが一つです。
  もう一つに,気になっておりますのが抵当権との関係です。抵当不動産であるという場合に,抵当権が実行されるというようなことはありそうに思います。提案では,一般債権者の差押えとの関係が書かれていますけれども,既に抵当権がついている不動産について抵当権が実行されたときも,明渡猶予期間ということで,その猶予は受けられるという前提で理解したらいいのか。そうだとすると,実際,現行法とはかなり違ってくる場合が生じると思うのですけれども,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 まず,抵当権との関係でございますが,短期居住権の③で書いてあるのは,基本的には被相続人による処分を制限するという限度で強行法規性を持たせるということを考えておりますので,短期居住権に優先する抵当権が既に設定されていて,それに基づいて処分がされ,所有権者が変わったという場合についてまで,明渡猶予期間を認めることは考えておりません。
○浅田委員 先ほど沖野委員から抵当権の話がありましたので,銀行の立場から状況について概論をお話ししたいと思います。
  特に私が統計的な数値を持っているわけではないので,経験的な側面からお話しすることになると思うんですけれども,まず銀行が行う住宅ローン,典型的なもの,に関しては,通常,団体信用保険が付保されてます。そうしますと,被相続人の死亡に伴ってローンが弁済されるということになりますので,その債権者との関係ということでは,一旦切れるということになるので,そういう典型的な処理に関しては,それほど問題が生じるかというと,そうではないようにも思えます。
  ただ,これはそういう特定の商品のことでありまして,その他の一般的な商品については沖野委員の問題提起というのは当てはまり得るということだと思います。簡単に言いますと,例えば自宅を担保にしたフリーローンと言われるものとか,あと個人事業者で借入れのために自宅に担保権を設定しているとか,また債権法改正でいろいろ議論がありましたけれども,中小企業に対する貸金に関して,代表者を保証人として,その保証に関しての担保,抵当を入れるということや,また近時開発,検討がされていますリバースモーゲージについては,抵当権者として,また一般債権者として,賃借権との相克というものが問題になり得ると思います。
  したがって,この賃借権と抵当権との相克,対抗関係に関しては,銀行界としても非常に大きく関心を持っているわけでございます。具体的にどういう関心を持っているかということについては,縷々述べたいところはあるわけですけれども,第2の第三者対抗要件というところで議論をさせていただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 よろしいでしょうか。
  短期居住権の方について,あるいは長期居住権の方も同じ部分が気になる部分があるのですが,期間に関して若干気になっている点がありますので,それについてお尋ねさせていただきたいと思います。
  基本的には,短期居住権,遺産分割までという形の,多分,組立てになっていると思いますし,遺産分割時というのは,恐らくそこから長期居住権が始まるという意味では,すみ分けの基準時としては分かりやすいとは思うのですが,一方で,例えば相続させる旨の遺言があるというような場合,要するに遺産分割が不要であるようなタイプのものについては,例えば1年間といった一定期間の利用を認めるということを言うのであれば,遺産分割がある場合であったとしても,例えば1年間といったような利用権を認めるというような,言わば遺産分割にかかわらず下限があるのかという問題です。そして,もう一つの問題は,遺産分割がいつであるかということにかかわらず,上限があるのかという問題もあり得ると思いますが,特に下限の方について少し気になっています。
  このような質問をしておいて,自分自身の考えは迷っているという部分だけ,お話ししても仕方がないと思うのですが,一方で,恐らく相続させる旨の遺言があったとしても,1年間の利用権は認めるということから言うのであれば,遺産分割があったとしても1年間は認めましょうというのは一つの在り方なのだろうと思います。
  ただ一方で,そうは言いつつ,遺産分割というのは生存配偶者も関わってなされるものですから,むしろ,遺産分割時を基準時としてもいいという考え方もあります。また,政策的に言うと,遺産分割があっても結局1年間は短期居住権を排除できないということになれば,むしろ何か遺産分割をさっさとやるということに対するマイナスのファクターになりかねない部分もあるようにも思われます。これは場合によっては,できるだけ速やかにやはり遺産分割をして,最終的な財産の帰属を決めた方が望ましいのではないか,マクロの視点から見ると,マイナスのものとして働く可能性もあるのかなという気もいたします。
  その意味で,どちらがいいのかということを自分の中で決めた上でお尋ねをしているわけではないのですが,現時点で法務省の側で何か考えているというようなことがあったら,教えていただければと思います。
○堂薗幹事 確かにこの資料上は,存続期間について上限を定めるという方しか触れておりませんが,御指摘のとおり,例えば③の期間を1年とした場合に,遺産分割が1年未満で終わった場合はどうするかというのは検討課題であって,その場合でも1年は居住できるようにするのかどうかという問題はあろうかと思います。
  そういった問題は,特に③の一定期間をどの程度の期間にするのかというところと,密接に関わってくるのではないかと考えておりまして,この期間を長いものにいたしますと,そういった問題は生じると思いますし,この期間をかなり短いものにすれば,基本的にはそれほど問題にはならないのかなという気もいたします。この一定期間をどの程度にするのか,あるいは窪田委員に御指摘いただいたようなデメリットの点をどう考えるのか,短期間で遺産分割が終了する場合というのは,基本的には生存配偶者も同意をして協議で成立している場合が多いのでしょうから,そういった場合にも例外を設けるまでの必要があるのかどうかといった点について,検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○森委員 さきほど南部委員から実務の実情について御質問がありましたので,少しコメントをしておきたいと思います。
  これは全体の感覚ではありませんし,具体的なところは後で家庭局の幹事の方から補足していただければと思うんですけれども,被相続人の配偶者が高齢の方ですと,施設入所を予定しているため従前の居住建物での生活を望まれない場合も少なくないように思います。そのため,配偶者の居住建物の取得をめぐって相続人間で争われる事案というのは,それほど多くはないように思います。すごく雑駁ですけど,例えば東京家裁とか大阪家裁ですと,遺産分割担当の裁判官は1年間で数百件ほどの事件を担当していると思いますが,その中で,配偶者の居住建物の取得をめぐって相続人間で争わる事案というのは,せいぜい1件か2件ある程度といった感覚です。
  それから,生存配偶者が居住を継続することに対して,被相続人が明確な反対の意思表示をしていたために,平成8年の法理が使われなかった事案があるかどうかというのは,直ちにはちょっと分からないですが,家庭局の方から補足していただけることがあればお願いします。
○石井幹事 今の後段の方のところにつきましては,事務当局としても特に統計的に資料を持っているわけではございませんので,被相続人が反対の意思を表示していたために平成8年の最高裁判例の射程が及ばなかった事案というのがどのぐらいあるかということにつきましては,直ちにはお答えできないというのが実情でございます。
  それからもう1点,先ほど期間をどのように設けるかというような御議論がありましたけれども,仮1年なりの上限を設けた場合には,その期間までに遺産分割が終了しない場合も当然出てくるだろうと思います。先ほどの御議論などを聞いておりますと,その場合には,平成8年の最高裁の判例の枠組みではなく,期限が来たら短期居住権も消滅することを前提に御議論がされていたように聞こえたんですけれども,平成8年の最高裁判例との関係について,そのような前提で御議論していくのか,あるいは期限が来ても,遺産分割が終わるまでの間は,平成8年の最高裁判例の枠組みで使用貸借権を認める余地があるとするのかは,考え方が分かれるところだと思いますので,こうした点についても,もう少し御議論を頂ければというふうに思っております。
○大村部会長 八木委員からも手が上がっていますので,八木委員の御意見を伺って,事務局にまとめて答えていただきますか。
○八木委員 御意見というか,南部委員の御質問を受けまして,森委員からお答えがあったんですけれども,私なりの補足でもないのですが述べたいと思います。
  この部会のミッションにも関わることだと思うのですけれども,例えばということですが,相続人の子供の中に非嫡出子がいた場合,これを想定せざるを得ないということですね。そして相続財産が,夫婦が住んでいた土地と家だけというケースは都会では結構多いと思います。その際,相続の際に,嫡出子の場合は,おじいちゃんが亡くなった場合,おばあちゃん,つまりお母さんがそこに住み続けるということを承諾すると思いますけれども,非嫡出子については,自分の相続財産を得たいということで,夫婦が住んでいた家屋敷を売らざるを得ないというケースが出てくると思います。そういったときに,配偶者をどう保護していくのかというのがここでの趣旨だと思うんですね。それを短期で,その居住権を認めるのか,長期で認めるのか,そこの違い,またその法的な取扱いの違い,あるいはその妥当性というのが,ここでの課題というふうに私は理解をしております。
○大村部会長 短期,長期について,どういう必要があるのかということにつき,何人かの方々から御発言を頂きましたけれども,森委員,ごく少ないけれども,紛争はあるというお話だったと思いますが,もしよろしければ,どういう紛争なのかということを教えていただけますと,今の八木委員の御発言との関係で少し議論が深まるかなと思いますが。
○森委員 さきほど,配偶者の居住権をめぐる紛争は少ないと申し上げましたが,それは,ワーキングチームで御議論されていたときに,東京家裁と大阪家裁の遺産分割事件の実情を聞く機会がありまして,その際,さきほど述べたような感触が得られたということで申し上げた次第です。そのときの感じでは,年間300件程度担当している裁判官が配偶者の居住権をめぐり争いのある事案を担当した件数は,2年間で,多い方で2件,少ない方は0件ぐらいとのことでした。具体的な事案の内容までは御紹介することができず,申し訳ないと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  長期について,こんな紛争がある,あるいはあり得るということについて,何かほかに御発言ありましたら,どうぞ。上西委員からは,先ほど長期について,ここで提案されているようなものができると有り難いという御発言があったと思いますが。
○上西委員 今の八木委員のお話ですけれども,東京や大阪等で,土地建物がほぼ唯一の財産であるような事例の場合は,所有権一本だけですと非常にもめやすいです。代償分割という形で代償金を準備する手法がありますが,借入れをしなくてはいけないというケースも出てきます。所有権から見れば評価額の小さい長期居住権というのを一旦確定させて,その長期居住権を控除した残りの部分を他の相続人で分けるという形で可能であれば,解決はしやすくなることは確実です。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 先ほどの石井幹事からの御発言,私の発言が分かりにくかったのかと思いますが,私自身は,1年間にするという固定的イメージではなくて,むしろ今提出されている案でも,遺産分割時というのが基準になると思うのですが,遺産分割時というふうに言った場合,遺産分割がずっとなされない場合もあるけれども,ものすごく早くになされた場合,例えば3か月ぐらいで遺産分割の協議はすぐ成立してしまった。そうすると,もうそこで本当に短期居住権というのは終わってしまうのかどうかという,言わば下限の話というのを伺ったということだけです。恐らく法務省の方のこの提案でも,1年間というのでもう切ってしまうという趣旨では,多分ないだろうと思います。私の方が発言すべきことであったかどうかもよく分かりませんが。
○堂薗幹事 御指摘のとおりでございまして,短期居住権は,原則として,遺産分割終了時までを想定しており,例外的に存続期間の上限と下限をそれぞれ定めるかという問題があるということでございます。このうち下限については,遺産分割が早めに終わってしまった場合,ですから判例の基準によると,その時から保護されないことになるわけですけれども,その場合でも,少なくとも一定期間は保護をするかどうかということでございます。
○増田委員 先ほどの実態の話なんですけれども,私,家事調停委員を10年以上やっていた経験もあるんですけれども,生存配偶者の居住権を奪う,要するに配偶者を追い出そうという事例には一度も遭いませんでした。
  それと,先ほど八木委員が非嫡出子対配偶者という対立構図をおっしゃいましたけれども,そういう構図もほとんどがないんですね。実は非嫡出子というのは実際には遠慮する人が多いので,そういう構図はなく,むしろ嫡出子であるけれども,その人の子ではない人と生存配偶者とが激しく対立する事例の方は結構あります。だから,嫡出子か非嫡出子かということ自体は余り関係がないというのが,実感です。
○大村部会長 今の御発言,興味深く伺いましたが,嫡出子で,もちろん親が違うというケースをおっしゃったと思いますけれども,そういう紛争が,居住権をめぐって存在するという認識ですか。
○増田委員 居住権の問題としては,多分なかったです。自分の親である前配偶者と生存配偶者との対立関係を潜在的に引きずっているために遺産紛争が激烈化しやすいケースとして挙げたまでで,非嫡出子は何となく引け目があるのか,遠慮する人が多いですね。
○山田委員 先ほど,極めて短期に遺産分割ができたという事例のお話がありましたけれども,そういう事例は当事者間で円満に合意ができたということで,その先についても,例えば居住権の設定等についても合意ができるような事案かと思います。
  一方,裁判所にお世話になる事件というのは,どれぐらい掛かるかというと,大きな事件では10年掛かる案件もあり,非常に裁判所に頑張っていただいても,2年,3年掛かる事例はざらかなというふうに思っています。
  同時に,今度,相続税の申告は,上西先生,今,10か月でしたか。
○上西委員 相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内です。
○山田委員 そうですね。10か月程度で,できれば遺産分割が完了して申告したい。それが間に合わなければ,法定相続分で申告するというのが実務でありますけれども,私どもが御相談を受ける中で,やはり当事者間で争っていると,相続税の部分で非常に後々問題が生じてしまうというようなケースもございます。
  例えば,相続財産を換価して納税しなければならないような場合,ちょっと記憶が定かでないんですけれども,2年以内に処分すれば譲渡所得税の問題が生じない。長期になってしまうと,今度,相続税を支払った上で譲渡所得の支払が生じてしまうとか,何かいろいろ問題があるケースも出てくる中で,税金の問題というのは実務的には非常に大きく,それとの絡みで,やはり期間等も御検討いただく必要があるのかなということをちょっと感じておるところです。
  定かでない知識のところで,中身にそごがあるかもしれませんが。
○大村部会長 ありがとうございます。
○沖野委員 実態の詳細を把握しているわけではないので教えていただきたいのですけれども,例えば贈与などですと,家屋を子供に贈与する場合に,親の扶養を条件として負担付贈与を行う,しかし,その後,仲が悪くなって追い出すというような例も,かつての判例などで目にするところです。そういった事象は現在でも生じそうにも思うのですけれども,そういう懸念は,もう今はないと考えられるのかというのが一つです。もう一つは,高齢社会に伴って再婚の事例というのが増えてきますと,先ほど出ました子供の親ではない生存配偶者があり,居住ですとか,財産の承継などその後をめぐって争いになるというのは,報道などもされているところです。そのような場合に問題がありそうにも感じていたのですが,実際はそういった紛争はあまり起こっていないと理解してよろしいんでしょうか。
○大村部会長 今のような場合があり得るのではないかという御発言ですけれども,なかなか具体的な統計等があるわけではないので,確認は難しいでしょうね。
○村田委員 先ほど申し上げたとおり,最高裁の方でもきちんと統計を取っているわけではありませんけれども,いろいろなところからお聞きしているところの感じと,今の御議論を総合してみたときに,例えば前妻の子と後妻との間で遺産分割の争いが起きて,八木委員がおっしゃったような,対象となる財産が居住不動産しかないといったケースは,それなりにあるんだろうと思うんですね。
  ただ,その場合でも,居住用不動産から出ていけというところまでおっしゃる方々がどのぐらいの割合いるかというのは,必ずしもよく分からないところがありますが,仮にそこまで真剣に争うということになった場合には,先ほどもお話が出ていたとおりですけれども,代償金の問題が出てきて,高齢の配偶者では借入れ能力がないということになると,いずれにせよ,その居住不動産をそのまま維持するということは現実的には難しくて,結局売却して代金を分けるというのが現実的な解決になる場合が多いのではないかと思います。そうすると,配偶者に居住権を設定するという話は飛んでしまうということかなと。
  仮に,その問題もクリアして,所有権と何がしかの居住権とに分割できたとしても,要はそこまで真剣に争っている前妻グループ対後妻グループを,大家と店子の関係にすることが果たしていい解決なのかといった問題が別の次元の問題としてあるのではないかなというふうに思っております。
○大村部会長 上西委員から先ほど御指摘がありましたけれども,金額の問題,金銭で処理するときに,どのぐらいの金額で処理できるかという問題があるだろうけれども,しかし,利用権が残るというのがいいかどうかも分からないという御指摘だったかと思います。
○上西委員 期間の件についてです。相続税の納税資金を確保するために,相続財産を譲渡した場合に,取得費--譲渡した資産の原価のことを取得費というのですけれども,取得費の加算の特例というのが認められております。これは相続の開始のあった日の翌日から申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に譲渡した場合,簡単にいえば,相続の開始から3年10か月の間に売った場合については,相続税額のうちの一定金額を取得費とする特典があります。これは通常,分割が終わったことを前提とした規定でございます。これはいい制度だと思います。
  次に,申告期限までに間に合わない場合,3年間延長することが認められます。3年間延長してもらうことによって,何が保留できるかといいますと,配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例です。通常は2分の1の法定相続分と1億6000万円の多い方の軽減が後からでも使えるということ。正しくは評価減ではないんですけれども,小規模宅地の課税価格の計算特例という,事業用土地や居住用土地についての特例が認められることです。これらは3年間の猶予なんです。税務署長の承認を得ることによって,更に延長することもできます。元々は実態を見て3年という期間ができていたかと理解しておりますけれども,一旦この制度ができると分割協議をゆっくりしようというマイナスのインセンティブが発生するという実態もあります。取りあえず「3年以内の分割見込書」を提出しておけばオーケーなんだから,3年間ゆっくり考えようではないかということを,納税者に我々も助言するわけです。今回の検討事例では,例えば1年の上限を設けることとしてはどうかということや再延長的なことも示唆するような提案がなされていますけれども,いたずらに延ばすことはマイナスになる危険性があると考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第1についていろいろな御意見が出ましたが,期間の問題は第2についての御意見かと思います。第2の中身についても御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
○山本(和)委員 ちょっと細かいあれになるかもしれませんが,資料の6ページの一番上の方,「他方で」というふうに書かれているところで,先ほども若干議論が出てきました,居住建物が差し押さえられた場合,一般債権者に差し押さえられた場合で,ここに書かれてあるとおり,確かに第三者対抗力を占有を要件として認めると,一般債権者の差押えに対しても対抗できるということになるというのは,書かれているとおりかなと思います。
  それはやはり,私から見ると変な感じはします。この相続が開始する前に差押えがなされれば,その配偶者は占有補助者ということになるのかどうか,とにかく退去する義務を,当然その執行手続では負うということになるはずで,この短期居住権というのを認めるにしても,それは飽くまでも相続人内部というか,そのグループの中で保護しようという話ですから,債権者にとっては関係ない話なので,そこが保護される結果になるというのはおかしいだろうと思います。
  あるいはまた,相続財産破産の破産との関係でも,対抗力を認めると,破産手続の中でも対抗できる,管財人も解除できないということになりそうですけれども,それもやはり非常におかしい感じがします。そういうことからすれば,第三者対抗力をそもそも認めないということであれば,その問題は発生しないと思うんですが,認めるとすれば,やはり消滅原因のところで,現在は配偶者の占有喪失とか死亡が基本的となっていますが,その建物の差押え,売却とか,あるいは相続財産破産の開始とか,そういうのも消滅原因にしないと,おかしな結論になるかなというふうに思っています。
○大村部会長 御指摘,どうもありがとうございました。
  そのほかにいかがでしょうか。
○浅田委員 先ほどの山本委員の御指摘の点に関連してということであります。
  まさしく部会資料の6ページに書いてある問題意識を,銀行は債権者としても有するということを話したいと思います。担保権がない一般債権者である場合には,長期居住権,短期居住権,いずれの制度設計においても,居住権について対抗要件を具備されてしまえば,一般債権者としては,その引当てとなる財産が減少するということになります。死亡時は債権者にとっては予想不可能でありますし,かつ相続が発生したときに,相続人が対抗要件を登記など何らかの形で具備をする時点と,債権者がそれに気付いて,慌てて抵当権を設定するということの前者の方が早いということになりますと,債権者の一般的な行動様式としては,そういう不測の事態を避けるべく,何らかの対応を迫られるということになると思います。
  まず考えられますのは,当然のことながら,本来ならば担保を設定する必要がないものを,そういう事態を想定して,抵当権設定をお願いするということになるという可能性が増えるかなと思います。また,そうでなかったとしても,対抗要件を有しない一般債権者からすると,何らかの形で相続発生の可能性を探知しただけで,不動産を差押えまたは仮差押えをしておこうというインセンティブが働き得るということになります。
  そうしますと,制度設計いかんにもよると思いますけれども,結果として,本来ここで考えようとしていた配偶者の居住権の保護を追求していこうという制度設計とは,若干のずれが出てくるかもしれないと思っております。つまり,一般債権者からすると,居住権の対抗要件具備の時点が予想できないということで疑心暗鬼ということもありますので,早期の保全を行うというインセンティブが生じるということであります。これをまず指摘したいと思います。
  せっかくですのでちょっと付言いたしますと,居住権の対抗要件具備時がいつになるのかということを改めて考えますと,第一に,対抗要件を占有とした場合においては,配偶者居住の物件については,短期居住権は相続の発生と同時に対抗要件を具備するということに,この案ではなりそうであります。また,長期居住権のことを考えてみますと,この提案から最速の事態を考えると,遺言や死因贈与を用いるケースについては,やはり相続発生時に対抗要件を具備できるということになりそうであります。
  また,ちょっとこれは考えすぎなのかもしれませんけれども,例えば対抗要件を登記とした場合においても,先ほど申し上げたとおり,相続発生時点の探知については,債権者は遅れますから,疑心暗鬼になるということはあります。加えて,ちょっとこれも先の議論で恐縮ですけれども,仮に請求保全効のための1号仮登記みたいなものを認めるという,また認められるという制度設計になるのであれば,実体法上の居住権の発生,不発生にかかわらず,順位保全効が仮登記の時点で認められることもあり得るかもしれない。そうすると,一般債権者としては正式な担保権の取得,登記の実行ということに傾かざるを得ないのかなということを恐れるということでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 私も基本的に山本和彦委員のご意見に大賛成です。
  そもそも論なんですけれども,この短期居住権というものを共同相続人間だけではなくて,対第三者間で効力を有するということにすること自体に疑問を感じております。共同相続人間の紛争において居住権が保護されるということは比較的分かりやすい議論なのですが,対第三者間ということになりますと,もともと被相続人が持っていなかった権利を相続という偶然の事情によって相続人が新たに取得し,それが不動産の一つの負担となるという,そういうことはちょっとあり得ないのではないかという気がしております。
  ほかのことでもいいんですか,あと。
○大村部会長 ひとまずそこで終わっていただいて,残りは後ほどお願いいたします。浅田委員から御発言があったうちの長期居住権に関する問題も,また後で議論をしたいと思いますけれども,短期の居住権について,その対抗力の問題について否定的な意見が続けて出ておりますけれども,何かそれについて他にご発言はありませんか。
○水野(有)委員 すいません。私もこれを読んだとき,山本委員と全く同じ疑問を持ったのですが,ただきっと,もしかしたら第三者といっても2種類あって,被相続人の一般債権,被相続人関係グループと,もしかしたら,あと,元々での③で想定して譲り受けた人がまた売る場合という,③でよかったですかね,遺贈でその権利を譲り受けた人が売るときの第三者と,何か2種類,第三者がいるような気がいたしまして,その二つを同列に議論していいのかどうかが,これを読んだときよく分からないなと思ったということです。ただ,私は整理できていなかったのですが,今の議論で大分分かりましたので,どうもありがとうございます。それを踏まえて,いろいろ御教示いただければなと思っております。
○山本(和)委員 私の先ほどの発言の趣旨は,もし今,水野委員が言われた後者の場合,③の特定承継人のような者に対する関係では,やはり保護する必要があるというふうに,実体法上,御判断なされるのであれば,第三者対抗という制度は必要であるかもしれないというふうに思いましたので,それで必要であれば,しかし,被相続人の一般債権者による差押え,あるいは相続財産破産の場合に,なお対抗力を認めるというのは相当ではないので,その場合には,⑤の短期居住権の消滅事由を拡大すると。第三者対抗力は認めながら,消滅事由を今のような場合に拡大するという方向で対処するということも,考えられるのではないかという趣旨の発言でした。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点につきまして,更に御意見がありましたら承りたいと思います。
○山本(克)委員 今,水野委員から,二つに分かれるのではないかというお話がありましたけれども,私は三つに分かれるのではないかなと思っていまして,他の共同相続人が持分を譲渡した場合,あるいはその他の共同相続人の持分を共同相続人の固有債権者が差し押さえた場合という辺りも,その三つぐらいに分けてきっちり整理しないと,まずいのではないか。私も今日,相続人破産のとき,こんなのでいいのかなという気はしておりまして,ちょっと第三者対抗力を認めるにしても,どういう範囲で何の目的のために認めるのかというのをもう少し詰めていった方が,生産的な議論ができるのではないかと思います。
  それと,1点お伺いしたいんですが,第2の1の①ですが,遺産に属する建物というのは,これは遺産に建物の共有持分が属する場合は含まないということでよろしいんでしょうか。つまり,2分の1の共有持分が遺産に属していたと。で,被相続人と生存配偶者がそこで同居していたというような場合は,これの適用対象なのか,適用対象外なのか,その辺りも少しお教えいただければと。
○堂薗幹事 共有の場合については余り詰めた検討ができておりません。資料では,短期居住権においても,第三者対抗力について触れていますが,御指摘のとおり,基本的には共同相続人間でどうするかという話でございますので,共有の場合であっても,配偶者以外の相続人が相続によって共有持分を取得したことを理由として,配偶者に明渡しを求めることはできないということにはなるのだろうと思います。他方で,被相続人が持っていた共有部分以外の共有権者が明渡しを求めてきた場合に,配偶者が短期居住権を対抗できるとか,そういったことまでは考えておりません。
○大村部会長 今,その他の問題について,対抗要件そのものの問題以外の問題も出ましたけれども,増田委員から先ほどもう一つ問題があるということでしたが。
○増田委員 もうちょっと元に戻って,第2の短期居住権は,遺産分割が終了するまでの間と,第3の長期賃借権は遺産分割終了後ということですが,その遺産分割の前後が本当に截然と分かれるのかどうかという疑問もあるんです。
 ただ,それとは別に,今は,遺産分割の前後で,共有の性質が変わるという理屈を採られるのかどうかということをお伺いしたいと思います。
  現行法には,遺産分割の前と後で遺産の管理方法などが変わるというものはないわけです。判例上も,遺産分割前の遺産共有は,物権法上の共有と何ら性質は変わらないという法理が確立されております。そのような中で,こういう非常に限定された,端っこの法律関係について,遺産分割の前後で変わるというような法制度を採ることにどういう意味があるのかということを聞きたかったのです。遺産分割の前後で法律関係を変えるという提案があるんだったら,遺産の管理方法とか,遺産の果実の帰属とか,そんな問題の方が,先に検討すべきものなのではないかということが,この質問の伏線にはあるんですけれども,取りあえず質問としては,遺産分割の前後で共有の性質が変わるということを前提にされているのか,それとも変わらないのかということをお伺いします。
○大村部会長 遺産分割の後の共有というのは,どういう状況を想定されておられますか。
○増田委員 ごめんなさい。遺産分割の後の共有というのは,よくある共有分割,すなわち遺産分割の方法として共有のまま遺産分割の審判がなされたとか,そういうケースのことです。共有として確定的に帰属している状態を想定しています。
○大村部会長 遺産分割の前は相続財産が共有状態になっているけれども,遺産分割後に共有状態が残った形で分割がされているときに,その前後で性質が変わるのかという問題意識ですか。
○増田委員 端的に言うと,遺産分割前の共有状態が,物権法上の共有状態と違うということを意識しておられるのかどうかということです。
○堂薗幹事 それはしていません。判例の理解に従って,遺産分割前も,通常の物権法上の共有と基本的には変わらないという前提で考えております。遺産分割の前後で共有の性質が変わることによってどういう問題が生じるのかというのは,今一つ理解できていないところがございますが,どの辺りが問題だという御認識でしょうか。
○大村部会長 増田委員がおっしゃるのは,遺産分割後も共有状態が残っているとして,その共有状態について何らかの対応策を採らずに,遺産分割前だけ対応策を採るということにアンバランスがあるという御趣旨ですか。
○増田委員 いや,違います。遺産分割前後で共有の性質が変わらないのであれば,短期,長期を,遺産分割というその時点で分けるということがまずよく分からないということです。
  それと,今,部会長がおっしゃった話にくっつければ,遺産分割前の状態というのが浮動的状態であるにもかかわらず,共有の性質が物権法上の共有と変わらないということになっているのが,立法としては問題であるという認識があって,遺産分割前の遺産の管理方法とか,あるいは先ほどもちょっと言いましたけれども,果実の帰属など,広い意味では,居住の利益だって一つの果実に類するようなものですが,そういうものと引っ掛けて考えると,もっと先に検討すべきことがあるのではないかということです。遺産分割前と後とを区別するという発想をするのであれば,根本的に遺産分割前を合有というものにするのか,あるいは相続開始時から共有という従来の概念で進むのかということ自体から考えていくべきではないかということを申し上げているんです。
○堂薗幹事 遺産共有が合有なのか,物権法上の共有と同じなのかという辺りが,そもそも今回の諮問事項に入っているかどうかというところも問題になってくるとは思いますが,仮にその点について検討するということになりますと,それこそ相続法制の根幹について大きく変更することになろうかと思いますので,居住権のところではそこまでは考えていないということでございます。
  それと,遺産分割の前後で共有状態が続くという場合は,基本的には例外的な場合なのだろうと思います。本来,遺産分割というのは,遺産共有状態を解消して,財産をどう分けるかを最終的に決めるという話であるはずなので,法律の建前からすると,そういう共有状態を残した,しかも法定相続分どおりで遺産分割を終わらせるというのは,例外的な事象なのではないかと思います。
  そういった例外的な分け方がされた場合も,基本的には遺産分割で,最終的にそういう形で遺産を分けるということが決まったのであれば,少なくとも相続を原因として若干不安定な遺産共有の状態になっていたのが解消するわけでございます。飽くまで短期居住権というのは,遺産分割が終了するまでの暫定的な権利関係が生じている期間については,特別に配偶者を保護してもそれほど問題は生じないのではないかという問題意識に基づくものでございますので,遺産分割終了後も共有状態が続く場合があるとしても,通常の場合と同様の取扱いをする,すなわち短期居住権は消滅するというのが,こちらの整理ということになります。
○大村部会長 増田委員,今の件はよろしいですか。
○増田委員 ここで止まっていては前に進まないので,そういうものだという前提で考えることとします。ただ,共有分割が遺産分割方法として非常に例外的だということについては,若干異論があります。結局協議では決まらない場合に共有の形で残すということは,それが望ましいものかどうかという点は別としまして,実務上例外的に数少ないかと言われると,それは少なくはないだろうということだけ申し上げておきます。
○中田委員 山本和彦委員の提起された問題について,お伺いしたいんですけれども,被相続人,あるいは相続人たちが賃貸借契約をして,賃借人に引き渡した場合に,賃借人がその後の差押債権者に対抗できるということは問題ないと思うんですけれども,そうすると,ここで問題なのは何なんでしょうか。つまり,法定の賃借権類似の権利を付与して対抗力を与えることと,任意の賃貸借契約でもって対抗力を取得するということとの違いなんですけれども。
○山本(和)委員 私が答えるべきかどうなのかよく分かりませんが,今,議論しているのは第2というふうに理解してよろしいですね。
  私の理解では,これは判例が認めているような使用貸借を停止条件付きで設定するというようなものがあるけれども,それではなかなかカバーできないものがあって,そういう法定で,そういう類似の権利を設定しようという構想だというふうに理解をしておりまして,そうだとすれば,これは使用貸借が設定された場合には,当然,差押債権者には対抗できないわけですよね。それで,そもそも使用貸借が設定されない場合は,先ほど申し上げたように占有補助者という位置付けになると思いますので,これは当然に退去義務を,相続開始前に差し押さえられた場合には退去義務を負うような占有者だというふうに理解をしておりまして,それを差押えに対抗できるようなものにまで強化するという趣旨が含まれている提案なのかというふうに考えると,先ほど申し上げたように,それはそういう趣旨までも含んだ提案ではないのではないかというのが,私の理解であるということですけれども。
○中田委員 そうしますと,これは賃貸借であれば問題はないけれども,使用貸借という性質を持っているから,たとえ法定で占有権原を認めたとしても,その本質が無償であるからいけないということになるんでしょうか。
○山本(和)委員 確かに賃貸借を設定する,法定で設定してということであれば,問題はないのかもしれませんね,それは確かに。
○中田委員 ごめんなさい。私の疑問は,賃貸借契約を被相続人,又は相続人が締結した場合には,賃借人が引渡しを受けていれば対抗できることは問題がないわけですね。それで,法定で対抗できる使用権限を認めるのがよくない,疑問であるというのは,それは結局その本質が使用貸借的なものであって,本来は第三者に対抗し得ないものであるからということだろうというふうに,今,伺いましたが,そうすると,法定しても,使用貸借類似のものであれば駄目だと,こういうことになるんでしょうか。
○山本(和)委員 だから,この制度で一体何を目的としているかということだと思うんですけれども,差押債権者とか,要するに相続債権者グループに対してまで対抗できる,それは当然,先ほど浅田委員が言われたように,そうすると,相続債権者の取り分が,それほど大したことはないかもしれませんが,1年ぐらいだと。しかし,減るという部分を含んでいるわけですよね。そういう,言わば相続債権者に迷惑をかけてまで,この配偶者を保護するような制度なのかといえば,そういう制度ではないのではないかと。だから賃貸借であれば,確かにそれは対抗できるという制度にすることは可能なんだろうというふうには思いますけれども,可能なんだというか,そうなるんだろうというふうには思いますけれども,そんなことを目的とした制度ではないのではないですか。
○大村部会長 問題の整理としては,よろしいですか。
○中田委員 はい,理解しました。
  そうすると,やはりこの制度がそもそも何に基づくものかというところに戻ってくると思うんですが,それとの関連で一つお伺いしたいんですが,婚姻関係が破綻していた場合に,かつ遺言で配偶者以外の者に不動産を与えるとした場合にも,やはりこの規律は及ぶと考えてよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,最終的には解釈に委ねることにならざるを得ないように思いますけれども,基本的には法律上の婚姻関係にあれば,ここに書いてある要件を満たす限り,短期的な居住権は保護されるという前提です。もっとも,完全に婚姻関係が破綻している場合にまで,こういった特別な保護を与える必要があるのかという問題意識で,そういった場合はこの保護の対象から外れるんだというような解釈の余地は残るのだろうと思います。
○西幹事 今,中田先生のおっしゃったことは,先ほどから私も気になっておりました。非常に効果の大きな権利だとは思いますけれども,そこの説明の中で,ワーキングチームのときに申し上げたことと矛盾するようで恐縮ですけれども,被相続人の許諾を得ていたことを要件から外して,更に同居をしていたことも外してしまうということになりますと,論理的には婚姻破綻,直前の状態でも入るということになろうかと思います。そうであるにもかかわらず,居住権の根拠が婚姻の効果の一つである同居・協力・扶助義務に求められているというのは若干違和感があると申しますか,婚姻破綻の場合には同居・協力・扶助義務は消えるということになっていることを考えますと,難しいのかなという気がいたします。
  恐らくこの婚姻の効果としての居住権という説明は,フランス法を参考にしたものと思われますけれども,フランス法の場合には同居がやはり要件になっております。そもそも背景にあるフランスの短期と長期という分け方,今回もそれを参考にされたと思いますけれども,短期,長期という分け方というのは,恐らく短期の段階では公証人が入って債務の清算をする,そこの辺りを恐らく短期としてフランスは念頭に置いていて,それを超える部分が長期ということなのではないでしょうか。日本の場合には,相続開始後に公証人のような方が入って債務の清算をして,ある程度まとまった段階で安定的な状況に入るということには必ずしもなっていませんので,その意味でフランス法を参考にする,どこまでも参考にするというのは,やはり無理があるのではないかと。
  それよりも,今,遺産分割が終了するまでの短期的なというお話になっていますけれども,むしろ明渡猶予期間的な発想の方が日本にはなじむのかなという気がいたします。そうなりますと,フランスよりはむしろドイツ的なものの方が,公証人の動きなどを考えると分かりやすいような気がいたしました。
○大村部会長 今の西幹事の御発言は,中田委員の御指摘との関連で言うと,どういうことになりましょうか。
○西幹事 婚姻破綻している場合を含める場合はもちろんのこと,仮に含めないとしても,それに近い状況は,同居しておらず被相続人の同意がないという場合でも入るのであれば入ってしまう。その場合に,居住権を婚姻の効果として説明するのは難しいのではないかという,そういう発想です。ですから,同居・協力・扶助義務ということで根拠付けようとせずに,単純に明渡猶予期間ということにしてしまった方が,いろいろ説明が楽なのではないかということです。
  あるいは反対に,婚姻破綻とか,それに近い状態を外すということであれば,解釈に委ねるだけでなく,フランスのように,例えば同居要件,あるいは単身赴任の場合も入るような潜在的な同居要件を残しておくとか,そういうことをしないと,ちょっと婚姻の効果という説明は難しいのかなと思います。
○大村部会長 第一次的には,破綻していても保護はされるという方向で考えるということでしょうか。
○西幹事 そういう場合には,婚姻の効果という説明は…。
○大村部会長 説明を変える必要があるのではないかということですね。
○西幹事 あるいは,破綻していた場合には除外するということにしてしまって,婚姻の効果というのを説明,根拠として残すというか,どちらかと。
○中田委員 私も,同居・協力・扶助義務との関係がどうなるかということが,一つ気になっておりました。
  それからもう一つは,仮に遺言にもかかわらずというか,正に破綻しているから遺言するのではないかなと思うんですけれども,遺言にもかかわらず,短期居住権を優先するんだとすると,生前に処分するという方向にインセンティブが働くのではないかなという気もします。そこで,根拠付けの点と,実際上の影響の点と,両面から検討する必要があるかと思いました。
○大村部会長 今の御意見は,むしろ遺言がされている場合についてまで,強行規定的なものを認めるのには疑問があるという方向ですか。
○中田委員 飽くまで今回の御提案をベースにして考えてみると,どんな問題があるかということを考えてみた次第です。冒頭に申しましたとおり,短期と長期とはかなり性質が違っていて,短期については婚姻の効果から強行規定性を導いているということですが,それに伴う問題がいろいろあるのではないかということです。
○堂薗幹事 問題点は御指摘のとおりかと思いますが,基本的には,この同居・協力・扶助義務との関係で言いますと,例えば不貞行為の慰謝料請求の事案で,婚姻関係が破綻しているというような主張がよく被告側から出てきますが,そういった場合でも,実際に婚姻関係が破綻していて,損害賠償義務は負わない場合というのは極めて少ないのではないかと思います。これを踏まえますと,婚姻関係がかなり悪化していても,実際には,こういった民法上の義務がなくなっているというところまでいく事案というのは,それほど多くないということになりますので,この同居・協力・扶助義務から,ある程度の部分は説明ができるのではないかと考えております。仮に婚姻関係が完全に破綻していたという場合には,解釈上,保護の対象から外れる余地があるのではないかというのが,先ほど申し上げた趣旨でございます。
  ただ,あえてこういった同居・協力・扶助義務から説明しなければいけないかというと,必ずしもそうではないと思いますし,明渡猶予期間という観点から説明する方が妥当なのかどうかという辺りを含めて,更に検討してみたいと思います。
○窪田委員 確たる意見があって申し上げるのではないのですが,先ほどから破綻ということが出ていて,恐らく破綻というのは,今,堂薗幹事からもあったような形で,不貞行為に基づく損害賠償の場合というのを念頭に置いて,例外に当たるのではないかという議論とも接点があるのかなと思うのですが,私自身は,不貞行為に基づく損害賠償の話とこの場面は,完全に切り離した方がいいのではないかと感じております。
  というのは,不貞行為に基づく損害賠償の場合については,そこで婚姻生活というのが保護法益となっているとされるわけですが,それは法的な形式でもあると同時に,法的な形式を通じた上での実体的な関係というのが保護法益になっていると思います。他方,恐らくここで問題となっているのは,婚姻に基づいて,例えば配偶者名義の不動産に住んでいたという婚姻関係に基づく事実なわけですよね。幾ら破綻していても,要するに他人の家に当然に住むということはあり得ないわけですから,それを支えるとしたら婚姻関係しかないです。それに基づいていたという居住の事実というのが,一体どこまで保護されるのか,例外的なものであるのだけれども,短期居住権という形で保護されるのかという問題なのだろうと思います。
  その意味では,同居・協力・扶助義務からストレートに説明するというよりは,やはり何かもう少し婚姻の,ちょっと漠然とした言い方ですが,婚姻の予後効であるとか,また西幹事の御発言では,猶予期間ということに触れていたのだと思いますが,生存配偶者の生存権というのはちょっとまた行きすぎなのかもしれませんが,でも,ニュアンスとしては,何かそういうタイプのものなのかなというふうな気がいたします。だから,その意味では,私自身はやはり破綻しているかどうかというよりは,そこでの生前の状況というのが,どういう法律関係によって制度化されているのかということだけで,形式的に判断すべきではないかと思います。
  ただ,そうはいいましても,先ほどから出ている問題の,つまり積極的には配偶者の承認を得てというようなことを要件としないとしても,でも,追い出せなかったのだから,現にそれは承認を得ているのと同じ状態だよねという説明はできるとは思うのですが,しかし,他人に遺贈するというふうなことをした場合には,そこでは被相続人の意思は明確になっているわけです。にもかかわらず,なお一定の期間はそこに居住することができるのだという説明は,何か最終的にそういうことを政策判断として認めるということはあるのだろうとは思いますが,かなり説明としては難しいことは確かなのではないか思います。
○村田委員 紛争が生じたときにいろいろな意味で解釈の余地が残らざるを得ないのはそのとおりですし,そのために基本的な原理,理屈をどうお考えになるかという観点から,いろいろ御発言があったと思いますので,そこは更に詰めていただければと思うんですけれども,全然違う次元からの視点として,短期の居住権の問題を議論するのにすごく解釈の余地が広くなると,そこをめぐっての争いが長期化するという非常に本末転倒の状態が生じかねない。そういうことをできれば避けて,分かりやすい,簡明な制度を目指すべきではないかと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○増田委員 ③の関係なんですけれども,同居・協力・扶助義務を根拠とするとなると,全く同一の義務を負う内縁はなぜ保護されないのかという話になってきます。しかし,発想を変えると,基本的にこの③はほかのと違って,相続の問題ではなくて,一時的な生活の保護の問題に帰着させることができるのかなと思ったりはします。で,最初に感じた違和感から言うと,遺贈だと,相続人は遺贈義務者として履行義務を負う立場ではないのか,引渡義務を負っている方の立場の遺贈義務者が,その権利者の権利を制限するような権利はあるのかということです。そこが非常に違和感を感じたところですので,ここは権利というのではなくて,多分,明渡猶予,それも3か月とか6か月とか短期のもの,そういうような話で落ち着けた方がよろしいのかなと。だから,③以外の短期居住権の問題とは切り離して考えた方がいいのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。それは,遺贈の場合についてということですね。
○増田委員 そうですね,遺贈の場合ですね。
○浅田委員 ちょっと話は戻るかもしれませんけれども,先ほどの山本和彦委員からの,この制度は一体何なのかということについての銀行界からの考えについて改めて整理させていただきたいことと,加えて今問題になっている③についての意見ないしは疑問提起をしたいと思います。
  まず,この制度の基本的な部分に関して言いますと,私としては,相続間の利害調整を考えているということでありますが,この場合,その外部にある第三者,取引債権者も含みますけれども,に対しては,この制度設計においてネガティブな影響がない,すなわち中立的であるということが望ましいと思っております。したがって,今回の短期居住権に関しても,現在の判例理論によると使用貸借だと言われているものが,賃貸借等のいわゆる一般債権者に対抗できるようなものに変容してしまうということであれば,それは問題なのかなということをまずは申し上げたいと思います。
  その上で,これは長期居住権にも関係するわけですけれども,仮に対抗要件ということになるというのであれば,まず最低限押さえておきたいこととして,銀行が抵当権設定登記を経た場合においては,その登記時点において,抵当権者としては対抗要件を具備しており,基本的にはその後の相続発生等において,いわゆる対抗力が失われないという制度を望むものであります。
  その上で,新たな疑問点として③のところでありますけれども,この部会資料の3ページの3,(1)法的性質等の3段落目のところで,その点についての強行法規性ということが書かれているわけでありますけれども,これに関しては非常に,銀行取引独自の特異な論点なのかもしれませんが,例えば銀行としては,抵当権設定契約はするけれども,登記は留保している場合,被相続人,所有者との契約において,その抵当物件について処分をしない,賃貸に出さないというような処分禁止を債権的契約として結んでいるということがあると思います。抵当権設定契約を結ばなくても,俗にネガティブプレッジと言いますけれども,債権保全のために一般資産,引当資産を維持するために,債務者に対して,自己の資産に対して処分をするなということを約諾させるということがあります。
  こうした場合に,議論はあるとは思いますけれども,約諾者について相続が発生した場合においては,その契約上の地位が相続されるというふうに理解することができると思っております。そうした場合に,可能性としてですが,相続人が新たな賃借権を設定するということは,債権者との間の契約において約定違反を主張でき,ないしは履行請求ができるという地位にあるのかなと思っております。それが強行法規ということになれば,そういう約定というか権利が,現状での法的効果の議論はさておき,基本的に否定されることになろうかと思います。
  したがって,この観点からしても,ちょっと現行法から劣後するのかなという懸念を持っています。
○堂薗幹事 ③の点ですけれども,私の先程の御説明が不十分であったと思いますが,ここで考えているのは,被相続人の処分権を一定の範囲で制限するという趣旨なんですけれども,ここで遺贈あるいは死因贈与を例として挙げているのは,被相続人が無償で処分をした場合については,短期的な居住権に劣後してもやむを得ないのではないかという点にその趣旨がありますので,被相続人の処分であっても,何らかの経済的な合理性があってやっているもの,有償の処分などについては,強行法規性の対象にはならないという前提です。ですので,今,浅田委員が言われたように,抵当権の設定契約の中で,何かの約定がされたような場合に,それに優先させるということまでは考えておりません。
○大村部会長 御議論は,先ほど山本和彦委員がおっしゃった第三者というのをどのように整理するのかということにつながるかと思いますけれども,その辺りはまた少し整理していただければと思います。
  ほかにも御議論があるかもしれませんが,ちょうど中間ぐらいの時間になりましたので,もし今までの話と続けて是非ここで,という御発言があれば,それを承りますが,よろしければ,ここで少し休んで後半の議論に移りたいと思います。特に,何かございますか。
  よろしいでしょうか。
  では,今,3時30分ちょっと前ですので,3時40分まで休ませていただきます。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは再開させていただきたいと思います。
  長期の問題も残っているのですけれども,短期の方について,今日の段階で言っておきたいという御意見がありましたら,まず伺いたいと思います。
○水野(有)委員 1点だけお尋ねしたいのですが,短期の居住権というものに関しては,遺留分減殺のときはゼロと評価するという御認識で作られているのでしょうか。それともその件については特に何も考えてられないんでしょうか。
  それと関連して,譲渡はできないと書かれているということは当然,差押えなどもできないという御認識で書かれているんでしょうかというのが,そこは御質問したいところでございます。
○堂薗幹事 当然,遺留分減殺請求権との関係でも,短期居住権を取得したからといって,その分,配偶者が一定の価値を取得したという前提で算定することは考えていません。
  それから,4で譲渡転貸禁止ということにしておりますので,当然,短期居住権自体を差し押さえるということもできないことになると思います。もっとも,短期居住権は,長期と違って,占有を喪失すると権利が消滅するという前提ですので,4がなくても,基本的には他人に譲り渡したり転貸をしても意味がないということになろうかと思います。
○水野(有)委員 ありがとうございました。
○垣内幹事 大勢に影響はないところだと思いますので,大変細かい質問で恐縮なのですけれども,存続要件と申しますか,消滅事由に関する⑤のところで,占有を喪失しということが要件になっているんですけれども,ここでいう占有を喪失というのは任意に占有をやめた場合だけでなく,占有を奪われた場合も含んでいる概念なんでしょうか。
○堂薗幹事 理論的には占有回収の訴えをして占有を回復すれば,その間は占有が継続していたことになるので,権利は喪失していないという扱いになるのではないかと思いますが,建物ですので,実際にはそういった場面は想定し難くて,基本的には任意に明け渡した場合を想定しております。
○上西委員 差押えとの関連で,長期居住権のところで質問しようとしたことです。短期居住権のところ,5ページに注書きで,公租公課について言及されておられます。短期居住権の存続期間中は配偶者が公租公課を負担するのが相当と考えられると。また,9ページの下から5行目の注1でも,公租公課については短期居住権と同様に配偶者が負担するのが相当と考えられるとあります。負担するということと納税義務者になるということは別でして,御案内のとおり,1月1日が賦課期日でその時点の所有者に課せられるわけです。所有者が納税する金額について負担するという位置付けにしないと,地方税を巻き込んだ大改正になります。また,滞納処分の手続も含めますと大変なことになりますので,現行の枠組の中で,納税義務者としてではなく,結果としての負担する者になるという位置付けであるべきだと思います。その考え方でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 はい。ここは,基本的には相続人間で,短期の方ですと相続人間でどう負担するかという問題ですし,長期の方ですと建物所有者と長期居住権者の内部関係として,どちらがどう負担するかという問題になるものと思います。
  したがって,建物所有者が納税した場合にその求償関係をどうするかという点を定める趣旨でございまして,納税義務者を変えるという趣旨ではございません。
○上西委員 了解いたしました。
○石井幹事 占有の話が出たので,それとの関係で一点申し上げさせていただきたいと思います。遺産分割の場面ですと御高齢の方が多いので,施設に入所されたりするような方も多いのではないかなと思いますが,一口に施設への入所といっても,短期の入所から帰宅を予定しないようなものまでいろいろあると思います。基本的には事実認定の問題なのかもしれませんけれども,施設への入所という事情が占有の有無の判断にどのような影響を及ぼすのかについても御議論いただき,要件を明確にしていただくということも一つの方策かなというふうには考えております。
○大村部会長 長期の方でもホームへの入居などの問題が出ておりましたけれども,用語をどうするかという問題はありますけれども,区別の基準をどのように考えているのかということについて,少し明らかにする必要はあろうかと思います。
  そのほか,よろしければ,第3から後,第4も含めて,御質問,御意見等をいただければと思います。
○窪田委員 長期居住権に関して,先ほど,短期でも長期でも期間の点が気になると申し上げた,その期間の点についてですが,長期的な居住権の保護ということで資料2の6ページのところに①として,終身又は一定期間という形で定められていますが,ただ,実際に意義を持つのは恐らく終身の方なのかなという気がいたします。もちろん比較的若い生存配偶者が5年間だけかというのも可能性としてはあり得ないわけではないですが,余りリアリティーがないだろうと。
  そうすると終身ということを定めざるを得ないし,それに対して,この場合には一定の対価に当たるような,財産価値に当たるようなものを支払わなければいけないということで,それをどうやって算定するのかという問題が出てくるのだろうと思います。
  一定期間でも終身ということでも,全く同じように年数なり月数掛ける負担額という計算は可能なのだろうと思いますが,一方で,恐らくここで示されているものは終身というふうに言って,それを算定するという場合には,現に終身の期間が何年だったかという話ではなくて,予想される期間ということを前提として計算するということが正しく11ページの計算式の中にも示されているのかなと思います。
  したがって,早く実はその関係は終了しても,それが更に長く続いても,それに関して,何か不当利得の問題だとかそういうことは生じないということなのだろうと思います。ご質問したい点は2点あるのですが,まず,その点はそれでよろしいということでしょうか。
○堂薗幹事 そういう理解です。
○窪田委員 その上で私,ちょっと気になりますのは,比較的,高齢の人という場合で,平均余命までの残余期間とするというふうなことが出ていて,これは逸失利益の計算でもよく使う式ではあるのですが,本当にこれで合理的な計算というのができるのかなというのが気になっている部分がございました。
  というのは,つまり非常に若い年齢ですと,平均余命というのがそのまま生存可能年数ということになると思うのですが,60歳,70歳の人に対しても同じように計算するのかと。あるいは平均余命を超えておられる,正しくここで一番保護しなければいけない生存配偶者ということになるのですが,こんなのは些細な問題なのかもしれませんが,実はここで示されたほど,その期間の計算というのは単純ではないだろうなと。単純ではないとすると,その期間というのを基にして,短くても長くても動かさないというときに,十分にいろいろな議論に耐え得るものになるのかというのが少し気になりましたので,その点,御質問ということになるのかもしれませんが,お尋ねさせていただきました。
○堂薗幹事 逸失利益の場合も含めて,例えば平均余命を超えている場合にどうするかとかいうのは,問題としてはあるわけでございますが,確かに終身ということにしますと,その期間が本当にどの程度あるのかというのが予測になりますので,そういった意味で長期居住権を取得する側にもリスクになりますし,建物所有権を取得する側にもリスクになるので,そこのリスクをどう評価するのか。リスクがあるからその分を考慮して財産評価額を減じるということは考えられると思うんですけれども,ただ,その場合にどちらから減額するのかという辺りが問題になるのではないかと思っておりまして,その点については今後も詰めて検討していきたいと思います。
○窪田委員 特にこの部分にそれほどこだわるつもりはないのですが,今言ったリスクというのが実は双方向に平等に働くリスクではなくて,一方向により強く働くリスクなのではないかという点が気になっています。つまり,本当にここで保護しなければいけない高齢者ということになりますと,余り縁起でもない言葉なのかもしれませんが,予定していたよりは早くに亡くなってしまったというのは実は比較的,短期間の差しかもたらしません。ところが,幸い,非常に長生きしたということになりますと,そこでは非常に長い期間になるということもあり得るわけですよね。
  そうなった場合に,所有者側の負担というのは実は大変に大きなものになるのかという点です。それが蓋然性に基づいて計算した式で,全部,正当化されるのかということでご質問した点の背景です。ただし,対案があるわけでは全然ございません。
○上西委員 平均余命についてです。これは割り切りだと思います。相続税には未成年者控除というのがあります。相続開始の年齢と二十歳との差額について,27年1月1日以降でしたら1年当たり10万円の控除額になります。障害者控除でしたら85歳と相続開始時の年齢との差額について1年当たり10万円です。この85歳というのも平均寿命の伸長等に応じて変更になるので,年数の設定については,ある意味,割り切りかなという気はいたします。
  ただ,問題となるのが評価額です。11ページで建物賃借権の評価額というのは,各国税局が出している借家権割合によります。原則30%になっていまして,これは分かりやすい数字です。このように,何らかの割合を持ってくれば,建物賃借権の評価額は出ます。しかし,建物適正賃料額はなかなか難しいんです。
 例えば通常の借地権でしたら,借地権割合を単純に掛けるという形になりますし,定期借地権でしたら存続期間に応じた年金複利現価率を乗じるという形になります。ところが,存続期間については,一種の割り切りで解決したとしても,建物適正賃料額は土地のようには簡単ではありません。土地については路線価が全国的に示され,他の評価方法もありますが,大体,評価額は固まります。他の要素を考慮することが余りないんです。不整形地等についてもルールがほぼ決まっております。
  これに対して,建物については固定資産評価額以外に公的な尺度がなくて,なかなか難しいです。実務の観点から見ますと,建物の中の家具や据付けの家具等の建物の一部になっているものもあります。建物の固定資産評価額とかなりかい離している事例も見当たります。ですから,どのような尺度を持ってくるのかです。別の尺度がないとすれば,固定資産評価額となるのですけれども,そのままダイレクトに使うのか,一定の評価の加減算を当事者で行うのかですね。
  当事者で評価を行う方法についてです。一定の評価額を決める方法は,経営承継円滑化法における自社株式について固定合意と除外合意があります。そのうちの固定合意は,弁護士,税理士,公認会計士が証明した金額でやりなさいというものです。そういう余地を残しておくのかどうかについても,御審議いただければなと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  11ページの5の長期居住権の財産評価の部分ですが,この中に式が出ているわけですけれども,そこに入るべき数字というのがどういうものになるかということについて御意見を頂いておりますけれども,この点についてほかに御意見ございませんでしょうか。
○垣内幹事 全く単純な内容の確認なんですけれども,11ページの(注)で書かれております平均余命ですが,これは例えば配偶者が現在75歳であれば,75歳の方の平均余命を想定しているものと私は理解していたんですけれども,そういう理解でよろしいんでしょうか。
○堂薗幹事 はい,そういうものです。先ほど,既に配偶者が平均余命を超えている場合も一定の考慮をした上で……
○垣内幹事 つまり75歳の方は平均して,あと普通に生きる。
○堂薗幹事 ええ,そこはそうです。
○山本(克)委員 平均寿命と平均余命の違いを今,お答えになっているので,平均余命を超えることはあり得ないのではないですか。
○堂薗幹事 すみません。平均余命はそうですね。
○大村部会長 御質問は,年齢ごとの平均余命というのを想定しているのかということかと思いますけれども,それはそういう前提ですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 そのほか。
○増田委員 そもそも論ですみません。
  そもそもこれは単なるオプションなんですか,それとも形成権的に生存配偶者がくれと言ったらもらえるものなんですか。
○堂薗幹事 資料12ページの(7)の「その他の検討課題」アのところで書いておりますが,配偶者の優先取得を認めるのか,あるいは完全に遺産分割のオプションとしてそういった分け方ができるということにとどめるのかという辺りが大きな問題ではないかと思います。
  優先取得まで認めるということになりますと,他の相続人との利益をどう調整するのかという辺りが非常に難しい問題として存在するのだろうという認識でございます。
○増田委員 オプションということであれば,冒頭で言ったように今でもやろうと思えばできるんだろうと思いますし,かえってこういうものを明文化することによって,保護にならない場合もあり得るのかもしれません。居住権を確保する代わりに現預金はわずかしか取得できないような分割であれば,単に住む家があってもお金がないので生きていくには不都合であるということもあると思います。
  これを明文化する意味がよく分からないわけですね。協議であれば,どんな内容の協議でもできるわけであって,具体的相続分の計算も余り必要ないだろうし,審判でやる場合だったら,式を別に法定しなくても,裁判所が具体的な事案によって具体的相続分を定められるでしょうし,明文化のメリットは端的に何なんでしょうか。
○窪田委員 ここに定められているような内容については,先ほど,堂薗さんからも御説明があったかと思うのですが,ここに定められているような内容というのを現行法でもできるというのは本当にそうなのかという点については,少し気になります。
  つまり,当事者間で賃貸借契約を結んで,そしてそれを踏まえた上である1人の人が全部,まるごと,名義だけを取るというようなことは,遺産分割協議のレベルであればできると思うのですが,遺産分割審判において,裁判所が介入をする中でそうした処理をするということは可能なのでしょうか。
  可能なのだとすれば,この制度の必要性は確かにそれほどないということになるのかもしれないのですが,その点について教えていただければと思います。
○大村部会長 いかがでしょうか。どなたか。
○石井幹事 十分なお答えになっていないかもしれませんが,一般的にはこういった遺産分割審判の中で居住権を設定するような例というのは,さほど多くなく,建物なら建物,不動産なら不動産を取得させるという例がやはり多いのではないかなというふうに思っております。
  逆に私の方でお伺いしたかったのは,優先取得というのは,裁判所が一切の事情を考慮して遺産を分割する上で,裁判所の裁量に一定の制約を定めるようなものと理解してよろしいんでしょうか。
  事案によっては,例えば居住権の価格を算定すると非常に低額になってしまって,自分の具体的な相続分との兼ね合いで見ると,本当だったら建物自体を取得できるんだけれども,短期居住権とお金でもらいたいというような希望を述べられる方もいると思うんですが,そういった場合でも,裁判所は希望通りに分割をしなければならないということなのでしょうか。
○堂薗幹事 仮に優先取得権を認めた場合に,どういった形でそれを実現するかという点については,詰めて検討できているわけではありませんが,一つ,イメージとして考えられるのは,配偶者が長期居住権の取得を希望すれば,自分の具体的相続分の範囲内である限り,配偶者は当然に長期居住権を取得し,その部分については誰も何も言えなくなるということがあり得ると思います。
  その場合には,配偶者は,長期居住権を取得した残りの部分について,ほかの財産を取得するということになりますが,残りの部分については従前の遺産分割と同じように,協議ができなければ,裁判所が裁量の下で分けるということになりますので,そういった意味で優先取得権を認めるということになると,裁判所の裁量権に一定の制約を課すということになるのではないかと思います。
○大村部会長 裁量に対する制約の度合いは幾つかの案を考えているということなのではないかと思いますが。
  ほかに何か。
○南部委員 長期居住権の方が短期よりかかなり問題があるというようなイメージでして,皆さんの御意見もそうであったかと思います。私も,期間の問題があると思います。質問が二つあります。かなり高齢化になってきておりますので,例えば父親が亡くなる寸前に再婚されて,法律的には子供と親子関係はあるけれども,実質,血縁関係はないというふうなパターンもあるかと思います。そうすると,自分と血のつながっていないお母さんのために家を取られ,そしてずっと固定資産税だけ払わなければいけないということもあり得るのでしょうか。もう一つは,実のお母さんであったとしても,途中で再婚なさるということがあったときには,この居住権という考え方では再婚なさった方もそこに住むことはできるんでしょうか。
○堂薗幹事 再婚した場合も長期居住権の場合は,それをどう利用するかというのは,長期居住権を取得した配偶者の自由で決められるということになりますので,そこは再婚した人を住まわせるということも当然できるという前提でございます。
○南部委員 仮に再婚した後,母親が先に亡くなって夫だけになった場合は。
○堂薗幹事 長期居住権の場合は,それを設定した場合に残りの所有権は他の相続人が取得するという前提になっていますから,配偶者が亡くなった時点で,その建物所有権を取得した人が使用権限も有することになります。したがって,その場合には,再婚した後に住んでいた人は明渡しをしなければならなくなるということになります。
○南部委員 分かりました。
○窪田委員 今の点に関連して1点,第2の方に戻ってしまうのですが,ご質問させてください。再婚の問題というのが長期居住権の方で再婚が終了原因にならないというのは正しく対価を払ってその利用権を取得している,遺産分割は一つの形態だからというふうに説明することができるとは思うのですが,短期居住権に関して再婚が終了原因になるという可能性については,検討はする必要はないのでしょうか。短期の方です。
  つまり,長期の方は正しく対価を払った利用権なので,これは再婚しようが何しようが関係ないけれども,短期利用権というのは言わば無償で,婚姻の言わば予後効として認められるものなのだとすると,再婚というのは場合によっては終了原因になるのかなと今,御質問を伺いながら,ふと気になったものですから。
○堂薗幹事 終了原因としてそういったものを含めるかどうかというのは,検討の余地があると思いますので,こちらでも検討したいと思います。
○大村部会長 選択肢としてはありえますね。いいかどうかは別として。
○窪田委員 余り深刻に考えることではないのだろうと思います。
○大村部会長 長期の方に戻っていただきまして,御意見あるいは御質問,ほかにありましたら是非頂きたいと思います。
○中田委員 長期について今,再婚の話題も出たところですけれども,長期間ですからいろいろなことが起こり得る,しかし,終身だという制約がついている,そういう立法例として,既に高齢者居住安定確保法があると思います。そこでやはり当該賃借人が亡くなった場合,どうするかとか幾つかの問題点が検討されていると思います。それから期間付きの場合についても別の規定があるんですが,それとの比較ということも,もし検討しておられたらお聞かせいただきたいですし,まだであれば,今後,した方がいいのではないかと思います。
  もう一つ,11ページの算式のところなんですけれども,2種類の方程式が書かれているのですが,第1の方は無償で使用する場合ですけれども,ここで存続期間の定めがある場合もあり得ると思うんですが,その場合には途中で死亡するリスクを減価しなければいけないことになるのではないかと思います。
  それからもう一つの有償で利用する場合には,賃借権が含まれる場合とほぼ同様というふうに書かかれているんですが,これはしかし,やはり通常の賃借権ではなくて,期間の定めがある場合には多分,更新がなくて,かつ終身だという制約がついてる,先ほど申し上げた法律に出てきているようなタイプのものですから,やはり普通とはちょっと違うんではないかなと思います。
○大村部会長 この計算の部分は,基本的な方向性を示しているということで,もう少し詰めて考える必要があるかと思いますけれども,最初の高齢者の住宅とのことについてはいかがですか。
○堂薗幹事 それとの比較についても今後,更に検討を進めていきたいと思います。
○金澄幹事 ⑤のところなんですけれども,これは長期居住権ということで期間を定めるなり,平均余命なりということにするんですけれども,そうすると,残存期間の居住部分,設定期間よりももっと短いときに亡くなったときに,その残存部分というのを今度,またお子さんが相続をするということになるんだろうと思うんですけれども,そのときの経済的な価値の評価の仕方というのがまた非常に難しくなるということが一つと,逆に平均余命より長生きした場合についても,今度,やはり完全な使用権というのを相続するということになると思うんですけれども,そのときには全然,評価をしないで,そのまま完全な所有権を取得するということになるのか,短くなったときには残存期間の経済価値をまた子供が相続するということになるので,そこのところの再度の相続のときに非常にバランスというか,考え方が難しくなるのではないかなということを心配をしております。
  それともう一つ,先ほど,増田委員がおっしゃったことなんですけれども,用益権の設定の方法による遺産分割の可否ということについて,非常に昔の裁判例なんですけれども,富山家裁の昭和42年1月27日,家月の審判例などでやはり用益権を設定した事例というものがあったり,東京家裁でも昭和52年1月28日にやはり用益権,22年間の土地の賃借権を設定した事例というものもあるので,そういうものをうまく活用することによって,こういう新しいものを特に作らなくても解決ができるということもあるのではないかということを補足させていただきます。
○大村部会長 2点,御質問ありましたけれども,1点目から順にお願いします。
○堂薗幹事 まず,基本的には長期居住権も死亡すれば消滅するということで,一身専属的な権利という理解ですから,相続の対象にはならないという前提です。ですから存続期間満了前に亡くなった場合も,その分は建物所有者が利益を得るわけですが,それは仕方がないと,そもそもそういう権利だという前提でございます。ですので,再度の相続というのは想定しておりません。
  それからもう一つ,遺産分割の審判で用益権の設定ができるかという点については,正にこの制度が必要かどうかに関わってくるところだと思いますが,少なくとも建物については,物権として,用益物権が用意されていないという点が問題だろうと思っております。用益物権の設定による分割ができない以上,あとは賃貸借契約なり使用貸借契約で使用権を設定するということになりますけれども,通常,契約について当事者間の合意以外で成立を認める場合には,それは法律できちんと書いてありますので,法定の賃借権なり何なりということで書いてありますので,現行法の下でそういった規定がない中で,本当に遺産分割の審判で,裁判所が当事者間の合意もないのに賃貸借契約なり使用貸借契約の成立を認められるのかという点については,こちらとしては極めて疑問に思っているところです。
  現行法ではこういったことをしたくても,受け皿となる権利がないのではないかということで,今回の方策をお示ししているということでございます。
○大村部会長 先ほど,増田委員も御指摘になられたところだと思いますけれども,どこまでのことをやるのかということがあるだろうと思います。今のような選択肢を作る必要があるかどうかということが一つと,それからそれを遺言等で被相続人があらかじめアレンジをすることができるのかというのがもう一つ。何段階かあるかと思いますけれども,最初の点については,堂薗幹事がお答えになったように,現にやっているものはあるかもしれないけれども,より安定した基礎付けが必要ではないか。そういう御趣旨だったかと思います。
○浅田委員 また第三者から見た話でありますけれども,長期居住権に関しても,対抗との関係については短期のところでお話ししましたとおりのことがございまして,ここでは改めて繰り返しはしませんけれども,やはり対抗の関係で問題になり得るので,その制度設計についてはご配慮いただきたいということがあります。
  そのほかに,新たな権利を設定するかということについて,第三者から見て,若干細かい問題提起でありますけれども,例えば賃貸借であれば,抵当権が優先していた場合には,賃料に対して物上代位で賃料差押えができると思います。
  今回提案されている居住権というのは,基本的に賃料相当分というのは相続分において計算されるということなので,期中において掛かる賃料の受け払いがなされるということは想定されていないということになろうかと思います。
  そうしますと,抵当権者という非常に限定された立場からではありますけれども,そういう賃料相当分に対して何らかの権利を主張するということが阻害されるのか,ないしはそれに相当するような代替手段というのを検討されているのか,ということが気になるということであります。
  それに関連して,もうちょっと細かい話をしますと,例えば競売を行った場合においても,例えば賃貸借であれば,現行の民法395条において,買受人が出現しても,6か月間の猶予があるということがありまして,こういう猶予期間を置くということは,長期居住権の制度設計に関しても十分参考になり得ると思います。
  ただ,その一方で395条の2項を見ますと,基本的に賃料の支払いという期待というのは失われていないという制度設計だというふうに思っておりますので,そういう395条類似の検討をすることにおいても,やはり賃料に対する債権者の期待というのをご配慮いただければと思います。
○堂薗幹事 長期居住権については,第三者対抗力まで付与する必要があるのではないかというように考えておりまして,その場合に抵当権者との関係をどう考えるかというのは非常に難しい問題だと思います。ただ,現行法上も,例えば,被相続人が自分の死亡を効力の発生時期として,第三者と賃貸借契約を締結し,賃料の前払いもしていたというような場合であっても,基本的には被相続人の死亡後に第三者が対抗要件を取得すれば,その後に設定された抵当権には優先するということになるのだろうと思います。長期居住権の場合には,基本的には,遺産分割などでこれを取得した時点で第三者対抗力を取得することになりますから,その時期と抵当権の登記時との前後関係で,優劣を決めるということにならざるを得ないのではないかと思います。
  したがいまして,長期居住権を取得した配偶者は,無償で建物を使用することができるということにしますと,賃貸借契約で賃料を全て前払いしているのと同じ状態になりますが,そういった問題は現行法上もあって,そこはやむを得ないのでないかというのが現段階での整理です。
○浅田委員 抵当権設定の登記が先にあって,その後,相続が発生したことによって,その時点において長期居住権が発生,及び占有によって対抗要件が具備されたという場合においては,私も検討の余地があるという理解です。ありがとうございました。
○増田委員 オプションだということになると,それほどうるさく言う必要はないのかもしれませんが,少し懸念材料だけ列挙させていただきます。
  まず,具体的相続分として居住権を取得することによって,手元にお金がないという状況になった場合,後発的事情によって引っ越す必要が出た場合,現行だと,家を売って小さいマンションに引っ越すと,家を売って施設へ,より充実した高い施設へ行くというようなことが考えられるけれども,お金が手元になければ,それができなくなる。
  相続の際に相続税の支払いのために換価が必要な場合,家を処分しなければいけないのに,生存配偶者が居住権を主張して頑張ったら困るのではないかという問題がある。
 社会経済的に見て,長期にわたって不動産の流動性が阻害されるという問題がある。その不動産に関しても,不動産といっても不動産マイナス居住権になってしまって,非常に価値が低くなり,ひいては,その不動産を担保に取ろうとする場合には,将来の担保価値が下がるリスクがある。無担保債権者にとっても,債務者の責任財産の価値を予測しにくくなる。
  ちょっと笑い話みたいになるけれども,今は同居している配偶者がいる人の方が与信する上では信用があるんですけれども,この制度ができると逆に信用がなくなるのではないか,相続が起これば責任財産減少のリスクが高まるという意味でなくなるのではないかという懸念がある。あと,先ほど,再婚の話が出ましたけれども,再婚の相手には承継されないということになると,再婚しにくくなるかもしれない。
  それから,審判においてもそういう選択肢を作るということなんですけれども,先ほど申し上げた共有分割の審判というのは理論的にはできるだけ避けるべきだとされていて,それは後日,共有者である共同相続人間の紛争が残るからだと言われています。それなのに協議で賃借権など利用権を設定できないような仲の悪い共同相続人間で仮にこういう審判ができるとしても,同様に紛争が後日に残るので,そのような審判が相当かどうかということについてはかなり慎重な考慮をしなければならないので,結局適用される事案はかなり特殊な場合に限られる,そういう問題もあるようにと思います。
 散漫になって恐縮ですが,一通り,懸念材料を並べさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございます。幾つか御指摘があったかと思いますけれども,一番最初におっしゃった,所有権ならば換価の余地があるけれども,この長期利用権の場合にはその点はどうなるのかという点は,御説明の中に入っていたとは思いますけれども,改めてお答えいただいた方がよいかと思います。
○堂薗幹事 長期居住権の場合は,そういう事情の変更,例えば終身そこに住むつもりで長期居住権を取得したけれども,施設に入らなければいけなくなったという場合でも,換価は難しいというのは御指摘のとおりだろうと思います。
  ですから,そういった点も踏まえて,配偶者はその選択をしなければならないということになろうかと思います。仮にこれを換価できるようにしようということになりますと,手段としては,例えば,建物所有者に対する買取請求権のようなものを設けることが考えられなくはないんですが,そうすると建物所有者の負担というのは更に大きくなりますので,なかなか難しいのではないかと考えています。
  したがいまして,ここで考えているのは,基本的には建物所有者に長期居住権を買い取ってもらって明け渡すか,あるいは建物所有者の承諾を得て,それを第三者に譲り渡したり,転貸するということです。ただ,この手段も,長期居住権の場合は配偶者の死亡によって消滅しますので,なかなか換価は難しいという面があるのは御指摘のとおりかと思います。
○大村部会長 ほかにも幾つかの御指摘がありましたけれども,利用権がついているという状態は所有権単独の状態に比べれば,複雑な権利関係が生ずるということになりますので,それに伴って不動産流通はマイナスを被るでしょうし,紛争もそれに伴って増える可能性があるという御指摘かと思います。そういう面は確かにあるでしょうね。
  そのほかいかがでしょうか。
○中田委員 長期の方は遺言で排除できるという理解でよろしいでしょうか。相続させる遺言ですとか第三者への遺贈とか。
○堂薗幹事 そういった形で遺言がされれば,その後,配偶者は長期居住権は取得できなくなりますので,短期とはその点は違うという前提です。
○中田委員 分かりました。そうだとしますと長期居住権の根拠付けは公序ではなくて,政策的な判断になるのかと思いました。そうだとすると,要件の方にも跳ね返ってきて,例えば高齢配偶者の保護ということですと,対象となる方の年齢要件を定めるとか,先ほどの高齢者居住安定確保法ですと60歳以上というふうになっておりますけれども,あるいは配偶者の潜在的共有持分の保護ということですと,ある程度の婚姻期間があったことを求めるとか,あるいは居住保護ですとある程度の居住期間があったことを求めるとか,いろいろな政策判断に応じた要件設定ということはできると思うんですけれども,多分,そうなってくると非常に特殊な制度になってくるのだろうと思います。そうではなくて一般ルールとして認めるとすると,一体,根拠は何なのかということがまた元に戻ってきて,はっきりしないなということが問題点かと思います。
○大村部会長 今,おっしゃったのは優先取得を想定されてですね。
○中田委員 はい。取り分け優先取得との関係でも遺言の方が更にそれよりも優先するということのようですので。
○堂薗幹事 御指摘のとおり,長期の場合に保護要件としてどういったものを設けるのかというのは非常に難しい問題であると思っております。この資料では,単に相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたという点だけを保護要件として挙げておりますが,それだけの理由で配偶者だけが権利主体とされている点について合理的な説明が可能かという問題はあろうかと思っております。
  ただ,なかなかこれを年齢で区切るというのも難しいところがありますし,また,長期居住権の場合には,若い配偶者が終身の権利を取得しても,その評価額は所有権を取得した場合とあまり変わらなくなると思いますので,仮に年齢要件を定めなくても,一般的に,この制度を利用するメリットがあるのは高齢の配偶者となるのではないかと思います。
  そういった観点から,高齢になればなるほど,転居が肉体的にも精神的にも困難になるので,そういったことがないように選択肢をより広げたという説明ができないかと考えているところでございます。
○山本(克)委員 私は居住要件が必要なのかどうか,それ自体,問題のような気がするんですが。例えば本宅と別宅を持っていて,夫婦で本宅に住んでいたけれども,本宅を売り払わないことには相続税を払えないというんで,別宅にこういう長期居住権を設定してあげるという選択肢だってあり得るのではないでしょうか。なぜ同じ場所に住むということが必ず必要なのか,そこがよく分からないんですが。
○堂薗幹事 特に他の相続人の具体的相続分には影響を及ぼさないこととし,さらに優先取得権も認めないということを前提にしますと,そもそも保護要件は必要なくなるのではないかということは十分考えられるのではないかと思いますが,逆にそこまでいくと,今度は何で配偶者にだけ権利取得を認めるのかという問題があるように思います。
○山本(克)委員 違います。私が言っているのは居住要件は保護要件ではなくて,ほかに保護要件があるのではないかということを申し上げたつもりです。つまり,単独では生計を維持する手段を持たないので,一般の賃貸住宅には入居できないような人とか場合とか,そういうような場合を念頭に置いて保護してやるべきであって,何かそういう財産的な要件で画すべきであって,当該建物に居住していたかどうかというのは余り大した話ではないのではないかということを申し上げた。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえ検討したいと思います。
○山本(和)委員 先ほどの換価がどうかという話なんですけれども,これもやはり相続債権者の立場から見たときに,こういう形で分割がされると結局,長期居住権はほとんど換価できない,差し押さえても換価できないということになり,他方,建物の方は,これは配偶者がいつまで生きるか分からないので,買う側は最大のリスクを考えますから,ほとんど値段が付かないようなものでしか売れないような気がするんですね。
  そうすると,こういう分割がされることによって,事実上,債権者側から見れば,一種の差押え禁止財産に近いようなものができてしまうような気もしていまして,それで直ちにもちろんいけないということではないと思うんですけれども,そういう観点からするとかなり問題はありそうかなという印象は受けました。
○堂薗幹事 そういう問題はあるのだろうと思いますが,ただ,賃貸借でも,同じように非常に長期の賃貸借を締結し,賃料を全て前払いしてしまったという場合ですと,同じような問題が生じるのではないかと思います。ただ,御指摘の問題点については引き続き検討したいと思います。
○窪田委員 あまり中身のある発言ではないのですが,今まで議論を伺っていて,弁護士の先生方から今までの遺産分割だってそれはできたのではないかというご発言がありましたが,私自身は先ほどの堂薗さんの認識と同じで,遺産分割協議ではできたとしても,遺産分割審判で本当にできたのかという点については,その根拠がよく分からないなという気がしています。ただ,仮にそれを前提としても,今回の話というのは短期居住権,長期居住権という二つの居住権を設定するというイメージなのですが,実は長期居住権については,今,山本和彦委員からお話があったとおりなのだろうと思うのですが,実は遺産分割の方法を定めているだけなのではないかと。つまり,遺産分割の方法として今までいろいろな方法があった中に,長期居住権という形での遺産分割の方法を定め,したがって,遺産分割協議ではもちろん,遺産分割審判においてもそういう選択をすれば処理することができるという枠組みなのではないかと。
  仮にそういうふうに理解した場合には,現金がない場合にも一定の合理的な遺産分割ができることになります。不動産を換価処分しなくても分割ができるということで,それ自体としての制度の合理性を説明できるのではないかという気がします。その上で,むしろ2段階目で出てくるのがこうした長期居住権を配偶者が選択した場合に,それに優先権を認めるかどうか,これは次の別の問題として政策判断としてあるのかなと。
  そういうふうに2段階に構成して考える,あるいは長期的な居住権の保護,第3という形で挙がっていますと何か新しい権利が生まれるというイメージなのですが,実は単に遺産分割の方法を定めたという理解で考えていった方が議論をしやすいのではないかなという,これは感想めいたもので恐縮なのですが,印象を受けました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほどからオプションが増えるだけなのかという御指摘もされていましたけれども,オプションが増えるということと,そのオプションを選択する生存配偶者にどの程度の権利を認めるかという,2段の問題になっているという御指摘だったかと思います。さらに,被相続人がどうするかという問題もありますので,三つ問題はあるかと思いますけれども,そういうものの組み合わせとして,どれを認め,どこまでいくのかということが検討の対象になるという御指摘だったと思います。
○垣内幹事 今の窪田先生のお話に関連するかと思うんですけれども,私もこれは遺産分割方法について一つのオプションを加えるものであるように思いまして,そうだとしますと,オプションの内容として今,御提案になっているのはかなり特殊な長期居住権という内容の権利で,生存中のみしか存続しないとかその他の内容を持っているわけですけれども,端的に通常の賃借権を設定することができるというオプションを導入するという選択肢が採られてはならない理由というのはどこにあるのかということについて御質問したいのと,もしそういうふうに考えた場合には,もし仮にそういうものがあり得るとした場合,窪田先生も2段階と言われたわけですが,私の角度からしますと次の段階として,賃料を受け取るべき相続分で前払いをすることができるという遺産分割をすることはできるかという次のステップがまたあろうかというふうに思うんですけれども,そのような選択肢についてはどういうふうにお考えでしょうかということをお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 長期居住権の内容をどう設定するかという点については,資料ですと9ページの(4)のアのところで書いているわけですけれども,ここで①から⑥で書いている内容はどちらかというと無償で,賃料を払わないという前提で書いております。もっとも,必ずしもそれに限られるわけではなくて,制度設計としては,法定賃借権のような有償のものにするということも考えられますし,無償と有償,どちらも選択することができるとすることも考えられるのではないかとは思います。
  ただ,仮に有償だけにして,法定の賃借権ということにしますと,資料の6ページで書いてあるもののうち,⑥の「被相続人が遺言で配偶者には長期居住権を取得させ,建物所有権は他の相続人に相続させる」というようなやり方は難しくなるのかなと思います。すなわち,そもそも,遺言によって権利を取得する人に有償の義務を負わせることが可能かという辺りが問題になってくるのではないかと思います。
○山本(克)委員 今の点と関連するんですが,仮にこれを賃貸借というふうに構成された場合に,借地借家法の第2主張の適用関係はどういうふうになるというふうにお考えなんでしょうか。
  私の関心はむしろ現在,審判によって設定されている賃借権の中身が借地借家法に拘束されているのかどうかという方が関心があって,法定の犠牲的な賃借権を設定するんであれば,借地借家法の適用関係についてはその権利の内容として定めることが可能であると思われますけれども,現行の今やっていることは,その辺のこと,リスク。例えば10年と定めた後に更新の問題はどういうふうに処理されるとお考えになっているのか私には理解ができませんので,私はむしろ作った方がいいという立場なので,仮にオプションを増やすのでは,現行でいけているというのは私は必ずしも納得できないところがありますので,その辺のお見通しについてお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 仮に法定の賃借権のような形で認めた場合も,そこはきちんと財産評価をした上で,賃料を払うにしても払わないにしても,その存続期間に応じた財産評価をすることを前提としておりますので,基本的には期間の更新というような形で借地借家法の適用を認めるのは難しいのではないかと考えております。
  もちろん法定の賃借権でも有償だということにすれば,場合によっては可能なのかもしれませんが,今,ここで考えているのは基本的には期間限定で,期間が満了すれば更新もされずに終了するというようなものを念頭に置いております。
○山本(克)委員 仮に期間を定めたら,定期賃貸借のようなものを借地借家法で定めているというのは別の方式ないし要件の下に認めるということを意味するんだということでよろしいですか。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 賃貸借の場合と比較しながら検討するというのは必要なことなんだろうと思います。
  この制度を新しい権利を作るという形で考えるときに,賃貸借と比較してどこを変えたのかというように考えていくのか,あるいは法定賃借権のようなものを考えて,それで不都合があるところをどうやって直していくのか,二つの方向があるだろうと思いますけれども,いずれにしましても垣内幹事の御発言から始まった議論は,賃借権並びで考えたときにどんな問題があるかということを検討せよという御指摘として受け止めさせていただきます。
  そのほかいかがですか。
○米村委員 専門外なので素朴な質問ですが,先ほどから遺産分割のオプションとしてというお話ですとか,それから,中田先生から高齢者居住安定確保というお話がありました。超高齢社会になってくると子供も高齢者に近かったり,すでに高齢者であったり,居住権の保護という意味で,生活保障の観点から,住み続けることが必要な人が配偶者以外にもいるかと思います。オプションというような形にしたときに,それは配偶者だけ優先的にということになるのか,必要に応じて,ほかの相続人にも適用されるのかというところはどうなのでしょうか,教えてください。
○堂薗幹事 そこも,この制度をどう説明するかというところに関わってくるのですが,現行法上使用権の設定という形で遺産分割をするのが難しいことから,遺産分割のオプションとしてこういう制度を設けたというだけであれば,それは,対象を配偶者に限定する必要がなくなってきますので,その権利主体を他の相続人にまで広げることも,選択肢としてはあり得るんだろうとは思います。
  ただ,そもそもそこまでいくと,今度は逆に相続の場面でだけ,使用権の設定ができるようにする理由もなくて,例えば,建物についても用益物権を認めればいいではないかとかいう議論にもつながっていきますので,現時点では,配偶者に限って,しかも相続の場面だけで,使用権の設定を認めるということを考えておりますが,ただ,その点の説明の仕方については工夫が必要であろうと思っております。
○大村部会長 米村委員,今の説明で,よろしいですか。
○米村委員 はい。
○大村部会長 そのほかいかがでしょうか。
○水野(有)委員 これも質問なんですが,6のところの被相続人は,遺言又は死因贈与によって配偶者に長期居住権を取得させることができるという規定があるのですが,これに対する遺留分減殺請求というのは想定されているんでしょうか,されていないのでしょうか。
○堂薗幹事 この場合は当然,無償で長期居住権を取得しているという前提ですので,その部分については財産的評価をして,遺留分減殺請求の計算の中でもそこは考慮するということを考えております。
○大村部会長 ほかにいかがでございますか。
○西幹事 思いきり原点に戻る話になってしまいますけれども,この長期居住権がフランスにおいて非常に重要な制度だというのは私もよく分かります。ただ,日本において今,それほど魅力的な制度に仕上がるのかというのが今一つ,まだ十分に理解できていないところがあります。
  と申しますのは,日本は,フランスが今,どうなのか分かりませんけれども,死ぬまで自宅に居続けるというのが必ずしも一般的ではない時代になってきていると思います。また,持家比率というのも都市部では既に50%を切っているというのが現状ですので,次のところに賃貸物件である場合の保護方策というのがありましてそれは重要だと思いますけれども,そういう状況の中で持家についてこのような相続分に含められてしまう長期居住権が作られて,喜んでそれを選択する配偶者がどれほどいるのかというのが私はまだ分からないところがあります。最初の段階では,相続の段階では確かによさそうに思えるかもしれませんけれども,古くなって,ある程度,死ぬ段階で古いと思いますけれども,更にその古い家にあと何十年か住み続けるということを前提にそれを選択するという人がどれほどいるのかというのがやはり疑問です。制度の魅力を上げるためには,先ほど,途中で換価ができないというお話がありましたけれども,転貸の可能性以外にも,例えばその段階から終身定期金に変えるというか,つまり,支払った前払い賃料を取り戻すというようなイメージになるかもしれませんけれども,途中から定期金のようなものに変えられるとか,何らかのそういうものがあれば非常に魅力的だと思いますけれども。今の日本の状況を考えると,必ずしもフランスにおける長期居住権と同じだけの意味を持つ長期居住権が必要なのか分からないところもありますので,その辺りの立法事実というほど,大げさなものではありませんけれども,立法の背景をどういうふうにお考えになったのかというのを教えていただければと思います。
○大塚関係官 一般的なデータにつきまして御説明いたします。これは内閣府が出しております平成26年版の高齢社会白書から取ったデータでございますけれども,高齢者の方が介護を受ける場所としてどういうところを望むのかという調査事項について,自宅を望むという方が一番多いという結果になっていまして,男性が42.2%,女性が30.2%となっています。最期を迎える場所としてどういうところを望むのかということについても,自宅を望む方が54.6%で最も多いという結果になっております。
  それから,現在の住居についても,それぞれいろいろな住居があり得るかと思いますけれども,高齢者のうち89.3%の方は現在の住居に満足していらして,たとえ体が弱っても自宅に住みたいと考えていらっしゃる方が66.4%を占めているということもございますので,古くなったにせよ,現在の住居に住み続けたいというニーズはある程度存在するのではないかと認識しております。
○西幹事 ありがとうございます。
○大村部会長 もちろん現金がいいという方もいらっしゃるかと思いますけれども,住宅を望む人も一定数いるということですね。
○堂薗幹事 高齢者の再婚が増えているというデータはあるんですけれども,前回,窪田委員からも御指摘がありましたが,後継ぎ遺贈的なものとして,現行法ですと,例えば,再婚した高齢者に居住権は確保したいけれども,配偶者が亡くなった後は配偶者の連れ子ではなくて,自分の子供に所有権を取得させたいという場合に,相続においてそれを実現するのは難しいところがあると思います。この制度を設けた場合にはそういったことも可能になりますので,そういった意味で高齢者の再婚が増えている現状を踏まえて,こういった選択肢を設けるということには一定の意味はあるのではないかと思っております。
○西幹事 ありがとうございます。
○窪田委員 今の点に関連して,後ほど,その他というところで申し上げようかなと思っていたことなのですが,遺言の扱いに関してです。第3の6で,被相続人は,遺言又は死因贈与によって配偶者に長期居住権を取得させることができるという形で,短期居住権の方では,遺言というのは配偶者に不利な遺言があった場合の扱いを書いていましたが,むしろごく自然なケースとして,配偶者に積極的に終身の利用権を与えたいというタイプの遺言はあるのだろうと思います。
  それを正しく第3の6で書かれているということではあると思うのですが,ただ,ちょっと気になりますのは,長期居住権という制度が認められないと,こうしたことが本当にできないのかというと,現行は後継ぎ遺贈については随分,議論がありますが,正しくそうした居住権を与えるということを目的としているようなタイプのもの,これは負担付き遺贈でもできるとは思うのですが,こうしたものについてきちんと効力があって,なおかつ実効性も担保できるというような制度を立てるというのは,これとは両立するものとしてあり得るのではないかと思います。もちろん長期居住権という制度が設定できた場合には,より簡単に遺言に組み込むことができるのかもしれませんが,その正否とは一応切り離してでも,その部分はなお検討していただければ有り難いなというふうに思っております。
○大村部会長 今の御指摘は,この制度によって後継ぎ遺贈,配偶者なら配偶者に終身の利用権を認めた上で,配偶者の死亡後は別の相続人に承継されるという遺言と同様の結果が実現されるけれども,正面から後継ぎ遺贈を認めるような遺言を考えてもよいという,こういう御指摘ですね。
○窪田委員 本当は後継ぎ遺贈にする必要はなく,つまり,Aのところに行った後,Bにというふうにする必要はなくて,本当は最初からBのところに所有権を移転した上で,Aに終身の利用権を与えるというようなタイプの遺言の効力,それが負担付き遺贈であったとしても,そうした遺言の実効性を担保できるようなものとして作れば,少なくとも⑥の部分というのは長期居住権の正否に関わりなく,実現できるのかなというふうな気がしました。
  というのと,一番最後のその他の方策として,何があるのかといったときに,やはり被相続人が積極的に生存配偶者の保護を図るような遺言を残した場合には,それをよりサポートしていくような仕組みというのを考えるということはできるのではないか思ったということです。
○大村部会長 今,その他のところについての御発言がありましたけれども,その他のところの1で,居住建物が賃貸物件である場合というのが挙がっております。これも含めまして御意見を頂ければと思います。もちろん長期の居住権について引き続き御意見を頂いても結構です。
○森委員 遺産分割の審判によって賃借権を設定できるのかということについては,増田委員が御紹介された例,あるいは金澄幹事が御紹介された例があることは私も存じ上げております。
  ただ,実務家としての感覚を申し上げますと,そのような事案は,将来にわたって債権債務が発生し続けることに関して相続人間で基本的な合意ができているものの,賃貸借期間等の点で合意ができていないような場合に,そこを審判で示したという例ではないかと思いますし,将来的な債権債務を形成するような審判は,そうした場合でなければ難しいのではないかと思っております。
  また,今日の議論では優先権の問題,期間の問題,評価の問題等が出ておりますが,遺産分割の審判をする立場からいたしますと,これらの問題を議論する際には,どのような事項について,どこまで裁判所の裁量を認めるのかという点を明確にしていただければと思っております。
○大村部会長 御要望として承って,事務局の方で御検討いただきたいと思います。
  ほかにいかがでございましょう。あるいは先ほど,長期を議論しなければなるまいと思って,短期の方の議論をあるところで打ち切って進ませていただきましたけれども,短期の方についてさらに御意見があれば,それも含めて伺いたいと思いますが。
○窪田委員 御検討いただきたいと言うだけのことでございますけれども,2ページのところで第2,考えられる方策で①から⑤まで挙がっております。先ほど,特に③の部分が議論になって,これは例えば退去についての猶予なのではないかということで西幹事からもお話がありましたが,それに対して,①,②というのは現在の判例からでも一定の説明はできるところだろうと思いますので,実は随分,性格の違うものが入り込んでいるのかという気がします。ですから,①,②,③と並べて,短期賃借権の保護とすると,どうも性格の違うものが入ってしまうのではないか。場合によっては切り分けがうまく分かるような形で整理していただいて,そして検討するという方がいいのかなというふうに思いましたので,御検討いただければということです。
○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの森委員の御発言もそうかもしれませんけれども,一体として出ているものを少し分節化して,どこまで認められるのか,何を定めることになるのかを明らかにした方がいいという御指摘として受け止めさせていただきます。
○増田委員 先ほど,米村委員から御指摘がありましたが,保護の必要性は配偶者には限らないはずなんですね。高齢,障害,その他の理由で保護が必要な子というのは一定程度いるわけで,長期の方は特にオプションということであれば,個別事情によって,当然,子の方に居住権を与えるというのはあって然るべきだし,そこで配偶者という限定を法律上の要件としてつけてしまうと,反対解釈として子は駄目だというような,変な解釈もあり得ないわけではないので,保護の対象とすべきは配偶者だけではないということは御考慮いただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。先ほど,堂薗幹事からお答えがありましたけれども,どこまで認めるかということによって,どの範囲の人に選択を認めるかということも違ってくるのかもしれませんが,御指摘も踏まえて,事務局には御検討いただければと思います。
  そのほかはいかがでございますか。
○浅田委員 銀行としては余り考えてはいないことですけれども,第4の1で,賃貸物件である場合の保護方策ということが書いてあります。このような観点から,例えば遺産分割において,配偶者は居住建物の賃借権を優先的に取得することができるかという意味合いでありますけれども,賃貸人,不動産のオーナーの立場からは当然,賃借権の相手方を選ぶ権利というのは一定程度あろうかと思うわけですけれども,この規律を作った場合に,賃貸人との関係でどういう整理がなされるのかと。この制度は配偶者が賃貸人に対して,自分が住むことができるということを主張する権利を創設的に作るのかどうかということのようにも見えるわけなんですけれども,その検討の内容について教えていただければと思います。
○堂薗幹事 相続の場合には基本的には包括承継になりますので,賃借権の譲渡,転貸には当たらず,相続人が引き続き権利を取得できるという前提であり,相続財産の中に賃借権がある場合には,それも含めて遺産分割をするわけですけれども,その場合に配偶者にそれを優先取得させるということは考えられるのではないかと思います。
  ですから,配偶者が優先取得した場合には,賃貸人としては配偶者を賃借人として認めざるを得ないという前提で,ここでは書いているということでございます。
○浅田委員 ここは私自身も整理していないところでありますけれども,包括承継として,共有持分を各相続人が持っていて,一義的には相続人が居住することができると。共有持分ですから,誰がどういうふうに住むのかということについてはケース・バイ・ケースだとは思いますけれども,私が住みたいと配偶者が言った場合には,その他の相続人を排斥して居住することができるということであって,それは現行法,相続法の観点からも言えると。ただ,相続人間の関係において,あなたは住むことはできないということの権利が主張できるということを今回,明記すると,そういうことですか。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  今の賃貸物件の件,何かほかに御意見,御質問ございますか。
  ここでは付随的に第4の1というのがあって,こういうことも問題になり得るという形で出ておりますけれども,今回,これを積極的に取り上げるかどうかということについて,何か御意見等がありましたら伺えればと思います。
  特にございませんか。所有権の場合については一定の選択肢ないし保護というのを与えようということを検討しているわけですけれども,賃貸の場合について,それならば同じように対応しようという考え方と,賃貸借にはまた別の考慮が必要であり直ちに同じような対応はできないという考え方の両方あろうかと思いますけれども。特にその点については強い御意見があるというわけではないということでしょうか。
○沖野委員 強い意見があるわけではないですけれども,高齢であって,なかなか一般的には賃貸借もできないという場合を考えますと,今ある賃借権を,もちろん賃料支払義務を負うわけですけれども,そのまま継続できるという要請は所有権以上に強いのではないかというふうに思われますし,所有権の方ですと,賃借権にすればまた別かもしれませんけれども,新たな権利創設によってかなり複雑な問題も生じますし,所有権を取得する者の不利益とその調整ということもありますので,そういった問題もあるということを考えますと,賃借権の方がより問題が少なく,制度趣旨を達成しやすいという面もあるので,併せてこういう方策を考えるというのをむしろ積極的に検討した方がいいのではないかと思っておりますけれども。
○大村部会長 賃貸についても考えた方がよいのではないかという御意見だったかと思いますけれども,ほかに何かございますか。あるいは第4の2にその他の方策ということで,先ほど窪田委員からこれに関わる御発言がありましたけれども,この点についても何か御意見があれば承ります。もちろん第3に戻っていただいて長期でも構いませんし,あるいは更に遡っていただいて短期についての御意見でも構いません。
○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。敷地,土地のことを確認したいんですけれども,12ページに敷地所有者との関係というのがありますが,前提として,短期も長期もなんですけれども,相続人間でもめるという場合と相続税を払うのに何かを売らなければならないという場合が二つあって,それは分けて考えていただきたいというのがあります。
  それと同時に,相続税を払わなければならない場合になるのかもしれませんが,土地というものが非常に高価なものに,特に都会でなってしまっていて,それこそ住む以外に何も生まないわけですよね,そこの土地は。住んでいるだけで,貸していれば多少,お金が入ってきたりするんですけれども,余りにも土地が高いために相続税がとてもかかって,どうしても売らなければならないというときに,要するに今の賃貸とも関わるのかもしれませんけれども,土地は自分のものではない,又は被相続人のものではない場合等に,でも高齢の残された者が住み続けなければならないというときにどんな方策があるのかというのがやはり分からないんですね。
  私は専門は建築の設計でして,相続が発生するたびに土地が小さくなっていくということ自身がそもそも問題ではないかと思っていまして,相続で土地が大きくなることは決してないではないですか。それで,小さくなった土地というのが先ほど,増田委員からも土地の流通が妨げられるということが一つ,負の要因だとおっしゃったけれども,小さくなって流通することが本当に社会にとっていいことかというと,違うのではないのと思うこともありまして,やはりある程度の規模を確保していかないと適正な居住環境というのが保たれないというのもありまして,相続がきちんと行われることによって,敷地が分割されていってしまうということもすごく大きな問題ではないかと思うし,かつそこに住み続けることができなくなるということも大きな問題だと思っているんです。
  私は,だから前提にこの土地を分割していくことを止める方策はないのかということは本当に考えてもらいたいなと思っているんですけれども。この委員会ではないのかとは思いますが,敷地所有者との関係というか,土地のことをもう少しきちんと,相続のときにどうなるかということは考えないと,ただ誰がどれだけの権利を有するとか住み続けられるということだけではないのではないかなと思っていまして,その点,何か少し私に理解できるような話はないんでしょうか。
○大村部会長 遺産分割をして,単独の所有権の形になって土地が流通するということがいいことだという前提で話しているけれども,そうではない価値観というのもあるのではないかという御指摘として伺いました。
  もちろん不動産を分割しないでもとのままの所有権という形で誰かが相続して,それで流通するということもありうるわけですけれども,しかし,分割せざるを得ないことがあるわけですね。そのときに所有権だけで考えて分割するのではなくて,所有権と利用権という形に差し当たりは分けておくという選択肢を設けておくことには,今の御指摘にもかなうところもある。そんなふうに整理できるように思いますが,いかがでしょうか。
○藤野委員 座長がおっしゃるとおりでございます。12ページから13ページにかけて土地のことを一生懸命書いてくださっていますよね。だけど,もう少し本気で考えないと。ただ,それは付いて回る問題だという程度ではなくて,もう少し大きな問題として考えておかないと本当にまずいのではないかなと思っているということなんですけれども。
○大村部会長 非常に大きな問題を提起していただいたと思います。基本的な問題は,土地に限らないわけですけれども,相続によって様々な財産が分割されていくということがマイナスの面を持つことがあるのではないかということですね。
○藤野委員 そうです。リバースモーゲージではないですけれども,相続税等も,要するにここに一緒に住んでいる方が亡くなった後に初めて払えばいいとか,土地の価値を借りていく形で賃料として払っていったことにして,一緒に住んでいた方が亡くなったときに初めてそれを精算するとか,要するに分割しないでも済むような方策というのを何か考えた方がいいのんではないかという意味です。
○大村部会長 御指摘はよく分かりました。正面から何かできるかどうかはなかなか難しいですけれども,どういう制度を採ると,御指摘があったようなことを目指している関係者にとってプラスになるのかということは考えられる。常に分割するという方向ではなくて,財産をあるまとまった形で残したい。しかし,相続人の利益には一定の配慮をしたいという相続人たちのために,何か選択肢を設けることはできないかという形で考える。ここでの問題との関係で言うとそういう位置づけになるかと思って伺いました。
  それから,今の御指摘との関係で12ページの敷地所有者との関係というところについて,事務局の方で何かございますか。
○堂薗幹事 ここについて御意見を頂ければと思います。
○大村部会長 この問題について今まで御意見を頂いておりませんので,もしありましたら御意見を頂けると幸いです。
  これはかなり悩ましい問題で,手当を何かするかどうかということかと思いますけれども。御意見あるいは御示唆を頂ければと思います。どなたか御発言ございませんか。
○堂薗幹事 この敷地利用権についても何らかの権利の創設を考えた方がいいのか,あるいはそこまでは考えなくていいのかという問題でして,こちらでは,実務上どのような問題が生じているのかよく分からないところがありますので,何か御意見があれば頂ければと思います。
○沖野委員 問題を分かっていないと思いますので確認させていただきたいんですけれども,敷地と建物が同じ相続人が有しているところを敷地だけを売却し,売却にあたって利用権限を設定されていないという前提ですね。建物自体の利用権がついているけれども,建物自体がもはや敷地を利用できないので建物収去になると。建物を収去してしまえば,もう長期利用権はいずれにせよ,消滅原因の中には当然,目的物滅失は入るわけですね。そのときに長期利用権の保持者が敷地利用について主張できるということは,その限りで建物も維持されて,建物所有者は反射的に収去を免れるというような法律関係をここに入れるべきではないかということなんでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には,建物に関しては,長期居住権に第三者対抗力を認めれば,建物から出てくださいと言われても,それは出ていかなくていいという状態が作れるわけですが,土地と建物が被相続人の所有である場合には,長期居住権を有する配偶者は,建物所有者の敷地利用権を援用できるにすぎませんので,そうすると,ここに書いてあるような事例では,結局,長期居住権を取得したけれども,建物収去を求められた場合にそれが維持できないという事態が生じ得ます。したがって,そういった事態も生じないように,敷地利用権についても,例えば長期居住権の取得を目的とした地上権を設定できるようにするとか,そういった手当まで必要なのか,あるいはそこまでは考えなくてよいのかという問題意識です。
○浅田委員 一応,今回コメントだけしておきたいと思います。余りこの点についてはしっかりと検討しておりませんでしたけれども,ただ,聞いていますと,法定地上権における抵当権との相克と似たような問題が出てくるのかなと思います。

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  したがって,いろいろなケースを分析して,関係当事者の予測可能性に反した結果が起こらないかどうかと思います。典型的な例としますと,更地に抵当権を設定し。その上に建物を建てたといった場合に,その抵当権を実行したとき,その法定地上権みたいなものが本制度において出て,かつ対抗ができないといったときには結局,更地の抵当権者からすると,事実上借地減価がされてしまうということも反射的に生じるのかなと思った次第であります。
  したがって,この点についてはよく検討をこちらでもしたいと思いますけれども,その分析的な検討というのも併せてお願いできればと思います。
○大村部会長 今の段階ではここまで考える必要があるかどうかという問題提起がされているということかと思いますが,御指摘のような問題との関連で,更に詰めて整理をしていただくということにしたいと思います。
  そのほか,いかがでございますか。
○中田委員 ただいまの敷地との関係,それから先ほど出ておりました居住建物が賃貸物件である場合,両方を通じてなんですけれども,そこで配偶者を保護する制度を作るとすると,それが所有権の場合と目的が違ってくるのではないかなという気がいたしました。所有権の場合には遺産分割の方法の多様化,安定化で,2番目に配偶者を優先することの根拠,この2段階あったわけですが,賃借物件について言うと,むしろ居住の保護ということが正面に出てきますし,敷地の利用権についてはどっちに寄せるかということが問題になるかと思います。それぞれ目的が違ってくる。そこを整理する必要があるのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。垣内幹事からも手が挙がっていましたけれども。
○垣内幹事 賃貸物件である場合の保護方策ということに関しまして,先ほど,沖野先生が言われたことは全てそのとおりではないかというふうに思って拝聴しました。反面,現行法から見て,ジャンプしなければいけないところは少ないわけですが,ということは,逆に現行法の下でも裁判所で遺産分割審判をする際に,現に居住している配偶者に借地権を渡すというようなことは十分できることであるような感じもいたしまして,そういう面から見ると,新たな制度を設ける必要性は相対的には少ないという面もあるのではないかという感じがいたします。
  他面で,増田先生から御指摘があった点にも関わりますけれども,具体の事案において,誰に居住を継続させるのがよいのかということに関しては,障害のある子供とかそういうものが問題になることもあり得そうに思えますので,その辺りを法律で,一律配偶者に優先権を与えるというような規律の仕方をすることが適切かどうかというのは,慎重に考慮を要する面があるのかなという印象を持ちました。
○大村部会長 ありがとうございます。確かに賃借権は今でもやれるではないかという面はあるだろうと思いますので,そのことも含めて,検討していく必要があろうかと思います。
  そのほか,何か御指摘ございますでしょうか。
  それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思いますが,次回につきまして事務局の方から御案内をお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,次回の日程について御連絡いたします。
  次回は既に御案内のとおり,6月16日,火曜日の午後1時半から5時半までを予定しておりまして,場所は本日と同じく20階第1会議室ということになります。
  次回は,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現などについて御議論いただくことを予定しておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。
  では,本日はこれで閉会したいと思います。
  熱心な御議論,ありがとうございました。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第3回会議 議事録


第1 日 時  平成27年6月16日(火)自 午後1時29分
                     至 午後5時31分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第3回会合を開催いたします。
  まず最初に,配布資料等につきまして事務局の御説明を頂きます。
○下山関係官 それでは,私の方から,今回の部会の資料の説明をさせていただきます。
  今回の配布資料は,事前に送付させていただきました「民法相続関係部会資料3 相続法制の見直しに当たっての検討課題(2)」となっております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,本日は,お手元の部会資料3「相続法制の見直しに当たっての検討課題(2)~相続人等の貢献に応じた遺産分割の実現~」,この資料に基づきまして御審議をお願いしたいと存じます。
  この資料は,第1の「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」という項目から始まりまして,第2が「寄与分制度の見直し」,そして第3が「相続人以外の者の貢献の考慮」となっております。それぞれ少し性質が違うことを話題にしておりますので,一つずつ分けて御説明を頂き,かつ御意見を頂戴できればと思います。
  まず,前半で「第1」を扱いまして,途中で休みまして第2,第3と進むということを予定しております。
  それでは,事務当局の方から,第1の「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」という部分について御説明を頂きたいと思います。
○下山関係官 それでは,御説明させていただきます。
  まず,第1「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」ということですが,相続人となる配偶者の中には,婚姻期間が長く,被相続人の財産の形成又は維持に多大な寄与をしたという者もいれば,老齢になった後に再婚した場合など,婚姻期間が短く,被相続人の財産の形成又は維持に対する寄与がほとんど認められない者もいるなど,被相続人の財産の形成又は維持に対する貢献の程度は様々であると考えられます。近時の高齢化社会の進展,高齢者の再婚の増加に伴い,このような財産形成に対する寄与の程度に関する差異は,拡大する傾向にあるものと考えられます。
  もっとも,現行法上,配偶者の具体的な貢献の程度は寄与分の中で考慮され得るにすぎず,基本的には一律に定められた法定相続分による画一的な処理が行われることとされているため,実質的な公平を欠く場合があるとの指摘がございます。
  また,離婚における財産分与においては,配偶者の貢献の程度を実質的に考慮して財産の分配を行うこととされているため,現行の相続制度は,離婚における財産分与制度との整合性がとれていないのではないかとの指摘もされているところです。
  これらの指摘を踏まえまして,相続の場面においても,配偶者の相続分を定めるに当たって配偶者の貢献の程度をより具体的に考慮する方策として,本資料においては二つの方策を取り上げております。
  これらの方策は,いずれも遺産を実質的な夫婦共有財産,すなわち夫婦の一方がその婚姻中に他方の配偶者の協力を得て形成又は維持した財産と,固有財産,すなわち当該夫婦の婚姻以前に形成された財産や被相続人が相続によって取得した財産のような,その形成又は維持に他方の配偶者の協力が認められない財産,この二類型に区別した上で,実質的夫婦共有財産については配偶者の取得割合を現行法よりも高くすることによって,遺産全体に占める実質的夫婦共有財産の割合が高い場合には,配偶者の取り分を現行法よりも増やすということを意図したものになっております。
  資料2ページの3を御覧ください。ここでは,遺産分割の手続に先行して,離婚における財産分与同様の実質的夫婦共有財産の清算を行う考え方として,次の①,②,③といったものを御紹介しております。
  すなわち,
  ①配偶者は,遺産分割に先立って,相続人に対し,実質的夫婦共有財産の清算を求めることができる。
  ②実質的夫婦共有財産に属するか否かが明らかでない財産は実質的夫婦共有財産に属するものと推定し,実質的夫婦共有財産の形成又は維持に対する配偶者の寄与の割合は2分の1であるものと推定する。
  ③配偶者は,実質的夫婦共有財産を清算した後の遺産(被相続人の固有財産及び実質的夫婦共有財産の残余部分)については,現行の法定相続分より減少した相続分を取得する。
  こういった内容を想定しております。
  ここでの実質的夫婦共有財産の清算手続というのは,離婚における財産分与と同様のものを想定しており,被相続人の積極財産だけではなく,被相続人の債務のうち実質的夫婦共同債務,すなわち実質的夫婦共有財産の形成・維持に起因して負担した債務や夫婦の共同生活を営む上で負担した債務をも考慮して,清算を行うということになります。また,被相続人名義の財産のみならず,配偶者名義の財産についても,その清算における考慮の対象に含まれるということになろうかと考えております。
  このような計算によって,実質的夫婦共有財産の形成についての配偶者の貢献の程度を具体的に考慮することが可能になるとともに,離婚の場合と死別の場合とを統一的に理解することが可能になるものと考えられますが,他方,現行の遺産分割においては考慮する必要がない被相続人の債務についても清算対象に含まれることとなる上,特定の積極財産や債務が清算対象に含まれるか否かといった点や,その財産の形成又は維持に対する貢献の有無及び程度について主張・立証が繰り返されるおそれがあるなど,相続に関する紛争の複雑化,長期化が懸念されるところであります。
  ②の推定規定は,このような紛争の複雑化,長期化を少しでも軽減するためのものですが,このような方策のみで紛争の複雑化,長期化に十分対処することが可能かどうかは疑問があるところでございますので,この方策を採用する場合に,具体的にどのような制度設計をするのかといった点につきましては,慎重な検討が必要であろうと考えております。
  次に,資料4ページの4を御覧ください。ここでは,遺産分割に先行する清算手続を設けるのではなく,飽くまでも遺産分割手続の中で,遺産の属性に応じて計算した一定の金額,これを配偶者加算額と呼んでおりますが,これを配偶者の具体的相続分に上乗せするといった考え方を提案させていただいております。
  具体的には,
  ①一定の計算式により算出された額,すなわち配偶者加算額が積極財産の法定相続分に相当する額を超過する場合には,配偶者の相続分にその超過額を加算した額をもって,配偶者の具体的相続分とする。
  ②遺産のうち被相続人の固有財産を除いたものを実質的夫婦共有財産とする。
  ③被相続人の固有財産は,被相続人が婚姻前に有していた財産,被相続人が婚姻後に相続又は贈与等によって無償で取得した財産に限る。
  ④配偶者は,配偶者加算額の主張をする場合には,寄与分の主張をすることができない。
  こういった制度を提案させていただいております。
  これは,先ほど申し上げた3の方策を採用した場合に生じる問題点を多少なりとも軽減するといった観点から,実質的夫婦共有財産の形成又は維持に対する配偶者の貢献の程度を2分の1と法定するとともに,配偶者名義の財産を清算対象として考慮しない。これが①の部分でございます。
  また,被相続人の固有財産を限定列挙することとして,それ以外の財産は全て実質的夫婦共有財産とみなすこととしており,これが②及び③の部分でございます。
  更に,配偶者が配偶者加算額の主張をする場合には,別途,現行の寄与分の主張をすることはできない。これが④でございます。
  この方策を採用する場合に検討すべき課題といたしましては,まず,配偶者加算額の計算式をどのようなものにすべきかといった点が考えられるかと思います。
  考えられる計算式の一例といたしましては,資料6ページの下の方に記載しておりますけれども,これは積極財産を実質的夫婦共有財産と固有財産とに区別するのと同様に,相続債務につきましてもこれを実質的夫婦共同債務と固有債務,この二つに区別した上で,この計算式にありますα,ここで財産の属性を考慮した配偶者の最終的な取り分を算出し,これが法定相続分に従った場合の最終的な取り分と考えられるβを上回る場合には,配偶者加算額が生ずるというものでございます。この考え方によりますと,夫婦の財産形成に対する配偶者の貢献の程度を,より実質的に考慮することが可能になるということができますが,他方,ある積極財産が実質的夫婦共有財産なのか固有財産なのかという点のみならず,ある相続債務が実質的夫婦共同債務なのか固有債務なのかという点も審理の対象にしなければならないことになるため,この点をめぐって紛争が複雑化,長期化するおそれがあるところでございます。
  そこで,配偶者加算額の算出に当たりましては,積極財産のみを考慮して相続債務については考慮しないことも考えられるところでありますが,このような計算式によると,実質的夫婦共同債務が多額に存する場合には,配偶者加算額が当該配偶者の実際の貢献よりも過大になる事態が生じ得ることになりますので,かえって実質的な公平を害する結果になりかねないといった問題点が生じます。
  また,この方策におきましては,遺産が実質的夫婦共有財産と固有財産のいずれに該当するかという点を巡って紛争が複雑化することを極力軽減するために,②及び③のように固有財産を限定列挙し,それ以外の財産は実質的夫婦共有財産とみなすことにしております。
  このような紛争の複雑困難化の防止という考え方を更に進めるとすれば,固有財産の価額は婚姻前に取得した財産の婚姻時の評価額と,無償で取得した財産の取得時の評価額の合計額に固定した上で,それらの財産がその後どのように変遷したかといった点は一切考慮しないということや,更には,遺産の中に実質的夫婦共有財産と固有財産の両方の性質が含まれる財産がある場合には,その財産の全体を実質的夫婦共有財産とみなしてしまうといった措置を講ずることも考えられるところであります。
  ただ,このように,紛争の複雑化,長期化を避けるために割り切った考え方を採用すれば,その分だけ精緻な計算方法で計算した場合との差異が大きくなる。そうすると,かえって実質的公平を害する結果となり,そもそもの趣旨が没却されてしまうことになりかねません。結局のところ,この問題は,実質的公平をどの程度図るかという要請と,紛争の複雑化,長期化を避けるという要請,この両者のバランスをどこでとるべきかということ,この点にあると考えられます。
  資料についての説明は,以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  1の「問題の所在」から始まりまして,2が「考えられる方策」ということで,その後に3と4との二つのモデルが試案として提案されている,そういう構造になっているかと思います。
  この3も4もなかなか複雑な内容になっておりますので,御説明を伺い,資料を見ただけでは,なかなかイメージできないところもおありかと思います。それぞれについて,後で御質問を頂き,またその上で御意見を頂きたいと思いますが,3,4はそれぞれ案として出ておりますので,これらの前に,まず,問題の所在と考えられる方策の部分,言わば総論部分について御質問ないし御意見を頂く。その上で3,4それぞれについて御質問,御意見を頂くという順序で進めさせていただきたいと思います。
  一番最初の「問題の所在」及び「考えられる方策」という,この総論部分につきまして,まず伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
○沖野委員 寄与分との関係なんですけれども,総論の部分では寄与の程度が様々になっているために,現行の寄与分の活用では難しいという考え方が示されております。しかし,この後,寄与分制度の見直しも提案されています。寄与分制度の見直しによって,その柔軟化や拡充が図られるとしますと,それでも寄与分の活用ではやはり無理だということがあるのか,それとも,寄与分の制度がこのような形で見直されるならば大半はカバーされると考えてよいのか,その点について,もしお考えがありましたら,お聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 現行制度については,恐らく二つの問題があるのではないかと考えておりまして,一つが,婚姻期間が非常に長くて遺産の形成に貢献がある人とそうでない人のバランスの問題,それからもう一つが離婚の財産分与とのバランスの問題です。まず婚姻期間の長短によるバランスの問題については,特に老齢になって再婚したような場合が問題になり,現行の寄与分ですと,期待されている程度以上に貢献をした場合にはその分増えるというところがございますが,逆に,期待されているところに達していないという理由で減らすということは基本的にありませんので,寄与分制度の見直しだけでは,必ずしもその問題点を解消することはできないのではないかと思います。ただ,そこは老齢になった後に婚姻した配偶者について,現行の法定相続分を下回るような取扱いをすることが相当かという問題とも絡みますので,そこを変える必要がないということであれば,寄与分だけで調整できるというところはあるのかもしれません。
  それから,離婚の場合とのバランスの問題についてですが,現行法上は,離婚の場合と相続の場合でいいますと,相続の場合の方が配偶者にとっては取り分が多くなるといいますか,より保護されているということがいえると思います。すなわち,相続の場合には,夫婦が協力して形成した財産であろうとなかろうと,基本的に2分の1の持ち分があるのに対しまして,財産分与の場合には,基本的には夫婦で協力して形成した財産のみが対象財産となりますので,そういった点で,相続の方がより有利になっており,その点には相応の合理性があるのではないかと思います。ただ,昭和55年当時ですと,財産分与における2分の1ルールというのは厳格に適用されていなかったのではないかと思うんですけれども,今はかなりそれが浸透してきて,離婚の場合も基本的には2分の1の取り分があるということになりますと,特に婚姻期間が長い夫婦の場合には,離婚であっても財産分与でも取り分が余り変わらなくなってきているということがいえると思います。他方,婚姻期間が短い人については,その差はかなり大きいというようなところもありますので,やはりこれらの2つの問題を解決しようと致しますと,寄与分による調整だけでは難しいのではないかということで,ここに挙げたような考え方を提案したところでございます。
○沖野委員 そういたしますと,現行法よりもその実質に応じて,むしろ取り分を減らすというか,減少させることができるという点に特色のある提案となりますか。
○堂薗幹事 ですから,離婚の場合とのバランスの問題については,仮に相続による清算の方が離婚の場合よりも多く取れていいはずだということになると,婚姻期間が長い人については,今の法定相続分よりむしろ増やす方向で考えないと,バランスを欠くことになるのではないかと思いますが,ただ,そういう形で法定相続分を増やしますと,今度は婚姻期間が長い人と短い人のアンバランスが更に広がることになるので,その両者を解決するためには,法定相続分の上乗せだけでは駄目だし,寄与分の見直しだけでも駄目ということで,今回取り上げたような方策を考えないと難しいのではないかというのがこちらの問題意識です。
○大村部会長 今,財産分与との対比で御説明がございましたけれども,財産分与の場合には,婚姻期間が長くなると,夫婦の共同によって形成された財産というのが増えるだろう。それが後で清算されることになるけれども,相続については必ずしもそうなっていないということで,実質的に見て財産分与と整合的な考え方を導入する必要はないだろうかというのが,多分この第1の部分の基本的な発想なんだろうと伺いました。
  寄与分の方は,これは堂薗幹事から御発言がありましたけれども,特別な寄与としてさらにどういうものを認めていくかということなので,取りあえず別のものとして区別しているという御理解かと思いますが,沖野委員,よろしいですか。
○沖野委員 はい,ありがとうございます。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
○増田委員 2点ございます。
  1点目は,配偶者の貢献に応じた遺産の分割を実現する観点ということですが,配偶者の取り分を現行法より増やすことを意図するとなっております。先ほどからの御説明及び多様な家族関係があるということから考えますと,婚姻期間の短い人,あるいは俗に玉の輿といって,元々お金を持っている人と結婚した人については,取り分が少なくならないと配偶者の貢献に応じたということにはならないと思うんですが,引き下げる方向での提案が出てこないのはなぜかということが1点です。
  もう1点は,財産分与との対比と言われておりますが,財産分与の場合には,夫婦双方の財産の総和の原則2分の1ということになりますが,相続の場合は,生存配偶者の方は,自分の名義で持っているものはそのまま持っているわけで,そこが全く違うわけですよね。その点は,なぜ考慮するという方向にならなかったのかという,要するに,財産分与との対比と言われるならば,生存配偶者名義財産の清算も本来は考慮すべきところなんですが,なぜそうならなかったのかという2点をお伺いしたいと思います。
○堂薗幹事 まず,婚姻期間が短い人については,むしろ現行法よりも少なくなる場合があっていいのではないかということですが,我々としてもそういう考え方は十分あり得るだろうと思っております。その点について,是非御議論いただきたいと思っているところでございまして,まず,2ページの3の財産分与的な手続を遺産分割手続の前に置いて,その後,遺産分割をするという方策をとった場合には,これをこのまま適用いたしますと,実質的夫婦共有財産が非常に少ない人については,その財産分与的な手続の中では余り取れないことになり,しかも,その後の遺産分割における法定相続分は,現行の法定相続分より下げることを念頭に置いておりますので,現行より取り分が減る場合が生じることになるだろうと思います。
  それから,この4の配偶者加算額の考え方,これ自体は,御指摘のとおり,配偶者の取り分が現行より減ることは想定しておりませんが,ただ,考え方としては,資料6ページの(注2)にある「配偶者加算額が負の数値になる場合について」というのが増田委員の問題意識に沿ったものでございまして,7ページの冒頭にありますとおり,負の数値になるような場合は配偶者の貢献は本来少ないはずですので,そのような場合も含め,この計算式に従って取得額を決めるというのは考えられるのではないかと思います。
  更に,生存配偶者名義の財産を考慮しないのかという点は,こちらも問題意識を持っており,資料の3の考え方,これは基本的には離婚における財産分与と同じような考え方で最初に清算することを想定しておりますので,これは生存配偶者名義の財産も一応考慮した上で清算をするということを前提にしております。
○大村部会長 2点について御質問いただきましたけれども,いずれについても,増田委員御指摘のように,財産分与並びで考えるのならば現状より配偶者の取り分が減ることもあるであろう。また,その被相続人だけではなくて,相続人の財産状態も考慮に入れなければならないということもあり得るであろう。そういうことになる。それが出発点であるけれども,しかし,そうでない考え方というのもあり得るということで提案がなされている。それに対して御意見を承れればということですね。
  増田委員,何か更に。
○増田委員 この時点では結構です。
○大村部会長 取りあえずよろしいですか。
  そのほかいかがでございましょうか。
  3や4にわたるような御質問もあろうかと思いますけれども,1,2の一般的な議論について何かございましたら,そちらもどうぞ。
○水野(紀)委員 一点だけ申し上げます。財産分与についてある種の寄与分の清算であると強調されましたり,配偶者相続権につきましても,寄与分の清算とかなり言われました。昔の非常に低額な手切れ金感覚の財産分与を増額させる論拠として,あるいは,そもそも戦後立法されるまで配偶者相続権はなかったわけですから,配偶者相続権を認めるべきだという論拠として,いわゆる内助の功ということ,内助の功の清算ということが言われました。私は内助の功をあまり強調するのはおかしいと思っております。配偶者相続分につきましても,それから夫婦財産制につきましても,この1ページの最初に書いてありますように,取り分の清算と並んで,生活保障が入っております。つまり婚姻というものは生涯にわたる2人の結び付きを保障するものであって,一方配偶者が結婚した途端に病んでしまって財産を形成するに資することが全然なかったとしても,それでもやはり相手方はその配偶者を守り続けなくてはならないという義務があります。そういう2人の生涯にわたる結び付きを保障する側面が婚姻制度の中にあって,それが故にある程度の生活保障をお互いに認め合うということが夫婦財産制の中にも発想として入っているでしょうし,配偶者相続分の中にも入っているのだろうと思います。年をとって十分に働いて2人で財産を作ってきたという場合と,そうではなく,結婚したての場合とは違うということを,まったく否定するつもりはありません。この両者の相違にある程度配慮することは,法制度の中に組み込んでいいのだろうと思いますけれども,逆に寄与分だけでこの制度を全部きれいに整理しようというのは,婚姻制度に対するある種の挑戦になってしまうのではないかと思います。完全に寄与分だけで,内助の功的なものの正当性だけで構築するのだとすると,それは婚姻ではなくて,赤の他人の2人がただ協力して暮らすことにした組合的なものと同じことになり,そういうものと婚姻というのは違うはずだろうと思います。
○大村部会長 具体的な特別な寄与ということとは別の要素によって財産分与ないし配偶者相続権は説明されるべきだという御意見ですね。
  ほかにいかがでございましょうか。
○潮見委員 今までのような実質的な話ではなく,資料の整理の仕方等も含めてのことですけれども,よろしいでしょうか。
○大村部会長 はい,どうぞ。
○潮見委員 1点目は中身に関わるのかもしれませんが,拝見していて,実質的公平という言葉がマジックワードになっているという印象を強く受けます。今回の相続法制の見直しということを考えるに当たって,実質的公平を確保しなければいけないということが,これまで言われてきたところでは主にその1ページ目の配偶者の貢献,こういうものが現在の法定相続制度の中で十分に考慮されていない。その部分を考慮していないことが,公平に反するといいますか,実質的公平に反するなる言葉で表現されているところがあったと思います。
  ところが,その一方で,これは前回,前々回の資料等もいろいろ見ていて感じるところなんですけれども,他方で,法定相続制を考えるときには,今申し上げたような配偶者の貢献以外の,それぞれの相続の場における,例えばその婚姻期間だとか,年齢とか,そうした様々な要素を考慮に入れて法定相続制度を組み立て,柔軟に対応することができるようなものでなければ,在るべき法定相続制度の姿とはかけ離れたものになる。そういう観点から「実質的公平」ということが言われているような向きもあるのではないかと思います。つまり,様々なファクターというものを考慮に入れた形での,いろいろな場面に対応できる,そういう法定相続制度が望ましいと。それは何か,しかも,その上でその典型的なものを何か作った上で,それをどう修正していくのかという観点から論じている嫌いがあるので,本当にそれでいいのかということについて,個人的には,特に後者の方向について疑問を持っているということを一言申し上げておきたいと思います。
  それから,もう一つは,これから先の議論に関わるのかもしれませんけれども,この後の2とか3の整理の仕方について,ちょっとだけ御質問あるいは御確認させていただきたいということも込めて発言をさせていただきたいと思います。
  2と3というもので,この二つだけ挙げておられますけれども,論理的な整理ではないですね。また,それ以外の方法もありますよね。その辺りのところを,なぜこの2と3に絞ったのかというところを御質問させてください。
  例えば,配偶者の法定相続分について,今2分の1を単純に増やすという,シンプルに考えればそれもあるはずです。今の2分の1というところでは,先ほど申し上げましたような配偶者の貢献というものが典型的には評価されていない,あるいは不十分にしか評価されていないし,先ほどの沖野委員のお話ではないけれども,寄与分というところでは十分対応できないから,単純に法定相続分というものをプラスしましょうと考えることによって対応するということもあり得ると思うのですが,そういうものがないというのは意図的に落とされたんでしょうね。なぜかという辺りのところを御質問させていただきたいところですし,更に,3ですけれども,遺産分割の手続に先行して実質的夫婦共有財産の清算とありますが,これは要するに,夫婦共有財産の清算を遺産分割の前に切り出してという,先ほどの御説明のところだったと思いますけれども,例えば,その中でも,ここにお書きになっているようなこともあろうし,あるいは,実質的夫婦共有財産についての2分の1を法定するとか,固有財産について一定のものを限定列挙するというような形をとることによって紛争の長期化とかそういうことを避けるということも,私が取るとか取らないということは別としてあり得るはずなのに,そのような部分が完全に,この部分の説明からは落ちているというのはなぜなのでしょうか。
  4の方もそうなのであって,では,この枠組みを取った場合に,タイトルを見れば,「遺産の属性に応じて計算した一定の金額(配偶者加算額)を配偶者の具体的相続分に上乗せする」ということで,これはまた遺産分割手続の中で,しかも,その相続分ということを何らかの形で操作しようという趣旨に出たものだと思いますけれども,例えば,今日,席上配布していただいた比較法的な傾向を見たところでは,単純に一定の金額を加算とか定額加算みたいなことも考えようによってはあるわけですよね。でも,そういうことは余り出ない形で,その中に書かれているところを見れば,どうも加算の部分についてどういうロジックを使っているのかといったら,結局は3のところと同じように実質的夫婦共有財産と固有財産というものを分けて考えていくと。単にその3の手続が遺産分割の中に入ってきているという,だから,それだけとも,言いすぎかもしれませんけれども,それだけかもしれないような,そういう提案がされています。なぜこれに限られたのかというようなところもまた少し御説明を頂ければ有り難いですし,更に,仮にこの枠組みでいった場合でも,先ほどの夫婦の実質的共有財産についての2分の1の法定あるいはその固有財産の列挙というのは,4の枠組みを取ることと論理的には直結しないにもかかわらず,ここだけその部分について説明をされているというのは一体いかがなものなのかと思います。いずれも形式的なところについての確認の質問ですけれども,もしお考えのあるところがあったらお教えいただければ有り難いところです。
○堂薗幹事 法定相続分自体を引き上げるということも当然検討の対象に入ってくるんだろうと思います。ただ,ここでその考え方を挙げなかったのは,資料の問題の所在でも触れておりますとおり,高齢者の再婚が非常に増えている反面,高齢化社会によって婚姻期間が長くなるケースも非常に増えてきており,婚姻形態にも様々な態様がある中で,法定相続分を一律に引き上げるということになりますと,先ほどの婚姻期間の長短によるアンバランスが更に広がることになりますので,現行以上に法定相続分を引き上げるというのは難しい面があるのではないかと考えたためです。ただ,そういった方向性についても検討すべきであるということであれば,当然検討したいと思います。
  それから,この3と4の考え方でございますが,この点については,確かにいろいろな考え方がほかにもあるんだろうと思います。この3と4の考え方は,いずれも配偶者の貢献を実質的に考慮することを意図したものですが,3の考え方にある問題点を踏まえ,これを若干発展させたものが4の考え方ということでございます。
  これは,昭和55年当時の検討にも関わってくる問題なんですけれども,昭和55年当時の検討の際には,法定相続分を引き上げるという考え方と,夫婦財産制を変えて夫婦共有制にするという二つの考え方が検討されたと聞いておりますが,どちらかというと,この3と4の考え方は,その中間的な類型を探っているという趣旨でございます。資料では,その中でも好対照な考え方を取り上げたという趣旨でございまして,この3の考え方は財産分与に近付けた考え方であり,最も実質的な貢献を考慮に入れたものでございます。そういった意味では,結果的には,最も配偶者の貢献に応じた形で遺産の分配がされるというところはあると思いますが,他方で,デメリットとしては,非常に紛争が複雑・困難化するという面があるのではないかと思います。
  それに対して,4の考え方は,配偶者の実質的な貢献を考慮するんですが,できるだけ紛争が複雑化しないように,紛争が複雑化しそうなところについては,一定の割り切りをしてしまうというものです。配偶者の貢献分を2分の1に固定するというところもそうですし,固有財産を限定列挙するというのもそのような趣旨に基づくもので,最も割り切った考え方をすると,こういう考え方もあるのではないかということで,ご提案したものです。この3と4の考え方以外にも,その中間形態としていろいろな考え方があり得ると思いますし,また,それとは全く別の発想から別の方策を考えるということもあるんだろうと思いますが,取りあえず議論の叩き台として3と4の考え方を取り上げたということでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
  具体的な案として,3と4の二つが出ていますけれども,今,事務当局から御説明がございましたが,昭和55年の改正の際に,一方で検討されたのは夫婦財産制を共有制にするという方策でしたが,非常に複雑なものを抱え込むことになるということで断念されたという経緯があろうかと思います。そこで,相続分を一律に引き上げるということで対応したわけですけれども,その二つの選択肢の間で手続の簡明さを保持しつつ,しかし,従前よりは実質を考慮したものを考えられないかということで3と4が出ているという御説明だったかと思います。3と4の間で幾つかの組合せというのはあり得るだろうというのも潮見委員の御質問のとおりだったのではないかと思います。
  例えば,御指摘があった相続分の一律引上げというようなことについて,もし皆様の方から御意見があれば,それについても伺いたいと思います。ただ,御質問はもう一つあったように思いますが。一番最初の,用語の問題をいいですか。
○潮見委員 今日のところは結構です。
○堂薗幹事 検討させていただきます。
○大村部会長 実質的な,一つの言葉でいろいろなことを含ませるよりは,含まれているものを具体的に示して明確にした方がよいという御指摘かと思いますので,そこは御注意をいただきたいと思います。
  相続分引上げだという解決もあり得ないわけではないという御指摘がありましたけれども,何かこの3,4の外にある方策について,今の段階で3,4だけではなくて,選択肢として加えて検討すべきではないかといった御意見がございましたら伺えればと思います。
○八木委員 前提の問題なのですけれども,これまでの議論とも関係するんですが,概念規定の問題です。固有財産と実質的夫婦共有財産に分けると,ここはいいんですけれども,固有財産について,婚姻以前に形成された財産と,被相続人が相続によって取得した財産,ここまではいいんだと思います。問題は,実質的夫婦共有財産でして,これを説明するに当たって,婚姻期間中に配偶者が財産の形成あるいは維持について貢献したとか協力したとか内助の功があるとか,こういった話になっているのですが,そうなりますと,では,それはどの程度なのかというところで紛争が起きるという指摘かと思うのです。ここで,やはり割り切り方というのが必要になってくると思うのですけれども,実質的というのかどうか分かりませんが,夫婦共有財産とは婚姻期間中に形成した財産というようにすっぱり割り切って,すなわち,相続時に被相続人が持っていた財産の中で固有財産を除くという割り切り方もあるのではないのかなと考えてきたのですけれども,その辺いかがなものなのかということです。
○堂薗幹事 この4の考え方がどちらかというと八木先生が言われた方向性で考えたものです。資料5ページの③のところで固有財産をこの二つに限定しておりますが,八木先生のお考えですと,③のアだけでいいのではないかという御趣旨でしょうか。
○八木委員 いや,イも入ります。婚姻期間中に,婚姻期間中って実態というのはもう人それぞれですから,別居していたのにとか,全然協力してくれなかったのにとか,そういうところで恐らく紛争になるという指摘だと思うんですね。ですから,具体的に言うと,これ以外にあるのかどうか分かりませんが,例えば,自分の小遣いで株を買って,その株でたまたま儲かったとか,これをどう考えるのかとか,それは離婚時の財産分与の問題でも発生すると思うのですけれども,その辺,どこかですっぱりと割り切る必要があるのではないかという指摘です。
○大村部会長 事務局の御説明ございましたけれども,資料5ページの②,③が八木委員が御指摘になったような考え方に立って切り分けをしてはどうかという御提案かと思います。これは4の方の案について付けられておりまして,3の方には付いておりませんけれども,この考え方は4ではなくて3にも使うことは可能だろうと思われますので,仮に3を取るとしても,ここだけは,やはりこういう切り分けをしたらどうかというような御意見はあり得るだろうと思います。そういうことを考えた方がよろしいのではないかという御指摘として承りました。
○中田委員 3と4以外の一般的なこともという部会長のお話でしたので,昭和55年改正との関係で御質問と,それから御提案とがございます。
  昭和55年改正で配偶者相続分を引き上げたわけですが,現在更にそれを改正する必要があるということは,配偶者をより保護しようとするという,先ほどの潮見委員のご発言にもありましたように,相続分を更に上げるというのと,それから,多様な婚姻の実質をより反映するのが望ましいというのと,二つの方向があると思います。どちらかというと,事務局はむしろ実質の反映の方を強調しておられるのではないかと思ったんですが,そういう理解でよろしいでしょうか。これが1点です。
  もう一つは,相続分の話ではないんですけれども,やはり昭和55年改正で,遺産分割の基準を示す906条の改正もあったかと存じます。そこで新たに入った部分は,各相続人の年齢ですとか心身の状態ですとか生活の状況といったことであり,これは必ずしも現在の問題を考慮しているものばかりではなく,例えば,未成熟子の保護というのも入っていたとは思うんですが,これを高齢の配偶者など現在の問題にも非常に有効に使い得るのではないだろうかと思います。ただ,906条自体が,特に協議分割の場合には法的拘束力を持たないというので,余り意味がないということで検討の対象になっていないのかもしれませんけれども,906条の拘束力をもう少し強めるという方向での対応というのもあるのかなと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。2点,御指摘を頂きました。
○堂薗幹事 まず,方向性としては,単純に配偶者の保護をより図るというものと,多様な婚姻形態についてそれに応じた遺産の分配を実現し,実質的な公平を図るというものの二つがあろうかと思います。事務局として,そのいずれかの方向を目指しているということではございませんので,正にその点をこの場でも御議論いただきたいと考えているところでございます。ただ,今回の法制審の諮問事項の中には,配偶者の保護が入っておりますので,そのような観点からの見直しというのは必要になりますけれども,配偶者の保護といっても,配偶者を一律に保護するのが妥当なのか,あるいは婚姻関係を長期にわたって継続し,遺産の形成に貢献のある配偶者をより手厚く保護するという方向が妥当なのかという点についてはいろいろな考え方があろうかと思います。
  それから,906条のところは,こちらとしては検討が十分にできておりませんので,御指摘を踏まえ検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか,中田委員。
○中田委員 はい,ありがとうございました。
○大村部会長 2点目の御指摘は,多分,潮見委員の先ほどの一番最初の御指摘とも関わっていて,実質的な公平というときに,言わば定型的な考慮を要するものと,個別具体的な考慮を要するものとが含まれていはしまいかという,そういう御指摘であろうと思って伺いました。今回の案は,どちらかというと定型的な公平さを確保するというところに重点が置かれていますけれども,中田委員の御指摘は,もっと具体的なものについて906条の線で考えるという道もあるのではないかという御指摘であると理解しましたが,よろしいでしょうか。
○中田委員 はい,ありがとうございます。
  例えば前回のテーマですけれども,居住権の保護というのも,「生活の状況」という中に55年当時は盛り込まれていたのではないかと思います。ですから,そういう意味で906条について,もう一度現代的に検討する余地があるのではないかということでございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
○南部委員 質問なんですが,聞いていれば聞いているほど複雑になってきて,よく分からないところがたくさんあります。
  まず,実質的夫婦共有財産や共同債務を考慮するということです。計算方法等,書かれているんですけれども,実際にこれができるのかどうかというのが一般的な市民としての疑問です。というのも,かなり高齢になってこられた方が多いかと思います。その上で,例えば痴呆になった方であれば,夫婦共有財産がどれで,固有財産がどれというのを誰が見分けるかという問題があると思います。そういったことを踏まえてどういう計算をし,公平に考えていくかの方向性がもし分かれば教えていただきたいと思っております。その立証の難しさがあるかと思います。また,実質的夫婦共有財産がほとんどない高齢者であっても,生存する配偶者が介護などで寄与貢献した場合,もうどうにもならないという答えなのかどうかということを含めて,もし現時点のお考えがあれば教えていただきたい。できる限り一般の市民が見て分かりやすいものを作っていくべきだと思いますので,その辺も考慮に入れて先生方のお話を深化させていただけたらと思います。
○堂薗幹事 まず,債務,特に実質的夫婦共同債務と固有の債務を現実的に区別することができるのかという点は非常に大きな問題でございまして,御指摘のとおり,それが実際に実務で機能するような形で区別できるのかというところが,正にこのような考え方を採る上で最も難しい問題ではないかと,こちらとしても認識しているところでございます。
  この資料では,取りあえず積極財産についてのみ固有財産を限定列挙して,それ以外については実質的夫婦共有財産とみなすというような考え方を4の中で示しているところでございます。この考え方において債務を考慮すべきかどうかというのが,極めて大きな問題だと思いますけれども,仮に債務についても考慮するとした場合には,やはりそのどちらに当たるかという紛争ができるだけ生じないように,例えば,固有債務についても積極財産とパラレルのような形で限定列挙し,それ以外のものについては,相続の場面では実質的夫婦共同債務とみなすというような方策をとることも必要になってくるのではないかと考えているところでございます。
○下山関係官 2番目の御質問につきましては,まず,第1で書かれている方策につきましては,実質的夫婦共有財産がなければ,この方策を採用した場合には,その取り分,具体的な相続分は,その分減少する可能性はあります。ただ,別途,療養看護などで貢献があるという場合には,寄与分として具体的な相続分が増えるという場合がございますので,こちらの方で手当がされるという可能性は考えられます。
○大村部会長 よろしいですか。
○浅田委員 総論のところ,2について第三者の観点からのコメントと,それから質問があります。
  従前から申し上げていることの延長線にある話ですが,ここでも第三者の観点からということで,2ページの2段目以降でご検討いただいておりまして,有り難いことだと思っております。
  その中で,昭和55年の民法改正の際に検討された夫婦共有財産制というのは,深く承知はしておりませんけれども,なかなか,制度的には第三者として受け入れるのが困難な制度だったのかなと思っております。その観点からは,ここに書いてあります3,4の提案というのは,それよりは簡易な制度になり得る可能性を秘めているのかなと思っております。
  その上で申し上げるわけでありますけれども,財産の承継に関して,例えば,銀行取引でいきますと預金ということになりますけれども,分与,すなわち相続財産の割合が複雑になるということ,それから早期解決が難しくなるということは,第三者にとってはなかなか辛いことなのかなと思います。
  遺産分割が成立する時期がある程度明確になるということであるとしても,それまでの間に相続人がその財産の使用を希望した場合の,当該相続人の利益ということも勘案する必要があります。預金であれば,生活費用に充てるためにを払戻を受けたいということはあり得る話です。紛争の長期化・複雑化というのは,やはり公平という,先ほどの議論から出てきます実質的な公平とかいうような価値ということも併せて考慮すべきではないのかなと思っております。
  預金に関しては,従前から申し上げていますように,一つの提案として,第1回の審議の際にもコメントいたしましたが,預金の性質または相続の際の取扱いを法定することによって解決の道があるのかもしれないとは思っております。それは,そのテーマを審議するときに,議論していただければ有り難いと思っています。
  一方で,先ほどご指摘もありました相続債務の話に関して言いますと,従前の議論と,この資料を拝見しますと,どちらかというと,相続人間の分担をどう決めるのかという提案のように見受けられるところであります。一方で,債権者の,例えば銀行の立場からすると,誰が債務者なのかということは,いわば回収の宛先ということになり重要でありますので,相続人間の任意の話合いで債務者が誰なのかということを決められてしまうというのは余り望ましくないと思っております。現行法は,ご案内のとおり,債務については当然分割承継説ですので,法定相続分によって承継されるということになっており,相続人間でそれを変更するときには現行の銀行実務上は,債権者の同意をもって,債務引受契約等をすることによって調整されることになります。この方法は,債権者の同意,承諾が前提でありますけれども,これが今般の制度設計変更の中で,勝手に変えられてしまうということになれば困るなと思っています。
  そこで質問でございますけれども,この3,4の提案の中で書かれているものについて,その債権者に対する効果といいましょうか,拘束というのはどうなのかということを改めて確認したいと思います。
○堂薗幹事 それでは,まず遺産分割成立までの間の権利関係をどうするかというような辺りでございますが,これは3でも4でも,こういった考え方を採った場合には遺産分割が成立するまでの期間が長期化するおそれがありますので,特にその間の権利関係がどうなるか,現行法のままでいいのかどうかという点については慎重に検討する必要があると考えております。預金債権については,現行法の下では,原則としては遺産分割の対象財産に含まれないとされていて,当然分割されるようになっているわけですけれども,それが妥当なのかどうかという辺りについては,今後この場でも御議論いただければと考えているところでございます。
  次に,債務がどうなるかというところでございますが,この3の考え方も4の考え方も基本的には債務の承継自体は変わらないという前提で考えております。基本的に3の考え方は,離婚における財産分与と同じように,プラス財産とマイナス財産を考慮しますけれども,その結果プラスがあるという場合に,そのプラス部分をどう分けるかという話ですので,債務自体は法定相続分に従って承継するということになるのではないかと考えております。
  それから,4の考え方は,基本的には,配偶者加算額については現行の寄与分と同様の取扱いをすることを考えておりますので,そういった意味で,配偶者加算額の計算をする際に,債務を考慮するかどうかと関わりなく,債務については法定相続分どおりに承継されるということを前提に制度設計しております。そういった意味で,債権者の方から見て,遺産分割が成立するまで,誰が幾らの債務を負っているのか分からないという状態にはならないようにする必要があるというのは,こちらも認識しているところでございます。
○潮見委員 細かいことの質問。3の考え方を採った場合の今の債務の承継,法定相続分とおっしゃられましたが,それは2ページ目の(1)の③に書いてある,この法定相続分を指しておられるんですか。つまり,実質的な夫婦共有財産というものがあって,それを清算して,残った共有財産について,その現行の法定相続分が減少した相続分というものを採用しようと。この法定相続分に従って債務というものが仮に分割される場合には分割承継だという御理解をされているのか,それとも,実質的な夫婦共有財産の在り方も含めた形で考えているのか,多分後者ではないと思うんですけれども,そこだけ確認させてください。
○堂薗幹事 基本的には前者のような考え方になってしまうのではないかと思います。その場合に,3の考え方によると,現行よりも配偶者の取り分が増えるにもかかわらず承継する債務の額が少なくなってしまうという問題があるかなという気はしているんですが,ただ,少なくとも先行する手続の中では,積極財産と債務を比較し,プラス財産がどれだけあるかということを計算した上で取り分を決めますので,そうなってもやむを得ない面があるのではないか考えております。ただ,確かに,3の考え方を採った場合に,債務が当然にこの3の法定相続分を前提に承継されるということでいいのかどうかというのは,こちらも疑問には思っているところでございます。
○大村部会長 浅田委員も,先ほどのお答えでよろしゅうございましょうか。
  皆さんから既に3,4に関わる御質問や御意見も出ておりますので,3,4に移った方がよいと思います。ただ,1,2につきまして,婚姻の状況が多様化していて,夫婦の婚姻期間などがかなりいろいろなものがあるという状況になっている。にもかかわらず,配偶者相続分が2分の1ということでよいのかというのがここの今回の御提案の出発点になっているかと思いますけれども,この認識について何か御意見がある方がいらっしゃれば,それを伺った上で3,4に進みたいと思います。この点について何か御意見ございますか。
  いろいろな夫婦の在り方が出てきていて,それに対する対応が可能であれば考えようというのがここでの提案ですが,しかし,それによって様々な不確定要因も抱え込むことになるので,どの辺りでバランスをとるべきかという形で提案されていると思います。その枠組みは取りあえず共有されているということで先に進ませていただいてよろしゅうございましょうか。
  では,村田委員から順番に伺います。
○村田委員 1点質問なんですけれども,先ほど八木委員からお話があったところに若干絡むかと思うんですが,1の総論的なところで,いろいろな態様の婚姻生活があるということの御指摘の中に,別居期間が長く実質的な婚姻生活はそれほどなかったような者もいるのではないかという御指摘があります。この部分の問題意識は各論のどこかで受けているのでしょうか。それとも,なかなか難しい問題だと思いますので,そこはあえて外して考えるということなのでしょうか。
○堂薗幹事 まず,3の考え方については,基本的に離婚における財産分与と同じように考えていますので,そういった意味では,別居が長期化して婚姻関係が完全に破綻しているというような場合には,それ以降のものについては実質的夫婦共有財産としては考慮しないと,そういう解釈は十分あるんだろうと思います。
  4においても同じようにそういった解釈をとることはあると思いますし,ただ,その辺の紛争をできるだけ生じないようにするというのが4の基本的なコンセプトではありますので,そこを含めて争点化しないということも,そこは形式的に見てしまうということもあり得ると思います。
○大村部会長 あとはよろしゅうございますか。
○金澄幹事 1ページ目のところに,離婚における財産分与制度と相続制度の整合性ということがずっと書かれているところがございまして,現実に今,離婚の場合は,内縁配偶者に関していえば準婚理論ということで,実質財産分与のようなことがなされているわけなんですけれども,そこで,一方,相続になりますと,内縁配偶者には相続権がないということになっております。ここでも非常に大きく,財産分与と相続に関して大きな乖離があるわけなんですけれども,今回のこの考え方で実質的夫婦共有財産の清算ということになりますと,そうすると,内縁の配偶者でもずっと長い間連れ添ってくればそれなりの財産ができるということになりますので,この考え方の中には,内縁の配偶者に対しても何らかの手当がされるということも視野に入っているのかどうかというところについて,お考えがあれば教えていただきたいと思います。
○堂薗幹事 この種の問題を議論する場合に,特に法律婚について一定の保護をするという場合に内縁の配偶者をどうするのかというのは必ず問題になるところだろうとは思います。ですから,その点も含めて御議論いただく必要があるとは考えておりますが,ただ,そもそも今回の諮問の趣旨として配偶者の保護というのがあるわけですが,そこでは法律上の配偶者を念頭に置いているところがございますし,それから,そもそも相続の場合は,こういう形である程度実質的な面を考慮するにせよ,その身分関係についてはある程度形式的に考えて相続人を決めているところがありますので,相続制度の中に法律上の身分関係がない人を入れるということについては,非常にハードルが高い面があるのではないかと考えているところでございます。
○金澄幹事 そういたしますと,3ページのところの(2)の基本的な考え方のところに,「婚姻の効果として」と書かれておりまして,すなわち相続の枠外でということになっているんですが,やはり基本的には婚姻の効果というよりは相続でというお考えで,内縁配偶者は相続人でないのでここには入らないというお考えでしょうか。
○堂薗幹事 はい,基本的には,こちらとしてはそういう考えですけれども,ただ,特に3の考え方で,相続の前に別途財産分与的な手続を置くこととした場合には,先ほどのように,相続の場面では法律の身分関係に従って形式的に判断するというところがそのまま妥当するのか,別途解釈上問題にはなり得るのではないかと思います。ですから,そういった意味では,3と4の方策を比べた場合は,3の方策をとった方が,その点がより問題になるのではないかという印象は持っております。
○大村部会長 先ほど村田委員からの御質問もありましたけれども,3と4で,4は相続制度の中に包摂されるものを想定していますので,割合画一的なものを念頭に置いて御提案がなされたかと思います。しかし,3は必ずしもそうではありませんので,別居後の処理とか,今の内縁配偶者の処理とかについて柔軟な対応ができるかもしれない。ただし,柔軟になる分だけ処理も難しくなるということかと思いますけれども,よろしゅうございましょうか。
○金澄幹事 ありがとうございます。
○垣内幹事 今の御発言にも若干関連するかと思うんですけれども,1ページの,先ほど村田委員からも御指摘のあった点にも若干関連いたしますが,事例として,形式的には婚姻期間が長期にわたる場合で,しかし,別居期間が長く実質的な婚姻生活はそれほどなかった場合というのが挙げられているんですけれども,他方,事実婚との関係で申しますと,形式的には婚姻期間は短いんだけれども,長期にわたって事実婚が先行しているような事例というのも,どれほど実例があるかという点はともかくとして,考えることはできるように思います。そのような場合に,最終的には法律婚をしているということで,相続人たる地位はもちろんあるということになるかと思いますけれども,その法律婚に入る前の期間に実質的に実質的共有財産的な貢献があったというような部分を考慮するというようなことも併せて念頭に置いておられるのかどうなのかという点について少し教えていただければと思いまして,御質問させていただきました。
○堂薗幹事 その点につきましては,4のところで関連する問題があるのではないかと考えておりまして,この4の方策を採った場合に,寄与分を認めるかどうか,配偶者に寄与分の主張を認めるかどうかというところは今の垣内幹事の問題意識に近いところがあるのではないかと考えております。資料では,5ページの(注)の下のところでございますが,配偶者加算額の主張と併せて通常の寄与分を主張することは認めないということにしております。ただ,こういう考え方を採ると,ご指摘のとおり,事実婚が長いような場合に,本来ですと寄与分の主張をすれば,そこでかなり認められた可能性があるにもかかわらず,結局その主張は認められないということになりますので,この考え方を採った場合には,今申し上げたような事案については,配偶者加算額を主張するのではなくて,現行の寄与分の主張をする必要があることになるのではないかと思っております。
○垣内幹事 今のお答えにも関係するかと思いますので,本来4のお話になってしまうかもしれませんけれども,5ページの固有財産の範囲に関する御提案の中で,㋐のところで,「被相続人が婚姻前に有していた財産」というカテゴリーが設けられておりますけれども,ここでいう婚姻というのはやはり法律婚であって,そこはもう解釈の余地がない明確なものであるという理解を前提にしてよろしいのでしょうか。
○堂薗幹事 はい,こちらとしてはそういう理解です。
○潮見委員 すみません,2点あったんですけれども,2点目は今の点で了解しました。
  もう1点,総論的なところで,先ほど部会長がおまとめになられようとした部分ですけれども,こういう背景事情を前提にしたとき,妻と子の場合は2分の1ですが,そういうルールというものでよいのか,何らかの形でそれを変えていくような方向で議論していくという方向でよろしいのかという御趣旨の発言でもあったと思いますので,一言だけ申し上げますと,今回の御提案されている内容等について議論すること自体については,私は大いに進めていって,いい解決策があれば,それはそれでいいのではないかとは思うのですが,その一方で,先ほどからも幾つか出ておりましたが,例えば,実質的夫婦共有財産,これが一体何なのかということがどうも分かりにくい。あるいは債務の承継というものがどうなるのかが分からない。あるいは紛争が長期化するおそれが極めて高い,手続も複雑化するであろう。そういうふうな状況を前にしたときに,現行の例えば法定相続分の考え方というものを基本的に維持した上で,ここに書いている背景事情を実現するために,先ほど,これは沖野委員もおっしゃったところですけれども,今日も出てきますが寄与分の制度を改良していくとか,あるいは,これは中田委員がおっしゃられた906条の部分について遺産分割の基準あるいは方向性というものを示す中で,こうした背景事情を反映させるような形で示していって,それであとは実務的な運用に任せるというようなこともあってもいいのではないでしょうか。かえって席上配布の資料に挙げられているような制度を立てることによって,背景事情を解決するがために,かえってあらぬ紛争を相当数生じさせたり,あるいは本来紛争にならないようなタイプの問題の処理に対して何かマイナスの影響を与えることにもなりかねない。そういう意見があるということだけは申し上げておきたいと思います。お答えは要りません。
○大村部会長 今の御意見は,配偶者相続分,画一的なものを出発点としていてよいのかという問題はあるだろう。しかし,解決策はこれに限られないのではないかということですね。
○潮見委員 はい。
○大村部会長 他の解決策というのも,是非何か御提案がありましたら,早い段階で出していただけますと,立ち入った検討というのができるのではないかと思います。
  もしよろしいようであれば,3,4,具体的な提案についても既にかなり御意見いただいておりますけれども,それぞれに固有の問題もあろうかと思います。最初3について伺いますけれども,3,4双方に関わるという御質問もあろうと思いますので,4にまたがっても構いませんので,御意見を頂ければと思います。
○上西委員 まず,2ページの3(1)の①に,「配偶者は,遺産分割に先立って,相続人に対し,実質的夫婦共有財産の清算を求めることができる」とあります。方向性は賛成です。次の②に,「実質的夫婦共有財産に属するか否かが明らかでない財産は実質的夫婦共有財産に属するものと推定」とあります。両者がリンクしないという考えもありますが,相当リンクするであろうと思います。そして,5ページの③に書いてあることは,まず固有財産を確定するという考え方ですね。きっとこういうことになると思いますが,固有財産というのは意外に多くないような気もいたします。
  特に婚姻前に有した財産は,相続,遺贈,贈与,自分で稼いだもの等であると思いますが,明確に立証できるものというのは相続,遺贈,そして住宅資金の贈与です。これらはお互いが記録を残している贈与です。しかし,以前は60万,今は110万の非課税枠ですが,この範囲でこまめに贈与しているのは,あまり記録は残っていないのです。申告も不要ということもありますので。2ページの下の注書きに,固有財産の割合が高い場合について記載されていますが,おそらく多数の場合は,実質的夫婦共有財産が多くなる可能性が高い。そうした大きなバスケットの中に何でも入れてしまうと,事業承継がしにくくなります。例えば,子供の誰かが一緒に事業をしているような場合については,個人経営では事業用資産をどうするのか,法人形態でしたら自社株式をどうするのかということがあります。配偶者が遺産分割に先立って清算を求めることになりますと,固有財産以外の全てのものを実質的夫婦共有財産のバスケットに入れることに疑問です。場合によってはもう一つフィルターがあってもいいのかなと。すなわち,事業関連性の有無です。
  それと,3ページ(2)に「実質的夫婦共同債務」とありますが,要は,積極財産と紐付きになっているかどうかが一番のポイントかと思います。所得税では,アパート,マンションを相続したときに,それと紐付きとなっている借入金も一緒であった場合は,その部分の利息については必要経費となりますが,全く関係のない債務でしたら必要経費になりません。ですから,こういうふうに紐付きとなっているものについては相当程度リンクした形で特定できます。特定できないのは運転資金などで借りたものなのです。ですから,この実質的夫婦共同債務については,積極財産と確実に関連性があるものと,それ以外という分け方になるのかなという気がしております。
  それと,5ページの固有財産の個所ですが,配偶者の親族からの贈与というのも事実あります。事業を支援するために自分の子ではなくて,その子の配偶者に対する支援ということも多いわけです。これは全体から見れば本質的な議論ではないでしょうが,そういう事例もあるということを実務家の視点から指摘しておきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。今の財産の切り分けの点について何かありますか。
○堂薗幹事 確かにこういう形で固有財産を限定列挙し,それ以外を実質的夫婦共有財産とみなすということにしますと,御指摘のような問題がやはり出てくるんだろうと思います。特に,この4の方策でもそうですが,むしろ固有財産があることによって利益を受けるのは配偶者以外の相続人になりますので,そうすると,立証責任も基本的には他の相続人の方で固有財産がこれだけありましたということを立証しない限り,遺産全てが実質的夫婦共有財産であるという前提で取得割合を決めるということにもなりかねませんので,そういった意味では,こういった考え方を採る場合には,その辺りをどう考えるのかというのは非常に難しい問題があるのではないかと思っております。
○大村部会長 具体的な指摘をたくさんいただきましたけれども,今のような包括的なお答えということでよろしゅうございますか,細かい点は後で詰めるということで。
  ほかにいかがでございましょうか。
○増田委員 理屈の問題なんですけれども,3のご提案を素直に読みますと,前回おっしゃった,遺産未分割の場合の法律関係は,現在の判例理論である物権法上の共有と変わらないという認識を維持することを前提にすると,まず相続開始当初の財産の帰属基準としての法定相続分というのがあり得るのかどうかというのが最初の疑問ですね。
  次に,素直に読むと,法定相続分による合有関係がまずあって,そこから実質的夫婦共有財産が分離される。分離されて,実質的夫婦共有財産については,恐らく生存配偶者に確定的に帰属した2分の1とほかの相続人との合有関係になる2分の1になるのかなと。合有というのは物権法上の共有と変わらないとこの間おっしゃったけれども,そういう関係になるのかなと。固有財産の方は固有財産の方で,また別の割合による合有関係になるという理解でいいのかなと,この提案ではそういう関係になるのかなと思っているんですけれども,そういう認識でいいのかどうか。
  このようなものが権利承継なのかは,それは後にします。ややこしいから。
  このルールでいくと,まず合有関係から実質的夫婦共有財産が離脱して,残りのものが遺産となる。その遺産が遺産分割の対象になるということになりそうなんですね。実質的夫婦共有財産も半分が配偶者に行って,残りの半分は固有財産と合体して遺産となって遺産分割手続になるということだという理解でいいのかどうか。
  あと,手続論に入ると,どこまで訴訟事項になるのかどうかですね。法定相続分の問題に関しては,多分今まででも訴訟事項だと理解されてきた。具体的相続分に関しては,訴訟事項ではなくて審判で決めるものだと理解されてきた。そういうことになると,ここでは,遺産確認訴訟の範囲が変わるのかも知れないけれども,別に実質的夫婦財産確認訴訟というのもあるのかどうか,その必要性を前提されているのかどうか。
  可分債権が,これもどうなるか議論してくれと言われるのかもしれないけれども,今のままであるならば,可分債権に対して相続後直ちに訴訟を起こすことができるんだけれども,もし可分債権もこのルールに属するとしたら,どういう手続によって行使できるのかという問題があります。これは後で可分債権のところを議論するときでもいいです。それまでに,そこまでの法律関係について今の理解でいいのか,どういうお考えなのか,要するに,どこからどこまでが当然の権利承継であって,どこからが新たに形成されるものなのか,それは同時に,どこまでが訴訟事項で,どこからが審判事項なのかという話と連結すると思うんです。その辺りを御説明いただければと思います。
○堂薗幹事 今のは3の考え方を前提にした御質問ということでよろしいでしょうか。
○増田委員 4はまた後でうかがいます。
○堂薗幹事 分かりました。3の考え方は,基本的には,遺産分割の前に,財産分与的な手続を設けるということですので,最初の手続で清算した残りの財産,それが正に遺産分割の対象財産になるということですが,その点に関する法律関係は,基本的には現行法と同じになるのではないかと思います。したがいまして,遺産分割が成立するまでは,物権法上の共有と同じ状態になるということだろうと思いますし,その場合の共有持分は法定相続分に従うことになりますが,先ほど申し上げましたように,配偶者の法定相続分は現行よりも下がりますので,それを前提に共有持分が決まることになると思います。また,具体的相続分の定め方などについても,基本的には何ら現行法と変わりはない,したがって,具体的相続分については訴訟事項にもならないということだろうと思います。実質的夫婦共有財産であることの確認を求めることができるかどうかという点についても,離婚における財産分与の前提問題としてそういった訴訟が認められるのかという問題と同じであって,難しいのではないかと思いますが,特にその点は,この制度を新たに設けることによって生じる問題ではないのではないかと考えているところでございます。
○増田委員 離婚の財産分与で共有財産確認訴訟はありません。しかし,遺産分割の前提問題としての遺産確認訴訟というのは当然あるわけですね。
○堂薗幹事 はい。
○増田委員 そうすると,実質的夫婦共有財産は遺産ではないという考え方になってきますが,それは違うんですか。
○堂薗幹事 財産分与的な手続の中では,それは遺産ではないという扱いです。まず,夫婦財産を清算する手続を新たに設けるわけですので,その対象財産は遺産分割の対象財産とは異なるという前提であり,そこで清算した後の残りの部分と固有財産が正に遺産分割の対象財産になるという理解です。
○山本(克)委員 財産分与の方法については,実質的共有財産からしか給付がされないという前提なんですか。今のお話だと,そう聞こえましたけれども。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 相続開始によって,例えば実質的共有財産の持ち分が2分の1であるとすれば,妻はまず2分の1取った上で,更にその後,法定相続分プラスアルファを取るということになるんですか。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 物権的にも,そこの時点で財産分与の形でという仕組みで,物権的にも権利を取得してしまうという仕組みですか。
○堂薗幹事 そこはいろいろ考え方があるのではないかと思いますが,この3で考えているのは,夫婦財産の清算としてまず帰属も含めて分けてしまうという前提です。
○山本(克)委員 そうなんですか。そうすると,家だとすると,まず2分の1。夫が死んだとしますね,被相続人です。妻が財産分与分として2分の1取ってしまうと。それは遺産ではないから,遺産分割の対象は残りの2分の1の共有持ち分についてのみ遺産分割の対象になると。
○堂薗幹事 そういう理解です。
○山本(克)委員 そうですか。そうすると,また共有物分割を別途やらないと,その共有状態を解消する道はないわけですね。遺産分割の中で当該不動産の共有状態を解消する道はなくなりますよね。
○堂薗幹事 いや,財産分与的な手続で,共有が残らないような形で財産を分けるということも可能ですし。
○山本(克)委員 そこは,だから物権的,財産分与ができるかどうかというのは後の裁判によって形成されるわけですね。私が聞いているのは,相続開始と同時に,当然に2分の1取るようにも聞こえるし,財産分与によって何らかの形をするんだとも聞こえるし。だから,増田さんが聞いておられたのはそこなんだと思うんですよ。当然に2分の1分を相続か,被相続人死亡時に取ってしまうのか,それとも形成的に後の財産分与の裁判によって何らか変わってしまうのかということを聞かれて,もしそれで後の方だとすると,浅田委員がおっしゃった点については,銀行は財産分与の手続が終わるまでは払い戻しできない可能性が高いということになりますよね。違いますでしょうか。
○堂薗幹事 この3の考え方を採った場合にも,当事者は遺産分割と同じなので,もう一個の手続として併せてやってしまうと。そういう考え方を採ると……
○山本(克)委員 いや,そういうことは言ってなくて,財産分与を先行するんだけれども,財産分与の裁判をして,それによって形成された後の財産状態を前提に遺産分割をするというのがあり得るわけですよね。3通りあるわけです。だから,いきなり物権的に財産分与分が帰属してしまうと,実質的共有財産についてはという考え方と,まず財産分与の裁判で形成して,その後の結果を前提に遺産分割をするという選択肢と全部丼勘定でぐじゃぐじゃやってしまうという考え方と3通りあると思うんですが,どれなんでしょうということです。
○堂薗幹事 ここで挙げているのは財産分与と同じように,当事者間の協議が調うか審判が成立して初めて物権的な効果も生じると。したがって,それによって配偶者の取得分とされたもの以外のものが正に遺産として遺産分割の対象となるという考え方です。ここでは飽くまでも財産分与と同じものを手続的に先行させるという考え方を挙げていますが,ただ,そこは,そうではなくて,遺産分割と一体化したような手続を置くこともあり得るのではないかとは思います。
○山本(和)委員 その場合,仮に財産分与的なものを先行させるとしても,死亡後,その手続が終わるまでの実質的夫婦共有財産はどういう法律関係になっているんですか。
○堂薗幹事 ですから,その場合は,恐らく法定相続分で共有しているという状況にならざるを得ないのではないかと思います。ただ,そうすると,実際の取得額と法定相続分との乖離が非常に大きくなって,そこをどうするかという問題はあると思います。
○増田委員 そこで法定相続分と言われているけれども,その法定相続分というのは,修正された法定相続分なんですか。
○堂薗幹事 はい,そうです。
○増田委員 相続開始当初から修正された法定相続分で,つまり,実質的夫婦共有財産であっても,固有財産における法定相続分での共有関係が当初は発生しているということなんですか。
○堂薗幹事 ええ,そういうことになりますね。
○増田委員 そういうことになるの。
○堂薗幹事 はい。
○増田委員 かりにそれでいいとして,最初に,夫婦共有財産については分離するんですよね。分離されたときに,例えばある家が夫婦共有財産として半分が確定的に配偶者に帰属しました。残りの分は遺産共有状態です。このときには,どういう手続で共有関係を解消するんですか。
○堂薗幹事 それは遺産の中に共有財産が含まれている場合と同じ扱いをせざるを得ないとは思いますけれども。
○増田委員 残りの持分2分の1についての遺産分割手続をしろと。
○堂薗幹事 はい。
○増田委員 ただ,自分の持分は売れるんです。そういう考え方でいいですね。そうすると,この段階では自分の持分は確定的に取得しているから自由に処分できる,2段階目での実質的夫婦共有財産はそういう状態で,遺産分割手続の対象となるということですね。
○堂薗幹事 そうなるとは思いますが,ただ,先ほどから申し上げておりますように,仮にそういう手続を別個の手続として設けるとしても,相続の場面では,両手続の紛争当事者は同じになりますので,そこを常に別の手続として行う必要もないわけですので,全体として一個の手続の中でその二つを併せてやってしまうということもあり得るんだろうとは思っております。
○大村部会長 問題がなかなか皆さんに共有されにくいのではないと思いますが,3の問題は夫婦の財産関係を清算した後で,そして相続の遺産分割を行うという二段構えの手続を想定している。それが瞬時に行われていくということであれば,観念上の問題は存在するけれども計算はできていくわけですけれども,実際には財産分与のための期間,遺産分割のための期間というのが存在する。その間,財産関係はどうなるのですかということについて,いろいろな方から御質問が出ているというのが今の状況だと思いますが,その上で,潮見さんどうぞ。
○潮見委員 ちょっとだけ確認ですが,手続を一体的に処理することを義務づけるというのは,それは本当なんですかというのはありますけれども,夫がAで妻がBで子が2人,C,Dといるとします。Aが死亡したという場合に,先ほどの堂薗さんがおっしゃったことの確認なんですが,その場合に3の考え方を採ったら,実質的夫婦共有財産なるものと,それ以外の固有財産なるものとがあります。実質的夫婦共有財産なるものは,遺産分割とは違う手続によってその清算ということを行うことになる。具体的には,離婚の際の財産分与と同様のものをそこで考えるのだ,そういう立て付けだったと思うのですが,理屈の話で申し訳ありませんが,Aが死亡した段階で,実質的夫婦共有財産に当たるものは遺産に含まれると捉えて,そして,実質的夫婦共有財産に当たるものについての持ち分は法定相続分によって決まるという御理解ですか。
○堂薗幹事 そこは,必ず先に夫婦財産の清算をするという形で制度設計をした場合は,夫婦財産の清算が終了しない限り,遺産は確定しないと。
○潮見委員 そうだったら,死亡した段階での夫婦共同財産の帰属主体って誰ですか。今の例でいったらB,C,Dですか,それともBのみですか。Bのみって変ですよね。
○堂薗幹事 それはB,C,Dです。
○潮見委員 B,C,Dですか。
○堂薗幹事 はい。ですので,妻としては,現行法よりも減少した法定相続分で共有しているわけですが,一応その清算が済むまでは,その法定相続分を前提として,それぞれ財産を共有しているものと見ざるを得ないのではないかとは思っています。ただ,実際には,今のような形ですと,法定相続分は,例えば3分の1ということになって,配偶者の取り分は少ないように見えるんですが,実際に両手続が終了した後は,配偶者が過半数以上を取得するということになりますので,最終的に清算が終わるまでの権利関係と実際の取得額とがかなり齟齬してしまうという問題はあるんだろうとは思っております。
○潮見委員 清算が全て終わった段階は何とか説明できると思うんですが,その間の,つまり死亡してから実際に最後の清算が,広い意味での清算ですけれども,それが終了するまでの間の権利関係というものがはっきりしないと,制度として立ち行かなくなるのではないですかということを申し上げたかったのです。
○堂薗幹事 ですから,今申し上げたのは,その修正した後の法定相続分を前提に,それまでの間の法律関係を確定させるということですが,そうではなくて,こういった複雑な手続をとるわけですから,それまでの間の暫定的な権利関係は,例えば現行法と同じような割合で取得したことにするとか,あるいはその間の処分は許さないようにするとか,いろいろ考えなければいけないのではないかとは思っております。
○窪田委員 今,最後にお話を頂いたことで若干確認はしていただいたのかと思うのですが,まだよく分からない部分があります。先ほどから,この手続が確定するまでについては減少した新たな法定相続分という話は出てくるんですが,これは配偶者遺産分割に先立って実質的夫婦共有財産の清算を求めることができるという仕組みになっていて,先ほどの堂薗幹事の御説明にもあったように,常に清算をしなければいけないというわけのものではありません。だからこそ,遺産という全体の枠組みの中で考えることができるとなっていたのではないかと思うんですが,最後の点について確認したいのは,清算を求めることもできるとなっていますが,求めなかった場合に一体どうなるのかという点です。先ほどからのお話だと,3分の1という相続分になるのかなという感じもするんですが,しかし,3分の1になるというのは,清算を求めるという手続を最初に置いた場合の法律関係では,そうした減少した法定相続分になるんだというふうにすると,むしろ求めなかった場合には違う法定相続分という方が筋が通るのではないかと思います。そうだとすると,何もない,最後には清算を求めるのかもしれませんけれども,その清算手続が完了するまでの法律関係というのは,むしろ当然に3分の1になるわけではないのではないかと思うんですが,その点ちょっと確認をしていただけますでしょうか。
○堂薗幹事 資料4ページの①から④までの考え方自体,あまり明確になっていない部分があるんですが,窪田先生が言われるように,2ページの①で「実質的夫婦共有財産の清算を求めることができる」ということで,これは飽くまで配偶者の選択でできるんだいう制度にするのであれば,今おっしゃられたように,配偶者がこちらを選択すればその方向で手続が進んでいきますし,逆に,そのような選択はせずに現行の手続を選択した場合には,現行法の規律に従って手続が進んでいきますし,その選択をどちらにしたかによって権利関係も変わってくるということになるのではないかという気がしております。
○増田委員 どちらか選択するということであれば,どちらも選択しないということもあり得るわけです,一つはね。かりにどちらも選択しない場合の意思の擬制を定めたとしても,そういう個人の権利行使の有無や随意の選択によって相続開始時からの権利関係が変わるというのは,理論的に既に破綻しているように思うんですよね。相続開始の時点で,すなわち死んだ瞬間にその時点での権利関係というのは確定していなければいけないわけでしょう。
○堂薗幹事 いや,ですから,基本的にオプションとして,この3の考え方を選択することができるということであれば,それは,選択するまでの間は現行法と同じということになると思います。
○増田委員 先ほどからの話だと,現行法ではなくて,修正された3分の1ということですね。
○堂薗幹事 その点については,制度の仕組み方としてはいろいろあるわけですが,夫婦の場合には常に財産分与的な手続を先行させるということになれば,先程のような説明になるのではないかと申し上げたわけで,仮にこの①のところで配偶者の選択に委ねるということになると,それはまた権利関係が大分変わってくるんだろうと思います。すなわち,手続が多少複雑になっても多くの取り分を確保したいという配偶者のために,手続の選択を認めることとするのであれば,そういう選択をするまでの間は飽くまで現行の法定相続分で権利関係を承継しているということになるのではないかと思います。当事者の意思によって権利関係が変わるのはおかしいというのは確かにあると思いますが,配偶者の選択に委ねる場合でも,例えば相続の放棄承認における熟慮期間内にそういう選択をしない限りは,現行法と同じ規律になるという形にすれば,それは現行でも相続の放棄をすれば権利関係は変わるわけですので,それと同じような形で,権利関係を確定させるということはあり得るのではないかと考えているところでございます。
○増田委員 3段階が選択が入ることによって4段階になると,こういうことでいいんですかね。詳しくは言いませんけれども,可分債権はどうこうというのもありますし,例えば株式などでは,そこで権利行使方法などがいろいろと問題になりそうな気がしますね。ほかにも第三者の関連する場面ではかなり複雑な法律関係を生むという感じはします。
○大村部会長 ありがとうございます。今の御議論は,3の1自体は,当面,選択を想定しないで作られた案かと思いますけれども,御意見が出て,選択を考えるとするとどうなるかということについて事務当局は述べられたのではないかと思います。
  皆さんの御質問は相続の手続の中で夫婦財産制の清算的なものを組み込むという仕組みなのか,そうではなくて,まず最初に夫婦財産制の清算があって,その後に相続の手続,遺産分割があるという仕組みなのか,どちらで仕組まれているのかを明確にしてほしいという,こういう御質問なのかと思いました。ちょっと整理を要する点もあるようですので,今の点について何か補足の質問がありましたら頂きまして,更に検討いただくということにしたいと思います。
○上西委員 実質的夫婦共有財産の清算と遺産分割の関係は,同様に疑問に思いました。税制は後から検討することなので別問題としまして,民法としては,どちらであるのかということを明確にされた方がよいと考えます。
  そして,実質的夫婦共有財産の範囲を決めることについて,できるかできないかということを判断することのほか,2分の1の数字は別にフィックスではなくてあくまでも推定と書いてありますので,変動し得るわけですよね。そうであれば,2分の1であるかどうかについても,他の相続人との協議が必要になってくることになります。実質的に遺産分割というものは,範囲と割合の2回協議するわけです。そうすると,フィックスした数字でない方が私はいいと思いますが,この制度を選択すると,協議の場が増えるという気がいたします。
  そして,もめるケースともめないケースがありますが,もめないケースの場合,この実質的夫婦共有財産の清算とそれ以外の残りの通常の遺産分割について,それぞれの税率を見ながら,我々は相当複雑な計算をして有利・不利を判定することになると思います。
○堂薗幹事 今の点は御指摘のとおりかと思いまして,この②については,当事者間の協議かあるいは裁判所の審判でその寄与の割合を決めるということになりますので,その分だけ紛争が非常に複雑化することになろうかと思います。3については,これを制度として実現しようとすると非常に難しい問題があるということを踏まえ,更に4のような考え方も考えてみたというところがございます。今いろいろな御指摘を頂いて,3のような考え方で制度を仕組むというのは非常に難しいということが改めて実感としてよく分かったところでございますが,引き続き御指摘を踏まえて検討してみたいと考えております。
○窪田委員 関連して検討していただきたいということで,あるいは3はもう放棄されたのかもしれませんが,私が先ほど現行法どおりの法定相続分でと申し上げたのは,もちろんそれによってかえって複雑になるという部分はあるのだろうとは思いますが,債務との関係を考えた場合に考えられるのではないのかなと思いました。
  先ほど,この清算というのをどのように位置付けるのかが手続との関係でも問題になるのではないかということがあったと思うのですが,これは全体としてどう仕組むのか,あるいはこういった選択がなされなかった場合にどういう法律関係が生じるのかというのは,おそらく債務との関係では,大きな意味があるのではないかなという気がします。
  現行の法定相続分という発想が残るのであれば,それを手掛かりとすることができますが,最初からまず清算をする,そして,その後にそれ以外の部分について相続が生じるといった場合には,被相続人の債務について一体どういうふうな処理をするのかというのはかなり深刻な問題になるのだろうと思いますので,その点も併せて御検討いただけたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  沖野委員,潮見委員の順で,お願いいたします。
○沖野委員 関連性は遠いんですけれども,いいですか。
○大村部会長 そうですか。では,潮見委員。
○潮見委員 私も関連性はかなり遠いので。
○大村部会長 では,戻って,沖野委員,潮見委員の順で。
○沖野委員 気になっております点が二つございます。一つは,上西委員がおっしゃった点の繰り返しですが,事業用財産というのを別立てにした方がいいのではないかという点です。もちろん事業用財産といっても夫婦で形成してきた場合もあれば,親子で形成してきた場合もあり,夫婦と子でという場合もあるというようにいろいろな場合がありますけれども。事業用財産の話は,むしろ4において,より深刻になるかと思います。
  もう一つは,遺留分との関係がどうなるのかというのが気になっております。相続の前段階として清算をする,財産もきれいに切り分けるとしたときに,自由に被相続人が処分できるような範囲とできない範囲というようなものが財産の性格によって変わってくるのかですとか,今,法定相続分が2種のものが想定されるような形で話がされています。現行の2分の1と,それから修正された3分の1というものですが,例えば遺留分などでどう働いてくるのかにも影響が出るのではないかという感じがしていまして,出なければいいのですが,そこも考える必要があるのではないかと思ったものですから,更に案を詰めていくときには御考慮いただければと思います。
○潮見委員 後者は全く同じことを言おうと思っていたところてす。遺留分制度自体の捉え方にも関わってまいりますから,是非お願いします。
○大村部会長 それでは,御意見として承って,更に検討をしていただくということにしたいと思います。
  4の方について御意見を頂きますが,関連で3に戻ることもあるべしということで御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。
○水野(有)委員 東京地裁の水野でございます。
  4と3と両方にまたがる問題かと思うのですが,生存配偶者の財産も対象とした場合に,先ほど来問題となっている問題が,それは遺産制なのか,夫婦共有財産制なのか,その両面なのか,やや分からないのですが,そうだとすると,例えばそれも対象,正直それを対象にしないと実質的公平は図れないものの,それを対象としてしまうと,亡くなった瞬間,生きている人の財産も共有になってしまうというとても複雑な法律関係になるような気がいたしまして,それがとても難しいなとは感じております。
○大村部会長 御指摘の点はそのとおりで,多分それを前提に3と4とを対比しているということだろうと思いますが。
  ほかはいかがでございましょうか。
○増田委員 今現在は,相続による物権変動に関しては対抗要件は要らないという理解であって,遺産分割で初めて対抗要件が必要であるということになっているんですけれども,相続に関して,そもそも財産の種類によって分け方,相続分と言ってはいけないんですね,帰属先が変わるというようなことが,元々その承継時から予定されているということになると,相続にも対抗要件が必要になるとした方がいいという可能性も残るのではないかと思いますので,その対抗要件の関係についても検討すべきではないかと思います。
○堂薗幹事 今のは4の考え方に立った場合でしょうか,両方でしょうか。
○増田委員 両方ですね。
○堂薗幹事 まず,4の考え方について言いますと,配偶者加算額という形で書いておりますけれども,これは先ほども申し上げましたとおり,取扱いとしては寄与分と同じように扱うという前提でございまして,現行の寄与分は,その貢献の実質面を考慮して上乗せすることを認めるということにしているのに対し,一定の計算式で形式的に算出された額を基に寄与分的な取扱いをするということを考えております。そういった意味では,現行の寄与分と同じような取扱いをする以上,対抗要件についても特に変えるまでの必要はないのではないかというのがこちらの整理でございます。
  3の考え方につきましても,同じような問題は離婚における財産分与にもあり,それとパラレルに考えるということでございまして,現時点では,この場面で対抗要件に関する規律を変えるというところまでは考えておりません。
○増田委員 この問題は,相続開始時の権利関係をどう組むかという問題と一緒に考えるべき問題だと思います。4については,具体的相続分ということで遺産分割時の問題と,それはいいんですね。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 そうですね。今の御質問ですけれども,実質的夫婦共有財産というものと固有財産というものがここに出ておりますので,それぞれ性質の違う財産なので帰属も違うのかという御疑問が生ずるわけなんですけれども,少なくとも4については,計算の中でこの財産の違い,性質の違いは考慮されはするけれども,最終的には,相続分の加算額に反映されますので,その後は従来の処理に乗せることができるというのが今の事務当局のお答えかと思います。
○山本(克)委員 3の場合でも同じなのかもしれませんが,4の場合に可分な債権が相続財産に含まれているという,かつ,それが実質的夫婦共有財産であることはあり得るわけですね。しかし,それは分割時には現行の考え方を前提とすると,分割の対象ではなくなるということ,そこの乖離はやむを得ないと。あるいは,むしろ可分債権の方を遺産分割の対象に取り込むことによって解消するか,どちらかでいくということでよろしいんですか。
○堂薗幹事 正に御指摘のとおりで,次々回ぐらいに取り上げたいと思いますが,可分債権を遺産分割の対象財産に含める必要がないかという点についても御議論をしていただく必要があるのではないかと考えております。可分債権については,寄与分の対象にもならないというような問題があって,その点の相当性については議論があるんだろうと思います。特にこういった考え方を採った場合には,その問題がよりクローズアップされることになりますので,遺産分割の対象に可分債権まで含めないと,相続人の実質的な貢献が考慮できていないということになるのではないかとは思っております。
○大村部会長 山本克己委員,よろしいですか。
○山本(克)委員 はい。
○垣内幹事 5ページの④のところで,「配偶者加算額の主張をする場合には,寄与分の主張をすることができない。」という御提案が書かれておりまして,このことの意味について少し教えていただきたいんですけれども,この④の御提案の趣旨としては,下の基本的な考え方の(注)というところの直前のところでしょうか,「紛争の複雑化,長期化という問題は多少なりとも軽減しよう」ということに主眼がある御提案と理解したんですけれども,この「主張をすることができない」というのは,最終的に実体法的な問題として配偶者加算額と寄与分の両方を認めて加算することはできないということにとどまるのか,それとも,手続的な規律として,例えば寄与分の審判の申立てをしたら,もう配偶者加算額の主張は主張自体が不適法であって主張しても何も取り上げてもらえないということなのか,あるいはその予備的主張としてならできるということなのか。仮に予備的主張としてなら両方言えるというようなことになりますと,紛争の複雑化,長期化という観点からは余り併存禁止と言っても始まらないような感じもいたしまして,その辺りどういうお考えでいらっしゃるのか,少しお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 今の点は,基本的には紛争を複雑化しないために,配偶者に選択してもらうということを考えておりますので,基本的にはどちらかが選択されればそちらしか主張できない。したがって,その選択した結果が,実際には他方を選択した場合より不利益な結果になっても,それはやむを得ないという整理をしておりますので,配偶者加算額の主張をした場合は,その後に寄与分の主張をしたとしても,それは不適法却下だという理解でございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○垣内幹事 そうしますと,今,現行法でも寄与分については申立期間の指定といったような規律が一部ありますけれども,そういう手続の初期段階に,どっちでいくのか決めなさいという期間か何かを設けて選ばせるというようなイメージになるということでしょうか。
○堂薗幹事 その辺りの部分も検討する必要があると思います。
○潮見委員 今のやり取りの確認なんですが,寄与分の主張をすれば配偶者加算額の主張は認めないということですか。配偶者加算額の中には寄与分で考慮されている以外の要素は入っていないという御理解で,つまりイコールだという理解ですか。そうではないですよね。
○堂薗幹事 ええ,イコールではないと思います。理論的には両立し得る関係にありますので両方認めるのが本来は筋なのかもしれませんが,そうすると,配偶者加算額の主張もし,それで駄目な場合に備えて寄与分の主張もするということで更に紛争が複雑化するので,そこまでは認めずに,配偶者の選択に委ねてはどうかというのがここで挙げた考え方です。ただ,5ページの下のところの(注)で書いてありますように,主張制限は設けないということも考えられるとは思います。
  また,先ほど申し上げましたように,配偶者加算額では,事実婚が先行しており,その間の貢献が大きい場合には,そこは考慮できないことになりますので,そういった問題はあるのではないかとは思っております。
○垣内幹事 御提案の趣旨は理解したつもりでおるんですけれども,そのような規律を導入する趣旨というのが専ら紛争の複雑化,長期化の防止ということであるとしますと,かなりその効果が実体的にラディカルなような気がいたしまして,手続の初期段階でかなり射倖的な選択をさせるといいますか,後で,あっちでいけばもっとずっとよかったのにというようなことが起きないとも限らないように思われますので,もう少し実体法的な理由付けができるのであれば分かるのかなという気もしないでもないんですが,専ら手続的な規律だけでそこまでの規律をとることができるのかということについて若干心配な感じを,印象を持ちましたので発言させていただきました。
○大村部会長 今の何人かの委員・幹事の方々の御指摘は,理屈としては,むしろ併存を出発点に考えるべきなのではないか,それが手続的な煩雑さをもたらすということであれば,どちらか選択というのではない形で解決するということを目指すべきではないかということになりましょうか。
○潮見委員 大村部会長の整理でいいとは思うのですが,恐らく,それは垣内幹事がおっしゃられたところにも関わるんですけれども,配偶者加算額というものの中身と,これが何を内容としているのかということと,それから寄与分がどういう内容のものなのかというところの整理をする必要があるのではないかということなんだと思います。
○窪田委員 私も基本的に同じ趣旨の発言をしようと思っておりました。特に寄与分の方ですが,寄与分は清算なのだということになりますと,配偶者加算額というのは清算の内容を含んでおりますので,その中で,つまりより上位の枠組みの中に取り込むことが可能なのだろうと思います。しかし,寄与分の方をどう構成するかということにもよりますが,共同相続人間での公平を考慮した上でのものなのだという位置づけをすると,随分性格が違うものになるだろうと思います。したがって,その点を抜きにして両者の関係を決めることはできないのではないかと思いました。また,両者が重なる場合においても,先ほど潮見委員からの御質問は多分そういう趣旨だったのだろうと思いますが,配偶者加算額の方が多分大きくて寄与分の方が小さいという関係はあるとしても,逆はないのだとすると,寄与分を取った途端に配偶者加算額は一切アウトになるというのは,やはり実体法上もかなりラディカルなものだということになると思います。
○大村部会長 実体法的な関係の整理をまず行って,その上で手続関係の調整をするという方向で,再整理をお願いしたいと思います。
○堂薗幹事 はい。
○大村部会長 4について,そのほか。
○石井幹事 今の議論との関係なんですけれども,配偶者加算額の主張というのは,恐らく遺産分割の場面では,具体的相続分の主張として出てくるのかなと思っておったところなんですが,そうした具体的相続分の主張と寄与分の主張とのいずれか一方しか主張できないとした場合には,いずれの主張をするかについて,手続上,どのような形で選択をしてもらい,どの段階で,どのような形でそのうちの一方の主張を却下するのかといったことについて,制度の組み方が難しいのかなという印象を持ちましたので,その辺りについても御検討いただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○浅田委員 ちょっと細かいコメントが二つあります。一つは,4で取り上げられている制度を見ますと,確かに3の問題点であった,実質的夫婦共有財産の範囲の不明確さということについては一定の配慮がなされていると思います。ただ,ここにも書いてありますように,たとえその5ページの③のような限定をしたとしても,問題はそこの点の挙証がどうなるのかと。昔のことですから,そういう証拠が残っているかどうかということを含めて事実上の争いになり得る可能性があるということが一つです。
  それからも,7ページにも書いてあるところでありますけれども,その当時の婚姻前に有した財産というのが,その評価自体がどうであるのかということを子細に確定しておかないと,例えば,株が値上がりしたとか土地が値上がりしたとか,そういうことがありますから,そこははっきりさせておかなければならない。要は,きめの細かい制度設計が必要だと思いました。
  二つ目に,銀行から,債権者としてのコメントでありますけれども,6ページの(3)の検討課題等の配偶者加算額の計算式について,「積極財産を実質的夫婦共有財産と固有財産に区別するのみならず,相続債務ついてもこれを実質的夫婦共同債務と固有債務とに区別することが考えられる」うんぬんという部分の後段の「そこで,」以下のところに,積極財産のみを考慮するという提案が書いてあります。ここに書かれている問題点,すなわち「実質的公平を害する結果になりかねない。」というところは,そのとおりだと思います。それに加えて,債権者の立場からは,ここで挙げられている場合,すなわち不動産取得のための借り入れ等によって配偶者の取り分が多くなったというケースにおいては,配偶者加算額が多くなるということになります。そうしますと,債務を含めて配偶者加算額を計算する制度にしないと,この加算額の結果どうなるかというと,配偶者以外の相続債務者の資産が目減りするということになります。債権者からすると,その引当財産の状況が債権に見合った,先ほども確認しましたが,当然承継債務分割説との間でずれが生じてしまうということになりますので,当事者間の実質的公平を害することだけにとどまらず,その債権者も害する制度設計になりはしないかというところが危惧されます。
○大村部会長 今の御指摘の2点も含めて,更に御検討いただくということにさせていただきたいと存じます。
  ほかに4について,いかがでございましょうか。
○八木委員 基本的なところがよく分からないところがあって,趣旨としては離婚時の財産分与との整合性を図ろうということが全体としてはあると思うのです。この財産分与の制度の趣旨は恐らく,違ったら教えていただきたいんですけれども,元々自らの財産であったが故に離婚時に幾分かはそれが自分のところに移転する,あるいは生活保障という意味合いがあると思うんですね。財産分与の場合は,これは税金は非課税になるんですか,この辺教えていただきたいんですけれども,ということだと思うんですね。
  この夫婦共有財産の場合は,これも本来は恐らく大体2分の1ぐらいは自分のものであるという前提で,その死亡時にそれが清算できるということだと思うのですね。しかし,この場合は相続税が課税されていますよと。ですから,ここを制度の趣旨が本来は違うのではないのかなということを今思っておりまして,今日の議論の全体にも関わるのですけれども,果たしてその辺りはどうなのかなと思っているのですが,その辺,教えていただくと幸いです。
○堂薗幹事 まず,財産分与の制度趣旨でございますが,この点についてもいろいろな考え方があるのではないかと思いますけれども,一般的に言われているのは,八木委員の方で言われたように,一方配偶者の潜在的な持分について清算するという意味合いと,配偶者の離婚後の生活保障というようなところで,そういった意味では,ここで挙げている方策は,その制度趣旨において財産分与と非常に類似性があるのではないかと思います。
  税金の点につきましては上西委員にご説明いただければという感じもいたしますが,仮にこのような制度を設けた場合に,それをどういうふうに税金として仕組むかですね。特に3のような考え方を採りますと,財産分与との類似性がより明確になってきますので,どのように課税するのかというのは別途問題になると思いますが,ただ,それはこの場で議論する問題ではなく,別のところで議論をするということになるのではないかと思います。
○上西委員 4の場合は,当然のことながら,これは相続財産です。3の場合に,実質的共有財産について課税される遺産から外すことが妥当かについては,例えば,これが10億でも20億でもいいのかという話になりますと,課税はまた別の考え方をしてもいいのかなと思います。課税することも当然かなという気はしておりますが,それは後の制度設計だと思います。
  離婚の場合は,慰謝料債務の対価の消滅という考え方なので,もらう側については非課税です。現金を渡す側については,現金を渡すことについては現金の移動だけです。資産の移転ということになりますと,居住用の財産とかになりましたら,元々の原価があり,税法では取得費といいますけれども,譲渡益が出ることもあり得ます。ですから,所得税課税は起こり得るわけですが,もらった側について基本的に贈与税課税はありません。
○大村部会長 よろしいでしょうか,八木委員。
○八木委員 はい。
○大村部会長 ほかに。
○増田委員 この4というのは,3に比べれば非常にシンプルであって,一つの,どうやって分けるかということについてはかなり整理がされていると思うんですが,ただ,逆にそれが一般の人の目から見た場合に,現行法とどちらが割り切りやすいかという問題が出てくる。実質的な公平を図る,図ると言いながら,本当に公平になっているのか。例えば,先ほども出ましたけれども,配偶者名義の財産を清算対象から除外しているところとか,あるいは婚姻前に有していた財産,これは内縁(事実婚)当時のものは実質的夫婦共有財産に含まないとおっしゃっていたと思うんですが,そういう問題もあるし,あるいは財産分与でもよく問題になるんですけれども,婚姻前に有していた財産でも,例えば田舎で代々住んでいる家屋であっても,それがすでにぼろぼろになっておれば婚姻後にいろいろ修復をして価値を高めていっているというようなものもあるし,逆に,取得したのは共同生活をしている間であっても,これも先ほども出ていましたが,ローンを払っているのは破綻した後だというようなケースもある。そういうケースについては,この4の考え方を採ったとしても,シンプルにしたが故に実質的公平という観点からはやはり外れるわけですね。だから現行法の,いかなる財産であろうと配偶者だったら2分の1だと,子供はその残りを分けるんだという考え方も一つの割り切りなら,この4も実質的公平からずれている部分では一般人にとっては一つの割り切りがやはり必要なんですよね。そうすると,どっちが割り切りやすいかというような問題に関わってくるのかなと思います。それを避けるには,この固有財産と実質的夫婦共有財産との中身をもうちょっといろいろな場合を想定するということになるけれども,これはまだ想定し切れていないということになると思うので,その辺り,よく検討していただければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。今の点は御指摘のとおりだろうと思いますので,より具体的に案を詰めていただきたいと思っております。
  ほかに,いかがでございましょうか。
  それでは,休憩いたしまして,4時に再開させていただきたいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,後半の審議に入らせていただきたいと存じます。
  資料の7ページ,第2「寄与分制度の見直し」というところにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。
○下山関係官 それでは,第2「寄与分制度の見直し」について御説明させていただきます。
  現行の寄与分制度におきましては,「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」ことが寄与分の要件とされており,ここで,「特別の寄与」とは,一般に,被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献があったことを意味すると解されております。
  例えば,被相続人に複数の子供がいる場合に,そのうちの一部の者のみが療養看護を行ったような場合であっても,寄与分の少なくとも文言上は,貢献の程度について他の相続人との相対的な比較を行うことは予定されていないこと,また,被相続人に対して扶助義務ないし扶養義務を負う者が行った貢献については通常期待される程度を超える貢献があったと判断することに困難な面があることなどから,寄与分が認められにくいといった指摘がされているところです。
  また,現行の寄与分制度は,「被相続人の財産の維持又は増加」について特別の寄与があった場合に寄与分を認めることとしており,基本的には,相続人の寄与を財産的に評価することを前提としているものと考えられます。しかしながら,療養看護に例をとりますと,それ自体,被相続人の財産の維持又は増加を直接の目的としてした行為ではないということなどを踏まえますと,「被相続人の財産の維持又は増加」の有無によって寄与分を認めるか否かを決定し,更にその程度によって寄与分の額を算定するということは,必ずしも相当ではないといった指摘もされているところです。
  そこで,相続人間の実質的な公平を図るという観点から,寄与分制度について,「現行の寄与分の規定に該当する場合のほか,共同相続人の間で,被相続人の療養看護〔及び扶養〕についての寄与の程度に著しい差異がある場合にも,共同相続人間の協議又は家庭裁判所の審判により,寄与分を認めることができる。」と,このような見直しをすることが考えられます。これは,現行の寄与分の要件であるところの「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」と言えない場合であっても,他の共同相続人との比較において,被相続人の療養看護についての寄与の程度に「著しい差異」があった場合には,端的にそれを理由として寄与分を認めることとして,相続人間の実質的公平を図ろうとするものでございます。
  この方策を採用する場合には,この特則の対象となる行為類型をどの範囲のものとするかが問題となります。この点は,寄与分の要件を緩和する根拠をどこに求めるかにもよるものと考えられますが,扶助義務ないし扶養義務を負っている者が行った貢献については,ほかの類型に属する貢献に比して,「通常期待される程度を超える貢献」があったとの認定をするのが困難であるといったことを根拠とするのであれば,その対象となる行為類型は療養看護型のほか,類似した扶養型も含まれてくるということが考えられます。他方,家業従事型,金銭出資型,財産管理型の寄与とは異なって,寄与行為自体が経済活動と密接に関連するものではない,被相続人の財産の維持又は増加を直接の目的としてされた行為ではないといった点に着目して,それに見合った要件を追加したという説明をするのであれば,対象となる行為類型を療養看護型に限定するといったことも考えられるかと思います。
  次に,「被相続人の財産の維持又は増加」の要件の取扱いについてでございますけれども,寄与行為によって被相続人の財産が維持又は増加したかどうかを問わないこととした場合には,寄与分の額を定める際の基準が現行法と比較して不明確なものになることが考えられるところです。そこで,「被相続人の財産の維持又は増加」を寄与分の要件としない場合であっても,この点が寄与分の額を定める際の重要な考慮要素となることを明示することも考えられます。
  他方,遺産分割は,被相続人の財産をどのように分配するかを定める手続であるということを考えれば,財産的な貢献とは無関係に相続人の取得額を増減させるのは相当ではないことから,「特別の寄与」の要件は不要とするとしても,「被相続人の財産の維持又は増加」の要件は残すことも考えられるところかと思います。
  次に,紛争の複雑化,長期化についてです。現行の寄与分制度におきましては,相続人が寄与分の主張をした場合には,当該相続人の貢献度合いが寄与分の要件を満たすものかどうか,この点のみを検討すれば足りることになります。しかしながら,この方策を採用した場合には,寄与分を主張する相続人のみならず,他の相続人の貢献の程度までも検討しなければならないことになるため,寄与分を定める事件の紛争性が増大するおそれがあるところです。
  したがって,これらの問題点について御意見を賜りたいと思っております。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  これは一般論から始まりまして,具体的な要件の設定の問題までございますけれども,全体につきまして一括して御意見を承りたいと存じます。いかがでございましょうか。
○窪田委員 寄与分の部分について御説明を頂いたところなのですが,これは私自身の意見というより,ワーキンググループの報告書が出たときに,ある同僚の研究者から指摘をされた意見で,大変に印象に残りましたので,ここでお話をしておきたいと思います。基本的には,特に療養看護型,財産の維持や増加には直結はしないとしても,そこでの公平の実現を図るということで,こうしたものについて寄与分を認めるという考え方,御説明だったと思いますし,私自身もそういう立場でこれまで積極的に発言をしてきたのですが,それに対して問題提起としてありましたのは,これはある意味では無償で近親者が介護するということにインセンティブを与えるようなものになってしまうのではないかという指摘でした。一生懸命やるということに対して,それに対して対価としては十分ではないかもしれませんが,そうした方向にリードするようなものだということになりますが,それは本来あるべき姿なのか,社会の在るべき姿として求められているものなのだろうかといういう疑問です。それ自体は問題提起としては十分にあるのかもしれないという気がしています。私自身は今,自分の立場が固まっているわけではないのですが,そういう見方もあるということも大事な点かと思いましたので,お話をさせていただきました。
○大村部会長 ありがとうございました。これを認めることがどういうメッセージを社会に向けて発することになるのか,あるいはどういうインセンティブを生じさせることになるのかという御指摘だったかと思います。
  そのほかには,いかがでございましょうか。
○石井幹事 既に資料等でも指摘されているところですが,提案では,共同相続人間に貢献の程度について著しい差異があれば寄与分を認めるとされておりますけれども,具体的にどの程度の差異があれば寄与分が認められるのかということや,それをどのように金銭評価するのかということはなかなか難しいという指摘はできるのかなと思っております。現在でも,寄与分の主張がされた事案の審理は長期化する傾向がございますので,これらの点が審理に与える影響については,やはり一定の懸念はあるのかなと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。現行法の下でも寄与分はかなり難しい問題を抱えておりますので,それが拡大することになりはしまいかという御指摘かと思います。
○南部委員 まず,寄与分を認めるということ自体がどうなのかというのはこれからの議論になろうかと思うんですけれども,基準をどう作るかというのは非常に難しいと思います。大きく声を出した人が得するような内容になっては決していけないと思いますし,現在,この寄与分に関わって裁判例というのがあるんでしょうか。結果として,ここまで作る必要があるのかなと少し疑問に思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。直前に石井幹事から現状について御発言ありましたけれども,裁判所関係の方々から,現在の寄与分に関する実務について御感触等を伺えればと思いますけれども,いかがでございましょうか。
○石井幹事 療養看護型の寄与分が主張された事件数については,統計自体がございませんので,分かりませんけれども,寄与分を定める処分の審判事件につきましては,既済事件のうち,寄与分の主張が認められた事件はおおむね2割前後ございます。実務の感触としては,寄与分として認められない療養看護というのは,その行われた期間,専従の程度,対価の有無等からして,いまだ特別の寄与として認められるだけの貢献とはいえないと判断されているものが多いように思います。
○大村部会長 ありがとうございます。南部委員,よろしいですか。
  ほかにいかがでございますか。
○水野(紀)委員 第1のところで発言させていただいたのと少し関連するかと思いますが,寄与分を配偶者も主張できる可能性を含んだ形で先ほどから議論がされております。療養看護と考えたときに,配偶者の寄与分と,子供たちのうちの誰かが特に療養看護に尽くした場合を,同じ寄与分という形で捉えることができるのかという点で,そもそも論として,少し危惧しております。やはり配偶者の場合には,婚姻制度の中にある,運命共同体的な手厚い保護故に,たくさんのことが自動的に相互義務として認められるという枠組みがある。その中には,老老介護になるかもしれませんけれども,配偶者がお互いに療養介護しながら運命共同体として生きることが相当入っているのだろうと思います。そういう配偶者の寄与と,子供たちのうちの誰かが療養看護に努めたという場合の寄与を,同じ寄与分の中で考えることに相当の難しさを感じます。子供については寄与はあり得るけれども配偶者の寄与はないとするのも,一つの筋のように思います。寄与分自体を認めるかどうかということとはまた別の論点になりますけれども,もし寄与分,あるいは配偶者の加算分というような形で重ねて配偶者の寄与をお考えになるのだとすると,その辺りの御説明もしていただければと思います。
○大村部会長 水野委員は,むしろ先ほど話題になった配偶者加算分との関係でいうと,あちらでカウントされるのならば,もうこちらは要らないのではないかという立場だということですね。
○堂薗幹事 今の点につきましては,こちらも若干問題意識を持っているところがございまして,9ページの(注)のところで触れておりますが,特にこの新たな類型を設ける場合に,配偶者と子供との間に著しい差異があるかどうかというのを判断するのは非常に難しいのではないかと。元々配偶者と子供では,通常期待される程度といっても,その程度は全然違いますので,元々の基準が違うところの二つを比較するというのは非常に難しい面があると思いますので,こういった類型を新たに設ける場合にも,同一の身分関係,子供なら子供同士で違いがある場合に限るという方が理論的には一貫するのかなという印象は持っております。
○増田委員 私は,こういう療養看護・介護について,相続の枠組みで処理すべきかどうかというところに疑問を持っております。財産の維持・増殖というところを外すと,遺産分配上の問題ではなくなるのではないかと考えていて,療養介護の労力に対してどうやって報いるかということについては,どっちかというと扶養に近いものとして,そちらの方を拡張する方向というのはどうだろうかと思っている次第です。
  なぜかというと,同じ労力を掛けて,その労力について金銭評価できると考えたとしても,寄与分とした場合は,はっきり言って遺産に資力がある場合でないと,報われないわけですね。仮に遺産がある程度あったとしても,債務超過だったら駄目だし,可分債権の処理の問題は別に処理を考えるのかもしれないけれども相続財産が可分債権だけだったら,現行法ではこれも駄目だしというような,寄与分を認めたところでやはり公平でない場合というのは相当数出てくるということを考えると,どっちかというと,自分がつぎ込んだ労力に対して何らかの債権,全相続財産に対する債権があるという形の処理の方がよいのではないか。それをすると,次の第3の問題もひょっとすると解決する。要するに,相続法の枠内で考えているから,寄与分という発想になるんだけれども,寄与分ということになると相続人以外の者が手続に入ってくることに対する懸念は避けられない。しかしながら,療養介護に対する労力に対する対価というのを何らかの形で法定債権として設定すると,極端に言えば誰でもいいという話になるのではないかと思います。
  実質的公平ということを考えた場合には寄与分というか,相続の枠内で,寄与分の枠内で考えるよりも,そちらの方向かなと思っています。
○大村部会長 外で考えるということで,扶養との対比でおっしゃいましたけれども,過去の扶養料の清算のようなイメージですか。
○増田委員 現在の扶養だと非常に要件が厳しくて,要扶養状態でなければ過去の扶養料も何も請求できないわけです。だけど,そこをちょっといじって,扶養法の方を改正するというのはどうかなという発想です。
○大村部会長 発想としては,そういうイメージなのですね。
○増田委員 はい。
○山本(克)委員 増田委員に質問ですが,今,その清算の債務者は誰だという前提ですか。
○増田委員 相続人と考えています。
○山本(克)委員 相続人だとすると,抽象的な扶養義務者の範囲と相続人の範囲が違うという問題が生じるのではないのかなという気がするんですが。
○増田委員 相続人の中にも扶養義務を負っていない人がいるということですね。
○山本(克)委員 逆の場合もある。
○増田委員 確かに逆のこともありますよね。だから,その点をいじらないといけないですけれどもね。何か法定債権にして先取特権にするとか,そういう何か報われる策は必要とは思うけれども,寄与分に入れるのはちょっと違うかなというのが。
○大村部会長 潮見委員,その関連ですね。
○潮見委員 私は増田委員がおっしゃっていた方向には賛成なんです。これを寄与分で扱うことはおかしいとも思います。共感はいたします。
  その上で,先ほどの山本克己委員の質問との関係で言うと,むしろ私は,今,増田委員がおっしゃったのは,例えば療養看護型の貢献について,それを対価という観点で捉え,かつ,これを相続の枠組みから外して,純粋なピュアな債権債務の関係という形で捉えていくという方向を示唆されたのかなと思ったんです。そういう意味では,その債務者というところについて見たら,相続人という形の限定はせずに,むしろ誰というところをその財産関係,債権関係という観点で捉えていけば足りるのかなとも思ったところです。
○山本(克)委員 私も今,潮見委員がおっしゃったような方向の方が法制的には,現行の民法の考え方に親和的なのではないのかなという気がいたしました。相続に限られるところがちょっと疑問であったので,むしろ抽象的な扶養義務者の間での清算問題として捉えるべきだと。相続法から外した方がいいのではないかといった観点については同感でございます。
○大村部会長 今のを踏まえて,中田委員どうぞ。
○中田委員 私も過去の扶養料請求の問題と,扶養型の寄与分との関係を整理しておく必要があるだろうと考えています。一方で,著しい差異という要件で寄与分の方が限定されているわけですが,他方で,過去の扶養料請求が必ずしも認められない場合であっても寄与分に含めることができるというので,大小がある。更に,その債務者が誰かということとのずれもあると思いますが,ただ,実質的には,扶養型の寄与分の中で過去の扶養料請求も解決しようという発想はあるのかもしれません。ただ,前提としてやはりどこが違っているのかということは明確にしておいた方が議論が進むのではないかと思います。
○大村部会長 対比されるべき手続として,過去の扶養料請求のバリエーションを想定してみて,それと比較対照して考えるべきではないかというのが皆さんの御指摘だと承りましたが,その点に関して何かほかにございますか。
  それは,では,そういう論点が出たということで。
○堂薗幹事 そういった方向で考える場合に,療養看護のような事実行為についても,扶養義務の範疇に含まれるのかどうかという辺りが非常に問題になるのではないかと思います。学説上も非常に議論が分かれていて,むしろ事実行為については扶養義務の範疇に含まれないという見解もかなり有力であるようですし,また,過去の扶養料の清算のような形であれば,当然,要扶養状態にあることとか,あるいは扶養料を支払う側の財産状況とか,その辺りも踏まえた上で請求が認められるかどうかが決まるわけですが,この点について内部で検討した際にも,その辺りの要件をどう設定するのかとか,やはりいろいろと難しい問題があって,なかなかそういった形で新たな法定債権を作るというのは難しいなという印象を受けたものですから,その辺りについて,特に扶養義務と身体的介護との関係などについて何か御意見があればお聞かせいただければと思います。
○大村部会長 今の事務当局からの御発言について,いかがでございましょうか。
○山本(克)委員 ちょっと確認です。例えば,3人の子供がいて,3人の子供の間で親の介護について方針を立てて,親はお金は持っているんだけれども,一人暮らしでどうしたらいいか。一番近い人は直接介護,スウェットエクイティですね,汗をかくと。あとの2人は応分のお金を支払いますという協議をしたというときに,その汗をかいた人は扶養していないことになるということなんですかね。
○堂薗幹事 そもそも身体的介護が法律上の義務としてやっているのか,飽くまでも任意に倫理上やっているのかという辺りで議論があるようでございます。
○山本(克)委員 義務でなくても事務管理的に考えれば,その清算ということでいいのではないのかなという感じがしますけれども。ほかの人が介護,お父さんは他人の介護を受け付けないので子供でないと嫌だと言っていると。だからやりましたと。ほかの子供には,その分得しているんだから,その事務管理的費用が,事務管理的なものができるというので,この場合だっていけるような気がするんですけれども。
○堂薗幹事 検討したいと思いますが,ただ,その場合も,ほかの子供が療養看護の義務を負っていると言えないと,他人の事務とも言えませんので,その辺りはどのように要件設定をしたらいいのか,非常に難しいという印象を受けたところでございます。
○山本(克)委員 分かりました。
○大村部会長 山本委員がおっしゃった,子供たちの間で協議ができていて,そこに契約関係を認めることができる場合には多分それで処理できるだろうと思います。そこで,それ以外の場合にどうするのかということかと思いますけれども。
  先ほどの扶養義務と介護の関係について,何か御発言があれば承りますけれども。
○中田委員 その点について,まとまった見解を出すということは難しいのではないかと思います。今,堂薗幹事が挙げられた,事実行為をどう評価するかという問題もありますし,それから,扶養可能性が要件になっているということについては,むしろ親に対する扶養義務をどのようなレベルのものと見るかについての意見の対立もあるということから,統一的な方針というのは難しいと思います。ただ,その問題点を明らかにするという意味はあるのではないかと思います。
○大村部会長 今の点との関連で何か御発言ございますか。確かに非常に難しい問題で,どれかの見解で,それに従って整理できるということにはなかなかなりにくいように思いますけれども,しかし対比してお考えいただくということは必要だろうという御指摘として承りました。
  ほかに,この第2の寄与分制度の見直しにつきまして,御意見いただけますでしょうか。特にございませんでしょうか。
○増田委員 誰からも出ないので,少し実態についてお話ししておきます。実際には寄与分の争いというのは,かなり激しいものがあって,特に療養看護が問題となっているときというのは,非常に感情的な紛争が多いです。だから,私は余り寄与分の範囲を拡張したくないというのが感想です。本当にきちんと療養介護した人には,先ほど言ったように何らかの形で報いる必要はあるかと思いますが,寄与分が問題となるケースで複数経験しているところで,今までいた他の兄弟姉妹の家から死期が迫った親を強引に引き取ってきて,その親の意思とか余り関係なく一生懸命介護しているぞというポーズをとるとか,そのときには,ほかの子供,兄弟たちには親を会わせないとか,そういう取り込み型というのが少なからずあるということです。必ずしもきれいごとだけでは捉え切れないというところは,実状としてお話ししておきます。
○大村部会長 全体として,相続法の中で,新たな寄与分ということで認めていくのにネガティブな御発言が多いように思いますけれども,いや,こういうメリットもあるんだというような御発言が,もしあれば承りたいと思います。
○八木委員 基本的なことですけれども,現行法とどう変わるかということですか。扶養をこの中に入れるという趣旨なのですか。療養看護は現行法に,入っていますよね。それに加えて扶養若しくは,更に家事従事とか金銭出資とか一杯並んでいますけれども,そういったものを入れてはどうかという御提案なのですか。
○大村部会長 実質的にどこが変わってくるのかという御質問ですね。
○八木委員 ええ,そうです。
○堂薗幹事 まず,現行の寄与分におきましても,療養看護について特別の寄与があったと認められれば,寄与分は認められるということになってございます。ただ,ここにも書いてありますように,現行の寄与分の要件である特別の寄与というのは,被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献があったということで,この定義からすると,どちらかというと絶対的な基準で考えているところがあって,特に扶養義務,あるいは扶助義務のような形で民法上も一定のことが期待されている身分関係にある人については,その期待されている程度を超えるというのはなかなか難しい面もあるのではないかという問題意識から,絶対的な基準ではなくて,同じように期待される人が何人もいるときに,一人の人がしていない,あるいは一人の人だけがしているというような場合に,絶対的基準によれば特別な寄与と言えない場合でも,相対的な基準で寄与分を認めて,その貢献に報いるということがあってもいいのではないかという観点から,このような考え方を取り上げたということでございます。
○八木委員 ハードルを下げるということ。
○堂薗幹事 はい,そういう方向性になると思います。
○潮見委員 そういう見方があるのも分かりますけれども,むしろ,従来の寄与分の制度というのは,資料を使えば,9ページのところにある「被相続人の財産の維持又は増加」,ここに結び付くものでなければ寄与分としての考慮はしない。つまり,財産相続というものが前提ですから,その部分に関係をしないような,いわゆる広い意味での寄与というものがあったとしても,それは相続制度の下では考慮しない,すべきではないというところがまず一つの柱ではないかと思います。そういう意味では,今回の議論の中でこういう財産の維持又は増加ということと直結しない,あるいは関連性を持たせられないような形での扶養だとか,あるいは療養看護型の寄与がされたときに,それに対して,寄与分という形で評価をすることにより何らかの対価を与える。しかも,それを相続制度の中で認めるというところまでいくかどうかというのが一つの大きな転換点だと思います。その上で,それがあって次に,堂薗幹事がおっしゃられたような,そういう場合に従来とは違えて,レベル的に少し下げる形で療養看護等について何らかの形でその対価付与に結び付くような考慮をするというところまで進むかどうかという問題があり,後者の場合については,それは本当にそれでいいんですかという問題があるとともに,先ほどから若干議論がありましたけれども,一方で扶養型の場合には扶養義務が課されていますから,そういう範囲内のものなのか,それを超えるものなのか,その線引きとして,従来言われていた特別の寄与,通常期待される程度を超える寄与,そういう基準というものができるかどうかということが争点として登場してくる,こういう整理ではないかと思うんですけれども,いかがでしょうか。
○森委員 八木委員の御質問に対するお答えになるかどうか分からないんですけれども,実務的な感覚では,ここで具体的な判断に悩んでいる裁判官も多いと思うのですが,今,潮見委員がおっしゃったように,現行制度の下では,相続財産の増加・維持に結び付くものでなければ寄与分として認められないんですね。今回出てきている案というのは,相続財産の増加・維持との結び付きがない貢献でも寄与分として認めるというものであり,判断に当たって,いろいろな人たちの療養看護の足跡をずっと追っていくことになるので,相続の問題とは違うのではないかという意見もあれば,争う人も争いの対象もどんどん広がってしまうのではないかという意見もあるということになるんだと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 先ほどご質問があったこの特則の整理のところでございますが,こちらとしては,例えば治療を要するような方,あるいは介護を要するような方であれば,療養看護型であっても基本的には財産の維持増加に対する寄与はあるのだろうと考えております。ですから,その要件は,なお維持するということは十分考えられるのではないかと思います。ただ,現行の寄与分の要件につきましては,財産の維持又は増加について特別の寄与があることという非常に高い要件が設定されていますので,そこまでいかなくても,財産の維持増加に対する貢献があり,更に,相続人間で大きな差異があるというような場合には,現行の要件に当たらない場合でも寄与分を認めていい場合があるのではないかということで,このような考え方を取り上げたところでございます。
○窪田委員 寄与の部分,いろいろな問題が多いということでネガティブなお話も多かったと思うのですが,必ずしもそれだけではないのではないかということについて少しお話をさせていただきたいと思います。
  今,堂薗幹事のお話の中にも出てきたことなのですが,現行法の規定は特別の寄与としか言っていませんが,この特別の寄与ということと,財産の維持又は増加ということをセットにした構成になっている。
  財産の維持又は増加の部分についても,制度設計としてはいろいろあるのだろうと思いますが,森委員からお話があったように,ここを一つの手掛かりとして切るという方法はあると思うのですね。ただ,現在の実務だと,それプラス特別の寄与というもう一つハードルがあって,一般的にはということで,ここで書かれているとおりなのですが,被相続人との身分関係に基づいて,通常期待される程度を超える貢献と言われるのですが,これは真面目に考えるとよく分からない基準なのではないかと思います。つまり,通常の扶養義務の範囲を超えるとかといったことが言われるのですが,扶養義務の範囲を超えたら一体何なんだろうかとか,それを真面目に考えたとき,あるいは身分関係について通常期待される程度の貢献というのが本当に基準として機能しているのかというと,著しく疑わしいのではないかなと感じています。
  実際には,特別の寄与という要件は,いろいろなものを切っていくために機能してきただけなのではないかと思いますが,そうだとすると,そこでやはり問題とされていたのは,何か絶対的な判断基準に基づいて,この寄与がどれぐらいの程度のものなのかというよりは,やはり共同相続人間で見て,ちょっとでも差があれば足りるということではなく,やはり評価に値するような著しい差異が必要であるし,それを示したものなのだと理解する可能性はあるのかもしれません。その場合には,実は,療養看護型だけではなくて,ほかの部分についてだってそういうふうな見方というのはあってもいいのではないかなという気もします。もちろんこの点は,大変に議論があり得るところなのだろうと思いますが,そういう見方もあるかもしれないということで申し上げました。
○山本(克)委員 今の窪田委員のおっしゃることはもっともだなと思う面もあるんですが,ハードルを下げるということは,今度は別の面で,むしろ先ほども石井幹事がおっしゃったとおりであって,寄与度の金銭評価をどうするのかということについて,そっちの方の難しい問題が頻度高く現れるということであって,必ずしも,そこでまた争いが納得は誰もいかないわけですね。ですから,これは相続法では基本的に誰も,全ての人を満足させる相続法はあり得ないので,どこで切るかという問題なんだろうと思うわけですけれども,しかし,そういうことで手続コストをどんどん高めていくことが果たしていいんだろうかということは,やはり考えておかなければいけない問題ではないかと思います。
○村田委員 若干,私が混乱しているかもしれないので質問させていただきたいんですけれども,今の実務で特別の寄与が認められるために,どういう要素を考慮しているかというときに,もちろんその療養看護の必要性だとか,どのくらいの期間やっていたかとか,専らといえるぐらいそれに従事していたかというようなことが出てくるんですが,それ以外にもう一つ,なかなか難しい要素として,無償性というものがあり,実務上,無償性が問題となる事案は多いように思います。例えば,被相続人のお子さんのうち,この人は療養看護に努めたけれども,実は,被相続人の家に無償で住まわせてもらっているとか,被相続人から家をもらったり,相当額の学費を出してもらったりしていたなどの事情があると,そのぐらいの療養看護はやって当たり前だろうということで結果的に寄与分として認められないという例は意外に数あるんです。今回御提案されている特則を設けたときにも,寄与分の判断要素として,無償性は入ってくるのか,入ってこないのかというのが,ちょっと私自身うまく整理ができていなくて,単に療養看護に努めた程度の差だけ比べればいいのか,その前提として,やはり寄与の無償性を考えなければいけなくなるかによって大分審理する中身が変わってくるのではないかなという気がするものですから,そこの今の段階のお考えを教えていただきたいんですが。
○堂薗幹事 その点は十分に詰めた検討ができていないのかもしれませんが,基本的には親族間における療養看護は,無償で行うということが期待されているんだろうと。したがって,実際に経済的な利益を受けており,無償とは言えない場合については,この類型であっても,やはり寄与分は認められないということになるのではないかと考えております。
  基本的に,一定の親族については無償で療養看護を行うことが期待されている中で,一部の者だけがこれを行い,一切そういったことをしていない者がいるという場合に適用することを想定しているところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○村田委員 はい。
○窪田委員 山本委員に反論というわけでは全然なくて,紛争の処理のコストということを考えたときにちょっと気になる点が一つあったものですから,発言させてください。以前に出たお話とも関連するのですが,扶養義務者が複数いる場合に,実際になされた扶養の程度が著しく違うという場合について,過去の扶養料の清算,現行法よりはもう少し緩やかな形で何らかの仕組みで考えるというのは十分にあり得る制度設計なのではないかと思います。ただ,恐らく問題になるのが,そのときに現行法でも取り込む可能性がある財産の維持又は増加に関係するような寄与分として評価されるような療養看護は,一体どっちで扱われるのかという点が問題となると思います。療養看護の問題は,全て扶養義務者間の清算の問題だとしてしまえば恐らく簡単なのだろうと思いますが,仮にそれが寄与分の方に残るのだとすると,一体どう制度設計したらいいのかというのは,実はそれなりに結構大変なのかなという印象を受けました。
○大村部会長 これまでの議論の中では,相続制度の外で清算がされるべきだという御意見が多かったですけれども,実は,既に現行の寄与分の中で,外で清算されるべきものが清算されているという現実があるではないかということですね。
○窪田委員 はい。
○大村部会長 その点についての整理が必要ではないかという御指摘かと思いますけれども。
○窪田委員 更に一点申し上げますと,実は,今までの寄与分に関しても,本来これは財産法上の法律関係として解決するべきではないか,雇用を認めたり,契約で解決したり,あるいは事務管理で処理したりするのが合理的ではないかということは,一般論としては言われつつ,では,財産法上の制度というのがうまく機能するのかというと,どうもうまく機能しない。そうした状況の中で,寄与分が使われてきたという側面があるのだろうと思います。ですから,それに比べると扶養義務者間の清算というのは,もう少し対象も絞られていますので,うまく作れば機能しやすいものにはなると思うのですが,実際にそれが機能するかどうかは,重要な点なのだろうと思います。
○潮見委員 議論がいろいろぐるぐる回っているような感じがするんですけれども,これから整理していただく際に,被相続人の財産の維持又は増加,この要件を維持したままで進むのか,それとも,この要件を外した形で,これは9ページのところに書かれていますけれども,外した形で療養看護等の場合について処理するのか,これはかなり大きな分かれ目になると思うんです。窪田委員が先ほど直前におっしゃられた考え方というのは,ある一つの立場からおっしゃっておられるわけですけれども,ここを維持するのであれば,そうしたら,それで十分カバーできるものについて,あえてなぜそれ以外の部分についてのその寄与というものを,しかも,その相続の枠の中で考えなければいけないのかという形で議論をしていただいた方がいいのかなと思いました。
  むしろ今回の資料というものは,どっちかといえば,そもそも被相続人の財産の維持又は増加の要件をどうするかということはちょっと置いておいて,むしろ扶養型だとか,あるいは療養看護という場合についての寄与を相続の中で考慮すべきか否かというところから進めているような印象を受けましたものですから,そうなると,むしろ本来,先ほど八木委員がおっしゃった,現在の規定でどこまでできるのか,あるいは現在の規定を前提にした場合に,どこを修正していったらいいのか,先ほども特別の寄与だったそうですけれども,その辺りを修正する必要があるのかという観点からの議論に進んでいくはずなので,これから先考えられるときに,ちょっと整理をしていただく際に考えてください。
○大村部会長 御指摘は,むしろ現行法ベースで何ができて何ができないのかを整理せよということですね。
○潮見委員 はい。
○大村部会長 分かりました。
  そのほか,この点についてはよろしゅうございますか。
  それでは,更に事務局の方で検討していただくことにしまして,第3の「相続人以外の者の貢献の考慮」という論点に入りたいと思います。御説明の方をお願いいたします。
○下山関係官 それでは,資料の10ページ,第3の「相続人以外の者の貢献の考慮」というところについて御説明させていただきます。
  現行法上,寄与分というのは相続人にのみ認められているため,例えば,相続人の妻が,被相続人である夫の父の療養看護に努めた場合であっても,遺産分割手続において相続人でない妻が寄与分を主張したり,あるいは何らかの財産の分配を請求するということはできないとされています。この点につきましては,夫の寄与分の中で妻の寄与を考慮するということを認める裁判例もありますが,このような取扱いに対しては,なぜ寄与した妻ではなく夫がその寄与分を取得できるのかといった指摘もされているところです。また,先ほど申し上げた例では,夫が既に死亡している場合には,配偶者の貢献を考慮することはできないことになりますけれども,このような結論は実質的公平に反するのではないかといった指摘もあるところです。
  このような問題は,本来,契約の締結,養子縁組あるいは遺贈などの法的手段によって解決することが可能であり,望ましいのかもしれませんが,相続人以外の者と被相続人との人的関係等によっては,相続人以外の者が被相続人に対して,これらの法的手段を取るということを依頼することはなかなか心情的に困難な場合も多いものと考えられるところですので,結局のところ,相続人以外の者がその貢献に応じた遺産の分配を受けることができるか否かという点は,被相続人の意向次第にならざるを得ないものと考えることができます。
  そこで,遺産分割において相続人以外の者の貢献を考慮するための方策として,例えば,被相続人の子の配偶者など,相続人ではないが被相続人との間に一定の身分関係を有する者については,「被相続人の療養看護〔又は扶養〕について一定の貢献をしたこと」などを要件として,遺産の分配を求める権利を認め,又は相続人に対する法定の債権を認めるといった見直しを行うことが考えられるところです。
  仮に,このような制度を導入することとした場合には,その制度趣旨及び法的性質をどのように考えるかという点が最も問題になるものと考えられます。
  まず,一つ目としては,夫婦間の協力・扶助義務に根拠を求めることが考えられるかと思います。一般に,要介護状態にある高齢者の療養看護を親族が行った場合には,その相続人が婚姻している場合には,その夫婦が分担して療養看護を行うことが多いものと考えられます。法律上も,夫婦には協力・扶助義務があり,実際にも相互に補完し合う関係にあることに照らすと,このような場合には,当該夫婦の貢献を考慮して寄与分の額を定めることが公平に資するのではないかと考えられます。
  次に,寄与分の主張権者を広げるという考え方があり得ます。被相続人の療養看護を相続人でない親族が行った場合に,被相続人の親族として被相続人の療養看護に努めた者が相続人でなかったという一事をもって,遺産分割においてその貢献を考慮することができなくなることによる不公平を解消するという観点から,寄与分の主張権者を相続人の範囲よりも若干広げ,民法第887条から第890条までの規定によって相続人になり得る地位を有する者とすることも考えられます。このような考え方によれば,その法的性質は,言わば「法定相続分がゼロの者の寄与分」ということになり,基本的には,現行の寄与分と同様の性質を有することになるものと考えられます。
  更に,事務管理又は不当利得類似の権利と捉えることも考えられるかと思います。現行法上,相続人以外の者が被相続人に対して行った療養看護などの貢献に関して,相続人に対して何らかの権利行使をしようとすれば,事務管理や不当利得に基づく請求が考えられるところですが,個々の事案によって,これらの請求権の要件を満たすか否かという点は必ずしも明確ではございません。
  そこで,被相続人との身分関係に照らし,同人との間で契約等を締結することが事実上困難であると考えられる場合については,事務管理や不当利得のような法定債権の発生要件を欠くことに伴う不公平を解消するという観点から,事務管理又は不当利得の特則ないしこれに類する制度を設けて,家事審判の手続の中でその権利の実現を認めるといった説明をすることも考えられると思われます。
  次に,12ページからの権利行使を認める者の要件についてですが,  この方策は,相続人以外の者に遺産の分配を求める権利を認めるものですけれども,これに伴う紛争の複雑化,長期化は避けられないところでございますので,これを極力回避するために,権利行使を認める者を一定の範囲の者に限定することが不可欠であろう思われます。
  具体的に,どの範囲の者に権利行使を認めるかという点につきましては,この権利の制度趣旨及び法的性質をどのように考えるかという点によるかと思われますけれども,例えば,夫婦間の協力扶助義務に根拠を求める考え方によった場合には,新たに権利行使を認める者は,相続人の配偶者に限られることになるものと考えられるのに対して,寄与分の主張権者を広げる考え方によった場合には,被相続人の直系血族や兄弟姉妹などにまでその範囲を広げることになるものと考えられます。
  もっとも,権利行使を認める者の範囲を広げれば,その分,遺産分割が紛糾するおそれがある上,これらの者には,少なくとも権利行使の機会を与える必要が生ずるため,遺産分割の手続が非常に煩雑になることが予想されます。そのため,権利行使を認める者の範囲を考えるに当たっては,法的性質のほか,実質的公平を図ることの利益と紛争の複雑困難化防止のバランスを考慮することも重要であろうと考えられます。
  また,権利行使を認めるに足りる貢献の程度をどのように考えるかも問題となろうかと思います。この点は,この権利の法的性質をどのように考えるのか,また,どの範囲の者に権利行使を認めるかといった点に影響を受けるものと考えられ,例えば,夫婦間の協力扶助義務に根拠を求める考え方によった場合には,相続人とその配偶者が行った貢献を一体のものと評価した上で,その貢献が通常の寄与分の要件に該当すれば足りるとすることも考えられるのに対して,寄与分の主張権者を広げる考え方によった場合には,権利行使を認める者の範囲が非常に広がることに応じて,遺産分割の紛糾の防止の観点から,貢献の程度による要件の限定の必要性がより高まると考えられます。そのため,例えば,その者の貢献が他の相続人よりも著しく大きい場合や,専らその者が被相続人の療養看護に努めていた場合など,この要件を厳しく解することも考えられるところです。
  もっとも,いずれについても理論上又は運用上様々な問題があると考えられるため,貢献の程度に関する要件をいかに定めるかについても,慎重な検討を要するものと考えられます。
  次に,相続人以外の者がこの権利を行使する手続についてですけれども,これを遺産分割手続の中で行うという考え方と,遺産分割手続とは別の手続を創設して,その相続人に対して請求することを認めるという考え方があり得るかと思います。この点も,この権利の法的性質等をどのように考えるかが関係するものと考えられますが,仮に,遺産分割手続の中で権利行使を認めることとした場合には,遺産分割の一回的解決が可能となる反面,相続人間では遺産分割の内容について合意が成立していても,相続人以外の者が合意しない場合には,遺産分割協議が全体として成立しないことになるおそれがあり,相続人の利益を不当に害することもあり得ます。他方,遺産分割とは別の手続の中で権利行使を認めることとした場合には,新たな制度の要件及び効果などをどのように規律すべきかという点を一から検討する必要があることになり,また,被相続人に対する貢献を巡る紛争が遺産分割手続とこの手続,二度にわたって繰り広げられるということになり得るため,相互の調整をどのように図るかといった点も問題になるということが考えられます。
  いずれにせよ,このような制度の創設を検討する場合には,現行の相続制度に比較して遺産の分配を巡る紛争が複雑化,長期化することは避け難いものと考えられますので,これらの弊害を多少なりとも軽減することができる制度設計を検討する必要があるものと考えられます。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  相続人以外の者の貢献の考慮ということで,登場し得る人は,相続人の配偶者と,それから相続人と一定の親族関係にある人と,全く関係ない人と,幾つか段階はあると思いますけれども,それらについて,もし考慮するとしたら,どのように考えるかということについての御提案だったかと思います。
○上西委員 要件をいろいろ定める必要はあるかと思いますが,相続人の配偶者である場合,相続人の子で代襲関係が生じていない場合,他人の場合,と一つ一つ決めても,これは相当難しく,かえって複雑になるなということは直感で思います。また,療養看護であれ,それ以外の場合であれ,その算定式も先ほどの第2のところで答えが出なかったので難しかろうと思います。実務の現場では,相続人が分割協議の話をしているときに,例えばその中の一人の相続人の配偶者が実質的に療養看護している場合などは,その方も遺産分割に入ってもらってもいいのかなという感触を思うところは多いです。相続人全員が了解をすれば,その相続人の配偶者であれ,一定の親族であれ,他人であれ,相続,遺贈あるいは別の形なのかは別として,通常に分割協議に参加してもよいのではないかと思います。ですから,相続人が了解すれば誰であっても分割協議に参加するというのが,民法的にはどうかは別として,現場を考えると一番シンプルです。
○堂薗幹事 相続人間で,そういった形で協議がまとまって,相続人以外の人にも一定の財産を分与するという形でまとまるのが一番望ましいのだろうとは思いますが,そういった形で話がまとまらない場合に,被相続人の介護の面倒などを非常に見ていた方が相続人ではなかったというだけで,その人に遺産の分配が全くされなくていいのかどうかというのがここでの問題意識でございます。
○上西委員 今まで出た議論は,なかなかまとまらないという現状が既にあるわけですよね。そうすると,この第3のところの議論も基本は同じかなと思います。
○堂薗幹事 基本的には第3のところは第2以上に難しい問題だろうと思っておりますので,その点はおっしゃるとおりだと思います。こちらもそういった認識は当然持っておりますが,ただ,どういった制度設計が考えられ,それにどういった問題があるのかという点について御議論いただいた上で,最終的にどうするかというところをお決めいただければと考えているところでございます。
○潮見委員 全く別のことなんですけれども,資料の中について分からないというか,確認というか,意見というか,2点ほど申し上げたいと思います。
  一つは,この第3のところで療養看護と扶養の場合を主に説明しておられるのですが,先ほども別のところで出ていましたが,事業について相続人以外の者が貢献したという場合を抜きにして,ここの枠組みを論じていいのかというところについて,若干不安を覚えました。むしろ,そのようなものも想定しながらルールを立てていく必要がありませんかという意見なり確認です。
  それから,もう一つは,これは意見の方になってくるのかもしれませんが,12ページのウの事務管理又は不当利得類似の権利と捉える考え方,これがさっぱり分からないというか,これも大きく分けると二つぐらいになるんでしょうか。事務管理とか不当利得の要件を満たさないのに,別のこういう特則という名の下でその費用償還請求あるいは利得返還請求というものを認めるということをどうやって正当化するのか,評価矛盾を来さないのかという危惧を覚えます。それと同時に,もし仮にこういうものを作ったとして,そういう費用の額とか利得額というものは算定困難ですから,訴訟手続の中で確定することはできませんから,だから審判の方に行って,裁判所の方で裁量的にこの内容は形成していくという枠組みを多分考えておられるのではないかと思いますけれども,では,そういう不当利得,事務管理類似のものの費用とか利得,損失,これを裁判官のそういう形成的な役割に全て委ねるような制度設計というものが果たして適切なのかということについては,私は大いに疑問を感じるところです。
  そういう意味では,端的にその事務管理,不当利得類似の権利というか,事務管理,不当利得の枠組みの中でこれは処理したら,それで必要にして十分ではないかと。それで足りないものがあるんだったら,それは仕方がないと,こういう割り切りもあるいはあっていいのではないかと思いまして,意見みたいなことですけれども,2点目も発言させていただきました。
○大村部会長 続けて。窪田委員,関連しますか。
○窪田委員 続けてというのは,多分全く逆方向の件なのかもしれませんので,出発点だけは共有していたということですが,私自身は,むしろ第2の問題でこれを相続法の枠組みの中でやるということは難しいとすれば,第3ではより一層難しいだろうということになりますので,相続法の外側で何らかの形での手当をするということが考えられるということなのだろうと思います。
  その上でということになりますが,夫の寄与分の中で妻の寄与を考慮することを認める裁判例,これは更に夫が死亡した後は母親の寄与を子供の寄与分としてカウントしたものだったと思いますが,その妻自体は最後まで相続人にはならないわけですから,このような手段を講じた。これは,事案の結論から言うと賛否両論あったんだろうと思いますが,一切こうした寄与分を認めないよりは,つまり,認めないことによって無関係の相続人たちが普通に相続するよりはましだったという意味で,やはり実質的な正当性はあった事案なのだろうと思います。
  では,この問題というのはほかで解決できるのかというと,事務管理や不当利得でいけるのかというと,多分難しかったのではないかなという気がいたします。できるのであれば,むしろそれで端的に行っていたということなのだろうと思いますが,そうした問題が第三者の寄与分をどうするのかということで,何かほかの人の相続人の寄与分の中に組み入れて処理をするというような次善の策として現れていたのではないかという気がします。
  そうだとすると,事務管理,不当利得で拾えないものについては諦めるしかない,そんなのは拾い上げる必要はないという潮見委員の立場も一つの考え方なのだろうと思いますが,従前の措置として,そういうふうな次善の策がとられてきたということを積極的に評価するのであれば,それに対応できるだけのものを財産法上の仕組みとして用意するという選択肢も十分にあり得るのではないかという気がします。特に扶養義務というのは多分,事務管理,不当利得に乗りにくいというのは,その義務の性質自体がぼんやりとしたものですし,金銭的な債務を前提とするような権利義務関係と違って,そこの部分で事務管理か不当利得というのを考えること自体もそれほど容易ではないだろうと思います。そこの部分に対する手当として,こういうふうな相続外での扶養関係についての事後的な清算の仕組みというのを作るということはあり得るのかなと思いました。多分,最終的に考えている方向としては,まったく反対なのかもしれませんが。
○大村部会長 中田委員,関連のご質問ですか。
○中田委員 はい。別の方法がないかということなんですが,契約構成はできないだろうかということを考えております。今回12ページでは,被相続人との間で契約が締結されないという場合を前提に検討しておられるんですが,例えば,使用貸借契約を後に認めるということが可能であるとすると,同様に被相続人との契約を想定することもありうるのではないでしょうか。その中には,療養看護については事務処理契約のようなものも考えられるし,潮見委員がおっしゃった事業型の契約について言うと,もっと雇用に近いものかもしれません。そのような契約による処理というのは,実務の運用によって対応することができるのか,それで十分なのか,それとも,それを超えて更に一定の場合にその契約の成立をみなすというようなルールを設けることが必要なのかどうかという分析もあり得るかなと考えました。
○堂薗幹事 ここも非常に難しい問題だと思っておりますけれども,まず,「事務管理又は不当利得類似の権利」と一応ここでは書いておりますが,どちらかというと事務管理,不当利得に引き付けてというよりは,新たな法定の債権を創設するというイメージで考えているところでございます。
  例えば,扶養料について言えば,扶養義務者間での求償が可能であり,家事事件手続法の中でも,それを前提とした制度設計がされているわけですけれども,先ほども申し上げました身体的な介護などについては,そういった手続がおよそない状況でございますので,何かそういったものを作れないのかとか,あるいは,契約構成と若干考え方は近いのかもしれませんが,本来,被相続人としては,自分が生きている間は無償でやってもらう前提だけれども,自分が死んだ場合にはその貢献に報いたいと通常は考えるだろうというような場合に,何らかの形でそれを算定して法定の債権という形で認められないかとか,具体的な内容はまだ詰めておりませんけれども,制度設計としては様々なものが考えられるところだと思います。こういった制度設計をする場合には,遺産分割の中でやるのか,そこから外に出すのかということが問題になりますが,外に出すという場合には,説明としては新たに法定の債権を創設するということになるのではないかという趣旨で,この資料は作っておりまして,この場で,そのどちらがいいのか,遺産分割の中でやるのがいいのか,外に出すのがいいのかという辺りについて御議論を頂き,それを踏まえてもう少し具体的に検討していければと考えているところでございます。
○水野(紀)委員 今,御発言された中田委員とほとんど結論的には同じことなのですが,この間の経緯についてお話しようと思います。昭和55年に議論されていたときに,主に長男の嫁の負担を何とかしようというのがやはり一番大きな動機であったと当時議論した先生方から直接伺ったことがございます。それから時代は大分変わりまして,長男の嫁が自動的に看るものだとみんなが思っていた時代というのは過ぎ去ってしまって,介護保険が導入される直前頃には,誰が看るか,多くのそれぞれ正当化できる考え方が家族の中で対立していました。嫁が看るという「家」の論理の他にも,夫も妻も平等なのだからどちらが看てもいいとか,あるいはむしろ愛情によって介護する者,つまり嫁より娘がいいだろうとか,様々なそれに代わる正当化の理屈ができるようになっていて,たまたま見かねて手を挙げて引き受けた者が,ものすごく大きな負担を結果として負うことになります。そして,ほかの兄弟たちは,何らかの論理によって,その手を挙げた人に押し付けることを正当化できるという状況がありました。実際には高度障害者になった老人の介護労働というのはものすごい負担で,個人が私的に負担できるものではなくて,介護保険で介護の社会化が導入されてきたわけです。この介護保険の導入によって国民意識が大きく変わりました。つまり,家族の誰かに全面的に面倒を見てもらわなければ,自分の老後は生きていけないというのではなくなって,自分のお金で何とか自分の老後を設計できるかもしれないと思う人の数が世論調査のパーセンテージとしても随分増えて,変化をしてきています。ですから,これからの制度設計を考えるときには,昭和55年のときに前提としていたものではないものを考えた方がいいと思います。
  そういう意味では,遺言の習慣も変わりました。以前は日本人は遺言を遺さない民族だと言われたのが,これだけ遺すようになりましたし,嫁養子などという養子縁組の使い方が,それがいいかどうかはともかくとして,ともかくそういう便利な養子縁組の使い方もある程度増えてきています。成年後見のところでもいろいろな工夫がされるようになっていて,55年の段階ではこの寄与分でせめて長男の嫁の負担に報いたいという議論があったわけですが,今はもっと様々なバリエーションがありえます。そして,この介護労働の負担問題を何らかの形で制度設計して解消したいということですと,先ほどから議論のあるような契約類型に落とし込んでいって,双方が納得の上で,それなりの対価を払って契約するという方向にむしろ誘導するような法制度の設計がいいのではないでしょうか。
○大村部会長 窪田委員,今のことについてですね。
○窪田委員 複数の制度設計があり得るということについても,その中で契約,本当の契約を考えるのか,契約関係を見直すのか,いろいろなアプローチがあるのだろうと思いますが,それが一つの手段としてあるということは,よく理解できます。ただ,その上でちょっと気になるのは,契約といった場合に多分イメージしているのは,被相続人と特定の相続人との間の契約合意なのかなという気もするのですが,実際には,例えば被相続人がそういう趣旨とは全く別の遺言を残した場合とかといった場面を考えると,もちろん明確な契約関係があって,納得ずくでそういうことがなされてということで本当の契約を認めることができる場合はいいのですが,そうではない場合については更に一定の手当が必要であるというのは,いずれにしても,やはり避けられないのではないかと思います。
○山本(克)委員 多分,手続的な話をしろというので委員に選ばれたと思うんですが,従来全然してきませんでしたので,ここでひとつ手続法的な話をさせていただきたいと思います。
  一つは,12ページの昭和42年判決のサイテーションなんですが,これは適切なんでしょうか。私は必ずしも適切ではないと思います。というのは,これも具体的扶養義務の設定が家事審判事項として法律上定められていることを前提に,最高裁はこういう判示をしたと読むべきであって,今から制度設計するのにこれが前提になるということには必ずしもならない。先ほど潮見さんがおっしゃったように,訴訟事項でやれる範囲だけでやるという選択肢だって十分あり得ると思いますので,私はこのサイテーションについては疑問を持っております。
  それから,第三者に寄与分を認めるということになると,家事事件手続法で193条1項の寄与分の申立処分を求める申立てをする期間設定はどうするんでしょうか。これは従来,法定相続人だけが遺産分割審判の当事者であるという前提ですので,遺産分割審判の当事者として法定相続人全員がそろっているということを前提にこれを考えているはずなのに,第三者も入れ込むと,遺産分割審判をやったけれども,後から出てくるときどうするのかと,あるいは裁判所はしかるべき人を全部探し出して,全員に対してこの一月内の申立てをしなさいという催告か督促か何かをしなければいけないことになるのか,その辺り非常に難しいなという気がしています。寄与分の審判が先に確定して初めて遺産分割審判をすべきだという仕組みがとられているからこういう規定があるんですが,そこの順序を守れる保障はどこにもないという気がします。
  それと,最後にもう1点ですが,遺産確認の訴えの当事者適格についての最高裁の平成元年判決では,原告又は被告に共同相続人の全員が当事者となってなければいけないというふうに判示しておりますが,その前提として,その人たちは遺産分割の審判の当事者なんだから,あるいは協議の当事者なんだから,その人たちの間で遺産の範囲を決める必要がある。だから,そうやるんだという判示を一部含んでいます。全部がそういう,全てをそれでジャスティファイしているわけではありませんが,そうなりますと,例えばAとBが共同相続人で,AがBについて,ある特定の財産について遺産に属するという確認の訴えを起こしているというときに,その属している請求認容でも逆でもいいんですが,その判決が確定した後に,第三者の寄与分申立てをしたとき,前の訴訟の結果はどう扱われるのかという問題が生じます。あるいは,訴訟の係属中に第三者が寄与分の申立てをした場合に,被告を追加しなければいけないのかどうかという問題が生じます。被告の追加について,必ずしも判例ははっきりしません,こういう場合についての,学説では追加できると言っていますが,追加できるかどうかよく分からない。そういうことを踏まえると,かなり手続的にしんどい問題が,飯の種が増えていいのかもしれませんが,手続的にしんどいことがいろいろと出てきてかなり難しい,仕組むのが相当難しいのではないのかなという印象を持っています。
○大村部会長 浅田委員も,今の関連ですか。
○浅田委員 先ほど山本先生が指摘された第2の論点と類似の話を致します。遺産分割協議というのは全員で参加するという話であります。この部会資料の14ページに縷々書いてあることをもうちょっと敷衍して申し上げますと,例えば,銀行に対して,遺産分割協議がなされたということをもって預金の払戻請求をするという場合には,銀行は戸籍の記載をもって相続人の範囲を確認して,相続人全員の押印をもらえれば,それで払い戻しに応じて終わりという話です。もし,この提案が採用されることになりますと,相続人全員の遺産分割協議があったとしても,ひょっとしたらほかに権利を主張する者が出てくるかもしれないということになる。そういうことになりますと,実務が非常に困難になり得る可能性があると思います。
  もちろん,銀行の場合には民法478条に基づく免責がありますので,かかる主張がないということを知らない等で一定の要件に当てはまるのであれば免責されるということを理由に実務を無理やり動かすことも可能なのかもしれませんがやはり問題もあるし,また,登記制度などを考えますと,一体どういう手続で相続登記を実行するのかというのもまた問題になりそうだと思います。外観制度ということについても整理していかなければならないと思います。したがって,もしこういう制度を導入するとしても,例えば,一種の除斥期間的なもの,つまり,「この期間までに権利を主張する者は主張せよ」というな話になるのかもしれません。そうすると,先ほどの私の発言と同じように,その間の取引というのはいわば停止させなければならないということにしないと,取引安全の観点から問題になり得るということになります。そう考えますと,このア,イというのは,なかなかハードルが高いのではないのかなと思いました。
  ウのように,この事務管理とか不当利得類似の権利については,理論的な話は私はよく分からないところはありますけれども,もし仮に,当該権利者が被相続人に対する権利を何らかの形で持っていて,かつそれが相続によって承継されると。そして,その権利というのは,その権利者が相続人に対して個別に請求権として持つということであれば,相手方の取引安全確保の観点からは中立的になると思いますので,そういう制度設計ならば,その方がましなのかなと,個人的には思いました。
○大村部会長 ありがとうございました。
○堂薗幹事 まず,資料12ページの昭和42年の判例ですけれども,こちらの書き方がまずかったところはあると思うんですが,趣旨としては,先ほど申し上げましたように,扶養料については家事審判の手続を利用することによって,扶養義務者間の求償ができるようになっているのですが,療養看護のような事実行為についてはそういったものがないので,別途何か制度を設けることが考えられないかという趣旨でございます。
  それから,寄与分の主張をいつまでさせるかというのは,非常に難しい問題だろうと思っておりまして,少なくとも御指摘いただいた家事事件手続法193条のように,基本的には権利行使について期間制限はないんだけれども,裁判所の方で,制限できるという形では持たないだろうと考えております。したがいまして,第三者が入ってくる場合には,相続開始後一定期間という形で限定をし,その期間に申立てがなければ,遺産分割の手続から外れるという形にしないと,制度としては持たないだろうと思っています。ただ,そういった時期的な制限を設ける場合に相続人全員に対して通知しなければいけないのかといった,いろいろと難しい問題が出てくると思いますし,まだその点について十分に詰めた検討はできていないという状況でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第三者が相続プロセスに入ってくることに伴う困難が多くの方から指摘されたかと思います。それをクリアしませんと,あるいは緩和しませんと,なかなか先には進めないということになろうかと思います。
  それと,途中で潮見委員から御指摘があった件ですけれども,第2の問題は既に寄与分というのが存在して,財産的なものについては処理されている。その外に何か作るかという話であった。こちらは,それとの並びで第三者について同じようなものは要りませんかということになっているけれども,それ以前に,財産的なものについて処理する仕組みというのを考えるというのが順序だろうという御指摘を多分頂いたんだんだろうと思います。それも制度全体を組み立てていくときのバランスの問題として目配りをすべきことかと思いますので,考慮に入れて更に検討をお願いしたいと思います。
  その他について,この第3の,相続人以外の者の貢献の考慮,御発言ございますでしょうか。
○八木委員 具体的な制度設計は別として,特に先ほど水野先生がおっしゃったような,長男の嫁が嫁ぎ先の両親の老後を面倒見るということについて,私はワーキングチームのときから,ほかの問題はともあれ,この問題が一番多くの人の関心が高く,要望が強いんですね。あちこちでこういうことを実現してくれという声が聞かれました。ただ,今日皆さんお話しのように,相続の制度の中では実現が難しいのかもしれないなと思います。では,ほかの相続制度の外で,例えば,先ほども出ましたが,養子制度を活用するだとか,あるいは契約という形とか,そういうやり方もあるんだということをあらかじめ国民に知らせるというのも一つのやり方ではないのかと思って聞いていました。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 先ほどの部会長のおまとめに若干絡むんですけれども,今回の第2と第3の問題の関連性について質問させていただきたいと思います。
  今回,この第3のところについて,制度趣旨,法的性質をア,イ,ウと三つに分けて整理をしていただいて,非常に考えやすくなったというところで有り難いと思っているんですけれども,資料の全体の作りから見たときに,この考え方が分かれるうちのアの夫婦間の協力・扶助義務に根拠を求める考え方は,推し進めると第2の提案に必ずしも乗っかる必要はないのではないかといいますか,第2の寄与分の見直しがないとしても成り立ち得るのではないかなと思える一方で,イの寄与分の主張権者を広げる考え方は,論理的には別に第2とくっつく必要はないんですけれども,第2に乗っかっているような印象を受けたところです。他方,ウの事務管理,不当利得類似の権利と捉える考え方は,先ほどから委員の御発言がたくさん出ているとおり,独立独歩でも歩み得る考え方かなという印象で受け取ったんですけれども,この第2と第3の関係のところで,もし何かお考えのところがあれば教えていただければと思ったのですが。
○堂薗幹事 今,正に整理していただいたとおりではないかと思います。必ずしも第2と第3は関連するものでもなくて,それぞれ別々にどちらかだけを採用するということは十分考えられるのではないかと考えております。
  それから,八木委員の御指摘との関係で1点,是非今日皆さんの御意見をお伺いしたいのが,この第3のところで一番小さく制度を作ろうとすると,相続人の配偶者だけをその寄与分の主張権者にして,基本的には相続人である配偶者が生きている場合には,その夫婦の貢献を正に一体のものとして見て寄与分を認めると。その場合に,寄与分が認められる財産を夫婦の共有財産にするのか,あるいは夫婦間で分けるのか,そういう難しい問題は別途ありますが,そういったことも考えられますし,その相続人が被相続人よりも先に死んでしまった場合も,その相続人の配偶者は,相続人ではないけれども,その夫婦で寄与した分については寄与分を別途主張できるというような,言わば寄与分に関する部分についてだけ代襲相続を認めるのに近いような形になるのではないかと思いますが,そういった制度であれば,ここに書いてあるものに比べますと,手続的にもさほど,むろん複雑にはなりますが,それほど複雑にならずに済むのではないかという気も若干しているものですから,そういった制度について,今後検討することについての御意見を頂ければと考えているところでございます。
○水野(紀)委員 だんだん私も年寄りになってきたなと思うのですが,過去の事実関係についてだけ発言いたします。昭和55年の改正のとき,この長男の嫁を救出したいという意欲に対して実務家が一斉にやはり反対された理由が,相続人以外を入れての遺産分割など不可能だということでした。この実務家の反対によって,非常に有力な民法学者たちがこれを願っていらしたのですが,封じられました。また,配偶者の代襲相続類似という構成も,嫁が長男を代襲相続するというシチュエーションではない逆の場合,つまり娘の亭主が亡くなった娘を代襲相続するという場合もありうるということになり,男女の場合を平等に書かなくてはならないということになると,それは難しいことになるという議論になって,進まなかったようです。
○大村部会長 今,水野委員から御意見頂きましたけれども,ほかの委員,何か御発言がありましたら承りたいと思いますが,いかがでしょうか。
  ア,イ,ウというのがありましたけれども,切り離して考えられるのではないかという御指摘があって,アだけということについて事務当局の方から御発言がありましたけれども,水野委員はアだけでも問題があるのではないかという御趣旨だったかと思いますが。
○窪田委員 自分の考えがまとまっているわけではないのですが,アとイは全然性格が違うものだと思いますので,イを認めるかどうかとは切り離した議論というのはできるのだろうと思います。ただ,そのときに,先ほど堂薗幹事からお話を頂いたのが望ましい制度設計の議論の仕方なのかなというのはちょっと気になる部分がありました。過去の実務において,配偶者の寄与分を夫の寄与分にカウントしてというようなのも,先ほども申し上げたように,多分,次善の策としてやっただけではないかと思います。そうだとすると,せっかく新しい制度を作るときに,わざわざ夫婦の寄与分というような形で曖昧にしてしまうよりは,もう妻の寄与分というのを仮に認めるのであれば認めるということで考えればいいだろうという気がします。ただ,恐らくそれを貫いていくと,相続の枠組みの中でやるのは難しいということが否応なしに出てきて,そのときには,実はイの問題とかと同じように,やはり相続人ではない者の寄与,貢献についてどういうふうに清算するのかという問題がやはり全面に出ざるを得ないのではないかなという感じです。その点では,ちょっと消極的ということになるかもしれませんが。
  ただ,消極的というのは,一切作らなくてもいいというより,私自身は,相続の枠外のものとして制度設計するということは十分に考えられるし,それは,できたら検討することが望ましいのではないかと思っております。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほか何か,この点について御発言ございますか。
○増田委員 深い考えがあってのことではないんですが,寄与分を認めるぐらいなら代襲相続の方がましかなと。それは,寄与分の代襲相続ではなくて,そもそも本来的な代襲相続です。死亡の順序が違って,順次相続であれば,子の配偶者は親の遺産を相続するし,遺産分割の当事者でもあるわけですから,先に死んだか後で死んだかで何ほど違うのかなという気はするので,寄与分の紛争を拡大するぐらいだったらそっちの方がましかなという,すみません,直感的な話で申し訳ないです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほか,いかがでございましょうか。
○垣内幹事 すみません,細かい点の理解の確認にとどまるんですけれども,この11ページのアの構成で考えたという場合に,その問題となる例として,相続人となるはずであった被相続人の子が先に死亡した場合というのが出ているんですけれども,この場合に,夫婦の協力扶助義務に根拠を求めてということになりますと,子が死亡する以前に寄与したものについては認めるけれども,それ以後も夫の実家にいて面倒を見ましたというのは,これはカウントしないという帰結を想定されているということになるんでしょうか。
○堂薗幹事 そうですね,完全に夫婦の協力扶助義務だけを根拠に求めると,確かにおっしゃるとおりになるのかなとは思いますが,それをどう説明するかは別にして,やはりこちらでは,相続人が死亡した後の寄与分を含めて配偶者に寄与分の主張を認めるというものを念頭には置いております。
○大村部会長 今のようなものを考えるということになりますと,もう少し理由を膨らませる必要があるかもしれないということかと思います。
  そのほかいかがでございましょうか。よろしゅうございますでしょうか。
  いろいろ難問があるということが御指摘されたかと思いますけれども,それらを踏まえまして更に御検討いただきたいと思います。
  本日予定しておりました項目についてはこれで御意見を承りましたので,次回の議事日程等についての御説明を頂きたいと思います。
○堂薗幹事 本日はどうもありがとうございました。
  次回の議事日程ですけれども,御案内のとおり,7月14日火曜日の午後1時半から5時半まで予定をしており,場所は本日と同じ20階第1会議室ということになります。
  次回の議題は,遺留分制度の見直しを予定してございます。次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 本日は大変熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。
  これをもちまして,法制審議会民法(相続関係)部会第3回会合を閉会いたします。ありがとうございます。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第4回会議 議事録


第1 日 時  平成27年7月14日(火)自 午後1時30分
                     至 午後5時30分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第4回会議を開催させていただきます。
  初めに,事務局の方から資料の確認をお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,資料の確認をさせていただきます。
  本日の資料といたしましては,事前に配布をさせていただきました「相続法制の見直しに当たっての検討課題(3)~遺留分制度の見直し~」という資料がございます。お手元にないという方,おられますでしょうか。
○大村部会長 ありがとうございました。
  それでは,部会資料の4「相続法制の見直しに当たっての検討課題(3)~遺留分制度の見直し~」という資料に即して検討をお願いしたいと思います。
  では,事務局の方から御説明をお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,説明をさせていただきます。
  まず,1ページ目の「第1 問題の所在」の「1 一般に指摘されている問題点」でございます。
  まず1点目は,「制度の内容が分かりにくく複雑になっていること」ということでございます。
  遺留分に関する規定は,単独相続である家督相続制度を中心とした戦前の旧民法の規定に最小限度の修正を加えただけであったため,現行民法のとる共同相続制度において生ずる問題について十分な配慮がされていないとの指摘がございます。
  戦前でございますと,家督相続制度といって,家督相続人が一人で全財産を相続するということが行われていたのですが,戦後はそのような制度は廃止され,配偶者や子がそれぞれの法定相続分に応じて共同して相続人になるという制度に変わりました。この点は非常に大きな改正であったと思われますが,他方で遺留分制度はというと,必要最小限度の修正にとどまっており,配偶者や子らが共同して相続するという現行の制度に十分対応し切れていないのではないかという問題点がございます。
  例えば,条文上では,受遺者又は受贈者が相続人であるか,それ以外の第三者であるかによる区別はされていないのですけれども,判例ではこれらの区別がされているということがございます。
  まず,民法第1030条によりますと,贈与は,原則として1年以内のものだけが遺留分において考慮されることとされているのに対し,受贈者が相続人である場合には,民法第1030条の規定にかかわらず,原則として遺留分算定の基礎となる財産について時期的な制限を設けない,このように判例上区別されております。
  また,遺留の減殺割合について定める民法第1034条の「目的の価額」の算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額を超える部分のみがこれに当たるという解釈が判例によってされておりまして,このように,判例によって遺留分に関する規律の補充がされているという状況にございます。
  このように,現行の遺留分制度につきましては,制度の内容が分かりにくく複雑なものになっているという指摘がされているところでございます。
  なお,注を御覧いただきたいのですけれども,公正証書遺言の件数というのは年々増加しておりまして,遺言に対する需要は高まっていると考えられるところです。遺留分制度は,遺言の内容を一部無効にする効力を有するものでございますから,遺言をしようとされる方々のためにも,遺留分制度をより分かりやすい制度に見直す必要があるという御指摘もあるところでございます。
  2点目は,「遺留分制度の趣旨・目的が妥当する場面が減少していること」ということでございます。
  現行の遺留分制度の趣旨・目的につきましては,学説上も様々な考え方がございますが,一般的には遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算等が挙げられております。もっとも,これらの点につきましては,高齢化社会の進展に伴いまして,相続が開始した時点では相続人である子も既に経済的に独立していることが多く,その生活を遺留分によって保障する必要性が少なくなってきたとの指摘や,核家族化等に伴い経済的に一体性を保つ家族が減少した結果,財産形成に対する相続人の寄与の割合が相対的に低下しているといった指摘もされているところでございます。
  3点目は,「具体的な貢献が考慮されないこと」ということでございます。
  配偶者等の相続人が被相続人の財産形成に対して具体的にどの程度貢献したのかという個別的な事情につきましては,遺産分割事件におきましては寄与分として考慮することができますけれども,遺留分減殺請求事件においては寄与分を考慮することはできないと解されております。
  そのため,遺贈の対象とされた財産の形成又は維持について受遺者又は受贈者に相応の寄与分が認められるべき場合であったとしても,遺留分減殺請求事件においては,これらの者の貢献を考慮することができず,その結果,実質的公平を確保することはできないといった指摘もされているところでございます。
  4点目は,「相続に関する紛争を一回的に解決することができない」というところでございます。
  減殺の対象となる遺贈の目的財産が複数ある場合には,遺留分減殺請求権の行使の結果,通常はそれぞれの財産について共有関係が生ずることになります。例えば,遺贈によって自宅を取得した配偶者や事業用財産を取得した当該事業の承継者は,他の相続人から遺留分減殺請求権を行使されますと,その者と共にこれらの財産を共有することとなるということが多くの事案であり得るところでございます。そして,この共有関係を解消するためには,別途,共有物の分割の手続,これを経なければならないということになります。
  また,現行法では,遺産分割は家庭裁判所による家事事件の手続で解決されることになるのに対しまして,遺留分減殺請求事件は地方裁判所の訴訟手続で解決されるということになり,紛争解決手段が異なりますので,これらの法律関係を柔軟かつ一回的に解決することが困難となっているという指摘もされているところでございます。
  5点目は,「事業承継の障害となり得ること」というところでございます。
  例えば,被相続人が特定の相続人に家業を継がせるため,株式や店舗等の事業用の財産をその者に相続させる旨の遺言をしても,遺留分減殺請求権の行使により株式や事業用財産が他の相続人との共有となってしまう結果,円滑な事業承継の障害となる場合があるという御指摘がございます。
  次に,資料の2の「主な検討内容」というところでございますが,この資料においては,遺留分減殺請求権の法的性質や遺留分の範囲等について見直しの方向性を検討しております。
  各論点は,基本的にはそれぞれ独立したものでございまして,最終的には様々な組合せが考えられるとは思いますが,例えば遺留分減殺請求権の法的性質をどのようなものと捉えるかによって,他の論点においては採用することができなくなる方策が生ずるなど,相互に論理的な関連性があるという場合もございます。
  また,これまでの資料1ないし3で提示した論点との関係が問題となるところもございます。そういった点につきましては,それぞれのところで個別に説明を加えさせていただいております。
  以上が第1の「問題の所在」の説明でございます。
  引き続き,3ページの第2の「遺留分減殺請求権の法的性質についての見直し」について御説明いたします。
  まず,「考えられる方策」ですけれども,遺留分減殺請求権の効果について,遺留分権利者の意思表示によって,当然に物権的な効力を生ずるとされている点を改めるということを前提に,甲案と乙案の二つを提案させていただいております。
  「物権的な効力」というのは,遺留分権利者の減殺請求により,直ちに遺贈又は贈与が失効し,その目的財産の所有権又は共有持分権が遺留分権利者に帰属するという効果のことでございます。遺留分権利者が受遺者又は受贈者に対して減殺する旨の意思表示をすれば,裁判所の判決や当事者の協議といったものを待つまでもなく,直ちに所有権や共有持分権が遺留分権利者に帰属するということでございます。この効果につきましては,最高裁の判例によっても認められているというところでございます。
  そして,今回の提案というのは,この「物権的な効力」を否定するということを前提に,まず甲案ですけれども,遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができるものとする,それから,受遺者又は受贈者は,金銭の支払に代えて,減殺された遺贈又は贈与の目的財産を返還することができるものとする,というものでございます。
  乙案は,遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分を保全するのに必要な限度で財産の分与を請求することができるが,その具体的な権利は,当事者間の協議又は審判等において分与の方法を具体的に定めることによって初めて形成されるというものでございます。
  次に,「基本的な考え方」でございますけれども,まず「甲案及び乙案に共通の考え方」でございますが,これは先ほどの「物権的な効力」を否定するというところでございます。
  現行法上は,先ほど申し上げましたとおり,遺留分減殺請求により当然に物権的な効力が生ずることとされているため,減殺された遺贈又は贈与の目的財産は,受遺者又は受贈者と遺留分権利者との共有になることが多いものと思われます。しかし,このような帰結は事業承継を困難にするものであり,また,共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生ずることになるという指摘がされているところでございます。
  また,戦前の明治民法が採用していた家督相続制度の下では,遺留分制度は家産の維持を目的とする制度であったため,その目的を達成するためには物権的な効力を認める必要性が高かったものと思われますが,現行の遺留分制度は,遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算等を目的とする制度となっており,その目的を達成するためには,必ずしも物権的効力まで認める必要はなく,遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を,現物という形にこだわるのではなく,何らかの方法で返還させることで十分なのではないかという指摘もされているところでございます。
  甲案と乙案は,これらの指摘を踏まえ,物権的な効力を否定する,すなわち遺留分減殺請求権の効果を見直し,遺留分に関する権利行使がされても,受遺者又は受贈者が取得した権利が当然には遺留分権利者に帰属しないこととするものでございます。
  続きまして,4ページの「甲案について」の基本的な考え方でございますが,甲案は,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権に改めるというものでございます。現行法上,受遺者又は受贈者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産を返還しなければならないというのが原則でございまして,例外的に,減殺を受けるべき限度において,その価額を弁償して遺贈又は贈与の目的財産の返還を免れることができるということとされておりますが,甲案は,基本的にはこの現行法上の原則と例外を逆にした上で,金銭債権を取得させることを原則とするものでございます。
  なお,甲案につきましては,一定の計算式によって算出された金額について遺留分権利者に金銭債権を取得させるというものでございますから,乙案とは異なりまして,遺留分に関する紛争は,現行法と同様に,訴訟事項として取り扱われるということを前提としております。
  次に,「乙案について」の基本的な考え方ですけれども,乙案は,遺留分を侵害された者は遺留分を保全するのに必要な限度で財産の分与を請求することができるが,その具体的な分与の方法につきましては当事者間の協議又は家庭裁判所の家事審判によって初めて定まるというものでございます。すなわち,遺留分権利者の意思表示だけでは遺留分権利者が取得する権利の内容は定まらず,遺留分権利者が取得する権利というのは,それが物権であるか,債権であるかを含めて,当事者間の協議又は家庭裁判所の家事審判によって初めて具体的に定まることになるというものでございます。
  引き続きまして,「検討課題」のところに移りたいと思います。
  まず,「甲案の課題」でございますが,「現物返還を認める範囲」,これが問題となると思われます。すなわち,甲案は,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とするものでございますが,受遺者又は受贈者が遺留分権利者に支払うべき金銭を用意することができない場合など,受遺者又は受贈者がむしろ現物返還を希望する場合も考えられるところでございます。そこで,このような場合に備えて,金銭債務の履行に代えて現物返還をすることも可能とすることが考えられるのですが,その場合には現物返還の対象となる範囲をどのように定めるべきかという点が問題となるように思われます。
  考え方といたしましては,㋐として,現行法上現物返還の対象となる財産についてのみ現物返還を認めるという考え方,それから,㋑でございますけれども,減殺された遺贈又は贈与の目的財産であれば,現行法上現物返還の対象となる部分を超えても現物返還をすることを認めるという考え方,この二つがあり得るように思われます。
  これだけでは少し分かりにくいかと思いますので,具体例を用いて御説明いたしますと,5ページの注のところを御覧いただければと思います。
  例えば,受遺者がA不動産とB不動産の二つの遺贈を受け,現行法の規律によりますと,遺留分権利者に対してA不動産の4分の1の持分,B不動産の4分の1の持分をそれぞれ返還しなければならないという事案を想定いたします。
  ㋐の考え方によりますと,現物返還の範囲は現行法と同じということになりますので,受遺者といたしましては,A不動産については4分の1の持分,Bの不動産についても同じく4分の1の持分の限度でしか現物返還をすることができず,例えば現物返還の対象をA不動産とB不動産のどちらかに集中させるということはできないということになります。
  これに対しまして,㋑の考え方によりますと,受遺者は現物返還の対象を遺贈の対象となったA不動産とB不動産のどちらかに集中させるということができますので,例えばA不動産は返還せずに,B不動産の2分の1の持分のみを返還する,これによって金銭債務を免れるということもできるということになります。
  この㋐の考え方というのは,受遺者又は受贈者の恣意的な選択を許さないということを意図したものでございますが,その反面,現物返還が実際に選択されるとなりますと,現行法と同じように,多くの事案において共有関係が残るというところが難点かと思われます。
  3ページに掲げた「考えられる方策」の②というのは,㋑の考え方に立つものでございますが,これは現物返還の対象となる財産を減殺された遺贈又は贈与の目的財産に限れば,恣意的な選択がされる余地は少なく,また,遺留分権利者は結果的に被相続人の財産から遺留分に相当する財産を取得したということになりますから,現物返還の対象とすることも許容されるのではないかという考え方に基づくものでございます。もっとも,㋑の考え方による場合には,受遺者が選択した財産の評価額が遺留分権利者の遺留分侵害額を上回る場合や,逆に下回る場合,これらの処理についても更に検討していく必要があるように思われます。
  引き続きまして,「遺留分権利者の地位」というところでございますが,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とすることによって,遺留分権利者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産の所有権,あるいは共有持分権,これを主張することができなくなります。したがって,例えば受遺者又は受贈者につきまして破産手続開始決定などがされた場合には,現行法で申しますと,遺留分権利者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産について取戻権というものを行使することができるのに対し,甲案をそのまま採用したという場合には,特段の手当てをしない限りは,遺留分権利者は破産債権として配当に参加するしかないということになります。遺留分権利者が取得する権利を金銭債権化するということは,遺留分権利者の地位を弱めることにつながり得るということになります。
  したがいまして,このような点を考慮して,遺留分権利者が取得する権利を原則として金銭債権としつつも,受遺者又は受贈者の資力等が原因で遺留分権利者が金銭債権の満足を受けられない場合には,遺留分権利者に遺贈又は贈与の目的財産について何らかの権利を認めるといったところも考えられるのではないかというところでございます。
  続きまして,「乙案の課題」でございます。
  乙案につきましては,まず「憲法上の問題点」というのがございます。乙案は,遺留分減殺請求権の法的性質を変更し,遺留分に関する事件を家事事件として取り扱うとするものでございます。現行法上は,遺留分減殺請求権の存否及び範囲につきましては,訴訟手続において判断されるということになるわけですけれども,乙案は,遺留分に関する事件を公開の訴訟手続ではなく,非公開の家事事件の手続で審理,裁判することとするものでございます。したがって,乙案につきましては,憲法の定める公開原則との関係を検討する必要がございます。
  この点につきまして,最高裁は,裁判所が当事者の意思如何にかかわらず,終局的に事実を確定し,当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件については,憲法第82条第1項の裁判の公開の対象となる旨の解釈を示しているというところでございます。
  このような判例の考え方は,裁判所が終局的に事実を確定すれば,これによって当事者の主張する実体的権利義務の存否について判断することが可能となり,その点について裁判所の裁量の入る余地がないもの,これが純然たる訴訟事件に当たるという理解がその前提にあるものと考えられます。
  このような理解を前提に乙案について検討いたしますと,乙案は,一定の要件が充足されれば当然に具体的な権利義務関係が発生することとされている現行法の遺留分制度,これを改めて,裁判所がその後見的判断に基づいて家事審判をすることによって初めて具体的な権利が形成されるというものでございますから,判例がいうところの純然たる訴訟事件には当たらないのではないかと考えられます。したがって,乙案を採用いたしましても,憲法上の問題点は生じないのではないかとも考えられるところでございます。
  もっとも,遺留分権利者から請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分に関する家事審判によって,自己が有していた財産の全部又は一部を喪失し,これを遺留分権利者に引き渡すなどの義務を負うことになるわけですから,このような受遺者又は受贈者の立場を考慮いたしますと,憲法適合性につきましてはなお慎重な検討を要するとも考えられるところでございます。
  次に,「遺留分権利者の地位」でございますけれども,ここは甲案と同じ問題意識でございます。乙案によりますと,遺留分権利者が取得する権利の具体的内容は,当事者間の協議又は家事審判によって定まることになりますから,遺留分権利者は必ずしも遺贈又は贈与の対象とされた財産の所有権や共有持分権を取得するとは限らず,場合によっては金銭債権のみを取得するということもあり得るところでございます。いかなる場合に現物返還以外の方法による分与を認めるかにもよりますが,甲案と同様,遺留分権利者の地位を弱めることにもつながり得るというところでございます。
  最後に,「紛争の複雑化」でございますが,乙案は,当事者間で協議が成立し,又は家庭裁判所が後見的な見地から裁量権を行使することによって遺留分減殺請求権の具体的内容が形成されるというものでございます。したがって,当事者が遺留分権利者に分与する財産の内容等をめぐって争うなど,紛争が複雑化するという側面は否定することができないように思われます。もっとも,この点につきましては,乙案については事案に応じた適切な解決を期待することができるだけではなく,家庭裁判所の適切な裁量権の行使によって過度に複雑な共有関係の発生を防ぐなど,その後の紛争の発生を予防するという効用もあるものと考えられますので,これらのメリット・デメリットを考慮に入れて検討すべき問題ではないかと考えているところでございます。
  説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第1と第2をまとめて御説明いただきましたが,本日の資料は第1から第4までに分かれております。順次御意見を伺ってまいりたいと思います。
  第1と第2のうち,まず第1の「一般に指摘されている問題点」等について,皆さんの方から御質問ないし御意見を伺えればと思います。いかがでございましょうか。
○村上委員 今日の議題と関係があるのかどうかというのはちょっとよく分からないのですけれども,1週間ほど前に私,新聞報道で見ただけですけれども,与党の方から遺言控除を導入するという案が出ていると。これを具体的に2017年度の導入を目指しているのだという報道があったかと思うんですね。この遺言控除の問題というのは,この遺留分とある程度関係があるのか,ないのか,その点についてもし事務局である程度把握していらっしゃれば,少し御説明を頂ければと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 遺言控除の点につきましては,正に相続税制の話になりますので,法務省の所管外ということにはなるんですけれども,当省の副大臣が一国会議員として,自民党のある委員会の中で,そういったことが考えられるのではないかという御提案をされて,それについて自民党内で議論がされたと,それが報道されたというふうに承知しております。もちろん最終的に相続法制を直した場合に,相続税制をどうするのかというのは密接な関連がある問題としてございますけれども,飽くまでここで議論するのは相続法制であって,相続税制は含まないということになりますので,直接こちらに関連するということではないのではないかと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  そのほかいかがでございますか。第1の現状認識にかかわる部分でございますけれども。
○西幹事 まだ十分に頭が整理できていないのですけれども,1ページ目の第1の1の(2)のところに遺留分制度の趣旨が書かれています。この趣旨の中の2行目にありますように,遺族の生活保障というのは,これが遺留分の趣旨であるということは広く認識されていると思います。他方,その次の「遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算」という趣旨は,窪田委員の教科書も含めて,最近の教科書に比較的よく見られる記述ですけれども,これは一般にどの程度のコンセンサスを得られているのかというのが,少し気になります。むしろ,それよりは,最近ですと相続人間の平等とか,そういうことが遺留分制度の趣旨として挙げられることが多くなっているように感じます。
  余り大したことではないのかもしれませんけれども,6ページ以下のところの,次に御説明あるところかと思いますけれども,遺留分の範囲のところで,この趣旨との関係で議論が展開されているように感じますので,この「遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算」という趣旨が,どの程度広くコンセンサスを得られているのか,教えていただければと思います。
○堂薗幹事 どの程度広くコンセンサスを得られているかというのは,正直なところ,よく分からないところがございますが,基本的に現行の遺留分制度につきましては,総体的遺留分を決めて,その総体的遺留分の分配の仕方については法定相続分によるということになっております。そして,法定相続の根拠についても様々な見解がありますが,例えば配偶者については,一般に潜在的持分の清算というものがあるといわれておりますので,遺留分制度においても,そういった趣旨があること自体は否定できないのではないかと考えております。
  もちろん,遺留分制度の趣旨については,様々な見解があって,必ずしも統一的な見方がされていないというのは承知しておりますが,こちらとしては代表的なものを挙げたつもりです。
○中田委員 今の西幹事の御質問の後半の部分との関係なんですけれども,相続人間の平等の保障という観点は,最近ももちろんありますし,戦後も,割とあった考え方ではないかと思います。それを遺留分を自由分以外のものと位置付ける外国の法制度と直結させる考え方と,それとは切り離す考え方とがあると思うんですけれども,やはり相続人間の公平というのが考慮されている。それをこの第1,1,(2)で触れていないのが,やや結論を先取りしているように読めないだろうかというおそれを感じます。それはいかがでしょうか。
○堂薗幹事 あえてここで相続人間の平等ということを入れてないのは,要するにそういった平等を図るべき実質的な理由として,相続人の生活保障としてある程度の財産は確保すべきという点や,遺産の形成に対して貢献がある場合にはそれを反映すべきという点があるのではないかということで,どちらかというと,実質的なところを書いたつもりです。また,相続人間の平等といいましても,完全に平等を図るわけでもないというところがありますので,あえて(2)のところでは挙げていないということでございます。ただ,一定の限度で相続人間の不平等を是正するという機能があるということについてはほかのところでは触れておりますし,そのこと自体を否定するつもりは全くございません。
○上西委員 税法の世界から民法を見ている者からすると,ある方の説明が非常に分かりやすかったことがあります。財産というのは本来は自由に処分できるのだという考え方に対するアンチテーゼ的なものとして,遺留分制度は親に愛されない子供を守るためだという説明です。ここにおられる先生からも聞いたことがあります。今回は,遺留分について大きく変えるわけですので,見解についてはもう少し─濃淡はあるのでしょうけれども─示した上で議論した方がよいと思います。
○堂薗幹事 その点は,今後資料を作成する場合に注意したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今の点は,ここでは遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の持分の清算という,これらの目的については必要度が下がっているだろうということを示すという文脈で書かれているんだろうと思いますけれども,御指摘のように,遺留分制度の目的については様々な意見がありますので,それらに目配りをした形で,今後,記載を整えていただくということにしたいと思います。この点はよろしゅうございますでしょうか。
  ほかの点,いかがでございましょうか。
○米村委員 いろいろな考え方があるということですが,社会学者としては,社会の方から見ると,遺留分制度とはどのようなものだろうかというのを,やはり大づかみにして考えるような順番を採ります。いろいろな考え方がある中で,それらを踏まえながら,でも,そこを一つに統一はしないで検討を進めていくということになるのでしょうか。
○堂薗幹事 遺留分制度の趣旨については,いろいろな考え方はあり,ある意味では説明の仕方にすぎないようなところもございますが,ここに書かれているもの以外では,先ほど出ました相続人間の平等を確保するとか,あるいは親が偏愛をしている場合に,それによって生じる結果の不当性を是正するとか,そういったことが言われているわけです。遺留分制度を見直すに際しては,制度趣旨をどのようなものとして捉えるのか検討する必要があるというのは御指摘のとおりかと思いますけれども,これだけいろいろな意見がある中で,今回の見直しではこういう趣旨の下でこういう見直しをしますというところまでコンセンサスが得られるかどうかは,今後の御議論によるところが大きいのではないと思っておりまして,現段階の資料としてはこの程度にさせていただいたというところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○南部委員 ありがとうございます。遺留分制度をめぐる年間の調停というのはどれくらいあって,成立した分がどれくらいあるかという現状をお聞かせいただきたいと思います。
○大村部会長 遺留分に関する紛争の状況ということですね。
○南部委員 はい。
○大村部会長 何かもしデータをお持ちでしたら。
○堂薗幹事 最高裁の方で何かございますでしょうか。
○石井幹事 遺留分についての調停ということですけれども,遺留分だけの統計数値というのをとってございませんので,それについてはお答えが難しいところでございます。
○水野(有)委員 東京地裁の水野でございます。前任庁が東京家裁であったので,たまたま持っていた数字の一部のものなのですが,東京家裁の裁判官が部内で調査した結果によりますと,遺留分減殺調停事件の成立率は平成22年で56.9%,平成23年で51.3%,平成24年で54.8%であり,一般的な調停よりもむしろ成立率が高いという結果になっております。今,理解している情報はこの程度でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。成立率の統計があるということなので,数量の統計もどこかにはあるのかもしれないですね。少しまた探していただいて,見付かりましたら御披露いただければと思います。
  ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。
  特にございませんでしょうか。
  よろしければ,第1の「問題の所在」につきましては,御意見を頂いたということにいたしまして,次の第2の「遺留分減殺請求権の法的性質についての見直し」に進ませていただきたいと存じます。
  甲案,乙案という二つの案が示されておりまして,それについての基本的な考え方,共通の基本的な考え方である部分と違っている部分につき御説明あったかと思いますけれども,甲案,乙案双方含めまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。
○増田委員 どなたからも御意見がないようなので,口火を切ります。
  甲案,乙案のみならず,中間的な案も含めて,いろいろな案がここは考えられるのではないかと思います。
  まず,甲案というのは,純粋価値権説と考えてもいいと思います。迅速な解決が可能だし,遺言執行については遺留分減殺請求と無関係ですから,早期に執行が完了するという利点を持っていると思います。
  挙げられている論点の中の倒産との関係ですけれども,これについては,立法的に目的財産に特別の先取特権を新たに創設して別除権処理をするということで,価値権の保護としては十分ではないかと考えられます。
  ただ,特に②については,若干問題があるのではないかと思いますので,幾つか甲案プラスαの考え方を挙げてみます。一つは,調停前置にすべきだということです。金銭債権をいきなり請求するのではなく,物が必要な方もおられるであろうことを考慮して,その辺は一度調停で話合いをして,利害調整を図るべきであろうかと。これは現行法も一応調停前置主義ではあるんですけれども,民訴事件については,運用は必ずしも厳格ではないので,人訴事件並みの厳格な運用を前提とした調停前置主義をここでは考えています。
  二つ目の考え方として,物件の返還については,減殺請求者側で選択することもできるようにすべきであるという考え方もあります。現行の物権的請求権ではなくて,債権的な返還請求権とした上で,物件が必要な人はこちらを選択するということもできるようにすべきだという考え方です。
  それから,三つ目ですが,甲案の②だと,平たく言えば,要らないものを受け取らなければならないということもあり得ますが,物を所有するということは,価額だけで価値を判断できる問題でなくて,コストもあるし,リスクも伴うものですから,要らないものを受け取る義務は幾ら何でもないのではないかということを考えると,代物弁済と同様に,減殺請求者の同意の下に物件の返還を選択することができるということでどうかという考え方もあります。
  要は,物を売却するコストとか,売れない場合のリスクは誰が負担するかという問題だろうと思うんですけれども,オプションということになれば,物の遺贈を受けることを選択した受贈者側が負担すべきなのではないかという考え方につながると思います。
  それからもう一つ,私はこれはどうかなと思っているんですけれども,どうしても物が必要な人について,目的物の返還を請求しうる場合を類型的に設ける。例えば,目的物が居住不動産であった場合の居住者,目的物が事業用財産であった場合の事業者,こういう人が減殺請求者であった場合には,目的物の返還を請求できてもよいのではないかと。これは,基本的に甲案を採った上で,例外的に目的物の返還を求める必要性が高い場合というのを類型化する方向の考え方です。
  このように,甲案でもいろいろなバリエーションがあると思います。私自身は,基本的に価値権という考え方にはひかれるところがあります。
  一方,乙案を基本に考えるという考え方もやはりあるだろうと思います。これは,遺産分割との間の一回的解決に資するということだと思います。特に,相続人間の紛争の場合には,感覚的にも適合する考え方です。ただ,第三者が受贈者だった場合には妥当するのかという疑問はあります。
  それから,乙案の問題点としては,憲法上の問題もさることながら,かなり減殺請求者側の権利が弱くなるという問題があると思います。これでは,当初からの具体的権利として発生しないことになりますので,まず第一に民事保全ができません。家事事件の中で形成される権利ということになり,家事事件手続法上の審判前保全処分しかできないということです。
  それから,第二に,通常この遺留分減殺請求権が訴訟になる場合は,単独で訴訟になることよりも,遺贈や贈与などの原因行為の無効を主張する中で予備的請求として出てくることがかなり多いです。つまり,主位的請求が遺言無効,予備的請求が遺留分減殺というパターンはかなり多いのですが,このような予備的請求という方法では使えなくなりますので,かえって早期解決を妨げることになるという問題点があります。
  それから,三つ目ですが,これは言うまでもなく,既判力がないことで,紛争が蒸し返される危険が避けられないことです。現行法は訴訟ですから,仮に前提である遺産性の問題について争いがあっても紛争を蒸し返すことはできないわけですが,乙案だとその意味では一回的解決ができなくなって,かえって現行よりも解決のスピードが遅くなる場合も生じるのではないかという問題があって,この点は,実務感覚としては大きな問題点ではないかと考えられます。
  ただ,あくまで相続人間の場合に限っていえば,相続人間の公平という観点からいって乙案もある程度魅力のある制度であろうと思います。ですから,私自身は個人的には甲案プラスαという,何らかの手当てを付けた上での甲案がいいのではないかと思っておりますけれども,ここはいろいろなアイデアが出せるのではないかと考えております。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。いろいろな御指摘を頂きましたけれども,現行法ではかなり強い効力が認められているところから出発して,どのくらい減殺請求権の効力を弱めていくかということで甲,乙両案が出ておりますけれども,増田委員は基本的には甲案をベースとしつつ,しかし,もう少し現行法寄りの選択肢が幾つか考えられるのではないか,こういう御意見だと整理させていただいてよろしいでしょうか。
○増田委員 はい,結構です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのような意見を頂いておりますけれども,いかがでございましょうか。
○石井幹事 意見というより,甲案の考え方について少し確認をさせていただきたいんですが,現在の遺留分減殺請求権は形成権と考えられておりますので,権利行使をして初めて物権的な効力が生じるということになろうかと思うんですけれども,提案されている甲案というのは,そこの点については変えずに,何らかの意思表示というか,請求権の行使をして初めて債権を発生させるという考え方として理解してよろしいんでしょうか。訴訟物などを考える上で,何かお考えになっているところがあれば確認させていただければと思います。
○堂薗幹事 その点につきましては,遺留分減殺請求権は,判例上も行使上の一身専属性があると言われており,その点を変えるという趣旨ではございませんので,基本的に権利行使するかどうかについては遺留分権利者の判断によるということかと思います。したがって,金銭債権化した場合にも,遺留分権利者の意思表示があって初めて金銭債権として発生するということを考えており,そういった意味では形成権というところは変わらないのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 よろしゅうございますか,石井幹事。
○石井幹事 そうすると,現行法上,権利行使は訴訟上でも訴訟外でもできるということになっていますので,そういった点は変わらず,意思表示によって金銭債権が発生して,それが訴訟物として提示されてくるという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 はい,そういう理解で結構かと思います。
○窪田委員 まだ自分の考えもよくまとまっているわけではないんですが,先ほど増田委員からの御指摘あった点は,私自身も強く共感する部分がありました。つまり,もともと遺留分減殺が訴訟事項だされていたのは,贈与の対象が相続人であるとは限らないという状況を前提としており,家事審判手続という枠の中に乗ってこないというのはそういうことだったのだろうと思います。
  また,西幹事から最初に御発言があった遺留分制度の目的は何なのかという点,共同相続人間の平等というのを含めるかどうかという問題は,どの局面を念頭に置くかで随分違ってくるということなのだろうと思います。現行の制度は必ずしも相続人ではない者も相手として機能する仕組みとして,一般的なものとして作られたのだけれども,しかし,現に遺留分が機能している場面というのは,多くの場合には共同相続人間の紛争であるということなのだろうと思います。
  この甲案,乙案それぞれ十分にあり得る考え方なんだろうと思うんですが,取り分け乙案というのは,共同相続人間の場面において考えると,具体的相続分というのはまだ確定した具体的な権利ではないのだけれども,それをベースとした上で遺産分割がなされるというような発想と比較的近いところで,遺留分減殺という仕組みを考えるものだと思います。その点で,それが一定の手続を経て初めて確定されるというのは,共同相続人間を想定すると比較的理解しやすいのではないかと思います。ただ,それでは,相続人でない者を相手にしたときにこれがうまく機能するのかというと,やはりちょっとよく分からないという気がします。
  そうだとすると,甲案,乙案については,相続人,相続人以外の者を全部ひっくるめて,共通のものとして遺留分制度というのを維持するという前提に立って二者択一で考えるというよりは,場合によっては,誰を相手方とする紛争であるかということに応じて区別する形で制度設計するという可能性もあるのではないかという気がします。今後,御検討いただくのでも結構ですし,あるいは,その点について既に何かお考えがあるということであればお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 御指摘の点は,第3の2のところで書いてある遺留分の算定方法の見直しとも若干関連するのではないかと思います。資料では,遺留分の算定方法の見直しのところでⅠとⅡというのを挙げておりますが,Ⅱで書いてあるところは遺留分が共同相続人間で問題となっている場合に,遺産分割と一体的な処理ができないかという問題意識で検討しているところがございますので,仮にあのような形でできるのであれば,遺留分についても正に遺産分割と一体のものとして,対象となっている財産から一定の価値を返還するという処理ができるのではないかと思います。ただ,やはり受遺者等が第三者の場合と相続人の場合とを切り分けて,きちんとした制度設計ができるかという点については,正直なところ非常に難しい問題があるなというのが現時点での感想でございます。
○浅田委員 銀行の中での預金受入者としての立場の意見については後回しにさせていただきます。
  まず,この制度の理解をしたいと思います。といいますのは,銀行,信託銀行の場合は特にそうなんですけれども,遺言執行者の立場から相続に関与することがあります。御提案の制度において,遺言執行者がどういう立場になるのか,現状と変わるのかということを確認したいと思います。
  そこで,質問ですけれども,現行判例法理のもとでは,遺留分減殺請求権というのは,遺言執行者を相手方として行使するというのも認められていると認識しております。この甲案,乙案が採用された場合に,遺言執行者が遺留分請求権の行使に当たってどういう立場になるのか,ないしは,ならないのかということをお聞かせいただければと思います。この文章だけを見ると,例えば甲案では,相続人間の中で請求権のやり取りがされるのかなというふうにも見えます。そうすると,遺言執行者はこれに関与しないのかなと。乙案の場合にも,協議とか審判等において遺言執行者がどのように関与するのだろうかということがちょっとよく分かりません。何か整理があるのであればお聞かせいただければと思います。
○堂薗幹事 この点についてはまだ十分な検討ができておりませんが,純粋な金銭債権の請求に関しては,遺言執行者が関与せずにすることができるのではないかと思いますけれども,例えば乙案のような考え方を採った場合にどうなるのかという辺りにつきましては,御指摘を踏まえ検討したいと思います。
○渡辺関係官 先ほど申し上げましたとおり,まだそこの点については十分検討はできていないんですけれども,ただ,基本的には遺贈又は贈与が全部又は一部失効するというところも否定してしまうというところから出発しておりますので,遺言執行者が関与する可能性というのは低くはなるとは思います。詳細はまた後日検討させていただければと考えております。
○浅田委員 後で全体像を見て,遺言執行者の役割がどのようなものになるのかということを評価した上で,それが本当に相続の円滑化につながるかどうかということをあらためて検討したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  少し戻りますけれども,増田委員と,それから窪田委員から,乙案も共同相続人間では魅力的な案であるという御指摘がありました。後の方で,共同相続人間であるか,あるいは第三者が混じるかということで区別して考えるというような御提案もあるようでございますので,またそちらも含めまして,分けて考えることが可能であるかということについて御意見をいただきたいと思います。
  これまでのところ,甲案,乙案それぞれについて御意見を頂いておりますが,前提としては,現状を動かして甲案あるいは乙案を採用するということを考えるという方向の御意見かと思います。そういう御意見が更にありますれば頂きますし,いや,現行法をベースにするということでよろしいのだという意見もおありかもしれません。どちらでも結構でございますので,御意見を頂ければと思います。
○村田委員 乙案についての半分質問で,半分意見になるんですけれども,先ほど増田委員が乙案についての問題点の指摘をされた部分,特に既判力や紛争の蒸し返しということで言われたことに若干絡みます。
  乙案によれば,具体的な権利は協議又は審判によって形成されるということになっています。そうすると,その前提となる抽象的な部分というのがあるのではないかと考えられまして,そういう遺留分侵害の有無や範囲といったものが抽象的な権利あるいは地位として争われるとすると,それは訴訟事項として残ることになるのではないかと思うんですが,そういう理解でよろしいかというのが質問であります。
 ここから先が意見なんですが,もしそういう理解でよいとすると,何がしか権利侵害の有無・範囲については訴訟で確定するという部分がないと,憲法適合性の問題が出てくるように思います。他方で,結局,訴訟で確定しなければならない部分が残るというのであれば,現行法の下では遺留分減殺請求訴訟としてある種1本の手続で解決できていた紛争のうち,抽象的な権利の確定については地裁の訴訟でやり,具体的な権利の形成については家裁の審判等でやることになって,紛争解決手続が分断されてしまいます。乙案というは,そういう要素を持った提案かなというふうに受け止めました。そうであるとすると,部会資料の第1「問題の所在」のところでも触れられているように,ある局面においては相続に関する紛争を一回的に解決しようという要請を前提に提案がされておきながら,乙案については,逆に,紛争分断の要素があるということになり,その点をどう評価するかということについても,慎重な御意見を頂きながら考える必要があるのではないかなというふうに思います。
  以上です。
○堂薗幹事 御指摘の点につきましては,乙案において,どういった点を考慮して最終的にその分与の仕方を決めるかというところにも関わってくると思います。例えばですけれども,これを家事事件にした上で,寄与分まで考慮するということになりますと,要件のところからして,裁判所の裁量が入らないと権利の内容が定まらないということにもなりますので,そういった意味で非訟的な要素を持つということになると思いますし,仮に寄与分を考慮しないという場合でも,ここでは具体的にどの財産を誰に渡すかという点については裁判所の裁量に委ねるということなので,その意味で非訟的な要素があるということだろうと考えております。乙案は,基本的には財産分与を参考にしたものでございますので,財産分与の関係でも,その前提となる身分関係があるかどうかとか,そういった点については当然訴訟の対象になるんだと思いますけれども,今御指摘があった,例えば遺留分侵害があるかどうかという点については,具体的相続分が訴訟事項とならないのと同じように,訴訟事項にはならない可能性もあるのではないかという感じもしておりまして,その点は今後詰めて検討していきたいと考えております。
○上西委員 1ページに,「公正証書遺言の件数が年々増加しており,遺言に対する需要は高まっている」とありますが,増やすことは社会的な要請であると思います。
  ところが,公正証書遺言の場合は適式の書類にはなるものの,遺留分まで算定し切れているかどうかです。この財産についてはこの人にとするわけですけれども,全体像まできっちりと評価した上でできているかどうか分からないですし,過去の贈与等についても考慮されていないケースの方が多いと思います。そうすると,全体のテーマとして,遺留分制度をより分かりやすい制度として見直す必要があると同時に,より解決しやすい制度にするということもここでの議論だと思います。
  そこで,甲案,乙案についてです。4ページに「甲案の課題について」の中にアの考え方とイの考え方があります。中長期的に考えて,共有物はなるべく増やさないようにした方がよいという趣旨から,アの考え方のほかにイの考え方を出して,現物返還の対象となる部分を超えて現物返還することを認める,すなわち集中させると,先ほど御説明されました。別の言い方をすれば,片寄せするということになろうかと思います。この考え方の方が当事者間で解決しやすくなると感じました。分かりやすい制度になっても遺留分減殺の請求の問題は生じ得ると同時に,増えていくと思います。そうすると,解決しやすい方法で,共有関係を避けるためには,イの考え方がよいと考えます。
  そして,5ページに,集中させて,片寄せさせて清算をして,遺留分減殺請求に応じても,遺留分侵害額を上回る場合もあれば,下回る場合もあります。上回る場合は,請求を受けた側である受遺者や受贈者が納得して差し出すのですから,それは一つの解決策と思います。しかし,下回る場合については,大半が解決しておれば,残りは現金等での清算ということも主たる選択肢で置いておく必要があります。下回る部分をめぐって共有関係を増やすというのは,社会的な要請からも外れていくという気がします。どの程度が解決すれば残りの部分を現金清算にするかという問題はあるかもしれませんが,なるべく集中させる,片寄せする考え方をメーンに出した方がよいと考えます。
○大村部会長 御意見ありがとうございます。
○山本(克)委員 先ほどの多分浅田委員のおっしゃったこととも少し関係するんだと思うんですが,甲案の②の場合の受遺者又は受贈者の側の意思表示があったときの効果というのは,従来どおり物権的効果なんでしょうか。
○堂薗幹事 ここでは,基本的にはそのようなものを考えております。
○山本(克)委員 それと,それはそれで結構なんですが,仮に今,上西委員がおっしゃったような,次の4ページのアとかイを採ったときに,予備的請求としてどういう請求を立てたらいいんでしょうか,遺留分減殺請求権者としては。
○堂薗幹事 遺留分減殺請求権者としては,基本的に金銭債権として請求をし,それに対し受遺者,受贈者側でこういった抗弁が出された場合には,それを金銭的に評価して,その額が遺留分侵害額に達していないときには,その残額部分に限り金銭請求を認めることになると思います。
○山本(克)委員 しかし,それだけでは,不動産登記の問題は処理し切れないので。受遺者の方に登記が移すためには,別途登記請求を立てなければいけないですよね。
○堂薗幹事 そうですね。
○山本(克)委員 では,その場合の登記請求を予備的請求として立てる場合に,特にイの場合にはどうしたらいいんでしょう。
○渡辺関係官 今の御質問は,最初に請求するときに請求者は困るのではないかということでしょうか。
○山本(克)委員 抗弁が出た段階で予備的請求を追加するにしても,その請求内容をどうするかというのはもう一つよく分からないなという気がしたのでお伺いしたんですが,適切に,例えば5,000分の4,800なんぼとか,そういうのまで出さなければいけないのか,それともですね。でないと,やはり給付請求として立たないですね,形成訴訟になってしまうので。給付訴訟にするのであれば,そこのところはきっちり,原告が予備的請求を立てるときの指針となるような明確なものがないと駄目なんだろうと思うんですが,こういうふうに割合的権利を渡すというときには,それはかなり難しい問題が生ずるのではないのかなという気がしたのでお伺いしました。
○堂薗幹事 御指摘の点は十分に検討したいと思いますが,元々は,飽くまでも抗弁が出れば,その段階で現物が遺留分権利者に帰属するというような制度を考えておりましたので,抗弁が出た後に予備的請求を再度立て直してということは考えておりませんでした。もっとも,抗弁を出しただけでは,登記まで取得させることはできないではないかというのはおっしゃるとおりかと思いますので,その点をどういう形で手当てするのかという辺りも含めて,検討したいと思います。
○沖野委員 今のこととも若干関わるかもしれませんが,1点だけ申し上げます。甲案の場合に,現行法とどこが違うのかなというふうに考えていたんですけれども,取り分け㋑を採ると特に違いが出るというのと,それから相手方の倒産の場合に違いが出ると考えておるんですけれども,㋑を採ることについて,私は,現行法のように,全ての財産に一律に割合で物権的効果が生じるというのは,複数の財産があるときには余り適切ではないのではないかと考えておりましたので,㋑のような形で寄せるということができる方策は入れた方がいいと思っています。
  ただ,㋑の提案ですと,その部分が必ずしも保障されないという形になっておりまして,受遺者や贈与を受けた受贈者の選択になりますので,確かに注によれば,A,Bがあるときに4分の1ずつだとなるのが,Bで2分の1になるというのはきれいなんですけれども,場合によってはA,B,Cとあって,それを更に割合を全部分けるようなこともできることになってしまうのは非常に問題ではないかと考えておりますので,㋑にするにしても制約は要るのではないか。その制約の仕方が,増田委員のお考えを一部取り入れますと,例えば相手方の同意を得てとかというふうにするというのは一つの案かと思います。
  そして,そうだとしますと,これも複雑になるんですが,㋐になるところを同意を得るならば寄せることができるとか,そういうふうにすることも考えられるのかと思います。ただ,そうしますと,今おっしゃった予備的な請求とかは一層複雑になってくるような感じがしますので,十分対応ができるのかどうか分かりませんけれども,問題点としては,全く相手方が自由にできるのは問題ではないかということです。
○堂薗幹事 この点については,そもそも受遺者側の利益を考慮して,こういった形で現物返還できるようにする必要があるかどうかというところと関わってくると思うんですが,原則として金銭債権化した上で,債権者が同意している場合だけ現物返還が可能ということであれば,特段の手当てをしなくても代物弁済として可能ではないかとも思われますので,そういった意味では,仮に甲案のような形で考えていく場合には,完全に金銭債権化してしまって,それによる受遺者側の不都合については,何かほかの方策で解決するということも考えられるように思います。
○中田委員 甲案について,二つ教えてください。
  甲案を採る場合の現行法との違いなんですけれども,遺留分権利者は幾ら払えという,金額を請求するということになると思うんですけれども,それに伴う権利者の負担,あるいはリスクというものがどの程度考えられるかということをお教えください。それが第1点です。
  第2点は,包括遺贈の場合にどうなるのかということです。全部包括遺贈は,特定遺贈の総体だというふうにもし考えるのであれば,この規律が及ぶんだろうと思うんですけれども,割合的包括遺贈の場合を相続分指定とパラレルに考えるとすると,そちらは金銭にならない可能性があると思います。
  相続分の指定については,15ページでなお検討するということになっておりますけれども,割合的包括遺贈ないし相続分指定の場合を金銭返還から外すのか,外さないのかによって,相当制度設計は変わってくると思いますので,その辺りについて御検討されていればお教えいただければと思います。
○渡辺関係官 ただいまの2番目の点につきましては,正に検討中というところでございまして,割合的包括遺贈の場合ですと,恐らく今の実務では相続分を変えるという形で処理をしているのではないかと思っているんですけれども,果たしてそういった実務でいいのかどうかというところも含めて,整理することができるのであればしたいと考えておりますし,そういった形で整理ができるということになりましたら,金銭請求できるような形にするのか,相続分として幾らか取得するという形にするのか,どちらがいいのかというところも含めて,お知恵を拝借できればと思って問題提起をさせていただいているところでございます。
○堂薗幹事 1点目のリスクについてこちらで考えているのは,基本的に金銭債権化することによって,受遺者側の資力に問題がある場合に全額回収できなくなるおそれがあるのではないかという点ぐらいです。ただ,その場合に,先ほど増田委員が言われましたように,その目的財産について,法定の担保権,特別の先取特権のようなものを認めれば,そのリスクはかなり減ると思いますし,更に言えば,そういった場合には現物返還を認めるということにすれば更にリスクは減るんだろうと思います。それ以外にこういったリスクがあるということでございましたら,是非お教えいただきたいと思います。
○中田委員 私がリスクという言葉を使ったので,そちらに問題が行ってしまって申し訳ありませんでした。今の受遺者等の無資力のリスクということ以外に,訴え提起の段階でどのような負担が遺留分権利者に新たに加わるのか,加わらないのかということをお教えいただければということです。
○山本(克)委員 過少請求をした場合で,全部認容されたけれども,更に本来は取れたという場合をどういうふうに考えるかというのは一番大きな問題として,恐らく中田委員はお考えなのではないのかなと思うわけで,それは黙示の一部請求として扱われるのか,明示の一部請求として扱われるのかというのが,恐らく一番大きな問題点で,黙示の一部請求として扱われると,過少請求をした場合については上乗せ分は取れないというのが判例法理になってしまうと,そこのところをどう考えるかというのが一つ大きな問題ではないですか。
○渡辺関係官 ただいまの御指摘なんですけれども,ちょっと私の理解が間違っているかもしれませんが,現行法でも生じる問題でございまして,現行法でも遺留分というのは,例えば訴状レベルでは8分の1とかざっくり来るものが結構あるような気がしていますけれども,実際に計算してみると,かなり複雑な数字になって,そこというのはやはりどうしても原告側がきちんと計算しなければならなくなります。実際に認容できる金額と請求の趣旨を比べるとそごが生じるというようなことは,現行法の下でも起きている問題ですので,この甲案を採ったからといって殊更出てくる問題というよりは,計算方法の問題なのかなという気はしております。
○増田委員 現行法でどうやっているかという話ですが,判決に行く場合には鑑定が入ることが多いと思います。鑑定が終わった段階で,原告がもっと取れると思えば,請求の趣旨を変更して,訴えを拡張するというのが通例になっていると思いますし,それについて訴訟の現場で,時期に遅れているなどとやかく言われることは現実にもないだろうと思われます。それは,甲案を採った場合も同じことだと考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今まで出た甲案に関する問題ですけれども,現物返還を認めるということについては,財産を集中するのはメリットをもたらすこともあるけれども,しかし,それによって紛争が増えることもあるので,メリットが大きくなるような方向で,何らかの制約を設けるべきではないかという意見があったかと思います。それから,これに伴う手続的な問題について,現行法上も存在するという問題も確かにあるけれども,新たに生ずる問題もあるのではないかということで,その辺りの整理が必要なのではないかという御指摘を頂いたかと思います。
○浅田委員 預金受入銀行としての考え方を述べさせていただきたいと思います。
  業界内でも議論いたしましたけれども,遺留分減殺請求権の物権的効力を見直すこと自体には異論がございませんでした。私としては,その検討自体は賛成したいと思います。
  次に,甲案,乙案どうなのかということについては,まだ十分な議論ができていないと私は思っておりまして,まだ考えあぐねているところでありますけれども,甲案に関しては,直接紛争に巻き込まれることは少なくなるのではないのかなと思っております。といいますのは,現行制度であれば,遺留分減殺請求権が物権的効力を持っているということを前提に,店頭の現場では例えばお客様ないしは関係者から遺留分請求権の行使があったということを仄聞しただけで,預金の支払いが適正にできなくなってしまうという弊害があるわけです。甲案の場合には基本的に,特に①の場合は銀行との問題というよりは,受遺者と遺留分請求権者との間の調整で解決されるというふうに理解できますので,銀行は紛争の当事者から外れるということになると認識できますので,その意味において歓迎できるのかなと思います。
  ②に関しては,制度設計如何によっては,ちょっと留保させていただきたいところもあるかもしれません。
  乙案に関しては,これも銀行が遺留分請求があったということを認識した場合であったとしても,協議,また,審判等が終了するということを待って手続をすれば,基本的には紛争が顕在化することがないという制度に見えますから,銀行にとっては現状よりは望ましいと思います。
  それで,甲案,乙案いずれがベターなのかということはなかなか難しい話だと思います。一つの局面だけ見ますと,先ほど増田委員からありましたように,乙案であれば,具体的な民事保全の手続ができないと。私の理解するところによれば,遺留分減殺請求権者は具体的な権利取得ができないものですから,それを基に仮差押手続をすることができないと思います。そうすると,仮差押えがあれば,銀行も債務者ですので,それなりに紛争の当事者となりますが,そのことから解放されるという意味では,乙案の方がベターだという評価も可能なのかもしれません。ただ,これは次回以降議論されるだろう預金債権の分割の問題にも絡んでくると思いますから,それも併せて考えてみたいと思います。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
○山本(和)委員 3点コメントです。
  まず,甲案のイの点で,先ほど増田委員が言われて,あるいは堂薗幹事の指摘あった特別の先取特権というのが,どの程度フィージビリティーのある話なのかということです。恐らく,対象が不動産であるということを考えると,登記請求権まで与えないと,恐らく実質的には意味がないということになります。
  これは,債権法改正のときに,詐害行為取消権の関係で,受益者の反対給付請求権を保全するために,詐害行為の対象になった者に対して特別の先取特権を付与するという提案が,中間論点整理から中間試案までずっと残っていて,沖野委員などが提案をされていたところですけれども,結局,なかなかそれは実現できなかった。いろいろな理由があったんだろうと思いますけれども,同じような理由がこちらにも妥当する可能性はあり得るのではないかと思っていまして,そう考えるのであれば,できるだけ早い段階から具体的な多分提案として考えていく必要があるのかなというのが第1点です。
  第2点は乙案ですが,アの憲法適合性の問題は,私自身は,ここの資料に書かれてあるとおりで,少なくとも現在の最高裁判例を前提にすればこうなるのかなということで,むしろ,6ページのところの「もっとも」の段落に書かれてあることが,私にはよく理解できなくてですね,先ほど村田委員からも御指摘がありました,抽象的な権利というのは多分,遺留分権利者が何というか,減殺請求というのを行使すれば,そこでも抽象的な権利は発生していると。あとは,その権利の範囲とか内容等について,家事審判等によって形成していくということだと思いますので,家事審判によって財産権が喪失するというのが私にはよく分かりませんでした。もちろん,具体的にはそうなんですけれども,一般的にはもうその前の段階で抽象的な権利としては,そういう権利義務関係が存在しているということなのではないかと思っています。その点は,正に財産分与をモデルにしたという,財産分与と同じことではないかなと思っていまして,ここが,「憲法適合性についてなお慎重な検討を要する」というのは,私は理解はちょっとできなかったところです。
  それから,イの点ですが,この点は確かに,破産した場合を考えて財産分与と同じと考えると,財産分与の場合は,やはり一般的には判例は破産債権だというふうに捉えていて,これは倒産法改正のときも,何とかならないかという話があったわけですけれども,そこはやはりなかなか難しいということになっておりますので,財産分与と同じような形でこれを捉えるとすると,現在では取戻権が認められる場合が,単なる破産債権になってしまうと。そのままにしておけばなってしまうということで,権利は弱くなってしまうということはあるんだろうということで,ただ,財産分与についても批判はありますので,全部合わせてここで手を付けるというのは一つの考え方かなと思いますけれども,相当大規模な事業になりそうな気はするということです。
○堂薗幹事 憲法適合性の,6ページの「もっとも」以下ですけれども,我々としては,その前の段落までのところで一応憲法上の問題はクリアしているのではないかとは考えているんですが,財産権の全部又は一部を奪われる側から見て,訴訟によらずに権利が奪われることに問題はないのかという御指摘もございましたので,その旨の記載をしたということでございます。もっとも,その点は,現在の判例からすると,裁判公開の問題ではなくて,正に財産権の制約として,そういったものが認められるかどうかという限度で問題になるにすぎないのではないかというのが,こちらの理解でございます。
  それから,遺留分権利者の地位については,確かに財産分与並びで考えれば,同じようにするということなんだろうと思いますが,元々,遺留分減殺請求に物権的効力が認めているところを弱めるというところがございますので,遺留分の権利性を弱める場合に破産債権とするというところまでいってしまっていいのか,あるいはもう少し中間的なところを探るのかというところで,出発点が現行法にあるものですから,やはり財産分与以上により問題になるのかなという認識です。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  遺留分権利者の地位を何らかの形で保護するための方策は簡単ではないように思いますが,その方向でいくのならば,更に検討するということが必要かと思いますので,準備をしていただきたいと思います。
  そのほかいかがでございましょうか。
○水野(紀)委員 私も現状がいいとは思っておりません。本来,遺留分の減殺請求は遺産分割と一体的に考えられなくてはならないものですし,そもそも具体的相続分がはっきりしないと,遺留分の計算というのもできないはずです。それなのに,具体的相続分は家裁で,そして遺留分は地裁で行われる現状はおかしいと思っておりました。
  そして,訴訟と審判を使い分けなければいけないことになりますと,当事者の負担は非常に大きいですし,全体の手続としても整合的なものではありません。つまり,遺産分割との一体性というのは,非常に乙案に魅力を感じるのですが,ただ,同時に,不安を覚えます。日本の家庭裁判所の手続は,法をまんべんなく適用することによって解決する司法裁判所としては,かなり特殊な性格をもちます。家庭裁判所では,,まず調停で当事者間で話し合い,互譲が推奨されて,緩やかに解決をすることが追求されます。合意さえ成立すれば,財産分与でも遺産分割でも法の定めた基準と全く違う結論でも合法的な結論となりますし,合意がどうしても成立しないときだけ,後見的に裁判所が判断をすることになります。そのようなイメージのある裁判所ゆえに,また権利の存否判断をしてよいのかという憲法問題が出てくるのでしょう。そういう遺産分割手続の中に入れ込んでしまうと,やはり権利性が弱まってしまう気がしてなりません。
  遺留分減殺請求権というのは今まで,このカードを切ると,管轄は地裁に移ってしまいますが,同時に非常に強力なオールマイティーカードとして権利性が認められてきました。遺産分割との一体性の中で扱ったとしても,実質的には従来通り権利性が強いものとして計算されるという保障があるのであればよいと思うのです。
  現状の家庭裁判所と地方裁判所の分断は問題が多く,様々な御意見が出ましたように,分断という前提で,本来は全部まとめて行われるべき手続がばらばらになっている,要がなくなった扇のような形の相続手続です。それを今まで苦労して運用してこられた実務の,あちこちとの衝突はあると思うのですけれども,でも,何とか一体的に,かつ権利性を弱めないという形で制度設計ができればいいなと思っております。
  それでは具体的にどうすればいいのかという案が,提案できればいいのですが,申し訳ありません,まだ詰めて考えておりません。乙案までいってしまったときに一遍に権利性が弱くなりすぎるような危惧がありますが,甲案であったときに,その一体性をどういう形で担保できる制度設計ができるのか,具体的にこうすればそれが可能だというアイデアまでは言えないのですけれども,権利性を弱めない形で,かつ一体性を担保できるような制度設計がいいなと思っております。すみません,感想めいたことで,お許しください。
○大村部会長 ありがとうございました。御意見として伺って,御検討いただきたいと思います。
  そのほかにいかがでございましょうか。
○西幹事 すみません。自分の専門分野であるにもかかわらず,先ほどから初心者的な質問ばかりで恐縮ですけれども,2点教えていただきたいと思います。
  1点目は,話を蒸し返すようで大変恐縮ですけれども,現在,乙の現物減殺が原則ではありますが,一定の場合には被減殺者の選択によって価額弁償も認められています。それでは駄目だと,足りないという理由がどこにあるのかが,今一つ私にはよく分かりません。
  遺留分権利者の側からの選択権は認めないという裁判例がありますので,それを修正するというのはもしかしたらあり得るのかもしれませんけれども,現行法を大きく変えて,遺留分権利者の権利を弱めて,なおそのような改正をするだけの現行法の不備があるのかというのを教えていただきたいのが1点目です。
  2点目は,非常に細かい話ですけれども,4ページ目の3の(1)「甲案の課題について」のところです。アの「現物返還を認める範囲」のところで関係するのかもしれませんけれども,下から6行目のところに「恣意的な選択」という言葉がありますが,現行法では一部価額弁償が認められています。つまり,現物返還が原則だけれども,任意のものについては価額弁償するということで,遺産の一部つまみ食い的独占というような表現が使われることもあります。今回,甲案のようにした場合,一部現物返還という,今の逆のようなことを認めるおつもりなのか,その2点教えていただきたいと思います。
○堂薗幹事 まず,現行法の規律のうち,原則として物権的効力が生じ,例外的に価額弁償で対応するという点を見直す必要があるのかという点につきましては,価額弁償でやればいいではないかというのは一つあるんですけれども,ただ,現実問題として,遺留分減殺請求権が行使されますと,基本的には共有状態が生じてしまうと。しかも,現行の計算方法によりますと,共有持分の割合も,何といいますか,非常に大きな数字になって,当事者もどういった持分割合になるのか,およそ予測がつかないような取扱いになっているのではないかと思います。
  そして,そういった点が,事業承継の障害となっていることはやはり否定はできないのではないかという点もございますし,また,当然に物権的効力が生じると,そこで基本的には終わりというのが現行法の建前だと思いますので,そういった意味では,後に共有物分割までしないと,最終的には紛争は解決しないという面があるのではないかと思います。
  他方,現行の遺留分制度の趣旨からいって,物権的効力まで認めないとその趣旨が貫徹できないのかという観点から見た場合に,基本的には一定の価値,特に金銭であれば,その金銭債権を取得させて,それが満足できるのであれば,それで十分ではないかというところがございまして,こちらとしてはこのような考え方を提示させていただいたというところでございます。
  それから,一部現物返還のようなものが認められるかどうかというところでございますが,甲案の②のところで書いておりますのは,基本的には受遺者側で財産を選べるわけですけれども,その財産,要するに現物返還をする財産が遺留分侵害額に満たないと,要するに請求額に満たないというような場合には,その差額分についてはなお金銭債権として認められるという前提でございますので,そういった意味では一部現物返還,一部金銭ということは想定しております。
○大村部会長 よろしいですか。
  そのほかに御発言ありますでしょうか。
○八木委員 甲案,乙案の趣旨は大体理解できたんですけれども,その前提となる,ではなぜ見直しをしなければならないのかということについてでありますが,1ページから2ページ目に書かれている,まず1ページの下の(2)の「遺留分制度の趣旨・目的が妥当する場面が減少していること」と,こうあるんですけれども,これはそもそもの趣旨に当てはまらない社会的な状況になっているということから考えると,遺留分制度の趣旨・目的の見直しという,そこになりますよね。
  それから,2ページ目の(3)の「具体的な貢献が考慮されないこと」というここの部分が,甲案,乙案のところにどういうふうに反映されているのかがさっぱり分からないんですね。むしろ,これは要らないのではないのかなと。(4),(5)は十分甲案,乙案の中に反映されていると思うんですけれども,(3)とさっき申しました(2),この辺りの記述が余り全体として整合しないと,ずっと話を聞いてきて思いましたので申し上げました。
○堂薗幹事 その点につきましては,まず(2)のところは,第2のところで問題にしているというよりは,第3の1ですとか,そちらの方で問題にしております。といいますのは,現在の状況からすると,子については相続開始時点でそれなりの年齢になっていて,生活保障の必要性は昔よりは低くなっているのではないかということがあり,他方,配偶者については,現行の遺留分制度ですと,離婚の場合に取得できる実質的な持分についても取得できない場合もあるので,その辺りについて見直しをする必要がないかという点が問題となり得るように思いますが,その点については,第3の1のところで取り上げております。
  それから,(3)の具体的な貢献につきましては,寄与分を遺留分制度においても認めるかどうかというところで取り上げております。この点については余り明確には書いていないのですけれども,12ページのウのところで,Ⅱのような制度を採った場合には,具体的相続分の算定の仕方と遺留分の算定の仕方が基本的に同じになりますので,こういった制度を採れば寄与分についても考慮することができるようになるのではないかと思います。
  そういった意味では,御指摘のとおり,第2のところではその辺りについては余り考慮されていないということだろうと思います。
○大村部会長 第1のところは全体についての総論という位置付けになっているという御説明があったと思いますが。
○渡辺関係官 1点補足なんですけれども,乙案を採用いたしますと,遺留分を家庭裁判所で処理をするということになりますので,遺留分の中でも寄与分を考慮することがより可能になるという方向性はあるのではないかと思っております。
○大村部会長 今,お答えを頂きましたが,もう一つ,八木委員の御質問の中で1の(2)の制度趣旨の議論を根本的にやる必要があるのではないかというお話がありました。先ほどの米村委員の御発言も同様の趣旨だったかもしれません。ただ,遺留分に限りませんけれども,親族相続法上の諸制度については,制度が変遷してきているわけですが,それについて様々な説明が与えられてきて,制度の変遷の中で説明の重点も変わってきているということだろうと思います。民法の場合には,ある明確な政策目的があって,それを実現するために立法がされているということでは必ずしもないので,今回,何らかの立法することによって,今後の制度趣旨の理解は少しずつ動かしていくことになる。そんな位置付けではないかと思っております。
○増田委員 これは本当に思い付きで,あるいは何らかの欠陥があるのかもしれませんが,乙案の憲法適合性や既判力の不存在などの弱点をカバーするという意味で,乙案のバリエーションとして,乙案プラス形成訴訟という考え方も,これから検討する上での選択肢としてあり得るのかなと思いましたので,一言述べさせていただきます。
  ただ,やはり第三者が受贈者である場合にはどうかという疑問は残っていますので,私としては余り推すつもりはないんですが,乙案の弱点を若干なりともカバーできるという案として考えられるのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  乙案でいきたいが,いろいろ問題があるという御指摘が複数出ておりますけれども,乙案でやりつつ,何か突破口があるのかどうかということについては,更にもう少し検討していただくということかと思います。
  よろしいでしょうか。
  よろしければ,次の項目に進ませていただきたいと存じます。
  「第3 遺留分の範囲等についての見直し」というところの御説明をお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,6ページの最終行から始まります「第3 遺留分の範囲等についての見直し」から御説明をさせていただきます。
  ここでは,現行制度の枠組み自体を見直す考え方,それから現行制度の基本的枠組みは維持しつつ,遺留分の算定方法等を一部見直し,共同相続にも配慮したものとする考え方の二つの方向性から検討を加えております。
  まず,1つ目の「1 現行制度の枠組み自体を見直す考え方」でございます。
  ここでは,①として,配偶者は,遺留分として,実質的夫婦共有財産,これは遺留分算定の基礎となる財産のうち被相続人の固有財産を除いたものでございますが,これの2分の1に相当する額を受ける。②といたしまして,子は,遺留分として,被相続人の固有財産の2分の1に相当する額を受ける,という考え方を掲げさせていただいております。
  この案の「基本的な考え方」でございますが,この方策は,前回御議論いただいたところと共通いたしますけれども,遺留分算定の基礎となる財産を実質的夫婦共有財産と被相続人の固有財産とに分けた上で,その財産の属性に応じて遺留分の範囲を決めることとするというものでございます。すなわち,実質的夫婦共有財産につきましては,その形成又は維持について,配偶者に相応の貢献があるのが通常であること等を考慮して,配偶者にその一定割合について遺留分を認めることとし,他方,被相続人の固有財産については,配偶者の貢献とは無関係に形成された財産であること等を考慮して,被相続人と血縁関係にある子及び直系尊属に遺留分を認めることとするものでございます。
  そして,配偶者の遺留分については,実質的夫婦共有財産における通常の貢献分を確保させるという趣旨で,子と相続する場合にはその2分の1を遺留分としております。
  このような考え方を前提といたしますと,実質的夫婦共有財産の残余部分というのは,名実共に被相続人に帰属すべき財産ということになりますので,この部分につきましては被相続人が自由に処分することができるということになります。
  なお,この方策は,配偶者の貢献をできる限り実質的に考慮するということをその目的の一つとしておりますので,実質的夫婦共有財産という概念を用いております。したがいまして,先ほど少し申し上げましたけれども,前回御議論いただいた部会資料3に記載されている配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現のために考えられる方策,これのいずれかを採用する場合には,ここで挙げた方策,あるいはそれに類するものを採用することが自然なのではないかと考えておるところでございます。
  次に,この考え方の「検討課題」でございますけれども,おおむね前回の御議論と重複するところが多いかと思いますので,ごく簡単に御説明させていただきます。
  まず,「紛争の複雑困難化」というところでございます。
  この案を採用する場合には,他の共同相続人,受遺者又は受贈者との関係で,実質的夫婦共有財産と固有財産のいずれであるかをめぐって争われるということになりますので,紛争が複雑困難化するおそれがございます。
  次に,「相続債務の取扱い」でございますが,現行法では,遺留分は被相続人が相続開始の時において有していた財産の価額にその贈与した財産の額を加えた額,そこから相続債務の全額を控除して算定するということとされております。ですので,この案においても同じように考えるというのであれば,相続債務についても実質的夫婦共同債務と固有債務の2類型に分類する必要があるということになるため,そのいずれに該当するかという点をめぐって,更に紛争は複雑困難化するということになると思われます。そういたしますと,この考え方を採用する場合には,紛争の複雑困難化を軽減するという観点から,相続債務の取扱いを現行法と同じにする必要があるかどうかといった点を含めて検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。
  引き続きまして,8ページの「2 遺留分の算定方法等を見直すとともに,受遺者又は受贈者が相続人である場合の特則を設ける考え方」でございます。
  ここでは,遺留分の算定方法について2種類の方法を提示しております。まず,「Ⅰ 遺留分の算定方法等の見直し」のところを御覧ください。
  ①は,遺留分侵害額は,次の㋐から㋒までの計算によって算出された額とするものということでございます。
  ㋐で「遺留分算定の基礎となる財産」を算定するわけでございますが,ここでは,被相続人が相続開始時に有していた財産の価額,これに相続開始前1年間にされた贈与の目的財産の価額,これを足しまして,最後に相続債務の額を控除することとしております。ここで,現行法との違いを申し上げますと,贈与等から相続開始時までの期間が1年を超えるものにつきましては,遺留分算定の基礎となる財産には含めないという点にまず違いがございます。それから,民法1030条後段に相当する規律,すなわち,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与については,1年前よりも前のものであっても遺留分算定の基礎とするという規定は設けないというところに違いがございます。
  次に,㋑の「遺留分額」でございますが,ここでは㋐で算定した額に個別的遺留分の割合,例えば配偶者ということでございましたら,遺留分率の2分の1と法定相続分の2分の1を掛けた4分の1ということになりますが,これを掛けるということになります。ここにつきましては現行法と変更はございません。
  そして,㋒の「遺留分侵害額」の算定ですけれども,ここでは㋑で算定された額から遺留分権利者が被相続人から取得した財産が別にあればそれを引き,さらにその後に遺留分権利者が相続債務から負担する額,これを加算するということによって算定しております。この点につきましても現行の判例法理等から認められている考え方と同様の規律ということになってございます。
  次に,考え方の②のところでございます。減殺の順序に関するものでございますが,「受遺者又は受贈者は,遺留分権利者に対し,その受けた遺贈又は贈与の価額の割合に応じて①の遺留分侵害額について責任を負う。」ということにいたしております。この点については,現行法では,受遺者又は受贈者が複数いる場合の順序に関する規律がございますが,②はそのような順序は設けないということにしたというものでございます。
  次に,2種類目の算定方法でございますが,9ページの「Ⅱ 受遺者又は受贈者が相続人である場合の特則」,ここを御覧ください。
  ③は,遺留分権利者は,他の相続人に対して主張することができる遺留分侵害額,この計算方法を定めるものでございます。
  まず,これまでと同様に,㋐のところで「遺留分算定の基礎となる財産の額」を算定いたしますが,この案では,「遺産分割におけるみなし相続財産の額」と同じとするというものでございます。具体的には,被相続人が相続開始時に有していた財産,ただし,第三者に対して遺贈した部分,これは除きます。それに特別受益の価額,これを足すということにしております。現行法とどこが違うかということでございますが,一つ目は,遺留分の算定において相続債務を引いたり,後から足したりということはしないというところでございます。それから,二つ目は,第三者に対する遺贈又は贈与の目的財産,これは遺留分算定の基礎となる財産に含めないというところに違いがございます。
  次に,㋑の「遺留分額」でございますが,ここでは,㋐で算定した額に個別的遺留分の割合を掛けるというところですが,この点につきましては,現行法やⅠの方法と同じということでございます。
  そして,㋒の「遺留分侵害額の算定」ですが,ここでは,㋑で算定された金額から遺留分権利者が被相続人から取得した財産がほかにあればそれを引くということにいたしております。この点につきましては,最後に「遺留分権利者の相続債務負担額」,これを加算しないというところが,現行法あるいはⅠの方法と違うというところでございます。
  次に,④ですけれども,「他の相続人は,遺留分権利者に対し,各自が受けた遺贈又は贈与の額から法定相続分に相当する額を控除した額(法定相続分超過額)の割合に応じて③の遺留分侵害額について責任を負う。」ということにいたしております。現行法では,受遺者又は受贈者が複数いる場合の順序に関する規律は,先ほど申し上げたとおり規律があるわけですけれども,④につきましてはそのような順位は特に設けないということにいたしております。
  また,後で少し触れますけれども,相続人である受遺者又は受贈者が負う責任の範囲を計算する場合には,現行法下の判例では,減殺される側の遺留分を確保するために,遺留分超過額というものを考慮しているのに対し,ここでは相続分超過額というものを考慮するということとしております。
  以上がⅠとⅡの内容の御説明です。
  次に,9ページの(2)の「基本的な考え方」でございますが,この案は,受遺者又は受贈者が第三者である場合と相続人である場合とでは,問題状況がかなり異なるのではないかとの問題意識に基づきまして,遺留分の算定方法等を一部見直すとともに,受遺者又は受贈者が相続人である場合についての特則を設け,遺産分割における具体的相続分の算定方法に倣った計算式により,遺留分額等を算定しようというものでございます。
  現行法におきましては,相続債務の全額を控除した上で,最後に自己が負担する分を加算するということとしておるわけですけれども,それはどうしてかというと,遺留分権利者が被相続人から承継した相続債務を弁済した後にも遺留分権利者に一定の財産が残るようにする趣旨だというふうに言われております。
  このように,相続債務の弁済後も遺留分権利者に一定の財産を確保させることが許容されているのは,積極財産が消極財産を上回っている場合に限られるでしょうから,遺留分制度は基本的には純資産が存在する場合に機能するものとして設定された制度であると考えられます。
  そして,その資産超過という概念は,特定の一時点における財産状態,これを示すものでございまして,遺留分制度において問題とすべきは相続開始時の財産状態であると考えられることから,遺留分算定の基礎となる積極財産も消極財産と同様,本来は相続開始時の財産に限られるはずですけれども,積極財産を相続開始時の財産に限定してしまうと,遺留分制度の潜脱が容易となってしまうため,相続開始時に近接する時点でされた贈与等については相続開始時の財産とみなして,遺留分算定の基礎となる財産に含めるということにしたのではないかと考えられるところでございます。
  しかし,相続人に対する特別受益につきましては,判例上,相続開始の何十年も前のものであっても,遺留分算定の基礎となる財産に含まれ得ることとされております。随分前の特別受益の額が積極財産に加算される結果,相続開始時には明らかな債務超過の状態であった場合であっても,遺留分算定の基礎となる財産の算定においては,逆に資産超過の状態が生じることとなります。そういたしますと,相続開始時に債務超過の状態であるにもかかわらず,遺留分権利者は被相続人から承継した相続債務を弁済した後にも,同人の手元に一定の財産が残る事態が生ずることになりますが,これは遺留分制度の趣旨とは整合しないようにも思われるところでございます。
  また,受遺者又は受贈者としては,遺贈又は贈与を受けた当時の被相続人の財産状況によって,その効力の一部が覆滅されることになってもやむを得ない面があるとしても,その当時の財産状況とはおよそ無関係の事情によって減殺される財産の範囲が大きく変動し得るというのは,遺贈又は贈与の無償性を考慮いたしましても,その合理性にはなお疑問があるとも思われるところでございます。
  もっとも,判例が先ほどのように解釈している理由はどういうところにあるかというと,このような解釈を採らないと,各相続人が被相続人から受け取った財産の額に極めて大きな格差がある場合に,特別受益の時期如何によってはこれを是正することができなくなる,こういった点を考慮したものであると考えられます。
  そこで,これらの点を踏まえまして,今回の案におきましては,遺留分権利者に純資産の一定割合に相当する額を確保させるという要請,それから相続人間の不平等を是正するという要請という二つの要請を,別の制度で実現しようと考えているものでございます。すなわち,遺留分権利者に純資産の一定割合に相当する財産を確保させるという要請につきましてはⅠの制度により,相続人間の不平等を是正するという要請につきましてはⅡの制度により,それぞれ実現を図ろうと考えているものでございます。
  また,Ⅱの制度につきましては,「遺留分算定の基礎となる財産」の範囲を「遺産分割における具体的相続分算定の基礎となる財産」の範囲と一致させておりますので,遺留分に関する事件と遺産分割に関する事件の一回的解決を可能とすることも意図しているところでございます。
  なお,Ⅰの②でございますが,ここでは,受遺者又は受贈者が負担する責任に順位を設けないということにしておりますが,相続開始前1年間にされた贈与というのは,被相続人においても遺産の前渡しの趣旨で行う場合が多いものと考えられ,その時間的な先後関係によってその効果に極めて大きな差異を生じさせるということが公平と言えるだろうかという疑問もあること,対象贈与をこの期間にされたものに限定すれば,受贈者の法的地位の不安定もそれほど問題にならないと考えられることなどを考慮したものでございます。
  同様に,被相続人が各相続人に対して複数にわたって特別受益となる贈与をした場合につきましても,被相続人においては,その時間的な先後関係によって法的効果に差異が生ずるとの認識がない場合が多いと考えられること,あるいは遺産分割における特別受益については,時間的な先後関係によってその効果に差異は設けられていないことなどを考慮して,Ⅱの④の部分におきましても,受贈者又は受遺者が負担する責任に順位を設けないということにいたしております。
  以上が基本的な考え方の御説明でございます。
  次に,11ページの(3)の「検討課題」でございますが,まず,「受遺者又は受贈者が相続人である場合の両制度の関係について」問題となると考えられます。
  受遺者又は受贈者が第三者である場合につきましては,Ⅰの制度のみが適用されることになりますが,受遺者又は受贈者が相続人である場合には,いずれの制度も対象となりますので,両者の関係をどのように規律するのかというところが問題になります。この点につきましては,両制度の職分管轄をどの裁判所にするのか,訴訟手続及び家事事件のいずれにおいて取り扱うこととするのかといった点にも関連するところかと思われます。
  両制度を同じ手続で取り扱うこととする場合には,これを同一の訴訟物と見た上で,そのいずれか多い額を請求することができるということも考えられますが,別の手続で取り扱うという場合には,両請求の優先関係等を明確にしておく必要があり,その場合には,例えば,遺留分権利者は,相続人に対しては,Ⅱの制度ではⅠの遺留分額を確保することができない場合に限り,Ⅰの制度によってその差額を請求することができるといったことなどが考えられるところでございます。
  なお,単純にⅠの制度は第三者である場合を,Ⅱの制度は相続人である場合をそれぞれ規律することができるというのであれば極めて明確でございますし,複雑な法律関係が生じないとも考えられます。しかし,Ⅱの制度ですと債務を考慮しないということとしておりますので,遺留分権利者が法定相続分の割合によって負担する債務の額が遺留分額を上回るという事態が生じることになってしまいます。したがって,そのような明確な整理は難しいのではないかと考えまして,Ⅰの制度につきましては第三者の場合だけではなく,相続人の場合にも適用対象というふうにしているところでございます。
  続きまして,12ページの「特別受益となる贈与を受けた相続人の地位について」でございます。
  特別受益は,遺産分割におきましては,飽くまでも具体的相続分の算定の際に考慮されるにすぎず,実際に返還しなければいけないという事態は生じません。
  また,現行の遺留分制度につきましては,新しいものから減殺するということになりますので,例えば何十年前もの特別受益については,これが減殺されるという事態は通常では考えにくいかと思われます。
  これに対して,Ⅱの制度を採用いたしますと,特別受益となる贈与を受けた相続人に一定の範囲でその価値の返還を求めるということになりますため,その法的地位が不安定になるということも考えられるところでございます。
  このため,Ⅱの制度におきましては,家事事件で処理することとした上で,分割払等を認めることができるようにしたり,あるいは遺留分算定の基礎となる特別受益についても,時期的な限定を付すことなどが考えられるところでございます。
  引き続きまして,「遺産分割との一回的解決及び寄与分との関係」でございますが,Ⅱの制度における遺留分算定の基礎となる財産は,遺産分割における具体的相続分の算定の基礎となる財産と同じということにしてございますので,これを家事事件として扱うこととすれば,遺産分割の一回的解決が可能になるものと考えられます。もっとも,この場合の処理の方法につきましては,現行法の実務処理等を踏まえて,更に検討する必要があるのではないかと思われます。
  また,Ⅱの制度は,基本的には相続人間の不平等を一定の限度で是正するものでございますが,遺贈や贈与によって被相続人から多額の財産を受け取った者は,現にその財産の形成又は維持に相応の貢献をしているという場合も多いと考えられますことから,Ⅱの制度に関する事件を家事事件で扱うことにする場合には,遺留分算定においても寄与分を考慮することができるようにすることなども考えられるのではないかと思われます。
  最後に,「遺留分の算定方法の明確化」についてでございます。
  現行の遺留分制度におきましては,遺言によって遺留分が侵害される場合であっても,被相続人の財産の一部について帰属が定められていない場合や,相続分の指定によって遺留分が侵害されている場合など,遺留分に関する事件処理とは別に,遺産分割をする必要がある場合が生じ得ますが,このような場合に遺留分侵害額をどのように計算するのかにつきましては,学説上も争いがあるところでございますし,最高裁の確立した判例もないという状況でございます。
  また,先ほど申し上げましたとおり,判例によれば,遺贈の減殺割合について定める民法第1034条の「目的の価額」の算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額を超える部分のみがこれに当たるというふうな解釈がされておるところでございます。
  もっとも,現行法上このような解釈が採られているのは,遺贈は贈与よりも先に減殺されていることとされているため,自己の遺留分額を超える額の遺贈を受けた相続人が減殺請求を受けることにより,逆に,その相続人の遺留分が侵害される事態が生じ得ることを理由とするというものでございますが,減殺に関する順序に関する規律を見直し,受遺者又は受贈者が負担する責任について順位を設けないこととする場合には,この判例の規律につきましても,併せてその見直しを検討する必要があると言えるのではないかと思われます。
  この案の②及び④は,このような観点から,先ほど申し上げた判例が採用する遺留分超過額説,これを見直すというものでございます。
  このように,遺留分の算定方法についての見直しをする場合におきましては,現行制度においてその解釈が明確でない部分について,立法的な解決を図るということも含めて検討を行う必要があると考えられるところでございます。
  第3の説明は以上でございます。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第3の中は幾つかに分かれておりまして,御意見を伺いたいんですけれども,その前に,多分御質問を寄せていただくということになろうかと思います。相当数の御質問が出るのではないかと思いますので,中途半端なんですけれども,御説明を頂いたという,ここで休憩をさせていただきまして,再開の後に御質問を頂き,問題を分けて御意見を頂くということにさせていただきたいと思います。
  3時45分まで休憩させていただきます。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,再開をさせていただきたいと思います。
  第3の「遺留分の範囲等についての見直し」について事務当局から説明をしていただいところでございますけれども,この部分は7ページの1の「現行制度の枠組み自体を見直す考え方」という部分と2の遺留分の算定方法等を見直すとともに,相続人について別扱いのルールを設けるという部分の二つの部分からなっております。後で順次御意見を伺いたいと思いますけれども,それに先立ちまして,特に2の部分は,かなり込み入った計算になっておりまして,直ちには理解が難しいところもあろうかと思います。そこで,この点に限りませんけれども,御質問等をまず頂いて,それについてお答えをしてから御意見を伺いたいと思います。どうぞ,御質問等ございましたら。
○窪田委員 少し実質的な判断に関わる部分ということで教えていただきたいのですが,Ⅰ,Ⅱでもそうなのかなと思いますが,Ⅰの方で見たときに,8ページの受遺者又は受贈者間の関係ということで,②のⅲで「受遺者又は受贈者が負担する責任について順位を設けない。」というふうに書かれています。考え方としては,御説明があったとおり,非相続分の死亡の前の1年以内ということであれば,相続の前渡しというニュアンスなんだろうということではあったのですが,誰もかれもがみんな,自分がいつ死ぬかということを分かりつつ生前贈与しているわけではなく,遺産の前渡しのつもりであったけれど,その後も延々と生きているということは幾らでもあるのだろうと思います。
  この部分に関してよく分からなかったのは,一方でこの提案では,1年以上も前のものは全て切るという形になっています。それはそれで十分にあり得る制度だし,例外も設けないというのも分かりやすいということだとは思うのですが,それについては,相続時と離れた贈与に関しては,正しく生前の処分なんだからそれを尊重するといった考え方など,いろいろな説明の仕方があると思います。それとの関連で見たときに,生前の贈与であっても1年前のものは遺贈と同じに扱うというふうな仕組みは,本当に十分に整合的に説明できるのかなというのは,ちょっと気になります。つまり,やはり遺贈であるとか,死後に法律効果が生じるものに関しては,死後の財産処分という意味では,やはり特殊なものなのではないかという気がするからです。それに対して,処分してからすぐに死んでしまったとしても,やはり生前贈与というのは自己の財産管理権の一部として,本来の財産権の実現なのだと考えることができ,何かかなり性格が違うのかなという気もします。ですから,その点について少し補足的な御説明を頂けたらと思います。
○堂薗幹事 資料では,遺贈や生前贈与も含めて,順位を設けないということにしておりますが,御指摘のように,少なくとも遺贈と生前贈与だけは順位を付けるという考え方も十分にあり得ると思います。資料でこういう考え方を取り上げた理由の一つとしましては,例えば,被相続人において,遺産の一部について生前贈与をし,残りの財産は全て特定の人に遺贈するという遺言をすることもあるかと思いますけれども,そういった場合に,被相続人の意思としては,受遺者にできるだけ多くの財産を残してあげたいという意図がある場合も多いのではないかと思います。そういった場合に,遺贈が先に減殺されるということになりますと,結果的には遺贈が全て減殺されて,生前贈与を受けていた方は減殺を受けないという事態も生じるように思いますので,そういったことも踏まえて,資料では,遺贈や生前贈与を含めて同順位にするという考え方を取り上げておりますが,そこはいろいろな考え方があるのではないかと思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
  ほかにいかがでしょうか。
○沖野委員 ありがとうございます。1030条後段に相当する規律を設けないという,この趣旨が十分説明されていないような気がしたものですから,その点を補足していただけないでしょうか。
○堂薗幹事 資料では十分に説明できていないんですけれども,基本的には,現行の1030条後段というのは,両当事者が遺留分侵害について悪意である場合ですけれども,判例の考え方を前提としますと,両方が悪意という事態は,実際上はなかなか生じにくい,将来的に財産関係がどうなるかというところの予測も含めて,悪意と言える場合でないといけないということだと思いますので,両方が悪意という事態は生じにくいというところがあるのに対しまして,実際にこの規定があることによって,贈与を受けた側の法的地位は,かなり不安定になる面があるのではないかと。すなわち,これが完全に1年で切れるということになれば,贈与を受けてから1年経てば,目的財産を取り戻されることはないわけですけれども,結局,あの規定があるために死亡するまで,例えば遺贈の2年後に遺言者が死亡したという場合でも,その後に,遺留分減殺請求がされる可能性もありますし,また,遺留分減殺請求の行使期間もそこから更に1年,それもその1年というのも主観的要件が入っていますので,必ずしも1年経てばもう行使されないというわけではないので,そういった意味で,かなり法的に不安定な地位に置かれるということがあって,特に事業承継で贈与を受けたというような場合については,その財産の処分などについて萎縮的効果が生じることもあるのではないかという辺りを考慮したものです。
  それから,今回の提案ですと,相続人については,1年を超える贈与についてもⅡの方で考慮するということになっておりますが,現行法の場合は,1年を超える贈与があった場合には,基本的に1030条後段の要件で争わなくても,遺留分算定の基礎となる財産になりますので,そこで争う必要は全くないわけですが,このように,ⅠとⅡという形で分けますと,相続人にとってはⅠの方の対象になった方が有利になりますので,そういった意味で1年超の規定を残しますと,相続人はこのⅠのところでもその点を争い,そこで認められない場合に,Ⅱで更に請求をするということにもなって,更に紛争が複雑化するのではないかという辺りを考慮しまして,1030条後段に相当する規定は設けないという考え方を取り上げたところでございます。
○大村部会長 よろしいですか。
○沖野委員 はい。
○大村部会長 そのほかいかがですか。
○増田委員 ⅠとⅡなんですけれども,第三者と相続人がいずれも同じ遺言書の中で遺贈を受けている場合というのは普通にあるわけなんですが,その場合にはどちらが適用されるのかという質問です。
  ひょっとすると,遺留分額が異なるということもあり得るのか,同じ価額の遺贈を受けていても,一方は侵害していないが,一方は侵害しているという場合や,減殺の割合が異なる場合もあり得るわけですが,そういうことが前提の話なのかということをお伺いしたいと思います。
○堂薗幹事 この点については,基本的には受遺者又は受贈者が第三者の場合であろうと,相続人だけの場合であろうと,相続人と第三者の両方が含まれている場合であろうと,基本的には第三者についてはⅠの算定方式で計算した方法を請求することができることになります。相続人については,ⅠとⅡの制度をどのように仕組むかというところにもよるんですけれども,仮に同一の手続で請求するということにしますと,ⅠとⅡの算定方法で計算された額のいずれか多い額について請求することができることになります。
  したがいまして,Ⅰの方では遺留分侵害がないけれども,そういった場合でも相続人との関係ではⅡの制度で遺留分侵害が生じるということがあり得ることになります。
○大村部会長 よろしいですか,増田委員。
○増田委員 はい。
○大村部会長 そのほか御質問ありましたら伺いますが,いかがでしょうか。
○餘多分幹事 今のⅠとⅡの関係についてお伺いしたい。資料11ページを拝見すると,両制度を同一の手続で扱うというのは今,堂薗幹事がおっしゃったようなことなのかと思ったのですが,別の手続で取り扱う場合というのがよく分からず,その前の部分の記載を見ますと,職分管轄をどの裁判所にするかとか,訴訟手続は家事手続かというようなことが書いてありますので,別の手続というのは家事手続と訴訟手続ということを念頭に置かれているのではないかと思ったのですが,そうだとすると,「例えば」のところに書いてある,Ⅱの制度ではⅠの遺留分額を確保することができない場合に限ってⅠの制度で請求するというのは,例えば家事審判をまず申し立てた上で,そこで請求できない金額について訴訟手続で請求するというようなことを想定されているのでしょうか。
○堂薗幹事 そこはですね,必ずしもそういうふうには考えておりませんで,仮にここに書いてあるような制度にする場合,そもそもⅠとⅡを違う手続でやるというのは難しいとは思っているんですが,仮にそうすることとした場合に,Ⅰの制度から先に請求された場合には,Ⅱの制度で取得できる額は遺留分侵害額のところで控除するということを考えています。  要するに,受遺者等が相続人である場合には,Ⅱの制度で十分に保障されない場合だけⅠの制度で更に請求できるということですが,Ⅱの制度で請求できる額というのは計算上はっきりしますから,その額については,まだその手続を踏んでいない段階でも控除することとして,更に余りがある場合だけ請求を認容するというようなことを考えております。
○大村部会長 論理的にはⅡが先行するけれども,手続的にはⅠが先でもいいという,そういうことですかね。
○堂薗幹事 ええ,そういうことになります。
○水野(有)委員 関連してなんですけれども,東京地裁の水野でございますが,Ⅱの制度が家裁で,Ⅰの制度が地裁に分かれることが一般的には多いのかな─分けた場合ですね。そうなると,Ⅱの制度において,例えば寄与分とかですね。あと,ちょっと入れるかどうかについては,もちろん疑義が,いろいろな御意見もあるので,入れると決まっているわけではないのですが,夫婦の実質共有財産とか,そういう形成的なものだといいますと,なかなか計算上出るとも限らない制度設計なのかなと思ってもみたりして。
  そうなると,前もって控除するというのが果たしてできるのかと。結局,前もって控除するにしても,Ⅰをやった後,結局Ⅱをしなければいけないという御趣旨でしょうかという質問に関してはいかがでしょうか。
○堂薗幹事 Ⅱの制度で寄与分まで考慮するということだと,それは御指摘のとおりだと思います。ですから,そういう場合には制度として成り立たないのではないかと思います。ここに書いてあるものは,基本的にはⅡの方からいって,Ⅱで取れない場合にⅠで取るということを一応想定はしているんですが,先にⅠからいくことも否定はしませんので,Ⅰの制度で請求をし,さらに,その後にⅡの制度で請求するということも否定はしない,禁止はしないということを考えております。
  ただ,先ほども申し上げましたように,このⅠとⅡを設ける場合も,別の手続でやるというのは非常に難しいだろうと思っており,基本的には,同一の手続の中でいずれか多い額を請求するという形でやるほかはないのではないかと思っております。
○大村部会長 今の件については,御意見はいろいろあろうかと思いますが,一応の御説明としてはよろしいでしょうか。
  そのほか御質問いかがですか。
○垣内幹事 遺留分の制度について全く素人で,完全に議論から取り残されている感があるんですけれども,この御提案のⅠとⅡという制度は,少なくとも素人目に見て,極めて複雑な制度のように見受けられるわけですけれども,現行法に代えてこの制度を導入する必要があると考える場合の,その現行法の下における問題点,弊害として,最も大きなものというのは,10ページの第3段落というんでしょうか,「しかし」というところの段落で書かれている問題,つまり判例上,相続人に対する特別受益については時期の制限がないということの結果として,何十年も相続開始の前にされた贈与があり,かつそれが非常に大きなものであって,その贈与がなければ資産超過であったようなところを,それがあったために債務超過になってですね,結果的に,相続開始時には債務超過であるような場合があり,そのときに,しかし,現行のやり方で計算をすると,遺留分権利者の方に何がしか積極財産が残る。その分については,遺留分減殺請求の相手方,受贈者たる相続人が負担をするということになり,しかし,それでも贈与はたくさん受けているということですから,それをプラス・マイナスすればプラスにはなるのでしょうけれども,しかし,公平の観点から見て,贈与を受けた相続人と遺留分を請求した相続人との関係が公平でないという事態を是正する必要があるので,このⅠとⅡという制度を設けたらどうかという御提案になっているということでしょうか。
  仮にそうだといたしますと,そういう事態というのは現在,かなり目に付く程度に出現していて,裁判所等でそれに苦慮しておられるという事情があるのかどうかという辺りについて,もしお分かりでしたら教えていただければと思います。
○堂薗幹事 現行法上,遺留分算定の基礎となる財産については,原則1年内の贈与に限ると,両方悪意のときは1年超のものも含まれるということで,規定上はそうなっているわけですが,判例で,特別受益についてはその例外で,原則としてどこまでも遡れるということなんですけれども,昭和22年の現行の遺留分制度を作ったときに,本当にそこまで考えていたんだろうかというのがそもそもの疑問としてあります。
  もう少し具体的に申し上げますと,例えば,今の規律を前提にしますと,相続開始の直近にされた生前贈与については,当然,債務超過であれば,詐害行為取消権の対象になるんだと思うんですけれども,そういった場合についても,要するに1年を超える特別受益がたくさんあることによって,遺留分の計算では純資産額があることになってしまい,相続債権者と遺留分権利者が生前贈与された財産について,言わば対抗関係のような形で相争うことになるのではないかと思います。しかし,基本的には,本来相続債権者の引当財産となるべき財産について,債務者の包括承継人との間で相争う関係になるというのは,財産法秩序の観点からいっても問題なのではないかというところがございまして,そういった意味で,特別受益を無限定に積極財産のところに加算するという扱い自体,問題なのではないかというのがまず出発点です。
  ですから,本来はⅠの制度だけで済ませるということであれば非常に明快なんですが,ただ,そうすると,判例が問題にしているような,相続人間でかなり取得額にアンバランスがあるような場合に,このⅠの制度だけでは是正ができませんので,それについて別途,Ⅱの制度で調整することを考えたというところでございます。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○垣内委員 はい。
○大村部会長 そのほかに御質問ございますでしょうか。
  では,後でまた質問していただいても結構でございますけれども,次に御意見を頂きたいと思います。
  資料は6ページから始まりますけれども,最初に,7ページの1の「現行制度の枠組み自体を見直す考え方」という部分について御意見を頂ければと思います。配偶者と子とで遺留分についての考え方を変えるという御提案ですが,これは前回検討した問題と関連しているわけですけれども,この部分についいての御意見をまず伺いたいと思います。いかがでございましょうか。
○浅田委員 従前,同様の意見を述べたことがありますので簡単に申し上げます。やはりこの枠組みを変える考え方というのは,実質的夫婦共有財産の概念を使っています。それ自体の当否というのは別として,やはり,実務的な問題としては,その区分けというのは非常に難しいのではないのかと思います。
  したがって,銀行のような取引相手方もそうですが,例えば,相続を考えられる個人にとっても,遺言をどうしようかとかというようなことを考える際に,非常に複雑な計算というのも求められるのではないのかなと思います。したがって,各々の社会コストが出てくるということを指摘したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  今,御指摘いただきましたように,これは前回に御議論いただいたところで出た問題がここに現れるということになりますので,先ほど事務当局からもお話しありましたけれども,前回の問題について,ある考え方をとるのであれば,こういった考え方が出てくるかもしれない,そういうことかと思います。
  今,実務上生じるであろうという困難について御指摘を頂きましたけれども,基本的な考え方についても,もし御意見があれば頂きたいと思います。どちらでも構いません。御意見を賜ればと思います。
○増田委員 これは,それでいいという考え方なのかもしれないんですけれども,ちょっとした違和感があるところとして,この案だと,子は,先祖代々の財産については遺留分があるんですけれども,親の作った財産には遺留分はないということになります。
  あと,親は無一文から夫婦で財産を形成していったという場合に,それを全部第三者に贈与ないし遺贈されたというケースを考えると,配偶者が減殺請求しない限り,子の方には全く来ないということになります。これも,それでいいという考え方もあるかもしれませんけれども,私はちょっと違和感があると思います。
  夫婦共有財産と固有財産の区別が問題であるということについては,前回も申し上げましたように,そのとおりだと思います。
  あと,この資料に書いてない点ですけれども,気になっているのは,直系尊属の遺留分は必要なんだろうかという疑問が前々からありましてですね。直系尊属というのは,本来,相続によって自分のところに財産が入ってくることを期待する利益はないはずなんですけれども,そこの方はちょっと手直ししていただいてもいいのかなとも思っています。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第1点は,このように分けてしまうということが,分けられるかどうかということとは別に,問題を含むのではないかということかと思います。第2点の,直系尊属について何かありますか。
○堂薗幹事 その点は全く検討はしておりませんので,御指摘を踏まえ,検討させていただきたいと思います。
○大村部会長 増田委員は,直系尊属を考え直した方がいいという方向の御意見ですか。
○増田委員 私は遺留分は不要ではないかと思っております。
○大村部会長 わかりました。ほかにいかがでございましょうか。
○石井幹事 前回も御議論があったところではございますけれども,やはり実質的夫婦共有財産と固有財産とを区別するというのは,実務上も難しいところかと思います。この後,御議論していただくように,遺留分侵害額の算定に当たっていろいろ複雑な計算なども控えておりますし,遺留分については債務も必ず考慮しなければならないということも考えますと,遺留分額の算定の段階から複雑な仕組みを取り入れてしまうと,全体として,紛争が非常に複雑困難化してしまうのではないかと懸念されるところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
○窪田委員 ただいまの部分に関連する部分なのですが,これは一般的に相続分を決定するという,前回までのテーマでも少し気になっていた部分なのですが,実質的夫婦共有財産と固有財産とを分けるという話と,債務に関して実質的夫婦共同債務と固有債務とを分けなければいけないのかどうかという話は,当然には関連しないのではないかなという気はいたします。
  不動産がある,その不動産を買うためのローンであるというのは,イメージとしては大変に分かりやすいのですが,常にほかの債務に関してそういうふうに実質的な関連性があるかどうかというと,必ずしもそうでないのではないか。債務に関しては,そもそも全然別の観点として債権者保護という視点が入ってきますので,分ける必要がないという考え方もあるのだろうと思います。これは相続分にも関連する部分なのですが,ここのところについて何か補足的な御説明というのがあったら,少し教えていただきたいという思いします。
○堂薗幹事 御指摘の点はこちらも考えてはいるんですが,まず現行の制度とパラレルに考えた場合に,少なくとも純資産額があるかどうかという点について,要するに実質的夫婦共有財産と実質的夫婦共同債務の多寡を見てプラスが多いと言えるかどうかという点はやはり見る必要性があるのではないかと考えており,他方,最終的に遺留分侵害額を計算する際に,配偶者が負担している債務分を加算する取扱いについては二つに分ける必要はないんだろうと思っております。ですから,最初の点について,債務を考慮しないで,実質的に公平が図れるような方策があればいいなとは思っているんですけれども,現時点では妙案がないという状況でございますので,何かいいお考えがあれば教えていただきたいと思っております。
○大村部会長 この問題については,皆さんの御感触からすると,前回の,元になる部分がどうなるかによる,あちらが突破できればまたこちらも考えられるのかもしれない,そういう御感触だと受け止めておりますけれども,ほかに何か御発言があれば伺いますが。
○西幹事 整理してお話しできるか分からないのですが,先ほどから全部改正案に反対ばかりしているような印象を与えるかもしれませんけれども,今回も少し気になる点がありまして。
  遺留分というのは,比較法的に見ると,相続財産あるいは相続分と何らかの関係があるというのが一般的な法制だと思います。例えば,フランスとか日本の場合には,相続財産の一部が総体的遺留分になって,それを法定相続人で分けるという形になっておりますし,遺留分の債権的構成を採っているドイツの場合には,法定相続分の2分の1が遺留分という扱いになっています。
  そのような中で,今回の御提案では,相続分あるいは相続財産と遺留分との関係が見えないように感じます。全く別物として考えるのであれば,例えば完全に扶養債権として考えるのであれば,それはそれであり得るのかもしれませんけれども,その関係が見えないのは珍しい法制というか,ちょっと違和感がありますので,その辺りをどういうふうにお考えなのか,教えていただければと思います。
○堂薗幹事 その点につきましては,前回やった配偶者の貢献に応じた遺産分割をどうするかというところと関わってくるんだろうと思います。現行法上,総体的遺留分をどう分けるかという点については,正に法定相続分で分けることとされているわけでございますが,ここで挙げている考え方は,前回取り上げた考え方と同じように,配偶者の実質的な貢献を考慮して総体的遺留分を分けるというのが基本にあります。そういった意味では,法定相続の方をそういうふうに変えるのであれば,それに関連して,総体的遺留分についてもそういう分け方をするということでございますので,法定相続の場合と遺留分とで全く違う考え方を採っているということではないのではないかというふうに理解しているところです。
○大村部会長 よろしいですか。
○西幹事 そうなりますと,遺留分の趣旨としても,先ほどの遺族の潜在的持分の清算というのが結構趣旨として効いてくるということになりますか。
○堂薗幹事 基本的にこの考え方は,特に①が大きなところで,要するに配偶者は実質的な持分,離婚であれば取れる分については,少なくとも遺留分として確保しましょうというのが基本的な考え方で,仮にこの考え方を採って,総体的遺留分を今と同じように変えないということにしますと,それは結果として子供の遺留分は固有財産の2分の1になってしまうというところがあって,②はそうしているということです。ただ,それについては,先ほど増田委員からも御指摘があったような問題はあるんだろうと思います。
  ですから,この考え方は,遺産の形成に対する貢献をかなり前面に押し出した考え方ということになるのではないかと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは,次の問題に進みたいと思います。
  8ページの2では,遺留分の算定方法等を見直すとともに,相続人間の場合については特則を設けるということで,ⅠとⅡというのが出ているというところでございますけれども,いかがでしょうか。
○窪田委員 先ほどから,計算方法に関してはかなり複雑になるという御指摘もあったのですが,ただ,私自身もⅠとⅡを,両方ともいわば並行的に用いるというような場面を考えると,確かにものすごく複雑になるなという気がするのですが,特に共同相続人間の問題に絞って考えると,実はこれはかなりシンプルな仕組みを提案しているのではないかという気もいたします。つまり,現行法ですと,共同相続人間であったとしても,遺産分割とは全く別の手続として処理をしなければいけないわけですが,これだと基本的には遺産分割の延長のような仕組みで,手続的にも処理することができるのではないかと思います。
  現在でも,私自身も正確には分かっていないのですが,遺留分減殺という場合でも,全て物権的な効果は直接出るというわけではなく,相続分の指定のような場合には,そもそも減殺の対象になるのかどうか自体の問題があり,私は肯定してよいと思いますが,減殺をするということを認めたとしても,結局,そこで決まったことを前提に遺産分割手続をせざるを得ないというような場面もあります。その意味では,こうした仕組みを導入するということは,一つの在り方としては考えられるのではないかと思います。
  ただ,その上で2点申し上げたいのですが,そうした場合に,果たしてⅠとⅡというのを本当に選択的に,場合によっては行使するという仕組みを考えていいのかどうかという問題が一つです。
  そして,あるいはその前提になる問題ということになるのかもしれませんが,こういうふうにⅠとⅡを分けて考えるという場合には,実は共同相続人間における遺留分というのは,固有の意味を持った問題として扱われるべきものなのではないか。仮にそうだとすると,無理にⅠとつなげる必要はないのではないかという点です。その意味では,共同相続人間の問題というのを別個の仕組みで考えるということになるのかもしれませんが,そこまで割り切って考えるという行き方があってもいいのではないかという気がします。
  なお,ちょっとだけ補足しますと,西先生のおっしゃったことに反論するつもりまったくはないのですが,私自身の教科書に書いてあるのはとおっしゃられたのですが,私自身は,それに続けて,この説明はあんまり説得力はないとも書いておりますので,そうした理由づけを肯定的に書いているわけではないのですが,共同相続人間の公平というのは,恐らく共同相続人間の問題ではすごく分かりやすい。でも,共同相続人間の公平については,具体的相続分も共同相続人間の公平という説明がされますよね。そうだとすると,共同相続人間における遺留分というのはその延長なのだという位置付けもできるのではないかと思いますし,そうだとすると,遺留分というのは,具体的相続分に対して,いわば共同相続人間における最少の相続分なのだという説明の仕方はあるのかなという気はいたします。
  あんまり話を大きくすると事務局の方でも大変なのだろうと思いますが,印象めいた意見ということになりますが,こうした考え方自体はあり得るのではないかと思います。
○堂薗幹事 御指摘いただいた点のうち,ⅠとⅡを必ずしも選択的にする必要はないのではないかという点なんですけれども,実は我々もそうしたいと考えているのですが,その場合に,相続人についてはⅠのような請求自体を認める必要がないということでいいのかどうか,その辺りについて,もし何かございましたら御意見をいただければと思います。
○窪田委員 もちろん,相続人ではない者に贈与がされている場合だったらⅠの問題になるわけですけれども,共同相続人間の贈与の問題であるとすると,Ⅱだけで対応するというのもあり得るのではないかなという気はします。そうすると,権利が弱まるという考え方はあるかもしれませんが,具体的相続分の延長としての最小限の相続分として確保される部分が実現されれば,この問題は共同相続人間の問題としては解消されたのだという説明はあり得るのでないかという気はいたします。
○堂薗幹事 分かりました。
  実は,我々も,基本的にはこのⅠの制度は第三者に対してする場合,Ⅱの方は共同相続人間の問題として位置付けられないかということで検討自体は始めたんですが,やはり一番気になっている点は,11ページの注のところで書いているんですけれども,Ⅱの制度というのは基本的に債務を考慮しませんので,相続開始時にプラス財産がある場合でも,Ⅱの制度だけでいくと,結局,相続人は持ち出しになってしまうというか,自分が払う弁済の額の方がもらう額よりも大きくなってしまうという事態がどうしても生じてしまうのではないかと。ここを何とか解決しないと,なかなかそういう形でうまく切り分けることはできないのではないかというところがございまして,我々としてもここを何とかうまく解決できないかというところは今後も検討していきたいと思いますし,何かこの点についてアイデアがありましたら是非教えていただきたいと思っております。
○窪田委員 すみません。それはもう1点質問したい点にも関係するのですが,Ⅱの考え方を採ると,どうして債務を度外視するのかという点については,一応説明はされているのですが,何か一読してもすっと入ってこない説明のように思います。共同相続人間のⅡの問題であったとしても,飽くまで債務を控除して,実質的に得られるものを確認してというやり方はあるのではないでしょうか。
○堂薗幹事 確かに,そういうやり方はあるのかなと思いますし,確かにそういうやり方を採れば,今,私が申し上げたような問題は生じないんだろうと思います。
  ここで,あえて債務を考慮しないとしているのは,正に遺産分割と一体的な処理をするためには,遺産分割の中ではそういう形で計算されておりませんので,具体的相続分は,債務を考慮せずに計算されていますので,そこと同じような計算方法を採ることによって,遺留分に関する事件と遺産分割に関する事件を一体的に処理したいということでございます。現行法上も,遺留分制度は法定相続分の半分を相続人に確保する制度だということが言われるわけですが,実際には計算方法が全く異なるためにそうはなっていないわけです。Ⅱの制度は,計算方法を合わせることによって,言わば本当に,遺産分割の中で法定相続分の半分は相続人に確保させましょうと,そういった状態を作るために,このⅡの制度を新たに設けたというイメージでおります。
○窪田委員 すみません,あともう1点だけで。
  なるほど具体的相続分のときには寄与分が考慮されるのに,遺留分では寄与分はカウントされないというのは,これはやはりおかしいのだろうなという気がします。整合性が問題になるのではないかと。ところが,具体的相続分のときには債務は考慮しないけれども,遺留分の方では実質的に承継できるものについて,最小限のものを得させるためのものなのだから,債務も計算に入れましょうというのは,別にそれほど変な仕組みではないのではないか,必ずしも不整合ではないのではないかという印象を持っていますが,見落としている問題もあるのかもしれません。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。
○大村部会長 そのほか,このⅠとⅡについて。
○水野(紀)委員 まず,窪田委員の御質問と,それから前の垣内幹事の御質問と重なるのですけれども,大前提として,具体的相続分のときに債務を計算に入れていないということ自体が相当変なことではあるのです。遺産分割の前提となる遺産総額を決定するときに,本来は,債務を計算に入れた上で積極財産としての遺産総額を計算し,それに基づいて具体的相続分を計算するという形になるはずでした。でも,日本法では債権・債務は頭割りだという判例法があって,それ以外の財産で具体的相続分を考えるという前提をとるがために,何かすごくますます難しくなっている気がしております。
  そして,垣内幹事がおっしゃった10ページの「しかし」以降のところですね。ここのところも,それほど変なことだろうかという気がしてならないわけです。つまり,被相続人としては,長期計画で順番に,子供たちに,生前贈与,いわば生前相続という形で,娘が嫁に行くときには高価な嫁入り支度を整え,息子が独立するときにはそれなりの資産を渡してという形で,分けていって,そして,最後に残ったものは,自分と最後に暮らしていた子供にやりたいと思ったというときに,過去の部分は全部昔のだから消えるというよりは,むしろ過去の生前贈与を考慮するのが自然でしょう。特別受益の発想がそのように生前相続的な発想で渡したものを考慮するという発想です。そうすると,過去の遺留分を計算するときに,むしろ1030条でそれらまで遡って考える方が自然かと思えます。それはそれほど不合理な結論を導くようにも思えなくて,最初のところでちょっとつまずいているのですけれども。
○堂薗幹事 そこはですね,基本的に相続開始時点で債務超過でなければ,私も特に問題ないと思っているんですが,問題になるのは,やはり相続開始時点では債務超過だと。その場合,結局,過去の特別受益を加算することによって,遺留分権利者の手元に,要するに自分が承継した債務全部を払った後にも財産を残すという結果になるので,それは結果として,相続債権者は自己の債権について完全な満足を得られないにもかかわらず,債務者の包括承継人の立場にあるにすぎない遺留分権利者の手元には財産が残ってしまうということになりますので,やはりそのような事態は,財産法秩序の観点からいっても問題なのではないかというのが問題の出発点であります。
  遺産分割で債務を考慮すべきかどうかというところになると,更に大きな問題になってしまいますので,こちらとしてはそこまでの検討はできていないというところでございます。
○中田委員 債務については,第4の中でも出てきますので,そちらの方が適切かもしれないんですけれども,相続分の指定があった場合には,債権者は法定相続分の範囲か,指定相続分の範囲か選べるというわけですね。そうすると,遺留分には加算される相続債務はないという判例の立場を採ると,弁済資金の前渡しという問題はそもそも生じないのではないかと思うんです。
  そうすると,むしろここは遺言の効力ということですと,平成21年の判例も取り込む形で合体できるのではないかと思うんですが,やはり難しいですか。
○堂薗幹事 御指摘の点については十分に検討できておりませんので,考えてみたいと思います。
○渡辺関係官 今の御指摘につきましては,恐らく債務についてどのように承継していくのかというところに絡んでくる問題なのかなというふうに思うんですけれども,その点につきましては,次回に債権関係と債務関係を一緒に検討できるところがあればやりたいというふうに思っております。そこでどういう形で承継されていくのかというところのある程度のルールがもしきちんとできるということであれば,それを遺留分侵害額で計算するときに反映させていくというような形でクリアできる部分というのはあり得るかもしれないと思っているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ちょっと債権・債務の問題は,この問題全体として考えていくときに,かなり大きな問題としてありますので,今,事務局の方からお話しございましたけれども,その方向性について少し議論いただきまして,こちらにも反映させていくということなのかと思います。
○上西委員 遺留分制度をより分かりやすくするということですが,遺産の分割のときには債務を考慮し,遺留分減殺の請求のときには考慮しないということも案としてはあります。これどうやって関係者に理解させるのかです。通常の相続事案が発生した一般の方たちに,説明を工夫しないと,なかなか理解はしてもらえないのかなという気がしております。
  それと,確かに過去の贈与分等々も考慮するという趣旨は十分に分かった上での話です。前にも申し上げましたが,以前のものについての贈与額について,どうやって当事者で認識し合うのかということです。古いものを持ち出せば持ち出すほど紛争の複雑化,長期化ということにもなりかねません。1年がよいのかどうかは別としまして,一定の短い年数で区切るというのも一つの考え方であると考えています。
○大村部会長 ありがとうございます。
○村田委員 先ほどの窪田委員の御指摘については非常になるほどなと思うところがありました。今回のⅠとⅡの提案は,何といいますか,それぞれを別々に見ると,現行の制度よりはかなりいろいろなことをシンプルにするための工夫が盛り込まれていると思うんです。それはそれでよい検討ではないかと思うんですけれども,ⅠとⅡを両方一遍に考えなければいけないという局面が生じたときに,途端に頭が混乱してしまうという点が,この問題を難しく感じさせる一番のところかなと思っております。
  裁判所の立場としては,裁判所はプロなんだから,それぐらいちゃんとやれよと言われれば,それはやらざるを得ないということにはなるんですけれども,他方で,遺留分に関する紛争は,家事調停事件においても扱われており,一般市民の代表である調停委員に,このⅠとⅡを両方,しかも1本の遺言でも両方出てくる場面があるということを理解していただくのは非常に厳しいのではないかなという点が危惧されるところです。
  そうしたことを考えると,先ほど窪田委員のお話があったように,ⅠとⅡとで適用される局面を完全に切り分けるというのは,ある種魅力的な御提案ではないかなと思います。受遺者又は受贈者が「第三者」である局面ではⅠを適用し,「相続人」である局面ではⅡを適用するという切り分けをする場合には,部会資料の11ページの下から12ページにかけて書かれている問題が生じますが,それは,Ⅱの方式では債務を考慮しないとすることによって生ずる問題であり,なぜ債務を考慮しないのかというと,それは遺産分割との連続性を考えるからだということだと思うんですね。だとすれば,Ⅱの中身について,もうちょっとそこをオープンに考えられないのかなと思います。この点については,先ほど,第2のところで,私の発言に対して堂薗幹事の方からあった御説明のように,遺留分の権利性をものすごく弱めてしまおうというところまで踏み込んでお考えになるのであれば,例えばですけれども,相続分の指定の割合を変更する場面においてしか遺留分による修正を認めないというような,かなりドラスティックな割り切りをするのであれば,ⅠとⅡとが適用される局面というのは完全に切り分けられるのではないかというふうに思われるわけでして,そのくらいのところも視野に入れて一度議論をしてもいいのではないかなと思ったところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかの問題については,例えば相続財産を二つに分けるとかという考え方が出ているわけですけれども,窪田委員の御提案は,遺留分という同じ言葉は使われておりますけれども,違う制度なんだと割り切って,二つの方向で展開したらいいのではないかということかと思います。村田委員は,それを具体化された形で,Ⅱについてこういうものとして扱うといことをおっしゃったかと思います。こんな形でⅡを生かすことはできないだろうかという御意見が出ているという状況かと思います。
  ほかにいかがでございましょうか。
○垣内幹事 同じところをぐるぐる回っているようで大変申し訳ないんですけれども,先ほどの水野委員の御質問に対するお答えの中で,遺留分権利者の手元に積極財産が残るにもかかわらず,相続債権者は満足を得られないような事態が生ずることが問題であるということで,確かにそういうことが生ずるとすれば,それは問題であるように思われるんですけれども,そこで想定されている事案というのは,どういう場合にそうなるのかということなのですが,例えば相続人AとBといて,Aの方は生前にたくさん贈与を受けていると,しかし,それは1年以上前であると。Bの方は,それによって遺留分を侵害されている関係になるというときに,遺留分権利者であるBが何かいち早く遺留分減殺請求をして,Aの財産を取ってきてしまうことによってAが無資力になったりする場合を想定されているということでしょうか。
○堂薗幹事 どちらかというと,Aが無資力になることが問題というよりは,例えば,Aが相続開始の直前に贈与を受けた相続財産について,本来は詐害行為取消権を行使することによって,相続債権者の責任財産となり得るものについて,債務者の包括承継人である遺留分権利者がその財産の価値を取得することができるということ自体が問題ではないかと。そういう場面が現に生じているのかと言われますと,具体的にそういう事件があるというのは承知しておりませんけれども,そもそもの問題として,やはり特別受益を無制限に含めることにはそのような問題があるのではないかということです。
  特に,遺贈であれば,財産分離を利用することによって,相続債権者の利益を守ることは可能なんだろうと思いますけれども,例えば相続開始の直近にされた生前贈与のようなものについては,詐害行為取消権を行使しない限りは責任財産になりませんので,それと遺留分権利者の遺留分減殺請求権の行使とが競合すると,物権的に相争う関係になるというところが問題なのではないかということです。
○垣内幹事 そうしますと,物権的に相争うというのは,現行法の遺留分減殺請求の効果を前提とした場合にということで。詐害行為取消権を行使しなければ,被相続人の財産として扱われることにはならないというのはそうなんですけれども,相続人A,Bがいれば,相続債務としてAとBはそれを一定の割合でそれぞれ承継するということにはなるので,問題が顕在化するのは,Bは遺留分減殺請求を行使して,それで戻ってきた分もあるので,自分が承継した部分は十分に弁済ができると。しかし,何かの理由でAの方が資力がないので,もうその超過部分についてAに掛かっていくことができないというような場合に限定されるのかなという感じもいたしまして,仮にそうだとすると,減殺請求との競合というか,正にある種の対抗問題というか,早く権利行使をした方が得をするという話にはなるのかもしれないなという感じはしております。それは,問題としては残るのかなという感じはしているんですけれども,その点そのものについてはそういう理解でよろしいでしょうか,あるいはもっといろいろあるということでしょうか。
○堂薗幹事 基本的にはそういうことだと思います。例えば,AとBの二人が相続人である場合に,それぞれ2分の1で債務を承継するわけですが,少なくともBの方については,遺留分減殺請求権を行使することによって,自分が承継した債務を全部弁済した後に一定の財産が残るということ自体が問題なのではないかということなんですけれども。
○大村部会長 もう一つ,その前提として,先ほど事務局がおっしゃっていたのは,かつてなされた生前贈与は,特別受益では計算上は持ち戻されますけれども,現実に取り戻されることはない,しかし,これだと現実に取り戻されることがある,その差が今のようなところに現れるということかと思います。
  ほかにいかがでございましょうか。
○山本(克)委員 今の話を聞いていてよく分からなくなったんですが,第2の甲案で①だけを採った場合,②は入れないというときにも今の話は妥当するという前提でしょうか。つまり,遺留分権利者と相続債権者は金銭債権者同士だというときも,やはり遺留分権利者の方が先に取ってしまうのはけしからんという話になるんでしょうか。
○堂薗幹事 3ページの甲案を採って金銭債権化して,計算方法については現行と全く同じ計算方法を採って,それを金銭的に単に評価するということになった場合は,同じ問題は残るのではないかと思っております。
○山本(克)委員 同じ問題になると。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 先に取ってしまうから。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 先に取ってしまう保証はどこにもないのではないですか。
○堂薗幹事 私の理解では,相続債権者とその債務者の包括承継人が,本来相続債権者の責任財産となるべき財産について取り合うということ自体が問題だろうと思いますし,もちろんそれはどっちが先に取るかは分からないわけですが,ただ,詐害行為取消権の場合には,何らかの形で裁判所の関与がないと,対抗力を取得できませんし,受遺者側からすると,相続債権者に持っていかれるぐらいなら,遺留分権利者にあげた方がましだということもあるのではないかと思いますので,やはり問題としてはあるのではないかと考えているところです。
○山本(克)委員 いや,そこで仮に問題だとして,先ほどの垣内幹事の例でいえば,Aが破産させて,管財人に否認権行使をさせるというのでは対応できないんでしょうか。つまり,遺留分の制度というのは,責任財産としての相続財産の枠を超えていますよね。そもそも遺留分の,判例の立場でというか,もう1年前を入れている段階で超えているわけですよね。超えているんだからしようがないとなぜ言えないのかというのが,そもそもよく分からないんですけれども。
○堂薗幹事 基本的に,条文上は相続開始前の1年に限定して,もちろん1年を超える場合も想定はされるわけですが,その1年,あるいは1年を少し超えた期間の中で,もともと資産超過だったのが債務超過になるという事態はそれほど多くはないのだろうと思うのですが,特別受益で期間を無限定に入れるということになると,正にそういった事態が十分に起こり得ることになるので,やはりそこには大分違いがあるのではないかと思います。現行法は,飽くまでも本来は相続開始時点での財産状況を問題にすべきところを,遺留分制度の潜脱ができないように短期間での期間制限を設け,さらに,双方が悪意の場合はそこから少しはみ出してもそれは仕方ないでしょうということで制度設計がされていたのではないかという疑問を持っているということでございます。
○山本(克)委員 大分分かってきたんですけれども,でも,それはですね,基本的に相続債権者の方がプライオリティーが高いというふうにしていないこと自体が問題ではないんですかね。つまり,相続債権者の方がプライオリティー高くて,遺留分権利者とか受遺者とか劣後するんだという法制をして,相続債務をまず完済してから次の相続人間の分配に移るべきだという法制を採っていない以上,それはもうしようがないような気もしないではないんですが。
○堂薗幹事 ただ,財産分離とか限定承認の場面では,相続債権者に弁済した後でないと受遺者には弁済できないというふうになっておりますので,そことも均衡はとれていないのではないかという感じが致します。
○山本(克)委員 いや,均衡をとらなければいけないのだとすると,もう単純承認制度はやめてしまうというぐらいにいかないと均衡はとれないのではないかなという気がしているということです。
○大村部会長 かなり根本的な価値判断にも関わるところかと思いますけれども,御指摘はよく分かりましたので,御検討いただきたいと思います。
○増田委員 今の点は,確かにプライオリティーは相続債権者の方が高くないとおかしいのではないかとは思うんですが,そのことはさておいても,ⅰで1030条の適用はないという部分を排除すると,相続人に対する贈与も1年以内に─1年以内というのはどうかと思うんですけれども,一定の範囲に限定するという考え方自体は,それはそれでいいのではないかというふうに私は思っていまして,大昔のものを減殺の対象にまでするということは,やはりおかしいのではないかと考えています。
  先ほどの水野委員の御意見は,一定のものをAにBにCにと分け与えるという発想だったと思うんですけれども,現実には,被相続人の方の資産状態というのは一定ではなく,常に変動しているわけです。何十年も前からだったら,いいときもあれば悪いときもある。その中で,Aが結婚したとき,Bが結婚したとき,Cが結婚したとき,それぞれ資産状態がよかったり,悪かったりするわけで,その時々で公平に配慮したとしても,実際にもらっている額は違うかもしれない。そういうものを全て持戻しの対象として,それを遺留分の基礎にするというのは,どうも私には違和感があります。その時々で公平かつ相当であったものを,後の評価で判断するのはどうかというのが基本的な考え方です。
  ただ,相続人に関しても1年で切ってしまうということになりますと,自分の本当の死期は分からないですから,余命宣告を受けたりして死期が近づいたことを自覚した時点で特定の相続人に対して生前贈与したりするようなこともあり得るわけですので,そういうものについてはやはり減殺対象に含まれるべきだろうと考えると,例えば3年とか5年とか,相続人に対する贈与については,第三者に対するものよりも少し遡った形で,一定の年限を設けて減殺の対象にするというのはどうかと思っています。
○大村部会長 ありがとうございます。違う線を引くことによってバランスをとるという御意見かと思いますけれども。
○水野(紀)委員 母法,つまりフランス法では,制度の社会的条件が違っています。特別受益になる贈与などはみんな公証人が関与して行う要式行為になっておりますので,遺産分割のときに特別受益を計上することは難しくないのです。そういう国の条文を,そうなっていない国が継受してしまったということです。
  それからフランスでは,遺産分割の在り方も,相続開始から間もない時点で,債権債務の整理もしつつ,特別受益などもすべて心得ている公証人が遺産分割するものですし,遺言があったときにはその手続の中で公証人が遺留分の減殺請求もさせる制度になっています。そういう制度の下ででき上がった条文を,全然違う日本で,公証人の関与という条件がないところで運用していますので,もちろん問題は山積しています。御提案はこの問題をいくらかすっきりさせるようには見えます。でも,やはりまだ10ページに書かれたことについて今一つよくわかりません。債権者はそのときの被相続人の現存財産というものを当てにして貸金をしていたはずです。それで見込み違いで取り切れなかった。一方,遺留分権利者は,昔,兄弟のうちで,お父さんが裕福であったときにたくさんもらった兄弟がいて,その人から少し余分にもらう,それが公平だというのは,それはそれで何か理屈が付くような気がしてならないのですが,やはりおかしいでしょうか。
○堂薗幹事 そこは,この制度だと,Ⅱの制度で実現すればいいのではないかということで,Ⅱの制度であれば,ほかの相続人がたくさんもらっていれば,それはもらいすぎだということで,返してくださいということが言えますので,相続人間のアンバランスの調整というのは,全てⅡの方でやって,Ⅰの方は飽くまでも相続開始時にプラスの財産がある場合に,そのうちの一定の財産を遺留分権利者に確保させると,そういう趣旨の違うものとして切り分けられないかということでございます。
○増田委員 先ほどの意見は,一般的な遺留分の算定方法として考えたわけで,Ⅰ,Ⅱの区別をした上で,Ⅱで補完するという意味ではありません。村田委員がおっしゃっていたように,やはりこのⅠ,Ⅱの区別は,ⅠとⅡが同時に存在する場合の解決方法を何か考えないと,デッドロックに乗り上げると私も思っています。ただ,ⅠとⅡの区別の発想自体が相続人間紛争と対第三者紛争では紛争の実態そのものが全く違うということから来ている点については私も共感を持っていますので,窪田委員がおっしゃるように,Ⅱは遺留分の問題ではもう既にないのかな,という発想で進めていくことについては特に異論のないところですが,遺留分という形で今と同じようなことでいくと,やはり同時に存在する場合について何か仕切りを付けないといけないと思っています。
○大村部会長 多分,水野委員は,このⅡのような制度を考えたとして,その中で遺留分の減殺請求権に相応の,一定の強さというか,そうしたもののを確保しておかなければいけないというお立場であろうと思います。価値判断について御意見が分かれているところがあるかと思いますので,その辺りも明らかにしながら議論を続けていく必要があろうかと思います。ほかに,いかがでしょうか。
○石井幹事 遺留分算定の基礎となる財産に含まれる生前贈与の範囲については,先ほど上西委員からも御指摘があったと思うんですが,あんまり古いものは立証が難しいと思いますので,そのような立証の難しいものを算定対象に入れることができるとしたからといって,実際に相続人間の公平が図られるかということについては検討の余地があると思います。むしろ,一定の期限を区切って,当事者になる方を限定していくというのも一つの考え方ではないかなと思います。
  あともう1点,算定方式のⅡの考え方というのは,遺産分割との一回的解決という要請を非常に意識したものであり,遺留分算定の基礎となる財産について,遺産分割におけるみなし相続財産と同じように考えるものと理解しているんですけれども,可分債権のことを考えますと,これは,遺留分の算定の基礎となる財産には含まれる一方で,現行の法の理解を前提とすると,遺産分割におけるみなし相続財産には原則として含まれないことになると思います。そのため,この点をクリアしないと,なかなか一回的解決というのは難しいように思います。そういうことであれば,先ほど来幾つか御指摘もあったと思うんですが,もう少しドラスティックなというか,思い切った考え方で全体の仕組みを考えていくといったこともあるのかなと思っておりました。
○堂薗幹事 可分債権については次回,御議論いただければと思っておりまして,そこでこの両者の整合性をどう保つかという点も含めて,検討したいと思っております。
○大村部会長 ありがとうございます。
○中田委員 補足だけなんですけれども,村田委員の先ほどの御発言の最後のところで,Ⅱにおいては相続分の指定の変更しか認めないという制度設計もあり得るのではないかということをおっしゃいましたが,仮にそれを採る場合に,私がさっき提起した債務について相続分の指定があったときの処理と結び付けることができるのではないかと思います。その場合に,法定相続分によって,債権者に対して,負担を負っている人たちについて何らかの手当てをしておけば,全てが一遍に解決できるのではないかと思いました。
○大村部会長 ありがとうございました。
  このⅠ,Ⅱにつきまして,ほかに御発言ございませんか。よろしいでしょうか。
  それでは,最後の問題になりますけれども,13ページの「第4 その他」の部分について,事務局からの御説明をお願いいたします。
○渡辺関係官 それでは,最後に,13ページの「第4 その他」について御説明いたします。
  ここでは,1として「円滑な事業承継等の障害となり得る点を緩和する方策について」,2として「特殊な類型における事件処理の明確化について」の二つの観点から論点を整理させていただいております。
  まず,1の「円滑な事業承継等の障害となり得る点を緩和する方策」でございますけれども,現行の遺留分制度につきましては,円滑な事業承継の障害になっているとの指摘がされておりまして,この点につきましては,いわゆる中小企業経営承継円滑化法というものがございまして,遺留分制度の特例が既に設けられているというところでございますが,その適用場面以外でも,例えば農家の場合のように,遺留分制度のために後継者が農地を一括して取得することが困難となり,それが農業経営の零細化,競争力の低下につながっていると,こういった御指摘もされているところでございます。
  そこで,事業承継の円滑化等の観点から,14ページにございます(1)として「遺留分の放棄等に関する規定の明確化」,(2)として「遺留分権利者が承継する相続債務額を加算する取扱い」に関する規律を設けることが考えられるように思われます。
  なお,これらの考え方につきましては,円滑な事業承継の実現を目的とするものではございますが,相続財産に事業用財産が含まれる場合のみ適用されるというのではなく,一般的な規律とすることを想定しているところでございます。
  まず,(1)の「遺留分の放棄等に関する規定の明確化」についてでございますが,現行法上,遺留分の放棄には特定の遺贈又は贈与に対する減殺請求権の放棄を含むと解されているようでございますけれども,規定上はどの範囲で遺留分の放棄が可能かどうか,必ずしも明らかではないということでございます。
  また,中小企業経営承継円滑化法では,中小企業の事業承継の円滑化を図るために,一定の要件の下で株式等の財産を遺留分算定の基礎となる財産から除外する,一般に除外合意と言われておりますけれども,それができるというふうにされておりまして,一般的には除外合意がされた場合には,その対象とされた株式等については減殺請求をすることができないというふうに解されているようでございます。
  そこで,遺留分請求によって当然に物権的効力が生ずる点を見直すという場合には,遺留分権利者と受遺者又は受贈者との間の合意,遺留分権利者の単独行為によって除外行為に類する効力を一般的に認めるということも可能になるのではないかというふうに考えられるところでございます。
  また,これらの点を踏まえ,遺留分権利者がその権利の全部又は一部の放棄ないしこれに類する処分をすることができる場合やその要件を整理し,これを法律上明確化するということも考えられるのではないかと思われます。
  次に,(2)の「遺留分権利者が承継する相続債務額を加算する取扱いについて」でございます。
  先ほど御説明申し上げましたとおり,現行法上,遺留分侵害額の算定におきましては,遺留分権利者が承継する相続債務の額,これを加算するという取扱いがされております。これは,遺留分権利者が相続債務を弁済した後,遺留分権利者に一定の財産が残るようにするためというふうに考えられますけれども,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とする場合には,相続債務の額の加算というのは受遺者又は受贈者が遺留分権利者の弁済資金を事前に提供したのと同じ状態を生じさせるということになるかと思います。
  例えば,15ページの注を御覧いただきたいのですけれども,遺留分算定の基礎となる積極財産が1億円,相続債務が6,000万円,被相続人の配偶者及び子2人が相続人という場合におきましては,現行法上,子である相続人に最終的に残る財産,これは遺留分額でございますが,500万円ということになるわけです。そして,加算される相続債務負担額,言わば弁済資金の前渡し分ということになるわけですけれども,それが1,500万円ということになり,実に遺留分侵害額の4分の3を占めるということになります。
  しかし,例えば受遺者又は受贈者が被相続人の経営する法人を承継し,相続債務のほとんどがその法人が負う債務を主債務とする連帯保証債務であったという場合を想定いたしますと,主債務者が弁済を行う限り,遺留分権利者は債務を弁済する必要はないということになりますし,また,受遺者又は受贈者が個人経営者である場合にも,遺留分権利者がその承継する相続債務の支払をしないからといって,その分の支払を怠ることが事実上できないような場合も多いと考えられます。そのような場合に,受遺者又は受贈者がその分を上乗せして遺留分の支払をし,その後,遺留分権利者に対してこれを求償するというのは迂遠であると考えられるところでございます。
  また,そもそも事業を承継する受遺者又は受贈者にとりましては,遺留分権利者に弁済資金の前渡しをするくらいであれば,むしろ期限の利益を放棄して,相続債権者に直接弁済したいという場合も多いように思われます。
  このような観点から,遺留分権利者が承継した相続債務の全部又は一部について,受遺者又は受贈者が相続債権者の同意を得て免責的債務引受けをしたような場合,重畳的債務引受けをして受遺者又は受贈者が引き受けた債務について相当の担保を供したような場合,遺留分権利者が承継した債務について相続債権者に第三者弁済をしたような場合などにつきましては,遺留分侵害額の算定におきまして,遺留分権利者が承継する債務の額を加算しないというような取扱いをするようなことも考えられるように思われるところでございますが,この点につきましても御議論いただければと考えております。
  最後に,2の「特殊な類型における事件処理の明確化」でございます。
  この点につきましては,具体的な御提案というものが現時点であるというわけではなく,単なる問題提起にとどまるという側面がございますけれども,現行法上,減殺の対象となることが条文上明らかであるのは,遺贈と贈与のみということでございまして,相続分の指定であるとか,持戻し免除の意思表示,こういったものにつきましては遺留分に関する規定に違反することができないというような規定はございますけれども,実際に減殺の対象になるのかどうかについては,必ずしも明らかではありませんし,仮に減殺の対象になるといたしましても,その場合の減殺の順序や減殺された場合の効果等につきましては,依然として解釈に委ねられているという状況でございます。
  判例等を見ますと,相続分の指定や持戻し免除の意思表示に対しても減殺することができるというような理解が前提とされているようでございますし,その効果についても一定の判断が示されているという面はございますけれども,全ての問題が実務上解消されているわけではないのではないかと思われます。
  そこで,この機会にこれらの点につきましても,その法律上の取扱いを明確にするということが考えられるところでございますが,もっとも,このような方向での見直しというのも,遺留分制度の原則形態をどのように見直していくかというところに関わってまいりますので,その部分が確定しないとなかなかその点について議論することが困難なところはあるのかなと思っておるところでございます。したがいまして,遺留分制度の原則形態をどのようにしていくのかというところの議論を先行させるということになるのではないかと思っているところでございますが,こういった問題点,これについての検討を加えることの当否やその方向性につきまして御議論いただければと考えているところでございます。
  説明は以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他ということで,1と2につき今御説明を頂きました。1の方はかなり具体的な内容でございますけれども,2はこういう問題もありますねという御指摘で,これを更に検討するということについて御意見を伺いたいということでございます。1,2,区切りませんので,どちらについてでも御意見を頂ければと思います。どうぞお願いいたします。
○水野(紀)委員 中小企業の承継円滑化等に関する法律につきまして,立法の際に少しお手伝いをいたしましたので,その経緯を少しだけお話ししておこうと思います。
  立法の際には,基本的には承継でもめることは中小企業のエネルギーをひどくそいでしまいますので,それを防ぎたいということが念頭にはありましたけれども,均分相続を変更して後継ぎにたくさん上げたいという判断では実はなかったのです。後継者はできるだけ会社の資産を多くしたいと思いますので,本来自分が受けるべき社長としての手当なども抑え込んで,その分を全部会社の資産に入れてしまい,その後継者の労力が事実上,株式価値に反映されることになりがちです。でも株式自体の名義人は被相続人,つまり引退した先代であるという状態であったときに,後継者の労力と能力の成果である株式がそのまま相続分に従って分配されることになると,むしろ実質的には不公平が生じます。その不公平の是正が基本的な問題の発想でした。
  そして,遺留分は大きな権利ですので,きちんとした事前の放棄がないといけないだろうということで,円滑化法の組み方にしたのですが,余り使われていないと聞いております。なぜ使われないのかというと,これは口頭で伺っただけなのですが,多くの会社経営者は,できれば兄弟たちには遺産分割のときに放棄してもらうこと,遺留分の減殺請求などはされないことを期待していて,こういう遺留分の事前の放棄を持ち掛けると,兄弟たちが自分に遺留分があるということを知ってしまう。それは困るのでという理由で,この手続を取りたがらないということでした。遺留分があることは,みんなすぐ分かると思うのですけれども,事実上はそういうことで,余りうまくいっていないということです。
  今回,遺留分について,中小企業の承継円滑化法を超える形で,大きく設定をされることになりますと,そこで論じられたものとは違う一歩を踏み出すことにはなると思いますので,そのことについての説明は必要だろうと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  円滑化法のときの経緯とその後の使われ方について情報提供していただきました。
  ほかに何か御意見,御指摘ございますでしょうか。
○浅田委員 中小企業経営承継円滑化法の関連で,かつ,本議事には直接関係しないかもしれませんが,事業承継にしろ,通常の資産承継にしろ,信託を使うことがあり得ると思います。そうした場合に,信託の設定とそれからそれによる遺留分侵害の問題というのは,必ずしも整理がされていないと認識しております。この点について,この審議会でもいいですし,ほかの場でもいいんですけれども,何らかの調整が図られる可能性があるのかどうかということについてお尋ねしたいと思います。
○堂薗幹事 信託との関係で,どういった問題が生じているかという点を把握した上で,検討すべきものがあれば検討したいと考えておりますが,現時点で具体的に何か検討をしているという状況にはございません。
○大村部会長 分かりました。
  信託について何か御発言があれば承りますけれども。
○山本(克)委員 今おっしゃったのは,共同相続人がいる場合に,受益権を一部の相続人にだけ与えるような信託を設定するというやつですよね。そのような信託の設定が遺留分侵害になるかどうかについて整理をしなければいけないという話ですね。私は脱法行為のような気がしています。
○堂薗幹事 その点は検討したいと思います。
○沖野委員 理論的にはかなりの問題があり,余り議論は多くありませんけれども,見解が分かれている問題ですので,それだけに実務的にははっきりした方がいいという要請はあるのだと思いますし,取り分け株式しか財産がないような場合というのは,深刻になると思いますが,そもそも何が対象になるのか,相手方はどうか,行使の結果どうなるのか,さらに,今回の第2の甲案,乙案になったような場合にどうかといったように,問題がかなり出てくる事項ではあります。そういった状況ではあるということは確認したいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  これもなかなか難しい問題を含んでいるということのようですので,どこまで考えられるかは分かりませんけれども,視野に入れていただくということかと思います。
  そのほかいかがでございましょうか。
  石井幹事,お願いします。
○石井幹事 遺留分の放棄等に関する規定の明確化として,合意ないしは単独行為によって特定の財産を遺留分遺留分算定の基礎となる財産から除外できるということが提案されていますけれども,現行の民法1043条で規定されている家裁の許可という規律は維持されるのか,あるいは全く別のものを今後考えていくのかという辺りについては,どのようにお考えでしょうか。 
○堂薗幹事 私の理解が正確ではないのかもしれませんが,現行法で遺留分の一部放棄といわれているものについては,減殺の対象となる財産があって,その減殺自体を放棄するというようなことが考えられているのではないかと思うんですけれども,現行法上は,基本的には減殺の対象となる財産については,どういう順序で減殺がされるのかということも全て法定されていますから,この財産を減殺の対象から外したいという要望があったとしても,なかなか受遺者あるいは遺留分権利者側でそこを調整するのは難しいところがあるんですけれども,ここで考えているのは,遺留分権利者が,少なくともこの贈与については全面的に効力を認めますと。そうすると,それについては遺留分算定の基礎の財産からも外れますし,減殺の対象にもならないと。そういうことにしますと,一部第三者の利益との調整が必要になりますので,恐らくは,その財産についての受遺者の負担部分については,贈与を承認することによってその負担部分に相当する財産を取得したのと同じような取扱いにしないといけないのかなとは思いますが,そういった調整をすることによって,特定の遺贈とか贈与についても完全に効力を承認するというような制度が考えられないかということでございます。
○石井幹事 家裁による事前の許可が必要かどうかというところについては,まだ特に明確なお考えがあるわけではないということなんでしょうか。
○堂薗幹事 基本的には事前にそういった形で遺贈又は贈与の承認をするという場合には,現行法と同じように考えれば,やはり事前の場合には家庭裁判所の許可を得る必要があると考えるのが自然だと思いますが,その辺りについて御議論いただく必要があるのではないかと考えております。
○大村部会長 よろしゅうございますでしょうか。
  そのほかに御発言ございますでしょうか。
○八木委員 先ほどの水野先生の指摘は,ここの根本の問題だと思ったんですけれども,中小企業の経営承継円滑化法というのが余り活用されていないということであれば,ここに農業経営の話が出ていますが,これはどの程度ニーズが今あるのか,あるいは日本の農業を強くするという視点から見て,この遺留分の放棄ですか,そのアイデアがどの程度意味があるのかと,そもそも論ですけれども。
  これ,特例ではなくて,一般的な規律を設けるという,非常に大きな制度改革ということになると思うんですけれども,全体として,果たしてニーズがあるのかという点をお聞きしたいと思います。
○堂薗幹事 その点は,何か具体的なニーズがあってということよりも,我々としては,現行法の下では,遺留分全体について放棄ができる,もちろん事前にやる場合には家庭裁判所の許可が要るわけですが,許可を得れば遺留分全体の放棄ができることになっているのに対し,ここで取り上げた特定の遺贈又は贈与の承認は,一部放棄に近いものですから,全体ができるのであれば,一部についてもできていいのではないかと。具体的にどの程度そういうニーズがあるかというのは,こちらでも十分把握できていないんですけれども,事業承継が現在よりも円滑にいく場合はあるのではないかという程度の認識です。今後,これを具体化するのであれば,その辺りの立法事実を含め,更に詰めて検討する必要があると思います。
○大村部会長 よろしいですか。ありがとうございます。
○山本(克)委員 今の八木委員の御質問の続きみたいなんですけれども,これは一般法化するというのは,対象財産についても限定を掛けないということです。というと,事業承継には関係のない場合にも使えるということも含めてやるわけですか。
○堂薗幹事 はい。
○山本(克)委員 でも,これはかなり,この手のものって強制の契機が入るから,本当に家庭裁判所の許可だけでいけるのかどうか自体も問題なんではないのかなと思いますし,被相続人の生前にやるわけです。
  生前にやるのでないと,基本的には意味がない場合が多いですから,遺贈でやる場合だとか,相続分の指定なり何なりの場合を除けばあれですよね。一般法化するのだったら,生前のやつは外さないとかなり,後でまたそのトラブルが,不満がものすごく出てくるのではないですか。無理やりあのときは放棄させられましたというような話が出てきて,かえって円滑でなくなる可能性もあるのではないのかなと思って,慎重に検討していただかないと,あれがあるから一般化できるという話に簡単になるような気はしないんですけれども。
○堂薗幹事 山本先生が御指摘のような問題はあるのかもしれませんが,それは遺留分の全部を放棄する場合にも同じように生じる問題ではありますので。
○山本(克)委員 確かに遺留分全部の放棄はできるんですが,本当に機能しているんですかね。真正の確保とか何なりというのは,私はかなり,現行法の建前自体がかなり後々遺恨を残すようなことで,こういうことをまた制度化していくと,それが現実になされた後で裁判所が苦労されるというようなことが,あるいは相続人同士の間でのトラブルが増えるというようなことにもなりかねないのではないかなと,むしろ現行法自体がおかしいのかなという気もするんですけれども,そこはもっときっちりした方式とか,あるいは年齢の問題であるとか,親権者によるこれは代理できないとか,そういうようなことまで含めて考えていかないとね。親が勝手にやって,成人したら私遺留分なかったというような話で納得するんでしょうか。私はその辺りすごく微妙だと思う,少なくとも生前の分についてはそうだと思うんですけれども。
○水野(有)委員 今のお話し伺って,実務を御紹介したらいいかなと思うのですが,まず親権者が代理できるかというと,確か利益相反行為に該当するのでできないこととなり,特別代理人を選任した上で子の代理をさせることになるので,そこは御心配されなくていいと。一応家裁では,遺留分放棄の申立てがございましたら,真意を確かめる調査はした上で判断はしております。ただ,その真意の確かめの過程で何か問題がございましたら,相続放棄などと同様,無効確認訴訟も可能で,同種の事件と同じレベルで手当もありますし,真意を確認するシステムにはなっております。
  あともう1点ですが,審判の取消しという制度がございまして,一旦そういう遺留分放棄するという審判が出た後でも,御本人が翻意して,やはり遺留分放棄が嫌だということで,真意が変わりましたら,やはりそれはやめます─やめますというのは正確でないんですけれども,審判の取消しということがなされる裁判例もございますので,御本人の真意の確保の期待,何といいますか,機会はある程度設けられておりますので,少なくとも御心配の点がそのまま全て当てはまるという制度や実務の運用にはなっていないかと思いますので。
○大村部会長 ありがとうございます。
  先ほどの八木委員の御発言と山本克己委員の御発言とは,裏表のところがあろうかと思います。遺留分の放棄の規定は戦後,実質的な単独相続を招くのではないかと危惧された制度であったわけですけれども,実際にはそれほど使われていないということだった。水野委員から先ほど御紹介もありましたけれども,円滑化法のときにも同様にいろいろと危惧はあったのですけれども,しかし,これも余り使われていないというようです。
  今回,一般的な制度を導入することによってそれが画期的に使われるようになると,山本委員がおっしゃるような乱用というような可能性も出てくるわけですけれども,しかし,依然として余り使われないということだとすると,八木委員がおっしゃるように,作ってもどうなんだろうというような話にもなってまいります。家裁実務の御紹介ございましたけれども,実態につきましてもデータ等を少しお調べいただきまして,更に詰めていただくというのがよろしいかと思います。
○上西委員 円滑化法のとき水野紀子先生が座長をされました委員会でも発言させてもらったことです。通常は,遺留分権利者と受遺者,受贈者の関係は分かっているのです。しかし,生前の贈与を考えますと,誰が遺留分権利者となるか分からないこともあるのです。どの段階でするのか,あるいは個別ごとにするのかということになるのですが,もしお互いに主張し合わないようにするのであれば,全員が同時にするということも一つの方法かなと思います。
  非上場株式の納税猶予制度のように,事業承継の基礎となる制度でも余り使われていないわけです。感覚としては,生活用財産,学校教育の費用,いわゆる嫁入り道具などについて個別に請求することは,通常はないであろうと思いますので,お互いにある段階,例えば成人してから包括的にするというのが一つの方法と考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  御指摘も踏まえまして,更に御検討いただきたいと思います。
  今,遺留分の放棄について御発言が集まっておりますけれども,そのほかの点について何か御発言がありましたら頂きたいと思います。
○浅田委員 14ページの(2)の相続債務額を加算する取扱いについてのことでございますけれども,銀行の立場からすると,この問題設定というのは非常に理解できるところでございますし,私個人としてもこのような方向性で検討していただければと思っています。
  また,翻ってみますと,経営者として連帯保証を負っている方にとっても,実質的な衡平性が保たれる方向ではないのかなと思っております。
  ただ,細部の制度設計に関しては,もう少し詰める必要があるのかなと思っておりまして,具体的には15ページの「このような観点から」というところで,①から③というのがありますが,銀行では大体こういうときに免責的債務引受による処理をするということが多いです。ですから,①に関してはそのとおりだとは思っております。もっとも,例えば②に関しては「相当の担保を供」するということになっており,これは実質的な配慮ということで方向性については理解できるところでありますけれども,ただ,相当な担保というときに,その相当とは幾らぐらいなのとかということになりますと,実務において迷うこともあるのかなとも思いました。
  また,③に関してその範囲でありますけれども,例えば相続人が会社の債務を連帯保証している場合に,例えば明日とか明後日でも倒産しそうで,具体的な弁済が見えているというときにおいては,まだ弁済してなくても,カウントできるようにした方が実質的には衡平だと思います。ただ,形式的な判断が難しいというところもありますので,ここら辺の制度設計というのは詰めていただければと思います。
  以上です。
○大村部会長 ありがとうございました。
  そのほかいかがでございますか。
○増田委員 特殊な類型における事件処理の明確化ですが,これは是非,お願いしたいと思います。特殊類型とありますが,実務上はどれが特殊類型といえないほど,非常にいろいろなものがあって,特に遺留分に関しては,御承知のとおり平成になってからの判例が多数あるように,解釈上分からないことが非常に多いわけです。
  少し戻って恐縮ですけれども,遺留分減殺請求をして,かつ残りの物について遺産分割をしなければならないというような事案の処理方法は,まだ確立された判例もなければ,定説も見ないという状況にありますので,その辺りのところは,せっかくの機会ですから立法した方がいいだろうと思います。これは,我々実務家は遺言を作る方でもありますので,遺言を作ったがために余計もめて,時間がかかったという笑い話も,これは冗談ではなく,結構普通に聞きます。ですので,ここは是非特殊な類型も含めて,法律上の取扱いを明確にする作業はこの機会にやっていただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかにいかがでしょうか。
  では,今,御意見を頂きました点を踏まえまして,更に検討をしていただきたいと思います。
  本日予定しておりました審議は以上でございます。
  最後に,次回の予定等につきまして,事務局の方からお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,次回でございますが,次回の日程は,御案内のとおり,9月8日火曜日の午後1時半から5時半までで,場所は本日と同じこの20階大会議室を予定してございます。
  次回で一応第一読を終えるということを考えておりまして,次回はこれまでに取り上げていないその他の事項を取り上げることを予定しております。具体的には,遺言に関する事項,あるいは可分債権の取扱い等について御議論いただければと考えておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  本日は大変活発な御議論を頂きまして,ありがとうございました。
  これで閉会いたします。
-了-


法制審議会
民法(相続関係)部会
第6回会議 議事録


第1 日 時  平成27年10月20日(火)自 午後1時30分
                      至 午後5時25分

第2 場 所  法務省第1会議室

第3 議 題  民法(相続関係)の改正について

第4 議 事  (次のとおり)

議        事

○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第6回会合を開催いたします。
  議事に先立ちまして,委員の交代がございましたので,まず新しく民事局長になられました小川局長から一言御挨拶を頂きます。
○小川委員 10月2日付で民事局長になりました小川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
○大村部会長 ありがとうございました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
  それから,本日は,席上の配布資料はないということでございますので,早速,事前配布の資料に従いまして審議に入らせていただきたいと存じます。
  本日の審議の資料は,「民法(相続関係)部会 資料6」というもので,「配偶者の居住権を法律上保護するための方策等」という見出しが付いたものでございます。これは,第1から第4の「その他」までに分かれております。4項目ございますので,第2項目が終わった辺りで休息するという目安で進めさせていただきたいと存じます。
  それでは,事務当局の方から,まず第1の「配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」という部分について,御説明をお願いいたします。
○大塚関係官 民事局付,大塚でございます。
  第1の,いわゆる短期居住権につきまして御説明申し上げます。
  今回は二読に入ったということでもございますので,変更点を中心に簡潔な御説明とさせていただきます。
  早速,2ページ目の上から4行目に入っていただければと思いますが,部会資料2,つまり一読の時の資料では,短期居住権の原則的な終期を遺産分割の終了時としておったところでございますが,遺産分割の全体が終了していなかった場合でも,配偶者の居住建物の帰属に関する協議が成立したような場合につきましては,少なくとも当該建物については,相続開始に伴う暫定的な権利関係が解消されて,短期居住権を認める前提を欠くということになると考えられます。
  そこで,今回の部会資料におきましては,該当部分は①でございますが,①の短期居住権の原則的な終期につきましては,遺産分割により当該建物の帰属が確定するまでの間としております。
  次に,⑧,⑨についてでございます。(2)でございますが,平成8年の最高裁の判例におきましては,被相続人がその配偶者との間で使用貸借契約を結ぶ意思を有していなかったことが明らかな場合には,居住権は保護されないということになりますが,⑧と⑨は,配偶者以外の者が配偶者の居住建物の所有権を遺言又は死因贈与によって取得した場合には,配偶者は相続開始時から一定期間(例えば6か月間)に限ってその建物を無償で使用することができるとするものでございます。
  なお,部会資料2におきましては,この期間を「例えば1年間」というような形にしておりましたが,この時の議論におきまして,⑧,⑨のような規律を設けること自体に疑問を呈する御意見もあったことなどを踏まえまして,この期間を「例えば6か月間」として,存続期間をより短期に限定した考え方を御提示申し上げておるところでございます。これによりまして,明渡猶予期間としての意味合いがより強まることと考えられます。
  次に,個別の論点の法的性質等でございますが,一読の議論におきましては,短期居住権に第三者対抗力を認めた場合には,相続債権者などの第三者に不測の損害を与え,取引の安全が害されるおそれがあるとの指摘などがされたところでございます。
  3ページになりますが,そこで,本部会資料におきましては,これらの議論の結果を踏まえまして,①と⑧のいずれにつきましても,短期居住権には第三者対抗力は付与しないということとしております。
  このような考え方を前提といたしますと,短期居住権の法的性質は,法定の債権と構成するのが相当と考えられます。
  一読と同様の部分は飛ばしまして,「(4)短期居住権の効力等」でございますが,アの2行目になります。前記方策におきましては,配偶者にその居住建物を無償で使用する権利を認める反面としまして,この建物について用法遵守義務あるいは善管注意義務を負わせることとしております。
  他方,建物の所有者としては,基本的には配偶者による居住建物の使用を受忍すれば足りることとしております。
  次に,5ページ以下の「(5)他の相続人及び第三者との関係について」でございますが,一読からの大きな変更は,「エ 抵当権者等との関係」,6ページ目の上から5行目でございますが,本方策は,先ほど申し上げたとおり,短期居住権に第三者対抗力を与えないということにしましたため,建物の抵当権者との関係では,相続開始後に設定及び登記がされた抵当権にも劣後することになり,その抵当権が実行されますと,配偶者は買受人からの明渡請求を拒むことはできないと考えられます。
  また,被相続人の一般債権者が相続開始後に建物を差し押さえた場合も,同様となるものと考えられます。
  簡潔でございましたが,以上です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  一読の際の御提案と変わっている部分を中心に御説明を頂きました。
  今,御説明があった点,あるいはそうでない点も含めまして,御質問,御意見等があれば承りたいと存じます。いかがでございましょうか。
○南部委員 ありがとうございます。質問をお願いします。
  5ページのウ「敷地所有者との関係」について。,この当該敷地につきまして,相続開始前の敷地所有者が第三者であった場合,借地権と地上権といった利用権に伴う賃貸料が発生した場合を考えたときに,配偶者と建物所有者,どちらの方が賃料を払うことになるかということを疑問に思っておりますので,そのお答えをしていただきたいなと思います。
  それと,合わせまして,6ページのエです。手続の期間の件です。通常と抵当権が実施された場合,どのくらいの期間で手続が行われるのかということで,本来でしたらもう手続が行われたらすぐ出ていかなければならないというような状況に陥りますと,やはり一般人としましては非常に困難かなと思います。これは短期の中に入らないとは思いますが,数か月ぐらいの余裕が欲しいと思います。そういったことが法律でどう規定されているか分からないのですが,ここでどのような手続になっていくのかというのを教えていただけたらと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。では,事務当局から。
○堂薗幹事 まず,敷地の地代について,配偶者と建物所有者のいずれの負担とすべきかという点でが,短期居住権につきましては,通常の必要費は配偶者の負担とするということにしておりますので,この敷地の地代が通常の必要費に当たるかどうかという問題だと思いますが,建物を使用する場合には当然敷地の利用は必要になりますので,通常の必要費に当たるということになるのではないかと思います。ただ,この点は,一応解釈ということにはなろうかと思います。
  それから,抵当権との関係ですが,抵当権実行の申立てがされて,実際に買受人が確定し,その代金が支払われるまでの間にどの程度の時間がかかるかという点についての統計は手元にはありませんが,基本的には物件の調査をし,その評価をしてから買受人を募って,それで入札をするということになりますので,それなりの期間は掛かることになろうかと思います。
  ただ,御指摘のように,基本的には短期居住権の場合には対抗力がありませんので,買受人に明渡しを請求されれば,すぐに出ていかなければならないと,法律的にはそういうことになります。この点については,例えば抵当権に対抗できない賃貸借については明渡猶予期間があるわけですが,短期居住権の場合には,やはり無償で使えるということが前提になっておりますので,明渡猶予期間のようなものを設けるのも難しいところがあるのではないかと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○南部委員 はい。
○沖野委員 細部ですけれども,幾つか分からない点がありますので教えていただきたいと思います。
  一読の点と重複するかもしれませんけれども,一つは,第1の場合の法律関係についてです。3ページの(2)の上のところで,(注)の箇所ですと,法定の債権であるとした上で,債務者は当該建物の所有者になると。したがって,遺産分割を行う必要がある場合にはというのは,共同相続の場合にはという趣旨と思いますけれども,基本的には配偶者以外の相続人が債務者となるんだと書かれています。しかし,建物自体は共同相続ですから,配偶者も所有者です。
  そして,例えば組合の場合で,組合の財産を一部の組合員に使わせるとか,あるいは組合と組合,一部の組合員との債権債務関係ですと,組合側はその組合員も含めた合有であるとか,合有的な債権債務という処理になると思うのです。法定の債権だから,別に扱うということはあり得るのかもしれません。ただ,注記のようにするとかえって複雑な話にならないかと思います。むしろ,所有者は配偶者を含めており,共有する財産について,一部の者との間で債権債務関係が立っているという説明をするのではないかと思います。
  そうでないと,例えばなんですが,権利が消滅したときに,原状に復する義務を負うとあります。誰に対して負うのかというとそれもはっきりとはしておりませんが,これは所有者ないし債務者との関係でだとすると,配偶者は除かれていいのかという問題がありますし,配偶者が死亡したときの原状回復というのもよく分かりませんけれども,そのときには遺産分割前に生じているわけですから,配偶者の相続人が更に入ってくることになると思うんですが,そういうものは全部除外されることにもなりかねなくて,この法律構成はいささか問題ではなかろうかと思います。説明だけの話かもしれません。
  それから,もう少し個別の問題ですけれども,今,既に申し上げましたが,原状回復です。一般的にここの考え方というのは,ある程度の特殊性があるものの,基本的には使用借権を与えるのと変わりはないと。しかし,それが法定で付いてくるということで,それとその前後に相続関係が来るので,そのための特殊性があるということかと思います。
  ほかの点は,用法の話ですとか,第三者に対して使用収益させてはいけないとか,終了時に原状回復するとかというのは使用借権と同じだと思うんですけれども,配偶者死亡によって終了したときの原状回復というのは,何を考えたらいいんだろうか。形式的にそういうのが問題になるだけで,実際は何もないということなのか,よく分からないなということがありまして,非常に細かいところですけれども,それが1点あります。
  それから,前にも問題になったかもしれませんけれども,占有の喪失が消滅ないし終了の原因になっているという点につきまして,遺産分割まで長期にわたるというようなことも珍しくはないといたしますと,例えば一旦ホームに入居するというような場合もあって,そしてホームへの入居というのは,入ってはみたものの,サービスが違っているとか,思いのほか自分が元気であったとか,いろいろなことで戻ってくるという可能性もあります。そういったときの占有の喪失というのをどう見るのかということですが,意図的にもう自分は要らないというような,そういうような場合だけを指すのであって,取りあえず空き家にしておいて,ほかに移っているというようなことでは占有の喪失にはなお当たらないという理解でよろしいかどうか,中身を確認したいと思っております。
  あと幾つかあるのですけれども言ってしまってよろしいですか。
○大村部会長 まだたくさんありますか。
○沖野委員 若干あります。
○大村部会長 どうぞ,続けてください。
○沖野委員 ありがとうございます。
  それから,第三者との関係という点です。第三者としてどういう人を考えたらいいのかというのは,いろいろ出てくるので難しいと思っております。既にいる第三者,具体的には被相続人の関係の抵当権者であるとか,あるいは被相続人の債権者であるとかは分かりやすいと思うんですけれども,相続人の債権者ですとか,あるいは受遺者の債権者などとの関係をどう考えたらいいのかということです。
  相続人からの譲受人については記述がございまして,5ページに,まず(5)のイのところで,第三者に当たり,かつ対抗できないという基本的な考え方が出された上で,しかし,占有権原は喪失しないということなので,占有はそのまま主張できると書かれているのですが,これは,第三者に対抗はできないけれども,占有権原は対抗できるという考え方なのか,それとも所詮持ち分であるので,2分の1は配偶者が有しているはずだから,現状を変えることはできないから結果的にそうなるだけだということであるのか。それが,それ以外の相続人側の第三者,例えば相続人の債権者が持ち分を差し押さえてというような場合にはどうなるかといった問題にも関わってきますので,占有権原だけは対抗できるという御趣旨なのか,結果的に持ち分との関係で変えられないだけだということなのかというのを,もう一つ確認したいと思います。
  それから,もう1点,第三者の関係では,受遺者の債権者というのが登場するかと思います。また,受遺者からの譲受人というのも登場すると思うのですけれども,そのときに相続人が処分をするような場合には,第三者が登場することによって対抗できないので,そこでこの権利関係というのは失われてしまうというか,主張できなくなると。そうしたときに,では,受遺者から第三者が登場するような場合も同じに考えてよいのか,それとも受遺者については,実質的に明渡猶予期間になるところがありますので,この明渡猶予期間は生きてくるのかどうかというところなのですけれども,あと,敷地の関係がありますが,取りあえずはそこまでです。
○大村部会長 ありがとうございます。4点ないし5点,御説明いただいたと思いますが,お答えをお願いいたします。
○堂薗幹事 それでは,まず,3ページの(2)の(注)でございますが,この点に関する御指摘については十分な検討ができておりませんので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。
  それから,配偶者が死亡した場合の原状回復義務ですけれども,基本的には配偶者の相続人が負担するということを考えております。その場合に,被相続人の相続人と配偶者の相続人が重なる場合もあるんだと思いますが,一致しない場合もありますので,一応その場合には配偶者の相続人が,通常損耗以外の損耗について,原状回復義務を負うという前提でございます。
  それから,占有喪失ですね,これを短期居住権の消滅原因としているところでございますが,例えば,建物に荷物を置いたままで施設に移ったというような場合には当然占有はありますので,その場合には短期居住権は消滅しないという前提ですが,完全に空き家にして引っ越したというような場合には,占有自体は喪失することになるのではないかと思います。もちろん,空き家にしても,例えば建物の鍵は自分で持っているとか,そういう事情があれば別なのかもしれませんが,もうここには住まないということで空き家にした場合には,短期居住権は消滅するというのが現時点での整理ということになります。
  それから,受遺者の関係ですけれども,この⑧に書いてあるような場合には,本来的には配偶者は無権利になるわけですが,建物を取得した者も基本的には無償で取得したのだから,一定期間は待ってあげてもいいのではないかと,そういった許容性があることを踏まえた規律でございます。そう致しますと,受遺者からの譲受人,あるいは受遺者の債権者については特にそういった事情もありませんので,特に受遺者からの譲受人というのは,基本的には相当価格での買受人も含まれますので,そのような場合にまで短期居住権を主張することができるということは考えておりません。
  ですから,ここは,建物の譲受人が受遺者と受贈者である場合に限って,特別に短期間の居住権を認めたという趣旨でございます。
○大村部会長 もう1点ありましたか,持ち分の問題が。
○堂薗幹事 それから,占有権原の喪失の理由ですけれども,この5ページで書いているのは,短期居住権が消滅したとしても,持分はありますので,その持分に応じて建物の全部を使用することができると,その限度で占有権原はあるのではないかという趣旨でございます。
○大村部会長 以上でよろしいですか。
○沖野委員 はい,今のところ結構です。
○大村部会長 分かりました。では,その他の方々いかがでございましょうか。
○石井幹事 手続的なことで確認をさせていただきたいんですけれども,短期居住権の消滅のところで,善管注意違反等の場合は消滅請求というのがございます。これは手続としては遺産分割の手続とは別の手続であって,仮に消滅請求の手続が継続していても,遺産分割のところで決着がついてしまえば,それで短期居住権としては消滅するという整理でよろしいんでしょうか。
  今回,全体について解決しなくても,一部,建物の帰すうについてだけでも決着がつけば,その時点で短期居住権は消滅するという御提案ですので,短期居住権が消滅する場面というのは増えるのかなと思うんですけれども,整理としては,今申し上げたようなことで間違いないでしょうか。
○堂薗幹事 こちらでもそのような整理でございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。御質問,御意見等ございましたら,どうぞお願いいたします。
○八木委員 後ほどの長期居住権との関係もあるのですけれども,6ページの「(6)消滅事由」の中の,一つは,建物の滅失によって短期居住権が消滅すると。後で長期のところでまた伺おうと思いますけれども。それとともに,再婚ですね。再婚が,一読のときは,消滅事由とすることの当否について検討すべきという意見が出たけれども,今回はそれを採用しなかったと。これは,1年という期間が6か月というふうに短縮されたので,6か月であればそれほど問題はないということで,消滅事由としていないという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 この6か月というのは,現在の再婚禁止期間と同じになっておりますが,⑧において6か月としたのは,再婚の場合を除外する必要はないというところまで考えたわけではございません。遺産分割が行われる場合には,例えば2年程度掛かることが当然想定されるわけですが,ただ,その場合も,再婚したという一事をもって短期居住権を必ず消滅させなければいけないかというと,そこまでの必要性はないのではないかということで,このような提案をさせていただいておりますが,この点については,再婚を消滅事由とすべきであるという考え方も当然成り立ち得ると思いますので,その辺りについては,この場で御議論いただければと考えております。
○大村部会長 よろしゅうございますか。
  ほかにいかがでございましょう。
○山本(和)委員 先ほどの第三者との関係のところに戻るんですけれども,5ページのイの一番最後のところで,短期居住権が侵害されて損害賠償ができるという,損害賠償の根拠にもよると思うんですけれども,これは譲渡した場合について書かれていると思うんですが,配偶者の債権者が差押えをして売却されてしまったとか,あるいは配偶者が破産してしまったという場合も,恐らくこの短期居住権が対抗できなくなるのではないかと思うんですけれども,その場合も損害賠償請求というのは発生するというふうに理解していいんでしょうか。
○堂薗幹事 ここで考えているのは,基本的には他の相続人は配偶者の使用を妨害しないという消極的な義務があるんだろうと,それを前提として,その義務に自ら違反して任意に譲渡した場合ですので,元々,他の相続人が債務を負担していて,それに基づいて譲渡がされた,あるいは換価がされたという場合まで,当然に損害賠償請求が認められるということにはならないのではないかと考えております。
○山本(和)委員 そうすると,配偶者にとってみれば,勝手に譲り渡したか,差し押さえられたかというのは,あんまり何というか,関係ないというか,いずれにしても,いわば他の相続人の責任で自分が短期居住権を失ったということには変わりはないような気がするんですけれども,やはり任意で譲り渡した場合とそういう差押え等で強制的に譲り渡した場合とでは,かなり違ってくるという。
○堂薗幹事 今のような事案というのは,短期居住権が成立した時点で他の相続人は既に債務を負っていたということになろうかと思いますので,やはり任意で譲り渡した場合とは違うのではないかと。基本的には短期居住権は,相続人間の内部関係でのみ主張することができ,第三者には効力が及ばないというのが今回の整理ですので,そういった観点からも,その点の違いを説明できるのではないかと思いますが,御指摘の点は,引き続き検討したいと思います。
○大村部会長 むしろ,損害賠償請求ができる場合もあるであろうということでしょうか,ここで書かれているのは。
○堂薗幹事 ここで書いたのは,基本的には任意に譲り渡した場合を前提としたものです。
○大村部会長 そういう場合を中心に,損害賠償ができる場合もあるであろうということだと思いますが。
○窪田委員 確認だけさせていただけたらと思うんですけれども,任意に持ち分を譲渡した場合に,別途損害賠償請求ができるというのは,何となく感じとしては分かるのですが,根拠は何なんでしょうか。債務不履行という形になるのでしょうか。
  それをお聞きしますのは,つまり任意で売却した場合であろうがそうではなく強制執行を受けた場合であっても,客観的には義務が履行されていないという状況は生ずると思いますので,もし債務不履行という観点から損害賠償を認めるのだとすると,両者の区別は本当に可能なのかと考えたからです。一方で,不法行為で特に主観的な要件をここで維持するのであればあり得る区別かもしれないのですが,その場合でもその根拠はそもそも何なのかなというのが少し分からなかったので,教えていただけたらと思います。
○堂薗幹事 その点は,正に短期居住権が法定の債権なのかどうかというところとも絡んでくるんだろうと思うんですが,この資料では法定の債権という形にしていますので,そういった意味では,債務不履行ということになるのではないかと思います。ただ,短期居住権については,法定の債権という理解のほかに,共有について定めた民法の規定ですと,変更する場合には全員の同意が必要であり,管理の場合には過半数で決するという規律があるわけですが,その規律について特則を設けたという整理も可能ではないかと考えておりまして,仮にそちらの説明を採るのであれば,それは債務不履行というよりは,不法行為ということになるのではないかという気もいたします。ここでの損害賠償の法的根拠については,もう少し詰めて検討したいと考えております。
○大村部会長 よろしいでしょうか。解釈論の余地が残るところかと思いますが。
○山田委員 遺言で遺産分割の禁止の期間を定めました場合,その期間というのは,短期居住権保護の期間に当たると考えてよろしいでしょうか。確認のため伺わせていただきます。
○堂薗幹事 部会資料⑧の遺言は,基本的には遺言で居住建物の処分が既にされている場合,すなわち,本来ですと居住建物の帰属が確定している場合を考えております。遺産分割を禁止するということであれば,最終的には遺産分割が必要になってくるということだと思いますので,その場合に,この上の方の原則的な規律を適用するのか,この下の方の例外的な規律を適用するのかという辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。
○大村部会長 山田委員の御質問は,分割禁止の場合に……
○山田委員 最長5年の期間禁止できるという規定を遺言で使われた場合,どのように考えたらいいのかということで質問させていただきました。
○堂薗幹事 確かに,その期間が非常に長いような場合は問題になると思いますので,その辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。
○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。
  今まで,幾つか御指摘を頂いておりますけれども,当該建物の帰属が確定するまでの間という形で期間を限るということと,それから権利の性質について,債権構成でいって対抗力を認めないということが提案されておりますけれども,それについては,皆様、大筋としてはそれでよろしいという考えでございましょうか。
○増田委員 確認的な質問なんですけれども,配偶者以外の共同相続人,昭和41年判例とか平成8年判例で居住が認められたのは子の事例だと思うんですが,子などに関してはこの新しい規定は適用されないけれども,従来の判例の解釈がそのまま維持されるという理解でよろしいでしょうか。
○堂薗幹事 子については,従前の判例がそのまま及んでくるのではないかと考えております。したがって,子については,短期居住権の規律の適用対象外ですが,使用貸借の成立を推認すること等によって一定の限度で保護されるということになるのではないかと考えております。
○増田委員 それで,実務的には,やはり子が居住継続する場合の方が紛争が起きやすいんだろうということがあるのと,今の相続だと,高齢化社会ですので子も結構な年であることが多いということを考えると,新たな立法の対象を子まで広げたところでどうということはないのではないかと。むしろ,配偶者のみに限定する方が少し奇異な印象を与えるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。
○堂薗幹事 平成8年の判例は特に配偶者に限った話ではありませんので,そこは御指摘のとおりだと思いますが,ただ,他方で,短期居住権を認める根拠として,配偶者の場合には,一般的に配偶者相互で協力・扶助義務を負うことになるのに対しまして,子の場合は,特に既に成人して,自ら経済活動を営んでいるというような場合には,特に親から扶助を受けるという関係にはないという違いがあるように思います。基本的に短期居住権は,婚姻の効力の余後効的なものとして,婚姻が死亡によって消滅した場合にも一定の範囲では居住を認めることには相応の合理性があるのではないかというのを一つの根拠としており,そのような観点から,ここでは,配偶者に限ってこういった規律を設けることとしております。
  特に,配偶者というのは,被相続人から見ますと,法律上は最も親しい関係といいますか,基本的に,親等というのは,親族間の親疎遠近の度合いを図るものですが,配偶者というのは1親等ですらないということで,少なくとも法律上は被相続人と最も近い関係にあるというところもございますので,そういった意味で,配偶者に限ってこういった特別の保護をするということにも,一応の理由はあるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 増田委員,いかがですか,よろしゅうございますか。
○増田委員 第一読会のときに,婚姻の余後効理論というのが出ていまして,婚姻の余後効の話であれば,内縁などに拡張する話も出ていたかと思うんですが,今回,そのような拡張を否定するのであれば,婚姻の余後効の話はもうないのかなと思っておったんですけれども,それをまだやはり援用しなければいけないのですかね。援用する必要性がちょっとよく分からないんですが……。
○堂薗幹事 今回の資料でも2ページの(2)の2段落目のところで,前回と違って,同居,協力,扶助義務というのを正面から出してはおりませんけれども,婚姻の余後効というのは根拠の一つになるのではないかという前提で資料は作成しております。また,内縁の配偶者について,法律上の配偶者と正に同じ保護を与えるかどうかというのは,それぞれの規定の趣旨によって変わってくるんだろうと思いますし,法律上の配偶者と内縁の配偶者で取扱いが全く同じだということになりますと,それは現行法が法律婚主義を採っている意味がそもそもなくなってしまうというところもございますので,少なくとも相続の場面では,配偶者と内縁の配偶者においてそういった違いを設けるということにも,一応の説明ができるのではないかと考えているところでございます。
○水野(紀)委員 その点について私もお伺いしようかと思っておりました。昭和39年10月13日の最高裁の判決は、内縁の配偶者に対して,相続人が所有権に基づいて明渡請求をしたのを権利濫用で封じて,結果的に内縁配偶者の居住権を認めています。この昭和39年の判決と比べますと,今度の法律婚配偶者の居住権はずっと弱くなっている印象を持つのですが,最高裁の従来の内縁配偶者の居住権に対する判例との関係では,今回の提案はどのような御説明になるのでしょうか。
○堂薗幹事 御指摘の事案で保護された理由は権利濫用ということになりますので,飽くまで一般条項で救済したにすぎないということでございますので,その判例の射程がどこまで及ぶかという問題はあろうかと思いますが,こちらとしては,従前の判例による内縁配偶者の保護よりも短期居住権による保護の方が弱いというようには考えておりません。具体的に,こういった点についてより保護すべきではないかという点がもしあるのであれば,御教示いただければと思います。
○大村部会長 水野委員,従前より弱くなっているとおっしゃったのは,具体的にはどの部分を指されてですか。
○水野(紀)委員 この昭和39年の最高裁の判例の理解自体,議論のあるところだとは思います。この判例がどこまで居住権を認めたと考えるのか。今,御説明いただいたとおり,権利濫用という一般条項で,この事案限りという判決を下したという理解ももちろんあり得るでしょう。しかし,この事案限りの特殊判断と言うより、従前は,内縁配偶者であればその居住権を認められる判例理論として理解されることが多かったように思います。
  また平成8年判決は,共同相続人間の間でも使用貸借という性質決定で,相当に長く,遺産分割が決着するまではただで住めることを認めております。法律婚の生存配偶者はそれより更に長く住めるという感覚が強かったように思います。私自身は、この御提案自体に反対とまで申し上げるつもりはないのですが,6か月ということになると,従来の感覚よりは保護される範囲がかなり狭くなったと受け止める方がむしろ一般的ではないでしょうか。
  従来は,たとえ内縁配偶者であったとしても、そのまま住み続けられて、共同相続人間でも、もめている間はともかくそのまま住ませてあげようという理解で,紛争の決着がつくまではかなり保護されていたのではないか。そういう印象を持っていたものですから。そのこと自体を肯定的に見るべきかというと,また話は別なのですけれども。
○堂薗幹事 ただいまの点ですけれども,⑧の6か月というのは,飽くまでも遺言で居住建物が遺贈された,あるいは特定の相続人に相続させたという場合を念頭に置いておりまして,遺産分割で建物の帰属が確定するまでの間につきましては,従前どおり,基本的には遺産分割が終了するまで無償で使用できるということでございまして,前回の部会ではその点について,期間の上限を設けるべきではないかという御指摘もあったわけですが,ここではその上限も設けないという考え方に立っておりますので,少なくとも平成8年の判例との関係で,それよりも弱くなっているということはなくて,むしろこの⑧,⑨のところは,平成8年の判例よりも保護の程度が強まっているということになるのではないかと考えているところです。
○水野(紀)委員 昭和39年の事件では,所有権は完全に原告である明渡しを請求する側にありました。内縁の配偶者で所有権はゼロだった事案に,権利濫用で居住権を結果的には認めたものですので,少し通うものがあるかと思った次第です。
○増田委員 私もこの案に根本から反対するわけではないのですが,説明の仕方として,相続の方から説明するのであれば,他の共同相続人,例えば子との整合性が問題となり,婚姻の余後効で説明されるのであれば,内縁配偶者との整合性が問題になるのではないかという疑問を呈した次第です。
  それから,もう一つ,細かい質問で恐縮なんですけれども,⑧のケースで6か月間無償ということになっていますが,この場合と配偶者が遺留分減殺請求権を行使して一部を取得した場合との整合性の話なんですが,⑧の場合は権利者対無権利者の関係にあるのにもかかわらず,6か月間は無償であるということであるのに,遺留分減殺請求権を行使して一部持分を取得してしまうと,権利者であるにもかかわらず,自分以外の持分に対しては賃料を払わなければならないのではないかという疑問が生じるのですが,その辺りの整合性はいかがなんでしょうか。
○堂薗幹事 ただいまのは,配偶者が受遺者に対して遺留分減殺請求をした場合という理解でよろしいですか。
  その場合につきましては,当然,受遺者の持ち分については,引き続き⑧の規律によって,6か月間は無償で建物を使用できると。したがって,一部共有持ち分を取得したからといって,⑧の規律の適用対象外になるわけではないというのが,こちらの整理でございます。
  したがいまして,自分が取得した持ち分については無償で使用できるのは当たり前ですので,御指摘のような遺留分減殺請求権が行使された場合であっても,なお6か月間については無償で建物を使用することができるというのが,こちらの整理ということでございます。
○窪田委員 一つ前の話に戻ってしまうのかもしれませんが,増田委員からの御指摘,あるいは水野委員からの御指摘もありましたが,私自身は,このような規律を配偶者に関する規律として置くということについては,一定の説明は可能なのではないかと思っています。内縁について明示するかどうかというのは,解釈論に委ねるという方法もあると思います。平成8年の判決の関係で,子供の場合にも広げるべきかどうかという問題になると,子供でたまたま同居していた者には短期居住権という権利が与えられ,そうでない者には与えられないということを,上手に説明するのはかなり難しいのかもしれません。ただ,配偶者については,一定の法的地位にある者という観点から,この規定を説明することはできるのかもしれない,積極的にそうしなければいけないということではないですが,理解することはできるのかなと思っています。
  ただ,その上で若干気になる部分というのは,あるいは増田委員の御質問の背景にもそれがあったのではないかと思いますし,また,水野委員の御意見の中にもそれがあったのではないかと思うのですが,従前の判例法理との関係というのが必ずしも明確ではないような気がいたします。
  多くの人は,この規定を見たときに,従来,使用貸借の判例があったけれども,そうした判例をこの規定に置き換えるのだと理解する可能性がありそうです。そうだとした場合,従前は別に配偶者に限っていなかったのに,そうした可能性が排除されて,配偶者だけの権利になってしまった。こういう見方をすると,従前の法律関係より大変に限定的なものになったということになるのだろうと思います。
  もちろん,今日の御説明の中でも,従前の判例は生きているということではあったのですが,もしそれが生きているということであるならば,こうした配偶者についての居住権,短期居住権の規定を作る以上,従来,判例でほぼ確立した形で実現されている使用貸借について,何か明示的なルールにすることはできないのか,そして,明示的なルールにした上で,それと短期居住権との関係を明確に説明した方がいいのではないかなという気がします。私自身はこうした方向はあり得るのだろうと思うのですが,その点を御検討いただけたら有り難いと思いました。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
  皆様の方からは,今,窪田委員が直前におっしゃいましたけれども,従前の判例との関係について,何か書き込むかどうかは別にして,一定の整理が必要であろうということ、それから,第三者が現れたときの後始末について,解釈論に委ねるべき問題点もあると思いますけれども,その辺りについての整理が更に必要ではないかということが指摘されたかと思いますけれども,全体としてはおおむねこのような方向で検討を進めるということについて,御賛同を頂いたと理解しておりますが,そのような整理で先に進ませていただいてよろしゅうございますでしょうか。
  ありがとうございます。
  それでは,引き続きまして第2の点に進みたいと思います。6ページ以下でございます。
  資料の第2で「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」,この部分につきまして事務当局から御説明を頂きます。
○大塚関係官 同様に簡潔に御説明申し上げます。
  7ページの「(補足説明)」に早速入りますが,制度の必要性についてでございます。
  一読の議論におきましては,現行法の下でも賃借権の設定などが可能であるとして,制度の必要性自体に疑問が呈されたところではございます。ですが,現行法上,建物を目的とする用益物件は存在しませんので,建物所有権をその用益物件とその余の部分に分割するということはできないことになろうかと存じます。
  また,現行法の下では,例えば配偶者の一方が他方の配偶者の居住権を保護しながら,他方の配偶者の死亡後には確実に自分の子がその建物を相続できるようにしたいと考えても,遺言によってこれを実現するというのは困難と考えられます。
  したがいまして,長期居住権は,配偶者の居住建物の所有権を,使用権に関する部分とそのような部分とに分割するのに必要な受皿となる権利を新たに創設することを目的とするものとこちらでは位置付けておるところでございます。
  次に,個別の論点に移りたいと思いますが,「法的性質等」でございます。
  長期居住権につきましては,その存続期間が長期に及ぶということが想定されますので,その保護のためには,端的に第三者対抗力を付与するのが相当と,現時点で整理しているところでございます。
  また,今回の方策におきましては,建物所有者には配偶者の使用を受忍する義務以外には特段の義務を負わせないといったことを想定しておるところでございます。
  これらの点を踏まえますと,長期居住権の法的性質につきましては,用益物権と構成することを想定している次第でございます。
  次に,「取得要件」など,(3)でございますが,9ページ目の冒頭からとなります。
  部会資料2におきましては,遺産分割などといった発生原因事実以外の要件としては,配偶者が相続開始のときに被相続人所有の建物に居住していたことのみを上げておったところでございますが,一読の議論におきましては,居住要件を必須の要件とする必然性はなく,むしろその他の保護要件を設けるべきではないかといった指摘などがされたところでございました。
  この取得要件をどのように定めるかというのは,制度趣旨とも絡むところですが,この点につきまして,例えば配偶者の現在の居住利益の維持に重点を置くということでありましたらば,この居住要件以外の要件は設けないとすることは考えられます。ただ,このような考え方によりますと,相続人である配偶者が比較的若年であるといった場合には,長期間にわたる継続が見込まれますので,建物の流通が阻害されることになるとの指摘もされたところでございます。
  長期居住権の制度は元々,高齢の配偶者が新たに居住建物を借りることに困難が伴うことなどを考慮したものでございまして,その点を強調いたしました場合には,いわゆる高齢者住まい法などと同様に考え,相続人である配偶者について,例えば60歳以上といった年齢要件を設けることが考えられるところでございます。その場合には,この年齢要件と居住要件の両方を要求することとするのか,あるいは居住要件は不要として年齢要件のみとするのかといった点についての検討が必要と考えられるところでございます。
  さらには,9ページの一番下でございますが,(注3)として,例えば被相続人との婚姻期間が一定期間(例えば10年)以上継続したこと等の要件を加重するといったところも,一つの選択肢として考えられるところではございます。
  続いて,(4)の「長期居住権の効力等」についてですが,この方策におきましては,後ろの財産評価のところで出てくる二つの方式のことを指しますけれども,配偶者が長期居住権を相続分による全額前払いで取得する方式と,存続期間中に対価を支払い続ける方式のいずれも許容することを想定しております。これは,配偶者の希望に応じた柔軟な権利の設定を可能にする趣旨でありますが,ただ,対価を払い続けるといった後者の方式での使用権限の設定を認め,かつ遺言においてもこれをできるとした場合には,私的自治との関係で問題がないか,慎重な検討が必要であろうと考えられるところでございます。
  今触れました財産評価の話に移らせていただければと思いますが,11ページの下の方の(5)でございます。
  計算式自体は,前回触れさせていただいたところと大筋変わるものではございませんが,以下二つの方式を想定しているところでございます。
  ㋐が(全額前払方式)として,要は最初に支払ってしまった上で,後ほどの対価は支払わないという形式,この場合はこのような計算式での評価が想定されるところでございます。詳しい計算につきましては,今後も検討が必要とは存じますが,例えばこのような方式が考えられるところでございます。
  次頁の㋑,これは「賃料支払方式」と記載しておりますように,存続期間中に建物使用の対価を支払い続けるという場合でございます。この場合は,例えば遺産分割のときに相続財産に賃借権が含まれる場合と類似した方法で財産評価を行うことが想定されるところでございます。
  続きまして,(6)の「長期居住権の優先取得を認めるかどうか」というところでございます。
  一読の議論におきましては,仮に優先権を認めるとした場合には,遺産分割に関する紛争の柔軟な解決を阻害するのではないかといった指摘などがされまして,優先権を認めることについて否定的な意見が多かったところでございます。
  そこで,今回の資料におきましては,配偶者に長期居住権の優先取得権までは認めないという内容にいたしております。
  次に,(7)の「第三者との関係について」でございます。
  先ほど申し上げたとおり,第三者対抗力を認めるということにしましたので,例えばアの「建物所有者との関係」におきましては,対抗要件を具備している限りは,譲受人に対しても配偶者は長期居住権を対抗することができるということになろうかと存じます。
  次に,13ページの「抵当権者との関係」につきましても,要は登記の先後で優劣が決せられるということになろうかと存じます。
  長期居住権につきましては以上でございますが,続いて,第3の「賃貸物件である場合の保護方策」についても,併せて若干御説明申し上げたく思います。
  この点につきましては,一読の議論におきまして,何らかの措置を講ずることを積極的に検討すべきとの指摘もされたところではございますが,他方で,あえて特段の措置を講ずる必要はないという指摘もそれなりに多かったところでございます。
  そこで,当方としてももう一度検討したところでございますが,この点につきましては,先ほどの長期居住権で優先取得権を認めないとしたことなども踏まえまして,基本的に現行法の規律を維持するのが相当ではないかと考えておるところでございます。その点につきましても,併せて御意見を賜れればと存じます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  第3の,配偶者の居住建物が賃貸物件である場合も含めて御説明を頂きましたので,それも含めまして,御質問ないし御意見を頂戴できればと思います。
○浅田委員 9ページ辺りですけれども,長期居住権を設定する際に関してというのを意見として申し上げるのが一つと,それから御質問が一つございます。
  部会資料9ページ3段目に,「建物の流通が阻害されることになるとの指摘」ということが書いてございますけれども,その同様の認識を申し上げたいと存じます。
  これは,第2回の会議でも申し上げたことでございますけれども,長期居住権が第三者対抗力を有するとなると,相続債権者としては対抗力を備えた長期居住権の出現により,回収期待が阻害されることを念頭に置いて行動することになろうかと思います。債権者は,遺言の内容はもちろん,遺言分割協議の行方も把握できませんから,ある意味,疑心暗鬼に駆られてしまいます。
  そこで,仮にここで議論されているような長期居住権が強固,かつ長期な権利として立法された場合には,極端な話,相続が開始する前に,取りあえず仮差押えを行うという行動に出ざるを得ないということもあり得るのではないかと思います。
  また,長期居住権は,当該配偶者の死亡により消滅するということですから,その存続期間を予測することは困難です。そうしますと,当該建物について,長期居住権に劣後する抵当権の設定を受けた債権者としては,いつ長期居住権が消滅するか判断し難いため,その担保評価は保守的なものにならざるを得ないと思われます。
  もっとも,この点,現行法でも,抵当権に優先する賃借権がある場合と同じではないかという,そういう整理もされているかとは思います。ただし,繰り返しになりますけれども,本長期居住権が不相当に強固であれば,不動産を活用した金融の促進円滑化という観点から,ネガティブな要因があることは否定できない点を,念のために指摘しておきたいと思います。特に,私が思いますに,賃料が生じないようなタイプの不動産が出てくることになり,配偶者が固定資産税の負担だけするということになるとすると,その流通というのがどうなのかということは,ちょっと問題になるかと思います。
  したがって,本長期居住権の強度,すなわちその具体的な内容,要件の設計が重要になると思います。この点,部会資料9ページの中ほど,とりわけ(注2)・(注3)等において,配偶者の保護とのバランスを考慮した検討がなされております。この内容で妥当,十分であるのかということについては,現時点では銀行界としての結論はまだ出ておりませんけれども,この点につきましては,何とぞよくご検討を深めていただければと存じます。
  それから,質問ですけれども,これも確認ということになるかと思いますけれども,抵当権に基づく物上代位の賃料差押えができるかどうかということであります。とりわけ全額前払方式ですか,11ページの下の(5)のアで書かれているようなものである場合には,これはもう賃料の前払いがされているということでありますので,現行の判例に鑑みますと,差押え前にもう払い渡しがされているということになってしまいますので,これはもう賃料差押えもできなくなってしまうということになろうかと思いますけれども,念のために,賃料差押えの件について御検討があれば教えていただきたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  第1点は,この問題について考える際の一般的な留意事項を御指摘いただいたものと伺いました。
  第2点については,事務当局の方からお答えいただきます。
○堂薗幹事 建物の抵当権に基づく物上代位の点でございますが,御指摘のとおり,全額前払方式の場合には,既に差押え等は不可能な状態にありますので,物上代位はできないということになろうかと思いますが,賃料を支払う方式の場合につきましては,債務不履行があれば抵当不動産の果実にも抵当権の効力が及ぶことになりますので,賃貸借契約がある場合と同様に,長期居住権の対価についても物上代位は可能ということになると思います。
○浅田委員 ありがとうございました。
  部会長がおっしゃったとおり,現時点で賛成とか反対とか,意見を陳述するものではございませんので,あくまでも検討における一般論というのを前段で述べさせていただいた次第です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  ほかにいかがでございましょうか。
○南部委員 ありがとうございます。
  まず,7ページの「長期居住権の制度を設ける必要性について」ですが,この間,私の方から,この議論の中で,より複雑にならないようにということで,何度も申し上げてまいりました。
  この7ページの最後の方の3行に書かれています「例えば」の箇所ですが,ここで挙げられているような問題は,そもそも普通の親子関係であれば起こり得る可能性が低いかなと考えております。遺言を書く側からすれば,選択できる手段の一つとして有効な面もあるかも分かりませんが,一方で,やはり問題を複雑化することの懸念もかなりしております。今回,長期の制度を設けるか,設けないかはこれからの検討になっていくかと思いますが,一度設けてしまうと,また戻るということはできないということになりますので,是非,専門家の先生方の方で慎重な御議論をしていただいて,より私たち一般の者が使いやすいものになるようにしていただきたいと思っております。
  特に,長期のメリットが,私がこの議論に入ってから余りよく見えないというのもございますので,そういった点も具体的に御議論いただけたらと思います。これは要望です。
  もう一つ,9ページでございます。9ページの配偶者の年齢要件についてですが,父親が高齢で例えば再婚した場合,義理の母が子供などほかの相続者と年齢が余り変わらない例も,40歳の差などいろいろなケースが最近見受けられます。そういった場合に配偶者の長期居住権の優先取得を認めてしまうと,他の相続権との関係が逆に公平性に欠ける可能性があると考えますので,長期制度を設ける場合には,更に検討を深めていただきたいということで要望を申し上げたいと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  何かお答えがあれば。
○堂薗幹事 その点については,御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。
○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。
  今,これを設けるとすると,要件の方で一定の枠を掛ける必要があるのではないかという発言が複数ございましたけれども,その点,あるいは他の点についてでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。
○村田委員 今,要件について慎重な検討をという御発言が続いたので,それと関連する趣旨で申し上げたいんですけれども,9ページの一番下の(注3)のところでは,保護の必要性を基礎付ける要件として,婚姻が一定期間継続したことを要件とすることも考えられるという御指摘があります。政策的に長期居住権をつくろうということですので,そういう要件を設定するということはあり得ると思うんですけれども,他方で,この要件に関して,婚姻期間の実質が争われるということは容易に想定されます。このように要件が実質判断を含むものになると,紛争が非常に難しいものになるということもあり得て,実務において困るという事態も生じ得るかなと思います。
  そういう意味では,居住要件ですとか,年齢要件ですとか,そういう明確な,客観的に判断できるもので要件が設定される分には基本的に問題はございませんけれども,実質判断を要し,紛争を招くことになるような要件の設定は避けていただきたいなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承って,検討をしていただきたいと思います。
  ほかにはいかかでございましょうか。
○増田委員 前回,第一読会のときには,この長期居住権というのは,審判により賃借権を設定できるか,できないかという論点において,解釈論としてはできないという考え方もあり得るということから,ほかに方法がない場合のぎりぎりのオプションとしての選択ということで検討を進めるという理解をしていたのですが,今回,用益物権というかなり重い形で登場したように思いますので,改めて少し意見を述べさせていただきたいと思います。
  まず一つは,本当に生存配偶者の利益になるのかどうかということです。これは,換価性がない権利を取得するということになって,本来であれば,少なくともその不動産の2分の1の価値は換価処分できる形で取得する権利を持っているのにもかかわらず,実際に取得するのが,単に住んでいることができるだけで,換価性のない権利であるということによる問題です。
  以前にも指摘しましたが,これでは後に状況が変わったときに,売却して,便利なマンションや,小さい家へ移るとか,あるいは施設に入るとかということもできなくなる。あるいは増改築とか,用途変更とか,そういうのも困難になるということで,本当に配偶者の保護になるのかというところから,まず疑問を呈したいと思います。
  それから,先ほど浅田委員も指摘されたところですが,対象不動産について,継続的な利用対価の支払いがない不動産であり,しかも存続期間が不確定という用益物権が付いているという物件は,資産価値が著しく低いものと考えざるを得ないということです。そうなれば,資産の流動性を阻害するし,所有者が何かの資金が必要になったときにも資金の調達ができない,これを担保にしてお金を借りるということも非常に難しいということになります。これは,社会経済的にも大きな損失だろうと考えられます。
  それから,相続債権者の方から見ると,配偶者は債務の2分の1を相続することになるんですが,その配偶者が換価性のない資産を保有することになってしまうことになります。これは,相続債権者にとっては,実質的に詐害されることになると考えます。配偶者が取得する資産の実価が総財産の2分の1にならないということは,相続する負債とのバランスがとれないことになります。
  相続関係を取り巻く関係者の資産状態だとか,健康状態や社会経済情勢だとかいろいろな要因を含めた環境が,相続開始から生存配偶者の死亡まで変わらないということが前提であれば,それぞれリスク計算が可能になってくるわけですけれども,実際には,仮に配偶者が60歳であったとしても,地上権の残存期間は20年ぐらい想定できるわけで,誰も20年後の社会環境は想定できないわけですから,誰にとってもやはりリスクが大きすぎる制度であろうと思います。
  第一読会のときも出ていましたけれども,配偶者の居住を確保するという方法としては,通常は配偶者が居住不動産の所有権を取得させるとか,あるいは持分を幾らかでも取得させるとかというような方法が使われており,圧倒的多数はそれで解決しているわけです。代償金支払能力がないというときには,今はリバースモーゲージ,要するにお金を借りて死亡したときに,不動産を売って返すといった商品もありますし,ほかにも工夫すれば,もうちょっと不動産の価値を活用できるような方法も考えられるだろうと思います。
  第一読会で出ましたように,ぎりぎりのオプションとして問題になるのであれば,民法ではなくて,家事法195条の一類型として,裁判所が審判でなし得る分割方法の一つとして,賃借権を設定するという方法を明文化するという方法もあり得るのではないか。家事法194条は換価処分を可能にしていますから,強制的に所有権を奪う換価が可能である以上は,所有権に制限を加えるという,それより小さい処分を立法化するということも不可能ではないのではないかと考えます。その辺りも含めて御検討いただきたいと思いまして,用益物権というような効力が強い割には価値が低いようなものを持たせるという方向は疑問です。
  それから,ついでですが,⑨の任意処分は,多分配偶者の保護ではないだろうと思います。配偶者の保護をするのであれば,居住権なんか取得させずに,所有権若しくは持分を取得させるのが一般的であろうかと思います。
  任意処分にしても,先ほどから申し上げているように,財産全体の価値を下落させるような処分というのを許すのかどうかという問題がありますし,遺留分の計算においても結構難しいことになります。また,居住権の評価が高く出るようなことになれば,生存配偶者にかえって不利益な結果になることもあるかもしれません。
  以上,いろいろ問題点を申し上げましたけれども,やはり長期の方は,今までにない制度を正面から作るということですから,多方面からの検討が必要だと考えます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  1点確認ですけれども,増田委員がおっしゃった個々の問題の御指摘はそれぞれあり得ることなのかと思いますけれども,用益物権であるか,賃借権であるかということについてですが,増田委員が想定されている賃借権というのは,期間が定まった,死亡によって消滅するのではない賃借権を想定されているという理解でよろしいでしょうか。
○増田委員 そう考えています。ある程度,やはり配偶者の保護に必要な期間と,通常考えられるような一定の期間です。更新は,当事者の合意によってはあり得ることが前提です。
○大村部会長 ありがとうございます。
  それでは。
○堂薗幹事 御指摘につきましては,いずれも根本的な問題だろうとは思っております。資産の流動性の点につきましては,御指摘のような問題はあるだろうと思いますので,その点は,配偶者の居住権保護と不動産の流動性の問題の調和をどこで図るかという問題であり,正に長期居住権を認めるための要件をどのように定めるかという点と関連する問題だろうと思いますので,十分な検討をしていきたいと思います。この点についても何か御意見がございましたら,是非教えていただければと思います。
  それから,換価性のない物件を取得させることが配偶者の保護になるのかという点でございますが,ここで考えているのは,飽くまでも一部そういった需要があるのではないかと。一般的に相続の場面で,こういった形で換価性のない用益物権を取得させることが配偶者の保護になるのかどうかというのは,別途問題になろうかと思いますが,ただ,一部の方においては,居住建物を換価するつもりはなく,非常に高齢で,短期間に限って居住権だけは確保したいという需要がある場合に,現行法ですと,その需要に応えることが難しいと。そこで,そういった限定されたニーズに対応できるような制度があってもいいのではないかということでございますので,そこは,一般的に配偶者の保護になるかどうかという問題とは別問題ではないかと。
  ですから,⑨のところも同じような話でございますが,取りあえず配偶者の居住権を確保しつつ,最終的には自分の子供に建物の所有権を取得させたいという一定のニーズがあって,そのニーズに応えるものとして,こういった制度があってもいいのではないかということでございますので,一般的に相続の場面で使われるようなものとして考えているというわけではございません。
  それから,家事事件手続法の194条との関係についても御指摘がございましたが,この点につきましても,家事事件手続法上は,特別な事情がある場合に債務負担をさせることができるということになっているわけですが,ここでいう特別の事情というのは,通常は債務を負担する相続人に現在資力があるというのが前提になっているんだろうと思います。しかし,賃貸借のような形で長期にわたって配偶者が他の相続人に支払をするという場合につきましては,配偶者の資力というのは非常に長期間にわたって問題になりますので,そういった意味で,194条の適用場面とは異なり,例えば10年後に資力不足に陥った場合に,他の相続人に求償できるようにするのかどうかとか,そういった問題も生じてきますので,なかなか家事事件手続法の194条のような形でこの問題を解決するというのも,難しい面はあるのではないかと考えているところでございます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかに御発言ございませんでしょうか。
○金澄幹事 すみません。質問なんですけれども,11ページのところの配偶者の居住期間の財産的評価のところなんですけれども,これが,まず評価が非常に難しいだろうと思います。現実の調停なり審判なりというときも,どうやって評価をするのかというところが問題になってくると思います。借地権以上に借家権は個性が強いですし,評価が難しいと言われているので,これをどういうふうにきちんと評価をすることができるのか,調停や審判の中でも問題がありますとともに,それを,では遺言で書くときに,一体遺言を書く人が評価を考えて書くことができるのかどうかという問題がまた出てくるかと思います。そのために,鑑定とかいろいろなことが必要になって,結局,これが遺言でできるのかというところの問題が一つです。
  あとは,この長期居住権の評価が,配偶者の相続分を超える場合というのも,また長期の場合だと出てくるのではないかと思います。例えば,60歳であれば,平均余命までに三十何年か女性の場合でしたらありますので,月々10万の家賃と考えても,120万の3,600万ぐらいになるんだろうと思いますけれども,中間利息を控除したとしても,今度,債権法の改正で利率が下がれば,もうちょっと中間控除の額が減るかとは思いますけれども,そんなことを考えると,配偶者の相続分を超えたときにどうなるのか,遺留分減殺をされたときとかなんか,いろいろなことを考えると,なかなかそこら辺が難しいのかなと思っているところです。
  あとは,10ページの配偶者の負担についてですが、通常の必要費とか臨時費については,これは配偶者が負担をするということになっているんですが,全額前払方式とか賃料支払方式ということになると,有償で結局は借りているわけです。にもかかわらず、その場でその場で必要費や臨時費を払うことになっているので,通常の賃貸借に比べると,やはり配偶者の負担が重いのではないのかという気がするんですけれども,いかがでしょうかというところです。
○大村部会長 ありがとうございます。
○堂薗幹事 長期居住権の財産評価をどうするかというのは非常に難しい問題だとこちらでも思っておりまして,この点については,別の機会に,不動産鑑定士のような専門家にも入っていただいて,財産評価が適切にできるのかという辺りの検証をした上で,それをこの部会にもお諮りしたいと考えております。
  それから,相続分を超える場合の処理ですが,長期居住権は配偶者の具体的相続分の範囲内でのみ取得可能という整理ですので,配偶者の具体的相続分が長期居住権の財産評価を超えるような場合には,そもそも長期居住権は取得できないという前提で制度設計をしております。
  いずれにしても,御指摘のとおり,長期居住権については,最初の段階で自分の具体的相続分の中で賃料相当分を支払いをするのか,あるいは遺産分割後に払い続けていくのかと,いずれにしても有償の義務を負担しているというのは御指摘のとおりですので,この必要費--建物所有者からしますと,自分は全然使えないのに通常の必要費まで負担しなければいけないということだと,非常に建物所有者の負担が重くなりますので,ここはやむを得ないかなと思いますが,臨時の必要費,非常の必要費ですね。これにつきましては,ほかの考え方もあり得るのかなとは思います。ただ,ここでは一応,地上権と同じように用益物権ということで考えておりますので,地上権と同じように,基本的には所有者に対して所有に適する状態に置くように求めることはできないという前提で制度設計はしておりますので,そういった意味で,必要費については通常のものであっても臨時のものであっても,配偶者の負担という前提で考えているところでございます。
○大村部会長 遺言を使うのは難しいのではないかと御質問もありましたが。
○堂薗幹事 ああ,そうですね。その点も,具体的にこの財産評価をどうするのかというところ次第だと思いますが,いずれにしても,遺言の場合には,長期居住権の財産的評価はおおむねこのぐらいだろうという予測の下に遺言をするというのは,難しい面があるように思います。
○大村部会長 よろしいでしょうか。
○金澄幹事 制度に反対するわけではないのですが、オプション等の一つとして使いたいと希望している人,特に後継ぎ遺贈がなかなか論理的にも難しいという中で,こういう選択肢があっていいのかなとは思います。一般的に,では例えば今お話ししたように,遺言でやるとなると,ちょっと荷が重いのかなという気はしております。
  あと,先ほど,相続分を超えることがある場合は,もうこれは設定できないということでしたが,水野先生にもちょっとお伺いしたいんですけれども,フランス法だと,こういう場合は別に,設定を認めるというような法律もあるようで,何かもうちょっとこれを工夫して,うまく使えるような,身軽でいながらフレキシビリティがあるような制度に何とかできないものかなという,お知恵を頂ければと思っています。
○大村部会長 水野委員,何かございますでしょうか。
○水野(紀)委員 恐らくモデルにされているものと従来の日本法との体系があまりにも違うことが,一番悩ましいゆえんなのだろうと思います。今の御発言にありましたように,後継ぎ遺贈とか順次相続とかいうもののニーズを,フランス法の場合には実質的にはある程度実現しています。一番伝統的には、用益権の利用です。生存配偶者に広い用益権を与えて,生存配偶者の老後の生活を守った上で,その底地価格としての所有権が血族相続人のところへ行く。つまり,生存配偶者の死後、用益権がなくなるだけで、遺産は生存配偶者の血族の方には流れていかない形でこの問題を処理してきました。そういうひとつの伝統的な発想が7ページの下の方のところには流れ込んできています。
  それから,第三者との関係でも,先ほど浅田委員からも,現行業務への弊害がいろいろあるという御発言がありましたけれども,フランスの場合には家族の居住財産というものは,家族がそこに住んでいるというだけでかなりほかの不動産とは違う保護があります。子供たちを育てるための環境を守るなどの配慮から,家族の居住財産そのものが,そこに家族が住んでいるということだけで,債権者たちに対してかなりの力を持つような全体の制度設計になっております。そしてそれらの背景には、不動産登記はすべて公証人が管轄するという制度的担保があります。私人の自由な登記申請に任せてきた日本の従来の不動産業務の流れとは、相当に根本的に違っていると思います。そういう非常に大きな全体の相違の下で,それでも何とかこの制度を入れようと,事務方の方で御苦労なさったのですが、それに対して,日本の制度設計というのはそういうことになっていないという,実務全体からの様々な御批判があるのだと思います。
  ただ,そもそものこの審議会が開かれることになった経緯の最初は,非嫡出子の相続分が増えた場合の危惧,つまり嫡出子であれば自分たちの意思によって,自分の親である生存配偶者を老後,最期まで居住家屋にそのまま住ませる形で遺産分割するか,あるいは遺産分割を先送りするか,おそらくそういう形で進めるだろうけれども,非嫡出子は直ちに自分の持ち分を要求することになるだろうという問題でした。非嫡出子に限らず、前婚の嫡出子がいた場合も同じ問題を抱えていますけれど、そういう場合は、配偶者は自分の老後をその家屋に住み続けたいと思ったとしても,それがかなわない、つまり僅かな年金とその家屋の自分の相続分しかない生存配偶者は,その家屋を売ることによって遺産分割せざるを得ないという問題があります。この問題を何とかしようというのが,そもそものこの相続法見直しのきっかけであったことを考えますと,やはり大変な御苦労があることは分かるのですが,何とか配偶者の長期居住権の制度を,何らかの形で日本法の中にも入れていただければと思います。
  そのときに,従来の銀行業務であるとか,先ほど増田委員から御議論もありましたように,遺留分の減殺請求によって共有持ち分になるという従来の論理などとの均衡を考えなくてはならないということで,大変な御苦労があることは分かります。御苦労の多いこのような御提案について,私は感謝しておりますし,何とかこの方向で頑張っていっていただきたいと思っております。
  ただ,先ほど申しましたように,従来の伝統にない制度を入れようとしておりますので,それが従来の日本の不動産についての実務全体とあちこちで齟齬を起こしてしまうということは,これはもう間違いのないことだと思います。それでも,不動産実務を扱っておられる方々に,そういう問題を解決しようという工夫なのだということで,むしろお知恵を拝借する形で,全体の整合性の中でなんとかとり組んでいただければ有り難く存じます。
○大村部会長 ありがとうございました。御意見として承りました。
  そのほかいかがでございましょうか。
○石井幹事 既に御意見として出ているところと重複する部分もございますけれども,長期居住権の財産評価が非常に難しいという点は一読でも申し上げたとおりであり,鑑定を要するなどして審理が長期化しないか懸念しております。また,今日の御議論を伺っていると,そもそも当事者の方が長期居住権の取得を希望されないこともあるのかなと思います。こうしたことからすると,仮に,審判において,長期居住権を設定するということになったとしても,うまく使えるのかということについては懸念があるところでございます。
  他方,調停であれば,合意の中で長期居住権を柔軟に取り込む形で活用できる余地はあるのかなとも思います。もっとも,この点は,長期居住権の財産評価の方法についてどのような規律を設けるかにも関わってくるように思います。この点については,不動産鑑定士の方にも入っていただいて,別途御検討いただけるということであって,明確な評価の方法が確立されれば,それは実務的に非常にありがたいなと思うんですけれども,他方,余りかちっとされてしまうと,かえって柔軟な使い方ができなくなるおそれもあるのかなと思います。現時点で,この点に関して,事務局の方でお考えになっていることがあれば,伺えればと思っております。
○堂薗幹事 その点につきましては,適切な財産評価が可能なのかどうかというところで,専門家のお知恵を拝借して検討していきたいということでございまして,法制度上,何らかの形でその結果を反映させるというところまでは考えておりません。
○大村部会長 石井幹事,よろしいでしょうか。
○石井幹事 資料の記載についての確認なんですけれども,例えば12ページの上の方の(注)の中で,「このような事態が生じないようにするためには,長期居住権の評価額を算定する際に前記リスクを考慮しないこととすることが考えられるが」という記載があります。これは,飽くまでこうした考え方に従って財産評価を行うという限度の意味ということでしょうか。
○堂薗幹事 ええ,ここはそういう理解でございまして,一読の議論で,長期居住権の場合には不確定要素があるので,そのリスクを考慮した上で財産評価をすることになるのではないかという御指摘がありましたので,その点についてこちらでも検討したんですけれども,ここに書いてあるような問題があるので,なかなかその点のリスクを評価してというのは難しいのではないかと思います。したがいまして,この点について法律上規定を設けるということは考えておりません。
○村田委員 今の石井幹事の質問と同じところをお聞きしようかと思ったところだったんですけれども,今の御説明を聞くと,長期居住権の財産評価に当たっては,長期居住権について市場価値のようなものが一般的に成立し得るという想定で,それを不動産鑑定などによってどのように算定するかという辺りについて,専門の方の御意見を聴くというようなことをお考えになっているんでしょうか。
  規定を設けられるかどうかは別として,財産評価の方法をある種法定してしまうというのは,一つの考え方であると思うんですけれども,他方で,健全な市場形成に委ねるという考え方もあり得ると思うんですね。それらの考え方の間に何か考慮事項を明記するとか,いろいろなやり方は立法の仕方としてはあり得ると思うんですけれども,現時点で,どのぐらいのことまでイメージしておられるのかお聞きしたかったんですけれども。
○堂薗幹事 御指摘の点は,今後具体的に考えなければいけないと思っておりますが,基本的には,審判でやる場合には鑑定をお願いして,鑑定でどんな評価をするかということになるかと思いますが,そもそも財産評価が鑑定において可能なのかどうかという辺りを含めて検討する必要があると思います。長期居住権の場合は,基本的には一身専属的な権利と考えておりますので,基本的にはその評価をする際には,配偶者が取得する居住利益をどのように財産評価するのかというところに尽きてしまうのかなと思いますので,市場価格でということになるのかどうか,こちらもよく分からないところはありますが,そういった辺りについてもう少し検討を深めていきたいと考えているところでございます。
○村田委員 仮に不動産鑑定士の方などの御意見を頂くのであれば,どういう前提条件で御意見を頂くかということが多分大事になってくるのかなと思います。単に市場に流通している建物賃借権の価格を一旦出して,それを前提にこういう計算をしろということであれば,多分そう難なくできるんだろうと思うんですけれども,そうではなくて,長期居住権なるものが将来できるとして,それが市場に流通したらいくらと評価できますかというような形で御意見を頂くということになると,なかなか難しい要素が出てくるのかなという気もしております。御意見を頂く際の前提条件をどのように設定するかについては,いろいろなパターンを考えて御意見をお聴きする必要もあるように思いましたので,その点,指摘させていただきます。
○堂薗幹事 御指摘を踏まえて,検討したいと思います。
○上西委員 一身専属的であるか否か、用益物権であるか否かといった考え方のほか、相続開始時点における建物の評価額を上回ることがあるのかというと,通常はないと考えます。多くのもめない事案を想定すると,相続開始時点における時価は,固定資産税の評価額がそのメルクマールになるかと思います。その評価額の100%とか80%を上限にするということが可能であるとすれば,遺言を書くときであれ,当事者で分割協議するときであれ、その上限額が参考になります。しかし、全てこういう算式で行うと,かえってもめる事例も発生するかもしれませんので、原則としつつも,当事者が別の価格による場合については差し支えないという,実務上ののり代を置いておいていただく必要があると考えます。
○堂薗幹事 その点につきましては,御指摘のとおり,当事者間の協議で行う場合には当事者間で評価額について合意がされれば,それを前提に遺産の分配をして問題ないと思いますので,御指摘のような形になるのではないかと考えております。
○沖野委員 ありがとうございます。第2の方策全般については,基本的には選択肢を増やすというのが基本になる観点ですので,多くの場合これでいきましょうということではなくて,現行法ではなかなかできない,ひょっとしたらニッチかもしれませんけれども,そこの部分を何とか対応できないかという制度として考えるというわけですので,そのような選択肢を一つ用意するというのは,結果的に余り使われず,低調であるということであったとしてもよろしいのではないかというふうに考えております。ただ,それだけのコストを掛けていろいろな調整が十分にできるかという問題はあるかとは思うんですけれども,基本的な姿勢としては,選択肢を一つ増やすという観点から検討をするべきではないかと思っております。
  そうしたときに,現行法でできないことをどこをやっているのかという問題がありまして,例えば終身の利用というようなことが現行法でできるのかというと,こういったところはなかなか難しいだろうと思いますし,遺言で設定できるのかという辺りも難しい。それから,登記の手続なんかも,ちょっと特殊な登記になるのかもしれませんので,今,例えば何々によって賃借権を設定することができるとか,あるいは賃借権の規定を準用するとか,そういうものでできないところはどこなのかなと,その辺りを入れる必要があるのかという視点も,あるいは一つ可能なのかと思っております。
  私は,この制度自体もさりながら,遺言でできるということはかなり大きいのではないかと考えておりまして,評価も難しくて,遺言で本当に使われるのかということですが,十分に財産があるような場合にこの建物については使用させたいというようなことであれば十分考えられるでしょうし,そういった利用が考えられますので,確かに困難な場合はあるとは思いますけれども,そうでない場合も十分あるのではないかということです。
  それから,遺言による設定ができるということは大きいのではないかと申し上げたんですけれども,そうしたときに,遺言による設定の場合と分割の協議等による場合とが全く同じなのかどうかということも気になっておりまして,例えば現時の居住という要件ですとか,あるいは先ほどの具体的相続を超えるかという点についても,遺言時にはよく分からないというところもあるかと思います。設定,遺言による場合には,取りあえずそこはセーフでということも十分考えられるのではないかと思いますので,両者でどこが違い得るかということも考えておく必要があるのかなと思っております。
  今度は細かいところですけれども,譲渡・転貸関係です。これは所有者の承諾を得て譲渡・転貸というのは賃貸借と同じように見えますけれども,ただ,結果的には,一定期間たっていても死亡によって終了する,しかも当該配偶者の死亡によって終了するということなので,当該配偶者はどこかにいても,突然亡くなれば終了するというもので,やや奇妙とは言いませんけれども,そういう権利を譲渡する。転貸はまだ分かりますけれども,譲渡するということがどういうような意味を持つのかという辺りがあります。
  ただ,他方で,もう既に相続の際の相続分で対価を払っているというところがありますので,利用しないときに少しでも換価の手法というか,そういうことを用意するためにこれが設けられているのかと思いました。
  そして,そうだとすると,これが現実的かどうかちょっと分からないんですが,取りあえずアイデアレベルなんですけれども,今,評価の困難ということが言われていますが,相続開始時にも一定の評価ができるのであれば,途中でも残りどのくらいになったというようなことで評価ができるんだとすると,それを買い取るというか,そういうふうなことができないだろうか。もちろん,合意で放棄しますと,その対価としてもらいますということで,合意ベースでできるのはあると思うんですが,それが調わないようなときに,何か算定をする手法だとか,あるいは分割して支払うとか,何かそういうようなことはできないだろうか。もし,換価の点が非常に困難というか,その手法を用意するということを考えるならば,そういうことは考えられないだろうかということを思っております。
  更に細かなところにいって恐縮ですけれども,「敷地所有者との関係」というところで,13ページの敷地と建物所有が元々同じであったところ,建物だけ売却するとか,敷地だけ売却するとかというような場合に手当をするかと。具体的には,敷地だけを売ったというような場合が想定されて,建物は持っているんだけれども,利用権を取らなかったために,このままでは建物収去,明渡しになってしまうという局面において,物権的な保護が与えられるという前提なのにそういう形で,地震売買でもないですけれども,飛ばしてしまうというのはやはり問題ではないかと思っております。
  ただ,そのときに,敷地利用についての物権を取得するというのが適切なのかということは大きすぎるような気もしますし,そのとき建物の所有関係はどうなるんだろうかとか,それから建物所有者に対して収去,明渡請求をし,また,長期居住権者に対して土地明渡請求をしたときは一体どういうことになるんだろうかというようなことを考えていきますと,余り変わらないのかもしれませんけれども,逆に,建物所有の方について敷地利用権を認めるといいますか,それを長期居住者との関係では設定されたものとみなすとか,そういう方向もあるのかもしれません。それで,どのようなことになるか,かなり細かい法律関係を明らかにしていかないとできないですし,そうやっていくと,結果そこまでやるのかということになるかもしれませんけれども,方策としてはそのような方向もあるのかなと考えております。
○大村部会長 ありがとうございます。
  幾つかの御指摘をいただきましたけれども,前回も出ておりました評価の点につきましては,今回の御提案は何か実務を拘束するようなものではなくて,むしろガイドラインを示す,他の解決も妨げないということだったかと思います。
  それから,沖野委員からは,こういうものを作ることを考えるにあたっては,これがないとすると,できないことは何であるのかをはっきりさせるべきだし,あるいは遺産分割と遺言でどこが同じで,どこが違うのかということを整理する必要があるという御指摘を頂きましたが,これは整理をしていただきたいと思います。
  具体的な御質問としては,このような権利を認めたとして,買取りというか,換価というか,そのようなものについて何か考える必要はないのかという御質問ないし御指摘が一つ。それから,敷地利用権が失われるという事態を避ける必要があるのではないか、そのための仕掛けとして,建物の使用者の利用権を一定の要件の下で認めるというような方策はどうかという御指摘を頂いたと思いますが,最後の2点につきまして何かお答えがあれば。
○堂薗幹事 従前から,長期居住権については,必要がなくなった場合に換価できないという点が問題であるという御指摘は頂いておりまして,長期居住権を買い取ってもらうとすれば,その相手方は建物所有者ということになるんだろうと思いますが,賃料を前払いしたような形で評価をするとしますと,残存期間に応じて現時点での長期居住権の評価額というのは一応出せるのかなとも思うんですけれども,その場合に,建物所有者に買取義務のような形で認めるということが制度上どうなのかと。特に,長期居住権の制度というのは配偶者保護のための制度ですので,基本的には配偶者の方が希望しなければ,こういった長期居住権は設定されないということになるわけですが,建物所有者の方は必ずしもそうではなくて,希望していないにもかかわらず,長期居住権の負担付きの所有権を取得することになるというところがございます。そうすると,それにプラスして,更にいつの時点で買取請求があるか分からないということになりますと,かなり建物所有者の負担というのは増えることになりますので,ちょっとそういった制度も置くことはなかなか難しいかなというのが正直なところでございます。
  その点については,御指摘いただきましたように,建物所有者との間で任意に何らかの合意をして,一定の要件が満たされた場合にはこういう形で買い取るとか,そういった合意をするということも可能だと思いますが,いずれにしても,その辺りについてはある程度配偶者の方の自己責任といいますか,そういったリスクを背負ってでも取得したいという場合に,利用場面というのは限定せざるを得ないのではないかというのが,こちらの現時点での整理ということになります。
  それから,敷地につきましては,御指摘のような問題はあるかと思いますので,建物所有者の方の敷地利用権の設定を法律上みなして,それを配偶者が援用できるという点につきましては,こちらでは全く考えておりませんでしたので,御指摘を踏まえて,その辺りも検討してみたいと思います。
○沖野委員 1点目といいますか,買取りについては,お考えはよく分かったつもりですけれども,他方で,これがあることによって流通が妨げられ,非常な減価が起こっているということであれば,それを解消できるというのはそれなりにメリットはあるところなのかなという気も一方ではしたということです。
  それから,買取りというときに,常に形成権にしなければいけないのかという問題もあるかとは思っております。
  それから,後の方については,地代を誰が払うのかとかといったような問題ももちろん出てくるかと思いますので,もちろん既にお考えのことだと思いますけれども,補足しました。
○大村部会長 ありがとうございました。
○浅田委員 先ほどの沖野委員の発言及び第1の議題における沖野委員の質問に触発されて質問するわけなんですが,長期居住権消滅後の後始末についての細かい三つの質問です。
  すなわち,長期居住権が配偶者の死亡により消滅した場合には,通常の不動産に戻るわけですけれども,その戻す過程において円滑にいくかどうかという問題に関してです。まず登記でございますけれども,例えば配偶者が死亡したときの登記,抹消登記になると思いますけれども,その抹消登記はやはり所有者の単独申請でなければうまくいかないと思います。例えば,相続人等の共同申請ということであれば,協力が得られるとは考え難いので,これは単独申請であるべきだというふうには思います。その点についてはどうお考えかというのが第1問の質問です。
  二つ目に,原状回復義務でありますけれども,これも配偶者の相続人に負担,承継されるということだと思います。ただ,当該相続人にとってみれば,長期居住権という権利自体は承継されないものですから,言えば義務ないしは負担だけが承継されるということであります。そういう理解でいいのか。だとすると,その人は本当にやってくれるのかどうかという疑問があるという話です。
  三つ目に,これらが合わさった話ですけれども,長期居住権が譲渡された場合であります。そうしますと,先ほどのご指摘にあったように,結局,その期間というのは当該配偶者の死亡までということになろうとは思いますけれども,その配偶者が行方不明とか,死んだか,よく分からないといったときには,誰が,終了時点を決めて,抹消登記まで持ち込むのかどうかというのが分からなくなりますし,また,消滅したときの原状回復義務というのは誰が負うのか,当該配偶者の相続人が負うのか,それとも長期居住権の譲受人が負うのか,これによっても請求が変わってくるのかと思いますので,ご質問する次第であります。
○堂薗幹事 まず,配偶者が死亡したことによって長期居住権が消滅した場合の取扱いでございますが,ここでは,配偶者が死亡すれば長期居住権は常に消滅するということで考えておりますので,そういった意味では,死亡の事実さえ明らかになればその権利が消滅したことが分かるわけですので,不動産登記においても,建物所有者が配偶者の死亡の事実を証明するだけで単独申請を認めることができないかどうか,この点は検討したいと思います。
  それから,原状回復義務ですけれども,この点については,基本的には通常損耗については原状回復義務の対象から外すという前提ですので,通常損耗の程度を超える場合に必要になってくるわけですが,その場合には相続人が義務者ということにならざるを得ないのかと思います。ただ,かなりの事例では,建物所有者が配偶者の相続人であるという場合もあろうかと思いますので,そういった場合については,自分で原状回復をして他の相続人に求償するということになろうかと思いますし,建物所有者が配偶者の相続人でなかった場合には,そこは自分で原状回復をしてしまって費用の請求をするのか,あるいは原状回復を請求するのかという辺りは,建物所有者の選択ということになるのではないかと考えております。
  それから,長期居住権が譲渡された場合に,配偶者が行方不明になってしまったというような場合ですと,法律上は失踪宣告の申立てをする必要があるということになるのかもしれませんが,その辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。
  原状回復義務については,基本的に長期居住権の譲渡がされた場合には,もちろん建物所有者の承諾は得ているわけですし,譲受人の方が原状回復義務というのは負うことになるのではないかと思いますし,そこは譲渡の承諾をする際に,建物所有者としては誰に,どういう形で原状回復をさせるのかという辺りは,承諾の前提として合意を得ておくということはできるのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○八木委員 若干関連する質問かもしれませんが,一つは,やはり消滅事由のことですけれども,短期のところで,再婚が除外されておりましたが,長期のところでも再婚が除外されております。果たして,こういう再婚した生存配偶者を他の相続人に比較して保護する必要があるのだろうかという,素朴な疑問があります。
  また,不動産の流通のことを考えても,先ほどから随分流通を阻害するような,そういったものになるというような御指摘もありましたし,その辺りどう考えるのかというのが一つです。
  もう一つ,細かい点なのですけれども,建物が滅失した場合に,それも生存配偶者の責任でないところで滅失した場合に,建物の建て替えや代わりのところに住む,その費用の負担は誰が行うのか,その辺り教えていただければと思います。
○大村部会長 では,お願いします。
○堂薗幹事 まず,再婚した場合でございますが,特に長期居住権は,配偶者も自分の具体的相続分の中でそれを取得するという前提にしておりますので,配偶者以外に長期居住権を取得できる人はいないわけで,その意味では,その現状では配偶者だけを保護しているということにはなりますが,少なくとも財産的には自分の相続分の範囲内で取得しているので,その後どのような事情が生じても,当該配偶者の財産権として保護されるということでよいのではないかというのが,こちらの整理ということになります。
  それから,居住建物が滅失した場合でございますが,長期居住権というのは建物を目的とする権利ですので,建物が滅失してしまえば当然,長期居住権も消滅するということにならざるを得ないわけですけれども,生存配偶者に帰責事由はなくて,誰かの過失によって建物が滅失したという場合には不法行為に基づく損害賠償請求をすることが可能であると思います。
○大村部会長 八木委員,よろしいですか。
○八木委員 先ほど水野先生の御指摘があったように,例えば非嫡出子がいる場合に,生存配偶者の相続分が小さくて,それでも建物に居住をしたいという場合に,それをどう保護していくのかという問題だと思うのですけれども,その場合に--それとはちょっと違うのですかね。高齢者と結婚したというような場合に,また新たな相手と再婚するという場合に,果たして,例えば相続財産が土地・建物に限定されるような場合に,そこまで保護する必要があるのかと,ということを思ったわけです。
○大村部会長 先ほどの事務当局の御説明は,仮に長期居住権ではなくて,所有権で相続したという場合には,やはり再婚したとしてもその所有権が失われることはないので,それよりも小さな権利である長期居住権を取得したという場合にも,それは維持されるのではないかという御説明だったかと思いますけれども,八木委員,よろしいですか。
○八木委員 はい。
○上西委員 12ページから13ページの「敷地所有者との関係」の箇所です。整理してみます。建物と敷地の所有権を取得した他の相続人が第三者に売却した場合に,配偶者は第三者からの建物退去請求を拒むことができないようにしたい。その解決方法として,別途損害賠償請求できるとしつつも、そのようなことを避けたいから,新たな用益物権や法定の債権を創設してはどうかということですね。
  配偶者が長期居住権を取得し,かつ登記する場合には,敷地に地上権を自動的に設定することが趣旨にかなうと考えます。むしろ,敷地に地上権を設定しない場合だけ、設定しないという選択をするということも可能かなと思うのです。やはり,ここでは長期居住権を保護するということを第一に考えれば,流通の阻害の問題もあるかもしれませんが,長期居住権と地上権の設定をセットで行うということを選択肢として御検討いただきたいと思います。
○堂薗幹事 その点は,先ほどの点と併せまして,再度検討したいと思います。
○垣内幹事 2点ほど御質問があるんですけれども,1点目は,先ほど八木委員が御質問された点とちょっと関係するかと思うんですけれども,長期居住権の終期について,例えば遺言の中で再婚までの間とか,あるいは遺産分割協議においてそういう形で終期を設定するというのは,御提案の中の「一定期間」という概念に含まれているのかどうかということが第1点です。
  それからもう1点なんですけれども,これはもう少し先の段階で考えればいいことなのかもしれませんけれども,例えば遺言で終身の長期居住権を設定して,かつ対価付きのものを仮に設定したというような場合に,終身ですとかなり長期にわたって場合によっては続くということがあり得るわけですけれども,その間,これからの日本でそういうことがあるのかどうか,ちょっとよく分かりませんが,社会経済状況の変化によって,その対価の額が非常に不相当になるに至ったというような場合には,増減請求というようなことを検討されることになるのか。仮にその場面でそういった検討があり得るとすると,前払方式の場合について,同様の修正を行う余地を考えるべきなのかどうか,あるいは仮にそういう余地があるとすれば,そのための手続についてはどう考えるのかということについて,もし既に御検討されている点がありましたら御教示いただければと思います。
○堂薗幹事 まず,例えば,再婚の場合には長期居住権は消滅するというような遺言が可能かどうかということですが,具体的に検討していたわけではありませんけれども,再婚ということになりますと,期限にも当たらないということだろうと思いますので,基本的にはそういったものは想定しておりませんでした。
  それから,遺言で対価を支払う形の長期居住権の設定が可能かという辺りは,遺言でそもそもそういったことを認めていいのかというそもそも論があるのではないかというふうに思っておりまして,個人的にはややそこは難しい面があるのではないかなというふうにも思っておりますので,そこは是非,この場で民法の研究者の方のご意見をお聞きしたいと思っていたところでございます。
  それから,仮にそういったことを認めるとしても,結局,遺産分割の対象となっている財産の中にそういう不確定な要素が含まれるものというのはほかにもいろいろありまして,例えば停止条件付債権ですとか,いろいろそういったものがありますので,事後的に何か事情が変わったことによって,それを修正するというようなことは,相続の場合には難しいのではないかと考えておりますので,長期居住権の対価について増減請求を認めるとか,そういったことはこちらでは考えておりません。
○大村部会長 垣内幹事,よろしいですか。
○垣内幹事 はい。
○大村部会長 民法の委員のご意見をという御発言がありましたけれども,その点につきましては,もし何かあれば後で伺うということにいたしまして,山本克己委員の方からまず御発言を頂きたいと思います。
○山本(克)委員 すみません。私,更に先走った質問をしてしまうことになるんだと思うんですけれども,不動産上の用益物権だとした場合に,かつ一身専属的とはいえ,所有者の承諾があれば譲渡可能であるということを考えると,もうこれは差押可能財産であると,当該物件がですね。長期居住権という用益物権は差押可能財産であるということになるのではないかと思うんですが,その際に,民事執行法の43条2項に挙げられております「登記された地上権及び永小作権」というところに横並びで長期居住権というものが入るのであろうかという点をお伺いしたいと思います。それは,仮に長期居住権を有する配偶者が破産した場合に,破産財団に属するかという問題とも絡む問題ですので,ちょっとお教えいただきたい。
  仮に43条2項に入れるんだとすると,強制競売の対象になるとしますと,そのときの所有者の承諾をどういうふうに手当てするかという問題が出てきて,これは借地借家法の20条と似たような話をするのかどうか。しかし,その場合に,先ほどちょっと垣内幹事からお話がありましたように,条件の変更というものを組み込んでいいのだろうかという問題が出てくるのではないかと思います。
  換価,全く差押え不可能な,しかし,結構不動産の価値に,当該建物の価値に等しいような権利を設定して,それが換価不可能だというのは,やはりおかしな理屈になるのではないかと思うんですが,私はやはりそういうところまで手当てして,私もネガティブでありませんので,ポジティブに考えつつ,そういうところまで手当てした立法をした方がいいのではないかなという気がしております。もし今までで,御検討で何かお考えであればお教えいただければと思います。
○堂薗幹事 基本的には,御指摘を踏まえて今後,検討したいと思いますが,基本的には賃借権について差押えが可能なのかどうか,あるいはその場合にどういった形で換価するのかというのと同じような問題が生じるのかなとは思っておりましたけれども,その点については,賃借権の場合は差押え自体は可能だけれども,賃貸人の承諾がない限りは,実際に換価まではできないというような形になっているのではないかというのがこちらの理解です。そうすると,長期居住権の方も,差押え自体は認めるのかもしれませんが,最終的に換価する場合には建物所有者の承諾を取らなければならないということになろうかと思いますので,実際には換価は難しいのではないかと思っております。その点につきましては,具体的な検討はできておりませんので,御指摘を踏まえまして,引き続き検討したいと思います。
○大村部会長 山本委員,よろしゅうございますか。
○山本(克)委員 はい,ありがとうございました。
○大村部会長 ほかにいかがでございますか。
○沖野委員 すみません。3点あります。
  一つ目が,遺言によって有償の処分が可能かという点でして,基本的には難しいんだろうと思いますけれども,受遺者側といいますか,遺贈については,その放棄で対応できると思いますけれども,相続放棄までしないとどうしようもないような地位に置かれるというのは,やはり無理ではないかと思っております。
  それから,これは調査しておりませんけれども,旧民法で賃借権の遺贈があったのではなかったかと思います。それは遺言書に記載された項目や条件に従って相続人が受遺者と賃貸借契約をするという形での処理が想定されていたようですので,既存の賃借権というより新たに賃借権を設定するもので,内容のある部分は相続人と受遺者の契約に委ねますというようなタイプなのかと思います。
  そうすると,対価を含めて,内容は協議によるけれども,設定を受けることができる権利というか,それを交渉できる権利というような形で構想することはあるいは可能なのかもしれないと,そのような感覚を持っております。それが1点目です。
  もう1点は,また細かいことですけれども,存続期間に関しまして,先ほど申し上げるのを忘れておりました。期間の更新は認めないこととしている点です。基本的にはそれで結構かと思います。けれども,他方で,現行の例えば定期借地などについて,制度上は更新がないのですけれども,合意による存続という話は議論がありますので,認めないということの含意が,もちろん協議をして,その後継続するなら構わないということなのか,あるいはそれとも長期居住権である限りは無理で,あとは賃貸借でやってくださいということなのかということもありますので,少し定期借地の議論なども踏まえながら,これが何を意味しているのかというは詰めておいた方がいいのかなと思っております。私は,合意によるなら,もちろん存続は可能というようなことで考えておりますが,ただ,長期居住権として存続できるのかという辺りが難しいのかなと思っております。
  それから,三つ目が,賃貸物件のケースです。賃貸物件について,基本的にここに書かれたような形で結構ではないかと思っております。私が以前から気にしておりますのは,所有財産である場合と賃借財産である場合とで,居住に対しての保護がかなりアンバランスが生じるということであると問題ではないかと思っております。具体的には,例えば所有の場合ですと優先的に居住が確保されるのに,賃貸の方になるとそうではないというようなことではアンバランスではないかということを感じておりました。ですので,両者の比較でほぼ遜色ないと--遜色ないというか,特にどちらであるかによって大きく態度決定が変わるということではない,中立的であるというのが確保されるのであればよろしいのではないかと思っております。
  そうしたときに,そうすると,分割協議まで使えるということが本当に確保されているんだろうかとかということは,ちょっと確認をした方がいいのかなとは思っております。といいますのは,現行法でもある程度できるのではないですかという部分がそれで大丈夫なんだろうかということで,ほかにも同居している者があるような場合にどうかというような話は,ひょっとしたら出てくるかもしれません。
  そういうことを考えますと,分割協議まではなお配偶者が使えて,かつその賃料については内部的には配偶者が負担するとか,そういった辺りだけ明確にしておくぐらいのことも考えられるのかとは思います。
○大村部会長 ありがとうございました。
  3点御指摘ないし御意見を頂きましたけれども,最初の点は,先ほど事務当局の方から御発言があった負担付きの処分を遺言でなし得るかということについての御見解であると承りました。
○沖野委員 有償の処分の点です。
○大村部会長 有償の処分ということですね。
○沖野委員 はい。
○大村部会長 対価支払いについて,難しいのではないかという基本線を共有されつつ,幾つかの可能性は残るかもしれないという御指摘だったかと思います。
  2点目は,更新の問題も,更新は認めないとして,それとは別に合意による存続はあり得るのでないか。ただ,法的性質がどういうものになるか分からないという御指摘、それから,3点目は,今まで御意見を頂いておりませんでしたけれども,14ページの賃貸物件の場合について,基本的にはこの考え方でよいけれども,分割協議までの取扱いについて若干手当が要るのではないかという御指摘だったと思いますが,何か事務当局の方からありますか。
○堂薗幹事 合意による存続を認めるかどうかという辺りにつきましては,特に対価を支払わない形で長期居住権の設定を認めて,その場合に合意で更に存続するということになりますと,それは第三者との関係等で問題が大きくなって,流通性がさらに害されるというようなこともありますので,場合によっては,先ほどの差押えが可能かどうかというところと絡んで,執行妨害目的でそういうことも可能になるというような問題もあろうかと思います。したがいまして,長期居住権で,しかも特に無償でありながら対抗要件を認める形で存続を認めるというのは難しい面があるのではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
○山本(克)委員 補足なんですが,先ほど私の質問に対して堂薗幹事の御説明は,何か賃借権と並びでお答えになったと思うんですけれども,私が問題にしたのは用益物権だと言い切ったことによる問題点があるのではないかという趣旨でございまして,補足で申し上げますと,国税徴収法の68条1項で,不動産上の物件は全部不動産とみなされて,国税徴収上は。滞納処分による差押え,公売の対象になるとされていますので,借地借家法20条のような規定は不可避ではないかということを申し上げたかったということでございます。
○堂薗幹事 すみません。御指摘を踏まえて検討させていただきます。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他御発言。
○窪田委員 ちょっと周回遅れみたいな話題になってしまうのですが,先ほどの負担付きのものについて遺言をすることができるかどうかということについて発現させて頂きます。既に沖野委員からもお話がありましたし,特に付け加えることはないのかもしれませんが,私自身,ずっと伺っていながら気になっていた部分とも少し関わるような気がします。気になっていたのは,結局,長期居住権というのは一体どういうものとして構想するのかという点ですし,そこで有償だということの意味はどういう意味なのかという点です。
  正しく賃料のような形で債務を負担して,それを払っていくのだという形式で捉えるのであれば,そんなこと遺言でできるのかということになると思います。しかし,これは基本的には遺産の分割という局面で問題となるものであり,分割方法の一つの選択肢にしかすぎないのではないかと考え,自己の相続分の範囲内で,一定の利用権という形でそれを実現するものなのだと捉えるのであれば,その利用権の価値に相当する部分について,他から得る相続分が減るというのは当たり前のことだということになりますし,それを遺言で設定するということもできるのかなという気もします。
  ですから,要は結局,分割方法の指定の一つの方法なのだと割り切るのであれば,その中で利用権として得た分だけ,他からは得られる分は減るのだということを,単に有償という言葉で言い換えているにしかすぎないのかということになると思います。そうではなくて,やはり正しく用益物権的なものとして関連するというところから出発するのか,単に説明の仕方の違いだけなのかもしれませんが,その捉え方によって,先ほどの遺言でできるかどうかという問題についての説明のしかたも異なるのではないかという気がいたします。
○大村部会長 ありがとうございます。
  その他御発言を頂きたいと思いますが,特に第3の配偶者の居住建物が賃貸物件である場合について,沖野委員から御発言ありましたけれども,他の委員の御感触等も伺えればと思います。
○村田委員 今,窪田委員から御指摘のあった点は,ひょっとすると,長期居住権の賃料といいますか,対価の設定のところの考え方に関わってくるかなという気がしております。どういう評価といいますか,賃料設定があり得るのかというところは,場合によっては不動産鑑定士の方の御意見なども頂く必要もあり得るかなと思っておりますので,御検討いただければありがたいなと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。
  そのほかいかがでございましょうか。
  よろしいでしょうか。
  この第2点につきましては,長期の利用権は,一方で新しい選択肢を相続人に開くことになるので認めてほしいという御意見がある。しかし,同時に,ある程度取引を阻害することも確かである。したがって,バランスをとりながら認めるべきだ,あるいは認めるならば相応の実効性があるものを考える必要がある。こうした様々な御意見が出ていたかと思います。
  全体として,どのようなバランスをとるかということによって,皆さんの態度が最終的には決まるのかと思いますけれども,頂きました御意見を踏まえまして,更に事務当局には御検討いただきたいと思います。
  それから,配偶者の居住建物が賃貸物件である場合につきましては,基本的にはここに示された考え方でよいのではないかという御意見があり,他に特段の御意見は出なかったとまとめさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。
  では,第3まで終わりましたので,ここで10分ほど休憩させていただきまして,4時から残った問題を御議論いただきたいと思います。

          (休     憩)

○大村部会長 それでは,4時になりましたので,再開させていただきたいと存じます。
  残りは14ページの「第4 その他(前回の部会で指摘があった新たな論点について)」という部分でございますけれども,一括して事務当局の方から説明を頂きます。
○大塚関係官 ここでは,2点につきまして,前回の部会での御指摘を踏まえての新たな論点として御提示申し上げているものでございます。
  一つ目が,「自筆証書遺言を保管する制度の創設について」でございます。
  「問題の所在」からまいりますが,自筆証書遺言は,作成後に遺言書が紛失したり,あるいは相続人によって隠匿,変造されるおそれがあるところでございます。また,相続人が遺言書の存在を把握できなかったり,あるいは複数の遺言書が出てきたり,さらには遺言書の作成の真正をめぐっての深刻な紛争が生じたりといったところがあり得るところでございます。
  これらの問題は,自筆証書遺言を確実に保管し,相続人がその存在を把握することができる仕組みが確立されていないということが一因になっているのではないかと考えられるところでございまして,前回の部会でも何らかの措置を講ずる必要があるとの指摘がされたところでございます。そこで,考えられる方策というものを御提示申し上げる次第です。
  ①でございますが,自筆証書遺言を作成した者は,一定の公的機関,例えば全国に存在するような公的機関にその保管を委ねることができるようにすると。
  ②として,相続人は,相続開始後に所定の手続をすることにより,被相続人の自筆証書遺言がこの公的機関に保管されているかどうかを検索することができるようにするという方策でございます。
  公的機関としてどのようなものが考えられるかというのは非常に問題となり得るところですが,例えば市区町村の役場,あるいは法務省の中で申せば法務局,更には前回の部会では,公証役場という御指摘もあったかと思いますが,例えばそういったところを考えているところでございます。
  (3)の「遺言保管制度を設けるメリット」でございますが,このような方策を講じた場合には,公的機関において遺言が確実に保管されることとなりますので,作成後の紛失,偽造又は変造を防止することができ,また,相続人が遺言の存在を容易に把握することが可能になると考えられます。
  また,保管を行う公的機関におきまして,手続のときに本人確認を行うこととしますと,そのことが遺言の真正な成立を基礎付ける間接事実となり,遺言の有効性をめぐる紛争の抑止にもつながり得ると考えられるところでございます。
  次に,(4)の「検討課題」ですが,アでございます。
  公正証書遺言につきましては,全国の公証役場に保管された公正証書遺言を検索することができるシステムが既に導入されているところです。そこで,自筆証書遺言を保管する公的機関ができた場合には,公正証書遺言を保管する公証役場との間でそれぞれ保管する遺言の情報を共有することによりまして,この遺言の存否につきまして一括して検索することができるようにするということも考えられようかと存じます。
  このような検索システムを更に進めるということになりますと,相続人が相続に伴う諸手続をする際に,保管をしている機関から一定の者に対して,遺言がありますという旨の通知をする制度を設けるといったところも,一案としては考えられようかと存じます。
  次に,イでございますが,今回の方策につきましては,遺言者以外の者による偽造などを防止する観点から,基本的には遺言者自身が公的機関に赴いて保管手続をするということを想定しているところでございます。
  この点につきましては,遺言者が入院をしている場合など,自ら公的機関に赴くのが困難な場合も想定されますので,このような場合は例外的に他の者による保管申出,あるいは郵送での申出を認めることも考えられるところでございます。ただ,これらを認めますと,遺言者以外の者が偽造した遺言を公的機関に持ち込むなどの事態も特に懸念されるところですので,この点は慎重な検討を要すると考えられるところでございます。
  次のウの「撤回について」でございますが,今回の方策によって,遺言者が自筆証書遺言を公的機関に保管する手続を仮にしたとした場合でありましても,現行法上,遺言者は新たな自筆証書遺言を作成するなどして,容易に前の遺言を撤回することができますので,公的機関の保管に係る遺言が最終の遺言であるとは限らず,複数の遺言書が存在することによる紛争を回避することはできないということにこのままではなります。この点につきましては,前回の部会におきまして,公正証書遺言についても同様の問題がある旨の御指摘を頂いたところでございます。
  そこで,例えば公正証書遺言や公的機関が保管しているところの自筆証書遺言について,これらの遺言の全部又は一部を撤回するのに,新たに自筆証書遺言を作成して,当該公的機関に保管するか,又は公正証書遺言を作成することを要するとすることも,一つの案としては考えられようかと存じます。
  ただ,このような撤回についての制約を設けるといたしますと,遺言者の最終意思の尊重という遺言制度の趣旨との関係では,慎重な検討を要するものとも考えられるところでございます。
  ここまで,遺言保管制度についての話でございました。
  次が,2つ目の「遺言執行者の権限の明確化等について」でございます。
  「問題の所在」のアでございますが,現行法上「遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」とされていますが,個別具体的な事案で,遺言執行者にどのような権限が付与されているのかというのは必ずしも明確ではないため,遺言執行者の権限の範囲を法律上明確化すべきではないかという指摘がされておるところでございます。
  次に,イの「復任権について」でございますが,現行法上,遺言執行者は,遺言者がその遺言に反対の意思を表示した場合を除いて,やむを得ない事情がなければ,第三者にその任務を行わせることができないとされているところでございますが,このような復任権の要件を緩和すべきであるとの指摘もされておるところでございます。
  このような御指摘を踏まえまして,こちらの17ページの下から18ページにかけて記載しておりますような規律を設けることが考えられようかと存じます。
  ①はそのまま読み上げたく存じますが,遺言執行者は,就職の後直ちに,被相続人が相続開始時に現に占有していた財産の管理に着手しなければならないというところを検討俎上に上げてみました。
  ②以下は,補足説明等におきまして,説明をいたします。
  ②に関する部分が18ページ中段のアでございます。「特定物の遺贈等がされた場合における遺言執行者の権限の範囲について」というところでございます。
  これは,様々な考え方もあり得るところでありますが,②のアにおきましては,目的財産の引渡しについては,相続開始時に目的財産を被相続人が現に占有(直接占有)していた場合に限り,遺言執行者の権限に含めることとし,相続開始時に被相続人以外の者がその目的財産を現に占有していた場合には権限に含めないという形にしております。これは,相続開始時に被相続人が管理をしていた財産については一旦,遺言執行者の管理下に置き,遺言執行者の責任においてその引渡しを行うこととし,受益者の自力執行を認めないというのが相当と考えられることですとか,あるいは相続開始時に第三者が目的財産を管理していた場合まで遺言執行者の権限に含めることとしますと,遺言執行者の負担が過大になるおそれがあるということなどを考慮しての方策ということでございます。
  19ページの2行目以下となりますが,これに対しまして②㋑のとおり,対抗要件の具備行為につきましては,原則として遺言執行者の権限に含めることとしております。これは,対抗要件具備行為は,受益者にその権利を完全に移転させるために必要な行為であることなどを考慮したものでございます。
  もっとも,この㋑のただし書のとおり,遺贈等の目的財産が動産だったような場合には,遺言執行者の権限を㋐と同じ範囲,つまり被相続人が現にその財産を占有していた場合に限定することとしております。これは,動産に関する物権につきましてはそもそも公示機能が弱く,即時取得制度などもありますことから,対抗要件具備行為を遺言執行者の権限とする必要性は必ずしも大きくないと考えられることなどを考慮したところでございます。
  ページをめくっていただきまして,20ページの㋑でございますが,これが③に当たる部分になります。不特定物が遺贈の目的とされた場合でございますが,この場合には③,④のとおり,遺言執行者は,遺言に別段の定めがない限りは,目的物を特定した上で,これを受遺者に引き渡し,かつ対抗要件を具備するのに必要な行為をする権限を有することとしております。
  続いて,ウの「遺言執行者の処分権限について」というのが⑤に対応するものでございます。
  端的に説明しますが,⑤は,遺言執行者が相続財産に属する特定の権利を処分することができる場合を明確化するものでございます。処分すべきことを遺言において定めた場合は含まれるが,そうでなければ当然にその権限は有しないということを明らかにする趣旨でございます。
  続きまして,エ,21ページの中段になりますが,「遺言執行者がその任務を行うことが困難な場合等の処理方法について」ですが,これは方策