プラスの財産とマイナスの財産(仮訳)限定承認

プラスの財産とマイナスの財産(仮訳)限定承認
The property and the obligation.

親が亡くなって遺産が入ると思っていたら、何と借金ばかりだった・・・。
でも怒ってばかりはいられません。相続開始を知ってから3ヶ月を過ぎると、単純承継といって、借金や債務までも一切を含めた遺産を引き継がなければならなくなるからです。親の残した借金に苦しめられそうな場合、相続人はどのような手を打てるのでしょうか。

You thought that you succeed to your parent’s property.
But your parent’s only left you obligation.
You can’t angry forever.
If three months have passed you know the succession, you should succeed to the property and the obligation. It is called unqualified acceptance.
If you don’t want to succeed to the parent’s obligation, what process do you take?


プラスかマイナスか不明の場合、または借金が多いと予想される場合は「限定承認」を

When you don’t know decedent’s substance of property or you expect that you succeed to obligation, you may proceed qualified acceptance.

仮に遺産の総額が1億円で、借金が1億2000万円だった場合、限定承認をすればこの2000万円については責任を負わなくてもよいことになる方法です。

The property is \100.000.000.00 and obligation is \120.000.000.00.
If you make qualified acceptance, you can perform whole parent’s obligation at the \100.000.000.00.


つまり、相続によって得た財産の限度で債務を弁済する相続の形です。この限定承認をするためには、相続開始があったことを知ってから3ヶ月以内に、被相続人の住んでいた地域を管轄する家庭裁判所に申立てをします。

The qualified acceptance is inheritance to perform the obligation by obtained property.
The heir effect qualified acceptance to the family court within three months of the time he/she has knowledge that three has been a commencement of inheritance for him/her.


限定承認は、相続人全員の意思が一致していなければなりません。また、ひとたび限定承認の申立てが受理されると、撤回することはできません。

If there are two or more heirs, qualified acceptance may only be made if all members of the joint heirs make qualified acceptance jointly.
The qualified acceptance may not be revoked.


参考I reference.
司法書士アクセスブック
よくわかる相続
日本司法書士会連合会


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シャリコフはまばたきして、答えた。
「サーカスに行きましょう。それがいちばんいい」ブルガーコフ[犬の心臓より]

相続放棄(仮訳)

相続放棄(仮訳)

The renunciation of inheritance.

マイナスがはるかに多ければ「相続放棄」を

If you succeed to obligation, you may proceed to the renunciation of inheritance.

父親が遺産の総額をはるかに超える額の借金を残して亡くなりました。子にはどのようにしても返済できる額ではありません。この場合、子は相続権そのものを放棄することができます。

Your late father left obligation that exceed the property.

The child can’t perform obligation.

The child may renounce the inheritance.

相続放棄の申し立ては、やはり相続開始があったことを知ってから3ヶ月以内に、父親の住んでいた地域を管轄する家庭裁判所に行います。

The heir effect the renunciation of inheritance to the family court within three months of the time he/she has knowledge that three has been a commencement of inheritance for him/her, and the process must be effected by the heir to the family court having jurisdiction over the heir’s father lived.

もちろん債権者は借金を取り戻したいですから、子に対して返済を請求したいのですが、相続放棄が認められると、子ははじめから相続人とはならなかったとみなされ、債権者は返済を請求できなくなるのです。

Certainly, the creditor want to recover the late father’s loan.

The creditor want to claim repayment of the late father’s loan to the child.

If the family court permit the renunciation of inheritance, the child shall be deemed as not originally having been an heir to the inheritance.shall : しなければならない(しなければならない), するものとする(するものとする)

The creditor may not claim repayment of the late father’s loan to the child.

プラスの財産とマイナスの財産

The property and the obligation.

もともと引き継がなくてもいい債務もある

The heir doesn’t inherit an special obligation from the decedent. 

事例

Case.

亡き父親は知人が就職する際の身元保証人になっていたが、その知人が勤務先に甚大な損害を与え、多額の賠償請求がきた。

Your late father was the acquaintance’s referee when the acquaintance get a job and the acquaintance damaged the one’s company.

The one’s company claimed damages to you.

このような場合、民法では「被相続人の一身に専属したものはこの(相続財産の)限りではない」として、故人でないと果たせない義務、代理のきかない性質の債務は引き継がなくてもいいことになっています。

At the time, the only deceased perform obligation.

The civil code

The heir provided that this shall not the authority shall not apply to rights or duties of the decedent that are purely personal.

参考I reference.

司法書士アクセスブック

よくわかる相続

日本司法書士会連合会

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ぶるぶる (渋柿)

相続に関する法律 韓国


相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より
第5 部 韓国法

序言

1960 年の韓国民法の制定と施行によって、それまでの相続関係に適用されていた旧慣習は以後、効力を失い、人の死亡により発生する権利義務の承継に関する法律関係は韓国民法第5 編の規定によることとなった。立法起草者の考えは、親族・相続編の入案は「現行親族相続慣習法を古来の淳風良俗は弊風とならない限り、維持・助長すると同時に、時勢に相応しくない因習は揚棄することで、…修正・成文化すること」であった1。これと同様な趣旨で、親族相続編の内容について、日本民法及び他の近代民法の影響がわりと少なく、これは伝統的な慣習と民主主義の理念を妥協する過程から生まれた結果ともいわれる2。


しかし、これに対しては、韓国民法典を制定する当時にはまだ韓国固有の相続法制に関する的確な研究や認識が欠けていた時期であったから、その結果、韓国の相続法には朝鮮時代の法慣習や日本式の制度、近代式の制度が混在されているという指摘も存在する3。韓国相続法に関する様々な観点の違いが存するが、一般的に韓国の相続法の特徴及び比較法的位置づけに関しては、次のように説明することができる4。


韓国民法の制定が「ヨーロッパの諸国と日本及びその周辺国という限定的な観点から行われたものではあるが、一般的に比較法的作業の結果である」という韓国民法全体に関する評価5は、相続法においても正しいといえる。包括承継主義及び当然承継主義、相続債務に対する責任、共同相続の形態、遺言など死因処分の内容と形態、遺留分などに関する相続法の規定は確かに、日本民法を通じてフランス民法の構造に倣ったものであると評価することができるだろう。しかし、その詳細な事項及び相続順位、配偶者の相続、財産分離などに関しては、韓国の立法者が独自的に案出した規定も含まれており、ドイツ民法、日本民法、中国民法などの規定に倣ったものも少なくないので、一概にどちらかの一つの国の相続法を継受したとはいいかねる。

 


従来、比較法学では、相続法は各国の慣習・価値体系などの影響で、固有の独自性を持つため、規定・制度の内容又はその機能を比較する研究の対象とはあまり望ましくないという認識があった。しかし、世界のあらゆる流れから私法の統合というテーマで、従来債権法や動産物件などを中心に統合がなされているなか、相続法においても比較法的な観点から配偶者の相続権や寄与分、遺言制度、遺留分などの制度には認識を共通しているところもある。
そのことから、今回の報告書は、現在の韓国の相続法の制度の概要をまとめてみるという
ことと、その中からなされている様々な議論や実務の解釈を確認することに報告書の重点をおいたものである。今の韓国相続法の特徴を把握するためには、とりあえず韓国相続法の規定の内容が基礎となるべきであるので、その規定内容をともに掲げることにした。なお、その規定、又は制度そのものや内容に関する様々な議論がなされているので、韓国民法の解釈という側面からその議論の内容や根拠などを説明しておいた。

 


さらに、実際の規定と学説上の議論をふまえて、実務、とくに判例において、どのような判断や解釈が行われているのかも紹介することとした。各論点については、韓国と日本において共通する点もあるがそうではない点もあるので、重要な論点については日本と異なる部分を、できるだけ考慮して書くことにした。
以下の内容は大韓民国民法典(相続編)の構成と体系に従って作成したものである。

第5 編 相続
第1 章 相続
第1 節 総則(997 条〜999 条)
第2 節 相続人(1000 条〜1004 条)
第3 節 相続の効力(1005 条〜1018 条)
第1 款 一般的な効力
第2 款 相続分
第3 款 相続財産の分割
第4 節 相続の承認と放棄(1019 条〜1044 条)
第1 款 総則
第2 款 単純承認
第3 款 限定承認
第4 款 放棄
第5 節 財産の分離(1045 条〜1052 条)
第6 節 相続人の不存在(1053 条〜1059 条)
第2 章 遺言
第1 節 総則(1060 条〜1064 条)
第2 節 遺言の方式(1065 条〜1072 条)
第3 節 遺言の効力(1073 条〜1090 条)
第4 節 遺言の執行(1091 条〜1107 条)
第5 節 遺言の撤回(1108 条〜1111 条)
第3 章 遺留分(1112 条〜1118 条)


第1 章 相続

1 相続の意義

1 相続の開始原因

韓国民法997 条(相続開始の原因) 相続は死亡によって開始する。
韓国民法は財産相続の開始原因として死亡のみを規定している。相続開始の時期は相続人の資格・範囲・順位・能力を決する基準時になるのみならず、相続に関する権利の除斥期間や消滅時効の起算点にもなる。また、相続の効力発生、相続財産あるいは遺留分算定の基準として重要な意味を持っている。ここでの死亡には失踪宣告、認定死亡、不在宣告が含まれる。それぞれ失踪宣告の場合には失踪期間満了時、不在宣告の場合には不在宣告の審判の確定時に死亡したことになる。また、認定死亡は家族関係登録簿に死亡と記載されることによって死亡が推定されるが、この場合、家族関係登録簿に記載された死亡の日時に相続が開始されると解される。他方、韓国民法30 条によって同時死亡と推定される者の間には相続が開始されないとする。

ポリー
「韓国には家族関係登録簿というのがあるのですね。家族単位ではなく、個人別に家族関係を登録しています。2007年に戸籍制度はなくなりました。本籍という言葉がなくなりました。戸籍謄本などは、どこかに保存されているようです。

 なお、戸籍については、1912年朝鮮民事令、1921年共通法、1945年ポツダム宣言受諾、1952年平和条約発効、などにより日本との関係があります。」

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相続に関する法律 韓国②
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


2 相続開始の場所と費用

韓国民法 998 条(相続開始の場所)相続は被相続人の住所において開始する。
998 条の2(相続費用)相続に関する費用は相続財産の中から支弁する。
韓国民法は相続開始の場所についても被相続人の住所において開始すると定めている。相続費用には租税、あらゆる公課、管理費用、相続財産の管理のための訴訟費用6が含まれる。葬式費用は直接には相続に関する費用ではないが、被相続人のための費用であるとして相続費用と解される7。


2 相続人

相続人とは被相続人の相続財産を包括的に承継する資格を有する者である。この相続人となる一般的な資格を相続能力という。権利能力のある自然人なら国籍を問わず相続能力を持つが、法人には相続能力が認められない。相続法は相続人の種類と順位を画一的に法定しており、被相続人は原則として、法律の定める相続人の種類や順位を変えることはできない。韓国は近代相続法の歴史がそれほど長くないし、国民の意識においても遺言が普遍のことではない。したがって、ドイツのように被相続人が遺言で優先的に相続人を定めたり、排除したりすることはできない。


ポリー
「韓国では法定相続が原則なのですね。遺言でできることも少し制限されています。」

このように、韓国は遺言で相続人を指定することができないから、遺言相続を認めていないと評価する見解もあるが、民法では、直接相続人指定に関する規定を設けているわけではないが、遺言の自由を認め被相続人が遺言で財産を自由に処分することができるので、韓国においても法定相続と遺言相続とが両方とも認められているといわれるのが一般である8。韓国相続法が定める相続人は血族相続人と配偶者があり、相続におけるその順位は次のようである.


1 相続の順位

(1) 血族相続人

韓国民法1000 条(相続の順位) ①相続においては次に掲げる順位に従って相続人となる。
1.被相続人の直系卑属
2.被相続人の直系尊属
3.被相続人の兄弟姉妹
4.被相続人の4 寸以内の傍系血族

②前項の場合に同順位の相続人が数人であるときは最近親を先順位とし、同親などの相続人が数人であるときは共同相続人となる。

③胎児は相続については既に生まれたものとみなす。

血族相続人には1000 条による順位があり、先順位の血族相続人があれば後順位の血族相続人は相続できない。まず、第1順位の血族相続人は被相続人の直系卑属である(1000 条1 項1 号)。
直系卑属には被相続人の子であれば性別、年齢、国籍、長男・次男、既婚・未婚などは問わない。


ポリー
「長男、次男、既婚、未婚とことわり書きしているところが他の国と少し違うところだと思いました。」


さらに嫡出子であるか非嫡出子であるかも問わず、同じ順位で相続権を持ち、相続分にも変わりはない。養子の場合には親養子でない限り養親を相続するともに実親をも相続する。親養子の場合には実親との親族関係が終了するため養親のみを相続する。寸数が同じ場合には同順位で共同相続人となる。被相続人の子(先順位の直系卑属)が相続開始以前に全部死亡したとき、被相続人の孫子女が代襲相続するのかそれとも本位相続するのかについては韓国民法には明示的な規定がないため、学説上の争いがある。

判例は「被相続人の子が相続開始以前に全部死亡した場合、被相続人の孫子女は本位相続ではなく代襲相続する」9として代襲相続説を支持している。それによると孫は親の代わりに相続するため親の相続分のみを相続し、先順位直系卑属の配偶者も相続できる。胎児の場合には1000 条3 項によって相続能力が認められる。次に第2順位の血族相続人は直系尊属である(1000 条1 項2 号)。直系尊属ならば父系であるか母系であるかは問わない。
離婚した父母も相続権が認められる。寸数が異なる場合には最近親が優勢し、同順位の相続人が多数であるときは共同相続人になる。未婚の孫が死亡した場合、相続開始以前にその父母が既に死亡し先順位の直系尊属がいないとき、祖父母が相続する場合がある。そのとき、祖父母は代襲相続人となるか、本位相続人となるかについても争いがある。これについては、代襲相続に関する韓国民法1001 条が直系尊属には代襲相続権を認めていないため、祖父母の相続は代襲相続ではなく本人相続でしか解されないとされる。


つまり、先順位の直系尊属がみんな死亡した場合、次順位直系尊属が本位相続する。例えば、未婚の孫が死亡したが、その孫にとって父系には祖父のみ生存しており、母系には祖父と祖母ともに生存しているとき、3人はそれぞれ3分の1の割合で孫(被相続人)から本位相続する。第3順位の血族相続人は兄弟姉妹である(1000 条1 項3号)。韓国民法は親族の範囲において父系と母系との差別を削除し、相続の順位や相続分に関しても男女あるいは父系・母系の差別を削除したことに照らして、1000 条1 項3 号の「被相続人の兄弟姉妹」とは父系か母系かを問わないと解すべきであるとしている。さらに、判例は異姓同
腹の兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹)もこの規定による相続人であると判示した10。第4順位の血族相続人として4 寸以内の傍系血族も相続人となるが(1000 条1 項4 号)、彼らには遺留分権は認められない(1112 条)。いずれも、先順位の相続人があるときは、後順位相続人は相続できないのは先述した。


ポリー
「韓国の相続法は1990年、1979年、1960年、1912年と改正されています。」


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

(2) 配偶者

韓国民法1003 条(配偶者の相続順位) ①被相続人の配偶者は第1000 条第1 項第1 号と第2 号の規定による相続人がある場合にはその相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。

②第1001 条の場合に相続開始以前に死亡又は欠格した者の配偶者は同条の規定による相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。
韓国民法 1009 条(法定相続分) ②被相続人の配偶者の相続分は直系卑属と共同で相続するときは直系卑属の相続分の5 割を加算し、直系尊属と共同で相続するときは直系尊属の相続分の5 割を加算する。
韓国法において被相続人の配偶者は常に相続人となる。配偶者の相続順位は被相続人の直系卑属と同順位で共同相続人となり、その直系卑属がいないときは被相続人の直系尊属と同順位で共同相続人となる。被相続人の直系卑属と直系尊属ともにいないときには、被相続人の兄弟姉妹と共同相続することなく、被相続人の配偶者が単独相続人となる。配偶者の相続分は直系卑属と直系尊属と共同で相続するときは5 割加算する(韓国民法1009 条3 項)。韓国において配偶者の相続法上の地位に関しては最近、多様な観点から生存配偶者の相続法上の地位を強化しようとの傾向があり議論が盛んになっている。


ポリー
「配偶者と、亡くなった相手方の兄弟姉妹が同時に相続するというのは原則としてないのですね。」

この問題はそもそも相続の趣旨及び相続法の存在意義、夫婦財産制度のあり方との関係や平均寿命の増加のような社会現状の変化など、様々な論点と絡んでいる重要な問題であるのでまとめて議論することにしたい。

2 代襲相続

韓国民法1001 条(代襲相続) 前条第1 項と第3 項の規定により相続人となるべき直系卑属あるいは兄弟姉妹が相続開始以前に死亡したとき、又は欠格者となったとき、その者の直系卑属がある場合にはその直系卑属が死亡又は欠格した者の順位に代わって相続人となる。
韓国民法1003 条(配偶者の相続順位) ②第1001 条の場合に相続開始以前に死亡又は欠格した者の配偶者は同条の規定による相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。


韓国法において代襲相続とは、相続にとなる被相続人の直系卑属又は兄弟姉妹が相続開始以前に死亡・欠格した場合、その者の直系卑属や配偶者が死亡・欠格した者の順位に代わって相続人となることをいう。代襲相続は、代襲者固有の権利として直接被相続人から相続することであるとされる。被代襲者は相続人となるべき被相続人の直系卑属あるいは兄弟姉妹である。したがって規定上、相続人になるべき被相続人の配偶者を被代襲者とする代襲相続は認められない。例えば、被代襲者の配偶者が代襲相続の相続開始以前に死亡又は欠格者になった場合、その配偶者に改めて被代襲者としての地位を与えることはできない11。韓国民法が定める代襲原因は相続開始以前の死亡と相続欠格のみであり、相続放棄は代襲相続にならない。


ポリー
「日本とほぼ同じですね。」


例えば、第1 順位の相続権
のある直系卑属と配偶者がみんな相続権を放棄した場合には孫が被相続人の直系卑属として相続人(本位相続)となる12。被代襲者の直系卑属又は配偶者は代襲相続人となる。胎児は相続順位については既に生まれたものとみなすので、被代襲者の死亡・欠格当時の胎児のみならず、相続欠格後相続開始当時に胞胎の胎児も代襲相続できる。代襲相続人となる配偶者は法律上配偶者でなければならない。但し、被代襲者の死亡後再婚した配偶者は、再婚によって姻戚関係が消滅するため、代襲相続権を失う(登記例規694 条)。代襲相続人に改めて代襲原因が生じた場合、代襲相続人の直系卑属は再代襲相続人となるが、前述したように被代襲者の配偶者は代襲原因が生じたとしても再代襲相続人とはならないと解するのが判例である。


ポリー
「夫の親が亡くなった場合、夫が先に亡くなっていると妻も相続することがあるのですね。」


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

ポリー
「相続欠格はこわいのでとばします。相続人の排除規定は日本と違いありません。」

3 相続欠格

韓国民法1004 条(相続欠格事由) 次に掲げる者は相続人となることができない。
1.故意に直系尊属、被相続人、その配偶者又は相続の先順位若しくは同順位にある者を殺害又は殺害しようとした者
2.故意に直系尊属、被相続人とその配偶者を傷害し死亡するに至らせた者
3.詐欺又は強迫によって被相続人の相続に関する遺言し又は遺言の撤回することを妨げた者
4.詐欺又は強迫によって被相続人に相続に関する遺言をさせた者
5.被相続人の相続に関する遺言書を偽造・変造・破棄又は隠匿した者
相続欠格とは相続人に一定な法定事由が生じた場合、特別に裁判上の宣言を待たず、法律上、当然にその相続人の資格を剥奪することである。韓国民法1004 条は五つの事由を定めている。
とくに、1004 条1 号においては、財産相続の先順位あるいは同順位の胎児を殺害したことも相続欠格に当たる。しかし殺害の故意以外に相続に有利だろうとの認識は要しないとするのが判例である13。相続欠格事由に当たる場合には法律上当然相続人としての資格を失うのであり特別な手続きは要らない。相続開始以後に欠格事由が生じた場合であっても欠格の効果は相続開始時に遡及する。相続欠格者は同時に受贈欠格者であるため遺贈も受け取れないが、被相続人が生前贈与することは妨げない。相続欠格制度は被相続人の意思とは無関係で法律上当然生ずる効果であり、韓国法においては被相続人の意思に基づき法定相続人の資格を剥奪できるような制度はない。

3 相続回復請求権

1 韓国民法999 条の立法趣旨

韓国民法999 条(相続回復請求権) ①相続権が僭称相続権者によって侵害されたときには相続権者又はその法定代理人は相続回復の訴を提起することができる。
②第1 項の相続回復請求権はその侵害を知った時から3 年、相続権の侵害行為があった時から10 年を経過したら消滅する。
韓国民法999 条には相続回復請求権の意味と短期の消滅時効について定められている。韓国民法が定める相続回復請求権とは僭称相続人によって相続権が侵害された場合、相続権者又はその法定代理人が相続財産の回復を請求できる権利を指す。


実はこのような僭称相続人が事実上相続している場合であっても真正相続人の相続権が剥奪されるわけではない。相続財産に関して真正相続人は持分権に基づく相続財産の個々の物件について物件的請求権を行使し、その妨害や排除を請求すればいいことであろう。それにもかかわらず、韓国民法が相続回復請求権を別の規定として立法した理由ないし相続開始請求権とは何のための権利なのかが問題になる。この条文の立法趣旨については一般に次のように説明している。まず、第1に、相続が開始され相当な期間が経過したにもかかわらず、事実上相続した者に対する返還請求をいつまでも全面的に許容するとすれば、当事者の間に若しくは第三者との関係において、その権利義務関係に混乱が生じうる。
相続回復請求権の短期除斥期間を定めることで相続に関する法律関係を早期に確定しなければならない必要がある。

第2に、共同相続人が相続財産の全てを完全に把握するとは通常できないから、999 条の相続回復請求権制度を通じて相続財産を一々列挙することなく、侵害者に対し一括して回復請求を行うことができる。第3に、個別的な権利に基づいて相続財産の返還を請求する
場合には、通常相続人はその権利が元々被相続人に属されていたということを立証しなければならない。しかし、この規定による相続回復請求なら、元々その権利が被相続人の権利であることを前提としてその承継を争うのであるから、被相続人の権限を別に立証することなく請求できるので立証責任が軽減されるという。この場合、真正相続人は被相続人の死亡、自分の相続人資格、当該財産が相続財産であることのみを立証すれば足りるという。以上の理由から相続回復請求制度の存在意義があるとされる。

2 相続回復請求権の性質

それでは、相続回復請求権をどうのような権利と解するのか。学説は、相続回復請求権の性質について次のように争われてきた。まず、相続回復請求権は相続権に基づいて相続権の侵害排除と相続財産の全体の回復を求める特別な権利として個々の財産に対する物件的請求権とは異なる包括的な権利であるとする独立権利説がある。これに対して、相続回復請求権とは相続財産を構成する個々の相続財産に対する個別的・物件的請求権の単なる集合にすぎなく、相続財産の包括承継の原則によって便宜上一個の請求権として構成されただけの権利であると捉える集合権利説とに分かれている。前者によると、相続回復請求権は相続財産に属する個々の財産に対する物件的請求権とは異なるから、相続回復請求に適用される短期除斥期間は個別的な物件的請求権の行使には適用されない。これに対し、後者の見解によれば、個別的な相続財産に対する物件的請求権と相続回復請求権とは法条競合の関係にあるとする。すなわち、相続回復請求の場合には物権的請求権の行使ができなく、さらに相続回復請求権の除斥期間が経過したときには個別的な物権的請求権も行使できないとする。他方、判例は相続回復請求権の性質につき直接に言及はしていないが、「個々の相続財産に対する返還請求や登記抹消請求も相続権の侵害を理由とする相続回
復請求の訴に当たるとして、短期除斥期間に関する民法999 条が適用される」とした14。つまり、相続財産に対するある権利の行使が相続権の侵害を原因としている限り、その請求原因を問わず相続回復請求の訴に当たると解すべきであり15、この場合、短期除斥期間の適用あり16としているのである。このことから、韓国の判例は、集合権利説に近い意見を述べているともいえるだろう。

ポリー
「韓国では、相続回復請求権が実際に利用されているのでしょうか。」

3 相続回復請求権の行使

(1) 請求権者:真正相続人

相続回復請求者はその相手方と被相続人をともにする相続人又はその法定代理人である。したがって、真正相続人と僭称相続人の主張する被相続人が異なる人である場合には、真正相続人の請求原因が相続により所有権を取得したことを前提にしているとしても、これを相続回復訴とはいえない17。真正相続人が死亡した場合、相続回復請求権は相続権から派生した権利であるがゆえに、真正相続人の死亡で消滅する。そして、真正相続人の相続人には相続回復請求権が承継されるのではなく、自分の固有の相続権が侵害されたとして固有の相続回復請求権が取得され、除斥期間も新しく起算される。相続分譲受人や包括受贈者も相続人と同じ地位にあると解されるため、彼らも相続回復請求権者であるとしている18。相続開始以後に認知された婚姻外の出生子も、認知の効力は遡及するとの根拠で、相続回復請求権を行使することができる。但し、相続開始以後に認知された子が共同相続人の場合、既に共同相続財産が分割・処分されたならば、他の共同相続人に相続分に当たる価額を請求できるが(1041 条)、この価額支給請求権もまたその実質においては、相続回復請求権と異ならないので本条の短期除斥期間が適用される。

(2) 請求の相手方:僭称相続人

韓国民法には「僭称相続人」という言葉は使われているが、その意味については定められていない。但し、実務上僭称相続人であるかどうかは非常に重要な問題であって、韓国の大法院は僭称相続人とは次のようであると判示している。「相続回復請求権の相手方となる僭称相続人とは正当な相続権を有しないのにかかわらず財産相続人であるように信じさせる外観を持っている者を意味する」とか「相続人であると称し、相続財産の全部若しくは一部を占有している者を指す」19としている。韓国法において僭称相続人には相続権侵害意思があることを要しない。なお、善意・悪意、過失などを問わず、客観的な相続権侵害の事実のみあれば僭称相続人である。
僭称相続人から相続財産を譲受した第3取得者や僭称相続人の相続人も相続財産を占有している以上相続回復請求の相手方となる。

問題は、共同相続人間にも民法999 条の消滅時効を適用できるか、換言すると共同相続人を僭称相続人といえるのだろうかである。この点に関して、判例は原則、共同相続人間にも僭称相続人であることを理由として消滅時効を主張しうるとしている。詳しくは、「共同相続人の一人又は数人が相続財産のうち自己の本来の相続分をこえて相続を原因とする占有あるいは登記をしている場合」や、「共同相続人の一人又は数人が他の共同相続人の相続権を否定しながら自分だけが相続権があると主張して相続財産を占有・支配し、真正共同相続人の相続権を侵害している場合」には民法999 条の適用のある僭称相続人であると判示している20。通説も同じである。但し、相続財産が不動産の場合、その名義がいまだ被相続人あるいは共同相続人の全員の名義であったならば、単に一人の共同相続人が相続財産の全部または一部を占有・管理しているという事実のみでは相続権の侵害は認められないと解するのが通説・判例である。


さらに、相続財産が共同相続人の一人の名義で登記されていたとしても、それが登記名義人の意思とは無関係になされたものだという特別な事情があるときには、その登記名義人を僭称相続人とはいえないとする21。なお、それが特定の権原によって占有・登記したものであった場合には当然僭称相続人となるわけではない(判例22・通説)。

他方、相続人でもない者が偽造の戸籍謄本をもって相続登記をしたという事実があってもその者が民法999 条の僭称相続人であると判断することはできないとした23。この判決の意義は、書類を偽造した者を僭称相続人の範囲から除外することで民法999 条の短期除斥期間の適用を排除し真正相続人を保護しようとしたことにある。


(3) 相続回復請求権の行使の効果

相続回復請求権は裁判上・裁判外でも行使できる(通説)。相続回復請求を認容する判決が確定されたなら、僭称相続人は相続財産を真正相続人に返還しなければならない。僭称相続人から相続財産を譲受した第三取得者も相続財産を占有している以上、相続回復請求の相手方となることは前述したとおりであるが、善意取得や時効取得により保護されることを妨げない。なお、僭称相続人に債務を返済した第三者も債権の準占有者に対する返済を主張し有効に債務を免れることも可能である。

4 相続回復請求権の消滅

相続人は相続開始後相続回復請求権を自由に放棄することができるが、相続の開始以前に予め放棄することはできない。相続回復請求権は民法の規定により除斥期間の経過によって消滅する。
すなわち、相続権を侵害された事実を知った時から3 年、侵害行為があった時から10 年が経過した時は相続回復請求ができない。その期間は除斥期間と解するのが通説である。相続権の侵害を知った時とは真正相続人が自ら自分が相続人であることを知り、かつ自分が相続から除外された事実を知った時をいう。最初の相続権の侵害行為があった時から10 年が経過したが、その後、新しい侵害行為があった場合にはどうなるのだろうか。これについて判例は、僭称相続人の侵害行為があった時から10 年が経過した以後にたとえ第三者が僭称相続人から相続財産に関する権利を取得するなどの新しい侵害行為があったとしても、相続回復請求権は除斥期間が満了したため消滅したと解すべきであるとした。したがって真正相続人はもう第三者に対しその登記の抹消などを求めることはできないし、これは真正相続人が僭称相続人に対して除斥期間内に相続回復の訴を提起して勝訴判決を受けたとしても異ならないとした24。除斥期間によって相続回復請求権が消滅する場合には、真正相続人はその地位を失い僭称相続人は相続人としての地位を得ることになる。つまり、相続回復請求権が除斥期間の経過により消滅した場合には、僭称相続人は相続開始日へ遡及して相続人としての地位及び相続財産に関する所有権を確定的に取得することに
なる25。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


4 相続の効力

1 相続財産の包括的な承継

韓国民法1005 条(相続と包括的権利義務の承継) 相続人は相続開始の時から被相続人の財産に関する包括的な権利義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属したものは、その限りでない。
相続では相続開始の時から被相続人の財産に属する一切の権利義務が相続人に承継される。韓国民法1005 条は具体的な権利義務を特定することなく財産関係が一体として相続人に相続されると定めており、これを包括承継という。したがって、相続法上の相続財産とは、相続人が被相続人から承継する財産法上の客体として、被相続人の積極財産のみならず消極財産も含まれる。
なお、まだ権利・義務として具体化されてないあらゆる法的地位も含まれる。但し、被相続人の一身に専属したものは承継されない(1005 条但書)。一身専属的な権利義務にどのようなものが含まれるのかという問題は実は結構難しい問題である。

(1) 物権など

物権は原則として相続財産に含まれる。相続による物権の承継は法律の規定による物権変動であるから、相続登記は要しない(187 条)。物権が相続されるとしても、但し、合有持分、農地農地受分配権などは一定な制限がある。

例えば、合有者の相続人は合有者の地位を承継することはできない。例えば、合有者が死亡した場合、残存合有者が2 人以上であるなら残存合有者の合有になり、残存合有者が一人であるときは残存合有者の単独所有となる26。

なお、相続により農地を取得した者が実は農業を営んでいないときは、その相続農地のうち、1万m2 以内の範囲でしか農地を所有することができない(農地法7 条1 項)。農地受分配権者27が死亡したとき、その農地も相続の対象になるが、相続人となるべき者が農家あるいは農地の耕作によって生計を営んでいる財産相続人でなければその農地受分配権は相続できない28。


ポリー
「実際に農業を営んでいない方には、相続の際に取得のストップをかけておくという考え方はありだと思います。」


他の物権と異なり観念的な占有権が相続されるかどうかが問題になるが、韓国民法193 条は「占有権は相続人に移転する」と明示的に規定している。この際、相続人が現実的に相続財産に対する占有を取得したかどうかは問題にならない。但し、占有権の相続には相続分に関する規定は適用されないので29、共同占有には相続分というのがない。なお、特許権、商標権、著作権のような知的財産権や鉱業権・漁業権30なども原則として相続される。


(2) 債権・債務及び債権法上の地位

(a) 債務

債務は原則として相続される。しかし、人格権や親族法条の権利・義務のような非財産権、一身専属的な債務、委任契約における当事者の地位や雇用契約における勤労者の地位のような個人的な信頼に基づく継続的な法律関係においての当事者の地位は相続されないというべきである。
保証債務については、通常の保証債務及び保証人の地位はその責任の範囲が確定されているので、相続の対象となる。継続的な保証の場合には保証期間と保証限度額の定めがなければ相続されるとすべきではないが、相続開始の以前に既に生じた具体的な保証債務は相続される31。


ポリー
「韓国でも保証債務は相続されるのですね。」


(b) 賃借権

債権及び債権法上の地位について、相続されるかどうかが問題とされているのは賃借人の賃借権、損害賠償請求権、離婚による財産分割請求権、生命保険金請求権、退職金・遺族給与などがある。
賃借権については、賃借権も価値のある財産権(債権)であるから、賃借権が相続財産に含まれることに関してはあまり異論がない。但し、同居者の住居生活の保障のため、韓国の住宅賃貸借保護法には賃借権の承継に関する特別規定が設けられている。例えば、賃借人が死亡したがその相続人がいない場合、住宅で家庭共同生活を営んでいた事実婚の配偶者に死亡した賃借人の権利・義務の承継を認めている(住宅賃貸借保護法9 条①)。


なお、正当な相続人がいる場合であっても賃借人がその相続人と家庭共同生活をしていない場合には、家庭共同生活をともにしていた事実婚の配偶者と2 寸以内の親族とが共同に賃借人の権利・義務を承継すると定めている(同法9 条②)。

ポリー
「実際に生活している方を優先させるのですか。」
すみれ
「浮気して、亡くなった方が悪いかも知れないから難しいところだよ。賃貸だったらいいのかもしれないけど。」

賃貸借関係から生じた債権・債務は賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。賃借
人の承継権者は賃借人の死亡後一ヶ月以内に、賃貸人に対する反対の意思表示をもって賃貸権承継を放棄することもできる(同法9 条③)。

(c) 損害賠償請求権

通常の損害賠償請求権一般が相続財産に含まれることには異論がない。しかし、生命侵害による損害賠償請求権(財産的損害賠償請求権及び精神的損害賠償請求権)が相続の対象となるかについては議論がある。特に、被相続人が即死した場合に即死者の損害賠償請求権を即死者の相続人が相続できるのかが問題となる。なぜなら、被相続人の損害賠償請求権が発生する段階では、請求権者たる被相続人が死亡しているからである。即死した者、すなわち、死者に損害賠償請求権を帰させることができないのではないかという疑問から始まる。

否定説は死者には損害賠償請求権が帰属できないことからその相続性が否定され、とりわけ、死亡者(被相続人)の精神的損害賠償請求権は一身専属的権利であるから相続人に相続されるわけがないとする32。したがって、遺族は固有の損害として損害賠償請求権を取得すると考えるべきだとする。これに対し、韓国の通説と判例は、被害者の財産上の損害である逸失利益であろうが、精神的な損害としての慰謝料であろうが、一旦、死亡者に帰属し再び相続人に承継されるとして、いずれも相続性を認めている。さらに、判例は「精神的損害に対する慰謝料請求権は、被害者がこれを破棄あるいは免除したという特別な事情がない限り、生前に請求意思を表示する必要もなく、原則として相続すると解するのが相当である」と判示した33。

(d) 離婚による財産分割請求権・生命保険請求権

離婚による財産分割請求権については、離婚後死亡した場合と、離婚訴訟及び財産分割請求を併合した訴訟中に死亡した場合とが問題とされる。前者の場合の財産分割請求権は請求の意思を表示したかどうかを問わず、当然、相続されるが、清算的な要素のみ相続されるだけで扶養的な要素は相続されないという。後者の場合には、財産分割請求権は離婚を前提とするものであるから、死亡による婚姻解消の場合には財産分割請求権が発生しないのでその相続性は認められない。
したがって、離婚訴訟中、当事者が死亡したときには、離婚訴訟と併合した財産分割請求も離婚訴訟と同時に終了するというのが判例である34。

生命保険金請求権において、生命保険金とは保険契約に基づき、被保険者が死亡することによって指定された受取人(保険受益者)に支払われるものである。したがって、生命保険金あるいは生命保険金請求権は原則として被相続人の相続財産とはいえない。そもそも相続人が保険受益者に指定されていたとしても、保険受益者たる相続人の取得した保険金請求権は契約の効力によるものであって、相続によるものではない。これは相続人の固有財産となり、相続財産には含まれない35。


このように、生命保険金は相続財産には含まれないこととなるが、相続人が保険受益者
として保険金を受け取った場合、共同相続人の特別受益として評価されるというのが通説である。


ポリー
「相続財産に含まれなくても贈与として評価されるなら結果として同じですね。」


なぜなら、被相続人による保険料支給の対価が保険金請求権であるから、その受益者が共同相続人なら、これは被相続人からの贈与あるいは遺贈に当たる無償の財産移転にほかならないからである。他方、保険受益者が相続人ではなく第三者である場合にも保険金請求権は相続財産に含まれない36。しかし、保険契約者が自分を保険受益者として指定した場合には、保険金請求権は相続財産に含まれる。


(e) 退職金・遺族給与など

退職金については、勤労者が生存中退職して既に受け取った退職金は当然相続財産に含まれる。
死亡退職金については特別法によって定められている。ここでいう死亡退職金とは私企業の勤労者や公務員が死亡した場合に、使用者が遺族に対して支払う退職金のことである。通常、死亡退職金については法令や企業の定款でその受領者の範囲や順位を定めている。私企業の場合、勤労基準法施行48 条以下の趣旨に照らして企業の死亡退職金の規定は使用者と勤労者との間に締結された第三者のための契約の性質を有しているものと解される。なお、公務員の死亡退職金に関しては、法律によって受領権者の範囲と順位が決されるものとして遺族の固有の権利として取得するのである。したがって死亡退職金や遺族給与は相続人の固有の権利として捉えるべきであって相続財産には含まれないという。香典や弔意金は相続分に応じて共同相続人に贈与されたものとして考えるべきだというのが判例であって相続財産ではないとする37。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

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法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

2 共同相続

(1) 相続財産の「共有」の意味

韓国民法1006 条(共同相続と財産の共有) 相続人が数人あるときは相続財産はその共有とする。
韓国民法1007 条(共同相続人の権利義務の承継)共同相続人は各自の相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
韓国民法は相続の効果として前述した相続財産の包括的な承継(1005 条)に加えて、共同相続(1006 条及び1007 条)について規定している。共同相続とは数人の相続人が被相続人の財産を共同で承継することである。つまり、民法1006 条が「相続人が数人あるときは相続財産は共有とする」と定めているので、共同相続人は各自の相続分に応じて財産を承継するわけであるが、共同相続財産を分割する前には相続財産を共有することになる


。この「共有」の意味ないし法的性
質については議論上争いがある。民法1006 条の「共有」が財産法上の「共有」を意味しているのか、それとも、「合有」を意味しているのかの問題である。このような見解の実益あるいは違いは、簡単にいうと、個々の財産に対する持分処分の自由を認めるかどうか、分割の遡及効と関連して相続債権・債務の規律方法(韓国民法1015 条)にあるといえる。


通説と判例38は、相続財産の共有は本来の共有を意味するとして、共同相続人は個々の相続財産に対する物権的な持分を保有するので、個々の相続財産に対する持分の自由処分ができるし、相続債権・債務が不可分的なのもであれば共有関係にあることになるが、可分的であれば分割債権・分割債務となると説明している。
韓国民法1015 条(分割の遡及効)相続財産の分割は相続開始の時に遡及してその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

(2) 債権・債務の共同相続

債権・債務の共同相続については、不可分であるか可分であるかによって議論がなされている。
まず、不可分債権・債務につき、不可分債権は相続財産分割までは共同相続人全員に不可分的に帰属される。共同相続人各自は共同で又は単独で全ての共同相続人のために全部の履行請求ができる(韓国民法40 条)。但し、受け取った給付を相続分に応じて分給しなければならない。不可分債務も各共同相続人に不可分的に帰属され、共同相続人の各自はその債務全部を履行する責任を負う。


したがって、債権者は共同相続人の一人や全ての共同相続人に対し同時あるいは順次に
債務全部の履行を請求することができる。可分債権・債務については、通説・判例の取る共有説によると、可分債権・債務は相続開始と同時に共同相続人に相続分に応じて分割・承継されるという(分割債権関係説)。要するに、可分債権・債務は相続財産分割の対象とはならない。例えば、金銭債務が共同相続された場合、相続財産の分割対象となるかについて判例は次のように判示している。「金銭債務のように給付の内容が可分の債務が共同相続された場合には、これは相続開始と同時に当然に法定相続分に応じて共同相続人に分割して帰属するので、相続財産分割の対象とならない」39とした。これに対して、少数説ではあるが合有説は、相続債権が可分債権であっても不可分債権と同じく共同相続人の全員に帰属されると解すべきであり、相続開始と同時に当然分割されるのではないと主張する。相続債務が可分債務の場合も同じである。つまり、可分債務に対する相続財産の分割は対内的な関係において各自の負担部分として分割されるとの意味にすぎないし、債権者との関係においては債権者の同意がない限り、依然として不可分債務を負担するされている。連帯債務は給付の性質上不可分的なものであるので、各共同相続人は本来の債務と同じような連帯債務を負担する。

(3) 共同相続財産の管理及び処分

共同相続財産の管理については民法上共有の規定を類推適用する。共同相続財産を処分するためには共同相続人の全員の同意が必要である。しかし、個々の相続財産に対する持分及び全部の相続分は処分できる。

3 祭祀財産の特別承継

家制度や戸主制度は韓国の相続法改正により廃止された。ところで祭祀財産の承継は祭祀相続であり、従来、戸主相続の効果として認められていたのが、未だ民法に残っているのである。そこで、この祭祀財産の相続をどのように捉えるかが問題となった。

つまり祭祀財産の承継の法理と相続の法理とを別の制度として捉えるべきかということである。学説は祭祀財産の承継は相続とは区別すべきだというのが通説である。この見解によると、祭祀財産は相続財産に含まれることなく、相続分割の対象にもならない。さらに相続を放棄した者や相続人でない者であっても祭祀主宰者として祭祀財産を承継することができるとされている。


ポリー
「韓国もお墓とか仏壇の承継は独立して残ったのですね。」


判例は祭祀財産の承継を相続と全く異なる制度として捉えるべきではなく、本質的には相続に属する制度として相続の特例であると考えるべきだとしている40。大法院はこのような考え方に基づいて祭祀財産の承継の場合にも相続回復請求権の短期除斥期間が適用されるとする。さらに、憲法裁判所では、相続財産の中、一定の範囲の祭祀財産を祭祀主宰者が承継すると定めた民法1008 条の3 が祭祀主宰者ではない他の相続人の相続権若しくは財産権を侵害するのではないか、宗孫ではない女子相続人や祭祀主宰者とならなかった他の相続人の平等権を侵害するものではないかというのが問題になったことがある。


これに関して、憲法裁判所は「韓国民法1008 条3 の立法目的は正当であり、祭祀財産
を承継すべき者は「戸主」や「宗孫」ではなく、「実際に祭祀を主宰する者」として原則として共同相続人の協議によって決められ、協議によって宗孫以外に次男や女子相続人も祭祀主宰者となることができる」などの理由で合憲の判断を下した。
韓国民法1008 条の3(墳墓などの承継) 墳墓に属する1 町歩以内の禁養林野と600 坪以内の墓土たる農地、族譜と祭具の所有権は祭祀を主宰する者が承継する。


韓国民法1008 条の3 は墳墓に属する1 町歩以内の禁養林野と600 坪以内の墓土たる農地、族譜と祭具の所有権は「祭祀を主宰する者」が承継すると定めている。ここでいう「祭祀主宰者」とは先に述べたように「実際に祭祀を主宰する者」と解される。戸主制度が廃止された現在の韓国民法においては、「祭祀主宰者」が従来の戸主承継人を意味しているのか事実上祭祀を主宰する者を意味しているのかは、少なくとも判例によって明らかになった。


但し、祭祀財産の承継権者を「相続人」に限定すべきであるかは問題である。これに関して民法の明確な定めがないからである。ここで判例は、「共同相続人の中に宗孫がいる場合には宗孫が祭祀主宰者となるのが原則であるが、宗孫に祭祀を主宰できない特別な事情がある場合にはこの限りでない」41として、祭祀財産の承継権者たる祭祀主宰者は相続人でなければならないとしている。


他方、相続放棄者も祭祀財産を承継できるというのが通説である。祭祀主宰者の決定方法についても民法の規定がない。大法院は「共同相続人間の協議で決定し、協議できなかったときは、祭祀主宰者の地位を維持できない特別な事情がない以上、亡人の長男が祭祀主宰者となり、共同相続人に息子がいないときは亡人の長女が祭祀主宰者となる」42としている。ともかく、祭祀財産に限っては、相続財産のように分割して相続するのになじまず、あくまで死者のお祀りを最も適切に行う者が承継すべきだからである。このように、祭祀財産の承継は一般の相続財産と異なり、祭祀を主宰する者が特別承継する特別財産といえる。このことから、祭祀を主宰する者が、相続人として他の一般相続財産を承継する際、祭祀財産の承継は相続分や遺留分の算定に当たっては考慮すべきではないとされる。


ポリー
「祭祀財産が分割して相続するのになじまず、というのはわかります。」


民法の定める祭祀財産とは、墳墓に属する1 町歩以内の禁養林野、600 坪以内の墓土の農地、族譜と祭具である。禁養林野とは先祖の墳墓があるか設置する予定で伐木が禁じされ樹木を養うための林野を指す。暮土の農地とは田畑が含まれその受益をもって墳墓管理と祭祀費用に充当される農地のことである。族譜と祭具については内容的にさほど問題はない。他方、遺体・遺骨が祭祀財産であるかについては韓国法では遺体や遺骨は埋葬されてなくても墳墓と一体のものとして当然、祭祀財産に含まれる。したがって、遺体・遺骨は祭祀財産に準してその祭祀主宰者に承継される43。

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5 相続分

1 相続分の概念

一般に相続分とは共同相続人が包括的な相続財産に関して持っている権利・義務の割合を指す。
もっとも、韓国民法上の相続分という用語はこのような意味のほかにも、様々な意味がある。例えば、抽象的相続分、具体的相続分、相続財産の分割の以前の相続人の地位としての相続分がそれである。第1 に、抽象的相続分とは共同相続人の各自が相続財産を構成する被相続人の権利・義務を承継する割合、言い換えれば、相続人の取得する相続財産の総額に対する分数的な割合をいう。韓国民法1007 条(共同相続人の権利義務承継)・1009 条(法定相続分)における相続分とはこのような抽象的相続分を意味する。これに対し、第2 に、韓国民法1008 条(特別受益者の相続分)・1008 条の2(寄与分)においての相続分は具体的相続分を意味する。具体的相続分とは、相続財産の総価額から抽象的相続分率を乗じて算定した金額、つまり、相続人が具体的に取得する額のことである。最後に、相続財産分割の以前に各相続人が相続財産の全体に対して有している包括的な権利ないし法律上の地位そのものを意味する。韓国民法1011 条の相続分とはこのような意味の相続分である。

2 指定相続分

相続分の決定に関して、韓国民法1009 条及び1010 条は法定相続分のみを定めている。つまり、被相続人が遺言で共同相続人の「相続分」44(これを指定相続分という)を定めることができるのかについては規定がない。このことから学説は、指定相続分を認めるかどうかについて争われてきた。まず、韓国相続法には指定相続分に関する規定がなく、しかも、遺言は法定事項のみを認めているので、現行民法上、指定相続分を認めることはできないとする否定説がある。これに対し、通説は次のような理由で指定相続分あるいは遺言相続分を認めている。すなわち、韓国民法上、遺言による包括遺贈が認められており、包括遺贈は第三者のみならず共同相続人に対してもできる。この際、包括受贈者は財産相続人と同一な権利義務があるから、結局、共同相続人に対する包括遺贈は一種の指定相続分として捉えることができるという。但し、相続分指定的包括遺贈があったとしても、相続債務には影響を及ばさないとされている。したがって、被相続人の債権者は相続分の指定にも関わらず、共同相続人に対して法定相続分に応じる請求ができると解される。

3 法定相続分

被相続人による相続分の指定がなければ、相続分の決定は民法1009 条に従って法定相続分によることになる。韓国民法が定める法定相続分は次のようである。
韓国民法1009 条(法定相続分) ①同順位の相続人が数人あるときは。その相続分は均分とする。

②被相続人の配偶者の相続分は直系卑属と共同で相続するときは直系卑属の相続分の5 割を加算し、直系尊属と共同で相続するときは直系尊属の相続分の5 割を加算する。

③削除(1990.1.13.)
韓国民法1010 条(代襲相続分)①第1001 条の規定により死亡又は欠格した者を代襲して相続人となるものの相続分は、死亡又は欠格した者の相続分による。

②前項の場合、死亡又は欠格した者の直系卑属が数人あるときは、その相続分は死亡又は欠格した者の相続分の限度において第1009 条の規定に従って定める。第1003 条第2 項の場合にも同様とする。
同順位の相続人間には均分平等相続の原則を貫いている。配偶者の相続分は直系卑属・直系尊属より5 割を加算し、代襲相続人の相続分は被代襲者の相続分に従うということは前述した。他方、2005 年の民法改正の際、扶養相続分(いわゆる、親孝行相続分)というのを新設しようとの主張があったが、立法には至らなかった。その代わり、扶養による相続分の増加は1008 条の2の寄与分規定の改正によってある程度反映されることになった。
例えば、法定相続分の規定によると相続総額を100 として具体的な相続分の計算は次のようである。

夫が死亡した場合
妻(1.5)
3/9×100
長男(1)
2/9×100
長女(1)
2/9×100
次男(1)
2/9×100
婚姻した長男が
死亡した場合
父(1)
2/7×100
母(1)
2/7×100
妻(1.5)
3/7×100
代襲相続
(父の死亡)
母(1.5)
3/9×100
長男(被代襲者)(1)
妻2/9×100×3/5
子2/9×100×2/5
長女(1)
2/9×100
次男(1)
2/9×100


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
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4 共同相続人間の相続分の公平な調整

さて、指定相続分・法定相続分が決まったからといって、各共同相続人の具体的に取得できる相続分が最終的に確定するわけではない。共同相続人間の公平を図るために民法は「特別受益者の相続分」と「寄与分」に関する規定を設けている。まず、「特別受益者の相続分」を設けたのは、共同相続人の中に特別受益者がある場合、法定相続分に従って他の共同相続人と特別受益者が均分相続することになると、特別受益者は二重の利益を得ることになり、これは共同相続人間の公平に反するからである。そして、共同相続人の中に被相続人を特別に扶養したかあるいは被相続人の財産の維持又は増加に特別に寄与をした者がいるときは、相続分の算定においてその寄与や扶養を考慮すべきである。このような「寄与分」制度もまた共同相続人間の実質的な公平を図るためである。

結局、法定相続分が定められていても、特別受益や寄与分といつ制度を通じて、共同相続人間の相続分の調整原理に基づいて具体的な相続分が確定することになるため、実際に
共同相続人間の相続財産分割によって配分される割合は、法定相続分と異なる割合になることとなる。

(1) 特別受益者の相続分

韓国民法 1008 条(特別受益者の相続分)共同相続人中に被相続人から財産の贈与を受け、又は遺贈を受けた者があるときは、その受贈財産が自分の相続分に達しないときはその不足部分の限度内で相続分がある。

(a) 特別受益者の特別受益
特別受益者の相続分に関しては韓国民法1008 条は比較的に簡単な条文で定めている。ここでいう特別受益とは、被相続人から生前贈与や遺贈として受けたもので相続分の前渡し(先給)45とみなされる利益のことである。共同相続人の中にこのような特別利益を受けた者は、他の共同相続人との公平を図るために、特別受益が自分の相続分より少ないときは、その足りない部分の限度内のみで相続分があるとしている。つまり、このような特別受益は相続分の一部であるから、各共同相続人の具体的相続分の確定に当たっては、生前贈与分や遺贈分が計算上戻されることになる。したがって、特別受益者は一応、特別受益の返還義務を負うというが、これはあくまで計算のための仮想の合算(返還)にすぎない。このような返還義務を負う特別受益者は原則として共同相続人のみである。共同相続人の直系卑属、配偶者、直系尊属が被相続人から贈与や遺贈を受けたとしても、原則としては共同相続人は具体的な相続分算定における特別受益者としての返還義務は負わない46。相続を放棄した者も他の相続人の相続分を侵害しない限りで、返還義務は負わない。代襲相続の場合は、代襲相続人が共同相続人となる場合には当然返還義務を負うが、特別利益を受ける当時相続人の地位を持っていたかは問わない。

被代襲者が特別受益を受けたときは、代襲相続人が実際の経済的利益を受けた場合にのみ返還義務を負うと解するのが通説である。
包括的な遺贈については、包括受遺者が法定相続人であるかにより、相続順位上、第2 順位以下の者として包括遺贈を受けた者が共同相続人となった場合には返還義務を負担する。
韓国民法上、返還すべき特別受益とは、生前贈与と遺贈がある。生前贈与の返還範囲については民法の定めはないが、制度の趣旨に照らして「相続財産の前渡しとして評価できるような特別な贈与」に限る。これまで学説や判例上、特別な贈与と判断してきたのは、例えば、婚姻費用、生計の資本としての贈与、巨額の婚姻式費用、他の共同相続人と異にする高等教育費(留学資金など)がある。しかし、扶養料や生活費、慣例的なお土産、お小遣い、その他の財産譲渡や債務免除は特別利益ではないとする。遺贈の場合については、その目的を問わず、返還の対象になる。
但し、遺贈の場合には相続開始の時、まだ相続財産の中に含まれているので、生前贈与のように相続財産に加算する必要はない。生命保険金や死亡退職金は相続財産ではなく、共同相続人の特別受益と解するのが通説である。


(b) 具体的相続分の算定

韓国民法には特別受益者の具体的な相続分の計算方法については詳しい定めがない。特別利益は相続分の一部であるから、特別受益者の具体的相続分は次のように決められる。まず、被相続人が相続開始の時において有している財産の価額にその特別利益(生前贈与)の価額を加えたものを相続財産とみなして、それに各共同相続人の法定相続分率を乗じて法定相続分の価額を算出する。この際、相続財産の評価は相続開始の時を基準にしているので、特別利益(生前贈与)の価額の評価も相続開始の時の価額が基準となるというのが通説である47。そして、算出された各共同相続人の法定相続分の価額から特別受益者の特別受益(生前贈与と遺贈)の価額を控除する計算方法による48。その残額を特別受益者の相続分(具体的相続分)とするということである。他方、具体的相続分の算定の基礎となる「被相続人が相続開始のときにおいて有している財産」には相続債務、すなわち、消極財産は含まれないというのが通説と判例49の態度である。つまり、相続財産の中の積極的財産の総額を意味しており、相続債務は民法1009 条に従って共同相続人に分担される。具体的な相続分の算定の結果、特別受益が相続分に足りない場合には、足りない部分の限度で相続分を受け取ることができる。これに対し、特別受益が相続分を超えていたとき、超過
特別受益者の具体的相続分はゼロになるが、その超過分を払い戻さなければならないかについては少し議論がある。これは、韓国民法の制定当時は、但し書きとして「特別受益者の相続分に関して、受贈財産が相続分を超えた場合にはその超過分の返還を要しない」という規定があったが、1977.12.31.の民法改正によってこれが削除されたからである。通説は1977 年の民法改正でこの但し書きが削除されたのは遺留分制度が導入されたからであって、超過分を返還させようとする趣旨ではないとして否定説をとっている。もし特別受益者の特別受益が本来の相続分を超えていたという事実だけで、遺留分の侵害を問わず、常に返還義務があるというのは、被相続人の意思をあまりにも制限しすぎることになるから不当だとする。判例は下級審ではあるが、超過分は遺留分の侵害がある場合のみ返還すべきであるとしている。特別受益と遺留分との関係では、遺留分には韓国民法1118 条によって1008 条が準用されるので、特別受益は遺留分には劣後する。したがって、特別受益は遺留分を侵害することができなく、遺留分との関係では実際に特別受益が返還される場合もありうる。これまでの内容を整理すれば次のようである。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

※特別受益者があるときの具体的相続分の算定方法
① 具体的相続分=(相続財産価額+生前贈与)×法定相続率-(生前贈与+遺贈)
② 相続財産分配額=具体的相続分÷各共同相続人の具体的相続分の総合×(相続財産-遺贈額)
③ 相続利益=相続財産分配額+生前贈与+遺贈
④ 消極財産は特別受益を考慮せず法定相続分の割合で共同相続人が負担
(2) 寄与分
韓国民法1008 条の2(寄与分) ①共同相続人の中に相当の期間において同居・看護その他の方法により被相続人を特別に扶養し、又は被相続人の財産の維持又は増加について特別に寄与をした者があるときは、相続開始の当時の被相続人の財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第1009 条及び第010 条により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
②前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭法院は、前項に規定する寄与者の請求により、寄与の時期・方法及び程度と相続財産の額その他の一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
③寄与分は相続開始時の被相続人の財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
④第2 項の規定による請求は第1013 条第2 項の規定による請求があった場合又は第1014 条に規定する場合にすることができる。

(a) 寄与分制度の意義と他の制度との関係

寄与分制度は、共同相続人の中、被相続人の財産の維持や増加に寄与し、又は特別に被相続人の扶養した者があるとき、相続分の算定においてそのような寄与あるいは扶養を考慮することで、共同相続人間の公平を図るために、1990 年の韓国民法の改正により新設されたものである。特別受益制度と趣旨をともにするが、寄与分は特別受益に優先して考慮されるというのが通説である。


したがって、寄与分を算定してこの価額を控除した相続財産に基づいて特別受益者の相続分が決まることになる。他方、寄与分は相続財産の価額から遺贈の価額を控除した額を超えることができないので(1008 条の2)。また、遺贈は遺留分に劣後するという関係にある。ここで、寄与分と遺留分との関係では、どれが優先して考慮されるかが問題となっている。言い換えると、問題は遺留分を侵害する寄与分を認めることができるかに帰する。これに関して、韓国民法では、寄与分と遺留分との関係を直接に定める規定はないが、民法1115 条が遺留分返還請求権の対象に寄与分を規定していないことから、遺留分が寄与分に劣後するというのが通説である。元々遺留分制度は被相続人の遺産処分の事由を制限するための制度であり、寄与分は共同相続人の協議で決められるか又は家庭法院の審判によって決せられるにすぎなく、被相続人の意思によるものではないので寄与分を遺留分によって制限するのは妥当ではないという。さらに寄与分は本来寄与者に帰すべき財産が被相続人の財産に含まれているだけで、本質的には遺留分の返還対象とはならないからである。

通説によると、遺留分算定の基礎財産は寄与分を控除したものであるとされる。寄与分を被相続人が遺言で指定することができるかについては、遺言は法定事項に限ってすることができるので、寄与分を指定した遺言は無効である。

寄与分の請求は寄与をした相続人がすることであり、相続財産分割の請求があるとき、相続財産分割後に認知又は裁判の確定によって共同相続人となった者が価額請求することをしたときにすることができる。このような請求なくして寄与分のみを定める審判を請求することは不適法であるとして却下される。


(b) 共同相続人の寄与行為

特別受益者の相続分と寄与分制度は「共同相続人間」の相続分の公平な調整制度であるので、共同相続人たりえない者の寄与は評価されない。例えば、事実婚の配偶者、共同相続人ではない包括的受贈者などは寄与分権利者ではないとされる。相続欠格者や相続放棄者も寄与分の権利を主張することができない。かえって、共同相続人が自分の寄与ではなく、その配偶者の寄与を主張することもできない。他方、多数説によると、代襲相続人は自分の寄与のみならず、被代襲者の寄与も主張できる。


ここでいう「特別な寄与」とは、相当の期間において同居・看護その他の方法により被相続人を特別に扶養し、又は被相続人の財産の維持又は増加について特別に寄与したことである。簡単にいうと、被相続人に対する「特別な扶養」あるいは被相続人の「財産の維
持又は増加に対する特別な寄与」が必要である。第1 に、「特別な扶養」というのは2005 年の民法改正により挿入された要件である。相続財産の分割における寄与分の考慮は、寄与行為に対する対価としての意味をもっているので、共同相続人が既に寄与行為に対する相応の対価を得ていたり、法律上の義務が存在しその義務に基づいて寄与したのであるならば、寄与分として評価されるべきではないだろう。そこで、法律上の扶養義務のある共同相続人の通常の扶養は特別な寄与と評価されるわけではないが、扶養義務の順位、扶養の時期・方法に照らして「特別な扶養」として寄与分が認められる場合もありうる。判決には、成年の子が扶養の存否やその順位に関わらず長期間にわたって父母と同居し、生計維持のレベルを超える扶養をしてきた場合、扶養の時期・方法及び程度に照らして特別な扶養として寄与分に考慮すべきであると判断したものがある50。他方、相続人の被相続人に対する特別な扶養が認められたときは、それだけで民法上の寄与分の請求の要件を満たしたことになる。特別な扶養により被相続人の財産の維持や増加に寄与する必要はない。つまり、扶養と相続財産の維持や増加との間に因果関係がなくても、特別な扶養
という事実だけで寄与分の請求ができるということである。第2 に、民法上「特別な寄与」として定められているもう一つの要件は被相続人の財産の維持又は増加に対する特別な寄与である。
例えば、労務の提供や財産上の給与などであるが、配偶者の家事労働は特別な寄与とは評価されない。但し、最近、寄与分制度は、被相続人の死亡時、夫婦財産制度のあり方と関わって、夫婦財産の清算という観点から配偶者の地位を強化するに活用できる制度として学説上、注目されている。

ポリー
「寄与分は実際に使われているのでしょうか。学説上注目されるのは良いと思うのですが。」


(c) 寄与分の決定

寄与分の決定はまず共同相続人の協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、寄与者の請求により、家庭法院が寄与分を定める。寄与分は法定相続分の修正要素であって相続財産分割の前提問題なので、寄与分請求は相続財産分割請求がある場合のみ提起できるとされる。寄与分審判請求は相続財産分割事件が法院に継続中でしかすることができない。なお、相続財産の分割後に認知された子が共同相続人となって価額支給請求するとき(1014条)にも寄与分の請求ができる。しかし、寄与相続人は遺留分返還請求訴訟で、民法による寄与分の決定がなされる前には、相続財産の中から、自分の寄与があることを根拠にその寄与分の控除を抗弁として主張することはできない51。相続財産分割請求がないものの遺留分返還請求があったという事由だけでは、寄与分決定請求は許容されないとしているのである52。共同相続人たる寄与者は、他の共同相続人の全員を相手方にして寄与分を請求しなければならない。


寄与分は遺贈を超えることができないので(1008 条の2③)、相続開始の時に有している被相続人の財産価額から遺贈の価額を控除した残額を超える寄与分は認められない。具体的には被相続人の相続財産価額から寄与分を控除したものを相続財産とみなし相続分を算定する。寄与分が定められた後には、譲渡や相続の対象となるが、寄与分決定の前は、譲渡はできないが相続は肯定される。寄与分の放棄も可能である。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

5 相続分の譲渡と譲受

韓国民法1011 条(共同相続分の譲受)①共同相続人の中にその相続分を第三者に譲り渡した者があるときは、他の共同相続人は、その価額及び譲渡費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

②前項の権利はその事由を知った時から3ヶ月、その事由のあった日から1 年以内に行使しなければならない。


ポリー
「日本では1ヶ月以内ですが、韓国では少し長いです。」


共同相続人は相続開始の後、相続財産分割前にその相続分を自由に譲渡することができる。これを相続分の譲渡というが民法上にはその要件や効果に関する条文は存在しない。「相続分の譲渡」とは「相続財産分割の前に積極財産と消極財産とを包括した相続財産の全部に対して共同相続人の持つ包括的相続分、つまり相続人の地位の譲渡」を意味する53。ところが、相続分の譲渡により第三者は包括的な相続人としての地位を得ることになるので、第三者は相続財産の分割に参加しなければならないこととなる。そうなると、他の共同相続人の利害に重大な影響を及ぼすことになりかねない。


そのことで、民法1011 条は、第三者に相続分の譲渡がなされた場合、他の共同相続人は、譲渡を受けた第3 者が財産管理や財産分割に介入するのを防ぐため、その第三者に価額及び譲渡費用を償還して、その相続分を譲り受けることができると定めている。これが、「共同相続分の譲受」である。韓国民法上の共同相続人の「譲受権」という用語は実は「取戻権」を意味している。このような譲受権はその事由の知った時から3 ヶ月、事由のあった時から1 年以内に行使しなければならない。譲受権を行使して第三者に譲渡された相続分が取り戻された場合、その相続分の帰属については、全ての共同相続人に帰属されるという共同帰属説が通説である。他方、相続分の譲渡があったとしても相続人(譲渡人)は相続債務を免れることはできない。
この場合、譲受人もまた相続人としての地位を取得するものであるので、譲渡人たる相続人と譲受人は、相続債務を併存的・重畳的に引き受けると解する(通説)。

6 相続財産の分割

1 意義

韓国民法条1012(遺言による分割方法の指定、分割禁止)

韓国民法268 条(共有物の分割請求)①共有者は共有物の分割を請求することができる。しかし、5年以内の期間で分割しないことを約定することができる。

②前項の契約を更新するときは、その期間は更新した日から5 年を超えることができない。

③前2 項の規定は第215 条、第239 条の共有物には適用されない。

相続財産分割54とは相続開始によって生じた共同相続人の間の共有関係を終了させ、相続分に応じてこれを配分することで各自の単独所有と確定するための包括的な分配手続きを指す。近代の相続法理によると、共同相続人は原則として、いつでも相続財産分割を請求することができる(1013 条)。

しかし、韓国法においてこのような相続財産分割の自由は次の二つの場合に制限さ
れる。被相続人の遺言による相続財産の分割の禁止(1012 条)と、共同相続人の全員の協議による相続財産分割の禁止(268 条)がそれである。このような制限は相続財産の分割が永久に禁じられるのではなく、実質的に一定な期間、分割が延期されるだけである。相続財産の分割は共同相続人の関係を共有から単独所有への確定の手続きといえるので、相続財産の分割に当たっては、まず、相続財産に対する共同相続人の間に共有関係が存在しなければならない。そのうえ、共同相続人が確定されていて、前述したような相続財産分割の禁止がないことが必要である。

2 分割の当事者

(1) 共同相続人

原則として、相続を承認した共同相続人の全員が相続財産の分割の当事者である。しかし、共同相続人ではないが、包括的遺贈を受けた者と相続分の譲受人は、相続人と同一な地位を有するので相続財産分割の請求権者となる。共有持分を譲受した場合には、相続分の譲渡ではなく、共有持分の譲渡にすぎないから、共有持分の譲受人は相続財産分割請求はできないが共有物分割請求をすることになる。相続財産分割請求権は一身専属権ではないので、共同相続人の債権者による分割請求権の代位は許される。胎児は相続順位については、既に生まれた者とみなす(1000 条3 項)が、相続財産分割においてどのように捉えるかが問題となる。


例えば、新生者と推定される胎児や被相続人により認知された胎児が分割の当事者となるかということが問題である。韓国の判例は、胎児は胎児としている間には権利能力を有しないので、相続財産分割において胎児(法定代理人も含め)は参加することができないと判断している。民法1000 条3 項は、実際に生きて出生した場合は相続が開始された時期へ遡って出生したとみなすにすぎないという。結局、胎児が生きて出生したとしても胎児を除いてなされた相続財産分割が遡及して無効となるわけではなく、1014 条を類推適用して価額返還請求を認めることになる。これに対し、多数説は胎児である間であっても1000 条3 項により権利能力を有するとみて、共同相続人となり少なくとも理論的には法定代理人を通じて相続財産分割に参加することができるとしている。

(2) 相続人としての地位(発生・消滅)が争われている者

韓国民法1014 条(分割後の被認知者などの請求権)相続の開始後認知又は裁判の確定により共同相続人となった者が相続財産の分割を請求しようとする場合、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしたときは、その相続分に相当な価額の支払いを請求する権利がある。
相続人の地位の消滅を争っている者は、その相続人としての地位の確定前に相続財産分割がなされるときは、分割協議に参加させるべきである。例えば、新生否認の訴や新生子関係存否確認の訴が継続している者、相続欠格者・認知や婚姻又は(入養)養子縁組の効力が争われている者などは、一応相続財産分割手続きに参加する。但し、その者が相続人でないことが後に確定されれば、既になされた分割協議は無効となるとされる。これとは反対に、相続人としての地位の発生が確定される前に、相続財産分割がなされる場合はどうなるのか。この問題について、韓国民法1014 条は一応、分割の協議からその者を除いて分割できることを前提にしている。


もっとも、分割後に認知や裁判によって相続人の地位が確定されたなら、認知の遡及効などによって相続開始の時から共同相続人の地位を持っていたことになるわけである。しかし、認知又は裁判の確定の前になされた共同相続人の分割その他の処分を無効にして、再分割をしろということになると、第三者に不測の損害を与えることもありかねない。


このことは、認知の遡及効を制限する趣旨にも反するので、再分割は許されないとしたのである。但し、被認知者などの相続権を保障するため、1014 条により価額の支払いを請求できると定めているのである。この規定による請求権者となるのは、例えば、被相続人の死後に認知された者や被相続人との離婚無効あるいは破養(離縁)無効の訴訟によって無効が確定された者、被相続人に対して父を決める訴訟を起こし、その地位が確定された者は、裁判が確定される前は財産分割続きに参加できないが、確定後、その相続分に応じる価額の支払いは請求できる。ここでの価額支給請求権の性質は、相続回復請求権の一種であって短期除斥期間が適用される55。分割又は処分された相続財産から生じた果実は価額
算定の対象ではない56。

さて、価額支払い請求の相手方は他の共同相続人である。後順位相続人は韓国民法860 条(認知の遡及効)における保護される第三者ではないので、表現相続人にすぎなく1014 条の共同相続人でもない。したがって、後順位相続人が参加した相続財産分割は無効となり、民法1014 条も適用されないと解するのが通説と判例である。例えば、相続財産分割後、認知の訴によって相続人となった被認知者がある場合、被認知者より後順位の相続人である被相続人の直系尊属若しくは兄弟姉妹などは、被認知者の出現と同時にその相続権を遡及して失うこととなり、民法860 条の但書のいう認知の遡及効の制限により保護される第三者でもない57。しかも、後順位の相続人の相続財産分割は無効であって、民法1014 条も適用されないから、被認知者は後順位相続人に対し価額支払い請求権のみを請求できるということにはならない58。


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第5部 韓国法
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3 分割の対象となる相続財産

分割の対象たる相続財産とは被相続人が残した財産の中、一身専属的な権利義務を除くものである。あらゆる積極財産・消極財産が含まれるということは既に述べたとおりである。相続財産の共有の性質及び相続財産分割の性格や機能に照らして、相続財産の中から相続財産分割の対象から外されるものもあるので、相続財産の範囲と相続財産分割の対象とが必ずしも一致するとはいえない。

つまり、相続財産の分割というのは、共有状態のものを各共同相続人の単独所有に確
定するための手続きであるので、共有状態にないものについては、たとえ相続財産であっても相続財産分割の対象とならないことになるからである。前述したように、金銭債権などの可分債権・債務は相続と同時に法定相続分に応じて共同相続人に当然に分割され承継されるのであり、相続財産分割の対象とならないと解するのが多数説と判例である59。

判例60には金銭債務が共同相続された場合、相続財産分割の対象とならない相続債務に関して分割の協議があったならば、その協議は免責的債務引取の約定の実質を持っていると判断したものがある。したがって、債権に対する関係においてその約定をもって他の共同相続人が法定相続分に応じる債務の一部若しくは全部を免責するには、民法454 条のよる債権者の承諾が必要なのであって、ここに相続財産分割の遡及効を定めている1015 条は全く適用されないと判断した。


他方、相続財産ではないが、分割の対象となるかどうかが問題となるのが代償財産と相続開始後に相続財産から生ずる受益である。代償財産とは相続開始から相続財産分割まで相続財産の売却、滅失などによって代わりに受けた金銭その他の物件を指す。韓国では、このような代償財産と受益は元々相続財産に含まれるものであるから、相続財産と等しく分割の対象になるとされている。
さて、相続財産と相続財産分割の対象を評価する時点については、二つの場面の目的が異なっているので、その評価時点も異にする。相続財産を評価する場面では、特別受益や寄与分を財産的に評価して具体的な相続分を算定するのが目的である。相続開始時点での特別受益や寄与分を算定すべきなのであるから、相続開始時点で相続財産や特別受益、寄与分などを計算し、具体的相続分を算出することになる。これに対し、相続財産分割を行う場面では、その分割時点で存在している相続財産を分配することが目的である。ここに、多数説と判例は、相続財産分割とは共同相続人の共有財産に属する相続財産をその相続分に応じて公平と合理的であるよう分配する制度であるとした上で、相続財産分割手続きは、将来を向けて新しい権利若しくは法律関係の形成す本質的な目的とするものとしている。つまり、相続開始の当時に遡って過去の権利や法律関係の確認を目的とするものではないと判断している。したがって、相続財産分割の対象は分割する時に現存するものに限るという分割時説を支持している61。


4 分割の方法

韓国民法1012 条(遺言による分割方法の指定、分割の禁止) 被相続人は遺言で相続財産の分割方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、相続開始の時から五年を超えない期間を定めてその分割を禁ずることができる。
韓国民法1013 条(協議による分割)①前条の場合を除き、共同相続人はいつでも、その協議で相続財産の分割をすることができる。

②第269 条の規定は前項の相続財産分割について準用する。
韓国民法269 条(分割の方法)①分割の方法に関して協議が調わないときは、各共有者は、法院にその分割を請求することができる。
②現物で分割することができないとき、又は分割によって著しくその価額を減損させるおそれがあるときは、法院は、物件の競売を命ずることができる。

(1) 指定分割

被相続人は遺言で相続財産の分割方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託することができる。この際、分割方法の指定は共同相続人の全員に対して又は相続財産の全部に対してする必要はない。相続財産分割方法の指定は必ず遺言でしなければならないので、生前行為による分割方法の指定は効力がなく相続人は被相続人の意思にこだわらない62。分割方法の指定について、被相続人(あるいは指定受託者)は分割の手段や特定財産の帰属、分割の指針などを指定することができる。

問題は相続人の具体的相続分を変える指定をすることができるかである。学説は、指定受託者が相続人の具体的相続分を変えるような指定をするのは無効であるが、被相続人自らそのような指定をすることはできるという。そのような指定は相続財産分割方法に当たる
と当時に遺贈の性質を持っているものとして有効である。しかし、この場合であっても他の相続人の遺留分を害することはできない。包括的受遺者あるいは共同相続人は被相続人が遺言で指定を委託できる第三者ではない。被相続人自らの遺言による分割方法の指定とは異なって、委託された第三者が分割方法を指定するときは、その分割方法は各共同相続人の法定相続分に従うべきであり、特定な相続人にその法定相続分を超える財産を分配することはできない。


(2) 協議分割

共同相続人は遺言による分割方法の指定や第三者への委託がある場合を除き、いつでもその協議で相続財産の分割をすることができる。論理的には、その協議に先立って相続を単純承認する必要があるが、分割協議は相続財産の処分行為に当たるので(1026 条1 号)、相続人の資格で分割協議に参加した者にはその参加によって単純承認の効果が生じる63。


相続財産の協議分割は共同相続人間の一種の契約であるから、共同相続人の全員が参加しなければならなく、一部の相続人だけの協議分割や共同相続人の意思表示に代理権がない場合には無効である64。共同相続人の全員の合意があれば、協議の方法と内容には制限がない。相続財産分割協議には、民法総則編の意思表示に関する規定が適用され、この規定によって、無効・取消が認められる。また、相続編における重大な手続き違反によって無効や取消となりうる場合がある。例えば、相続財産分割手続きに無資格者が参加していたり、共同相続人の一部を除外して分割が行われたりした場合などには、なされた協議は無効となる。


このとき、共同相続人は相続回復請求ではなく、分割無効の確認及び再分割請求をすることができる。分割協議が無効あるいは取消となった場合には再分割すべきであるが、無効の分割協議によって動産を取得した第三者は善意取得することに妨げない。
問題となっているのは、相続財産分割協議を詐害行為として債権取消権の対象とできるかである。
これについて、債務超過の債務者が相続財産分割協議をし、その結果、取得した財産が具体的な相続分に相当に過小なものであったなら、債権取消権の対象となる詐害行為になりうると判断しているのが判例である65。先に述べたように、相続財産分割協議も一種の契約であるので、共同相続人の全員が分割協議を合意解除することができる。相続財産の分割協議が合意解除された場合、その協議によって変動した物権は当然にその分割協議がなかった状態に戻されるが、民法548 条1 項但し書きの規定が適用されるため、その解除の前に分割協議から生じた法律関係に基づいて新しい利害関係をもって登記・引渡などで完全な権利を取得した第3 者の権利は害することはできない66。

(3) 調停による分割

共同相続人の間に分割協議が調わないときは、各共同相続人は、家庭法院に分割審判を請求することができるが、この際、当事者は審判に先立って調停を申請すべきであり(家事訴訟法2 条1 項のマ類、家事非訴事件として調停前置主義が適用(同法50 条1 項))、調停を申請せずに審判を請求した場合には、家庭法院は特別な事情がない限り、職権で調停に回付する。相続財産分割の調停申請又は審判請求があるとき、家庭法院、調停委員会又は調停担当判事は事前処分をすることができる(家事訴訟法62 条1 項)。事前処分としては、相続財産管理人を選任する処分などがある。なお家庭法院は、相続財産分割審判事件を本案事件とする仮差し押えまたは仮処分をすることができる(家事訴訟法63 条1 項)。調停は、当事者の共同相続人の協議に基づくものであるので、実質的には、調停専担判事又は調停委員会の斡旋による協議分割ともいえる。調停が成立し、調停調書が成立した場合に、その効力に関しては、家事訴訟法59 条1 項が「調停又は確定調停に代わる決定は裁判上和解と同様の効力がある」と定めている。


これに既判力を認めるかについて、判例は無制限既判力説を支持しているが、相続財産分割と比べると、相続財産分割に関する家庭法院の審判には既判力がないものの、調停調書に分割審判よりも強い効力を与えるのは問題であるとの批判がある。

(4) 審判による分割

相続財産分割の協議が調わないとき、審判によるが、韓国民法によると、相続財産分割の審判は家事非訴事件として調停前置主義が適用されるため調停が先立つ(1013 条2 項による269 条の準用)。調停でも分割協議が成立しない場合には、共同相続人は家庭法院に分割審判を請求することができる。相続財産分割請求訴訟は、家庭法院の専属管轄に属し職権主義が適用される。なお、分割の訴えは必須的共同訴訟となるので、共同相続人全員を共同被告とし、共同相続人の一部に対する取下げは効力を生じない。共同相続人の中に相続人の抛棄、承認のための考慮期間の間には相続人の地位が確定されないので分割審判を請求することができない。さて、被相続人が共同相続人の一人に全財産を遺贈する遺言をした後死亡し相続が開始されたが、他の共同相続人が相続財産分割審判を請求したときは、その分割審判請求には遺留分返還の意思も含まれていると解することができるのだろうか。これに関しては、相続財産分割審判と遺留分返還請求はその要件及び効果を異にしているので、当然含まれているとはいえないとするのが一般である。


分割
審判請求があるときは、家庭法院は、当事者が寄与分の決定を請求することができる1 ヶ月の期間を定めて告知することができる。その指定の期間を経過して請求された寄与分決定請求は、これを却下することができる(家事訴訟規則113 条)。


分割の一般的な基準に関しては、直接の規定はないが、あらゆる事情を考慮して判断すべきである。審判によって相続財産を分割するためには、まず共同相続人が相続財産に対して有する具体相続分を確定しなければならない。具体的な算定方法については、前述した内容と後に掲げた表を参照されたい。具体的な相続分を算定し、分割方法を検討するためには、相続財産と特別受益財産の適切な評価が先行されるべきである。寄与分若しくは特別受益などの算定を通じて具体的相続分を定めるための相続財産の評価は既に述べたように、相続開始時を基準とする。これに対し、現実的に相続財産を分割するための相続財産の評価は相続開始時ではなく、相続財産分割時である。

相続財産分割審判において、相続人の範囲や相続財産の範囲などの相続財産の先決問題が確定していなければ分割しようがない。ところが、分割審審判の前提となる相続人や相続財産の範囲等に関する判断は、訴訟事項であるため、訴訟(民事訴訟)によって確定しなければならない。これについて、学説は相続財産分割審判の手続きの中で、先決問題として相続人や相続財産の範囲などの実体的権利義務関係についても判断することができるという。つまり、相続財産分割審判で、先決問題となっている相続人や相続財産の範囲などについて争いがある場合でも、共同相続人全員に特別な異議がなければ分割審判手続きの中で解決することができる。しかし、そうでなく、共同相続人の間にその問題に関して深刻な争いのある場合には、いったん相続財産分割の手続きは取り下げて、訴訟による判断を待って確定してから、相続財産分割審判を起こし直すしかないだろう。

相続財産分割審判を棄却した審判に対しては、請求人が、分割を命じた審判に対しては、当事者又は分割される財産に制限物権を有している法律上の利害関係人は、直時抗告することができる。とりわけ、審判請求が認容された場合にも、その分割の方法二関して不服があるとき直時抗告できるというのは特徴である。直時抗告期間の経過あるいは抗告の放棄・取り下げ、抗告審の終局裁判によって確定される。確定された分割審判の効力については、既判力はないが形成力と執行力はある。
韓国における相続財産の分割審判における判断の流れは次のようである。

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相続に関する法律 韓国⑫
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

5 相続財産分割の効果

(1) 遡及効

韓国民法1015 条(分割の遡及効)相続財産の分割は相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

相続財産が分割されれば、共同相続人間の共有状態が、相続開始の時に遡ってその財産が既に相続人の単独所有であったことになる。例えば、相続財産の分割の協議により共同相続人の一部が固有の相続分を超える財産を取得することになったとしても、これは相続開始の時に遡って被相続人から直接に承継されたと考えるべきであり、他の共同相続人から贈与されたものだとみなすべきではない67。実務では、相続登記と関わって、被相続人から買収した不動産が協議分割によりその共同相続人の一人の名義で相続登記がなされた場合、他の共同相続人がその持分所有権移転登記の手続きを行う義務があるかについて議論がある。大法院は、協議分割により共同相続人の一人の名義で相続登記がなされた場合、協議分割の遡及効によって、他の共同相続人は当該の不動産を相続したとはいえないし、現在の登記簿上の名義人でもないので登記義務者となるわけでもないから、その不動産に対する持分所有権移転登記の手続きを履行する義務もないと判断している68。


相続分割の遡及効で第三者の権利を害することはできない。ここの第三者とは、相続財産分割の以前に利害関係を結んだ者を意味し、善意か悪意かは問わないが、民法の定める権利変動の成立要件と対抗要件を備えたものでなければならない。学説と判例はさらに第三者の範囲を広げて、分割後登記前に利害関係を有している善意の第三者も含まれるという69。


(2) 共同相続人の担保責任

韓国民法1016 条(共同相続人の担保責任)共同相続人は、他の共同相続人が分割によって取得した財産について、その相続分に応じて、売主と同じく担保の責任を負う。
韓国民法1017 条(相続債務者の資力に対する担保責任)①共同相続人は他の相続人が分割によって取得した債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。

②返済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については返済をするべき時における債務者の資力を担保する。

韓国民法1018 条(無資力共同相続人の担保責任の分担)担保責任のある共同相続人の中に償還の資力のない者があるときは、その負担部分は求償権者及び資力のある他の共同相続人が、それぞれの相続分に応じて分担する。ただし、求償権者の過失によって償還できなかったときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。

7 相続の承認と放棄、相続人の不存在

1 相続人の相続拒否の自由

(1) 相続の承認と抛棄の立法趣旨

相続人に包括的に承継される相続財産には、権利だけではなく、義務も含まれているので、これを強制的に相続させることは望ましくない。したがって、韓国民法は、相続人に相続するかどうかについて選択権を付与することによって相続人を保護している。相続の「承認」と相続の「抛棄」70がそれである。相続の承認とは、相続の効果を拒まないと宣言することである。このような相続の承認には、権利・義務を全面的に受け入れる「単純承認」と、承認はするものの、被相続人の債務と遺贈による債務は相続財産の範囲内で返済するだけで、相続人の固有財産をもって責任を負うことにはならない「限定承認」とがある。相続の抛棄とは、相続開始のとき発生した権利・義務の承継を相続開始にさかのぼって消滅させようとする相続人の意思表示のことを指す。承認・抛棄はどれでも相手方のない単独行為であり、相続人の行使上の一身専属権である。
承認・抛棄は相続開始後(相続開始事実を知ってから3ヶ月以内)に行使できるので、相続開始の前の抛棄は認められない。判例によると、相続人の一人が、被相続人の生前に相続を抛棄することを約定したことがあっても、相続開始後に民法の定める手続きと方式に従って相続の抛棄をしない以上、相続開始後にあらためて自分の相続権を主張することが権利の濫用又は信儀則に反するとはいえないとして、正当な権利行使と判断したものがある71。


(2) 考慮期間
韓国民法1019 条(承認・抛棄の期間)①相続人は相続開始があったことを知ったときから3 ヶ月以内に単純承認又は限定承認、放棄をすることができる。ただし、その期間は利害関係人又は検事の請求によって家庭法院がこれを延長することができる。

②相続人は第1 項の承認又は放棄をする前に相続財産を調査することができる。
③第1項の規定に関わらず、相続人は相続債務が相続財産を超えたという事実を重大な過失なく第1 項の期間内に知らず単純承認(第1026 条の規定によって単純承認した者とみなす場合を含む)をした場合にはその事実を知った時から3 ヶ月以内に限定承認をすることができる。
韓国民法1020 条(制限能力者の承認・抛棄の期間)相続人が制限能力者であるときは、第1019 条第1 項の期間は、その親権者又は後見人が相続の開始があったことを知ったときから起算する。
韓国民法1021 条(承認・抛棄期間の計算に関する特則)相続人が承認又は抛棄をしないで第1019 条第1 項の期間内に死亡したときは、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったとこから第1019 条第1 項の期間を起算する。


韓国民法1022 条(相続財産の管理)相続人はその固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、単純承認又は抛棄したときは、この限りでない。
韓国民法1023 条(相続財産の保存に必要な費用)①法院は、利害関係人又は検事の請求によって相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。

②法院が財産管理人を選任したときは、第24 条から第26 条までの規定を準用する。
韓国民法上、このような相続人の相続拒否の自由は、期間によって制限される。詳しくいうと、相続人は、相続を承認するか抛棄するかを相続開始の事実を知ったときから3 ヶ月以内に決めなければならない(1019 条)。これを「考慮期間」と呼ぶ。相続人はこの期間中に相続財産を調べることができる。相続人の積極的な選択がないままこの期間が過ぎてしまったときは、単純承認したものとみなされることになる(1026 条2 号)72。学説と判例は、民法1019 条1 項の考慮期間を除斥期間と解している73。韓国民法1019 条1 項は、「相続の開始があったことを知ったとき」を起算点としているが、これについては、見解が分かれている。通説及び判例は、相続人が相続の開始の事実を認識し、さらに自分が相続人となったことを認識したときを意味するという(相続人地位人認識説)。相続人が相続財産を認識したかどうか、相続の承認・抛棄制度を認識していたかどうかは、1019 条1 項の期間の進行に影響を及ぼさない。


つまり、判例は、相続人が相続開始のことは認識したが、自分が相続人となったことを知らなかったときは74、考慮期間は進行しないと解するが、ひるがえって、相続開始及び相続人となった事実は知ったが、相続財産の存否や相続の承認・抛棄制度の存在を知らなかったときは、1019 条1 項の期間の進行には妨げないと判示している75。これに対して、少数ではあるが、相続開始があったことを知ったときとは、相続開始の事実と自分が相続人となったことを知って、かつ積極・消極の相続財産の存在を知ったときから起算すべきであると解する見解もある。これによると、相続人の承認や抛棄を考慮できるような積極・消極財産の存在を知らなかったら、考慮期間は起算されないとする。起算点に関する特則としては、相続人が制限能力者である場合(1020 条)、承認・抛棄しないで死亡した場合(1021 条)がある。

2002 年に新しく設けられた1019 条3 項は、単純承認の擬制による違憲性を立法的に解決したものとされる。つまり。考慮期間が過ぎた場合であっても、相続人が、「相続債務が相続財産を超えること」を重大な過失なく知らなかったときは、その事実を知った時から3 ヶ月以内に再び限定承認をすることができると定めたのである。


ポリー
「法律で3ヶ月の例外を認めたのですね。」


他方、利害関係人又は検事の請求により家庭法院は考慮期間を延長することができる(1019 条但書)。考慮期間中に当事者の責任のない事由で期間延長請求ができなかったときは、その事由がなくなったときから2 週間以内に延長請求ができる。
(3) 承認と抛棄の取消しの禁止
韓国民法1024 条(承認・抛棄の取消の禁止)①相続の承認及び抛棄は、第1019 条第1 項の期間内でも、これを取消すことができない。
②前項の規定は、総則編の規定により取消しをすることを妨げない。しかし、その取消権は追認することができる時から3 ヶ月、承認又は抛棄の時から1 年内に行使しなければ、時効によって消滅する。
韓国民法1022 条(相続財産の管理)相続人はその固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、単純承認又は抛棄したときは、この限りでない。
韓国民法1031 条(限定承認と財産上権利義務の不消滅)
相続の承認及び抛棄の取消は考慮期間内でも取消すことができないが、民法総則編の規定による取消を妨げない。日本民法919 条4 項は、限定承認又は抛棄を総則編により取消しをするにはその旨を家庭裁判所に申述することを定めているが、韓国民法にはそのような規定はない。相続人が限定承認するときは、相続人の被相続人に対して有していた権利義務は消滅せず、相続財産の管理義務も存続する。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


2 相続の承認


(1) 単純承認

韓国民法1025 条(単純承認の効果)相続人が単純承認したときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
韓国民法1026 条(法定単純承認)次に掲げる事由のある場合には、相続人が単純承認したものとみなす。
1.相続人が相続財産について処分行為をしたとき。
2.相続人が第1019 条第1 項の期間内に限定承認又は抛棄をしなかったとき。
3.相続人が限定承認又は抛棄をした後に相続財産を隠匿し、不正消費し、又は故意で財産目録に記載しなかったとき。
韓国民法1027 条(法定単純承認の例外)相続人が相続を抛棄したことによって次順位相続人が相続を承認したときは、前条3 号の事由は相続を承認したものとみなさない。
相続人が単純承認をしたときは、相続人の固有財産と相続財産が混同され、相続人は相続債務について無限の責任を負うことになる。単純承認の効果が確定すれば、限定承認若しくは抛棄の申告が受付されても効力がない。ただし、特別限定承認(1019 条3 項)の申告は受理することができる。一定な事由のあるときは、単純承認したものと看做される(法定単純承認1026 条)。


(2) 限定承認

韓国民法1028 条(限定承認の効果)相続人は相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを条件として、相続を承認することができる。
韓国民法1029 条(共同相続人の限定承認)相続人が数人あるときは、各相続人はその相続分に応じて取得する財産の限度においてその相続分による被相続人の債務と遺贈を弁済することを条件として、相続を承認することができる。
韓国民法1030 条(限定承認の方式)①相続人が限定承認するには、第1019 条第1 項又は第3 項の期間内に、相続財産の目録を添付して法院に限定承認の申告をしなければならない。
②第1019 条第3 項の規定により限定承認をしたときは、相続財産中に既に処分した財産がある場合には、その目録とともに提出しなければならない。
韓国民法1031 条(限定承認と財産上権利義務の不消滅)相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対する相続人の財産上の権利義務は消滅しない。
韓国民法1032 条(債権者に対する公告、催告)①限定承認者は、限定承認をした後5 日以内に、一般相続債権者と遺贈者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその債権又は受贈を申告すべき旨を公告しなければならない。この期間は、2 ヶ月以上でなければならない。
②第88 条第2 項、第3 項と第89 条の規定は前項の場合に準用する。
韓国民法1033 条(催告期間中の弁済の拒絶)限定承認者は、前条第1 項の期間の満了前には、相続債権の弁済を拒むことができる。
韓国民法1034 条(配当弁済)①限定承認者は、第1032 条第1 項の期間が満了した後に、相続財産をもって、その期間内に申告をした債権者と限定承認者が知っている債権者に、それぞれの債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権のある債権者の権利を害することはできない。
②第1019 条第3 項の規定により限定承認をしたときは、その相続人は相続財産において残っている相続財産とともに既に処分した財産の価額を合わせたものをもって第1 項の弁済をしなければならない。ただし、限定承認をする前に相続債権者や遺贈者に対して弁済した価額は既に処分した財産の価額から除外する。
韓国民法1035 条(返済期前の債務などの返済)①限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
②条件のある債権又は存続期間の不確定な債権は、法院が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。
韓国民法1036 条(受贈への返済)限定承認者は、前2 条の規定に従って相続債権者に弁済を完了した後でなければ、遺贈者に弁済をすることができない。
韓国民法1037 条(相続財産の競売)前3 条の「規定に従って弁済するために相続財産の全部又は一部を売却する必要があるときは、民事執行法に従って競売に付さなければならない。
韓国民法1038 条(不当な返済などによる責任)①限定承認者が第1032 条の規定による公告若しくは催告することを怠り、又は第1033 条から第1036 条までの規定に違反してある相続債権者若しくは遺贈者に弁済をすることができなくなったときは、限定承認者は、その損害を賠償しなければならない。第1019 条第3 項の規定に従って限定承認をしたときに、その以前に相続債務が相続財産を超えたことを知らなかったことに過失のある相続人が相続債権者若しくは遺贈者に弁済をしたときも、同様とする。
②第1 項の前段の場合、弁済を受けなかった相続債権者又は遺贈者は、その情を知って弁済を受けた相続債権者又は遺贈者に対して求償権を行使することができる。第1019 条第3 項の規定に従って限定承認をしたときは、その以前に相続債務が相続財産を超過することを知って弁済を受けた相続債権者又は遺贈者があるときも、同様とする。
③第766 条の規定は、第1 項及び第2 項の場合について準用する。
韓国民法1039 条(申告をしなかった債権者など)第1032 条第1 項の期間内に申告をしなかった相続債権者及び遺贈者で限定承認者に知られなかったものは、相続財産の残余がある場合にのみその弁済を受けることができる。ただし、相続財産について特別担保権があるときは、この限りでない。
韓国民法1040 条(共同相続財産とその管理人の選任)①相続人が数人あるときは、法院は、各相続人その他の利害関係人の請求により共同相続人の中から、相続財産の管理人を選任することができる。
②法院が選任した管理人は、共同相続人を代表して相続財産の管理及び債務の弁済に関する一切の行為をする権利義務がある。
③第1022 条、第1032 条ないし前条の規定は、前項の管理人について準用する。しかし、第1032 条の規定に従って公告する5 日の期間は管理人がその選任があったことを知ったときから起算する。
限定承認の方式については、日本民法とほぼ同様であるが、韓国民法1029 条は、相続人が数人あるとき、各相続人はその相続分に応じて取得する財産の限度でその相続分による被相続人の債務と遺贈を返済することを条件として相続を承認することができると定めているので、必ずしも共同相続人全員が共同して限定承認する必要はない。これは、限定承認の意思表示は共同相続人全員が共同してのみなすことができる日本民法923 条と異なる点である。限定承認をするためには、考慮期間内に(1019 条1 項又は3 項)、相続財産目録を添付し法院に限定承認の申告をしなければならない。限定承認の効果は、次のように三つの効果があると説明されているのが一般である。

第1 に、限定相続人は、物的有限責任を負うこと、第2 に、限定承認があるときは、相
続財産と相続人の財産の分離があること(1031 条)、第3 に、限定相続人は相続財産管理義務があるということである。限定承認をした相続人は、相続債務などが相続財産を超えても相続財産の限度内において弁済する責任を負うのみで相続人自分の財産をもって弁済することはない。しかし、このように相続財産の限度内で有限責任を負うということは、責任の範囲が相続財産に限定されるという意味にすぎないので、限定承認をする相続人は相続債務などの全額を承継することとなるが、債務と責任が分離され相続人の固有財産が相続債務などの(強制執行)責任財産となるわけではないということである。したがって、限定承認者は債務の全額を承継するのであるから、相続債権者は、限定承認者に対し相続債務の全額の履行を請求する訴訟を提起することができる。この場合、相続債務全額の支払いを命ずることとなるが、限定相続人が相続により取得する相続財産の限度で支払いすべき旨の留保付判決を下すことになるとされる。限定承認の申告があって、法院が限定承認申告を受理すれば、被相続人の債務に対する相続人の責任は相続財産に限定され、その相続相続債権者は原則として相続人の固有財産に対して強制執行することはできない76 77。

しかし、韓国民法は、単純承認しとものとみなされる場合(1026 条3 項)を除いて、
限定承認をした相続人の処分行為自体を直接的に制限する規定をもうけていないため、限定相続人の相続財産処分行為が当然に制限されるとはいえない。しかも、限定承認だけで、相続債権者に相続財産に関する優先的な地位を与える規定もないので、限定承認があった場合、相続債権者が相続財産に関して、限定承認者から担保権を取得した固有債権者に対して優先的な地位を主張することはできないとしたのが判例である78。この場合おいて、その優劣は民法上の一般原則によるべきであるとする。


韓国民法は、相続人が限定承認をしたときは、被相続人に対する相続人の権利義務は消滅しないと定めているが、これは、混同による権利消滅の例外を規定したものと解されている。この規定は、被相続人と相続人との権利義務だけでなく、被相続人と相続人が同一の権利義務を第三者に対してもっといる場合にも適用される。なお、相続人が被相続人の保証人となったときも適用されるので、相続人が限定承認をしても相続人の保証債務は存続する。限定承認による清算手続きについては、日本民法とほぼ同様である。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
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平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

3 相続の抛棄
韓国民法1041 条(抛棄の方式)相続人が相続を抛棄しようとするときは、第1019 条第1 項の期間内に家庭法院に申告しなければならない。
韓国民法1042 条(抛棄の遡及効)相続の抛棄は、相続開始の時にさかのぼってその効力がある。
韓国民法1043 条(抛棄した相続財産の帰属)相続人が数人ある場合に、相続人が相続を抛棄したときは、その相続分は他の相続人の相続分の割合に応じてその相続人に帰属する。
韓国民法1044 条(抛棄した相続財産の管理義務の継続)①相続を抛棄した者は、その抛棄によって相続人となった者が相続財産を管理するまで、その財産の管理を続けなければならない。
②第1022 条と第1023 条の規定は、前項の財産管理について準用する。
相続の抛棄については、民法にその方式と手続きが法定されているので、これに従わなければその効力がない79。相続の抛棄は、相続人の法院への単独の意思表示で、包括的・無条件的にしなければならない。したがって、相続抛棄には財産目録の添付や特定の必要がなく、たとえ相続抛棄書に相続財産の目録を添付したとしても、その目録に記載された不動産及び記入漏れた不動産の諸般事情に照らし合わせて相続財産を参考資料として例示したものにすぎないと判断される以上、抛棄の当時、添付された財産目録に含まれていなかった財産の場合であっても、相続抛棄の効力が及ぶというべきである80。相続人が数人あり、その相続人の一人が相続を抛棄した場合、抛棄した相続分の帰属については、韓国民法1043 条が、他の相続人に相続分の割合で帰属されることを定めている。

日本民法にはない規定であるが、相続の抛棄には遡及効があるので始めから相続人とならない結果(日本民法939 条)、韓国民法の定めるのと同様になるはずである。

4 相続財産の分離

韓国民法1045 条(相続財産の分離請求)①相続債権者又は受贈者、相続人の債権者は、相続開始の時から3 ヶ月以内に相続財産と相続人の固有財産の分離を法院に請求することができる。
②相続人が相続の承認若しくは抛棄をしない間には、前項の期間の経過後も、財産の分離を法院に請求することができる。
韓国民法1046 条(分離命令と債権者などに対する公告、催告)①法院が前条の請求によって財産の分離を命じたときは、その請求者は5 日以内に一般相続債権者及び遺贈者に対し、財産分離の命令があったこと及び一定の期間内にその債権又は受贈を申告すべき旨を公告しなければならない。その期間は2 ヶ月以上でなければならない。
②第88 条2 項、第3 項、第89 条の規定は、前項の場合について準用する。
韓国民法1047 条(分離後の相続財産の管理)①法院が財産の分離の命じたときは、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
②法院が財産管理人を選任したときは、第24 条から第26 条までの規定を準用する。
韓国民法1048 条(分離後の相続財産の管理義務)①相続人が単純承認をした後でも、財産分離の命令があったときは、相続財産について、自分の固有財産におけるのt 同一の注意をもって管理しなければならない。
②第683 条から第685 条までの規定及び第688 条第1 項、第2 項の規定は前項の場合について準用する。
韓国民法1049 条(財産分離の対抗要件)財産分離は、相続財産の不動産については、これを登記しなければ、
第三者に対抗することができない。
韓国民法1050 条(財産分離と権利義務の不消滅)財産分離の命令があったときは、被相続人に対する相続人の財産上の権利義務は消滅しない。
韓国民法1051 条(弁済の拒絶と配当弁済)①相続人は第1045 条及び第1046 条の期間満了前には、相続債権者及び遺贈者に対して弁済を拒むことができる。
②前項の期間満了後に、相続人は相続財産をもって、財産分離の請求又はその期間内に申告した相続債権者及び遺贈者に、それぞれの債権額又は遺贈額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
③第1035 条から第1038 条までの規定は、前項の場合について準用する。
韓国民法1052 条(固有財産からの弁済)①前条の規定による相続債権者及び遺贈者は、相続財産をもって全額の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産から弁済を受けることができる。
②前項の場合に相続人の債権者は相続人の固有財産から優先弁済を受ける権利がある。
5 相続人の不存在韓国民法1053 条(相続人のない財産の管理人)①相続人の存否が明らかでないときは、法院は第777 条の規定による被相続人の親族その他の利害関係人又は検事の請求によって相続財産管理人を選任し、遅滞なくこれを公告しなければならない。
②第24 条から第26 条までの規定は、前項の財産管理人に準用する。
韓国民法1054 条(財産目録提示と状況報告)管理人は相続債権者若しくは遺贈者の請求のあるときは、いつでも相続財産の目録を提示しその状況を報告しなければならない。
韓国民法1055 条(相続人の存在が明らかになった場合)①管理人の任務は、その相続人が相続の承認をした時に終了する。
②前項においては、管理人は遅滞なくその相続人に対して管理の計算をしなければならない。
韓国民法1056 条(相続人のない財産の清算)①第1053 条第1 項の公告があった後3 箇月以内に相続人の存否を知ることができないときは、管理人は、遅滞なく、一般相続債権者と遺贈者に対して一定な期間内にその債権又は受贈を申告すべき旨を公告しなければならない。その期間は、2 ヶ月以上でなければならない。
②第88 条第2 項、第3 項、第89 条、第1013 条から第1039 条までの規定は、前項の場合について準用する。
韓国民法1057 条(相続人捜索の公告)第1056 条第1 項の期間が経過しても相続人の存否を知ることができないときは、法院は管理人の請求によって、相続人があるならば一定な期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。その期間は、1 年以上でなければならない。
韓国民法1057 条の2(特別縁故者に対する分与)①第1057 条の期間内に相続権を主張する者がないときは、家庭法院は被相続人と生計を同じくしてた者、被相続人の療養看護に努めた者その他の被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、相続財産の全部又は一部を分与することができる。
②第1 項の請求は第1057 条の期間の満了後2 ヶ月以内にしなければならない。
韓国民法1058 条(相続財産の国家への帰属)①第1057 条の2の規定によって分与されなかった財産は、国家に帰属する。
②第1055 条第2項の規定は、第1 項に準用する。
韓国民法1059 条(国家帰属財産に対する弁済請求の禁止)前項1 項においては、相続財産から弁済を受けなかった相続債権者若しくは遺贈者があるときでも、国家に対してその弁済を請求することはできない。
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法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


8 韓国相続法における生存配偶者の地位

1 現行韓国民法(相続編)における配偶者の地位

(1) 相続順位
韓国民法1003 条(配偶者の相続順位) ①被相続人の配偶者は第1000 条第1 項第1 号と第2 号の規定による相続人がある場合にはその相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。
②第1001 条の場合に相続開始以前に死亡又は欠格した者の配偶者は同条の規定による相続人と同順位で共同相続人となり、その相続人がいないときには単独相続人となる。
韓国民法の規定によると被相続人の配偶者は被相続人の直系卑属と同順位で共同相続人となり、その直系卑属がいないときには被相続人の直系尊属と同順位で共同相続人となる。被相続人の直系卑属と直系尊属ともにいないときには、被相続人の配偶者は単独相続人となる。

(2) 相続分

韓国民法1009 条(法定相続分) ①同順位の相続人が数人あるときはその相続分は均分とする。
②被相続人の配偶者の相続分は直系卑属と共同で相続するときは直系卑属の相続分の5 割を加算し、直系尊属と共同で相続するときは直系尊属の相続分の5 割を加算する。

③削除(1990.1.13.)

配偶者の相続分は被相続人の直系卑属あるいは直系尊属の相続分の5 割を加算する(直系卑属の相続分:配偶者の相続分=1:1.5)。ここでの相続権のある配偶者とは法律上の配偶者でなければならず、婚姻中でならば、別居中であるか、事実上離婚状態であるかなどは問題にならない。
離婚訴訟中の場合も同じである。重婚の配偶者も法律上の配偶者であることには間違いないので、重婚が取り消されない限り相続権がある。但し、このような場合、その相続分は重婚配偶者のそれぞれが1.5 の割合で相続するのではなく、他の共同相続人の相続分を侵害しないように、法律上認められる配偶者の相続分である1.5 の相続分を重婚配偶者の二人が各1.5 の2分の1 である0.75 の割り合いで分けて相続するとされる。問題は取消事由のある婚姻関係にある夫婦の一方が死亡し相続が開始された後、その婚姻の取消判決が確定した場合、既になされた配偶者の相続権の効力である。これは婚姻取消の効力に遡及効があるのかの問題であり、特に重婚配偶者の一方が死亡した後に重婚が取り消された場合に重要な問題になる。


学説は相続人資格喪失説と相続
人資格維持説に分かれているが、判例は婚姻取消には遡及効がないとして生存(重婚)配偶者の相続権には影響を及ばさないと解している。つまり、婚姻取消の場合、韓国民法824 条は「婚姻の取消の効力は遡及しない」と定めているだけで、財産相続等に関して遡及効を認める規定がない限り、婚姻中に夫婦の一方が死亡しその配偶者に相続が開始された後に婚姻が取消されたとしても、既になされた相続関係が遡及して無効となったりその相続された財産が法律上原因なしで取得したもの(不当利得)となるとはいえないと判断した81。他方、事実婚の配偶者は相続権はないが、特別縁故者として被相続人の財産について分与請求をすることはできる。但し、このような分与請求権は相続権とはいえない。

2 現行配偶者相続制度の問題点

韓国において配偶者相続制度は、夫婦財産制度の清算が先になされる外国の相続制度と異なり、相続法においてのみ保護される。配偶者の相続分は、共同相続人の相続分に5 割を加えたものになるが、ここには次のようないくつかの問題点があると指摘されてきた。

(1) 相続分の問題―配偶者の相続分の可変性

現行民法1009 条(法定相続分)2 項は「被相続人の配偶者の相続分は直系卑属と共同で相続するときは直系卑属の相続分の5 割を加算し、直系尊属と共同で相続するときは直系尊属の相続分の5 割を加算する」と定めている。この規定によると、配偶者の相続分は血族相続人より5 割加算はされるが、頭割りによるので、必ずしも被相続人の相続財産に対して相続分が2分の1 が確保されるわけではない。例えば、被相続人の直系卑属が1 人であれば配偶者の相続分は60%であるが、直系卑属が2 人の場合には約43%、直系卑属が4 人の場合には約27%となる。このように、今の韓国民法の規定は、共同相続人の数が多くなればなるほど、配偶者の相続分が減少するという非常に大きな問題があることが以前から指摘されてきた。

 

(2) 夫婦財産関係の清算と配偶者相続分

韓国民法が制定されたときから現在に至るまで、夫婦財産関係に対する韓国国民の視覚には大きな変化があった。このような変化を端的に表しているのが、1990 年の韓国民法改正により導入した離婚時の財産分割請求権である(839 条の2)。判例によると、「財産分割制度は、夫婦が婚姻中に取得した財産を夫婦の実質的な共同財産とみなした上で82、一方の配偶者が所得活動をなさず家事と育児を担った専業主婦であっても、相手方の配偶者の財産取得(若しくは維持・増加)に寄与したと評価され、その財産に潜在的な共有持分を持っているものとみなす制度である」としている83。


したがって、財産分割は、無償の贈与とは性質を異にしており、元々夫婦の各自に属すべきであったものを婚姻の解消に当たって各自の分を各自に帰属させるという意味を持っ
ている。このように、現在韓国民法においては、離婚による婚姻の解消のとき、夫婦の間の実質的な共有関係が清算されうる離婚時の財産分割請求権が認められている。ひるがえって、死亡による婚姻の解消のときには、生存配偶者は血縁相続人とともに、被相続人の財産を相続するのみで、配偶者の財産に対して実質的な共有持分に基づく清算を請求することはできない。しかし、相続人の財産の中には、死亡した配偶者(被相続人)の財産のみならず、生存配偶者の財産も含まれているものの、生存配偶者がその財産に関して自分が持っている持分を請求することができないということは、離婚時の財産分割とは異なり、つじつまが合わないのである。

しかも、上記で述べたように、現在の韓国民法上、配偶者の法定相続分によると、共同相続人が多数あればあるほど、生存配偶者の相続分は少なくなり、場合によっては、実際に被相続人の財産に対して生存配偶者が持っている共有持分より少ない額を相続分として受け取るしかない場合もありかねない。
今日では、直系卑属が被相続人の相続財産の形成に実際に寄与することはあまりないという現実を考慮に入れると、直系卑属が相続人として受けるべき相続分は、形式的にも実質的にも被相続人の財産であって、さらにそうである。

要するに、被相続人の財産とされるもの中には、生存配偶者の財産に属すべき財産も含まれているにもかかわらず、その財産の維持・増加になんの寄与もしていない直系卑属に、その財産が相続されてしまうという結果になりかねない。このような場合、生存配偶者は、被相続人の財産からは、せいぜい自分の実質的な共有自分を相続分として受けるか、それとも場合によっては、それにも至らない部分を相続することとなり、ほぼ相続分というまでもない額を受けるしかない。そのことから、現在韓国の多くの学説は、「夫婦財産関係の清算」という観点から、離婚により婚姻が解消されるときと、配偶者の死亡により婚姻が解消されるときとの結果が違ってくるのは不当であると批判してきたのである84。1990 年の民法改正のときに導入された離婚時の財産分割制度が、婚姻中に取得した財産を夫婦の実質的な共有財産とみなすという前提にたっている以上、離婚によって婚姻が解消されるときのみならず、死亡によって婚姻が解消されるときにも、夫婦の実質的な共有関係を清算して、そもそも各自のものを各自に帰属させるのが論理的に貫いているからである。このように、夫婦財産制度と配偶者相続とは密接な関係にあり、法定夫婦財産制度のあり方は配偶者相続の問題において非常に重要な意味を持つといえる。つまり、夫婦一方の死亡による婚姻解消時にも夫婦財産関係の清算が認められるべきであるなら、配偶者の相続分のみならず他の共同相続人の相続分も変わってくるわけである。したがって、韓国において至急な問題は、配偶者の相続分の形式的な調整というよりは、「法定夫婦財産制度」の改正が必要であるとの主張がみられるようになったのである。

(3) 生存配偶者の生活保障の強化の必要性

韓国の通計庁の2012 年出生死亡通計によると、2012 年人口1000 名中、死亡者数267.3 名当たり死亡当時の年齢が70 歳以上の場合は、172.5 名であって全体の約65%に及ぶという。このように超高齢化に進行している韓国の事情に照らして、被相続人の平均年齢が高くなるにつれて相続開始の時に第1 順位の被相続人の直系卑属の年齢も高くなったということを意味する。したがって、もはや扶養請求権を有していない直系卑属への相続による扶養の必要は少なくなり、むしろ、年齢の高い配偶者の扶養の要請が相続法において考慮すべき重要な問題となっているといえる。つまり、子女が自発的に被相続人の生存配偶者を扶養しない限り、生存配偶者の生計手段といえるのは、夫婦別産制度下の韓国においては自分名義の財産を除いて、配偶者(被相続人)の死亡による相続財産しかない。現行の韓国の相続法は、このような現実を反映するには非常に不十分なものだという批判がある。

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相続に関する法律 韓国⑯
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


3 配偶者の相続権の改善・強化に関する韓国の議論

(1) 配偶者の相続分の画一的な強化議論

従来、韓国において配偶者の相続権の強化というのは、パラレルに相続分の強化という方向で法律の改正や学説上の議論がなされてきたといえる。比較法的にも相続分や相続順位の強化は、配偶者の相続法上地位を強化するための普遍的な方案として主張されてきたのである。まず、実際に行われた韓国の立法の変遷をみても、配偶者の相続権に関しては、制定を含め3回(1960 年、1977 年、1990 年)の相続法の改正には、配偶者の相続分を増加させようという方向と目的があったのである。従来又は現在までも学説は、配偶者の相続分を増加すべきであるという主張が多い85。

例えば、配偶者の相続分を、共同相続人の数を問わず、確定的に2 分の1 にするか、少なくとも3 分の1 は保障できる規定を設けるべきであるなどが主張された。しかし、現在の学説は、形式的な相続分の引き上げではなく、次の議論でみるように、夫婦財産制度との連携や死亡による婚姻の解消時の清算の仕組みという前提から、合理的な相続権の地位の強化が求められている。
なぜなら、配偶者の相続分の形式的な引き上げは、婚姻の期間が長く継続されてきた場合にはそれほど問題ではないが、婚姻の期間がわりと短かったときにまで、配偶者であったという地位から多くの相続分を認めることは、韓国国民の法感情には相応しくないという批判が強くなったからである。
それにもかかわらず、配偶者の相続分を現行法より引き上げて、直系卑属と共同相続するか直系尊属と共同相続するかを問わず、一定の範囲内で(例えば、「相続財産の3 分の2」)取得できるように改正するのが妥当だという主張も依然として有力である86。その根拠は、次でみる夫婦財産制度と配偶者相続制度とを連携すべきとの議論は、「公平な清算」という観点からはもっとも望ましいともいえるが、相続においては、離婚時の財産分割と異なって、「法律関係の明確性」あるいは「法的安定性」がより重要な要請である。


そして、そのような要請は、相続において一層強調すべきものであるとした上で、共同相続人間の紛争をもたらすような相続法の改正は望ましくないとする。そこで韓国民法1009 条の2 項のみを改正し、被相続人の配偶者の相続分は相続財産の3分の2と定めるべきだと主張する学者も少なくない。もちろん、このような見方は、配偶者が相続財産の形成に実際に寄与したと評価できないとき、例えば、被相続人が再婚であったり、婚姻の期間があまりにも短かったりしたときにまで、画一的に適用するのは不合理であるとの批判を免れない。

これに対して、アメリカのように婚姻期間によって配偶者の相続分を異にするか87、婚姻前の合議(prenuptial agreement)のような一種の相続契約を法定すればいい88という提案もなされている。しかし、このような制度は、韓国の法体系や国民の法感情に照らして
あまりにも違和感がある。むしろ、相続分を形式的に引き上げたとしても被相続人は遺言の自由があるので、いくらでも適用の画一性や硬直性を避けられるので、それほど問題を大きくする必要はないとする。つまり、法定相続分をあげることだけで、配偶者の相続法上の地位を強化することができるし、遺言をより活用できるきっかけともなりうるという肯定的な効果も期待できるという。これが、最近にもこのような学説が相当に支持されてきた理由である。

韓国では、2014 年現在、法務部の民法(相続編)改正特別分課委員会(委員長:中央大金相容教授)は今年1 月15 日に「配偶者の先取分制度」の導入を目指す相続法改正試案(以下、改正試案)を法務部に提出した。改正試案の主な内容は次のようである。
相続法改正試案1008 条の4(配偶者の先取分) ①被相続人の配偶者は婚姻期間中に増加した被相続人の財産の5 割を他の共同相続人に優先して先取分として取得する。
②先取分が公平でない場合には、共同相続人の協議によって先取分を減額することがで、協議に至らなかった場合には家庭法院は婚姻・別居期間及び事由を考慮し減額することができる。


ポリー
「先取分はどこかで聞いたような。韓国でも相続法の改正作業を行っているのですね。」


当初、法務部は、以上のような配偶者の相続分を強化する内容の民法1008 条の4 と008 条の5 を、今年の2 月に立法予告する予定であった89。しかし、この改正試案に対する批判及び反対が案外強かったため、法務部は同年2 月に改正分課委員会を再招集し、現在2014 年9 月)に至るまで検討中である。法務部の立法案に対する反対が強かった理由は、先ほど指摘したように、相続制度の本質に反するとか、血縁相続人と配偶者間の紛争の助長、再婚や婚姻期間の考慮なくして画一的な相続分を引き上げたり、先取権の付与をしたりすることに対する懸念があったからである。

なお、韓国経済のもとともいえるいわゆる、「財閥」の企業承継の現実と配偶者相続分
の先取権とは合わないという指摘もあった。

 


(2) 配偶者の相続分と夫婦財産関係の清算及び夫婦財産制度との連携改正議論

今の韓国社会では、夫婦財産制度の改正に関する議論が盛んになっている。議論の核心は、2(2)でみたように、韓国民法上の法定夫婦財産制度である夫婦別産制度が、夫婦の実質的な平等を図っていないという問題意識から始まる。例えば、夫婦が婚姻中に協力で取得した財産であっても所有名義が誰かによって夫婦の一方の財産として推定される。一番問題となっているのが住宅の名義であって、韓国では国民の感情上、一応夫の名義にしておく場合が多い。この場合、離婚するときは別として90、そのまま一方の配偶者が死亡してしまったときには、その財産形成においての配偶者の寄与は、ほぼ評価されず、相続財産として法定相続分の割合に応じて他の共同相続人と共同相続することになる。このような不合理を解決するために夫婦財産制度の改正を前提として配偶者の相続分を強化しようとする学説が現れた。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より


(a) 法定夫婦財産制度の導入と配偶者相続制度との連係

先に述べたように離婚時の財産分割制度と配偶者相続制度との不均衡という韓国の現行の夫婦別産制度の問題点を解消するためにスイス、ドイツなどの制度に倣って夫婦財産制度の改正に基づく提案が主張されている。とりあえず、婚姻中には取引の安定と迅速性を考慮し、夫婦各自の経済的独立性を守るためには、原則として現在の夫婦別産制が適用されるのは認めている。ただし、ここには一定の制限があるが、夫婦の一方が婚姻中に正当な理由なく、重要な財産(例えば、住宅)を処分しようとするには事前に配偶者の同意を要するとされる。


ポリー
「スイスやドイツが参考にされているのですね。」

そして、婚姻が終了又は解消したときは、夫婦の一方は、原則として他の一方が婚姻中に取得した財産の半分について分割を請求することができるという提案である91。この際、財産分割の割合は、具体的な事情によって増減できる。このようにして、配偶者の死亡による婚姻の解消のときにも、離婚によって婚姻が解消される場合と同様に、夫婦財産関係の清算が相続に先立ってなされるべきであると主張している。詳しくは、死亡による婚姻解消のとき、生存配偶者は、一種の相続債権者として、他の共同相続人(例えば、直系卑属などの生存配偶者を除く共同相続人)に対してその財産の分割を請求することになる。


現行法によっても、相続財産の分割は共同相続人との協議により、協議に調わなかったときは当事者の請求によって家庭法院が定めるようにとなっているので(1013 条)、死亡による夫婦関係の清算もそのように処理すればいいとしている。多くの場合には、夫婦財産
関係の清算と相続財産分割協議は同時に行われることになるだろう。このような見方の一つとして具体的な改正案も提案されている92。
韓国民法1009 条(法定相続分) ①同順位の相続人が数人あるときはその相続分は均分とする(現行法と同様)。 ②被相続人の配偶者の相続分は、相続開始のときにおいて被相続人の特有財産に第839 条の2 により定められた剰余財産の分割分を加減したものを相続財産とみなして、次のように定める。

1.被相続人の直系卑属と共同相続するときは、相続財産の2 分の1
2.被相続人の直系尊属と共同相続するときは、相続財産の4 分の3
第839 条の2(財産分割請求権)①協議上離婚した一方は、他の一方に対して、婚姻中に取得した剰余財産について同等な割合で分割を請求することができる。

②第1 項の財産分割に関して協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭法院は当事者の請求により、当事者の一方が婚姻中に協力によって取得した剰余財産を同等な割合で分割し、その分割方法はその他の事情を参酌して定める。
しかし、このような見解には、相続開始の当時、被相続人名義の財産と実際に相続の対象となる財産の範囲が必ずしも一致するとはいえないので、相続財産の範囲が曖昧であるという問題がある。離婚時の財産分割の場合には、常に対立当事者が存在するわけであって、分割対象となる財産の範囲に争いがあれば、裁判手続きによればいいことである。しかし、相続の場合には必ずしもそうではない。相続においては、常に裁判手続きによるとは限らないにもかかわらず、この改正案によることになると、むしろ、共同相続人の間に法的紛争を誘発することになりかねない93。そのことから、この改正案が法定夫婦財産制のモデルとしているドイツ民法が、死亡による婚姻解消時には剰余財産の有無を問わず、相続財産の一定の割合を配偶者相続分としているのも、このような問題があったこそであるという指摘94がある。

(b) 婚姻中の夫婦財産分割制度の導入を前提とする方案

韓国では2006 年に、法務部家族法改正特別分科委員会の成案した民法改正案が国会に提出されたが、この中には配偶者の法定相続分を調整する内容が含まれていた95。この改正案は、配偶者の相続分の強化のほかに、「婚姻中の財産分割制度」の導入を前提としているのが特徴である。
婚姻中の財産分割制度の立法趣旨は、現行の財産分割請求権は離婚を前提としているので、将来の財産分割請求権の行使が顕著にできなくなる恐れがあるなどの、離婚せずに婚姻中にも財産の確保が必要な一定な事由があるときは、財産分割請求ができるように制度を設けるべきであるということにある。実際に国会に提出された改正案は次のようである。


韓国民法1009 条(法定相続分) ①同順位の相続人が数人あるときはその相続分は均分とする(現行法と同様)。
②被相続人の配偶者の相続分は相続財産の5 割とする。但し、第831 条の3 に従って婚姻中財産分割を受けた場合には同順位の共同相続人と均分として相続する。


③削除(1990.1.13.)
第831 条の3(婚姻中の財産分割請求権)①夫婦の一方は、次の各号の事由があるときは、婚姻中にも家庭法院に財産分割を請求することができる。


1.夫婦の一方の同意又はその同意に代わる決定なく他方が第831 条の2 の第1 項又は第2 項の行為をしたとき
2.他の一方が正当な理由なく扶養義務を相当な期間に履行しなかったとき
3.第839 条の2 に従う財産分割請求権の行使が顕著に困難になる恐れがあるとき
4.夫婦が正当な理由なく2 年以上別居しているとき


②第1 項の財産分割に関してはその性質に反しない範囲で第839 条の2 の第2 項の規定を準用する。
③夫婦の一方は第1 項の各号に該当する事由のあることを知ったときから6 ヶ月あるいはその事由のあったときから2年が経過したときは、第1 項による財産分割を請求できない。
この改正案は、これまでの配偶者の相続分の強化、ことに共同相続人の数を問わず2分の1 として確保できるようにした政府レベルの公式案であるということに意義がある96。改正委員会によると、婚姻中の財産分割制度を導入によって現行法上の相続分を再調整することを目指して、共同相続人の数を問わず一定の割合の相続分を確保し、配偶者の相続法上の地位を強化するためであると説明している。しかし、被相続人の直系卑属(子女)が一人の場合、婚姻中に財産分割をしていない配偶者は、相続分が2 分の1(50%)となり、現行法による相続分3 分の2(60%)よりも少なくなるという問題がある97。


以上のように、配偶者の相続法上の地位の強化の問題を、夫婦財産制度との関連のもとで解決しようとする見方は、比較的法観点からみても確かに意味のある議論であるのは間違いないのであろう。しかし、生存配偶者と他の共同相続人との間に紛争をもたらすおそれがあるし、これまでの韓国の制度、とくに夫婦財産制度の全体的な見直しや、分割されるべき財産の立証や分割の割合(持分)などに関して複雑な実務的な問題が起こりうるという問題があるのは否めない。

(c) 夫婦共有財産の半分を配偶者の先取分として法定する方案
最後に、2006 年には、夫婦が婚姻中に取得した財産は一応、共有財産として扱うという前提で、配偶者の相続分を先取分として確保しようとする改正案が議員案として国会に提案されたことがある。
韓国民法1009 条(法定相続分)①同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は均分とする。(現行法と同様)
②被相続人の配偶者は、夫婦の共有と推定される財産の半分を先取分として請求することができる。
韓国民法830 条(夫婦財産の権利帰属)①夫婦の一方が婚姻前から有していた財産と婚姻中に相続、贈与によって取得した財産は夫婦一方の固有財産とする。

②固有財産の増加分と婚姻中に取得した財産及びその増加分は夫婦の共有のものと推定する。
③共有のものと推定される財産が登記又は登録を必要とする場合、名義を有していない一方は相手方に対して共有に関する登記又は登録を請求することができる。


この改正案は、夫婦共有財産制度の導入を前提として、夫婦共有のものと推定される財産の半分を配偶者の先取分として法定することで、離婚の場合のみならず相続においても夫婦共同体の実質による清算を図っているということに意味がある。しかし、現行法の夫婦別産制とは異なり、夫婦共有財産制度は取引の安全と夫婦の経済的なと独立を害する恐れがあるという指摘がある98。
さらに、配偶者相続の場合、夫婦共有のものと推定される財産がない場合には、配偶者は共同相続人と均分相続することになるから、むしろ、今の現行法の定める配偶者の相続分より少なくなるのも問題として指摘されている。なお、実務上、配偶者と共同相続人との間に先取分の対象となる財産の範囲について紛争が起こりやすいというのも問題である。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
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法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

(3) 配偶者の寄与行為を寄与分の算定に考慮(法定)する法案

2007 年7月に61 人の議員が提案した民法改正案(廃棄)では、離婚時財産分割の割合は50%とし、被相続人の配偶者にして被相続人の婚姻中に取得した財産について、均等な割合で寄与分請求のできる配偶者の寄与分を新設しようとの主張があった。この改正案によると、被相続人の配偶者は相続財産の中、均等な割合で算定した寄与分を優先して取得し、あまりの相続財産について共同相続人と均分で相続することとなる。実際に提案された立法案は次のようである。
韓国民法1009 条(法定相続分)①同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は均分とする。(現行法と同様)


②被相続人の配偶者は、相続財産から被相続人が婚姻中に取得した財産について均等な割合で寄与分の請求をすることができる。
韓国民法839 条の2(財産分割請求権)①協議上離婚した者の一方は、他の一方に対して財産の半分の分割を請求することができる。

これは、離婚時財産分割において、均等に婚姻中の取得財産を分割のと同様に相続の場合も婚姻中に取得した財産に寄与した事実を十分考慮しようとする点で意義がある。しかし、寄与分制度は、共同相続人の中、被相続人の財産の維持や増加に寄与し、又は特別に被相続人の扶養した者があるとき、相続分の算定においてそのような寄与あるいは扶養を考慮することで、共同相続人間の公平を図るために、1990 年の韓国民法の改正により新設されたものである。したがって、寄与の程度を考慮せずに一律に配偶者に均等な割合の寄与分を認めるのは制度の趣旨に相応しくないという批判99がある。なお、婚姻期間中に新しく取得した財産がなければ、配偶者の寄与分は認められないので、結局、このような場合には、共同相続人と均分相続することとなり、むしろ現行法より配偶者に不利になるとの指摘もある。


(4) 生活の基盤となっている財産の確保
配偶者の相続権の強化は、相続分や相続順位などによる保障という観点ももちろん意味があるが、今の韓国社会においての現実的な要請を十分に考慮に入れるなら、そこにはフランス法のような住宅や今までの生活をともにしてきたことに基づく財産の用益権の確保などの配偶者の生活の実質的な保障が求められる。


もし、韓国民法の改正においてそのようなのコンセンサスがあるとなると、配偶者の相続権の改善・強化の中核な権利として念頭に置くべきは、生存配偶者が被相続人の死亡のときに有していた生活基盤と生活の諸条件をその後の余生を通じて安全に確保できるようにすることである。


しかし、今の韓国の相続法全体において法定相続分や財産分割制度、夫婦財産制度のあり方などを考えて、配偶者の生活保障の具体的な態様をどうするかという問題に入ると、その具体的な姿を決めるのは相当難しいことであろう。

 


例えば、住宅のように、生存配偶者の生活の基盤になる財産については、完全な所有権をみとめることにするか、それともせめて生存までの用益権を認めることにするか、相続法上の遺留分権や寄与分の制度によるものとして強行性を付与するものにするか、それとも、とくに住宅を中核とする生活基盤と生活水準の維持保存保障できるような、相続財産に対する一個の債権的な権利のよるべきかなど、様々な問題がある。このような規定の仕組みをとるには、フランス法のように複雑な規定になるおそれがあるが、そこまで相続法が複雑となる必要があるかという批判もありうる。

4 結論

配偶者の相続分に関する議論と夫婦財産制度とは密接な関係にあり、その夫婦共同財産の清算という観点からみても夫婦財産制度との関係を考慮に入れなければならない。単なる相続分の強化という見方ではその理論性と問題の的確な分析に欠けることになるだろう。しかも、議論の方向が形式的な「相続分」の強化・増加の議論に向かうのは本来の相続制度の存在意義や制度の趣旨(血族相続人と配偶者との利益の衡量)、現在社会の意識や事情の変化、紛争の妥当な解決への要請からも望ましくない。したがって、夫婦財産制度と配偶者相続権とは連携して考えるべきである。さて、配偶者の相続権に関する議論の正当性は、夫婦共同財産の一方の死亡による合理的な清算にもあるが、現在の社会の要請は、相続における配偶者の住居権ないし生活保障の必要性の方にもあるといえる。ただ、これには韓国民法の全体の構成や体系などを、十分に考えて理論的・実務的な検討をなすべきだと思う。最近まで、このような多様な観点からの配偶者相続権の強化を目指す立法上の議論が、法務部をはじめとして多くの学者からなされているので、近いうち、その立法的な成果が得られると思う。

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
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法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

9 相続と相続税

1 韓国の相続税の義務者と算定方式

相続税とは自然人の死亡をきっかけとして無償に移転される財産を課税物件としてその取得者に課税する租税である。相続税の納税義務者は、「相続人」(民法1000 条・1001 条・1003 条及び1004 条による相続人のことをいい、民法1019 条第1 項従って相続を抛棄した者及び1057 条の2 の特別縁故者を含む)又は「遺贈者」(死因贈与を受けた者を含む受遺者)である(相続税法3条1 項)。


相続法条の相続人は、民法上の相続人だけでなく、受遺者、死因贈与の受遺者を含む。
原則として、自然人である個人が納税義務者となるが、例外的に胎児及び法人も相続税の納税義務者となりうる。ただし、相続税法は、受遺者が営利法人である場合には、納付する相続税額を免除することにしているので(同法3条但書)、法人として遺贈において相続税の納付義務を負うのは、非営利法人と相続税法によって非営利法人とみなされる法人格なしの私団・財団・その他の団体に限る。他方、寄与分に関しては、寄与分として認められる財産があっても、共同相続人との協議あるいは法院の審判によって確定する寄与分の内容によって相続人間の相続分のみが異なることになるにすぎなく、その全部が相続税の課税の対象となる。これに関しては、寄与分の実質を無視することであるとの批判があるが、配偶者の控除を始めとして、相続税法上のあらゆる控除に関する規定は、そもそも相続財産に対する相続人の寄与を考慮して定められたものが多いから寄与分に相続税を賦課することのは妥当であるという。さらに、寄与分は相続人間の協議によって決められることが原則であるから、もし相続人の自由な意思によって寄与分を決めることで相続税を回避する手段として悪用されるおそれがあることから、現行法は寄与分は相続税から控除しない。

相続税の課税方式は、一般として遺産税方式と遺産取得制方式とがある。韓国は、相続然及び贈与税法によって、遺産税方式によるものであるとされる。相続然及び贈与税法(以下、相続税法という)1 条1 項によると、相続が開始されたとき、被相続人が居住者である場合には全ての財産、非居住者である場合には国内にある全ての財産について相続税を賦課する旨を定めている。

なお、同法13 条1 項は、相続税の課税価額を相続財産の価額に相続開始の前の一定の期間内の
贈与財産を加算した金額から、公課金などを控除した金額とすることを規定している。このように、相続税の課税価額を被相続人を基準にして算定し、共同相続の場合にも相続財産を相続分の分割前の総相続財産額に超過累進税率を適用して税額を算出する構造をとっていることから、遺産税方式を採択していると評価される。但し、同法3 条は、このように計算された税額の納付に関しては、「相続人又は受贈者がこの法によって賦課された相続税について相続財産の中、各自が得たかあるは得るはずの財産を基準にして、大統領令の定める一定の割合に応じて相続税を納付する義務がある」と定めていることから、分割前の相続財産についての税額を原則として共同相続人各自の相続分に応じて配分計算し、各相続人がその配分された税額を納付することにしたのである。この場合、共同相続人は、それぞれの受けた財産を限度にして連帯納付責任を負う(同法3 条4 項)。なお、韓国の相続税法は、非相続人が資産を取得してから相続当時までに生じた資産価値の増加分については、原則として非課税方式をとっている。

2 相続税の算出方式

韓国の相続税法上、具体的な相続税の税額算出方式は次のようである。まず、相続財産から非課税減免財産を除外した財産が課税財産となり(相続税法7 条、12 条)、これに公課金、債務、葬式費用を除いたものが課税価額となる(同法13 条、14 条)。課税価額から、あらゆる控除を控除した後の金額が課税標準であり(同法18 条から24 条まで)、その課税標準に税率を適用したものが算出税額となる(同法25 条から27 条まで)。現在相続税法上の税率は、最低10%から最高50%までの5段階の累進課税されることになっている(同法26 条)。この算出税額に税額控除を適用したものが申告税額である(同法28 条から30 条、67 条)。その算出公式は次のようである。

(1) 相続税の課税価額

相続税課税価額の基礎となる相続財産とは、民法1005 条とは異なり、相続財産の価額から消極財産である債務を控除したものである。なお、民法上の相続財産とならないものが相続税における相続財産としてみなされるものがある。生命保険金又は損害保険の保険金、被相続人が信託した財産、退職金・退職手当・年金またはこれと類似なもので被相続人に支給されるべきものが被相続人の死亡によってその相続人と相続人以外の者に支給されたものなどがそれである(相続税法7 条、9 条、10 条)。非課税減免財産には、例えば公益事業に出捐財産があり、その財産の出捐を受けた者が公益事業の目的に使用することを条件として相続税課税価額に算入しない(同法16 条、48 条5 項、6 項)。公課金、葬式費用、債務は、相続財産の価額から除かれる(同法14条)。また、法12 条は、非課税財産を規定しているが、例えば、民法1008 条の3 の祭祀財産などは課税対象から除外される(同法12 条)。


ポリー
「みなし相続財産というものですね。信託も入っていますね。」


(2) 課税標準と算出税額

課税価額から相続税法上のあらゆる控除を控除すれば課税標準を算出することができる。これを相続控除というが、ここには、基礎控除(同法18 条)、配偶者相続控除(同法19 条)、その他の人的控除(同法20 条)、一括控除(同法21 条)、金融財産の控除(同法22 条)、災害損失控除(同法21 条)、同居住宅の相続控除(同法23 条の2)がある。特に、韓国に配偶者控除は1961 年に導入され、その控除額は増加し1991 年から1996 年までは、結婚年数を考慮して配偶者控除を行った時期もあった。


しかし、1997 年に相続税法及び贈与税法が全面改正され、現在は、結婚年数を考慮する制度は廃止された。配偶者控除額は、最大30 億オンを限度にして配偶者の相続分がな
くても5 億オンを控除する制度を採択している。そのことから、韓国は、遺産税の課税方式であるものの、取得課税方式のように配偶者の控除限度を設定し、全額控除は認めていないと評価される。これらを控除して算定される課税標準に税率を適用することで、算出税額を定めることができる。税率は、韓国においては累進税率が適用され、それぞれの段階の税率については、相続税法26 条が最低10%から最高50%までに5 段階で定めている。


(3) 申告税額と申告納付税額

算出税額から再び贈与税額の控除(同法28 条)、外国納付税額控除(同法29 条)、短期再相続の税額控除(同法30 条)などの税額控除がなされる。これが、申告税額である。申告税額から10%の控除(同法67 条)や納付方式による控除(71 条、73 条)が適用された金額分が申告納付税額となる。
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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

第2 章 遺言

1 意義

遺言とは遺言者が自分の死亡と同時に法律効果が発生することを意図して、一定の方式に従ってなされる相手方のない単独行為である。

民法上の遺言は民法の定める方式に従ってしかできない要式行為であって、方式に反する遺言は無効である。それだけでなく、遺言は法定事項に限ってできる。韓国民法がそれぞれの箇所で定めている遺言事項は、(a)財団法人の設立、(b)新生否認、(c)認知、(d)後見人の指定、(e)親族会員の指定、(f)相続財産分割方法の指定又は委託、(g)相続財産の分割の禁止、(h)遺言執行者の指定又は委託、(i)遺贈などがある。遺言事項に違反する遺言もまた無効である。

韓国民法1061 条(遺言適齢)満17 歳に達しない者は遺言することができない。
韓国民法1062 条(制限能力者の遺言)遺言については、第5 条、第10 条、第13 条の規定は適用しない。
韓国民法1063 条(被成年後見人の遺言能力)①被相続人は意思能力が回復された時に限って遺言することができる。


②第1 項の場合、医者が心身回復の状態を遺言書に付記して署名捺印しなければならない。
遺言に関しては遺言者に遺言能力があることが必要である。遺言も意思表示なのであるから、意思能力のない者のなした遺言は無効である。しかし、遺言能力は満17 歳と定められており、制限能力者の遺言については1062 条が未成年者(5 条)、被成年後見人(10 条)、被限定後見人(11条)の行為能力制限に関する規定も適用しないと定めている。遺言も法律行為の一種ではなるが、遺言の趣旨は遺言者の真意を尊重することにあるので、遺言者に意思能力さえあればいいとされている。被成年後見人は意思能力が回復された場合のみ遺言できる。

2 遺言の方式

韓国民法1060 条(遺言の要式性)遺言は、本法に定める方式に従わなければ、効力が生じない。
韓国民法1065 条(遺言の普通方式)遺言の方式は、自筆証書、録音、公正証書、秘密証書又は口授証書の5 種類とする。
韓国民法1066 条(自筆証書による遺言)①自筆証書による遺言は遺言者が、その全文と年月日、住所、氏名を自書し、これに捺印しなければならない。
②前項の証書に文字の挿入、削除又は変更するには、遺言者がこれを自書し捺印しなければならない。
韓国民法1067 条(録音による遺言)録音による遺言は遺言者が遺言の趣旨、その氏名と年月日を口述しこれに参加した証人が遺言の正確なこととその氏名を口述しなければならない。
韓国民法1068 条(公正証書による遺言)公正証書による遺言は、遺言者が証人2 人以上が参加した公証人の面前で遺言の趣旨を口授し、公証人がこれを筆記し読み聞かせ、遺言者と証人がその正確なことを承認した後、各自署名し又は記名捺印しなければならない。


韓国民法1069 条(秘密証書による遺言)①秘密証書による遺言は、遺言者が筆者の氏名を記入した証書を厳封捺印し、これを2人以上の証人の面前に提出して、自己の遺言書であることを表示した後、その封書の表面に提出の日付を記載し、遺言者と証人が各自これに署名し又は記名捺印しなければならない。
②前項の方式による遺言封書はその表面に記載した日から5 日以内に公証人又は法院書記に提出してその封印上に確定日字印を押さなければならない。


韓国民法1070 条(口授証書による遺言)①口授証書による遺言は疾病、その他の急迫な事由により前4 条の方式によることができない場合、遺言者が2人以上の証人の参加でその1 人に遺言を趣旨を口授し、その口授を受けた者がこれを筆記し読み聞かせ、遺言者の証人がその正確なことを承認した後、各自署名又は記名捺印しなければならない。
②前項の方式による遺言はその証人又は利害関係人が急迫な事由の終了した日から7 日以内に法院にその検認を請求しなければならない。


③第1063 条第2 項の規定は口授証書による遺言には適用しない。
韓国民法1071 条(秘密証書による遺言の転換)秘密証書による遺言が、その方式に欠ける場合は、その証書が自筆証書の方式に適合するときは、自筆証書による遺言とみなす。
遺言は法定の方式によらないものは無効である。民法が遺言の方式を厳格に定めているのは遺言者の真意を明らかにすることによって、法的紛争や混乱を予防するためであるから、法定の要件と方式に従わない遺言はそれがたとえ遺言者の真正な意思に合致するものであっても、無効である100。韓国民法1065 条から1070 条までは遺言の方式として自筆証書、録音、公正証書、秘密証書又は口授証書の5 つの方法を定めている。それぞれの内容と特徴は次のようである。
証書作成者作成方法 検認の手続 確定日字 参加する証人の数
署名
記名捺印
自筆証書 遺言者 自書
発見後
遅滞なく請求
不要 証人不要 捺印
録音
遺言者
証人
口述
録音
発見後遅滞なく請求
不要 1 人 不要
公正証書 公証人 口授作成 不要 不要 2 人
遺言者
証人
公証人
秘密証書 遺言者
記入
厳封
発見後遅滞なく請求
提出日から5 日以内
2 人以上
遺言者
証人
口授証書 証人の一人口授の筆記
急迫な事由の終了から7日以内
不要 2 人以上
遺言者
証人
遺言の証人については、民法1072 条が定めている。つまり、未成年者、被成年後見人及び被限定後見人、遺言によって利益を得る者とその配偶者と直系血族は証人とならない。公証証書による遺言には、公証人法の定める欠格者は証人になることができない。共同遺言に関しては韓国民法にはそれを禁ずる規定がないので、共同遺言もできるとされる。


ポリー
「録音も、夫婦共同で遺言することも認められているのですね。一番どれが利用されているのでしょうか。録音の遺言は、日本の裁判所も検認してくれるようです。」

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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

3 遺言の効力
1 一般的な効力

韓国民法1073 条(遺言の効の力発生時期)①遺言は遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
②遺言に停止条件のある場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときはその条件が成就した時からその効力を生ずる。

遺言は死因行為であるので、遺言者が死亡した時から効力を発生する。但し、遺贈を受ける者は遺言の効力が生じた後にその効力を断ることができる。遺言が条件付きであるとき、停止条件付遺言は、その条件が遺言者の死亡後に成就したときから効力を生ずる。解除条件付遺言については、民法には定めはないが、そのような遺言も可能であり、条件の一般法理に従い条件が成就したらそのときから遺言の効力を失うと解する。遺言によって認知することもできるが、遺言で婚外者を認知するときは、遺言執行者は家族関係登録簿などに関する法律に従ってその就任したときから1 ヶ月以内に認知届けを出さなければならない。遺言認知による効力は遺言の効力発生時、すなわち、遺言者の死亡時というのが多数説である。

2 遺言の撤回と無効・取消

韓国民法1108 条(遺言の撤回)①遺言者は、いつでも、遺言又は生前行為により、遺言の全部又は一部を撤回することができる。
②遺言者はその遺言を撤回する権利を放棄することはできない。

韓国民法1109 条(遺言の抵触)前後の遺言が抵触又は遺言後の生前行為が遺言と抵触するときは、その抵触する部分の前の遺言は、これを撤回したものとみなす。
韓国民法1110 条(破毀による遺言の撤回)遺言者が故意に遺言証書又は遺贈の目的物を破毀したときは、その破毀した部分に関する遺言はこれを撤回したものとみなす。
韓国民法1111 条(負担付きの遺言の取消し)負担付きの遺贈を受けた者がその負担義務を履行しない時は、相続人又は遺言執行者は、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、法院に遺言の取消を請求することができる。

遺言者はいつでも、遺言又は生前行為により遺言の全部又は一部を撤回することができる。遺言者の最終の意思は尊重すべきであるということから、遺言撤回の自由が認められるのである。
遺言を撤回する方法は、遺言者の意思による「任意撤回」と法定の要件を満たしたら撤回があったものとみなされる「法定撤回」がある。まず、任意撤回については、必ずしも遺言による必要はなく、生前行為で撤回することもできる。遺言者は撤回する権利を放棄できないので(1108 条2 項)、遺言者の遺言撤回の自由は剥奪されない。次に、法定撤回については、1109 条と1110 条
が遺言の抵触と破毀による撤回の二つを規定している。また、遺言の抵触には二つの場合について規定がある。

第1 に、前遺言と後遺言とが抵触するときのことで、抵触部分について前遺言が
撤回したものとみなされる。第2 に、遺言と遺言後の生前行為とが抵触するときも、前遺言が撤回したものとみなされる。ここでいう抵触について、判例は、前の遺言を失効させなくては遺言後の生前行為が有効とならない場合のことであって、単に法律上又は物理的な執行不能となるような場合のみにとどまらず、後の行為が前の行為と両立せしめない趣旨のもとにさなれたことが明らかであれば抵触に当たるとした101。抵触の範囲や存否は前・後の事情を合理的に考えて、遺言者の意思が遺言の一部でも撤回しようとしたのであったか、それともその全部を不可分的に撤回しようとしたものかを、実質的に執行の不能となった遺言の部分との関わりのもとで、慎重に判断すべきである。意味する。破毀による遺言の撤回については、遺言者が故意に遺言書又は遺言の目的物を破毀したときは、その破毀した部分の遺言は撤回したものとみなされる。遺言の撤回がなされると最初から遺言がなかったこととなる。但し、遺言を撤回した後、またその遺言の撤回を撤回した場合、前の遺言が復活するのかについては、韓国民法には規定がないので、学説上争いがある。


遺言も法律行為であるので、法律行為一般の無効事由があれば無効となる。また、法定の遺言の有効要件に違反している場合にも無効となる。遺言の重要部分に錯誤がある場合や詐欺・強迫の場合による取消も適用される。遺言者の撤回権と別に取消権を認めるのは遺言者の死亡後や意思能力の喪失の場合に実益がある。特に、遺言者の死亡後に、遺言の取消権は相続人が相続し、相続人が取消権を行使することになるだろう。負担付きの遺贈を受けた者がその負担義務を履行しない時は、相続人又は遺言執行者は、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、法院に「遺言の取消」を請求することができる(1111 条)。

3 遺贈

(1) 意義

遺贈とは、遺言者が遺言によって自己の財産の全部又は一部を他人に与える無償の単独行為である。

遺贈と死因贈与は、両方とも死因行為という点には違いがないが、形式が単独行為なのか
契約なのかが異なるだけであるため、死因贈与には遺贈の規定が準用される。遺贈の規定の中で、単独行為の性質に基づく規定、例えば、遺贈能力、方式(1065 条から1072 条まで)、承認と放棄(1074 条、1075 条)、包括的受贈者の地位に関する1078 条などは準用されない102。韓国民法上、遺贈には包括遺贈及び特定遺贈及、負担付遺贈があるが、日本民法の964 条のように、包括遺贈や特定遺贈の意味を定める規定はない。その但書の定める「遺留分に関する規定に違反することができない」という遺贈と遺留分の関係に関しても少なくとも明文上にはない。遺贈の当事者として、まず、受遺者となるものは、遺贈により利益を受ける者である。受遺者は遺言の効力が生じる時に権利能力がなければならない。胎児と相続欠格者については1000 条3 項と1004 条が受遺者に準用される(1064 条)。受遺者がその要件を満たさない場合には遺贈の効力は生じないので、遺贈の目的の財産は相続人に帰属する。しかし遺言者が別段の意思を表示したときはその意思に従う。次に、遺贈のもう一人の当事者は、遺贈を履行する義務を負う者、つまり、遺贈義務者である。遺贈の目的の財産の譲渡義務は遺言者の死亡後に執行されるため、遺言者は遺贈義務者ではない。遺贈義務者は、例えば、相続人、遺言執行者、包括的受遺者、相続人のない財産管理人などのことであろう。遺贈義務者である相続人は数人あるときは、その相続分に応じて遺贈義務を負う。


ポリー
「遺贈と死因贈与は単独の行為か契約か「だけ」の違いなのですね。家族の間で行われることが多いので、そういう表現になるのでしょうか。」


(2) 包括遺贈

韓国民法1078 条(包括的受遺者の権利義務)包括的遺贈を受けた者は相続人と同一の権利義務を有する。
包括遺贈とは、積極財産と消極財産とを包括する相続財産の全部または一定の割合を遺贈の内容にする処分行為である。これに対し、特定遺贈とは特定の具体的な財産を遺贈の内容にする処分行為であって、特定遺贈においては消極財産は承継されない。包括的遺贈であるか特定遺贈であるかの区別については、通常は相続財産に対する割合の意味でなされたものは包括遺贈、そうではないものが特定遺贈となるが、遺言公正証書などに遺贈した財産が個別的に表示されたというだけでは特定遺贈と断定すべきではなく、相続財産がすべていくらかを審理して他の財産がないと認められる場合には、これを包括遺贈と判断することができるとした判例103がある。


包括的
受遺者は相続人と同一の権利・義務を包括的に承継する。したがって、遺言の効力の発生と同時に相続財産の全部又は一定の割合を当然に承継するのであって、遺贈義務者による遺贈の履行を要しない。包括的受遺者が数人ある時又は相続人があるときは共同相続関係にあることになる。
包括遺贈の承認と放棄には、遺贈の承認と放棄に関する民法1074 条から1077 条までが適用されるのではなく、相続人のそれと同様に、相続の承認と放棄に関する民法1019 条から1044 条までが適用される。判例は、相続人の相続回復請求権及びその除斥期間に関する民法999 条もまた包括的遺贈の場合に類推適用するとしている104。しかし、包括的受遺者と相続人は次のような点では違いがあるとされている。

(a)相続能力のない法人であっても受贈能力がある。(b)包括的受遺者は遺留分権や相続分譲受け権を有しない。(c)包括遺贈には代襲相続の規定は適用されず、遺言者の死亡の前に包括的受遺者が死亡したときは遺贈は失効する(1089 条)。

(3) 特定遺贈
民法遺言の効力の節の規定の殆どは特定遺贈に関する内容を規定してる。韓国民法上、特定遺贈に関する規定の内容や解釈においては日本民法のそれとあまり異ならないので、以下では関わる韓国の規定のみをまとめておくことにとどまりたい。

(a) 特定遺贈の承認と放棄
韓国民法1074 条(遺贈の承認・放棄)①遺贈を受ける者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈を承認又は放棄することができる。

②前項の承認及び放棄は遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
韓国民法1075 条(遺贈の承認、放棄の取消禁止)①遺贈の承認及び放棄は取消しをすることができない。
②第1024 条2 項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
韓国民法1024 条(承認、放棄の取消禁止)①相続の承認及び放棄は第1019 条第1 項の期間内でも取消しをすることができない。
②前項の規定は総則編の規定により取消しをすることを妨げない。
韓国民法1076 条(受贈者の相続人の承認、放棄)受贈者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄することができる。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
韓国民法1077 条(遺贈義務者の催告権)①遺贈義務者その他の利害関係人は、相当な期間を定め、その期間内に承認又は放棄をすべき旨を受贈者またはその相続人に催告することができる。
②前項の期間内に受贈者またはその相続人が遺贈義務者に対して催告に対する確答をしないときは、遺贈を承認したものとみなす。

(b) 受贈者の果実取得権と費用償還請求権
韓国民法1079 条(受贈者の果実取得権)受贈者は、遺贈の履行を請求することができる時からその目的物の果実を取得する。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
韓国民法1080 条(果実受取費用の償還請求権)遺贈義務者が遺言者の死亡後に、その目的物の果実を収取するために必要費を支出したときは、その果実の価額を範囲内で果実を取得した受贈者に償還を請求することができる。
韓国民法1081 条(遺贈義務者の費用償還請求権)遺贈義務者が遺贈者の死亡後に、その目的物について費用を支出した場合には第325 条の規定を準用する。
韓国民法325 条(留置権者の償還請求権)①留置権者が留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還を請求することができる。

②留置権者が留置物について有益費を支出したときは、それによる価額の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、法院は所有者の請求によりその償還について相当の期間を許与することができる。

(c) 担保責任と物上代位、第三者の権利の目的である財産の遺贈
韓国民法1082 条(不特定物遺贈義務者の担保責任)①不特定物を遺贈の目的とした場合において、遺贈義務者はこの目的物に対して、売主と同じく、担保の責任を負う。

②前項の場合において、目的物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は瑕疵のない物件をもってこれに代えなければならない。
韓国民法第1083 条(遺贈の物上代位性)遺言者が、遺贈の目的物の滅失、毀損若しくは占有の侵害によって第三者に対して損害賠償を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものとみなす。
韓国民法第1084 条(債権の物上代位性)①債権を遺贈の目的物とした場合において、遺言者がその受け取った物件が相続財産中に在るときは、その物件を遺贈の目的としたものとみなす。
②前項の債権が金銭を目的とした場合において、その受け取った債権額に相当する金銭が相続財産中にないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものとみなす。
韓国民法第1085 条(第三者の権利の目的である物権又は権利の遺贈)遺贈の目的である物件又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは、受贈者は遺贈義務者に対してその第三者の権利を消滅させるべき旨を請求することができない。

韓国民法第1086 条(遺言者が別段の意思を表示したとき)前3 条の場合に、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
韓国民法において、遺贈の物上代位や債権の遺贈の物上代位の場合に、それぞれ、遺贈者の有する損害賠償請求権、又は遺言者が受け取った物件や金額が遺贈の目的と看做される(1083 条と1084 条)。この点はただ推定するのにすぎない日本民法999 条と1000 条と違う点である。なお、韓国民法には、遺贈の目的物の付合や混和(日本民法999 条2 項)についてはその定めがない。さらに、韓国民法1086 により遺贈の物上代位と債権の遺贈の物上代位には、遺言者の別段の意思が優先することが定められているが、日本民法には、物上代位の場合に限っては、このような但書が条文上には定められていないのが異なる。


(4) 負担付遺贈
韓国民法1111 条(負担付きの遺言の取消し)負担付きの遺贈を受けた者がその負担義務を履行しない時は、相続人又は遺言執行者は、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、法院に遺言の取消を請求することができる。
韓国民法1088 条(負担付遺贈と受贈者の責任)①負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。


②遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は財産分離によって減少したときは、受贈者はその減少の限度において、負担した義務を免れる。
負担付遺贈の受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。負担付遺贈の受遺者が遺贈を放棄した場合、負担の利益を受ける者が自ら受遺者となることができるかについては韓国民法上の規定はないので学説上の争いがある。負担付遺贈の目的の価額が限定承認や財産分離請求によって減少した場合に負担義務を免れる。遺留分返還請求による減少については、規定はないが、そのときも負担した義務を免れるというべきであろう。


ポリー
「韓国では、負担付き遺贈は実際に効果があるのでしょうか。」

(5) 遺贈の無効・取消
韓国民法1087 条(相続財産に属しない権利の遺贈)①遺言の目的である権利が遺言者の死亡のときにおいて相続財産に属しなかったときは、遺言は効力を生じない。ただし、遺言者が自己の死亡のときにおいてその目的
物が相続財産に属しなかったときであっても、遺言の効力を生じさせる意思であったときは、遺贈義務者はその権利を取得して受贈者に移転する義務を負う。
②前項の但書において、その権利を取得することができないとき、又はその取得に可分の費用を要するときは、その価額を弁償することができる。
韓国民法第1089 条(遺贈の効力発生前の受贈者の死亡)①遺言は遺言者の死亡以前に受贈者が死亡したときは、その効力を生じない。
②停止条件付きの遺贈については、受贈者がその条件の成就前に死亡したときはその効力を生じない。
韓国民法1090 条(遺贈の無効、失効の場合と目的財産の帰属)遺贈がその効力を生じないとき、又は受贈者がこれを放棄したときは、遺贈の目的の財産は相続人に帰属する。ただし、遺言者が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。


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相続に関する法律 韓国
第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

4 遺言の検認と執行

1 意義(遺言の検認・執行)

韓国民法1091 条(遺言証書、録音の検認)①遺言の証書又は録音を保管した者若しくはこれを発見した者は、
遺言者の死亡後、遅滞なく、法院に提出して、その検認を請求しなければならない。

②前項の規定は、公正証書や口授証書による遺言については適用しない。
韓国民法1092 条(遺言証書の開封)法院が封印のある遺言証書を開封するときは、遺言者の相続人、その代理人その他の利害関係人の立会がなければならない。
民法1091 条の遺言証書の法院の検認は遺言証書の形式、態様などの遺言の方式に関する全ての事実を調査・確認して相続開始後の偽造、変造、隠匿、破毀などのおそれを防止するために定められたものである。遺言の検認手続きは一種の検証手続き、あるいは証拠保存手続きであるので、遺言内容の真否やその効力などのような実体法的な効力を判断するものではない。したがって、判例105は、民法1092 条が定めている遺言証書の開封手続きは封印のある遺言証書の検認には必ず開封が必要であるからその手続きを規定したまでであって、適法な遺言であれば、このような検認や開封手続きを経てなくとも遺言者の死亡によって直ちに効力を生ずると解すべきだと判断したことがある。韓国民法は、検認や開封手続きの違反に対する過料などの制裁も定めていない。

2 遺言執行者

遺言の検認とは別に、遺言の執行とは、遺言の効力が発生した後、遺言に表示されている遺言者の意思を実現する行為若しくはその手続きのことである。このような執行行為若しくは執行手続きを担う者が遺言執行者である。

(1) 遺言執行者の地位と決定

韓国民法1101 条(遺言執行者の権利義務)遺言執行者は遺贈の目的である財産の管理その他の遺言の執行に必要な行為をする権利義務がある。
韓国民法1103 条(遺言執行者の地位)①指定又は選任による遺言執行者は相続人の代理人とみなす。
②第681 条から第685 条まで、第687 条、第691 条及び第692 条の規定は遺言執行者について準用する。
韓国民法682(複任権の制限)①受任人は委任人の承諾又はやむをえない事由がなければ、第三者にして自己に代わり、委任事務を処理させることはできない。


②受任人が前項の規定によって第三者に委任事務を処理させた場合には、第121 条、123 条の規定を準用する。
韓国民法1098 条(遺言執行者の欠格)制限能力者と破産宣告を受けたものは、遺言執行者となることができない。
遺言執行者の地位は民法の規定によると相続人の代理人としての地位を有する。したがって、遺言執行者は相続人の代理人として相続財産を善良な管理者の注意をもって任務を果たすべきであり、相続人に対する報告義務や金銭消費の責任などを負う。

なお、1103 条2 項の682 条の準用によって、遺言執行者には原則として複任権も制限される。遺言執行者は遺言訴訟に必要な訴訟手続きにおいて法定訴訟担当者として当事者適格を有しており、その範囲では、相続人は当事者適格がないというのが一般である106。遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産に対する処分権を喪失することになるはずであるが、韓国民法はこのような内容の規定は設けていない。
制限能力者と破産宣告を受けた者は遺言執行者となることができない(1098 条)。
韓国民法は遺言執行者の決定について、指定遺言執行者、法定遺言執行者、選任遺言執行者の三つの方法によることにしている。

(a) 指定遺言執行者
韓国民法1093 条(遺言執行者の指定)遺言者は遺言で遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
韓国民法1094 条(委託による遺言執行者の指定)①前条の委託を受けた第三者はその委託があったことを知ってから、遅滞なく、遺言執行者を指定して、これを相続人に通知しなければならないし、その委託を辞そうとするときは、これを相続人に通知しなければならない。
②相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定めて、その期間内に遺言執行者を指定することを委託された者に催告することができる。その期間内に指定の通知がなかったときは、その指定の委託を辞退したものとみなす。
韓国民法1097 条(遺言執行者の承諾、辞退)①指定による遺言執行者は遺言者の死亡後に、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを相続人に通知しなければならない。
②選任よる遺言執行者は、選任の通知を受けてから、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを法院に通知しなければならない。
③相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定めて、その期間内に承諾するかどうかを確答すべき旨を、指定又は選任による遺言執行者に催告することができる。その期間内に催告に対する確答をしなかったときは、遺言執行者が就任を承諾したものとみなす。


指定による遺言執行者は、遺言者の死亡後に、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを相続人に通知しなければならない(1097 条2 項)。指定の委託を受けた者がある場合に、韓国民法は、まず、委託を受けた第三者はその委託があったことを知ってから、遅滞なく、遺言執行者を指定して、これを相続人に通知しなければならない。しかし、相続人は、指定の委託を受けた者が遺言執行者を指定するのをいつまでも待っていられるわけにはいかない。そもそも、「指定又は選任遺言執行者の就任の承諾・承諾」については、1097 条があって相続人(その他の利害関係人)は催告権を有するが、「指定の委託を受けた者の委託の承諾・辞退」を問う催告権は規定がない(1097 条、特に同条の3 項)。そこで、韓国民法は、相続人その他の利害関係人は、その者に対して、「遺言執行者を指定するかどうか」を確答すべき旨の催告をすることができるした上で、相当の期間内に指定の通知がなかったときは、その「指定の委託を辞退したもの」とみなすと定めている(1094 条2 項)。この規定があることによって、相続人その他の利害関係人は、指定された遺言執行者又は指定を委託された者の就任の承諾のみならず(1097 条3 項)、指定を委託さ
れた者に対して、指定権の行使の可否を問うことで、委託の辞退とみなす催告権を有することになる。なお、相続人は、1094 条による指定の委託を受けた者の辞退の通知を待たずに催告権を行使することができる。


(b) 法定遺言執行者
韓国民法1095 条(指定遺言執行者がない場合)前2 条の規定によって指定された遺言執行者がないときは、相続人が遺言執行者となる。
韓国民法は、指定遺言執行者がないときは、直ちに、家庭法院による選任執行者が遺言執行者となるのではなく、一応、相続人が遺言執行者となる法定遺言執行者の制度を設けている。これは、指定遺言執行者がないとき、又は死亡、欠格、その他の自由で遺言執行者がなくなったときは、利害関係人の請求によって家庭法院が遺言執行者(選任遺言執行者)を選任するまでの間に、時間的間隙があるので、それを埋めるために、法律で相続人を遺言執行者とみなしたのである。
(c) 選任遺言執行者
韓国民法1096 条(法院による遺言執行者の選任)①遺言執行者がないとき、又は死亡、欠格、その他の事由によってなくなったときは、法院は利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任しなければならない。
②法院が遺言執行者を選任した場合には、その任務に関して必要な処分を命ずることができる。
韓国民法1097 条(遺言執行者の承諾、辞退)②選任よる遺言執行者は、選任の通知を受けてから、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを法院に通知しなければならない。
③相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定めて、その期間内に承諾するかどうかを確答すべき旨を、指定又は選任による遺言執行者に催告することができる。その期間内に催告に対する確答をしなかったときは、遺言執行者が就任を承諾したものとみなす。
選任よる遺言執行者は、選任の通知を受けてから、遅滞なく、これを承諾するか辞退するかを「法院」に通知しなければならない。民法1096 条による法院の遺言執行者の選任は、民法1098
条の遺言執行者の欠格事由に該当しない限り、当該法院の裁量に属する問題である107。
韓国民法1105 条(遺言執行者の辞退)指定又は選任による遺言執行者は、正当な事由があるときは、法院の許可を得て、その任務を辞することができる。
韓国民法1106 条(遺言指定者の解任)指定又は選任による遺言執行者にその任務の懈怠があるとき又は正当ではない事由があるときは、法院は、相続人その他の利害関係人の請求によって、遺言執行者を解任することができる。
(2) 遺言執行者の任務
韓国民法1099 条(遺言執行者の任務の着手)遺言執行者がその就任を承諾したときは、遅滞なく、その任務をお行わなければならない。
韓国民法1100 条(財産目録の作成)①遺言が財産に関するものであったときは、指定又は選任よる遺言執行者は、遅滞なく、その財産目録を作成し、相続人に交付しなければならない。
②相続人の請求があるときは、前項の財産目録の作成に相続人を立ち会わせなければならない。
韓国民法1102 条(共同遺言執行)遺言執行者が数人ある場合には、任務の執行はその過半数で決する。ただし、保存行為は、各自がこれをすることができる。
韓国民法1104 条(遺言執行者の報酬)①遺言者が遺言でその執行者の報酬を定めていない場合には、法院は、相続財産の状況その他の事情によって指定又は選任による遺言執行者の報酬を定めることができる。
②遺言執行者が報酬を受ける場合には、第686 条第2 項、3 項の規定を準用する。
韓国民法686 条(受任人の報酬請求権)②受任人が報酬を受けた場合には委任事務を完了してからではないと、これを請求することができない。但し、期間によって報酬を定めたときは、その期間が経過した後にこれを請求することができる。
③受任人が受任事務を処理する間に受任人の責任のない事由によって委任が終了したときは、受任人は既に処理した事務の割合に応じる報酬を請求することができる。
韓国民法1107 条(遺言執行費用)遺言の執行に関する費用は相続財産の中から、これを支払う。
韓国民法1103 条(遺言執行者の地位)②第681 条から第685 条、第691 条及び第692 条の規定は遺言執行者に準用する。
韓国民法691 条(委任終了時の緊急処理)委任終了の場合に、急迫な事情があるときは、受任人、その相続人あるいは法定代理人は委任人、その相続人又はその法定代理人が委任事務を処理することができるまでにその事務の処理を継続しなければならない。この場合については、委任の存続と同一の効力がある。
韓国民法692 条(委任終了の対抗要件)委任終了の事由はこれを相手方に通知したとき又は相手方がこれを知ったときでなければ、これをもって相手方に対抗することができない。


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相続に関する法律 韓国第5部 韓国法
淑明女子大学 郭 珉希

各国の相続法制に関する調査研究業務報告書より
平成26 年10 月公益社団法人 商事法務研究会
法制審議会-民法(相続関係)部会資料より

第3 章 遺留分

1 意義

相続に関して、被相続人の自己の保有する財産につき、死後の処分をどうするかという決定権を保障しようというのが遺言制度である。これに対し、遺留分制度は、被相続人の遺言による相続財産の処分の自由を制約し、一定な範囲の相続人に一定な割合の相続財産を確保することができるようにした民法上の制度である。

実質的に、被相続人の財産の中には、相続人、とりわけ、配偶者の財産が混在されることもあり、相続人が被相続人の財産形成に一定部分寄与していることもある。遺言による被相続人の財産処分さえなかったならば、相続できたのであろう財産に対する相続人の権利を一部確保できるように保障する必要がある。しかも、被相続人の死後に相続人の生活保障を全く無視してよいわけではない。


したがって、被相続人の遺言処分の自由と相続人の保護とを調整する必要があって民法上設けられた制度が遺留分制度である。この調整手段として一定な割合で相続人に留保された相続財産に関する抽象的・基本的権利、若しくはその地位を遺留分権と呼ぶ。なお、このような遺留分権という権利又は地位から、遺留分を侵害する遺贈及び贈与があったとき、受贈者に対して遺留分の不足分の返還を請求できる具体的・派生的な権利が遺留分返還請求権なのである108。

2 遺留分権利者と遺留分の算定
1 遺留分権利者と遺留分の割合
遺留分権利者とその遺留分の割合は次のようである。
韓国民法1112 条(遺留分権利者と遺留分)相続人の遺留分は次の各号による。
1.被相続人の直系卑属はその法定相続分の2 分の1
2.被相続人の配偶者はその法定相続分の2 分の1
3.被相続人の直系尊属はその法定相続分の3 分の1
4.被相続人の兄弟姉妹はその法定相続分の3 分の1
遺留分権利者は、被相続人の配偶者、直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹として、相続開始の時に相続権のある相続人であるから、相続欠格・相続放棄により相続権を失った者には遺留分権もない。胎児は生きて生まれれば遺留分権利者となるし、代襲相続人も被代襲相続人の遺留分の範囲内で遺留分権を有する。


2 遺留分の算定
韓国民法1113 条(遺留分の算定)①遺留分は被相続人の相続開始の時において有した財産の価額にその贈与財産の価額を加算し債務の全額を控除して、これを算定する。
②条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は家庭法院が選任した鑑定人の評価に従ってその価額を定める。
韓国民法1114 条(算入される贈与)贈与は相続開始前の一年間にしたものに限り第1113 条の規定によりその価額を算定する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、一年前にしたものについても、同様である。
遺留分は被相続人の相続開始の時において有した財産の価額にその贈与財産の価額を加算し債務の全額を控除して、これを算定する(1113 条1 項)。したがって、遺留分算定の基礎となる財産の確定には、「相続開始の時に有した財産」、「贈与財産」、「債務」が算定要素となっている。

(1) 相続開始時の財産
遺留分は被相続人の相続開始の時において有した財産の価額にその贈与財産の価額を加算し債務の全額を控除して、これを算定する。遺留分算定の基礎財産とは、「被相続人が相続開始の時において有していた財産」の価額に「贈与財産」の価額を加算して債務全額を控除した財産のことである。遺留分算定の基礎財産は相続財産そのものではない。ここでまた、被相続人が「相続開始の時において有していた財産」には積極財産、遺贈財産、贈与の対象ではあるがまだ履行されてない財産などがあり、相続財産を構成しない財産、例えば、祭祀財産は含まれない。遺贈財産は相続開始の時に現存する財産として扱われる。なお、贈与の目的物とはいえまだ履行されてなかった財産は相続開始の財産に含まれる109。

(2) 贈与した財産
算入される贈与の範囲については、(a)相続開始前の一年間にした贈与、(b)当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなした贈与、(c)共同相続人の特別受益が含まれる。相続開始前の一年間の贈与が原則となっているのは、いくらでも過去に遡ってしまうと取引の安全を害するおそれがあるからである。ここでの贈与は、贈与契約が相続開始前1年間に締結された場合を指しており、履行が相続開始1年間になされただけの場合は含まれない。しかし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることをしてなした贈与の場合は、1年前の贈与であっても算入される110。「共同相続人の特別受益」も民法1008 条及び1118 条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるので、すべて返還すべきである。


この特別受益には、民法1114 条が適用されないがために、共同相続人の中に被相続人からの贈与により特別受益を受けた者があるときは、その贈与が相続開始前の1 年間にしたものかどうか、当事者双方が損害を加えることを知ってなしたかどうかを問わず、すべて遺留分算定の基礎財産に算入される。これを、法定相続の場合とパラレルに考えると、異なる点がある。法的相続の場合には、具体的相続分を算定するに当たり、特別受益と寄与分というのが法定相続分の修正要素として考慮される。しかし、個別的遺留分の算定に当たっては、特別受益は返還されるが、民法1115 条では遺留分返還請求権の対象
に寄与分は規定していないことから、寄与分は返還されないとされるのが通説である。そもそも遺留分制度は被相続人の相続財産の処分の自由を制限するための制度であるのに対し、寄与分は共同相続人の協議又は家庭法院の審判によって定められるものであって被相続人の意思によるものではないので、遺留分をもって寄与分を制限するのは望ましくないからと説明している。したがって、遺留分算定の基礎財産を算定するに当たっては、そもそも寄与分を控除して計算する(相続財産から除外する)ことになるので、寄与分がいくら過渡に定められたとしても、寄与分による遺留分の侵害の問題は生じない。

(3) 控除される相続債務

遺留分算定において債務を控除するのは、遺留分制度というのは現実に取得しうる相続財産(純取得分)の一定割合を遺留分権利者に留保する制度であるからである。ここには、私法上・公法上の債務、相続財産に対する費用、遺言執行費用、葬式費用などが含まれる。相続債務がある場合には、実際に侵害された遺留分額(返還されるべき遺留分額)を算定するにあたっては、相続債務分担額を加えることとされる。

(4) 遺留分額と返還されるべき遺留分(侵害された遺留分額)

遺留分権利者の留分額は以上のように算定された財産価額に、民法1112 条の定める各自の遺留分の割合を乗じた額となる。遺留分の割合は、被相続人の直系卑属と配偶者の場合には、法定相続分の2 分の1、被相続人の直系尊属と兄弟姉妹には、法定相続分の3 分の1 である。これに基づいて、遺留分権利者が返還請求できる額は、その不足分である(1115 条)。詳しくは、民法1113 条と1114 条によって算定された遺留分額から当該相続人の得た相続財産額を控除し、その残額に相続債務分担額を加えた額が返還請求の対象となる遺留分額である。
3 遺留分返還請求権(遺留分の保全)

韓国民法1115 条(遺留分の保全)①遺留分権利者が被相続人の第1114 条に規定する贈与及び遺贈によってその遺留分に不足が生じたときは、不足した限度でその財産の返還を請求することができる。
②第1 項の場合、贈与及び遺贈を受けたものが数人あるときは、各自の遺贈の価額の割合に応じて返還しなければならない。
韓国民法1116 条(返還の順序)贈与は遺贈を返還した後でなければ、これを請求することができない。
韓国民法1118 条(準用規定)第1001 条、第1008 条、第1010 条の規定は遺留分について準用する。

1 意義
遺留分返還請求権とは、遺留分に不足が生じた場合、不足した限度で贈与又は遺贈の目的となった財産の返還を請求する権利である。遺留分返還請求権の法的性質については、形成権というのが多数説である。


多数説によると、遺留分返還請求権は遺留分侵害行為の効力を消滅させる形
成権であるため、遺留分返還請求権を行使すると、遺留分を侵害した遺贈や贈与が失効となるから、遺留分返還請求権者は物権的請求権をもって目的物返還請求をすることができるという。判例の態度は明らかではないが形成権説に立っているようにみえるものが多い。但し、判例には、遺留分返還請求権の行使は、侵害する遺贈や贈与行為を指定しその返還を請求する意思表示で足りるし、それによる目的物の移転登記請求権若しくは引渡請求権を行使することとは異なり、目的物を特定する必要はないと判断したものがある111。


ポリー
「韓国でも日本と同じく、遺留分を請求したら権利が生じるのですね。」


2 遺留分返還請求権の行使

(1) 返還請求の当事者

遺留分返還請求権は遺留分権利者及びその承継人である。遺留分権利者の債権者が遺留分返還請求権を代位行使できるかどうかについては、学説上様々な議論がある。通説は遺留分返還請求権が一身専属権ではないことから、債権者代位権の客体となるとしているが、判例は行使上一身専属権と把握して特別な事情がない限り、債権者代位権の客体とはならないとした112。他方、返還義務者は遺贈または贈与を受けた者及びその承継人である。遺留分返還請求権の行使により返還されるべき遺贈又は贈与の目的となった財産が第三者に譲渡されたとき、その譲受人に対してもその財産の返還を請求することができるかが問題となっている。判例は、その譲受人が譲渡当時に遺留分権者を害することを知ったときには、その譲受人に対しても財産の返還を請求することができるとしている113。

(2) 返還の範囲と方法

遺留分返還請求権の行使は裁判上・裁判外でも行使することができる。返還の順序は、複数の遺贈や贈与がある場合には、遺贈を先に請求し、それでもまだ遺留分が満足されない場合に贈与の返還を請求することになる(1116 条)。死因贈与と遺贈とがある場合には、その順位がどうなろかについては、詳しい議論はないが一般に同順位であるとされる。遺贈や贈与者がそれぞれ多数あるときは、どの場合でも受贈の目的物の価額の割合に応じて返還する(1115 条2項)。


韓国
民法には、1115 条2 項と1116 条以外には返還の範囲や順位を定める詳しい規定がないので、それが問題となった様々なケースに関しては、実務上、解釈や判例によって解決するしかない。判例によると、「贈与又は遺贈を受けた他の共同相続人が数人あるときは、民法の定める遺留分制度の目的や同法1115 条2 項の規定趣旨に照らして、遺留分権利者はその他の共同相続人の中で贈与又は遺贈を受けた財産の価額が自分の固有の遺留分額を超過する相続人に対して、遺留分額を超過した金額の割合に応じて返還請求をすべきである」と判断したものがある114。なお、共同相続人と共同相続人ではない第三者が被相続人からそれぞれ贈与又は遺贈を受けた場合には、「民法1115 条2 項の趣旨を考慮して、他の共同相続人の中で、各自の受贈財産などの価額が自己の固有の遺留分額を超えている相続人のみに対して、侵害された遺留分額を超過した金額の割合に応じて返還請求をすべきであるとした上で、共同相続人と共同相続人ではない第三者がある場合には、その第三者にはそもそも遺留分というのがないので、共同相続人は自己の固有の遺留分額を超えた金額を基準とし、第三者はその受贈価額を基準として、各金額の割合に応じて返還することができるとした判例もある115。


返還の方法についても、直接に定める規定はないが、「その財産の返還」を請求すると規定している1115 条の文言の趣旨に照らして、現物返還が原則となる116。しかし、現物による返還ができない場合には価額返還するしかない。

(3) 返還請求権行使の効果

遺留分権利者によって返還請求がなされた場合、返還義務者は遺贈又は贈与された財産そのものを返還しなければならない。果実については、現物による返還が原則である以上果実も返還されるべきであるが、学説は、一般に返還請求がなされた以後の果実が返還対象となるとしている。
返還請求によって相手方の相続人が受分の遺留分額を超えて取得した遺贈や贈与は遺留分権を侵害する限度でその効力を失う。遺留分返還請求権の行使は相続財産の分割と別に行うことができるが、具体的な遺留分返還請求権の実現のためには相続財産分割の手続きとともに行う必要がある。

3 遺留分返還請求権の消滅
韓国民法1117 条(消滅時効)返還の請求権は遺留分権利者が相続の開始及び返還すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1 年内に行使しなければ時効によって消滅する。相続開始の時から10 年を経過したときも同様とする。
遺留分返還請求権は返還の請求権は遺留分権利者が相続の開始及び返還すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1 年内に行使しなければ時効によって消滅する。また、相続開始の時から10 年を経過したときにも時効で消滅する。返還の意思表示を期間内にすればいいので、その結果生じる返還請求権の行使は民法1117 条の期間経過後でも構わない。

4 遺留分権の放棄

遺留分の抛棄については、日本民法と異なり、韓国民法上には規定がない。日本民法043 上によると、相続の開始前であっても家庭裁判所の許可があれば抛棄できると定めているが、韓国の解釈では、相続人は遺留分権を予め抛棄することはできず、実際に抛棄したとしても無効である117と解するのが一般である。その根拠は、韓国民法において相続の事前抛棄は許されないし、被相続人が圧力をかけて遺留分権の事前抛棄を強要するおそれがあるからである。それに、相続開始前の遺留分権はまだ具体的な権利とはいえない一種の期待権にすぎないからである。相続開始後には、遺留分権は具体的な財産権であるので、遺留分返還請求権のみならず、これを包括する遺留分権そのものを放棄することもできる。但し、遺留分権を放棄したとしても相続人の地位を失うことはない。問題は、共同相続人の一人が遺留分権を放棄したとき、放棄者の遺留分が他の共同相続人の遺留分に帰属するのかにある。日本民法は明示的にその1043 条2 項が他の共同相続人には影響を及ぼさないとしているが、韓国にはそれに関する規定がないので、学説は次のように解している。通説は、遺留分権利者が遺留分を放棄した場合には、そもそも、その遺留分権利者は存在しなかったことになり、遺留分額が再算定されるため、共同相続人の遺留分の放棄
は、結局、他の遺留分権者の遺留分額に影響を及ぼすとしている。他方、遺留分の放棄は債権者取消権においての詐害行為とはならない。

⑰ これらが司法書士の主な仕事です(終)

The shiho-shoshi lawyer’s work the following.

不動産の登記手続きについて代理すること

The shiho-shoshi lawyer’s is proxy for register of real property.

大切な財産である土地や建物の売買や相続、抵当権や賃借権などの設定といったさまざまな権利変動について、登記の専門家として、手続を代わって行います。

The shiho-shoshi lawyer’s is proxy for register of real property as professional of registry when people sell or succeed their important real property of the rand or the building, and people establishment of the mortgage, and the lease. 

会社・法人の登記手続きについて代理すること

The shiho-shoshi lawyer’s is proxy for register of corporation.

会社や各種法人を設立したり合併するなどの登記手続や、増資・役員変更などの登記手続を代わって行います。

The shiho-shoshi lawyer’s is proxy for register that is following, registration of a company, merger, capital increase, and change of director.  

また、会社法に基づき、個々の会社の実情に沿えるように企業法務の役割をにないます。

Also, the shiho-shoshi lawyer’s take the role of business legal that is based on the companies act to meet real state of each corporation.

参考I reference.

司法書士アクセスブック

よくわかる相続

日本司法書士会連合会

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ムーチーありがとうございました。

アパート建築おめでとうございます。

2016年加工税制調査会(第25回総会)議事録

 

日 時:平成27年10月27日(火)午後14時00分~

場 所:財務省第3特別会議室(本庁舎4階)

○中里会長

25回「税制調査会」を開会します。

タイトな日程での開催となっていまして、御迷惑をおかけしていますが、どうぞよろしくお願いします。

前回までで個人所得課税のセッションを3回行い、個人所得課税の歩みや構造的特徴の把握といったところを皮切りに、税率構造や控除のあり方等についての議論を行い、また、働き方の多様化や老後に備えるための自助努力への支援に関連する問題などに関連して、非常に実りの多い議論をいただいてきました。

この四半世紀の間に経済社会の構造が大きく変化してきた中にあって、個人所得課税について果たしてどのような見直しが必要かといった方向性に関する論点も様々な形で出していただけたのではないかと思っています。

今回は、前回申し上げましたとおり、資産課税について、これまでの歩みやその構造を把握しつつ、今後の検討課題の洗い出しなどを進めていきたいと思っています。

それでは、申し訳ありませんが、カメラはここで御退室いただきたいと思います。

(報道関係者退室)

○中里会長

それでは、早速、資産課税の議論に入っていきたいと思いますが、前半は資産課税の国税部分について事務局から説明いただき、委員の皆様から意見をいただくとともに、後半は地方税部分について同様に事務局から説明いただき、改めて委員の皆様から御意見をいただくという二部構成で進めていきたいと思います。

それでは、最初の方ですが、まず、財務省の新発田税制第一課企画官から説明をお願いします。

○新発田主税局主税企画官

どうぞよろしくお願いします。

それでは、お手元の資料の総25-1「説明資料〔相続税・贈与税〕」の目次を御覧ください。

本日は、相続税及び贈与税につきまして、今後の検討課題を洗い出していただくに当たり、関連する経済社会の構造変化のファクトファインディングなどを示すとともに、相続税、贈与税の意義やこれまでの沿革、現行制度の概要を確認いただくという構成で説明していきたいと思います。

早速ですが、2ページ目をお開きください。

骨太の方針では、資産課税関連では、下の方にありますように、世代間・世代内の公平を確保、資産格差が機会格差につながることを避ける必要があること。

また、老後扶養の社会化が進展する中で、遺産の社会還元といった観点が重要となっていること等を踏まえた見直しを行うとの基本方針が示されています。

続きまして、3ページです。

左側には資産課税を巡る構造変化ということで、人口や家計・再分配といったこれまでの実像セッションで議論いただいたものに加え、それらと比べるとサブカテゴリー的な位置付けになりますし、若干重なり合う部分もありますが、資産形成、相続と掲げています。本日は、まず、これらの切り口からファクトファインディングを試みたいと思います。

また、右側には、これまでの議論や先ほどの骨太の方針を踏まえ、資産課税に関する検討に当たり、主な視点としてキーワード的に七つほど並べています。もちろん、これらに限りませんし、あくまで議論の手がかりとして示した次第です。

5ページをおめくりください。

左側は家計資産の推移です。80年代にかけて急激に増加した家計資産残高は、90年代以降、おおむね横ばいとなっています。内訳を見ますと、不動産等の非金融資産が減少する一方で、金融資産が増大しています。

また、右側でフローの所得に対する各資産の割合を見ますと、正味資産ベースではストック化が引き続き進展しており、金融資産のウエートが高まっています。

6ページです。

こちらは相続税の対象となる相続財産の構成の推移を示しています。えんじと黄色の有価証券と現・預金の割合ですが、昭和63年の20%弱から平成25年には42.5%と倍以上、実額ベースでも約2.5倍増加しています。家計資産と同様に、相続財産においても金融資産のウエートが高まっている傾向が確認いただけるかと思います。

7ページです。

金融資産の年代別分布を見ています。左のグラフで1989年と2009年を比較すると、青とオレンジの60歳代以上の保有割合はほぼ倍増しています。この割合を資金循環統計のデータに当てはめますと右側ですが、40歳代以下の若い世代の保有額は減少している一方、60歳代以上の高齢者では増加しています。足元の2014年では60歳代以上の方々が約1,700兆円の家計金融資産の6割に当たる1,000兆円近くを保有していると考えられます。

次の8ページは、以前の事務局説明資料です。若い世代と比べると、相対的に貯蓄の多い高齢者世帯においても貯蓄額が多い世帯と少ない世帯に分かれ、ばらつきが見られるということでした。

9ページでは、左側で資産形成の原資となる所得の推移を見ています。生産年齢人口の減少や経済成長の鈍化により、マクロの賃金・俸給額は90年代後半から減少傾向にあります。右のグラフでは、資金循環統計を用いて家計金融資産の残高の変動を要因分解しています。

90年代後半から資金の純流入、青い棒グラフですが、減少しています。近年の残高の変動は、むしろ株式等の評価損益の変動による影響が大きくなっていることが伺われます。貯蓄の低下と併せ考えますと、このような傾向が今後も続くとするならば、家計金融資産が安定的に増加していくということはなかなか見込みにくいのではないかと考えられます。

次の10ページは現役世代の収入別世帯分布の経年変化です。90年代半ばと比較しますと、若年世代を中心に現役世代の世帯収入は低下しています。11ページは、世代別の純貯蓄額の経年変化です。こちらも若年世代を中心に現役世代の純貯蓄額は低下しています。これらを踏まえますと、現役世代にとりましては、高齢世代とは異なり、所得の一部を貯蓄し、資産を形成していくという道筋が細くなってきていると考えられるのではないかということです。

続きまして、12ページです。

まず、左側で貯蓄現在高の五分位階級別に純資産の割合を経年変化で見ています。1985年と比べますと、上位20%の世代の保有割合が増加しており、全体の60%を占めています。右側では、貯蓄階級別に世帯割合の推移を見ています。200万円未満と4,000万円以上のところに太線を引いていますが、それぞれの割合が増加しています。

以上をまとめますと、家計の資産形成の変容として、一つには金融資産のウエートが増加していること。二つ目は、高齢世代の金融資産保有割合が大きく増加していますが、世代ごとのばらつきが多いこと。三つ目として、その一方で、現役世代にとっては資産形成の道筋が細くなってきていることが言えようかと思います。

続きまして、相続の変容についてファクトファインディングを試みたいと思います。

15ページをおめくりください。

こちらは申告データから調べたものですが、被相続人の高齢化が一層進んでいます。足元の平成25年では全体の約7割が80歳以上、90歳以上が4分の1近くを占めています。

すみれ

「長生きになったってことだね。」

したがいまして、多くのケースでは相続人となるお子さんの年齢は50代、さらには60代以上となり、相続人自身も高齢者となる、いわゆる老老相続が増えています。

16ページは、以前の事務局説明資料です。世帯主の年齢が上がるにつれて、保有資産額が増加しているということでした。相続人の高齢化により、相続人の資産形成も相当に進んでいると考えられます。

次の17ページは、特に宅地の保有状況について見たものです。

赤い囲いの部分を御覧いただきますと、60歳代以上の高齢者が金額ベースですと現住居の宅地の約6割、現住居以外の宅地の約7割を保有しています。右側のグラフは現住居以外の宅地を相続により取得した年齢の推移です。こちらも年々上昇していまして、老老相続によって既に自宅をお持ちの方が二つ目の宅地資産を取得している状況が見てとれるかと思います。

続きまして、18ページです。

こちらは高齢者の貯蓄動機の経年変化です。貯蓄目的として、病気や介護に対する備えを挙げる方が近年では6割超を占めており、生活の維持と合わせて8割強の方が、長寿化が進む中で老後資金が不足するリスクへの備えを挙げている点には留意する必要があるかと思います。

続きまして、老後扶養の社会化です。

20ページは以前の事務局説明資料ですが、高齢者がいる世帯の姿が変容しており、三世代世帯の割合が大幅に減少する一方で、単独世帯や夫婦のみの世帯が増えているということでした。

次の21ページは以前厚生労働省から説明いただいた資料です。ライフサイクルで見た場合に、高齢者になりますと直接税、保険料の負担が減る一方で、医療、介護、年金という形で大きな給付を受けるという姿が見てとれたということであったかと思います。

22ページも以前の事務局説明資料ですが、年齢階層別の受益と負担の関係を見ますと、高齢者はネットでの受益となっているということでした。このように公的な社会保障制度の充実はこれまでの家族による私的な扶養に代わって、老後扶養を社会的に支えているわけですが、このことが高齢者の資産の維持形成に寄与していることを踏まえますと、相続によって次世代の一部に引き継がれることとなる資産には、老後扶養の社会化を通じて蓄積されたものという側面もあるのではないかと考えられます。

続きまして、相続に関する意識の変容を見ていきます。

24ページは遺産相続に関する意識について見たものです。

左の平成16年の調査では、オレンジの「残す財産がないので、遺産を残すことは考えていない」という回答が最も多く、次いで、残すかどうかは考えていないという回答があります。

遺産を残すことに肯定的な回答は合計で3分の1程度です。子供になるべく多く残したいとされる方が多いものの、子供のためだけではなくて、面倒を見てくれたボランティアにも残したい、あるいは社会公共の役に立たせたいという考え方をお持ちの方もいらっしゃいます。

最近のものでは、右側、こちらは国境なき医師団による意識調査です。これによりますと、社会の役に立てるために自分の遺産を寄附したい、あるいは寄附しても良いという方は四人に一人の割合でいらっしゃるようです。

25ページは日米英の遺贈の状況です。そもそものデータの制約がありますから単純な比較は困難ですが、NPOの調査によりますと、米英の生前寄附及び遺贈の状況は左のグラフのようになっています。我が国の遺贈に関する網羅的なデータはありませんが、相続税の申告から把握できる範囲では、被相続人による遺贈や相続人が申告期限までに寄附した財産の額というものは約300億円程度ということです。

続きまして、26ページ、若干アネクドータルなデータになりますが、最近相続を家族が争うという意味で争族化しているという話を耳にします。この20年の推移を見ますと、相続に関する相談や遺産分割事件数は死亡者数を大きく上回って増加しています。また、右のグラフを見ますと、遺産分割事件の約4分の3は5,000万円以下、すなわち平成24年当時ですと相続税が全くかからない遺産額での争いとなっています。遺産を巡る争いは必ずしも富裕層に限った話ではないということです。

すみれ

「相続に関する相談や遺産分割事件数は、死亡者数の「増加率」を上回っているんだよね。」

次に、ファクトファインディングの最後として、今後の人口動態上の変化を展望します。

28ページをおめくりください。

人口動態上、今後、死亡者数が増加します2040年のピーク時には、年間約167万人と、現在より25%程度多くの方がお亡くなりになると推定されています。

また、さらに高齢化が進む結果、75歳以上の方が死亡者全体に占める割合も10パーセント近く増え、約84%となることが見込まれています。この結果からは、今後、現在よりもさらに多くの相続件数が発生するとともに、そのタイミングもさらに後ずれする結果、老老相続が本格化することが見込まれるのではないかということです。

29ページは出生率と法定相続人の数の推移を並べたものです。

出生率の低下に伴い、被相続人一人当たりの法定相続人の数も減少しています。足元では2.97人と3を割り込んでいます。過去の出生率の低下を踏まえれば、相続人の数は今後さらに減少していくことが見込まれます。資産課税のあり方を考える際には、以上で御覧いただきましたように、経済社会の構造変化の中で資産形成や相続の実態が変容していることや、今後の人口動態上の変化にも御留意いただければと思います。

続きまして、相続税の現状について説明します。

31ページを御覧ください。

相続税、贈与税の国税収入におけるウエートは、円グラフの時計で言うと6時半辺りを御覧いただきますと、足元の平成27年度予算ベースで全体の3%、金額で1.8兆円弱ということです。

32ページでは、相続税の課税根拠や役割について確認させていただきたいと思います。

ここでは平成12年の中期答申を参照していますが、基本的に遺産の取得という無償の財産取得に担税力を見出して課税するものであるということですし、個人所得課税の補完、そして、累進税率の適用により、富の再分配を図るという役割を果たしていると整理しています。

また、このほかにも、被相続人の生前所得の清算、さらには老後扶養の社会化に伴う資産の引き継ぎの社会化といった役割を提示いただいています。

33ページを御覧ください。

こちらは相続税の課税対象です。相続税の課税対象は、相続または遺贈により相続人が取得した財産ですが、実際の計算に当たっては、右の吹き出しにありますように非課税財産を除外し、また、後ほど説明しますような課税価格を減額する調整を加え、さらに基礎控除の金額を控除したものがベースとなります。

この意味で、一般的なイメージでの遺産とは必ずしも一致しない点に御留意いただければと思います。

34ページでは、相続税の課税の仕組みをフローチャート的に図示しています。左から順に御覧いただきますと、まず、今、説明したように、算出しました課税遺産額を法定相続分で按分した上で、相続人ごとに超過累進税率を適用して税額を算出します。これらを合計したものが中央にある相続税の総額というものです。したがいまして、この総額は遺産分割のいかんに関わらず一定ということになります。

次に、その総額を実際の相続割合に応じて按分し、配偶者といった個々の相続人の事情を考慮した税額控除を適用した上で、実際の納付税額が一番右にある緑の箱のように算出されます。

35ページですが、相続税の課税の仕組みには大きく分けて左下にありますアメリカやイギリスのような遺産に課税する遺産課税方式というものと、右にありますフランスやドイツといった各相続人が取得した財産に課税する遺産取得課税方式という二つがあります。我が国は後者の遺産取得課税を基本としつつ、税額計算においては遺産課税的な要素をミックスしたハイブリッド型を採用しており、法定相続分課税方式とも呼ばれています。

すみれ

「法定相続分課税方式、か。」

36ページの主要国の国際比較は、時間の関係上、説明を割愛させていただきます。

37ページ以降です。こちらでは、我が国の相続税、贈与税の創設以来の沿革について、ポイントを絞って紹介させていただきます。

現行の課税方式が導入されたのが昭和33年ですから、便宜、その前後に分けて説明をさせていただきます。

相続税が創設されましたのは明治38年、直接の目的は日露戦争の戦費調達ですが、恒久財源として創設されています。導入時には遺産課税方式を採用していました。また、民法上、存在した家督相続を優遇するといった仕組みをとっていました。戦後、昭和22年には民法改正により、家督相続制度が廃止されたことを受けた見直しが行われました。

昭和25年にはシャウプ勧告を受けて、富の集中排除の観点から遺産取得課税方式に転換しています。その後、昭和33年には現行の法定相続分課税方式が導入されています。この背景には、当時、遺産取得課税方式の下で遺産分割調査が困難であったこと、あるいは税負担回避目的での仮装分割が横行していたという問題があったことが指摘されています。

以上をまとめますと、課税方式については両方の課税方式を実施した経験を踏まえ、現行方式に至っている。二つ目として、民法の相続法制との関連が強いということが言えようかと思われます。

38ページでは、参考までに課税方式に関するこれまでの議論を一部紹介しています。昭和32年の答申では、現行の遺産所得課税体系をとりつつ、遺産額と相続人の数という客観的事実により税額が定まる点や、実際に遺産分割の程度により負担が異なってしまうという遺産取得課税の弊害を除去できるという点で最も合理的であると整理されています。

続いて、このような評価には昭和61年の答申をこちらでは参照していますが、大きな変化はありませんでしたというところです。その後、平成21年度改正に向けた議論の中で、税額計算も含めた遺産取得課税方式への移行が検討されましたが、現行方式に対する肯定的な評価もありました。したがいまして、最後のところですが、結論部分だけ紹介しますと、課税の公平性や相続のあり方に関する国民の考え方とも関連する重要な問題であることから、課税方式の見直しについては幅広い国民の合意を得ながら議論を進める必要があるという形で整理されたというところです。

続きまして、39ページをおめくりください。

所得税のセッションでも言及がありましたが、この間、昭和25年に富裕税が導入され、3年後の昭和28年に廃止されています。

すみれ

「富裕税、3年間、と」

制度の説明と、次のページの国際比較は省略しますが、廃止された理由として、一番下にありますが、財産の把握が困難であり課税の公平確保が困難であったという点、あるいは無収益財産への課税であり、納税者に無理が生じたという点、あるいは徴税コストが高かったという問題が指摘されているというところです。

41ページ、42ページは現行の課税方式を採用した後の主な改正を年表の形でまとめています。

ポイントとしましては、経済の高度成長やストック化、あるいはバブルによる急激な地価の高騰等を背景に、負担軽減の観点から累次、全体としては基礎控除を引き上げ、税率構造を緩和すると同時に、右から二つ目の列にありますような配偶者や家族の居住や事業の継続、あるいは農地や中小企業といった個別の事情に配慮した特例措置の拡充を行ってきたということがここ数年前までの大きな流れであったと言えようかと思います。

43ページです。

こちらは今の年表のうち、バブル期以降の基礎控除や税率構造にかかわる改正の動きを地価の動向と合わせてビジュアル的に示したものです。地価高騰に伴い、負担を軽減してきた一方で、地価下落以降も基礎控除の水準は据え置かれています。税率構造は平成15年度改正でもさらに緩和されてきたということでした。

44ページです。

この結果としまして、相続税の課税件数はこちらの赤い折れ線ですが、足元でお亡くなりになる方100人に対して約4人、負担割合、緑の折れ線ですが、約12%前後に低下するなど、資産再分配機能が大きく低下してきたということです。

45ページ以降では、この間の相続税のあり方を巡る議論を振り返っています。平成12年の中期答申では、相続課税にどの程度の累進性を持たせるかという点につきまして、格差が拡大し、資産集中が進めば機会の平等の確保が困難になるといった見方と、資産家層に過重な負担を求めれば、自らの資産を大きくして子供に引き継がせたいという意欲をそいで経済の活性化にマイナスの影響を及ぼすといった二つの考え方を提示した上で、どの程度の累進性を持って税制全体を通じた再分配を行っていくかは、その時々の経済社会状況やあるべき社会像によって異なってくるとしています。

また、相続税の課税対象者の範囲につきましては、租税が公的サービスの費用を国民皆で広く分かち合うものであることも考えると「相続課税の対象者の範囲」については相続課税がある程度の資産家層を対象とする税であると位置付けるとしても、そのあり方を見直していく余地があるのではないでしょうかといった考え方が示されていました。

46ページを御覧ください。

しかしながら、実際には平成15年度改正で最高税率の引き下げを含む税率構造のさらなる緩和が行われました。このため、平成19年の答申では、経済のストック化や高齢化の進展、老後扶養の社会化といった相続税を巡る環境変化からすれば大幅に緩和されてきた負担水準を放置することは適当でなく、資産再分配機能の回復が重要という考え方が示されたところです。

47ページを御覧ください。

その後、平成23年度の税制改正大綱では、地価動向を踏まえた基礎控除の水準調整をはじめとする課税ベースの拡大を図るとともに、税率構造について見直しを図ることにより、相続税の再分配機能を回復し、格差の固定化を防止する必要がありますとされたところですが、下にありますように、法案の修正が行われまして、平成25年度改正まで見送られたというところです。

48ページ以降は、このような経緯を経た平成25年度改正の概要の説明です。

第一に、基礎控除につきましては、物価、地価が現在と同等であった昭和50年代後半の水準まで引き下げるという考え方の下、具体的には当時の水準を現在価値に修正し、3,000万円プラス法定相続人一人当たり600万円に引き下げています。

次に、税率構造については、所得課税の最高税率が住民税と合わせて55%に引き上げられたことを踏まえ、最高税率を55%に引き上げるとともに、45%のブラケットを新設し、より高額の遺産額を中心に再分配機能の回復を図るという考え方で税率構造を見直しています。

49ページは税率構造を過去と比較したものです。

赤い線が現行制度のものとなります。黒い線の平成15年度改正と比べると、高額の遺産額のところがやや上に上がっていますが、それ以前のものと比べますと税率構造は緩やかであることが見てとれると思います。

50ページ、51ページは実効税率の推移になります。ここでは、配偶者プラス子二人が相続する、いわゆる一次相続の場合と、子二人が相続する二次相続の場合に分けて示しています。いずれも赤い線が現行制度における負担カーブになります。一次相続の場合には、配偶者控除により法定相続分または1億

6,000万円のいずれか大きい金額に対応する税額が控除されますから、二次相続と比べますと負担は半分程度に減少します。なお、子二人が二次相続する場合、実効税率が50%を超えてくるのは、このグラフからはみ出した33億円程度ということです。

いずれの場合におきましても、基礎控除の引き上げにより、カーブの立ち上がりが低いところから始まっていますが、傾き自体は平成15年度改正とほぼ平行になっていることが見てとれるかと思います。

52ページは改正前の統計ですが、課税価格階級別の分布割合とそれぞれの納付税額の構成をグラフ化したものです。件数ベースでは課税価格2億円以下の方が全体の約7割を占める一方で、納付税額ベースでは大体14%程度となっています。

53ページは平成25年度改正における、いわゆる小規模宅地の特例の見直しです。同居する親族が居住用の宅地を取得した場合に、その宅地の課税価格を80%減額する特例が設けられています。平成25年度改正では相続税の見直しに伴い、相続人の居住や事業の継続に配慮する観点から、適用対象となる面積の上限を宅地については330平米に拡大する等の措置を講じています。

この特例がどのように効いてくるか示したものが次の54ページです。

ここにある例をとりますと、これまでお子さんが同居していなかった場合、土地の課税価格はそのまま7,500万円になりますが、同居していた場合には8割減額の1,500万となりますから、1億500万円の遺産に対するお子さん二人の相続税負担は860万円から30万円、一人15万円に軽減されます。

すみれ

「同居って大きいんだね。」

先ほどの51ページの実効負担カーブでは、課税価格は1億500万円ではなく4,500万円の場合の実効税率を見ていただくということになります。

55ページを御覧ください。

平成25年度改正では、このほか事業承継税制についても見直しが行われましたが、説明については省略させていただきます。

なお、これらの平成25年度改正につきましては、本年1月1日から施行されたところです。相続税の申告期限は死亡したことを知った日から10カ月ですから、実際に改正後の申告書が提出されるのは来月以降ということになります。

したがいまして、本改正による影響等々について分析できる状況にはまだ至っていないという点を付言させていただきます。

56ページ以降では、世代をまたいだ相続税負担というところで御覧いただきたいと思います。

前提条件ですが、まずは遺産額2億円のケース。これは右に参考で示していますように、相続税の平均課税価格とほぼイコールであり、課税件数の約7割が含まれます。また、小規模宅地の特例等は考慮しておらず、基礎控除と配偶者控除のみを適用し、各人は法定相続分で遺産を取得し、取得した遺産には手をつけないということにしています。

子や孫一人一人の取得財産額に占める相続税の割合は右下の囲いにありますように、お子さんで1億円に対し1,060万円、お孫さんで4,470万円に対し132万円となります。

これを全て総計したものが右上の円グラフとなります。三代にわたって相続が行われた結果、三世代全体での相続税負担の合計は13.2%になります。お孫さんaという方から見ますと、自身の財産は赤線で囲まれた部分の4,338万円と、全体の約2割ですが、これは均分相続を通じて兄弟やいとこが同額の財産を取得していることによります。これらを合わせた家族内での私的移転を合計すると86.8%になるということです。

以下、似たようなケースを若干前提を変えて行っています。

次の57ページは、同じ2億円で一人っ子が続くケースです。一人当たりの相続財産が増えるため累進がかかってくることから、トータルで見た税負担は増えますが、孫の取得する財産は全体の4分の3に増加します。

58ページは遺産額を20億円に変えたケースです。課税価格が20億円を超えるケースは参考にもありますように、死亡者1万人に対して1.5人になります。それぞれの負担割合は先ほど御覧いただいたように子供で41.5%、孫で約25%ということです。また、孫Aの取り分は右の円グラフで申し上げますと、金額にして2億1,769万円ということになります。

59ページは同じ20億円で一人っ子のケースです。この場合のトータルした相続税額は約13億5,000万円となる一方で、お孫さんの取得する財産は約6億5,000万円となります。

規模感をつかんでいただくために参考までに申し上げますと、大学卒業の男性が大企業に就職し、定年後67歳まで働いた場合の退職金込みの生涯賃金が3億7,000万円、中小企業の場合ですと3億円ということです。

なお、このシミュレーションでは、先ほど説明した小規模宅地の特例や事業承継税制あるいは農地の納税猶予といった特例措置は勘案していませんから、これらが適用されるようなケースにおける実際の税負担割合がまた異なるものになるという点には御留意いただければと思います。

続きまして、贈与税について説明させていただきます。

61ページは贈与税の課税根拠及び役割です。

ここでも平成12年の中期答申を参照していますが、贈与という無償の財産取得に担税力を見出して課税するというものであり、相続税の存在を前提に、生前贈与による相続課税回避を防止するという意味で、相続税の補完という役割を果たしているということです。

62ページは贈与税の基本的な仕組みを示しています。贈与税は基本的に暦年課税という方式をとっており、1年間に贈与により取得した財産を合計し、110万円の基礎控除を差し引いた上で残りの課税財産額に超過累進税率を適用し、税額を導き出すということです。贈与税の税率構造は相続税の課税回避を防止する観点から、相続税と比べ相対的に高い負担となるように設定されています。

結果として、生前贈与に対し抑制的に働いてきたきらいがあります。このため、高齢化の進展により次世代への資産移転が後ろ倒しになる中で、資産移転の時期の選択に中立的な税率の構築が求められてきたところです。このような背景の下で、平成15年度改正で導入されましたものが63ページの相続時精算課税制度です。

63ページを御覧いただきますと、相続時精算課税は暦年課税との選択制になっていますが、ポイントだけ申し上げますと、累積で2,500万円の非課税枠を設定し、2,500万円を超えた部分については一旦一律20%で課税した上で、相続時にこれまでの贈与分も含め加算して相続税を計算し、先に払った分は相続税額から控除するというものです。ここにある事例では、最終的な相続税額はゼロですから、先に払った100万円は還付されることになります。

参考として、暦年課税を選択した場合の納税額との比較を右側に示しています。

64ページは、相続時精算課税制度導入時、平成14年の税制調査会の答申を引いています。

高齢化に伴い、相続による資産移転時期が後半にシフトしていることから、資産移転の時期の選択に対する中立的確保が重要であり、このような観点から相続税・贈与税の調整のあり方を検討すべきとの御指摘をいただいたところです。

65ページは贈与税の課税状況です。このグラフですと、オレンジの折れ線ですが、相続時精算課税制度を利用いただいている方の推移と相続時精算課税に基づく贈与の実額については棒グラフの茶色の部分をそれぞれ御覧いただければと思います。

導入当初と比べますと、件数、金額ともに若干減少傾向にあるということが言えようかと思います。

66ページは、先ほど御覧いただきました税制抜本改革法の附則における贈与税関係の指摘に下線を引いたものです。高齢者が保有する資産の若年世代の早期移転を促し、消費拡大を通じた経済活性化を図る観点からの贈与税の見直しということで措置を講じたというところです。

67ページをおめくりください。

平成25年改正では贈与税について、お子さんやお孫さんが贈与を受けた財産に係る税率を緩和するといった措置が講じられましたほか、相続時精算課税制度の対象者にお孫さんを追加するといった見直しを行ったところです。

68ページには、贈与税の税率の税率構造のこれまでの推移を並べていますから、御覧いただければと思います。

さらに、続きまして、69ページ以下ですが、近年ではリーマンショックへの対応やデフレ脱却、経済活性化の観点から、高齢者の保有資産の早期移転を促進するため、住宅や教育といった用途に限定した上で、一括贈与に係る非課税措置を設けたところです。

69ページから72ページにかけて資料を添付していますが、詳細については説明を割愛させていただきます。

住宅については平成21年、教育については平成25年、結婚・子育ては平成27年にそれぞれ創設されたということですし、その後、住宅と教育については拡充、延長が図られてきたというところです。

平成27年度改正では、いずれについても平成31年までの時限措置とされています。時限措置とした趣旨につきましては、一つにはデフレ脱却、経済再生といった政策目的に照らし、早期の資産移転促進による効果の発現を促すものであるということ。

もう一つには、このような非課税措置が格差の固定化につながりかねないという恐れを踏まえ、再分配機能が損なわれることのないよう、その効果や影響をよく見ながら、適用期限を迎える際に必要な見直しを行うこととしていることによるものということでした。

73ページに飛ばせていただきますと、こちらは、これらの措置の延長を盛り込んだ法案の国会審議における衆議院・財務金融委員会における附帯決議です。立法府からは、税制のあり方についてデフレ脱却・経済再生に向けた対応とともに、今後も格差の固定化につながらないよう機会の平等や世代間・世代内の公平の実現といった考え方の下で不断の見直しを行うことといった決議をいただいているところです。

最後のページの贈与税の国際比較については、説明は割愛させていただきます。

ありがとうございます。

○中里会長

ありがとうございました。

それでは、今の新発田企画官の説明につきまして、委員の皆様から質問、御意見がありましたら、お願いします。

井伊委員、どうぞ。

○井伊(重)委員

質問ですが、先ほど相続税法の改正に伴っての具体的な事例はまだ出ていないというところの説明はあったのですが、見込みとして、今回の税法改正でどれぐらいの人が相続税の適用対象に拡大されるのか。4%が何%に拡大したのかというところと、その比率です。13%がどれぐらいに拡大する見込みなのかという、そこのところを教えていただきたいです。

○中里会長

よろしいですか。お願いします。

○新発田主税局主税企画官

ただいまの質問にお答えいたします。43ページを御覧いただけますでしょうか。説明を省略してしまって恐縮ですが、43ページで先ほど御覧いただきました地価の公示と相続税の改正の推移を並べた表の一番下のところに、これまでの課税件数の推移を並べています。

一番右のところですが、今回の平成25年度改正に伴いまして、どの程度課税件数が増えるかということでは、当時の見込みでは今の4.3人というところが6人台程度になるのではないかというように見込んでいるところです。

もう一つの課税割合のところについては、手元にデータがありませんから、お答えできない状況です。

○中里会長

たしか年明けぐらいにならないと統計も出てこないという感じでしたか。

○新発田主税局主税企画官

そうです。毎月毎月の税収は大体その辺りから出てくると思いますが、傾向としてということになると、年明け以降、もう少し様子を見た上でということになろうかと思います。

○中里会長

そのようなわけで、これは仕方がないことですから、よろしいですか。

ほかにいかがでしょうか。

梅澤特別委員、どうぞ。

○梅澤特別委員

ありがとうございます。

二点質問です。一点目は、相続税に関して、相続の総額に対する実効税率の国際比較というものはどこにありますでしょうか。最高税率を見ると日本は諸外国より高く見えるのですが、これは見かけ上の話かもしれないため、実効税率でどのようであるのかということを教えてください。

二点目は、相続税と贈与税で、贈与税の方で資産移転の時期の選択に対しての中立性を確保することが重要という立法趣旨で改正が行われたという話ですが、実際に税率の階段を見るとまだまだ明らかに贈与税の方が税率は高く見えます。

ここのところをもう思い切って相続税と贈与税の税率構造を一致させる、あるいは大分相続税の方に寄せていくというような議論はあるのでしょうか。あるいは現実的なのでしょうか。

以上、二点、お願いします。

すみれ

「補完だったら同じ税率でも良いような気もする。どっち側に寄せるかは分からないけど。」

○中里会長

お願いします。

○新発田主税局主税企画官

まず、一点目のお尋ねですが、実際の実効負担の割合については、今、手元に資料がありませんから、次の機会なりで改めて可能な限り調べさせていただければと思います。

二つ目の相続税と贈与税の関係ということですが、最後の贈与税と相続税の関係のうち、贈与税の主要国の国際比較を付けています。各国との関係で申し上げますと、過去の生前贈与につきまして累積をする、全て足し合わせるといったような考え方をとっている国では、贈与税と相続税については税率が一致しているケースが多くあります。

逆に、日本の場合には、暦年課税ということで相続税と贈与税が別建ての関係になっているため、そのような関係もありまして、やや税率が相続税の課税回避防止といった観点でよりきつい負担になっているということですから、様々議論はいただけると思いますが、生前贈与による相続税負担の回避、防止という観点からは、相続税と贈与税の関係というものは、税率もさることながら、税率だけではなくてまとめて精算するといったような仕組みというものも諸外国では取り入れられているところです。

先ほど申し上げました相続時精算課税ですと、こちらの場合には20%で仮払いということですが、20%で仮払いをする代わりに贈与してから以降の全ての贈与を精算するということですから、そのような仕組みになりますと別建ての場合に想定しているような懸念が解消されると考えています。

○梅澤特別委員

ありがとうございます。

○中里会長

田近委員、どうぞ。

○田近委員

御説明、ありがとうございました。

相続税の全体の流れをどのように理解して良いのかということで、確認も込めて質問ですが、42ページに相続税、贈与税の主な改正ということが書いてあって、要するに平成4年を見ると相続税の基礎控除というものが引き上げられる。

相続税の税率構造というものも最高税率となる境目を5億円から10億に引き上げる。特例も引き上げるということで、基礎控除、税率構造、特例もある意味で課税を緩和するという動きです。

平成6年も同じく全て緩和するという動きで、平成11年は特例のところを緩和する。平成13年も特例のところを緩和して、贈与税の基礎控除も60万円から110万円に引き上げた。これは大きいです。そのようにすると、平成15年も同じような流れで、ただし、相続時精算課税ということで、途中で贈与しても死んだときに精算するという制度ができた。平成21年が今度は事業承継税制、これは後で質問させていただきます。平成21年に住宅資金の非課税枠、平成25年に教育資金の例の祖父、祖母が孫に1,500万円までということですと。

実は平成27年が新しい動きで、基礎控除を5,000万円から3,000万円にした、そして税率構造も増やして最高税率も増やした。ただし、小規模宅地はある意味で緩和したということです。

そうすると、これから税制調査会で何を議論していくのか。相続税の再分配機能を重視するような考え方なのか、年金、医療、介護等で社会保障の給付を受けている老後扶養の社会化なのか。

もう一つ、実は、私は大きな議論があったと思うことは、平成21年度のときに遺産取得課税を前提にしながら、要するに相続人の実額課税を議論したわけです。

民法の取得分の計算ではなくて、実額で行うと。その動きもあったのですが、それが途絶えていると言いますか、その後消えているということで、質問と同時に意見でもあるのですが、このような流れで、実態も踏まえて、我々の税制調査会での相続税のイシューは一体何なのであろうかということが大きな問題としてあると思います。

あと一点、事実確認等、今日でなくても結構ですが、先ほどの42ページですが、平成21年に事業承継税制というものが作られました。これは非常に重要な、特に中小企業のオーナーの方には大きな税制であると思うのですが、55ページに事業承継税制の概要があります。要するに事業承継、中小企業のオーナーが、仮に父親が社長でお亡くなりになった。それを相続する人たちの税が余りにも重いため、それを軽減してあげましょう。

ただし、それは簡単に認めるわけではなくて、相続人が、代表者であること。しっかりと雇用を確保して、5年間続けてください。そうすれば軽減するという制度ですが、質問は、この制度がそれ以降改正されたかどうかということと、この制度をどのように利用されているかという実態について、これは今日でなくても結構ですが、ぜひ事業承継税制のその後を制度面と実態面で伺いたいということです。

指摘したかったことは、この相続税の流れを踏まえて、前段の説明いただいた実態を踏まえて、税制調査会のアジェンダは一体何になっていくのであろうかということは指摘とともに感想を述べました。

○中里会長

よろしくお願いします。

○新発田主税局主税企画官

ファクトの面について、先ほど田近委員から事業承継税制のところで質問がありましたから、件数についてはまた改めて報告させていただきたいと思いますが、事業承継税制が入りましたのが平成21年度ですが、足元の改正でも、先ほど言及していただいた代表者であることというものが親族でなければいけなかったものが従業員等でも良くなった、あるいは雇用の8割というものは今、平均というようにこちらに書いてありますが、以前は平均ではなかったため、そのような意味で使い勝手を良くしたいという形での見直しはしていますが、具体的な適用件数につきましては、また改めて報告させていただきます。

○中里会長

田近委員、それでよろしいですか。

○田近委員

その後の制度改正での利用の実態については、次回以降で十分です。

○中里会長

調べていただくということですね。では、田中特別委員、どうぞ。

○田中特別委員

田近委員から事業承継税制の話が出ました。中小企業からすれば、事業承継税制で猶予をしていただくということは唯一の手がかりなのですが、なかなか利用が難しいということが実態であると思います。

猶予できるものが80%であり、実際に株の過半数を持っていなければいけないわけです。実際には父親が会社を作ったときには株主が何人かいなければいけないため子供たちの名前で株主を分けて、その後、後継者が一生懸命会社を大きくしたが、結果的には株が分散していて、なおかつ株価が非常に高くなってしまっていて相続がしにくくなっている。一生懸命行っているのに相続しにくいというような現象が一番大きな問題であろうと思います。

そのときに、取引のない株をどのように評価するかということが問題であるため、実際には評価は全部資産として売ったときの値で出していくと捉えていますから、会社の継続が難しくなっているということと思います。

そのために猶予制度を取り入れていただいているということだと思いますが、なかなか難しい。

株の評価については、類似業種を参照にしても、今、例えば何も中小企業の環境が変わっていないのに上場株が上がってしまうと、そのまま上がってしまうということもあって、それもどのように評価したら良いのかということはぜひ相談をしたいというところであると思います。

今の事業の承継についてもそうですし、その前にある小規模宅地等の特例といったような、要するに居住に関することや、商売に関することについてフローとストックがどのような影響を与えるかというようなことは重要な問題であると思います。

我々としても環境が急に変わってしまう、継続できないということについては困るということを感じています。

○中里会長

御意見ということですね。

○田中特別委員

はい。

○中里会長

では、野坂委員、お願いします。

○野坂委員

説明ありがとうございました。質問がまず一つあります。

31ページに国税の中で各税目の占める割合が出ています。相続税は先ほど3.0%で1.8兆円弱であるという説明がありました。全体の国税の中では相続税の割合はかなり低いという印象を持ったのですが、これまで様々な改正を行ってきた中で、国税の中で相続税の占める割合の推移、これについて基礎的なデータを見せていただければと思います。

丁寧に様々な説明、大変参考になったのですが、この中で何点か質問があります。

意識調査に絡めてアメリカなどとの比較、遺贈の割合の比較が出て日本は非常に少ないということでしたが、これを示した意味と言いますか、狙いと言いますか、日本がもっと遺贈しやすい社会にした方が良いという意味で出してこられたのか、日本が遺贈しにくい社会と言うべきなのか、資料がつけられた背景、意図が何かあるのであれば教えていただきたいです。

要するに日本でも資産を持っていらっしゃる高齢者の方がいずれ社会に還元しようというような流れ、日本でもいずれ大きくなるかもしれないが、そのようなことを考えていらっしゃるのか、教えていただければと思います。

○中里会長

この点をお願いします。

○新発田主税局主税企画官

まず、最初の質問ですが、相続税の税収ということで、税収額そのものについては44ページに棒グラフがついています。こちらを見ますと、若干納付税額と実際の税収、見方が違うのですが、ほぼ同じような動きをしていると理解いただければと思いますが、やはりバブルのピーク時に4兆円ほどあった税収が今はこのような段階になっているというところです。

国税収入との比較で申し上げますと、平成5年に税収の5.1%というものがピークですが、大体足元ではほぼこの10年近く、3%前後ということです。具体的なデータについては、改めて示させていただきたいと思います。

続きまして、遺贈のところですが、どのような意図かということですが、骨太の方針の中に遺産の社会還元というキーワードが一つ入っていました。様々な意味で社会還元というものはあると思いますが、その一つに遺贈というものがあるのではないか。

その場合に、意識調査だけであると少しデータとして御覧いただく議論の素材として不十分と思いましたから、国際的な比較をつけました。もちろん、様々な寄附文化という意味でよく言われていますように、様々な意味で海外と日本で違うところがありますから、税の場でという話で全ておさまるものではないと思いますが、一応ファクトと言いますか、素材としてあくまで示させていただいているところです。

○中里会長

それでは、宮崎委員、お願いします。

○宮崎委員

ありがとうございます。

意見というよりは希望かもしれないのですが、今、改めてデータを示していただいて、内容が不動産、家、土地のようなものよりも金融資産がかなり増えている、あるいは老老相続が増えているというようなことで改めて認識をしたところです。

つまり、古典的な議論の延長線上では論じられないであろうということは想像しているのです。

さはさりながら、先ほども現金収入がない段階で不動産を相続する場合に、納めるお金がないわけですから、それを要するに切り売りしたり、分割していくというような、出ていくという話が今でもあると思います。

そうすると、例えばまちづくりというものを考えたときに、ある一定の町並みや住まい方、暮らし方を維持しようということが非常に困難になってくるわけです。

祖父母の代で持っていた不動産が四分割、六分割、場合によっては八分割され分譲住宅で売り出されるというようなことになっていきますと、子の代、孫の代、そこにいられなくなる。そうすると、孫の代になると、もうアイデンティティの形成というのでしょうか、自分のよって立つ地域、ふるさと、特性というようなものをどのように継いでいくのか。

相続というときに何を相続し、何を守るのかということを、そこも併せて考えていただければと思います。

町がどんどん型崩れして細分化されたり、流動化したりということになりますと、不動産の流動化も、セキュリタイゼーションもありますが、結局文化そのものが守られていかないのではないかと危惧するものですから、その辺りのところに配慮ができると良いと思っています。

老老介護ですと、この税制調査会でも盛んに勉強しているように、資産を持っている高齢者から苦しい若年層に対して平等的に再配分できるようにというような趣旨が随分語られてきたと思うのですが、今のデータを見る限りでは、そこまで行かないです。

中途のところでとまってしまって、孫の代に行ったときには今、申し上げたようなことになってしまうということになると、もう少し形を考えた方が良いのかもしれないということを思っています。

いずれにしても、税と社会保障も課されても良いのですが、制度の中での改革だけではなくて、ほかの日本全体の文化、社会、歴史、暮らし方や価値観など、そのようなものに波及する部分もぜひ考慮しながら議論していただけたらと思っています。

○中里会長

宮永特別委員、お願いします。

○宮永特別委員

今回の資産課税という観点と、より強い所得税など、そのようなことにも影響するのでしょうが、例えば我々の感覚というよりも一般的に考えて、これからますますグローバル化していったり、優秀な人と言いますか、様々な意味で経済を活性化させる、産業構造を変えていったりするときに素晴らしく優秀な人たちが必要な場合もあるわけです。

ある程度長く考えたときに、そのような方たちが海外に出ていってしまって、今までは日本人で日本で教育を受けて、日本の教育制度もしっかりしていて、国際的にも日本の教育制度、社会全体がまだ高いレベルで相対的にいたのですが、これからはそうでもない時代が来るときに海外に出ていってしまって、優秀な人たちが帰ってこない。

徐々に長い年月の間に日本の力が弱っていくというようなときに、グローバルに見て、大体海外は先進国であるなど、特にターゲットを決めれば良いと思うのです。

教育レベルの非常に高い国や、産業レベル、経済力が非常に強い国で、ある程度一定以上、例えば基本的に住むのに大変難しい国であれば別ですが、先進国や、ある程度これならば日本とコンピートしている、もしくは日本よりも良いと言われているような国よりも、ある程度平均的に税制面において、極端に勝っている必要はないと思うのです。

中央より少し良いところにある、もう一つは、少し日本人は心に訴えるところがあるとすれば、政府や様々なところで、ライフサイクルを通じて平均的に見ると日本は税負担が公平で、極端に重税感はないしバランスは良いというところが説明できるような全体的な説明です。

特にその瞬間瞬間は相続の時や得ている時ではなくて、平均的なライフサイクル、極端に良い場合、中央の場合、すごくうまくいった場合、うまくいかなかった場合など、そのようなところで大体これぐらいの負担で全員あまり極端なことはないが、ある程度頑張ればきっちりとなっていきますというところがあれば良いのではないかと思います。

それと、少し日本的にアピールするのであったら、社会的な再配分と言いますか、社会還元というものについて日本の税制度はこのように海外にない特徴があって、このような優しさなど、良いものを持っていますということをアピールできるような、そのようなものを考えつくことがあれば良いのではないかという感じがして、質問でも意見でもないのですが、そのような感じがしましたから、そのような観点での資料その他、これからお考えがあればまた説明のときにでもいただければありがたいと思っています。

○中里会長

税制による国の営業努力のようなことですね。

○宮永特別委員

やはりそのようなものも要るのではないかという感じがします。

すみれ

「国の営業努力、か。国も大変だね。」

○中里会長

ありがとうございます。

それでは、上西特別委員、お願いします。

○上西特別委員

野坂委員がおっしゃいました遺贈をもっと行いやすくする社会という点は私も賛成です。そのために遺言が必要となるわけですが、法務省の民法(相続関係)部会で今、遺言の見直しをしているところです。遺贈しやすくなるような方向に移るのかなという気がしています。

それと59ページです。現在国税庁で平成25年までの数字が発表されていますが、20億円超のところで見ますと192件です。そして三代続いて大半が税金になるかどうかですが、先ほど説明がありましたように軽減措置を使わないでもこの図でいくと6億5,000万円は残るということですから、大抵の方については十分に残るわけです。

もちろん、キャッシュに近いものと遠いものとの差については一定の配慮が必要であると思いますが、これで実態が非常によく分かりました。

それと、相続税の役割についてです。全体に占める税収の比率を見ると、ピーク時で5%台であることから、税収の確保は当然必要ですが、役割としては再分配機能や格差の固定化などを防止する機能というものがより重要と思います。

その中で考えることが、相続税制の中での課税の公平というものも考える必要があります。その公平性というものは、社会全体と言いますか、多くの人から見た公平感というように言いかえても良いのかなと思います。公平感の裏返しというものは不公平感ですが、不公平感が高まると税に対する信頼性が失われて、ひいては勤労意欲の減退にもつながります。

とりわけ資産税、相続税の分野においての不公平感というものは重要です。多額の資産を持っている資産家のみが利用できるような手法が多く存置と言いますか放置されていると、この点において不公平感がより出てくることになります。

税制調査会は制度の基本的な枠組みやあり方を議論するところであることは承知しているのですが、実務家から見て疑義のある点について紹介をしたいと思います。

一般の週刊誌やビジネス雑誌などを見ても、最近、顕著に見られるものは高層マンション、タワーマンションを使った節税策です。都心のマンションを買って評価額を圧縮しましょうというようなフレーズが載っているぐらいですから、いかがなものかなと。

実態として、例えば3億円で取得したものが財産評価基本通達のとおり行えば、3分の1の1億円になった場合に、これが妥当かどうかということなのです。このような資産家しか使えないような制度があると、制度設計だけではなくて執行面において通達を改めるのか、または現在、著しく問題がある場合については別途措置することができるという規定があるわけなので、そのようなものも使って、時価と評価額との乖離が大き過ぎるものについては見直しを是非していただきたいと思います。

それともう一点、事業承継税制についてです。中小法人の事業の承継に伴う様々な問題解決や、雇用、技術の伝承などという点で非常に良い制度であると思うのですが、要件が厳しかったことから、利用件数が伸びなかったわけです。

平成25年度改正において相当に適用要件が緩和されたわけですが、やはり実務面から見るともう一段の見直しも検討いただきたい。例えば雇用の8割について5年間の平均となったわけですが、7人のところでしたら、その8割は5.6人ですから、6人を維持しなければいけないことになります。

また、納税猶予の継続届出書や判定の期日など算定割合の見直し等々、細かいことは申し上げませんが、現場を見ながらさらなる見直しをお願いしたいということも併せて申し述べておきたいと思います。

○中里会長

今の点について、事務局の方で何かありますか。

○新発田主税局主税企画官

前段の執行の話につきましては、国税庁の方で執行を持っていますから、そちらとも今の上西特別委員の意見の趣旨につきまして、きちんと共有させていただきたいと考えています。

○中里会長

この点はほかによろしいですか。

○田近委員

一つだけ。事業承継税制について。

○中里会長

どうぞ。

○田近委員

上西特別委員の指摘もそうですが、55ページについて、これは作るときに中小企業のオーナーに制度が濫用されるようなものであってはいけないということで、では、どこでそれを縛るのかという大変な議論がありました。

本来の事業を続けようにも、父親からもらった会社の株を資産評価してみて株数で割って、相続税が高くて仕事が続けられなくなってしまうというのは良くない。

その代わりに、仕事を続けるという要件で負担を緩和しましょうというのが雇用8割5年という縛りであったと私は思います。

非常に難しい問題で、我々と言いますか日本全体で中小企業の事業の継続をどのように考えるか。この8割5年というものがある意味でそれは守ってくださいと、その上で軽減しましょうという考えに立つのか、これが使い勝手が悪くて困るとするのか。

私自身は、この問題にはある意味でニュートラルですが、本当に大きな問題であると思います。したがって、実態を踏まえて税制調査会で議論を深めて、その中で私自身も考え方を整理できれば良いと思います。ただし、問題の所在とされる内容は、制度を作ったときはまさに8割5年の縛りが重要で、だからこの制度を作っても良いということがあったため、指摘させていただきます。

○中里会長

佐藤委員、どうぞ。

○佐藤委員

三点ほどです。

まず、相続税の位置付けですが、恐らく三つあって、一つは再分配という観点で、富の流動化と言いますか、固定化を回避する。ただし、再分配であれば、これは所得税の話も前回あったと思いますが、相続税は税金を取るというところですから、それをどのような形で移転と言いますか再分配に充てるのかということが本当は問われるため、これは特に相続税を今後再分配目的で強化するということであれば、税金をどのような形で再分配に充てているかという、その道筋は何か見せた方が良いと思います。

社会保障に限らないと思うのですが、何らかの形で富の流動化と言いますか、所得階層の流動化につながるような使途を考えて、念頭に置かないと良くないと思います。

二つ目の性格は、先ほど田近委員からありましたが、死亡時精算課税、つまり、本来自分が払うべきであった、例えば社会保険料や対価など、本当はこの後、議論が出てくるでしょうが、固定資産税なども本当は生きているうちはなかなか所得が低いため払えないが、亡くなったときに合わせて払うという、ある種、これまで払ってこなかった税金あるいは払うべき社会保険料、一般的に言えば受益に対する対価です。

社会保障であれ、行政サービスであれ、そのようなものに対する対価をまとめて払うという役割もあり得る。死亡時精算的課税。その場合であれば、当然本来払うべき社会保険料で幾らである、本来払うべき固定資産税で幾らなのかという、そこはしっかりと算定根拠をしていないといけないと思います。

三つ目は、意外と忘れられがちですが、一時期死亡消費税というものがはやったと思うのですが、相続税は消費税とむしろリンクするわけで、特に土地は非課税ですから関係ないですが、金融資産というような、さもなければ多分消費に充てられていたものであると考えるのであれば、消費税との見合いで金融資産に対する課税をどのように理解するかというアプローチもあり得るのかなと思います。それがまず言いたかったことの一つ目です。

すみれ

「死亡消費税ってはやったのか。」

二つ目ですが、私もこれをどのように整理したいのかよく分からないのですが、相続税と贈与税が向いているベクトルが全く逆で、相続税の方はどちらかというとこれから富の再分配という観点から見て強化しましょうということがある一方で、贈与税はむしろ早い段階で、寄附であれ、あるいは子供に対する移転であれ、そのような形で相続税の先取りなど、相続税の一体化ということが以前は図られていたと思うのですが、今の流れで見ると相続税はどちらかというとやめてと言いますか、軽減して、むしろ早い段階での贈与あるいは寄附を促しましょうという流れであるとすれば、実は相続税と贈与税は何らかの役割分担があるのか、あるいはそうではなくて本来の目的に即して贈与税と相続税の役割を一にするべきなのか、ここも整理が要るのかなと思いました。

あと気になることは、この後出てくる固定資産税もそうなのですが、小規模住宅に対する優遇措置というものは、先ほどのタワーマンションも近いと思うのですが、面積になぜあれほど注目するのかよく分からないのですが、小規模住宅を優遇するという形で面積に着目するからまさに小さい住宅もできてしまうわけで、ある種、確かに住み続ける人もいるわけで、すぐに売って相続税の税額を捻出しろということはむげであるということであれば、適正に評価して、別に面積は関係なく、一定額を控除するなど、基礎控除はあるわけですから、そのような住宅向けの控除を作るなど、もう少し別の工夫はあると思います。

固定資産税の方がむしろ大変なのですが、面積に注目することによって妙なゆがみを、相続税であれ、固定資産税であれ、何か与えているような気がするため、ここはむしろ課税標準は適正化する、ただし、何らかの控除という形での軽減政策を図るという、その辺りの政策の転換が必要なのではないかと思いました。

○中里会長

ありがとうございます。

それでは、林特別委員、どうぞ。

○林特別委員

どうもありがとうございます。

先ほどの佐藤委員の死亡精算というものは非常に同意できるところですから、私からもその点は重要だと強調したいと思います。それが一点です。

もう一つは、ここで余り指摘されていなかったため強調したいのですが、基本的に相続税というものは自分の努力に全くよらない一時的な所得ですから、そのような所得に課税する場合、どのように考えるべきかという根本に立ち戻って考えた方が良いかなと思います。

そのように相続を一時的な所得として考えられるのなら、これは事務局への質問になるのですが、相続した財産を相続税ではなく所得税として処理している国があるのかどうなのかということも気になるところです。所得税で処理している国があるとすれば、統計が出てこないような相続の処理の仕方もあるということになります。

最後に事業継承の件ですが、事業継承については、手段としては必ずしも相続税だけで対処する必要もないのかなという気がします。ほかに産業政策的な様々な優遇措置があれば良いわけですし、また、事業継承する場合も、必ずしも御子息が継承する必要はなくて、より良い経営者がいらっしゃればその方に任せれば良いわけです。

また、企業が企業として価値があれば当然買い手も出るわけですから、そのような意味で生産性の高い企業が残るという議論も可能かなと思います。それだけではないとは思いますが、そのような視点も必要ではないかと思います。

○中里会長

それでは、高田委員、お願いします。

○高田委員

説明どうもありがとうございました。私の場合は感想めいた話になってしまうのですが、先ほど、今の相続税のところの税収、全体において3%ほどということでありますから、そんなに大きな税目ではないと思うのですが、私自身感じますことは、資産課税というものはマクロ経済的に考えると実態以上にかなり大きな影響を与えてきたのではないかという点でして、例えばバブル期の中における不動産に対する課税や、このようなものは大したものではなかったわけですが、非常に大きな期待形成というものを金融資産、場合によっては不動産という資産価格にかなり影響を与えたということもありまして、そのような意味では、この議論というところに関しては、かなり資産形成もしくは資産価格に関するマクロ経済的な相当なインパクトを持ち得るという視点を我々持っておく必要があります。

従って、実態以上にかなりの影響があるという点は重要な論点ではないかなというように考えています。

そのような観点から考えました場合に、先ほどからこちらの中でも議論があったわけですが、相続の高齢化が進む中で、当然のことながら、従来であれば普通の相続の中で資産の移転というものが、若年層に行われてきました。

しかし今日、従来のような形での移転が行われにくくなってくる。この状況が今後ますます強まってきやすくなってくる。当然、先ほどのマクロ経済的な関係で言えば、例えば限界的な消費性向や、投資性向のようなものもかなり違ってきますから、当然、これは経済活性化の観点から考えますと、若年層への贈与の促進、何らかの形での促進が有効なわけです。

そのような意味で、従来から議論している格差という関係からすれば、例えば今回もありましたような贈与制度や、また、資産形成等について言えば、ジュニアNISAのようなものも出てきているわけです。このような制度の創設というものもこのような考え方にあるわけです。その考え方はこちらのペーパーの中でも66ページのところにそのような視点も出てきているわけですが、当然また同様に73ページの附帯決議のところにありますように、格差の固定化というところとの天秤をどのように図っていくのかというところは当然あるわけです。

しかしながら、このようなマクロ経済的な観点からすれば、一括贈与についても、ジュニアNISAなどにしても、デフレの脱却ということからすると、時限措置があるわけですが、一方で、政策的な期待の形成という観点から言えば、ある程度恒久的な対応にしていかないとどうしても期待形成には影響を及ぼしにくくなるという部分もあります。

その辺りの議論というものも同様にしていく必要があるのではないかと思います。したがって、当然のことながら、格差と言いますか、同世代の中においての格差はありながらも、若年層と高齢層という格差の観点から見ると、様々な資産の若年層への移転というようなものは重要な状況になってくると思いますから、そのようなマクロ的な政策意図というものもかなり今後は重点的に議論しておく必要があるのではないかと感じた次第です。

○中里会長

ありがとうございます。

事務局からお願いします。

○新発田主税局主税企画官

先ほど林特別委員から、相続税がない場合で所得として捉えるケースがあるのかということでした。詳細につきまして、また改めて示させていただければと思いますが、G7の国で申し上げますとカナダは相続税がない国ですが、カナダについては、みなし譲渡課税ということですから、それはどのような法形式と言いますか、どのような税目で税金を取るかということはまた別の話かと思いますが、いわゆる移転する所得という形では、何らかの形では捉えられているということかと思います。

○中里会長

含み益を相続時に所得税で課税してしまうということですね。スウェーデンは何か資産税か何かで別途補っているような記憶がありますが、結構どこも努力しているのかもしれません。

岡村委員、お願いします。

○岡村委員

今、高田委員からも指摘がありましたが、本日のファクトの中では、やはり老老相続が増えているということが非常に大きいことではないかと思います。やはり古い世代から次の世代への富の移転、特に社会の生産に役立つようなものをいつまでも年寄りが握り続けるということは余り良くないのかもしれないと思います。

この2015年の基本方針でも、持続的成長を支えるということですから、相続税といったものがこの持続を妨げるような形で入ってくることは好ましくない。しかし、他方では、もちろん機会格差を増やすようなことは、これも避けなければならないということになるのではないかと思います。

アメリカの例になるかもしれませんが、アメリカは1976年にユニフィケーションと言いますが、遺産税と贈与税の一体化の改革をしました。これは日本で言うと相続時精算課税制度の拡大バージョンになるかもしれません。背景には、アメリカは、遺産税は遺産を残した人、贈与税も贈与を受けた人ではなくて贈与した人に課税をされる制度になっていて、この中で比較的ユニフィケーションが行いやすかったということがあるかもしれません。しかし、日本もこれだけ老老相続が増えてくるということですと、死亡時まで資産を保有し続けるということではなくて、もう少し早い段階で次の世代に回す、そのようなことに役立つような税制ということも考えても良いのかもしれません。

アメリカでは、エステート・フリーズという、これは節税なのか、租税回避なのか分かりませんが、税負担軽減のテクニックがあります。決して悪い意味ではなくて、少し日本でもこの考え方、つまり、親の世代が、まだその事業が十分に成長していない段階で法人を作って、その株式を早期に次の世代に贈与してしまう。

そして、贈与された株式を持ちながら、次の世代の手の中で当該企業が成長していって、親が亡くなったときにはかなり立派な企業になっている。うまくいけばですが。それで遺産税を減少させるというのがエステート・フリーズです。もちろん、その事業実態が実は親が行っているということであると租税回避になるわけですが、次の世代が行っているのであれば、むしろ実態に合っているかもしれません。そのようなテクニックがずっと使われてきたわけです。

この事業承継税制の議論が先ほどから出ていますが、相続があったから、というよりは、その前の段階を考えていくような基本的な発想の転換のようなことを行えば、もう少しうまくいくのかなと思いました。

○中里会長

それでは、山田特別委員、お願いします。

○山田特別委員

ありがとうございます。

所得税中心でずっと議論が進んできていまして、相続税について議論する機会が多分今日しかないのではないかと思うものですから、今日の説明とは直接関係ないこともあるかもしれませんが、お聞きいただければと思います。

相続税ももっと薄く広く負担していただく税制にするという点を考えて良いのではないかと思う点です。何故かと言いますと、所得税などの税収のことを考えると、高額所得者に多く負担していただこうとしても税収に与える影響というものはそれほど大きくない。薄く広く多くの人から、たとえ5%でも10%でも負担していただく税制にすると、大きな額の税収になるという点を考えると、相続税の基礎控除を高くし過ぎてしまうと良くないのではないか。

今年から下げているから良いではないかという考え方もあるのでしょうが、もっと下げても良いのではないかということです。但し、徴税のことも考えての検討も必要です。

それと関連するのですが、所得税の検討の際に老夫婦の金融資産が2,000万円ほどになっているとのことでした。したがって、その辺りからも負担していただくということはどうかという検討もあったわけですが、あのとき違和感がありまして、老夫婦はそれから先の人生を非常に心配しているわけですから、その財産に着目した財産税のような取り方ということは酷なのではないかと私は感じ、それが生み出す所得に負担していただくという考え方であったら良いと思うというように申し上げたわけです。

その延長線で、そのような方々が結果として使い残して遺産になったという場合には、少し国庫に納めていただいて良いのではないかと思うものですから、その点で課税最低限の引き下げというものはもう一段考えても良いのではないかということです。

もう一つは、今日の話の中に全くなかったのですが、取引相場のない株式の評価につきまして、専門的な言葉になって済みませんが、類似業種比準方式というものがありまして、30年ほど前には比準要素として配当と所得と純資産と3分の1ずつ、同じ割合であったのですが、時を経るごとに所得のウエートが高くなっているわけです。

これはどのような影響が出るかというと、例えばベンチャーなどで頑張って、純資産はまだたまっていないが、すごく利益を出す会社がありますと、この会社の株式の評価は非常に高くなるという状態です。それとは逆に、含み資産たる土地のような資産は多くあるが、利益が低いというケースは評価額は低く算出されます。

そうすると、資産の有効活用度が低い会社の相続税上の評価は低くて有利ということになってしまう訳で、国民経済的には果たしていかがなものかという評価制度がなっているわけです。

私は実務家として、このように変化してきた評価は間違っているのではないかと思っていまして、この点から、もう一回純粋に取引相場のない株式の相続税、贈与税の評価はどのようにあるべきかの議論を行っていただくとありがたいと思います。

○中里会長

ありがとうございます。それでは、国税はここまででよろしいですか。

梅澤特別委員、何かありますか。どうぞ。

○梅澤特別委員

先ほど宮永特別委員が言われたグローバル化の視点でしっかりと考えましょうということは私も大賛成です。林特別委員がおっしゃられた所得税と相続税は違うから所得税は本人の努力の部分も勘案する必要があるが、相続税はそうではない。したがって、違う考え方で臨んで良いのではないかということも賛成です。

その上で、事務局に一点追加で質問と言いますかお願いですが、議論になってきました事業承継のしやすさということに関しても、主要諸外国との比較する参考情報を少しいただけませんでしょうか。岡村委員が言われたようなアメリカの話というものも大変参考になりましたし、なぜこれを申し上げているかというと、相続税はかなり厚く取れば良いとは、私も思うのですが、一方で、自分の周りで成功したアントレプレナーでまだ未上場という人たちが相当海外に出ている動きも見えます。

上場している企業もそうですが、未上場でもそのようなものが見えます。これは日本であると特に株式の評価額が高くなってしまったような未上場企業に関しては事業承継が様々難しい部分があるのかなと見てとれるのです。その辺り、実態がどのようであるのかということを確認したいという趣旨です。

○中里会長

これはお調べいただくということになりますか。

○新発田主税局主税企画官

済みません、今、手元にありませんから、こちらにつきましても調べさせていただきたいと思います。

○中里会長

よろしくお願いします。

宮崎委員、どうぞ。

○宮崎委員

先ほど上西特別委員がおっしゃった不公平感と言いますか、制度がしっかりと働いているかどうかということと、林特別委員がおっしゃった全く努力をしないで相続が来るということです。

そのときに、老老相続と老老介護が裏側にあって、自分の命を削って必死に介護をしている人と、ぽんと施設に預けて面会にも行かなくて、相続が来たら奪い合うというような、そのような人が同じ制度の中で考えられることは不公平なような気がするのです。

その辺りのところをしっかりと区別して労に報いるような、あるいは親子の愛情やきずななど、そのようなものも勘案できるような制度ができるのかどうかということを伺いたいと思います。

○中里会長

基本的には民法の問題であると思いますが、もし何かありましたら、どうぞ。

すみれ

「少し信託法の問題でもあるかな。」

○林特別委員

相続税の控除額を見れば、苦労されているような家庭にはそもそも相続税は課されないでしょうし、相続税が問題になるような家庭では、資産が十分にあるでしょうから、多分そのような苦労はされていないと思います。資産を使えば良いだけだと思います。

○中里会長

よろしいですか。どうぞ田中特別委員、お願いします。

○田中特別委員

事業承継についても先ほど市場によって売買ができればそれが正解であるというようなお話をされていますが、先ほど来言っていることは、資産価値と運用価値が違うということの問題であって、それについては林特別委員が言うような簡単な解決策ではないということを言いたいです。生活についても同じであると思います。

○中里会長

実態を知るとそう簡単に行かない場合も確かにあるかもしれません。国税の部分はこれでよろしいですか。様々なお考えが当然出てくると思いますから、どうぞ御遠慮なくおっしゃってください。

それでは、お待たせしました。自治税務局の佐藤固定資産税課長から説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

○佐藤自治税務局固定資産税課長

それでは、資産課税の地方税パート、固定資産税についてです。

総25-2の資料です。

目次です。固定資産税の概要と沿革、基本的なところを整理しまして、土地に係る固定資産税の負担水準の状況です。それから、ページ数は多くありませんが、固定資産税をめぐる経済社会構造の変化について材料を提示させていただきまして、議論いただければと思っています。

2ページです。固定資産税の概要です。

課税客体は土地、家屋、償却資産の三資産。課税主体は市町村です。

納税義務者は土地、家屋、償却資産の所有者ですが、昨年度の実績で土地、家屋ともに4,000万人強、償却資産が419万人です。課税標準は価格で適正な時価、土地、家屋は3年ごとに評価替えを行っていまして、ちょうど今年度、平成27年度が3年に一回の評価替えの年です。次回は平成30年度です。

税率は標準税率を採用していまして1.4%、免税点を設けています。土地が30万円、家屋が20万円、償却資産が150万円。

賦課課税でして、賦課期日が当該年度の初日の属する年の1月1日です。

税収は8兆5,000億円余りということでして、土地、家屋がそれぞれ3兆3,000億円、3兆6,000億円。償却資産が1兆5,400億円、合わせて8兆円という大変大きな税収規模を誇る基幹税です。

3ページに地方税収に占めるウエート、市町村税収に占めるウエートを円グラフで整理しています。

地方税収35兆円に占めるウエートは約4分の1の24.2%、市町村税収20兆円余りに占めるウエートは約4割の41.6%ということで、個人住民税とともに基幹的な役割を市町村の行政サービスの実施に当たって担っているものです。

4ページに市町村の歳出と固定資産税収の推移をグラフで整理しています。昭和60年代以降は市町村歳出、固定資産税収ともに増加をしてきました。市町村歳出は平成11年度以降減少してきましたが、平成19年度以降、特に民生費、衛生費等の増により増加傾向にあり、平成25年度は54.9兆円。それに対しまして、固定資産税収は昭和60年度から徐々に上昇してきましたが、平成11年度の9.2兆円をピークとして、なだらかではありますが減少傾向です。平成25年度8兆7,000億円ということで、ちょうど平成20年度辺りから歳出と固定資産税収がVの形になってきているということです。

5ページが市町村歳出で社会保障に充てられます民生費・衛生費です。これは一番上に折れ線がありますように、平成20年代に入りまして大幅に上昇してきています。その中で先ほどと重複しますが、固定資産税については若干の減少というような状況です。

6ページは時間の関係で詳細な説明は省略しますが、地方財政全体の中で一般行政経費、この中に社会保障関係費が当然含まれているわけですが、その影響で増加している一方で、行政改革等で給与関係経費、投資的経費は減少しています。

全体として抑制基調にある中で一般行政経費の財源を確保することが課題になっているということです。

7ページに市町村税収全体に占める固定資産税収の割合を整理しています。ここで申し上げたいことは、先ほど市町村税収の約4割が固定資産税ということを挙げました。

市町村の規模別でいきますと、大都市は法人関係税もありますから固定資産税のウエートは4割を若干切り、これは政令市と東京都23区分でありますが、その一方で、町村については固定資産税収が税収の半分を占めているということで、特に小規模な自治体で非常に重要なものとなっていると言えようかと思います。

8ページに政令市における税収の構成比較ということで、このグラフは上から財政力指数の高い市、川崎市以下並べていますが、傾向はほぼ一致していまして、左が個人市民税、中央が固定資産税でありますが、両方合わせて6割以上から8割程度を占めており、固定資産税については、この政令市におきましても大体4割前後を占めているということです。

9ページは固定資産税収の動向を時系列で整理してみました。全体の数字は先ほど申し上げたとおりですが、土地については、平成11年度の3.8兆円をピークとしまして、なだらかではありますが減少して、平成27年度は3兆3,000億円余り、4,000億円強の減少です。

その一方で、家屋については、これは土地も共通ですが、3年おきに評価替えを行い、その年に一旦落ちては少し復元、落ちては復元ということを繰り返しています。平成10年度以降は、3.5兆円、3.6兆円、3.7兆円辺りで均衡しているという状況です。

償却資産は若干景気の動向にも左右されますが、平成10年と比べますと1,500億円ほど落ちていますが、平成27年度は1.6兆円というような状況、になっています。

10ページに主要税目の税収の時系列での推移を固定資産税中心に整理したものです。やはり御覧いただきますと、固定資産税収は平成元年度から徐々に上昇しまして、平成11年度をピークとして若干減少していますが安定的に推移しています。

個人住民税も比較的安定している税目ですが、固定資産税と比べると若干上下にぶれています。平成18年以降、上に上がっていますものは、税源移譲の関係です。

その一方、地方法人二税につきましては御覧のような状況で、平成元年度の10兆円から平成14年度には5.7兆円に落ちていますし、また、リーマンショック時には大きく下振れしました。地方消費税については、これが一番安定的と言えようかと思いますが、税率の引き上げによって平成26年度、平成27年度と上昇してきています。

11ページは地域別の偏在度です。これはいつも様々な税目で示しているものです。固定資産税は一番右にありますが、人口一人当たりの税収額は、最大の東京都が最少の長崎県の2.3倍ということで、清算後の地方消費税に次いで比較的偏在の少ない税であると理解いただければと思います。

12ページに固定資産税の性格として、平成12年の中期答申で整理いただいたものを付けています。確認のため申し上げると、固定資産税は安定的で税収の変動が少なく、どの地方団体にも税源が広く存在し、その偏在が少ないという性格を持っている。引き続き安定的な確保に努める必要があるとされています。

また、個別税目の整理の中では、固定資産の価値に応じて毎年経常的に課税する財産税であるということ。それから、資産の保有と市町村の行政サービスとの間に一般的な受益関係が存在していること。また、固定資産税は資産価値に応じて課税される物税であり、資産の所有者の所得などの人的要素は考慮されない、と整理いただいています。

13ページには、参考までに付けていますが、金子教授の租税法の中から。また、平成15年の最高裁判決では、固定資産税は土地の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であるとされています。

14ページでは固定資産税の仕組みを簡単に整理しています。

まず、固定資産評価基準により評価額を算定します。土地、建物は三年ごとに算定し、それ以外の年度は原則据え置きです。なお、宅地については、平成6年度の評価替えの際に地価公示価格等の7割を目途として評価することとされました。償却資産は毎年評価替えをしています。

その上で、課税標準について政策的な特例措置があります。ここに記載しているものは住宅用地の特例です。また、負担調整ということで、税負担を緩やかに上昇させるための課税標準額の調整措置というものを講じています。これに税率を掛けて税額を出します。税額の特例については、また後ほど資料もありますが、新築住宅の税額の特例で一般住宅について3年間2分の1にするといったものがあります。

15ページが評価の仕組みでして、固定資産評価基準に基づいて市町村長が評価を行います。これは地方税法に定めのある固定資産評価基準というものを総務大臣が告示しているもので、これに従った評価が行われています。

土地については、地目別に売買実例価格を基礎として評価額を算定します。家屋については、いわゆる再建築価格ということで評価対象家屋と同一の家屋を評価の時点でその場所に作った、新築したという場合に必要とされる建築費に経年減点補正という年数の経過に応じて定める減価を行って評価しています。

償却資産については取得価格方式でして、その後の経過年数で減価をしまして評価額を算定しているということです。

16ページは土地の評価のイメージですが、省略させていただきます。

17ページは宅地等に対する固定資産税の課税の仕組みでして、これは平成27年度、今年度の評価替えから3年間の現行制度を図で整理したものですが、固定資産評価額を先ほどの方式により算定しまして、小規模住宅用地には、先ほど佐藤委員からも指摘がありましたが、200平米以下の部分については課税標準の特例の6分の1というものがかかってきます。

これにより算出した額と、前年度の課税標準額に当該年度の評価額に6分の1の特例率を掛けた後の5%分を足し合わせた額とを比較し、いずれか低い方の額を課税標準として課税します。なお、一般住宅用地は特例率が3分の1でして、これは小規模住宅の200平米を超える部分に関しては特例率が3分の1というものです。以下同じです。

商業地等の宅地については、課税標準額の上限を評価額の7割としています。また、前年度の課税標準の現年度の評価額に対する割合というものを負担水準というように呼んでいますが、これが60%から70%の中にある場合には、前年度の課税標準に据え置くという特例を残置しています。60%以下の場合ですと、前年度の課税標準額に現年度の評価額の5%分を足し合わせたものに引き上げていくということです。

下に(B)というものがありますが、これは評価額と比較して下回っているという場合には20%まで引き上げるという最低水準を定めているということです。

18ページは、上に住宅用地、小規模住宅用地並びに一般住宅用地の特例を再度整理しているものでして、経緯としては昭和48年度、昭和49年度にそれぞれ住宅用地の特例と小規模住宅用地の特例が2分の1の特例率、4分の1の特例率で創設をされました。これはいわゆる列島改造ブームの後の地価上昇の際です。

平成6年度に、7割評価を入れたバブルの後ですが、住宅用地特例の拡充ということで小規模住宅用地の特例率を6分の1まで、一般住宅用地の特例率を3分の1まで深掘りしています。

新築住宅にかかわる固定資産税額の減額の特例ですが、先ほど少し申し上げましたが、一般の住宅については3年度分を2分の1としいます。ただし、対象床面積は120平米を限度としています。なお、優良な住宅については、5年度分となっています。

19ページですが、固定資産税は標準税率と申し上げましたが、平成16年度にそれまで設けていました制限税率2.1%を撤廃しています。超過税率を実施している地方団体は意外に多くありまして、下の表にありますように特別区は一つの自治体としてカウントして、全国1,719の地方団体のうち、超課税率を採用している団体が全体の8.9%、153あります。特に人口5万人未満の市につきましては、264ある中で50団体が超過税率を採用しています。比率として18.9%です。

財政状況が悪化した自治体で税収の確保を図る、あるいは地価の下落が著しいようなところで税収の確保を図るというような観点で導入されている例が多いと聞き及んでいます。

20ページは固定資産税の賦課徴収の流れですが、省略させていただきます。

22ページからが沿革です。昭和25年度に市町村税として創設されました。それまであった地租、家屋税、電柱、船舶、軌道等の償却資産に係る諸税はこのときに廃止されています。

当初の標準税率は1.6%、制限税率は3%でしたが、その後、標準税率は昭和29年度に1.4%に下げられています。

昭和30年度から3年ごとの評価替えの仕組みができまして、昭和36年3月に全国統一の評価方法を採用すべきであるということで、昭和37年度の地方税法の一部改正で固定資産評価基準というものを定めるということが規定されました。それ以後、この基準に基づいて評価しているところです。

ただし、23ページの中央にありますが、昭和39年度に、大変多くの土地投機がありまして、昭和38年度評価額に対する上昇率は土地が4.4倍ということでした。そこで昭和39年度に宅地についての暫定的な措置ということで、昭和38年度の課税標準額の1.2倍を上限として税額を算定することとしました。これが負担調整の始まりではないかと思っています。

先ほどから新築住宅に係る税額の特例の話を申し上げてきましたが、昭和39年度に法律でこの特例措置が定められたということです。

24ページですが、大変な地価の上昇があり、そのときに税率で調整してはどうかというような議論があったようですが、その際の税制調査会の答申としまして、税率の引き下げのみによって調整する方法では適当ではない。土地については課税標準の特例を設けて調整する方法について今後検討することが適当であるというような整理がされたということが残っています。

昭和41年度に入りまして、ここに記載のような負担調整率、昭和38年度の課税標準額に対しての当該年度の価格の割合、上昇率に応じて前年度の課税標準額に1.1から1.3

あるいは1.4という率を掛けるというような措置が講じられたということです。

26ページです。昭和46年の長期税制のあり方についての答申で、今、申し上げましたような前年度の課税標準に1.1あるいは1.2、1.3、1.4というものを掛けるということで、評価額をいて課税するという方向からかなりずれてきたということがあったため、このときに土地利用政策、住宅政策等の関連も相互に考慮しつつ、税負担の軽減、激変緩和について配意すべきである、評価額に基づいて課税する方向で検討すべき、という前提でこのようなことが定められました。

ところが、御案内のように昭和46年以降、3年間で地価公示価格の全国数値が二倍ほど上がるというような状況もあったため、昭和48年度に昭和46年の答申を踏まえて、負担調整措置として評価替えの翌々年度に課税標準が評価額に到達するような調整措置を導入しました一方、特例措置として先ほど説明しました住宅用地について課税標準額を価格の2分の1とする特例措置、いわゆる住宅用地特例をここで初めて創設したということです。

27ページにいきまして、昭和49年度の答申では、先ほどの佐藤委員の御意見にもありましたが、200平米以下の小規模の住宅用地について課税標準額を価格の4分の1にするという特例措置をさらに深掘りしたわけですが、その際の昭和48年12月の答申におきましては、200平米以下の土地というものを住民の日常生活に最小限必要と認められる小規模の住宅用地の税負担をさらに軽減するというような趣旨で入れられたということです。

実はこの後、地価の上昇は非常に緩やかでして、昭和50年から昭和62年の12年間で地価公示価格は、全国が1.5倍というようなことでしたから、この間は固定資産税の負担調整の仕組みを大きく変更するということはありませんでした。

28ページは土地基本法と平成3年度の税制改正に関する答申を入れています。いわゆるバブル経済がありまして、土地の評価の適正化・均衡化を図っていこう、平成6年度の評価替えにおいて地価公示価格の7割を目指した評価の均衡化、適正化を図ろうとなってきまして、28ページから29ページにかけて、そのときの答申を掲げさせていただいています。

そうした中で評価が大きく上がるため、評価は評価として、税負担については急激な変化が生じないような調整措置を講ずべきであるということも答申をいただいたところです。

平成4年に地価公示価格の7割程度を目途とする評価の水準について、そのようなことが決定されました。30ページですが、平成6年の評価替えに当たりましては、特例措置として小規模住宅用地、一般住宅用地の課税標準をそれぞれ4分の1から6分の1、2分の1から3分の1に深掘りしました。このときにはさらに暫定特例として価格の上昇率に応じて、これに連動する形で上昇率の高いところには4分の3から2分の1の率を乗じたというようなことも行っていますし、よりなだらかな負担調整措置も導入して、調整期間12年度程度で評価額に到達するような、そのために、このようなあらゆる措置を組み合わせて対応したということです。

その後、31ページですが、評価の均衡化というものは図られたわけですが、平成9年度には負担水準の均衡化を図ろうということで、そのための負担、調整措置の導入が図られました。先ほども説明申し上げましたから重複は避けますが、いわゆる負担水準という概念、ここに記載の前年度の課税標準額と当該年度の評価額の割合ですが、これに応じて課税標準額を決めていこうということで、例えば商業地等でいきますと、負担水準が80%以上の場合には80%まで引き下げる。

通常の場合、60%から80%の間にある場合には前年度の課税標準額を据え置く。60%を下回る場合にはなだらかな調整率の引き上げを図るということにしたわけです。

評価のところにありますが、据え置き年度、評価替えの翌年度、翌々年度においても、地価の下落に応じて評価額を修正できる措置を導入しました。この仕組みが基本的には続いてきているということですが、32ページにありますように、平成18年度、ここでは、負担水準が低い土地について、これまでかなり負担水準が低い場合でも先ほどのなだらかな負担調整措置をかけるということをしていましたが、負担水準が20%を下回っている場合には20%まで引き上げるということです。

33ページの下の方を御覧いただければと思います。平成24年度の左に商業地等がありまして、こちらは先ほど申し上げました現在の仕組みと同じですが、住宅用地につきましては据え置き特例を設けていたゾーンを段階的に撤廃するということで、平成24年に、平成25年に90%と100%の間に設けていました据え置きゾーンを平成26年度に撤廃しています。

それでは、次に土地に係る固定資産税の負担水準の状況について説明します。

まず、35ページ、平成21年度の答申を付けていますが、納税者の税負担にも配慮しつつ、負担の均衡化、適正化を促進する必要があるとされました。

36ページは、住宅用地についての課税標準額の据え置き特例について、時系列で整理したものです。説明は省略します。

こうした措置を講じてきました結果、37ページですが、小規模住宅用地における評価額に対する課税標準額の割合は、平成6年度、大変なばらつきがありましたが、平成26年度におきましては、100%から90%の間のゾーンに99%以上が収れんするという状況になっています。

38ページですが、小規模住宅用地について評価額の状況がどのようになっているか、課税標準額の状況がどのようになっているのかということをグラフで整理しています。一番上が地価公示価格です。その下が1平米当たり評価額ということで、平成6年度に7割評価を導入したその時点を指数100としまして、平成25年度の評価額については平成6年から6割減の43.9ということになっています。

下にいきまして、小規模住宅用地は課税標準の6分の1の特例を入れていますから、点線がその課税標準額の上限となります。したがって、平成6年度は評価額100に対しまして上限が16.7、6分の1で、一番下のひし形の折れ線が1平米当たりの課税標準額の実態の数字でして、平成11年度をピークに若干の減ということになっていますが、平成25年度を御覧いただきますと、上限にほぼ張りついてきているという状況がありますから、このまま地価の下落が続きますとストレートに税収の減になってくるということです。

39ページからが商業地等で、同じ仕組みですから重複の説明は割けますが、40ページには据え置きゾーン、負担水準の60%から70%のところに99.5%が収れんをしています。ただし、据え置き特例を商業地等の方は現在まだ残しているわけですが、その課題が発生しています。

41ページですが、評価額と課税標準額の逆転現象ということです。左の事例1、これは地価が上昇した場合、東京都のような場合ですが、評価額がn年度に9億円、課税標準額が6億円でした。これが評価額が上昇して10億円になりました。

そうしますと、負担水準が(A)評価額とn年度の課税標準額(B)6億円を比較して60%でありますから、これは据え置きゾーンに入っているため据え置きです。したがって、評価額10億円に対して課税標準額6億円になります。

ところが、右の事例2、これは地価下落のケースです。n年度に評価額が10億円で、課税標準額が7億円の場合、評価額が右の(A´)9億円に下落しました。その場合の負担水準は9億円分の(B´)7億円で、78%ですから、70%まで引き下げるということになりますと、課税標準額が6.3億円ということでして、左の方が評価額10億円で課税標準額が6億円、右は評価額9億円で課税標準額は6.3億円という、このような状況が発生しているということです。

43ページに宅地における負担水準の推移ということで、商業地等と一般住宅用地と小規模住宅用地につきまして、課税標準、上限がそれぞれ70%あるいは3分の1で33.3%、16.7%となっておりますが、ほぼ上限に張りついてきているというような状況ですが、商業地等については若干下げてきているということでして、これについては44ページに商業地等に係る負担水準の状況というものを付けています。

7割というものが上限になっているわけですが、実際に前年度の比較でありますから、負担水準が70%を超えるというところの地価が下落したところですが、人口減少が著しいような地方部では70%を超えて、頭を今、押さえているという状況ですが、東京都を御覧いただきますと、63%にとどまっています。

したがって、先ほど若干右に垂れてきていましたが、これは東京都の下がりの分が大きいのではないかと思っています。

以下、一般住宅用地等も同じですから、これは説明を省略します。

最後に、経済社会構造の変化ということで48ページに法人税の改革についての当税制調査会からいただいたものですが、住民税や固定資産税について充実を検討すべきとされています。

また、49ページには、これは過去に出しました人口の今後の推移、見通し。

50ページから都道府県別の人口変化のこれまでの経過と今後の推移の見込み。

52ページに地価公示価格の年別の指数の推移。

53ページに地価公示価格の前年度変動率で足元は三大都市圏では上昇、それ以外では下落幅が縮まってきたということです。

54ページから3枚ほど最近の固定資産税の納税額の状況を付けていまして、54ページは世帯主の年齢別に固定資産税の納税額を整理したものですが、60歳以上の年齢階級が固定資産税の納税者全体の6割強を占めています。また、60歳以上の年齢階層のうち、納税額が10万円未満の納税者が全体の4割、納税額が20万円以上、逆に高い方が1割弱ということで、若干二極化と言えようかと思いますが、60歳以上の年齢階級の固定資産税の納税のウエートが高いです。

55ページですが、これは高齢者夫婦世帯の住宅宅地の資産額階級別の年間収入と貯蓄現在高で、折れ線グラフがその世帯の分布割合でして、500万円から3,000万円の階級が全体の3分の2を占めています。500万円の階級では6.6%、1億円以上の階級は4.1%ということですが、棒グラフにあります指数で見ますと、年間収入は500万円未満の層からなだらかに上昇しています。貯蓄現在高も資産額に応じて上昇しています。その上昇率は年間収入よりは高くなっているという状況です。

最後に、56ページ、年齢階級別の一世帯当たりの租税社会保険料負担ですが、固定資産税のところを御覧いただきますと、折れ線が負担のある世帯の割合です。

29歳以下では11%しか固定資産税を負担している世帯はありませんが、それ以後、年齢を追って上昇しまして、50代以降は75%から80%、全体平均72%。負担がある世帯の平均の負担額ですが、全ての世代を通じて、29歳以下は若干低いですが均衡的です。個人住民税、所得税等は違う傾向が出ています。

○中里会長

どうもありがとうございました。

それでは、今の説明について、委員の皆様から質問や意見がありましたら頂戴したいと思います。いかがでしょうか。

山田特別委員、どうぞ。

○山田特別委員

15ページの家屋の評価に関して、意見ですが、いわゆる会計には減損という考え方があるわけですが、ここに書いてある家屋の評価に関しましては、再建築価格と経過年数に伴う減点補正率しかない。すなわち、減損という考え方がないということは、建物を一回作ってしまったが、非常に収益力は弱いといういわゆる、投資の失敗、そのようなケースにおける建物に係る固定資産税の収益に対する割合が高い、すなわち税負担が重たいという状況がありまして、事業再生が非常に難しいというケースがあります。事業再生ができた方が再活性化して、雇用も増えますしまた訪れる人なども増えて、その地域のためにもなるわけですので、建物に減損という考え方があって良いのではないか、あるべきではないかと思うため、ぜひ検討いただきたいと思います。よろしくお願いします。

○中里会長

それでは、田近委員、どうぞ。

○田近委員

御説明ありがとうございました。

固定資産税について先ほど来、小規模宅地の評価の話は出ているのですが、17ページに固定資産税の課税の仕組みということで、これもまた理解が間違っていたりしたら指摘いただくとして、小規模住宅用地、一般住宅用地、商業地等の宅地、いわゆる課税対象価格というものが固定資産評価額で地価公示額の7割。それに7割を掛けて、つまり地価公示価格の49%をもって固定資産税の評価額にしましょうというものが骨太のところです。

小規模住宅、一般用地、一般住宅については既に指摘があったため、これも見直しが必要であるということは長年言われてきているし、商業地等ですが、今日改めて話を聞いて非常に興味深いことを伺ったと思って、要するに、今、言ったように、公示価格の7割をもって固定資産評価額にし、その7割をもって課税価格にする。

ただし、評価額が低いところがあったため一気に上げることは大変であるというところで、評価額の6割から7割がグレーゾーンと言いますか、ニアストライクゾーンというものを設けていたわけです。そして、その間に公示価格が下がってきたため自然に公示価格に対する評価額というものが結果的には上がってきたというところで、今日、非常に興味深いものを見せていただき、40ページがその説明の続きで、平成26年度、まさに申し上げたように100に対して7割が本来あるべきところ。ニアストライクゾーンを60から70にしたら、ほとんどニアストライクゾーンでいる。そうすると、60から70にとってしまったがゆえに、変な逆転現象が起きるというものが今日の説明で、この話はもう何十年行っているか分からないですが、もう7割がルールならば、7割にするということは原則で、この6割、7割のニアストライクゾーンで逆転があるということは問題として深掘りする必要がどこまであるのか。

皮肉なことにと先ほどから言っていますが、地価が下がってきてしまったため、ストライクゾーンにどんどん入ってきてしまった。そのようであるならば7割でも決めるということが一つの考え方であるのかなと思いました。

あと19ページに固定資産税の税率採用ということで、標準税率が1.4%。標準税率というものは先ほど言った地価の49%に対する1.4%ということですが、説明いただきたいことは、資料が必要なら後日で良いのですが、超過税率を採用しているものが全体の8.9%の市町村があるのですが、一体どのような市町村であるのか。

それが宅地なのか、住宅共用地なのか、商業地等なのか、この表から我々が持つべき像は一体どのようなものかということを伺いたいということで、商業地等の問題は非常に興味深く伺って、もう6割から7割のニアストライクゾーンというものがどこまで必要かということが私の意見です。理解が違っていたら修正してください。

○中里会長

佐藤固定資産税課長、もしコメントがあればどうぞ。

○佐藤自治税務局固定資産税課長

まず、今、商業地等の6割から7割の据え置き特例について意見をいただきましたが、自然な流れとしてはまさに住宅の方では据え置き特例を平成26年度になくしましたから、そのようなことになるのであろうと思いますが、これは当然負担増になる場合があるわけでして、そこをどのように理解を得ながら進めていくか、よく議論していく必要があると思っています。

今、超過税率について意見、質問がありました。実施している自治体についてはまた資料を用意したいと思いますが、税率につきましては、固定資産税は土地、家屋、償却資産で同一税率ということにしていますから、土地だけを上げるというようなところは現実にはありません。

○中里会長

それでは、増井委員、どうぞ。

○増井委員

56ページのグラフを大変興味深く拝見しました。ここで出ている負担ということについて、質問があります。端的に申しまして、日本の固定資産税は誰に帰着しているかという問題です。

○中里会長

田近委員、どうぞ。

○田近委員

一義的にはその土地の資産の流動性がそれほどないとすれば、それは資産を持っている人にかかると思いますが、増井委員はそれ以上御存知ですから、何か問題意識があればそれを基に議論した方が良いように思います。

○増井委員

特に再分配との関係では、ここで出ている負担という概念は納税をするというポイントを捉えています。それが実際に誰に帰着しているかということまである程度見通しがないと、かゆいところに手が届かない。そのような感じがしたものですから,日本の固定資産税が実際に誰に帰着しているかをお伺いしたかったわけです。

○中里会長

借家人などにどこまでいっているかということのデータが欲しいということですね。データといっても、そこは難しいのかもしれませんが、分かりました。それでは、梅澤特別委員、どうぞ。

○梅澤特別委員

不動産資産の形成をなるべく多くの人で進めようという政策で多分ここまでの制度が来ているのであろうと理解しました。高度成長期は全員がその夢を持てたため、ある意味で国民の福祉と経済成長に資する合理的な政策であったと思うのですが、既にその夢は破綻しました。

これからの公平を考えたときに、小規模の住宅を持っている人を最も優遇するということが本当に公平なのでしょうかという問題を立てても良い時期ではないかと思います。都市の再編成、コンパクトシティー化、人口の流動化など、潜在力の高い土地をなるべく流動化して、その活用を進めて都市全体の価値を上げていく、このようなことが社会ニーズとして重要なときに、小さな土地にしがみつく国民を大量生産するような政策はもう捨てませんかという問題提起です。

○中里会長

先ほどの山田特別委員の指摘について、佐藤固定資産税課長の方ですか。

○三宅自治税務局資産評価室長

すみません、先ほどの山田特別委員の家屋の評価についての意見に対して答えたいと思います。

先ほど資料、15ページのところで家屋評価を入れてある部分についての御指摘ですが、家屋の評価については、再建築価格に時の経過に伴う経年減点補正を乗じるということに対して、減損の考え方も導入ということでどうであろうかという意見であったと思うのですが、これは極めて基本的な部分だけ書いていまして、固定資産評価基準に定めているものは、災害などで随分家が傷んでしまった場合の損耗による減価や、あるいは需給事情による補正というものもありまして、極めて例外的ですが、需給事情による補正としては、最近の建築様式に適用しないような家屋や、環境不良地域に存在する家屋などということを判断して、市町村がそのような補正を講じることもできることとされています。

○中里会長

佐藤固定資産税課長の方で、先ほどの梅澤特別委員の指摘について、何かもしコメントがございましたら。

○佐藤自治税務局固定資産税課長

大変重い課題であると思います。幅広い政策的な議論が必要であると思いますから、それだけにとどめさせていただきたいと思います。

○中里会長

ありがとうございます。

それでは、高田委員、どうぞ。

○高田委員

御説明、どうもありがとうございました。

印象と言いましょうか、感想に近いのですが、4ページ目の固定資産税の税収の推移がこの30年間ほどずっとあるわけで、これが30年近くほとんど変わらないと言いますか、非常に安定している税収ということであると思うのです。

一方で、説明がありました、例えば38ページの住宅や、42ページ、商業地等のところがあるわけですが、いわゆる資産価値という観点から考えた場合に、これを資産税として資産価値全体の実効税率のようなことを考えた概念で考えると、実はバブル期は非常に軽くて、今は相当重い税になっています。これが例えば特に地方などにおいては負担感につながって、活性化のところでどのように出るかというところにもう少し経済学的なマクロベースで着目すべき議論ではないかと私は感じています。

相当バブル期においては軽くなっていたものが、今となっては価格自体、総額自体が半分以下です。商業地等においては3分の1以下ほどになっていますから、そのような意味では実際上相当負担が重くなっています。そのため、その辺りをどのように考えながら対応していくのか。それの劇症緩和を続けてきた歴史ではあるわけですが、マクロ的にはそのような状況を念頭に置く必要があるのではないかと感じる次第です。

○中里会長

それでは、林特別委員、どうぞ。

○林特別委員

どうもありがとうございます。

まず、質問ですが、資産課税ということですが、都市計画税が議論されていないということはどのようなことかなと思っています。単なる質問ですから、ご説明のみいただければと思います。

特に先ほど田近委員がおっしゃった19ページの超過税率との関連で、これも都市計画税を持っているところと持っていないところが関係しているのではないでしょうか。あくまでも読みですが、この辺りの相場観も教示していただければと思います。

もう一つ目は、これはコメントになりますが、やはり先ほど出た相続税もそうですが、固定資産税というものは土地利用に対してもかなり影響を与えると思います。

シャッター街の話もそうですし、特に農地に関してもそうです。農地に関してもかなり悪い影響があるのではないかと思っていますが、今後のコンパクト化、まちづくり等々考えるときには、相続税もそうですが、固定資産税も非常に重要な税であると思っています。

最後に、特に土地部分ですが、今まで議論されていたように様々な負担調整措置が入って非常に分かりにくい制度になっているということです。これは地価が上昇してきたという歴史的な経緯を説明していただきましたが、経済学者が分析した研究でも、今後地価が必ず下がるということは様々な研究で提起されていますから、過去、地価の上昇部分で様々課税し、かつ固定資産税を複雑にしてきた制度を税制確保という観点からでもかなり整理していかなければいけないかなと思っています。

特に地価は全国どこでも同じような速度で下がるということではないと思います。

やはり地方部分から土地価格はかなり下がってくることは懸念されると思いますから、この点、政策的にも税制的にもしっかりと対応していかなければいけないと思います。

○中里会長

都市計画税のことについて、お願いします。

○佐藤自治税務局固定資産税課長

資料は特に入れていませんでしたが、超過税率を採用している自治体で都市計画税を課税していないところがあるのではないか。それは一定の関係がありますから、また整理して資料として出させていただきたいと思います。

○中里会長

それでは、田中特別委員、どうぞ。

○田中特別委員

先ほどの株価について関係することは、特に土地の評価がどのようであるかということも関係していると思います。土地の評価が売買実例価格を参考にして行っているため、運用益ではないです。したがって、資産価値に比べて運用が少ないとそれはそのときに処分をしてしまうということになってしまうということであると思います。

それと同じように、固定資産税についても影響が出ている。特に日本全国の平均を指標としてここで整理はしていますが、大都市と地方は違うというように思います。大都市部では、商業地域で固定資産税が非常に高くなっていて事業に影響が出てくるようなこともあるでしょうし、まして、工場地域については継続ができていかないということになっています。そのようなことについて、土地の評価をどのようにしていくか、どのように利用していくことが良いのかということの観点からも、ぜひ再検討していただきたいと思います。

それと同時に、事業者から言うと償却資産まで税金がかかるのか。事業の原資について資産税として課税されるのかということも大きな影響があるということで、このようなことが事業にとって影響がある。徴収側ではなくて納める側としての実情を話させていただきました。

○中里会長

ありがとうございます。

それでは、そろそろ本日の会議を終わりにしたいと思います。ここまで非常に短い間に経済社会の構造変化を把握するための実像のセッション、個人所得課税、本日の資産課税と、皆様の御協力により、大変精力的な議論を続けてきました。

これまでも、中期答申に向けて、秋の適当なタイミングで個人所得課税を中心に論点の整理のようなものを行う必要があるのではないかということを私から申し上げてきましたが、次回からは、これまでの議論を踏まえつつ、どのような整理をさせていただくことが良いのか、委員の皆様に御相談していきたいと思っています。

したがいまして、次回については、まず、本日いただいた資産課税についての宿題、これについての報告を行っていただくとともに、論点の整理に向けた起草会合を行っていきたいと思っています。ただし、そこで議論のプロセスで様々なやりとりを自由に行っていただくために、これは申し訳ありませんが、非公開という形にしたいと思います。ただし、会議終了後の記者会見はいつもどおり私の方で行いますから、その場で議論の流れに関してはプレスの皆様に御紹介したいと思っています。この点、お許しいただきたいと思います。

会議の詳細は、改めて事務局から御案内します。

以上です。本日はどうもお忙しい中、ありがとうございました。

[閉会]

(注)

本議事録は、毎回の審議後速やかな公表に努め、限られた時間内にとりまとめるため、速記録に基づき、内閣府、財務省及び総務省において作成した資料です。

内容には正確を期していますが、事後の修正の可能性があることをご承知おきください。

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すみれ「遺言控除って出てこなかったね。お疲れ様でした。津島佑子さん、ご冥福をお祈りします。」

○在ブラジル沖縄在籍者の滅失戸籍等の再製手続について

那覇地方法務局戸籍課長依命通知 昭54・5・30戸第五六六号

○在ブラジル沖縄在籍者の滅失戸籍等の再製手続について

【昭和五十四年五月三十日戸第五六六号管内市町村長(平良、石垣支局管内を除く)宛那覇地方法務局戸籍課長依命通知】

 標記の件については、本日30日付戸第五六五号をもって、当局長から通達されたところでありますが、次の諸点に留意のうえ、処理願いたく命により通知します。

一 戸籍の滅失後に送付された届書については、当該届書に基づいて所要の処理をすることとなるが、当該届書の戸籍受付備考欄に「年月日記載」と記入し、また、復帰前に貸与を受けた届書等、戸籍受附帳に記載したうえで処理し、処理済となった届書等は、当月分の他の届書類とともに送付する。

二 届書の処理は、在ブラジル日本公館及び本土の市町村において当該届書が、昭和二十二年一月一日から昭和三十一年十二月三十一日までの間に受理されたものであれば、一九六〇年(昭和三五年)六月八日法民第四五八号琉球政府法務局長通達に基づく、いわゆる貸与届書処理要領に準じて処理する。

三 通達第四項但し書きによって、他の同籍者について戸籍の再製をするときは、当該戸籍の滅失前にした戸籍謄抄本発行後、永年を経過しているところから、その後その者の本籍が転籍していることも考えられるので、複本籍の生ずることのないよう十分な調査が必要である。

四 通達第五項によって、すでに再製された戸籍を訂正する場合、父母の氏名等その訂正が他の戸籍にも及ぶときは、当該父又は母からの申出若しくは、関係人全員から申出を徴するのが相当である。

五 通達第六項により、すでに再製された戸籍に再製遺漏者を記載したときは、同日付で改製原戸籍を編製する。

  なお、記載許可申請をする場合、父母との続柄等他の同籍者について訂正を要するときは、同一申請書を用いてさしつかえない。

六 通達第七項による家督相続戸籍は、市町村長限りの職権で再製する。

七 通達第八項による除籍等の再製資料についてhは、この種の再製資料を得ることがきわめて困難な現状であることにかんがみ、当該関係戸籍の再製が完了するまでの間、永年保存とし、充分な管理を要する。

八 その他、この通達に基づく取り扱いについては、昭和四十七年一二月六日付戸第三四四号当局長通達(海外に在住する沖縄在籍者の戸籍訂正について)、昭和四十七年十二月十八日付戸第三八一号当局長通達(戸籍整備法に基づいて再製された戸籍の記載遺漏、錯誤等の訂正について)、昭和四十八年八月二十日付戸第一五二八号当局長通達及び同日付戸第一五三〇号当職依命通知(戦災滅失戸籍の再製完了までの間に届出された事件等の取り扱いについて)を参考されたい。

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すみれ

「一文が長いよー。」

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第2章 家族法 

第2章 家族法

第1節 はじめに

  ネパールにおける家族間紛争に関する規律は 1853年国法(ムルキ・アイン)にお ける家族に関する諸条項であり、2010 年民法典草案は、これらの規定を整理した上 で、全面的に改正したものである。以下、ネパールにおける家族法を検討するに当た っては、次の点に触れる必要があると思われるが、ここでは民法典条文にのみ限って触れることにする。 

 第一には、実体法である家族に関する諸条項、第二には家族関係の登録制度、第三 には家族構成員間の紛争を処理する手続(司法外の紛争処理も含まれる)などを明らかにすることによって、家族構成員間の紛争が生じた場合の法的処理の仕組み全体を理解することが可能となる。

  また、家族に関する条項を理解する前提として、いくつかの点に留意しておかなくてはならない。ネパール社会は、民族・宗教・カーストが複雑に入り組んでおり、例えば、民族(社 会的身分であるカーストと関係する)は30以上、宗教はヒンドゥー教徒 80.6%, 仏教徒 10.7%, イスラム教徒 4.2%, キラント教徒 3.6%, その他 0.9%(2001 年国勢調査)などと言われており、家族形態や家族関係を律する規範は単一ではないと思わ れる。

とりわけイスラム教徒の家族問題については、シャーリア(イスラム法)を適用するべきであるという主張が強くみられるので、国家による制定法との齟齬が出る可能性は高い。さらに、国境地域では、ネパール住民が隣国の住民と通婚関係をもつことは珍しくないので(インド国境はネパール国民にとっては事実上フリーパスなのでモノの自由な往来だけでなく人の自由な往来によってインド人との婚姻やインドに居住するネパール人との通婚などの可能性は高い)、家族関係あるいは親族関係を 規律する規範は国家法およびそれぞれの地域の法慣行などが重なり合って一層複雑 になるといえよう。

すみれ

「通婚、か。」

 また、地理的にもインドと国境を接する低地からチベットと接する高地まで、生活環境は大きく異なっている。同時に、カトマンズやポカラなどの都市を除いた地方では、村落ごとに文化や慣行が大きく異なることも珍しくない。さらに家族関係の登録に関しては、15歳以上で読み書きできる人の割合は 48.6%(うち男性 62.7%、女性 34.9% (2001 年国勢調査))という現状では、どこまで登録制度が有効に機能するか留保が必要と思われる。 

番人

「2001年だから、今はどのくらい上がっているかな。」

財産法をめぐる法的問題と若干異なり、家族に関する法的問題は当該社会の文化や慣習に強く影響されるので(生ける法)、国家法である民法と生ける法との関係をどのように理解するかが重要となる。例えば、男女平等が明確にされた憲法原則と家族法の規定に齟齬がいくつも見られるが、それはネパール社会に現在でも生きている規範の原理と近代的憲法の原理の対立から生じた「妥協」の産物であるといえ、近代法 原則を今後ネパール社会に定着させるための過渡的段階と解することができる。 

また、2010 年民法典法案(家族法)には国際養子に関する条文が独立して置かれ るなど、他の国の家族法とは趣を異にしているが、これも、国境を超える人身売買が 社会問題化しているネパール社会の置かれた特殊な状況の反映である。

  このように、家族に関する条項は現在ネパール社会が置かれている状況を強く反映 した部分のあることを指摘しておきたい。 

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第2節 総論

第1項「1853年国法(Muluki Ain)」家族法条項

  家族に関する現行諸条項は、1853 年の制定以降、何度も改正が加えられて次の構成になっている。第3 部は全 22章で構成されており、家族に直接かかわる条項は、第 12章「夫と妻」 (全 6 条)、第 13章「分割」(全 35 条)、第 14 章「女性の持分と財産」(全 8 条)、 第 15章「養子」(全 13 条)、第 16 章「相続」(全 20 条)、となっている。

家族にか かわる条項は、いわゆる「民事法」だけでなく、第4部の刑事法にも見られ、第 11 章「人身売買」(全 5 条)、第 13章「性交の意思〔セクシャルハラスメント〕 」(全 6 条)、第 14 章「強姦」(全 11 条)、第 15章「近親相姦」(全 12条)、第 16章「獣姦」 (全 5 条)、第 17章「婚姻」(全 11 条)、第 18 章「姦通」(全 6 条)、など特異な構造となっている。

 ネパール社会では、男系秩序が優先することや男性優位の社会構造となっていることから、第2節 総論 第1項「1853年国法(Muluki Ain)」家族法条項  家族に関する現行諸条項は、1853 年の制定以降、何度も改正が加えられて次の構成になっている。

 第3 部は全 22章で構成されており、家族に直接かかわる条項は、第 12章「夫と妻」 (全 6 条)、第 13章「分割」(全 35 条)、第 14 章「女性の持分と財産」(全 8 条)、 第 15章「養子」(全 13 条)、第 16 章「相続」(全 20 条)、となっている。家族にか かわる条項は、いわゆる「民事法」だけでなく、第4部の刑事法にも見られ、第 11 章「人身売買」(全 5 条)、第 13章「性交の意思〔セクシャルハラスメント〕 」(全 6 条)、第 14 章「強姦」(全 11 条)、第 15章「近親相姦」(全 12条)、第 16章「獣姦」 (全 5 条)、第 17章「婚姻」(全 11 条)、第 18 章「姦通」(全 6 条)、など特異な構造となっている。 

ネパール社会では、男系秩序が優先することや男性優位の社会構造となっていることの結果と思われるが、男性と女性に関して別々に規定されている事項が散見される。 例えば、婚姻要件や離婚要件などは、男性と女性とでは別個規定されており、その内 容も異なっている。また、家族共同財産分割などでも男性にかかわる条項がある一方 で、婚出した娘に対する言及がないなど、いくつかの事項では男女別の条項となって いる点に特色がみられる。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第2項「2010年民法典草案」について

  すでに触れられたように現行法は制定されてから幾度も改正を経たが、社会の変容 により全面的な改正が必要となり、現代のネパール社会および家族の状況に対応でき る内容の民法典草案が 2010 年に作成された。

憲法草案にも盛り込まれている男女平等や個人の尊重理念に基づくと同時に、ネパール社会において現実に展開している家族をめぐる「生ける法」にも配慮しながら、法案が作成された。民法典草案第 3 部が 家族にかかわる条項であるが、第 1 章「婚姻」(全 18 条)、第 2 章「婚姻の効果」(全 8 条)、第 3章「離婚」(全 12条)、第 4章「親子関係」(全 19条)、第 5章「親権」 (全 11 条)、第 6章「後見」(全 18 条)、第 7章「保佐」(全 14条)、第 8章「養子」 (全 19 条)、第 9 章「国際養子」(全 22条)、第 10章「家族共同財産分割」(全 32 条)10、第 11 章「遺言」(全 16条)、第 12章「相続」(全 14条)、という構成となっ ている。

ただ、家族共同財産分割など家族構成員と財産にかかわる事項については、 いわゆる財産法の諸条項の中にも規定されている。とくに家族共同財産分割に関する 事項については、第 3部 10章以外にも関係する規定がおかれている。

ネパール社会における家族をめぐる法的事項の特殊性から、行為能力に問題のある者の保護制度が後見と保佐のみとなり、また、人身売買などの被害から未成年者を保護するための国際養子が独立した章となっている。さらに、これまでネパール法にはかった遺言に関する条項が新たに加えられることとなった。

すみれ

「人身売買から守るために国際養子の章があるんだ。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第3節 現行家族法の概要

 第1項 財産関係における女性の法的地位

 ネパール社会における女性の社会的経済的地位が「低い」ので、特別な法的救済が必要とされており、財産関係と女性に関する特別な規律が第3部に設けられている(以後、特に断らない限り第 3部のみを対象とする) 。

(1)特有財産

  未婚・既婚・寡婦を問わず、女性は自己の努力で得た動産ならびに不動産を自由に処分することができる(第 14 章 1 条)。また、家族と同居していない女性は、家族共同財産分割持分としての動産・不動産を自由に処分することができる(第14章2条)。 ただし、女性が負っている債務に関しては、女性が使用できない不動産によって返済することはできない(第 14章 3条)。

 (2)特有財産の種類

  女性が、父母両系の家族から受領した、もしくは自己の努力で得た動産・不動産は 「嫁資(Daijo)」といわれる。また、女性が、夫側のすべての相続人の家族共同財産持分権者(coparcener)・夫側の家族共同財産持分権者の書面による贈与もしくは夫 側の他の親族、知人による贈与、または自己の努力で得た動産・不動産は、「女性特有財産(Pewa)」といわれる(第 14 章 4条)。

すみれ

「自分の財産と、家族の財産があるんだ。」

 (3)特有財産の処分 

女性は、嫁資および女性特有財産を自由に処分することができる。(第 14章 5条)。 女性が財産の処分に関して書面を作成したのちに死亡した場合には、書面に従って財産は処分されることになるが、書面を残さないで死亡した場合には、女性と同居していた子、同居していた子がいない場合には別居していた子に財産は承継される。

女性が既婚者の場合、子がいないときに夫へ、夫がいないときには婚出した娘へ、婚出した娘がいない場合には男の孫もしくは未婚の娘へ、それらもいない場合には、相続人 (Hakwala)へ承継される12(第 14 章 5条) 。 

女性が、嫁資および女性特有財産以外の財産を、信仰目的の寄付、通常の贈与もしくは売却した場合、女性が財産を移転した者と婚姻した場合には、当該財産の移転は効力を発生せず、当該財産にもともと権利を有する者は、その返還を求めることができるとされている(第 14 章 7条) 。

(4)特有財産に関する訴えと時効 

特有財産に関する訴えは、第 14 章 7条の場合には婚姻の日、その他の場合には、原因となる事実が生じた日から 2年以内に提起しなくてはならない(第 14章 8 条) 。

(5)女性の特有財産に関する特色 

男性の財産は基本的には男系で承継されていくことになっているので、女性固有の財産については女性の意思を重視することや、女性とかかわった者へ第一に移転するという規定をおくなど、女性固有の財産に関する規定がおかれている。

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第3項 婚姻の効果

(1)財産上の効果

  婚姻により生じる財産関係については第 3部に規定がおかれている。ただし、婚姻財産というのではなく家族共同財産に関する条項14として規定されているので、婚姻の効果というよりも家族構成員に認められた法的地位と言えよう。財産をめぐる、妻の権利、息子の権利、未婚の娘の権利、死亡した息子の寡婦(「嫁」)の権利という構成で規定が組み立てられている。 

妻は、家族共同財産に対して有する持分は他の家族共同財産持分権者と同じである (第 13章 1 条・2条)。妻が複数いる場合には、それぞれの妻は夫の持分を等分することになる(第 13 章 4条)。夫が夫の家族共同財に対して有する持分の分割前に死亡した時には、妻は夫の持分を請求することができる(第 13 章 5条)。

 妻は、夫の生存中は、夫の同意なしに、家族共同財産を取得して別居することはできない(第 13 章 10条)。 

すみれ

「妻に厳しいね。」

夫が妻の存在を公にしていない場合には、妻は夫の死後に夫の財産への持分はない (第 13章 8 条) 。

 なお、女性は婚姻をすると実家の家族共同財産分割請求が認められないことがある (第 13章 1A 条)。

 (2)妻が持分を有する場合の対象となる財産

 別居している夫が、自己が家族共同財産持分として分割された財産と妻および息子に帰属する財産とをまとめて管理している場合、当該財産とそこに含まれる少額調整財産(jieuni)(老親扶養のために家族共同財産分割持分の中に認められた一定の額)が分割されるときには、再婚した妻とその間に生まれた子も含まれることになる。

 なお、まとめられた財産管理が始まった後に、再婚した妻とその間に生まれた子は、 すでに別居している他の家族が有する財産への持分を請求することはできない。夫が 自己の持分を分割してもらった後で、再婚した妻とその間に生まれた子は、夫の持分に対してのみ家族共同財産分割持分を有する(第 13章 11 条)。これらの対応は、家族の財産と同居とが密接に関係していることを示している。

 (3)婚姻に要する費用の特例

  家族共同財産から、未婚の息子と娘の数にかかわりなく結婚費用を取り分けておく ことができる。財産総額によってその割合は 5%から 20%になるが、婚姻時に等分に分割される。特定の子の婚姻のための費用が相当額に上る場合、取得分は他の子の取得分の 4分の 3までとされる(第 13 章 17条) 。

(4)家族構成員の財産帰属形態

  同居して台所をともにしている家族の場合、家族共同財産請求権者により共同して取得した財産および債務は、同居するすべての家族共同財産請求権者に平等に分割される。ただし、自己の努力あるいは贈与もしくは相続などで得た財産ならびに第 3 部 14章で規定される女性の特有財財産は、その者により自由に使用でき、他の家族共同財産持分権者に対して分割する義務はない。 持分を取得しないで台所を分けて生活している場合、持分を登録しないで使用してきた場合、自己の利益や損失に責任をもち、また、かかる持分によって生計を維持しているときには、台所を分けて生活しているとし、かかる者の収入や債務はその者のものとする(第 13章 18 条) 。

すみれ

「どこに登録するんだろ。」

 以上のような規定から判断すると、家族の財産は、団体的な考え方のもとにおかれ ており、同居すること、かまどを一にすることなどが家族財産への持分を決める場合 の大きな要素になっていると言えよう。

 (5)夫が財産に対して有する権限

  夫もしくは父は、妻、息子、未婚の娘、死亡した息子の寡婦が家族共同財産に対する持分を分割していない場合、当該財産は以下のように扱われる。

  第一に、夫もしくは父は、祖先から承継した動産の全部もしくは不動産の半分を、家族の生計のために、妻たちの同意なくして使用することができる。かかる者の同意なくして不動産の半分以上を使用した場合、有効な使用とはされない(第 13章 19条 1 項)。

夫もしくは父に家長としての権限を与えると同時に、他の家族構成員の財産的保護が図られている。

すみれ

「家長というのがあるんだね。」

  第二に、夫は、自己の努力で得た動産・不動産に関して、妻が一人のみで、その妻から生まれた息子と未婚の娘のみの場合、かかる財産を自由に使用することができる。 また、妻、その妻から生まれた息子、未婚の娘の場合も、前述の自己の財産については自由に使用できる。夫に複数の妻がおり、それらの妻の間にできた息子と未婚の娘がいる場合にも、かかる財産を自由に使用することができるが、お気に入りの妻(favorite wife)、息子、未婚の娘に対して、贈与(Bakas)もしくは他の方法で、かかる財産を移転することができる(第 13章 19 条 2項) 。

すみれ

「お気に入りの妻って何だろ。」

 そして、かかる財産の使用については、妻、息子、未婚の娘、死亡した息子の寡婦の同意を得なくとも有効である。他方、自由に使用が許されない財産については、祖先から承継した動産・不動産を、お気に入りの妻(favorite wife)、息子、未婚の娘に対して与える場合には、かかる者が 21歳を超えており家族共同財産分割持分を得ていないことが条件とされる(第 13 章 19条 3項)。

 自己の自由な使用が認められない財産の場合、自己の家族共同財産分割分を超えない範囲で、かかる財産を処分することができる(第 13章 19条 4項)。

(6)夫以外の者が財産に対して有する権限

  特定の妻、息子、未婚の娘、息子の寡婦などが、家族共同財産分割手続の前に、特定 の財産を書面によって贈与されている場合には、かかる財産を自由に使用することがで き、家族共同財産分割時に改めて分割対象とされることはない。ただし、贈与が効力を もたない場合には、家族共同財産分割時に全体財産に組み込まれて分割対象とされる (第 13章 19 条 5項)。

(7)家族共同財産分割手続き

  家族共同財産持分請求権者(妻など)から分割の請求が出た場合、裁判所の判決 (verdict)がなされる前に、かかる財産すべての取引に責任ある家長(the head of the family)は、分割対象になる財産についてすべて開示していると宣誓し、債務を含む 動産・不動産目録を作成して分割が行われる。財産目録作成の義務を負っている者が、 裁判所の命令に従わない場合には、全財産の目録が開示されるまで 6 月を上限に収監され、財産目録が開示されたときに収監が解かれ、家族共同財産の分割が行われる(第 13 章 20条) 。 

すみれ

「家長は、権利もあるけど同じくらい責任もあるんだ。」

財産目録作成の義務を負っている者が、裁判所の命令に従わず収監された場合には、 当該の者は収監時から 2 か月ごとに財産目録を提出しなければならない。家族共同財産持分請求権者にも、分割されるべき財産の正確な財産目録を書面で提出するよう通知がなされる。収監された者が、収監の日より 6月以内に財産目録を提出した場合には、受理され財産は法に従って分割される。 

なお、円滑な分割手続きをするために、財産の確定をするために家屋への立入や、 財産目録未提出の者に対する罰金などの規定がおかれている(第13章24条、26条) 。

(8)家族共同財産分割終了後の問題

  有効に分割が完了した場合には、その後に当該持分財産に瑕疵が発見されても、当該財産の取り換えなどを求めて争うことはできない(第 13 章 25条)。隠匿された財産がのちに発見された場合には、財産を隠匿した者は、持分を失い、 他の家族共同財産持分権者がその持分を分割取得する(第 13章 27条)。分割された財産に良し悪しがある場合、家族共同財産持分権者は良し悪しのある財 産について争うことができるが、争いある時は「くじ」によって分割するとされる(第 13 章 28条)。

すみれ

「どこか他の国でもくじ引きがあったような。」

家族共同財産の分割後 3年以内に、当該分割財産である動産・不動産が他人のものであることが明らかになった場合には、当該家族共同財産持分権者は、他の家族共同財産持分権者から代替の財産を受け取ることができる(第 13章 29条) 。

分割財産に対しての異議は、家族共同財産分割が行われた時から 3 か月以内に訴えによるものとする。その後の異議は認められない。なお、原告が期日に出頭しない場 合でも、ただちに棄却されるのではなく、相当の理由があるかどうかに基づいて判断 が可能である(第 13章 32条)

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第5項 寡婦(寡夫)の法的地位(相続)

  妻は、夫の死亡に際して、夫の葬儀の後に残った、夫ならびに同居または別居の夫の父の収入ならびに債務を含むすべての財産に対して、妻たち(複数の場合がある)と子と平等の持分を有する(第 13 章 14条) 。 

寡婦は、家族共同財産に対する自己の持分を取得して、別居することができる。子 がいない寡婦が再婚する場合、当該持分を処分することができる。子がいる寡婦が再 婚する場合、寡婦は(母は)、当該財産を用いて、子が成人になるまで、子を監護し、 教育し、指導しなくてはならない。当該財産は、この目的のために処分することができる。

  寡婦が(この場合は女性のみ)再婚して子がいない場合、寡婦の持分は、前夫の子どもに帰属し、前夫の子がいない場合には、寡婦の死後、前夫の相続人に帰属する(第 13 章 12条)。

現行法は、既婚女性の保護のために、終的には男系に財産が帰着するという限界はあるものの家族共同財産に対する持分を息子の寡婦に認めて寡婦の経済的保護を図っている。 

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第5項 親子法の特色

  親子に関する条項は、家族に関する各章に散らばって規定されている。嫡出子や非嫡出子の明確な区別は見られず、家族集団の中で同居するか否かによって保護の対応が変わっている。また、子にも家族共同財産に対して持分を認めるなど、家族関係、とりわけ親子関係における家族という集団の観点からの保護規定が特色といえよう。

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第7節 相続に関する規律

 第1項 相続の手続

(1)相続人の範囲  第一に、相続人(heir)の範囲は 7親等(seven generations)内にある家族共同財 産持分権者のもっとも近親の者をいう(第 16 章 1条) 。

 第二に、祖先からの承継財産(ancestral property)については、夫、妻、息子、 未婚の娘、男孫(息子の息子)、男孫の未婚の娘が相続(inherit)する。息子がいない場合には、死亡した息子の寡婦が息子同様に承継権を有する。上記の何人もいない場合には、次順位は、婚出した娘、その息子もしくはその未婚の娘である。

これらの者がいない場合には、法定の相続人が財産を承継する(第 16章 2条) 。

第三に、夫、妻、息子、未婚の娘、男孫、男孫の未婚の娘が、別居して被相続人の世話をしていなかった場合、被相続人の世話をした既婚の娘、義理の息子、義理の息子の息子もしくは娘は、相続が認められる。他方、かかる者以外の相続人には相続権はない(第 16 章 3条) 。

すみれ

「実際にも、お世話をしたことがちゃんと認められているのかな。」

  第三に、家族共同財産を、自己の分、妻たち(複数の妻がいることが前提となっている)、息子、未婚の娘、死亡した息子の寡婦にそれぞれの持分を与え、自分の持分とかれらの持分と一緒に管理している場合、妻、息子、未婚の娘、死亡した息子の寡 婦と同居していた者が死亡した時には、同居していた者のみが、相続権を有する。証書があればそれによる(第 16章 6 条)。

  第四に、夫、妻、息子、未婚の娘、男孫、未婚の孫娘が被相続人の世話をしなかった場合、同一の父を被相続人とする同朋が、被相続人の面倒をみた場合には、相続は 面倒をみた者にのみ生じ、他の相続人は相続することはできない(第 16章 7条)。

 第五に、息子や未婚の娘が家族共同財産分割持分を分割した後に、息子、未婚の娘もしくは息子の妻(daughter-in-law)と同居したにもかかわらず、かかる者が世話をしなかったために、自己の全家族共同財産ならびに他の財産を持参して、他の息子、 未婚の娘もしくは息子の妻(daughter-in-law)と同居した後に死亡した場合、同居して世話をした者のみ相続権を有する。ただし、同居が数日(some days)の場合にはこの限りではない(第 16章 9条) 。

  第六に、息子と未婚の娘のみの場合、妻と別居している、あるいは息子もしくは未 婚の娘と同居している者が死亡すると、妻は夫の財産に対して家族共同財産分割持分を有する。他方、妻が死亡した場合、夫は妻の持分を有することになる。妻が別居して家族共同財産分割持分を分割してもらったのちに死亡した場合、息子もしくは未婚の娘、彼らがいないときには夫が、相続する。どちらもいない場合には、義理の息子か未婚の娘(妻の連れ子のこと)が相続する(第 16章 10 条) 。

  第六に、被相続人が近親によって世話をされないで死亡した場合、死亡時に世話をしていた者が死亡した者の動産・不動産すべてへの権利を有する(第 16章 11 条) 。

すみれ

「第六が二つある。」

  第七に、兄弟と未婚の姉妹の相続については、自己の家族共同財産分割持分を取得した後で別居している兄弟と未婚の姉妹は、同居している兄弟と未婚の姉妹が死亡した時には、別居している者は相続することはできない。異母兄弟姉妹であっても、同居している場合には、相続権を有する。なお、自己の家族共同財産分割持分を分割して独立して生計をたてている全血の兄弟もしくは未婚の姉妹は、同居者の相続だけでなく別居している全血の兄弟もしくは未婚の姉妹について相続することができる。母を異にする兄弟もしくは未婚の姉妹は相続権がない(第 16 章 12条) 。

  このように相続に対して権利を有する者は、同居の者、相互に扶養したと思われる者、保護の必要な者というように、家族の共同財産を核として生活している者、とりわけ男系の者に財産が移転してゆく仕組みとなっている。

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 (2)相続放棄や相続人をめぐる問題 

第一に、相続放棄が可能であるが、被相続人の葬祭は相続に関係なく相続人の義務とされている(第 16章 15条)。

ポリー

「葬祭は関係ないですよね。」

  第二に、相続放棄(相続できなかった者)をした者の債権者は、葬儀などが行われた後の残余財産について権利を有する。債権者がいない場合には、すべての財産、債権者がいる場合には清算を終えたのちに残った財産は国庫に帰属する(第16章16条)。

  第三に、住民が死亡した地域に相続人がいない時には、死亡した地域の徴税官などがその旨を公示した上で、財産目録を作成し、相続人に通知を行い、一定の期間(3 か月)内に相続人が出頭した場合には、財産から 10%(の価格)を差し引いてを財産を引き渡す。相続人が出頭しない場合もしくは不明の場合には、国庫への帰属手続きがとられることになる(第 16章 17 条) 。

  第四に、相続欠格については、怒りもしくは怨恨で他者を謀殺した者もしくはその子は、死者もしくはその子の相続をすることができない(第 16章 19 条)。  第五に、相続をめぐる訴えの時効は、相続が生じた時より 3 年である(第 16章 20 条) 。

第2項 相続に関する条項の特色 

相続に関する条項は、被相続人と財産を承継できる者の関係、被相続人をめぐる扶 養の状況、家族共同財産とその他の財産の関係など、ネパールの特殊な家族(親族) 関係と財産帰属関係が反映されたものである。また、男子の財産は、先祖から承継されてきたものについては、帰属過程でどのような変転をしても結果的には男系の支配におかれる構造をもっている。 

他方、相続時には、死亡した息子の寡婦(「嫁」)にも一定の権利を認めるなど、同居している事実や被相続人の世話をした事実などと財産承継を連動させ家族構成員の保護が図られている。 

2003年の改定で男女の不平等など大幅に改正されたところもあるが、婚出した娘には条件付きでのみ相続権を認めるなど、子どもの間での財産承継には依然として差別がみられる。さらに家族財産分割手続きなどにおいては、手続きの実効性を高めるためと思われるが、手続違背者に対する刑事罰がおかれており、人の死亡における財産移転が単なる私事ではないととらえられているところも特色と言えるだろう。

番人

「刑事罰か。」

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第8節 2010 年民法典草案 第1項 基本原則の特色

  第1 章で触れたように、ネパール社会の変容によって現行法である Muluki Ain で は条項の整理や改正もしくは追加が必要となり、2010 年民法典草案が作成されるよ うになった。第 3部が家族に関する条項であり全 203 条である。ただ、家族関係をめ ぐる紛争に直接かかわる条項は財産法の中にも散らばっており、まとまりを若干欠くものとなっている。 

家族法の基本原則は、憲法草案の基本原則でもある個人および男女の平等である。 しかし、他方では、家族財産や扶養をめぐって家族集団を重視する団体主義的な原則も見られ、ネパール社会の「現実」を反映したものとなっている。

理論的には相反する条項が見られる妥協的な側面は否定できない。また、家族関係をめぐる紛争とその 処理原則には地域的な多様性が顕著にみられるために、判断基準などを地域の慣行に 委ねることを認める条項もあり、国家法としての統一性が完全ではない。ただ、ネパ ール社会は人種の多様性(少数民族の多さ)や南北または高地低地による社会構造の違いなどが顕著であり、地域の実態を重視することも不可避であろう。

すみれ

「不可避っていうか重視した方がいいんじゃないか。」

現行法と 2010 年民法典草案の関係は以下の表のようになっている。 

2010 年民法典草案 現行法 第 3部「家族法」 (第1章) 「婚姻」 (67~84 条) 

(第2章) 「婚姻の効果」 (85~92条) 

(第3章) 「離婚」 (93~104 条) (第4章) 「親子関係」 (105~123条) (第5章) 「親権」 (124~134 条) (第6章) 「後見」 (135~152 条) 

(第7章) 「保佐」 (153~166 条) (第8章) 「養子」 (167~185 条) (第9章) 「国際養子」 (186~207条) (第10章) 「家族共有財産分割」 (208~239条)  (第11章) 「遺言」 (240~255 条) (第12章) 「相続」 (256~269 条)  

← 「1853年国法」 (第4部:第17章) ・ 「1853 年国法」(第 4部:第15 章) ← 「1853年国法」(第 3部:第 13 章など に関連条文) ← 「1853年国法」(第 3部:第12 章) ← 「1853年国法」(第 4部:第12 章) ← 「1991年子ども法」 ← 新設( 「1853 年国法」(第 1 部:第 1章 などに関連条文) ← 新設 ← 「1853年国法」(第 3部:第15 章) ← 新設 ← 「1853年国法」 (第3部:第13章) ・ 「1853 年国法」(第 3部:第14 章) ← 新設 ← 「1853年国法」(第 3部:第 13 章・第 16 章)

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第7項 後見(135~152 条)

 (1)後見制度の概要

  行為能力を十分持たないために保護が必要な者に対して後見制度がおかれている。 未成年の子の場合には保佐制度として独立した規定があるので、後見制度では、多くの場合、成人の保護が考えられていると思われる。未成年の子に関する記述もあるが、未成年の子の保護という視点から見ると、保佐制度と明確な差異があるとは思えない。 

後見人の順位(第 6章 136 条 1項) 1. 同居する夫または妻

2. 父または母

3. 息子、死亡した息子の寡婦、未婚の娘

4. 別居している夫または妻

5. 別居している息子、死亡した息子の寡婦、未婚の娘

6. 父方の祖父または祖母

7. 孫息子もしくは未婚の孫息子

8. 母方の祖父または祖母、叔父または叔母

9. 兄弟、未墾の姉妹

10. 既婚の孫娘

11. 既婚の姉妹

*なお、同順位者がいる場合には、当事者の合意もしくは裁判所が決定する。

*14歳になっている者で判断能力のある者は、当人の判断による。 ただし、書面を作成しなくてはならない。

(2)後見人選任手続き 

第一に、被後見人が行為能力を欠くときには、上記の者が後見人となるが、それ以外の者が後見人となるときには、裁判所の承認を必要とする(第 5章 137条) 。また、子どもが施設などに収容されている場合は、機関が後見人となる(第 6章 138条) 。

 また、父母が死亡した場合、父が死亡した後に母が再婚した場合、もしくは、父母の双方に精神的異常がある場合には、同居する後見人が親権を行使して子の監護にあたるものとされる(第 5章 131条)。このように、保護の必要性が発生した場合には、当然に後見人としての職に就くという仕組みとなっている。

 第二に、関係する当局もしくは関係人は、上記の者以外の後見人の選任を裁判所に 申請することができる。裁判所は諸般の事情を検討して後見人を選任するが、その者の同意を得るものとする(第 6章 139 条 1項・3項) 。

 第三に、後見人には、①行為能力に問題のある者、②被後見人の権利や利益に反する行為をした者、③3年以上の懲役に処せられた者、④裁判所が後見人として不適格とした者、などは就くことができない(第 6章 141条)。

  第四に、裁判所は後見人を選任する場合、必要と判断すると後見監督人を選任することができる。後見監督人は、後見事務を監督し、後見の終了とともに後見監督も終了する(第 6 章 140条) 。

(3)後見の業務

  後見業務の内容は、被後見人の監護や療養などであり、その費用は被後見人の財産もしくは後見人自身の財産を持って充てるとされている(第 6章 142 条 1項)。被後見人の動産を通常充てるが、それがない場合には、裁判所の許可を得て被後見人の不 動産を処分して後見費用に充てることができる(第 6章 142 条 2項)。後見人は、被後見人の財産管理を行うが、当該財産を使って投資などで利益をあげることができる (第 6章 143 条)。

  後見人は、被後見人のために訴訟を起こすことができる(第 6章 145 条)ほか、後見業務のために必要な行為をすることができる(第 6章 146 条)。ただし、後見業務に条件が付けられている場合には、その範囲で後見業務を行わなくてはならない(第 6 章 147条) 。 

後見人は、後見業務に関して財産管理の帳簿を作成管理しなければならない。被後見人が成人に達した場合もしくは行為能力を回復した場合には、その時より 1年以内 に、死亡した場合には 6 か月以内に、後見人は帳簿などを提出しなければならない(第 6 章 144条) 。

 なお、夫、妻、親、息子、娘、祖父母、孫息子、孫娘が後見人の場合には、不動産 の処分や帳簿などの提出をしなくてよいとされている(第 6章 142条、144 条)。後 見人になる場合も同じことが言えるが、こうした免除条項は、親族がきちんと世話や 財産管理をするという前提に立っていると言えよう。

(4)後見の終了 

第一に、後見は、

①後見人が辞任の申立てをして裁判所が認めた場合、

②後見人もしくは被後見人が死亡した場合、

③被後見人が行為能力を回復した場合、

④被後見人の申し出により裁判所が後見人を交代させた場合、には終了する(第 6章 148条 1 項)。

ただし、後見人は、次の後見人が選任されるまで被後見人の面倒をみなくてはならない(第 6章 148条 2項)。後見人が死亡した場合、後見人の地位は相続されない(第 6章 149 条) 。  第二に、後見業務が終了した場合、後見人は後見業務のために自己の負担による出 費を被後見人の財産で清算することができる。ただし、夫、妻、親、息子、娘、祖父 母、孫息子、孫娘が後見人の場合、清算は許されない(第 6章 150条)。ここにも「身内」は相互に支援をしあうという考え方がうかがえる。

番人

「後見人の地位は相続されないんだ。それが普通のような気もする。」

 第三に、後見人が悪意もしくは害意で被後見人の財産に損害を与えた場合には、後見人が利益を得たか否かにかかわらず、その賠償の賠償の責任がある(第6章151条) 。 

(5)後見制度の特色

 後見業務は他の国の立法と大きく変わるところはないが、被後見人の財産などに関する監視体制が十分とは言えないこと、当然に後見人になる仕組みであること、親族に信頼を置いて後見業務を行うとする点などは、性悪説に立つとも言える近代国家の法としては、被後見人保護に薄い。ただ、ネパール社会の親族構造と親族に期待され る役割がこうした条文に反映していると思われる。

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第8項 保佐(153~166 条)

 (1)保佐制度の概要 

未成年子に対する保佐人については、両親が死亡した場合、両親が行為能力を欠如した場合、両親が行方不明の場合、両親が子の保護や世話に関する取り決めをせずに外国にいる場合で後見人が選任されていない時には、保佐人が子の保護にあたる。子の保護を図るために別に保佐人を置くことができる(第 7 章 153条)。  成人に対する保佐人については、行為能力を欠く者に後見人がいない場合には、保 佐人が被保佐人の世話および財産の管理を行う(第 7章 154 条 1項) 。

(2)保佐人の選任

保佐人には、前記の状況にある子を引きとって監護している者あるいは行為能力を 欠く者を看ている者が就くことになる(第 7章 153条 1項・154条 2 項)。なお、10 歳未満の子の父が死亡した時には、母が再婚している場合でも、保佐人となる(第 7 章 155条)。子が機関で養育されている場合には、機関の長が保佐の業務を行う(第 7 章 156条)。保佐人になる者がいない場合には、地方当局の申し立てに基づき、裁判所は適任者を選任するとされる(第 7章 157 条) 。

  保佐人には、自然人の場合には、破産していない者、法人の場合には登録をしたも のが就くものとされる(第 7章 158 条) 。  保佐人が外国に行くなど保佐の業務を遂行できない場合、代理人を決めることがで きる。代理人は財産を管理することができるが、保佐人が返還を求めた場合には、当該財産を返還しなければならない(第 7章 165 条) 。

(3)保佐の業務  

保佐人は被保佐人の財産管理を行うことができ、また、身上監護を行うことができる(第 7章 159 条)。保佐業務に必要な経費は、被保佐人の財産を充てることができる(第 7章 160 条) 。

 保佐人は必要な場合には、裁判所の許可を得て不動産を処分することができる(第 7 章 161条)。

  保佐人は、被保佐人の財産を相当の注意を持って管理しなくてはならない(第 7章 162 条 1項)。保佐人が害意をもって適切な管理をしなかったことにより損害が生じた場合には、その賠償の責任が生じる(第 7 章 162条 2 項)。

また、被保佐人の不動産を保佐人に譲渡しても無効であり、所有権の移転は生じない。ただし、売買の日 から 3 年以内に相続があった場合を除くとされている37(第 7章 163条) 。

(4)保佐開始・終了の要件 

第一に、保佐は、①未成年子が 18 歳に達した場合、②行為能力を回復した場合、 ③父もしくは母あるいは両親が子の監護をする場合、④後見人が選任された場合、⑤ 行方不明の者が現れた場合、⑥保佐人の職を裁判所によって解かれた場合、⑦親が外 国から帰国した場合、⑧保佐人が適格性を失った場合、⑨保佐人が死亡した場合、などに終了する(第 7章 164 条) 。

  第二に、保佐人が被保佐人の財産を適切に管理しなかった場合には、裁判所は保佐人の職を解くことができる(第 7章 162条 3項) 。  第三に、保佐が終了した場合には、対象となる財産を保佐人は本人に返さなければならない(第 7章 164条 2項) 。

(5)保佐制度の特色 

後見人が不在の時に活用される制度が保佐であるようだが、ネパール社会では初めての制度と言われている。

すみれ

「利用はあるのかな。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第11項 家族共同財産分割(208~239 条) 

(1)家族共同財産制度の特色 

家族共同財産は、ヒンズーの伝統的な制度であり、息子は出生により持分を分割してもらい、娘は婚姻時に持分を与えられるというものであったと言われる。しかし、 現代社会では、祖先から承継した財産を息子も娘も取得するという考え方に変わってきており、家族共同財産持分権者は、夫、妻、父、母、息子、娘となっており、家族集団で生活する者に平等な持分が認められている(第 10章 208条・209 条 1項)。

 (2)家族共同財産持分権者と持分

  当該財産の持分を請求できるものは、上記に記載された者のほか、共同財産が分割される時に、胎児であった者にも持分権が認められる。だたし、死産の場合には、胎児の持分は他の者に平等に分割される(第 10 章 209条 2 項・3 項) 。 

また、子は親が婚姻しているか否か、婚姻が無効とされたか否か、婚姻を解消して いるか否かにかかわらず、親の財産に対して家族共同財産分割持分を有する(第 10 章 210条)。  父親が不明な場合、子は母に対する請求権のみ認められるが、婚姻が公にされてい ない場合、妻は夫へ子は父へ家族共同財産分割持分を請求することはできない(第 10 章 211条) 。

 同居する兄弟の妻もしくは子は、その夫もしくは父が有する持分のみを請求することができる。夫もしくは父が死亡した場合も同じである(第 10章 212 条 1項 2項) 。

 また、妻が複数いる場合には、夫の持分の限りで妻たちには権利が認められる(第 10 章 212条 3項)。

番人

「妻が複数、か。」

  夫が妻および子の財産と自己の家族共同財産分割持分をまとめて管理している場 合、夫が他に妻をもち、その妻との間に子が出生すると、新たな妻と子は、夫・父の 持分のみに対して家族共同財産分割持分を有する(第 10章 213条 1項)。次に、夫が 家族共同財産分割持分を取得しない前に、他の女性と婚姻した場合、新たな妻は夫が 得られる持分に対してのみ、自己の持分が認められる(第 10章 213 条 2項) 。

(3)家族共同財産と家族構成員の扶養

 家族共同財産分割持分を有する者(同居する夫、妻、父、母、息子、娘)は、自己 の社会的地位や収入に応じて相互に扶養し世話をしなくてはならない(第 10章 214 条 1項)。親は子に対して適切に子を監護養育しなくてはならないとされている(第 10 章 214条 2項)。  前述の義務を負う家族構成員が、扶養の責任を果たさない場合には、家族共同財産 分割持分を有する者は、財産の分割を求めることができる(第 10章 214条 3項)。 

これらの規定から判断すると、家族共同財産は、個人に帰属するというよりも家族生活を支える財産として集団に帰属すると解されており、その点で、財産共有と扶養ならびに同居が関連するとして重視されていると思われる。

(4)家族共同財産の分割

 第一に、家族構成員が合意した場合は、何時でも家族共同財産の分割をすることができる。夫、父、家長は、適切と判断した場合には、当該家族構成員との同居よりも 財産を分割して別居することを選択できる(第 10章 215 条) 。 

第二に、特段の事由がある場合の財産分割請求に関しては、①夫婦の一方が他方を家から追い出した場合、②夫婦の一方が他方に対して身体的精神的な傷害を与えた場合、には、夫婦の一方は家族共同財産を分割して別居を求めることができる(第 10 章 216条 1項)。夫が新たな婚姻をしたとき、妻は家族共同財産を分割して別居することができる(第 10章 216条 2項)。家族共同財産分割持分を得て別居した妻が、他の男性と再婚した場合には、その持分は前夫との間にできた子、それがいない時には、前夫もしくは直近の相続人に返還されるものとされる(第 10章 216 条 3項) 。

 第三に、寡婦は何時でも家族共同財産分割持分を請求して別居することができる (第 10章 217 条 1項)。ただし、再婚した場合には、前夫との間にできた子、それがいない時には前夫に返還し、それらもいない時には自己のものとすることができる (第 10章 217 条 2項) 。 

第四に、同居する者が家族共同財産の分割を行う場合、①同居する家族の債務を考慮に入れる、②財産の価額に争いがある場合には、まず合意で、合意がまとまらない 時には「くじ」で、分割を行うものとする(第 10章 219 条 2項・3 項)。分割をめぐ って争いがある場合には、争いが終結するまで分割は行われない(第 10章 219 条 4 項) 。  第五に、財産の分割は書面をもって行われるが(第 10章 219条 5項)、分割を行う 書面には次の事項が特定されなくてはならない。①氏名、年齢、住所、持分権者の父 及び祖父の氏名、②対象となる財産、③債務ならびに財産、④持分権者が同居してい る者の関連事項、⑤持分権者が財産についてすべて開示している旨の宣言、⑥分割が 父、母、夫、妻の死亡による場合には、その詳細、⑦該当する財産が他人に委託され た場合には、その詳細、⑧その他必要な事項、とされている(第 10 章 220条) 。  第六に、分割手続きでは、証人の立会いのもとに書面が作成され、証人が署名押印 などを行って登録がなされる(第 10 章 221条)。

  第七に、家長は自己の持分が分割されていない場合、同居する家族の財産を持分権者に提供することはできない。ただし、他の家族共同財産持分権者の合意がある場合、または、合意がないときでも自己の持分の範囲である場合はこの限りでない(第 10 章 222条) 。

 第八に、家族共同財産持分権者は、自分が他の持分権者と別居して自活し始めた年 月日および不動産や債務などの目録を開示することによって、自己の持分を請求する ことができる(第 10章 223条 1項)。この申立てに対して他の家族共同財産持分権者 は、申立て者がすでに持分を分割済であるか否か、財産目録を提供するか否かなどに 関して陳述書を提出しなくてはならない(第 10 章 223条 3 項)。分割の申立てがなされた場合には、裁判所は、提供された財産目録などをもとに、家族共同財産持分権者 などから事情を確認して、持分の分割を行うことになる(第 10章 225 条)。分割が行 われた後に、新たに家族共同財産が見つかった場合には、裁判所は当該財産を分割し なくてはならない(第 10 章 226条 3項) 。 

第九に、財産目録が提出されない場合もしくは提出が遅れる場合、裁判所は、財産 目録が提出されるまで、家族共同財産の分割を停止することができる(第 10章 228 条 1項)。財産目録が提出された場合には、裁判所は分割手続きを行わなければなら ない(第 10 章 228条 2 項) 。  第十に、対象となる財産については以下の対応がなされる。  公平な分割が行われるためには、分割の対象となる財産の隠匿行為を行った者は、 持分を喪失するとされる(第 10章 229条 2項)。また、家族共同財産の確定のために 必要な場合、裁判所は、当事者ならびに地方機関の係官を含む2名の立会いのもとに、 施錠された家屋に立ち入ることができる(第 10 章 227条)。さらに、分割された財産 に瑕疵があって利用ができない者に対しては、すべての家族共同財産持分権者が等し い割合で補償しなくてはならない(第 10章 230 条) 。

 家族共同財産持分権者が分割を求めた場合、財産目録において財産もしくは収入に ついて支払い(分割)を保留する旨が記載されているときには、分割対象となる財産 の範囲をめぐる紛争を防ぐために、裁判所は当該財産や収入を分割が終了するまで保留することができる(第 10章 233 条) 。

 また、家族共同財産持分権者が分割対象となる財産に抵当権などを設定しているこ とが明らかになった場合には、裁判所は、家族共同財産持分権者全員の合意を得て、 ①当該財産を放棄する、もしくは②同居家族の財産(property of undivided family) からの負担により抵当権の解除をするという条件をつける、という形で家族共同財産 分割を行うことができる(第 10章 232条 1項)。家族共同財産持分権者全員の同意が 得られない場合でも、家長として行動している者もしくは成人の者が上記の抵当権な どを設定していることが明らかになった場合には、裁判所は上記同様の対応をするこ とができる(第 10章 232 条 2項)。上記の場合のほか、家族共同財産持分権者が分割 対象となる財産に抵当権などを設定していることが明らかになった場合、裁判所は共 同財産(common property)40に対する当該人の持分からの負担で上記同様の対応を することができる(第 10 章 22条 3 項) 。

 分割の対象となった財産が囲繞地の場合には、家族共同財産持分権者は、囲繞地利 用のための通路を提供するものとされる(第 10 章 234条)。

第十一に、ひとたび分割が終了すると、家族共同財産持分権者の合意がない限り、 その財産が気に入らないなどの理由で分割された財産を交換することはできない(第 10 章 231条)。

  第十二に、同居する家族が有する債務は、債権者の同意がない限り家族共同財産持 分者の一人に移転することはできない(第 10 章 235条 1 項)。上記の条件に反して、 一人に移転した場合には、家族共同財産持分者全員が等しい割合で債務の弁済の責任 を負うとされている(第 10章 235 条 2項) 。

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

 (5)表見家族共同財産持分権者

  家族共同財産分割請求権を有しない者が、持分請求の陳述書を提出した時には、裁 判所は、請求額が特定されている場合にはその額を、特定されていない場合には相当 額を、損害賠償として支払うよう命じることができる(第 10章 236 条) 。

 (6)家族共同財産分割持分の放棄

 家族共同財産分割持分は、他の家族構成員の合意がある場合には、その一部もしく は全部を放棄することができ、また、持分に相当する現金に代えることができる(第 10 章 218条)。

(7)家族共同財産分割制度の特色

  家族共同財産制度はネパールの独特のものであるといえる。家族(男系家族)集団 に帰属する財産として位置付けられ、その利用や処分には制約が付けられている。一方で個人の財産としての性質を有し、他方では家族構成員のための生活保障としての 性質をもっている。現実の生活では、こうした財産の集団的帰属が必要なのであろうが、近代法的な視点からは問題がいくつもあるので、遺言規定との関係で、本民法典が制定施行されたときには効力を失うとされている。

すみれ

「問題があるのか。近代法的な視点から。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

 第12項 遺言(240~255 条)

(1)遺言制度の概要 

遺言制度はネパールでは初めて法制度化されたものである。従来家族共同財産分割制度が家族構成員間の財産移転を規律してきたが、ネパール社会の変容に対応できない状況もあった。そこで、個人が自己の財産を処分するための制度として遺言制度が 設けられることになった。

そして、民法典が施行されると、夫婦、親子、その他の親 族にかかわる家族共同財産分割持分をめぐる諸条項は効力を失うとされている(第 11 章 254条 1項・2 項)。ただ、離婚の場合には、夫婦の合意もしくは夫に有責原因が ある場合には、妻の申立てに基づいて、裁判所は夫の収入や資産ならびに子の数を考慮して、適切と思われる支払いを夫に命じることができる(第 11 章 254条 3項)など、家族共同財産をめぐる条項が効力に変化があっても、一定の保護は残されている。

なお、妻の資産収入が夫のそれよりも大きい場合にはこの限りではない(第 11 章 254 条 4項)。

 (2)遺言作成能力

  18歳になった者で意思能力のある者は自己の財産に関して、条件をつけるか否か を問わず、遺言することができる。ただし、共同遺言は認められない(第 11 章 240 条)

(3)遺言作成の過程

 第一に、通常の遺言の場合、遺言者は遺言書を 2 通作成して遺言作成担当の係官の 面前で、行為能力ある証人 2 名の立会いのもと、係官が遺言書を読み上げ、遺言者が その内容を了解して同意すると、作成場所および作成日時を明記して、遺言書に署名 封印する。遺言書 1通は当局に保管し、他の 1 通は遺言者が保管する(第 11 章 241 条 1項~5項)。

遺言作成時に立ち会う係官は、土地税事務所、在外国公館、公証人である。なお、不動産の移転について公証人は除く(第 11 章 242 条)。  第二に、証人としての欠格事由は、①18歳に達しない者、②正常な判断のできな い者、③当該の遺言書を確証する係官、④公証人による遺言の場合には、公証人、公 証人の同居する配偶者、公証人もしくは公証役場の職員の 3親等以内の親族、⑤遺言 により財産を取得する受遺者もしくはその卑属である(第 11 章 247 条) 。

  第三に、遺言者は、遺言により自己の財産のうち 4分の 1を分離して、①財産もし くは収入のない配偶者、②財産もしくは収入のない障害をもつ子、③21歳に満たな い子(21歳まで)、に与えなくてはならない(第 11 章 252 条)。

遺留分に近い規定である。

番人

「遺留分よりも事情に合ってるね。」

(4)「封印遺言(sealed testamentary will)」

  本遺言の場合、遺言者が遺言を作成して当局に持参し、係官は遺言書を確認して封印した上で、遺言書に「封印遺言」と記載して遺言者および係官が署名するものであり、証人は不要である(第 11 章 243 条 1項~3 項) 。  封印遺言では、相続開始時まで受遺者の名前は公にされない。かかる情報が公にさ れた場合には、担当する係官はその責任を負うことになる(第 11 章 243条 5項・6 項) 。 

遺言者が死亡した時、相続第一順位者は、担当係官 1名以上の立会いのもとで、遺 言を開封する(第 11 章 243条 8項)。遺言で特定された受遺者は、土地税事務所に対 して、財産の名義変更(title)を求めるために遺言を提出し、土地税事務所は保管す る遺言との照合を行い、称号が終わると、財産の名義が変更される(第 11 章 243 条 9 項~11項) 。

(5)「自筆証書遺言」

  遺言者が遺言内容を詳細に記載した遺言書に署名すると遺言書は有効に成立する が、不動産の権利移転についてはこの限りではない(第 11 章 244 条)。

 (6)「視覚障害者による遺言」  視覚障碍者が遺言を作成する場合には、担当係官が遺言内容を口授し、証人 1 名が 同じく口授し、その上で、遺言者が遺言内容を理解して署名する(第 11 章 245 条) 。

(7)「聴覚障碍者による遺言」  聴覚障碍者が遺言書を作成する場合、遺言書の内容を口授するとともに記載したも のを遺言者に見せて内容を理解得る(第 11 章 246条 1項)。聴覚障碍者が、内容を理解しない場合、非識字者の場合には、①シンボルを使って内容を説明する、②同居する配偶者もしくは子に内容を説明する、③遺言者が 2名を選任する、などの方法がとられることになる(第 11 章 246条 2項) 。

 (8)遺言と効力 

遺言者は、条件を付けて遺言により財産を処分できるが、条件が成就するまで遺言は効力を生じない(第 11 章 248 条)。遺言者が死亡すると遺言が発効し、財産の名義は受遺者に移転することになる(第 11 章 253 条 1項) 。

(9)遺言の取消

 第一に、遺言は、①受遺者が遺言者より先に死亡した時、②受遺者が遺産を取得す る目的で遺言者を殺害した時、には事実上取り消されたもの(revoke)とする(第 11 章 249条)。また、受遺者が財産の承継を拒否した場合には、遺言は事実上取り消さ れ、相続法の原則に基づいて相続人に財産は分割される(第 11 章 251 条 1項) 。  第二に、遺言者は、すでに作成した遺言を新たな遺言を作成することによって、い つでも取り消すことができる(第 11 章 250条 2項) 。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第13項 相続(256~269 条)

 (1)相続人と順位 

相続人は以下の表の順位で相続する(第 12章 258条 1項)。被相続人が、家族財産 (family property とされるが家族共同財産分割持分と思われる)を分割した場合、被相続人と同居する親族が相続人となる(第 12 章 259条)。また、被相続人の面倒を生前に見た親族は、相続順位が遠い場合でも相続する(第 12章 260 条)。同順位の相続人が相続放棄をした場合には、同順の相続人が放棄した財産を承継し、同順位の者がいない時には、次順位の者が相続する(第 12 章 258条 4項) 。

すみれ

「面倒をみたことを証明したりする必要があるのかな。」

 被相続人が家族共同財産分割持分を分割した後に同居をしていた相続人が、被相続人の面倒をみなかった場合には、別居している相続人に相続が開始する(第 12章 261 条)。

相続人以外の者が被相続人の面倒を見ている場合、この者が被相続人を相続す ることになる(第 12章 262条)。基本的には、同居と扶養が相続の重要な要素となっている。  被相続人を殺害した者もしくは殺害した者の卑属は相続欠格とする(第 12章 264 条) 。 

相続人の順位(第 12章 258条 1項)

1. 夫もしくは妻(同居していること)

2. 息子、娘、同居している死亡した息子の寡婦

3. 父、母、継母、同居する息子の子(孫息子もしくは孫娘)

4. 別居している夫、妻、息子、娘、父、母、継母、婚出した娘

5. 祖父母、同居する兄弟姉妹

6. 同居している叔父、叔母、甥、姪

7. 別居している息子方の子(孫息子もしくは孫娘)

8. 同居している兄もしくは弟の妻

9. 別居している兄弟姉妹

10. 別居している祖父母、孫の妻

11. 男系かつ 7親等内の親族 *条文と説明書の記述が異なるが、説明書案の記述に従った。 

(2)相続分

  同順位者の相続分は平等である(第 12章 258 条 3項) 。

(3)相続の放棄

 相続人は、相続放棄をする場合には、相続開始後 3年以内に書面をもって裁判所にその旨を申し立てなければならない(第 12章 263条 2項)。また、相続開始後 3 年以内に相続を承認しないと放棄したものと扱われる(第 12 章 263条 3項)。

なお、相続を放棄しても被相続人の葬儀などは執り行わなくてはならない(第 12章 263 条 4 項)。

相続放棄があった場合、相続財産は、葬儀費用ならびに相続債務の弁済に充てられ た後、残余があれば所定の手続きを経て地方機関(local body)に帰属し、公的目的のために使用されることになる(第 12章 267 条 1項~9 項)。ネパール国内で死亡したネパール国籍を持たない者に相続人がいない場合、同様の手続きにより地方機関に 財産が帰属し利用される(第 12章 268条)。

(4)相続人の権利義務 

相続人は、①被相続人の葬儀などを行う義務、②被相続人の債権者に債務を弁済する義務、③被相続人の債務者に対する債権、を有する(第 12章 265 条 1項)。相続人以外の者が、被相続人の葬儀などを行った場合、相続人は葬儀などの実費に 25%を加 えた額を、葬儀を行った者に支払わなくてはならない(第 12章 265 条 2項)。 相続人は相続債務を被相続人の財産の範囲で弁済する義務を有する(第 12章 266 条) 。

(5)相続制度の特色 

ネパールでは家族財産が家族構成員の共同財産として扱われるために、相続開始以前に共同財産分割持分の分割などが行われている。そのため、相続時に被相続人の財産を一挙に分配するという仕組みにはなっていない。この点で、相続手続きに詳細な規定を必要としないのかも知れない。 

すみれ

「家族が出来た段階で、既に遺産分割みたいな状態になっているんだ。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第3章 ネパールにおける財産法の現状と展望

第1節 財産法の現状分析

第1項 ムルキ・アインにおける財産法 

ネパールの現行法のベースにあるムルキ・アインは,独特な体系をもっている。そ れは,第Ⅰ部(基礎的事項について)に続き,第Ⅱ部では,裁判手続(第 1章)と刑 罰(第 2章)から始まっている。

これは,ムルキ・アインが基本的に訴権体系をとっており,実体法と手続法が明確に分離されていないことを示唆している。そこでは, 訴訟手続,文書,証言,その他の方法による証明方法に関するルールがまずは定められている。また,民事と刑事が両方の規定が入っている点にも特色がある。 

このような特色をもつムルキ・アインのうちで,財産法に関する規定としては,第 Ⅳ部の刑事法に関する規定を除けば,以下のものが挙げられる。

すなわち,―― 第Ⅱ部・第2 章(保証について),第 3章(土地の埋蔵物の発見について),第 6章(遺 失物拾得について),第 7章(信託について),第 8 章(土地の耕作について),第 9 章(土地の明渡しについて),第 10 章(土地の侵害について),第 11 章(建物の建築 について),第 17章(一般取引について),第 18章(寄託について),第 19章(贈 与について),第 21 章(証書の登記について)である。

これらは,内容的には,(ア)土地の譲渡に関する法規,(イ)信託に関する法規, (ウ)不動産・動産の原始取得に関する法規,(エ)土地の利用に関する法規,(オ)土地の侵害に対する救済に関する法規,(カ)担保に関する法規などに分類することができる。

  このうち,本節では,ネパール財産法の現状として,ネパールにおける財産権の保護と取引に関する法制度について概観し,ネパール財産法の現状を探る手がかりとしたい。

まず初に,土地を中心とする不動産取引について概観する。ついで,公用収用に対する損失補償について概観する。後に,その他財産法に関連する現行法の特色を概観する。 

第2項 不動産取引

  不動産取引に関しては,ムルキ・アイン第Ⅲ部・第 21 章(証書の登記について) 等のほか,1964 年土地法(the Land Act, 1964),土地税法(the Land Revenue Act, 1977)等が存在する。 

1964年土地法以前は,ネパールにおける土地の所有権は伝統に従い,国家(国王) および国王の家臣ならびに以前の支配者に帰属し,政府の役人および私人は国家(国 王)の権力が付着した供与物としての土地利用権を付与されていたにすぎない。1964 年土地法により,所有上限の範囲内ではあるが,私人たる土地保有者および農夫に土地所有権が付与された。

 ムルキ・アイン第Ⅲ部・第 21章は,証書の登記手続を具体的に定める手続規定の中に,実体法規を組み込んでいる。

  売買に基づく所有権移転の証書,各種形態の抵当権設定の証書等は登記されなけれ ばならない(第 21 章・1条) 。  証書の登記を申請するには,自然人の場合は,証書に本人の名前のほか,父母,祖 父母の名前も記載しなければならない(第 21 章・31 条)。  不動産の登記においては,境界が明示されなければならない(第 21 章・15条) 。

すみれ

「登記は義務なんだ。家族関係も書かないといけないんだね。それも登記されるのかな。」

 土地の売買による所有権移転の証書は,所有権の証拠および管轄登記所への土地税の支払いの受領証が提出されなければ,登記されないものとされている(第 21 章・ 17 条)。また,証書を登記するためには,少なくとも 2人の証人が譲渡人ならびに譲受人の同一性およびこれらの者の住所を証明し,署名または拇印の押捺をしなければならない(第 21章・21 条) 。 

証書の登記はいずれの登記所でも行うことができる。登記の申請を受けた登記所は, 土地・建物については,その所在場所を管轄する登記所にその謄本を送付し,管轄登記所が当該証書に連番を付して登記簿に登記する(第 21 章・29 条)。 

内容が競合する証書が 2通以上作成されたときは,初に登記されたものが有効とみなされる(第 21 章・39条) 。  登記された証書の閲覧およびその謄本の付与は,誰にでも認められる(第 21 章・ 26 条)。費用は,謄本が 1枚 2ルピー,閲覧が 1ルピーである(第 21 章・39条) 。 

不動産取引の実務でも,売買等の契約書のほかに,土地の譲渡証書が作成され,それが登記される仕組みになっている。土地の譲渡証書は,大判のネパール和紙に,簡単な土地の形状とともに,土地の表示,地積・地目,近隣の権利者(先買権者),家族の共同財産の場合にはその家族員の表示,譲渡人と譲受人の署名・指紋の押捺等がされている。

番人

「指紋は印鑑の代わりかな。」

  この譲渡証書は,必要な審査が終わると,土地税事務所の公印が押されたうえで,地番ごとに簿冊に編綴され(これがネパールにおける土地譲渡の登記にほかならない),土地税事務所に保管されている。これが土地登記簿の本体である。なお,建物 については別個の登記簿は設けられてはいない。

また,土地税事務所には,土地登記簿とは別に,所有者名ごとの写真付き帳簿も備え付けられている。この帳簿には,当該所有者が所有する物件,それについての取引記録が記載されている。まさに人的編成の帳簿である。

ポリー

「人で分けてまとめる国って結構多いんですね。」

そこに挙げられた物件情報は, 土地登記簿と連動している。  さらに,土地税事務所とは別に,土地の測量事務所があり,地図を管理している。 そこでは,管轄区域内の土地関する構図が作成されており,各筆の土地にはすべて番号が付されている。これは,土地登記簿の情報とリンクしており,これによって土地の同一性は容易に確かめることができる。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

1.  土地の収用に対する損失補償

(1)1977年土地取得法の特色 

ある国で財産(権)がどの程度尊重され,保護されているのかを測定する指標と して,土地の公用収用の制度とその運用は有力な手がかりになる。なぜなら,国家 (政府)が強制権力を背景に,公益の実現を理由にして国民の財産権を強制的に収用または使用しようとする場合に,公共事業による公益の実現と,制限されようとしている国民の財産権の調整を図るために,どれだけ慎重な手続を履み,かつどれだけ損失補償をしているかということが,その国家(政府)が国民の財産権をどれ だけ尊重しているかを如実に示しているからである。

  ネパールにおける現在の用地取得は,1961 年土地取得法に代わる 1977 年土地取得法に基づいて行われている。かつて政府は国民の土地を自由に取得することができたが,その後,財産権保障の要請が高まるに従い,法定手続の遵守および損失補償の支払いが求められるようになってきた。

同法は,公益目的を実現するために 土地を強制的に取得する制度の中核であるが,「公益目的」とは,一般公衆の利益・ 便益・利用のほか,ネパール政府によって引き受けられた機能(例えば,政府が同 意したプロジェクト,様々なレベルの地方公共団体によって引き受けられたプロジ ェクト)を含むものとして,比較的緩やかに捉えられている(2 条 b 項)。

他方,ネパールでは「土地」には土地に継続的に設置された建物,樹木,壁等も含むと観念されていること(2条 a項)に留意する必要がある。   土地収用権限の主体は,あくまでもネパール政府(3条)であり,政府自身の必 要性によるほか,事業主体(地方政府の開発委員会,会社,国有企業)の要請(例 えば,労働者の宿舎,製造物や原材料を貯蔵する倉庫の建設,国有企業のプロジェ クトなど)に応える形で,ネパール政府が土地収用権限を発動することも可能とさ れている(4 条)。

その際,事業主体の要請に基づく土地取得手続は,

①土地取得 に必要な費用の政府への支払い,

②建設期間,利用形態などを記した証書の作成(4 条 2項)に基いて行われる。

 政府は,本法の実施を目的とする規則制定権をもつとされているが(42条),規則は未制定で,代わりに各地方のプロジェクトごとの移転政策(Resettlement Policy)が策定されている。

 (2)土地の任意取得

  政府は土地所有者との任意の交渉により,「いかなる土地も,いかなる目的のためにも,取得することができる」ものとされ(27 条),この場合は土地取得法に規定された手続に従う必要はないものとされている。

その結果,とくに政府・国有企業以外の事業主体(会社等)が政府に要請しては,一般的に任意交渉を行うとされる。任意交渉で合意に至らなかったときは,関連する政府機関に強制取得の手続を要請することになる。

例えば,ネパール石油会社が販売店の建設用地を取得するた めに地権者と任意交渉したが,合意に至らなかったときは,商業省に申請し,商業省が当該地方における郡行政事務所に土地取得(収用)手続の開始を要請することになる。これに対し,政府や国有企業が土地を必要とするときは,比較的早期に強制取得の手続がとられるようである。

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

(3)土地の強制取得

 (ⅰ)土地取得のための第一次手続は,

①政府による土地取得の決定後,原則とし て官報告示クラス 3以上の公務員(責任官)が任命され,この者が取得すべき土地 およびその場所を確認・調査することにより,強制取得の手続が開始される(5条) 。 責任官は,

②告示のコピーを公示し(6 条 1 項),

③同公示から 3 日経過以後に立 入りによる土地調査・図面作成・土質調査,用地幅杭の打設(6 条 2 項)を行うことができる。これらの調査・準備作業のために,用地上の作物・樹木・壁・その他 の障害物の除却が必要なときは,「可能な限り関係者の立会いの下で」 (6条 3項) 行うものとされている。

④作物・樹木・壁等の除却,土石・溝の除却,土地の穿孔 等によって生じる損失に対しては,補償が行われる(7 条 1 項,2 項)。補償額は 第一次手続の責任官が決定する。

補償額に不満の場合,地権者は地方長官(the Chief District Officer)に不服申立てができるが,その判断が終決定とされている(7 条 3 項)。⑤責任官は第一次手続の開始から 15 日以内に調査結果を提出し,土地が取得に適しているかを判断して,前記④の損失補償額・明細等を含む必要事項を 記載した報告書を地方事務所に提出する(8条) 。

(ⅱ)強制取得のための第二段階は,土地取得の告示である。すなわち,(ア)当 該土地を取得すべき旨の第一次手続の報告書に基づき,地方長官が告示を発出する (9条 1項,10条) 。

告示の記載事項は,

①土地取得の目的,

②土地のみの取得か, 土地上の建物,壁・作物等の定着物の取得も含むか(後者の場合,地権者は定着物 も取得するよう申請できる。29 条),

③土地が所在する市町村名と区番号,

④土地の区画番号(調査・測量済の土地の場合),または土地の同一性・境界を明らかに する個別事項(調査・測量済でない土地の場合),

⑤土地の範囲,

⑥その他必要な 個別事項,

⑦地権者が補償金を請求するために提出すべき申請書(土地の権原を証明する文書を含む)の提出(低 15 日以上の期限を付加しなければならない)に 関する個別事項(10条 a 項),

⑧被取得者が土地上の建物の除却,樹木・作物等の 定着物の収去を許容された場合における作業期限(10 条 b 項。当該期限内に定着 物の収去がされなかった場合,地方長官はそれらを無補償で没収することができる。 36 条)である。

(イ)土地取得の告示は,そのコピーが公示されなければならない(9 条 2 項) 。

 告示自体が公示行為であるが,地権者への告示の周知が必ずしも確保されない状況にあることから,同告示のコピーが,

①プロジェクトが行われる地方事務所,

②郡事務所,

③市町村事務所,

④土地税事務所(土地取得告示およびそのコピーの公示 後,該当する土地税事務所は,土地登記の記録に,土地取得の告示がされている旨 を公示する(9 条 4 項)。これにより,事実上の土地取引の凍結が図られている)。

⑤用地周辺の街路,

⑥その他地方長官が適切と考える場所に公示されなければならない。

 (ウ)さらに,土地取得告示およびそのコピーの公示にもかかわらず,地権者が土地取得について知りえないと地方長官が判断した場合,地方長官が個別に告知するものとされている(9 条 3 項)。その際,損失補償額が決定されている場合は,補償金を受領すべき期間と事務所名も告知する(9 条 3 項)。

このことは,損失補償が地権者による取立債務であることを意味している。個別の住所表記すらないネパ ールの現状に鑑みて,このことはやむをえない面もあるが,財産権の保障の制度と しては,現状では欠陥といわざるをえない。

 (ⅲ)土地取得の第三段階は,土地取得に対する不服申立て,およびそれがあった 場合に審理手続である。

(ア)不服申立ては,土地取得告示の公示後 7 日(プラス 移動に必要な期間)以内に,①被収用地の所有者,および②借地人(土地所有者の 同意を得て土地上に建物を建築・所有する者)は,土地取得が行われるべきでない 理由を添えて,地方長官を通じ,内務省に不服申立てができるものとされている(11 条 1項) 。

(イ)審理は,内務省が,第一次手続の責任官と,また,必要に応じて地 方長官と協議して行う (11条2項) 。 内務省は,審理に当たり,地方調査(sarjameen), 証人召喚,陳述記録,文書調達に関して,地方裁判所に付与された権限の行使が認 められている(11 条 3項) 。

(ウ)審決は,原則として,不服申立て受理後,15 日 以内に行うものとする(11 条 4項)。 (ⅳ)土地取得の第四段階は,占有取得である。これは,①土地取得の告示および 公示に対して不服申立てがなかったときは不服申立期間経過後に,同じく不服申立 てがあったときは土地取得を認める審決後に,地方長官が用地の占有を取得し,プ ロジェクトの事務所または事業主体に引き渡すことによって行われる(12条1項) 。 その際,②土地と共に建物も取得される場合において,当該建物を所有者が占有し ているときは,補償額の 50%以上が支払われるか(補償額が決定している場合) ,

またはその者が住居を移転するために要する合理的な費用が予め支払われるのでなければ(補償額が決定していない場合),地方長官は占有を取得することができ ない(12 条 2 項)。なお,③占有取得が円滑に行われない場合,地方長官等,本法 に基づいて権限を付与された公務員は,職務遂行上必要なときは,郡長官または警 察に支援を要請することができる(38条) 。

(ⅴ)土地取得の第五段階は,土地所有権の移転である。①土地所有権は,地方長 官による土地の占有取得(12 条)の後,政府または土地取得を必要とする事業主体に帰属するものとされている(22 条)。②地方長官は,土地の占有取得後,土地登記記録を保有する土地税事務所に対し,政府または事業主体への所有権移転登記を文書で依頼する。当該土地税事務所は,土地税記録における従前の記録を削除し, 政府または事業主体の所有権を記録して,その旨を地方長官および従前の所有者に 対し,可能な限り速やかに通知するものとされている(23 条 1項)。もっとも,③ 登記記録の変更および所有権の移転は,登記記録が実際に行われた日にかかわらず, 所有権の発生日に生じたものとみなされる(23 条 2項) 。

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

 (4)損失補償 

(ⅰ)補償は,金銭(現金)で支払われるものとされている(13条 1項) 。

 (ⅱ)補償額の決定は,補償額決定委員会による。その構成メンバーは,①郡長官 (議長),②土地管理事務所長または土地税事務所長,③プロジェクトの責任者ま たは郡長官に任命された者,④郡開発委員会からの代表者である(13 条 2項)。

補償額は,補償額決定委員会による決定後,郡長官によって政府に通知される(19 条)。他方,補償額の決定は,新聞での公表,市町村への通知等によって公示され る。

(ⅲ)現物(代替地)補償は,土地の全部を収用される者から要求がある場合に,政府にとって可能であれば,代替地と交換することができるものとされている(14 条)。

なお,宗教上の信託地である Guthi land の場合は,The Guthi Cooperation Act, 1976 に従って補償が行われる(15 条) 。これは,一種の公共補償と解される。 現実問題としては,大規模な住民移転を伴うときは,政府は移転先の土地を用意 することが通常である。また,少数民族に対しては,一般市民よりも有利な条件が提供されている(それに関する移転政策による)。

番人

「宗教上の信託地、か。」

 (ⅳ)補償請求権者に土地税,その他の租税等の滞納金があるときは,補償金の支払時に差し引かれるものとされる(21条) 。

 (ⅴ)補償請求権者が補償金を期限までに受領しなかったとき,または受領を拒んだときは,地方長官は 3 か月間の終期限を明記した通知を発出する。同期限内に 補償金を受領しなかった補償請求権者は,補償請求権を喪失するものとする(37 条) 。

(ⅵ)損失補償基準 

(ア)政府・地方自治体・国有企業による土地取得の場合(16 条 1 項)は,

①定着物に対する補償(政府のガイドラインによる),および

②住居,営業場所の移転 によって被った損失とされている。ここに土地価格が入っていないのは,伝統的に は,国(政府)は無償で土地を強制収用できたことが反映しているものとみられる。

もっとも,実際には,(イ)にみる場合と同様に,財産権保障の要請,憲法上の財 産権の保障の強化とともに,実務上は土地価格分も支払われている。この点が, 1977 年土地取得法の改正が検討されている背景の一つと考えられる。

(イ)他方,(ア)以外の事業主体による土地取得の場合(16条 2項)は,

①土地 取得告示(9条)の公示時点の土地価格,

②土地と共に取得される作物,建物,壁, 小屋等の価値,

③住居,営業場所の移転によって被った損失が補償すべきものとされている。

 (ウ)土地保有制限(1964 年土地法)を超える土地を政府・地方自治体・国有企業が取得する場合,補償額は 1964 年土地法の下で支払可能な額を超えないものとする(17条)。

(ⅶ)補償請求権者

 ①土地取得告示に明示された期限内に受領された申請に基づき,地方長官は補償請 求権者のリストを作成し,被補償者への情報提供のために告示する(18 条 1 項)。

 ②補償請求権者リストの内容に対して不服のある者は,補償請求権者リストの告示時から 15 日以内に内務省に不服申立てができる(18 条 2 項)。

③不服申立てが, 所有権または占有権に関する紛争を含んでいないときは,内務省は原則として 15 日以内に処理する(18条 3項)。

④不服申立てが,所有権または占有権に関する紛 争を含んでいるときは,補償は裁判所の確定判決によって権原が証明された者に支 払われる旨,および補償金を保管する事務所の名前を示した告示が提示される(18 条 3項)。この場合,確定判決によって権原を証明した者は,確定判決から 2年以 内に前記事務所に保管中の補償金を受領しなければならない。同期限内に受領されなかった補償金は,同期間満了後に統合基金に移管される(18 条 4項)。

⑤借地の場合,借地人は,補償額の 50%について補償請求権をもつ。借地人が土地所有者 の同意を得て建築した建物に対する補償金は,その全額を借地人が受領する(20 条) 。

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(5)特別状況下における土地取得の特別権限

 河川における突然の流路変更,その他の自然災害,その他の異常事態が発生した場合において,交通・通信施設の維持,生命・財産の確保,公共財産の保護のために,政府が土地を取得する緊急の必要が生じたときは,政府は地方長官に対し,土地取得手続の開始を命じることができる(25条 1項)。この場合,地方長官は,略式の土地取得告示を発出した後,土地を占有することができ,それによって政府が 所有権を取得する(25条 2項・3項)。そして,地方長官は,土地税事務所における登記記録の変更を嘱託する(25条 8 項)。

補償額の決定,土地,土地上の作物・ 樹木・建物・壁等に対する補償は一般の場合と同様であるが,補償額に関するほかは不服申立てができないものとされている(25 条 4項~6 項)。補償額に関する不 服申立ては,補償決定委員会による決定通知の発出日から 15日以内に内務省に対して行う。この場合,内務省の判断が終決定である(25 条 7項) 。

 (6)土地取得の中止 

 政府は,土地取得手続のどの段階においても,土地取得の中止を決定することができる。この場合,地方長官は被取得者への情報のために,このことを告示する(30 条 1項) 。

  土地取得の第一次手続(6 条)が行われた後に中止決定がされたときは,第一次 手続によって生じた損失に対する補償が行われる(31条)。

 (7)取得後の土地の管理

 (ⅰ)政府は,土地取得後,その使用目的に従った使用を開始するまで,契約によ り,同土地を耕作のために他人に利用させることができる。この場合において,耕 作者は土地の耕作に関する現行ネパール法上の借地権をもたないものとする(31 条)。これは,いわゆる占用許可に該当するものと解される。

(ⅱ)政府または事業主体による土地取得後,その書面の同意を得ずに,建物,小 屋,壁等を建築し,または土地を耕作したときは,政府または事業主体はそれらを 無補償で接収することができる(32 条)。無許可建築物等の接収である。

 (8)取得された土地が不要になった場合

  (ⅰ)政府または国有企業は,土地取得後,当初の目的のために当該土地が不必要 になった場合,またはその目的のために他の土地が十分にある場合,政府は公益目 的のために,国有企業は 4 条 1 項所定の活動のために,当該土地を使用すること ができる(33 条。土地の使用目的の変更) 。

(ⅱ)政府または国有企業が土地を何らの用途にも使用しない場合,これを被取得者に返還し,補償金の返還を求めることができる(34 条 1 項。被取得者への土地 の返還)。その他の事業主体が取得した土地を 4 条 2項の証書で合意された目的の ために使用しないときも,同様である(34条 2 項)。ただし,被補償者が補償金を 返還しないかぎり,土地は返還されない(34条 3項)。この場合,地方長官は当該 土地を管轄の土地税事務所に登記名義の変更を書面で嘱託し,同事務所はその終了を地方長官に報告する(34条 5項)。

(ⅲ)被取得者が土地の返還(34 条)を拒んだとき,または所在不明のときは,何ぴとに対しても売却することができる(35条。返還に代わる土地の売却) 。

(9)罰則の適用

 (ⅰ)土地取得手続に対する妨害等をした者は,1000 ルピー以下の罰金,1 か月 以内の禁錮またはその併科に処される(39 条) 。

(ⅱ)罰則の適用に関する第一審の管轄権は,郡長官に属する(40 条 1 項) 。

(ⅲ)郡長官の判断に対する上訴は, 35 日以内に控訴裁判所に対して行われる。

(10)現行用地補償制度の問題点

 (ⅰ)第一に,土地所有者の確認・確定の困難が挙げられる。ネパールでは,個別の住所表記の制度が未整備であり,政府による住民の所在,その世帯構成等の把握状況は低い。その結果,土地取得の告示,補償額決定の通知等の送達方法の整備も困難になっている。 

他方,土地が未登記のゆえに,所有者の確定が困難な事例も少なくないとされる が,登記制度は比較的整備されている。  政府による住民把握状況の不完全さは,補償金請求権の取立債務(1977 年土地 取得法 9条 3 項)を必然化させる原因にもなっていると考えられる

ポリー

「家族で一人というような感じなんでしょうか。」

(ⅱ)第二に,土地取得および損失補償に対する救済手続(とくに司法的救済)の 未整備がある。例えば,

①土地調査等の段階で障害物除却・土地穿孔等による損失 の補償額に不満の場合,地方長官の判断が終決定である(7 条 3 項)。

②土地取得に対する不服は,用地の所有者および借地人が地方長官を通じて内務省に申し立 てうるにとどまる。内務省は,第一次手続の責任官および必要に応じて地方長官と 協議して審理し,地方裁判所に付与された調査権限の行使が認められる。

③補償請求権者リストの内容に対する不服も,所有権または借地権に関する紛争以外は,内務省に申し立てることができるのみである。

④災害,その他の緊急事態が発生した 場合の土地取得に関する略式の土地取得手続に対しては,補償額関する不服申立てのみが認められ,内務省の判断が終決定である。

  このように,土地取得および損失補償に関しては,司法手続の保障が十分ではなく,刑事手続に関してのみ,裁判所が部分的に関与するにすぎない。この点は,今後の制度改正で問題にされるものと予想される。

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

(ⅲ)損失補償基準の未整備

  ネパールの現行補償基準の具体化は,

①各地方のプロジェクトごとに政府が策定する移転政策等によっており,統一的な補償基準(とくに法律を具体化する規則以 下のルール)が未整備である。また,その点と関連して,

②任意取得に関する裁量 の広さも問題である。その結果,土地所有者が補償額に満足せず,交渉が難航する ケース(ゴネ得的問題か)が頻繁に起こっているとされる。

(ⅳ)一旦立退きに合意しておきながら,履行しない(不法占拠)等の場合  

ネパールでも,用地取得後に,法外な補償要求や,建設工事等に地権者自身やその仲間を加えよといった不当要求が行われたり,要求に応じない場合に工事等の妨害がされることもある。そのような場合,軍に支援を要請して強制的に立ち退かせたケースもある。  この問題には,前述した明確な補償基準の未整備に加え,既存の関連法令の執行(enforcement)が不十分であるという問題も関わっていると考えられる。

番人

「こんな時に軍が出てくるんだ。」

(ⅴ)公共事業・土地取得・損失補償をめぐる政府・被取得者との争いに対する政治(政党)の介入 

損失補償に関する制度の未整備は,公共事業の計画・遂行,そのための土地取得 や損失補償の問題に,政党が,政略的な利害関心から,政府と地権者との紛争に介 入し,問題をより複雑かつ深刻にする余地も許しているように思われる。

(ⅵ)住民移転について

 土地収用に際しては,住民移転を伴う場合がとくに問題になる。この点については, 後述する土地取得法(Land Acquisition Act)の改正とともに,アジア開発銀行の支援をえながら,生活再建措置(Resettlement Policy)の見直しについて,国家計画委員会が中心となって検討している。

現在,大規模な住民移転を伴うプロジェクトの場合,政府は 移転先の土地を用意することに努めている。また,とりわけ少数民族に対しては,一般 市民よりも有利な条件を提供することが行われている。

(ⅶ)公共事業の遅れの原因について

  公共事業の遅れがしばしば指摘され,マスコミ報道もされているが,その原因として は,土地収用の対象となっている土地の住民が,土地登記をしておらず,所有者である ことを証明できないために,係争となるケースがある。これに対する対応としては,正 式の書類がなくとも,他の証拠で確認することにより,損失補償の対象としている。

 その他の原因としては,国家的に重要なプロジェクトでも地元住民が利益を感じない 場合,政党間で公共事業のメリットをめぐって争いになる場合,住民が一つのプロジェ クトからあらゆるものを得ようとして,過度の期待をもち,過当な要求をする場合等が ある。 

(ⅷ)土地の登録・登記について

 住民が土地を所有しているが,登記をしていない場合,公共事業のプロジェクトのチー ムが現場に出向き,VDC など地元関係者から話を聞いて,本当に所有者か否かを確認 する等の措置をとっている。登記されている土地であれば,所有権をめぐって争いにな ることはない。

土地の所有者が出稼ぎ等で不在の場合は,補償金を地方行政に預け,本人が帰ってきた時に交付するように措置している。土地登記は,全国全ての場所で,土地管理局事務所が同一のシステムで行っている。

すみれ

「管轄とかはないのかな。」

 (11)法改正に向けた動き

  財務省をフォーカル・ポイントとし,公共事業省,土地管理省,地方開発省等からな るチームが改正案を検討中である。改正内容の焦点としては,――

 ①政府が補償金を支払う一方で,開発税(development tax)を徴収する,

 ②土地取得前の用地の転売を防ぐ措置をとる,

 ③補償金は初の 1回のみ支払うものとする,

 ④補償金決定のプロセスを明確化するといった点が重視されている。

 (12)日本の用地補償制度・実務経験・制度運用技術の提供可能性

  財産権の保障と損失補償に関しては,日本は土地収用法および関連政省令,通達等の ほか,任意買収に関しても,閣議決定,それに基づく損失補償実務者間の申合せ等に基 づく緻密な損失補償基準を策定し,必要に応じて見直しと改訂を進めてきた実績がある。

また,それに基づき,各起業者がそれぞれ個性ある多様な現場に応じた法令の運用技術 を蓄積してきた。これらの法領域でも,日本の法整備の経験を,インフラ整備が急務と なっている現在のネパールに提供する価値があるように思われる。

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第4項 財産法に関する現行法のその他の特色

(1)贈与・寄付について

  物の所有者はその物を特定の相続人または第三者に贈与し,あるいは不特定の者に 対して寄付することができる。その物が共同所有者(coparcener(s))による所有の客体であるときは,他の共同所有者の同意を得なければならない(「国法」第Ⅲ部・第 19 章・1 条)。  すでにある者に贈与または寄付した動産または不動産について,別の者に贈与また は寄付した者は,500ルピー以下の罰金に処するものとされている(「国法」第Ⅲ部・ 第 19章・4条)。このように二重贈与はまずは刑事罰の対象とされており,そのような行為自体が否定される一方,その民事上の効果がどうなるかということは,直接には規定されていない。

このことは,第 2 の贈与・寄付はなしえず,したがって,当然に無効であるという理解を前提にしているように思われる。ここにも,第一次的には 行為規制的なネパール法の特色が現れているように思われる。

  もっとも,すでにある者に贈与または寄付した場合でも,それが死因贈与または寄付の効果をもつものであるときは,贈与者または寄付者は何時でもその証書を無効にすべく,管轄登記所に申立てをすることができる。この撤回の申立てが行われたときは,ただちに当該贈与または寄付の証書にそれが撤回されたことを示し,その所長が署名した付箋またはメモを挿入し,かつそのことを 7日以内(通知の伝達に必要な期 間を除く)に申立人に通知しなければならない。この申立てに必要な費用は 500 ルピ ーである(「国法」第Ⅲ部・第 19章・2 条)。

(2)担保について

 債権担保の手段として,自己が所有する動産または不動産の占有を債権者に移して設定される担保(収益担保)と,担保目的物の占有を債権者に移さずに設定される担保(非占有担保)の 2種類がある。いずれも証書によって設定される。

  収益担保の場合は,担保設定時から目的物から得られる収益(果実)を債権者が享 受し,弁済に充てることができる。これに対し,非占有担保の場合は,弁済期到来時から目的物の占有を債権者に移し,それ以後債権者が目的物から得られる収益(果実)を享受し,それを弁済に充てることができる。この収益(果実)の取得ができる期間は,収益担保の場合には担保実行時から2年間,非占有担保の場合には弁済期が到来し,債権者が占有を取得して 2年間に制限されている(「国法」第Ⅲ部・第 17章・3 条)。

その一方で,債務者は,収益担保の場合は設定後 10 年間は,債務および利息を弁済し,目的物を買い戻すことができる(「国法」第Ⅲ部・第 17 章・14条)。また,非占有担保は設定後 5年間は有効である(「国法」第Ⅲ部・第 17 章・15条)。

 また,収益担保または非占有担保が設定された場合,その債権額の範囲内であれば, 転担保も可能である(「国法」第Ⅲ部・第 17章・29 条) 。

  さらに,すでに担保が設定されている物件について,再度担保が設定されたときは, 第二の担保設定は効力をもたない。その前後は,担保設定の証書の日付によって判断される(「国法」第Ⅲ部・第 17章・25 条)。すなわち,二重の担保設定は認められない。二重担保の設定をした者は罰金の支払義務を負う。

その額は,担保設定時に(違約罰として)定められていればそれによる(まずは第二担保の設定契約に定められていればそれにより,その定めがないときは,第一担保の設定契約に定められていれば,その定めによる),そうした定めがない場合は 500 ルピー以下である(「国法」第Ⅲ部・ 第 17章・28 条)。

もっとも,二重の担保設定であることを知らずに第二担保の設定 を受け,かつその担保の実行として担保目的物の所有権を取得した債権者は,第一担保権者に対して被担保債権を弁済することにより,その目的物の所有権を取得することが認められる(「国法」第Ⅲ部・第 17章・26 条)。このように,担保取引の実情に わせて,低限の取引安全の保護が図られていることが注目される。

 このような担保制度は,

①所有者が担保流れによって所有権を失うリスクを抑制し ようとする傾向をもつ。また,

②担保権の実行方法として,競売による競売代金から 債権を回収する方法ではなく,債権者に占有を許可してその収益(果実)から債権を回収する方法を採用している。これは,担保物の競売市場が形成されていないという現実の中で,可能な限り費用を節約し,かつ実効的な担保物権の実行手続を経験的に模索した結果であるとも考えられる。いずれにせよ,担保権に対しては相当に強い規制が加えられていることが窺われる。 

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第2節 民法典草案における財産法の提案

 第1項 概観

  ネパールの現行法における財産法の現状を踏まえ,それが今後どのように改正され ようとしているか,その動向を民法典草案を題材にして探ってみたい。  民法典草案における財産法は第Ⅳ部に当たる。それは,次表に示した 15 章から構成されている。 

2010 年民法典草案

現行法第 4部「財産法」

 (第 1 章)財産(権)に関する一般規定

(第 2 章)所有権および占有に関する規定

(第 3 章)財産の使用に関する規定

(第 4 章)土地の耕作,使用および登記に関する規定

(第 5 章)政府財産,公共財産およびコミュニティ財産に関する規定

(第 6 章)信託(トラスト)に関する規定

(第 7 章)用益権に関する規定

(第 8 章)役権に関する規定

(第 9 章)建物賃貸借に関する規定

(第 10 章)寄付および贈与に関する規定

(第 11 章)財産の移転および取得に関する規定

(第 12 章)不動産の抵当に関する規定

(第 13 章)不動産の先買に関する規定

(第 14 章)権原証書の登記に関する規定

(第 15 章)(消費貸借・使用貸借)取引に 関する規定 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・諸章) 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・諸章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 8章) 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・諸章) 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 7章)  

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 4章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 19 章) ← 「1964年土地法」 

← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 2章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・諸章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 21 章) ← 「1853年国法」(第Ⅲ部・第 17 章)

  このような財産法(財産編)の構成を現行法と対比してみると,つぎのような特色 が認められる。すなわち,――

(1)新たな規律  

新たな規律として,所有権と占有権の相違が明確にされていること,用益権および役権についての規定が設けられたことが注目される。

(2)契約関連の規律の編入

 大陸法系諸国の民法典では一般的に契約類型として規律されることの多い法律関係が,財産法に編入されている。例えば,――

①賃貸借一般が契約に規定されている一方で,建物の賃貸借は財産法に入っている。  ②寄付・贈与が契約ではなく,財産法に入っている。

 ③一般取引(消費貸借など)が財産法に入っている。

  以上の概観を踏まえ,以下では,前記の表に示したような各章に規定された財産法関連の規定について,主要なトピックごとに,その特色を分析する。

(3)財産法関連規定の債務法への編入

 ムルキ・アイン第Ⅱ部・第 6 章(遺失物拾得について)は,2010年民法典草案では, 新たに設けられた不当利得に関する章(第Ⅴ部・第 16章・699 条)に編入されている。この点については,規定の位置づけおよび内容に関し,今後議論が起こることも 予想される。

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第2項 財産および財産権の概念 

民法典草案においても,財産と財産権との区別(より一般的には,権利の客体と権利との区別)は明確ではない。 

財産としては,現金,動産,不動産に加え,行為も財産として捉えられ,売買,その他の処分の対象となる(草案 270 条)。

すみれ

「○○すること、が財産なんだ。」

なお,民法典草案で「物」(goods)という場合には,動産と不動産の双方が含まれる(草案270条説明)。

不動産には,土地,建物,土地・建物への附属物,地中(に埋め込まれたまま)の 鉱物,石,自然流水,地下水,河川・池・湖に恒常的に浮かばせる形で設置された建 物・その他の構造物,樹木・その果実が含まれる(草案 272 条) 。

 動産は,移動可能な物一般のほか,社債・株式・手形・小切手等の有価証券,知的 財産,担保化された権利,暖簾,販売権,その他の不動産以外の物が含まれる(草案 273 条)。動産の概念の中に無体財産(non-material or intangible property)も含まれるものとして観念されている点に特色がある(草案 271条,273 条)。

  所有主体ないし所有形態による財産(権)の分類にも特色がある。すなわち,財産 (権)はその所有形態により,――

①私有財産,

②家族共同財産,

③共有財産,

④コミュニティ財産,

⑤公共財産,

⑥政府財産,

⑦信託財産の 7 種類に分類される。

 ①私有財産は,その取得原因によって定義され(自らの知識,技術または努力によ って獲得されたもの等。草案 270条 1項),その効果として,排他的処分の権原が認 められる(草案 275条 2 項) 。 

②家族共同財産は,家族員によって共有されている財産である。世襲財産,家族員による共有財産,家族員による共有財産の耕作や取引から得られた財産は家族共同財産とみなされる(草案 276 条 1項) 。

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 また,法律に別段の定めがない限り,「配偶者によって取得された財産」やそれに由来する財産も,すべて夫婦による家族共同財産とみなされる点に特色がある(草案 276 条 2項)。

これは,夫婦をはじめとする家族員のコミュニティの観念が根強いこ とを窺わせる。 

③共有財産は,家族員(members of undivided family)以外の複数の者によって所有される財産である(草案 277条)。各共有者は持分をもち,それは証書によって明確にされるが,証書がないときは共有者の持分の権原は等しいものとみなされる(草案 277 条 2項) 。  共有財産に変更を加えるためには,前共有者の同意を要する(草案 278条) 。 

共有財産の維持・管理も全員の同意を求めるべきであるが,全員の同意が得られないときは,過半数(頭数)の決定により,過半数の同意が得られないときは,大の持分権者が決定権をもつ(草案 280 条 1~3項)。他方,共有物の維持・管理のために 生じた費用は,共有者が持分に応じて負担する。ある共有者Aが他の共有者Bの分も 負担したときは,Bは 1 年以内に償還する義務を負い,それを履行しないときはAは Bの持分を時価で買い取る権利をもつ(草案 280 条 4~6項) 。

 共有物に関して訴えを提起し,または訴えを受けることは,全共有者が共同でしな ければならないが,それができない共有者がいるときは,他の共有者が 1 人または数 人で全共有者を代表して,訴えまたは訴えを受けることができる(草案 281 条)。 共有者はいつでも共有物の分割を請求することができる(草案 282 条) 。 ④政府財産,⑤公共財産および⑥コミュニティ財産については,後述。

第3項 政府財産,公共財産およびコミュニティ財産

(1)政府財産  政府の庁舎,その他の建物およびそれらの敷地,道路ならびに鉄道,山林およびそ の樹木,河川・流水・池沼・その土手,運河・通水路・未耕作地,山岳・砂漠,その 他公共財産でも,コミュニティ財産でも,信託財産でも,私有財産でもない財産(権) は,政府財産とみなされる(草案 318 条) 。 

政府財産を処分するためには,政府が,各省庁の当該機関の同意を得て,行うことができる(草案 327 条)。その前提として,政府財産も各省庁の機関によって所有されていること,各省庁の機関が法人格をもつものとされていることに留意する必要がある

 (2)公共財産 

古代からの建物・土地・下水・道路,泉・湖岸・その土手,放牧地・墓地,宿泊施 設・記念物・宗教的な瞑想施設・寺院・神社・僧院・教会・市場,催事場,運動場, その他政府が官報の公告によって公共財産として規定した財産は,公共財産とみなされる(草案 319 条) 。  もっとも,湖岸ならびにその土手は,政府財産としても挙げられており(前述(1) , 草案 318 条),両者の関係に不明確な点が残っている。

 (3)コミュニティ財産  コミュニティがその利用のために保有する土地,建物,その他の財産は,コミュニ ティの財産とみなされる(草案 321 条) 。

  コミュニティがその財産を早利用する必要性がなくなったときは,そのコミュニティの全世帯主の同意により,土地税事務所に申請して所定の手続をすることにより, コミュニティ財産を公共財産に編入することができる。土地税事務所は,その旨の登録を行い,その結果を郡の行政事務所および地方政府に通知しなければならない(草 案 328条) 。

(4)公有財産の管理  政府財産,公共財産およびコミュニティ財産(以下,公有財産という)については, 土地税事務所が,地方政府の支援を得て,それに関する情報を管理し,かつ定期的に その内容を更新するものとされている。すなわち,公有財産の位置ないし所在(土地・ 建物の場合は,その所在地と地番),その管理者の詳細,その他必要な事項である(草 案 321条 1項・2 項)。コミュニティ財産の場合は地方政府がそうした情報の準備と 更新を行う(草案 321条 4項) 。  土地税事務所は,これらに関する情報のコピーを郡の行政事務所(District Administration Office)および地方政府に交付しなければならない(草案321条4項) 。  公有財産は政府,公共団体およびコミュニティがそれぞれ維持・管理しなければな らない(草案 323条)。公有財産を個人の名前で登記することは認められない(草案 324 条) 。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第4項 所有権と占有の区別 

所有者は財産の使用,売却・その他の方法による権原の移転,担保化,果実の取得 等をする権原をもつ(草案 286 条)。

  他方,法律に従って財産を占有する意図をもつ者は,占有権をもつことが認められる(草案 287 条)。ただし,所有者でない者は,占有者の同意または法律の規定によって占有権を取得できる。占有権は,平穏,公然かつ善意で取得されたのでない限り,合法的に取得されたものとはみなされない(草案 288 条)。

占有は代理人によっても取得することができる(草案 289条)。占有権をもつ者は,法律によるのでなければ占有を妨げられない。

また,目的物から生じる便益を利用することができる。さらに,善意の占有者は目的物の維持・管理に要した費用を所有者に償還請求することができ,償還を受けるまでは目的物を留置することができる(草案 290条)。

  このように占有権は所有権からひとまず区別されている。そして,強暴,隠秘または悪意で占有(権)を奪った者は,占有(権)を奪われた者に対し,目的物およびその占有から得た利益を返還しなければらなず,自己の過失によって生じさせた損害があれば,それを賠償しなければならない(草案 293条)。

  占有権の効果として,反対占有権(adverse possessory right)が認められている。すなわち,動産の場合は 3 年間,土地の場合は 30 年間占有を継続することにより,反 対占有権を取得する。これは所有権と同様の機能をもつものであり,取得時効に相当する。ただし,政府財産,公共財産,コミュニティ財産に対しては,反対占有権は成立しない(時効取得は認められない)。また,契約があればそれが優先する。さらに,強暴または隠秘に行われた占有によっては,反対占有権は取得することができない (草案 292条)。

番人

「反対占有権、か。」

第5項 財産の使用に関する一般規定

 所有権の効果として,目的物の使用権が認められる(草案 295 条)。ただし,ネパ ール政府が公益のために法律に従って個人の財産を取得することは認められる(草案 295 条)。

  何ぴとも他人の財産(権)を侵害してはならない。民法典草案は,この点について 細かな行為規範を定めている(草案 295条 3項・4 項,草案 296 条)。そして,財産 (権)の侵害を予防するための措置(security measure)をとるべき義務まで規定している。もっとも,隣の土地または建物から生じるガス,臭気,煙,騒音は,それが事業によるものでない限り(日常生活上生じるものである場合),自己の土地・建物に 対する侵害とはみなされない(草案 297条) 。

  財産(権)不可侵義務の一環として,何ぴとも土地所有者の書面による同意なしには,他人の土地の上に建物を建築することができないものとされる。もし書面による同意なしに他人の土地の上に建物を建築したときは,以下のように処理される(草案 298 条) 。  ①土地所有者は,もし望むならば,その建物を市場価格よりも 25%安い値段で買い取ることができる。 

②土地所有者が①の買取権を行使しないときは,建物所有者は,土地所有者の同意を得て,当該土地を市場価格よりも 25%高い値段で買い取ることができる。

③土地所有者も建物所有者も①・②の買取権を行使しないときは,建物所有者は当該建物を建築から 6か月以内に収去しなければならない。 

④建物所有者が③の収去義務を履行しないときは,当該建物は土地所有者に帰属する。

  以上の規定は,民法典草案が,土地と建物を別不動産と捉えていることを前提とし ている。 建物を建築する際に,窓を設置するときは,建物を境界から 5フィート以上離さなければならない(草案 299 条)。

何人も雨水や排水を他人の土地や公道に直接に流してはならないほか,トイレ用タ ンクの掘削,井戸の掘削,樹木の植栽等について,相隣関係規定が定められている(草 案 300条~303 条)。例えば,A所有地に植栽された樹木の枝または根がB所有地を 侵害しているときは,「植栽者」は当該枝または根を切除しなければならず,もし植 栽者がそのようにしないときは,Bが自ら当該枝または根を切除することができる。また,Bはその費用を植栽者に対して償還請求することができる(草案 303 条)。も っとも,Aが植栽した土地をCに譲渡した場合は,Cが切除義務を負うと解すべきで あろう。 

なお,相隣関係に関する規定は,次に述べる第 4 章(草案 306 条以下)にも存在する。 

第6項 土地の耕作,使用および登記

  土地所有者Aがその土地の耕作のために通水路を設ける必要があるときは,Aは通 水路の設置を求める土地の所有者Bに同意を求めることができる。その際,Aは代わりの土地の提供,当該土地の市場価格,または合理的な損害の賠償をしなければならない。

ただし,Bの土地が公共財産または政府財産の場合は,この限りでない(無償で利用できる)(草案 307 条)。このほか,流水の利用,通水路の利用に関し,詳細な規定が置かれている(草案 308 条~314条)。河川に隣接する土地の所有者は,河川が流れを変えた場合,その結果生じた土地を取得し,その土地を耕作することができる(草案 314 条)。

  土地の登記に関して,他人の土地を自己の名前で登記してはならない旨が,あえて規定されている(草案 315 条)。そして,土地の所有名義人が死亡した場合,または土地に対する権利が移転したときは,関係者は35日以内に登記の移転を申請しなければならない。35 日を経過したときは,100ルピーを支払わなければならない(草案 316 条) 。

すみれ

「あえて規定されているのか。やる人も多い事情があるのかな。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第7項 用益権 

民法典は用益権(usufruct)について規定を設けた。これは現行法にはない,新たな 制度の導入である。実際に用益権に対するどのような需要がネパール社会あるのか, また,今後民法典が施行され,この制度が導入された場合に,どのような形で利用され,普及してゆくかが注目される。 

用益権は契約または遺言によって設定され,ある財産の所有者Aが他人Bに対し, 当該財産から得られる果実,便益,収入,利用利益等を獲得させるものである(草案 371 条,372 条)。用益権者Bは,あたかも所有者と同様に,当該目的物を利用し, 果実等の利益を享受することができる。

ただし,用益権者は,目的物の性質により, または所有者の事前の同意がなければ,目的財産自体を変更したり,損傷するような利用をすることはできない(草案 376 条)。

用益権の存続期間は契約または遺言によって定められるが,そのような定めがない場合は,用益権者が自然人のときは用益権者が死亡するか,用益権が効力を生じてから 49 年間が経過するか,いずれか早い期限の到来時点で終了する(草案 382 条 1項 a号)。

用益権者が法人のときは,法人が解散するか,用益権が効力を生じてから 29年間が経過するか,いずれか早い期限の到来時点で終了する(草案 382条 1 項 b号)。用益権者が服するある場合は,契約ま たは遺言に別段の定めがない限り,死亡または解散によって用益権を失った者の持分 は所有者に復帰する(草案 382条 3 項) 。

ポリー

「50年は長いという感覚ですね。」

  用益権者は目的物の賃貸や担保設定をすることもできる。そのためには証書を作成 し,登記する必要がある。ただし,賃料が月額 1,000ルピーを超えない場合は,証書の作成を要しない(草案 377条)。また,賃貸や担保設定をしたときは,用益権者は所有者に通知しなければならない。

さらに,用益権の有効期間を超えて存続するよ うな賃貸や担保設定はすることができない(草案 377条 1 項)。また,賃貸や担保設定の証書には,目的財産が用益権の対象財産であることを示さなければならない(草 案 377条 2項)。これに反する賃貸借や担保設定は無効である(草案 377 条 3項)。

  不動産に用益権を設定する場合は,証書を作成し,登録しなければならない(草案 373 条 1項)。家族共同財産に用益権を設定する場合は,家族員の同意を得なければならない(草案 373条 2 項)。用益権者は,所有者と同様の注意義務を負う(草案 378 条 1項)。

また,財産の維持に必要な費用を負担しなければならない(草案 378条 3 項)。なお,目的財産自体の財産税は所有者が支払うが,収益に対する毎年の課税は用益権者が支払わなければ ならない(草案 380 条)。さらに,用益権者は目的物が滅失・損傷を受けないようにしなければならず,滅失・損傷した場合には賠償責任を負う。ただし,自然災害による場合はこの限りでない(草案 379 条)。第三者が目的財産について権利を主張したり,侵害したりしたときは,そのことがあってから 15日以内に所有者に通知しなければならない(草案 381 条) 。  用益権者が目的財産に損害を与えたり,約定どおりの利用をしていないときは,目的物の所有者は用益権の設定を取り消すことができる(草案 383 条)。  他方,用益権者は用益の必要がなくなったときは,少なくとも 45 日前に所有者に通知して,用益権を放棄し,目的物を所有者に返還することができる(草案 384 条) 。 

すみれ

「使っている人に税金の請求がくる仕組みになるんだ。」

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第8項 役権

  役権(servitude)の概念は,現行法には存在せず,民法典によって初めて導入されるものである。民法典草案が導入しようとする役権は,不動産の所有者が,その不動産の便益を増すために,他人の不動産の全部または一部を,その目的に応じて利用す る権利である。役権は,契約によって設定され,または当該不動産が存在する地方の慣習もしくは法律の規定によって認められる(草案 387条)。役権は,承役不動産の譲渡や分割によっても影響を受けずに存続する(草案 389 条 1項・2 項) 。

なお,第Ⅳ部・第 8章が規定する役権には,いわゆる法定役権も含まれている。緊急事態の場合において,犠牲者を救うために,他人の土地や建物を利用する権利である(草案 391 条)。ある土地所有者にとって,公道へのアクセスが自然災害によって遮断された場合は,公道に至るまで他人の土地を合理的な場所と範囲において通行す 権利が認められる(草案 392 条)。

土地の分割や譲渡によって公道に通じない土地を生じるときは,予め通路を確保しなければならない(草案 393条 1 項)。また,ある者の土地に下水道,上水道,電線,ガス管または電話線といった生活上の基本的サ ービスの提供を受ける必要があるときは,その者は他の者がもつ土地を利用し,これらの設備を敷設する権利をもつ。

その場合には,要役財産の所有者は,承役財産の所有者に対し,合理的な損賠賠償の支払義務を負う(草案 394 条)。このほか,通行権 に関するその他の規定(草案 396条,399条。人間による通行のほか,家畜による通 行を認める),水の利用に関する規定(草案 395 条,396条)などがある。

第9項 財産(権)の移転および取得 

売買や交換(草案 459 条参照)による財産(権)の移転は,譲渡人における所有権 の消滅と譲受人における所有権の発生として観念されている(草案 443 条 1項) 。 

共有財産は共有者全員の同意がなければ譲渡できず,同意しない共有者があるときは,他の共有者はその持分を譲渡できるにすぎない(草案 445条)。これは,ごく一 般的に認められる共有法理である。他方,家族共有財産は,家族員の書面による同意がなければ譲渡できない(草案 446 条)。

しかしながら,世帯主は,家計を維持するために必要なときは,動産についてはその財産の全部を,不動産についてはその半分を,家族員の同意なしに譲渡することができる(草案 447条)。この点に,一般の共有財産との違いがある。

すみれ

「世帯主は強いんだね。」

  また,寄付・贈与の場合と同様に,売却等による譲渡の場合にも,他人物譲渡はで きないものとされており,その旨の証書を作成しても無効である。したがって,その ような証書に基づいて引渡しがされたとしても,相手方はそれを所有者に返還しなければならない(草案 448 条 1項~3項) 。 

なお,即時取得制度は認められていない。もっとも,盗品・遺失物が譲渡されたときは,盗難または遺失から 3 年間は,所有者は所有権を証明することにより,取得者に対して返還請求することができる。この場合,取得者はまず当該財産の維持・管理にかかった費用の償還を請求できる。

さらに,取得者が当該盗品・遺失物を公の市場で購入したときは,取得者が当該財産の取得に際して支払った費用,または当該財 産の現実の価値の償還を受けるまでは,当該財産を返還する義務はない(草案 448 条 4 項~6項)。その限りで,取得者は保護されることになる。なお,ここでの取得者は, 善意であることが前提とされているものと解される。 

さらに,やはり寄付・贈与の場合と同様に,二重譲渡はできないものとされている。その結果,不動産の場合には初に証書が作成・登記された譲渡が,動産の場合には初に行われた取得が有効であり,不動産に関する第二の譲渡の証書または動産に関する第二の譲渡行為は無効である(草案 449条) 。

  後に,外国人に対する不動産の譲渡および担保設定は,政府による事前の同意がなければ無効である。政府の事前同意なしに不動産の譲渡行為がされたときは,当該不動産は政府に移転する。譲受人たる外国人は,支払った代価を無担保の債権者として,譲渡人に返還請求するほかない(草案 460 条) 。 

すみれ

「政府の同意を得るのは厳しいのかな。」

第10項 不動産の先買権

  前述したように,ネパールはコミュニティ財産,家族財産等の制度を維持しているが,それと密接に関連する形で,不動産の所有者が当該不動産を譲渡した場合に,当該不動産に対して一定の密接な関係をもつ者による先買権の制度が存在する。

これもネパール民法の特色として看過することができない。  先買(Hak safa)の制度は,すでに現行法に存在し,実際にも利用されている。それに関する規定は,ムルキ・アインの諸章(一般取引,土地の耕作,寄付および贈与,登記に関する章)に分散している。民法典草案は,これを 1章に取りまとめ,包括的に規定しようとするものである。 不動産の所有者が,その不動産を他人に譲渡しようとする場合,当該不動産と一定の緊密な関係をもつ者は,所定の手続に従い,当該不動産を優先的に取得することができる(草案 482条) 。

  そのような先買権をもつ者としては,当該不動産に隣接する不動産を所有する相続 人がある。この相続人は,買主が支払った代価および証書作成費用等を当該買主に提供することにより,当該不動産を優先的に取得することができる(草案 483条 1項)。

 そのような相続人が複数いる場合は,近親の相続人が優先する。そのような相続人が複数いるときは,その全員が平等の割合で先買いすることができる(草案 483 条 2 項)。

近親の相続人が先買権を行使しないときは,次順位の相続人に先買権が移転する(草案 483 条 3項)。さらに,近隣の相続人がいない場合,またはそのような相続人がいても先買権を行使しないときは,当該不動産の賃借人がいれば,その者が先買権をもつ(草案 484条)

なお,建物の一部が売却されたときは,当該建物のたの部分を所有する者が優先的に先買権をもつ(草案 485 条)。ただし,区分所有建物(コンドミニアム)が譲渡されたときは,先買権の規定は適用されない(草案 487 条)。

番人

「コンドミニアムは別扱いか。」

  先買権をもつ者がそれを行使するときは,管轄する土地税事務所で手続を行う。先 買権行使の申立てがあったときは,管轄土地税事務所は初に当該不動産を購入した買主を,交通に要する期間を除き,7日以内に出頭するよう召喚する(草案 488 条)。

  先買権者は,該当不動産の譲渡があったことを知った時から 35日以内,かつ譲渡の登記がされた時から6か月以内に先買権を行使しなければならない(草案490条)。 この期間制限により,不動産売買における取引安全と先買権者の利益保護との調整が図られているものと考えられる。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第11項 権原証書の登記

 不動産の譲渡等,証書の作成・登記が必要な場合が規定されている。これは,すで に現行法であるムルキ・アイン第Ⅲ部・第 21 章に規定されている。民法典草案第Ⅴ 部・14 章はこれを承継し,必要な修正を加えている。  証書は管轄事務所(現行法では,管轄土地税事務所)で登記されなければならず(草 案 491条),登記されない証書は,証書としての法的に承認されない(草案 492 条 2 項)。

証書の作成・登記が必要な場合は,

①不動産の譲渡,

②抵当権(譲渡担保)の設定,

③遺言による不動産の寄付・贈与,

④不動産の交換,

⑤家族共同財産の分割または放棄,

⑥信託の設定,

⑦世帯の分割,

⑧月額 10,000ルピー以上の建物の賃貸借,

⑨不動産に対する用益権の設定,

⑩民法,その他の法律によって登記が必要とされる その他の証書である(草案 492条 1 項)。

 もっとも,法律上登記が必要とされるこれらの証書のほかにも,当事者が任意に証書を作成し,その登記を管轄事務所に求めることができる(草案 493 条),とされていることに留意する必要がある。証書を作成し,登記するためには,所定の費用を支 払わなければならない(草案 497条)。もしも競合する内容の複数の証書が登記されてしまったときは,初の登記が有効 なものとされる(草案 500 条) 。 

第12項 不動産の抵当 

不動産の抵当の制度は,すでにネパールの現行法に存在する。  不動産の抵当には 2種類のものがある。1つは設定と同時に債権者に占有を移す用益抵当(usufructuary mortgage)であり,もう 1 つは設定後,債務者の債務不履行があった時に債権者が占有する権利をもつ非占有抵当(mortgage without possession) である(草案 464条 1項・2 項)。抵当債権者は,用益抵当の場合は証書の登記後ただちに,非占有抵当の場合は債務不履行後 2年以内に占有をしなければならない(草案 466条)。

番人

「質権みたいなものかな。」

用益抵当の債権者は利息を収受することができない一方,非占有抵当の債権者は利息を徴収することができる(草案 470 条)。用益抵当は,証書に別段の定めがない限り,10 年間を超えて占有をすることはできない。

10 年経過後は,たとえ 抵当不動産が返還されなくとも,債権者の債権は無担保債権となる(草案 471条) 。 他方,非占有抵当の存続期間(占有開始前)は 5年間を超えることができず,占有開始後は 10年間を超えて占有することはできない。それを超えて占有しても,無担保の債権となる(草案 472 条)。

いずれにしても,抵当の対象となる不動産は,債権者によって収益可能な性質のものに限られる(草案 464条 3 項)。これは,後述する抵当の執行方法と関連する。また,権原のない不動産を抵当にすることはできない(草案 464条 4項)。

  不動産の抵当を設定するためには,証書を作成し,登記しなければならない(草案 465 条)。  抵当不動産は,その全部もしくは一部,または果実のみを転抵当に付すこともできる(草案 474 条,475条)。しかし,同一不動産を二重抵当に付すことはできない(草 案480条) 。  用益抵当にせよ,非占有抵当にせよ,債権者が当該不動産の占有を始めた後は,その果実等を収取し,債務の弁済に充てることになる。抵当債権者は当該不動産の占有を開始した後は,所有者と同様の合理的な注意をもって当該不動産を管理し,保護する義務を負う。

また,土地税を除き,収益に対する租税は抵当債権者が負担する(草 案 469条)。抵当債権者が抵当不動産に損害を加えたときは,賠償責任を負う(草案 478 条) 。 

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法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第13項 信託(トラスト) 

ある者Aが所有する財産(権)を,他の者Bが,受益者Cのために,必要な運用や管理をするために,信託が設定される(草案 333 条)。

信託は,前述したように,現行法にも存在する制度である。  受益者としては,個人だけでなく,団体,一般公衆,法人,その他の社団も,信託財産から便益を受けるかぎり,受益者として含まれる(草案 333 条説明)。 

すみれ

「あるんだ。」

信託には公的信託と私的信託がある。公的信託は,経済開発のためのインフラ整備や開発事業のために基金を設立し,運営し,利用することなど,公益の増進に寄与することを目的とするものである(草案 334条 2 項)。

これに対し,特定の個人や団体に対する便益,便宜,施設の提供等を目的とするものは,私的信託とされる(草案 334 条 3項)。なお,信託が公的目的と私的目的の双方を達成するために設立されたときは,公的信託とみなされる(草案 334 条 4項)。

番人

「公益、私益じゃなくて、公的、私的っていう呼び方もいいね。」

公的信託と私的信託はいくつかの点で重要な違いがある。例えば,私的信託の場合,信託行為文書(instrument of a trust) に別段の定めがない限り,受益者が 1人でその者が契約を締結するのに必要な能力を具備したとき,または複数の受益者のすべてが能力者となり,かつ全員が同意したと きは,受託者に対し信託財産の移転を指示することができ,かかる指示を受けた受託者はそれに従って信託財産の所有権を移転しなければならない(草案 362条)。

また, 私的信託の場合,受益者は,契約締結するのに必要な能力を具備したときは,受益の全部または一部を放棄することができるが,すべての受益者がすべての受益を放棄したときは,信託は解除されたものとみなされる(草案 363 条) 。 

信託は,信託財産の内容の詳細とその価格,受益者・受益の内容・その条件や期限の詳細等,所定の事項を記載した申請書を登記官に提出することによって行われる。

すみれ

「不動産以外もかな。公正証書のような役割もしているのかな。」

その際には,信託行為文書,受託者の氏名・写真・同意証書,委託者の同一性を証明する文書のコピー,信託の登記料を支払った旨の領収書も併せて提出することが求められる(草案 335条 1項・2 項)。

このうち,信託行為文書には,委託者の氏名・住所等,信託財産の対象と性質,受託者の氏名・住所・職業等,受益者の詳細,信託財産の利用方法,受託者の職務機関や報酬等を受ける場合の詳細,信託の期限・その他 の終了事由とその帰結,信託の運営・管理・監査の方法等を記載しなければならない(草案336条)。

 信託は,所定の手続により,遺言によっても設定できる(草案 335 条 3項)。

外国人または外国法人も信託の設定をすることができる。その場合には,受託者の少なくとも 1 人がネパールに恒常的な住所(permanent residence)をもっていなければならない(草案 335条 4項) 。 

信託の登記申請がされたときは,登記官は信託の目的や信託財産の詳細について必要な質問をしたうえで,合理的であると判断したときは,申請から 35 日以内に,信託の登記を行い,信託登記証明書を発行する。信託は登記によって設立される(草案 337 条 1項・2項)。

ただし,私的信託は,登記をしなくとも運営することができる(草 案 337条 3項)。他方,申請書に不備があったり,信託の名前がすでに登記された信託のそれと同一または類似していたり,信託の目的等が公益上不適切であるとか,違法であるとか,曖昧であって実行可能性がない等の事情がある場合は,登記官は信託の登記を拒絶することができる(草案 338 条)。 

信託が設立されたときは,3か月以内に,委託者は信託財産を受託者に移転しなければならない(草案 339 条 1項) 。この期間内に信託財産が移転されなかったときは, 信託は解除されたものとみなされ,登記は効力を失う(草案 340 条)。

  受託者は,信託行為文書に別の定めがない限り,委託者が指名する。受託者が信託行為文書で指定されていなかったり,委託者が指名しなかったりして,決まらないと きは,委託者自身が受託者とみなされる(草案 343条 2項・3 項)。受託者の数は, 低 1 名・大 7 名とされる(草案 345条)。法人も受託者となることができる(草案 346条) 。

 受託者の権限については,さまざまな規制がある。例えば,受託者は,信託行為文書に別段の定めがない限り,管轄登記官の事前の同意なしには,信託財産たる不動産の全部または一部を売却および担保とすることができない(草案 341 条)。

また,信託財産から取得された収益で,信託目的の達成のためにただちに必要とされないものは,信託行為文書に別段の定めがない限り,信託目的の達成のための投資に利用することができる。その際には,信託行為文書に別段の定めがない限り,低 25%はネ パール国債の購入に充てなければならない。

すみれ

「国債買う義務があるの。」

また,商業銀行の定期預金口座への預金は大 25%にとどめなければならない。さらに,開発銀行の定期預金口座への預金は大 10%,商業銀行の普通株の購入は大 5%,融資会社の定期預金口座への預金は大 10%,公開有限会社の普通株の購入は大 5%に制限されている(草案 342 条 4項)。

  受託者がその義務の履行に反し,受益者に損害を与えたときは,その損失を補填しなければならない。義務に違反した受託者が複数いる場合は,連帯責任を負う(複数の受託者がただちに連帯責任を負うのではない)(草案 357 条 3項・4 項) 。 

受託者が欠けた場合において(草案 347 条参照),信託行為文書に受託者の承継者名簿が付されていないときは,受託者の死亡により,長男,義理の娘または娘がその順で受託者の地位を承継する。この者が能力者でないときは,その後見人が代理して受託者の職務を行う(草案 348 条)。  信託財産は,課税上は受託者の財産とはみなされず(草案 366 条),実質的に受益者の財産として取り扱われる(草案 364条)。

  なお,信託財産について,例えば,受託者が横領,詐欺等をした場合に,受益者がその責任を追求するときは,受益者の権利は消滅時効にかからない(草案 370条)。そのようにして受託者の重い責任が維持されている。 

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第14項 寄付および贈与

  寄付(donation)とは,ある財産の所有者が他人または他の組織に対し,宗教的・社会的・公益的な利益またはコミュニティの利益のために,当該財産を譲渡するもので ある。

それは,相続人に対して行うことはできない(草案 424条 1項)。

  他方,贈与(gift)とは,ある財産の所有者が他人または他の者に対し,その功績を讃えたり,贈与者の利益(見返り)を期待したり,家族員に対する愛情等に基づいて,当該財産を譲渡するものである。それは,相続人に対しても行うことができる(草案 424 条)。

  寄付・贈与は,現金または 1,000 ルピーの価値を超えない動産を除き,証書を作成して行わなければならない(草案 432 条) 。いずれにせよ,寄付・贈与は合意に基づくものであるから,相手方が寄付・贈与の 受領を拒絶したときは,贈与は無効である(草案 435 条)。 

寄付者は,相手方が寄付者に対して犯罪を犯したときは,寄付を撤回することがで きる(草案 437 条 a号)。また,贈与者は,受贈者が贈与者に対して誤った申立てや告訴をしたときは,贈与を撤回することができる(草案 437 条 b号)。さらに,受贈 者が贈与の証書に規定された義務履行等をしなかったときも,贈与者は贈与を撤回す ることができる(草案 437 条 c号) 。 

興味深いことに,民法典草案は,他人物寄付・贈与および二重寄付・贈与を禁止している。他人物寄付・贈与はしてはならないものとされ(草案 425条),二重寄付・ 贈与行為が行われたときは,第一寄付・贈与のみが有効で,第二寄付・贈与は法的に 無効であるとされる(草案 426 条)。 

第15項 建物の賃貸借

 建物の賃貸借に関する規定が第Ⅳ部・第 9章に編入されている点に,民法典草案の 1 つの特色が認められる。

 建物賃貸借の長存続期間は5年間とされている(合意による更新は何度でも可能) (草案 403条)。  賃貸人の義務としては,賃借人に利用させる義務,特別の合意がない限り,水道・ 電気・下水道のサービスを供給し,衛生状態を維持する義務,住居の安全を確保する義務,その他合意を遵守する義務がある(草案 407条)。また,土地および建物の税金は,所有者(賃貸人)が支払義務を負う(草案 410 条)。

  賃借人の義務としては,約定通りに賃料を支払う義務,自己の所有物と同じように建物の安全,衛生状態を保ち,損傷しないように注意する義務,隣接居住者の安全を脅かさない義務,その他合意を遵守する義務がある(草案 408条)。

また,事業のために建物を賃借する者は,損害保険契約を締結する義務を負う(草案 411条)。もし この賃借人が損害保険に加入していなかったときは,建物に生じた損害は,自然災害 や暴動,放火等によるものであっても,その危険は賃借人が負担すべきことになる。 また,建物の修繕義務は,別段の合意がないときは,賃借人が負担する(草案 412条) 。

 賃借人は,賃貸人の同意がある場合にのみ,目的建物の全部または一部を第三者に転貸することができる(草案 413条)。  賃借人は存続期間の満了前であっても賃借権を放棄して建物から退去することはできるが,少なくとも 35 日前に書面で賃貸人に通知しなければならない。他方,賃借人は,賃貸人が当該建物を自ら使用する必要が生じ,少なくとも 35 日前に文書で明渡しを請求してきたときは,明け渡さなければならない(草案 419 条 1 項 c 号))。

また,賃借人が賃料を支払わずに 3 か月以上行方不明のときは,賃貸人は賃借人が建 物に置き去った物を留置し,地方政府の代表者,警察官または警察官が利用困難なと きは当該地方の 2 人の者を証人として,その物を自己に帰属させることにより,未払賃料(の一部)を回収することができる(草案 422条)。  以上のように,概して,賃貸人の権利・義務と賃借人のそれらとを比較すると,賃貸人に相対的に有利な規定であると考えられる。 

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第16項 一般取引に関する規定 

一般取引(消費貸借取引)が財産法に編入されていることも,民法典草案の特色である。これも現行法に由来する。これは,当事者の一方が他方から,一定量の金銭,その他の物を受領したときは,受領者が同じ(種類・品質・数量)の物を返還するものとされた場合に成立する(草案 502 条)。これは消費貸借取引に相当するが,かならず証書を作成・登記して行わなければならない(草案 504 条)。

すみれ

「ここでも登記か。」

証書には,取引当事者(婚姻している場合には,その配偶者),その父母,祖父母の氏名・年齢・ 住所,取引が行われた理由,取引の量,物の価格・性質,借入額(取引がそれに当たる場合),利率(利息の約定がある場合),借主の債務不履行の場合に債権者が返還を 受けるべき代わりの財産があるときはその内容,証書の登記場所と日時,その他取引 の性質上必要な事項が記載されなければならない(草案 505 条)。

このように一般取引は,消費貸借などに用いられるが,不動産取引と同様に,証書の作成・登記によっ て行われる点で,財産編の中に編入されていると考えられる。  証書に利息の約定が記載されていないときは,債権者は債務者に利息の支払いを請求することができない(草案 507条) 。

第3節 小括

ネパールにおける財産法の特色として,以下の点が挙げられる。

第1項 財産(権)の概念について 

①財産と財産権の区別(一般的に権利とその客体との区別)は必ずしも明確ではないように思われる。 

②動産の概念が広く,知的財産(権)や有価証券を含むものと観念されている。

③土地と建物は別不動産と捉えられている(草案 298条参照)。

④法律に別段の定めがない限り,「配偶者によって取得された財産」やそれに由来する財産は夫婦による家族共同財産とみなされており,夫婦をはじめとする家族員のコミュニティの観念が根強い。

⑤公共財産と区別されたコミュニティ財産が存在する。それは土地税事務所により, 当該コミュニティの名前で登録され,管理される。

⑥政府財産は各省庁の機関が独自に所有するものと構成されている。 

第2項 財産(権)の取引について

①全体として,動的安全よりも,静的安全を重視している。財産の意義,所有形態, 利用についての規定が,財産の取引や担保化についての規定に先立つ。 

②寄付・贈与に関して,他人物寄付・贈与および二重寄付・贈与を禁止している。 他人物寄付・贈与はしてはならないものとされ(草案 425。行為規範的),二重寄付・ 贈与行為が行われたときは,第一寄付・贈与のみが有効で,第二寄付・贈与は法的に無効であるとされる(草案 426 条)。

③売却等による譲渡の場合にも,他人物譲渡はできないものとされており,その旨の証書を作成しても無効である。したがって,そのような証書に基づいて引渡しがされたとしても,相手方はそれを所有者に返還しなければならない(草案 448条 1 項~3 項) 。 

また,二重譲渡もできないものとされている。その結果,不動産の場合には初に証書が作成・登記された譲渡が,動産の場合には初に行われた取得が有効であり, 不動産に関する第二の譲渡の証書または動産に関する第二の譲渡行為は無効である(草案 449条) 。 

④即時取得制度は認められていない。もっとも,盗品・遺失物が譲渡されたときは, 盗難または遺失から 3年間は,所有者は所有権を証明することにより,取得者に対して返還請求することができる。この場合,取得者はまず当該財産の維持・管理にかかった費用の償還を請求できる。さらに,取得者が当該盗品・遺失物を公の市場で購入したときは,取得者が当該財産の取得に際して支払った費用,または当該財産の現 実の価値の償還を受けるまでは,当該財産を返還する義務はない(草案 448条 4 項~6 項)。その限りで,取得者は保護されることになる。

なお,ここでの取得者は,善意であることが前提とされているものと解される。

 ⑤不動産の譲渡に対しては,近隣の親族等の先買権という大きな制限が付着している。もっとも,先買権の行使期間をある程度制限することにより,取引安全との調整を図っている。  

⑥財産所有権の移転は,動産の場合は引渡主義,不動産の場合は登記主義をとっている。これは現行法を承継するものであり,コモン・ローをの考え方をベースにするものと解される。

第3項 担保について

  担保権については,占有担保(不動産質)のタイプと非占有担保(譲渡担保)のタ イプがある。いずれも執行の便宜を相当考慮している。すなわち,前者の場合は,基 本的に果実を担保権者に帰属させることによる。後者の場合は,基本的に非占有担保 (譲渡担保)権者が目的物の所有権を取得し,または処分することによる。これは, 執行システムの未整備をカバーするための工夫と解することもできる。 

第4項 その他  ①信託(トラスト)を民法典に導入している。これは,コモン・ローとシビル・ロ ーとの折衷構造の一例といえる。  ②何ぴとも他人の財産(権)を侵害してはならないといった,細かな行為規範を定 めている(草案 295条 3 項・4 項,草案 296条)。これらはある意味では当然のこと ともいえるが,それらをあえて規定している点に,行為規範を重視するネパール民法 の特色がよく表れているといえよう。

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

第4節 小括 

これまでの検討を踏まえて、ネパール契約法および不当利得法・不法行為法の現状 と今後の立法動向について所見を述べる。 

現在のネパールにおいて契約法を規律する主たる法律は、1854 年に制定された「ム ルキ・アイン」 (1963年に一部改正)と 2000 年に制定された「契約法」であり、前者は「賃金」 、「一般取引」(金銭消費貸借・使用貸借契約)、および、「寄附・贈与」 に関する規定を、また、後者は、契約法の一般規定(成立要件、有効要件、履行・義務、違反・救済)と幾つかの個別契約に関する規定(保証・補償契約、寄託契約、担保・預託契約、物品売買契約、代理契約、貨物運送契約)を置く。

後者の制定法は、 イギリスの判例法を成文化して制定されたインドの「1872 年契約法」を模範としているが、あくまでもネパール側が主体的、選択的に同法の一部を取り入れたという経緯があり、その内容は必ずしも同一ではない。しかし、 「2000 年契約法」の構成や内容が英米法の影響を強く受けているのは事実である。それに対して、前者のムルキ・ アインにおいて規律される契約は、ネパールの慣習法や法実務に基づいた内容となっている。

  2010年に完成した「民法典草案」においては、上述した二つの現行法の契約法に関わる諸規定が、一定の修正や新設条項を盛り込みつつ、同草案の第 4部(財産法)の一部と第 5 部(契約法および義務に関する法)に踏襲されている。

従って、将来、 同草案をベースとした民法法案が公布・施行されたとしても、現行法上の規律と大きな乖離はなく、ネパールにおける契約法実務が混乱するような事態にはならないと予 想される。

 もっとも、今回の民法典草案の起草過程では、契約法の統一を目指す国際的な趨勢をも視野に入れて、現行ネパール契約法の「現代化」が図られた部分も多く見られる。

例えば、

①契約の解釈に関する一般規定の導入、

②共通錯誤や一部無効の規定の導入、

③契約が取り消された場合の第三者保護規定の導入、

④事情変更の原則の効果として の契約改訂権・再交渉権の導入、

⑤履行遅滞に関する規定の導入、

⑥物品売買契約における売主の保証責任規定の充実化、

⑦保証契約における継続的保証の導入、

⑧代理契約における表見代理規定の充実化、

⑨被用者 10名以下の雇用契約を規律するルー ルの充実化などが挙げられよう。

また、今回の民法典草案では、

⑩賃貸借契約(建物 賃貸借を除く)と

⑪分割払い契約に関する章が新設され、これらの契約を規律するル ールが置かれることとなった。

 残された課題としては、

①一方的錯誤を規律するルールの不備、

②契約違反に対する救済としての損害賠償につき、その範囲を確定するルールが精緻化されていない点、

③過失相殺に関する規定の不備、また、

④多数当事者間の債権債務関係を規律するル ールが単純であることなど、これらは幾つかの例にすぎないが、個々の契約ルールに 関して今後改善を期待したい点がある。

また、贈与契約や金銭消費・使用貸借契約に関する規定が第 4部の財産法に置かれており、賃貸借契約に至っては、建物賃貸借が第 4 部に、その他の賃貸借が第 5部に規律されているなど、契約法の体系性という観点からは分かりにくい構成となっている。

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2016年加工編

法務省調査研究報告 ネパールにおける現行民事法の現状と今後の立法動向より抜粋

その他、消費者契約や電子的取引への対応なども、今後の課題として浮上するであろう。  後に、比較法的見地から見た(ネパール民法草案における)契約法の位置づけについて言及する。民法典草案における契約法の多くの部分が、現行の「2000 年契約法」を踏襲している結果、同草案の契約法ルールも英米法(とりわけインド契約法) の影響を強く受けていると評価できる。

しかし、それは英米法系に属する契約法であることを意味しない。例えば、英米法系の契約法の特徴として、契約の成立要件として「約因」を要求すること、また、契約責任は帰責事由を要しない厳格責任であるこ となどが挙げられるが、ネパール民法においては、前者の要件は不要としており、後者の点については過失責任を想定した規定も置く。また、今回の契約法の現代化の過程では、CISG や PICC などの国際取引に関わる条約やモデル法を参考にしたルール も導入しており、さらには、ネパール慣習法やムルキ・アインの影響も残っている。

以上のことから、ネパール民法における契約法は、英米契約法のルールや構成を基礎としつつも、それに限定されない多様なルールを内包した内容となっているのである。

  民法典草案第 5 部に導入された「準契約」、「不当利得」 、「不法行為」および「欠陥 製品に対する責任」の各章は、すべて新設規定である。不当利得法については、英米法系の「準契約」と大陸法系の「不当利得」の両制度を導入している点は比較法的に見てユニークであり、家族法、財産法、また契約法を補充するルールとして、その運用が期待される。

不法行為法についていえば、現在のネパールには、わずかの個別立法を除けば、一般不法行為法に対する規律は存在せず、他者への侵害行為はもっぱら刑事責任を課すことで対応している。その意味で、民法典草案に「不法行為」に関する章が設けられた意義は大きい。

もっとも、契約責任が認められる場合や、侵害行為が刑事責任を問われる場合には、不法行為責任は成立しないので、同責任が生じる場面は限定されている。その克服が今後の課題だと思われる。不法行為法の内容それ自体は、日本民法上の不法行為規定と類似している点が多いが(過失責任主義を前提とする)、いずれにせよ、不法行為法は「判例法による法形成」による発展が期待される領域であるため、同章で規定された不法行為法がネパール社会においてどのように 定着、進展していくかは未知数である。なお、併せて導入された「欠陥製品に対する 責任」(製造物責任)の章についても、同じことが当てはまるであろう。

第5章 むすび 

現行ネパール民法は、すでに指摘したように民事法と刑事法、実体法と手続法が混在しているために、紛争処理基準としては極めて使い勝手の悪いものである。また、 発展するネパール社会の現実にも十分応じることができないものとなっている。そこで、2010 年民法典草案が作成されたが、ネパールの不安定な政治状況のもとで、制定のめどは立っていない現状にある。

番人

「草案ができても、大変だね。」

2010 年民法典草案は、現行法に比べると、構成が全面的に変わっただけでなく内容の整理や新たな規定の追加などにより整備されたものとなっている。ただ、新たな立法をめぐっては、裁判官や検察官の間では理解は広まるとしても、利用者である国民にどのようにして周知していくのかを含め弁護士への実効性ある情報提供をどのようにするのか、弁護士の中には現行法でも取り立てて問題はないという意見への対応など、多くの課題が残されている。

さらに、すでに触れたように、新法案は現状に「妥協する」部分もあって近い将来に制定されたとしても、施行後には修正の必要が出てくると思われる。また、立法作業に時間を要することになると、法案を修正する必要があるとの指摘もでてくることも予想され、 民法草案をめぐる状況は現段階では流動的と言えよう。

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ベトナム社会主義共和国 2020 年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト (PHAP LUAT 2020)より

2016年加工

2020 年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト (PHAP LUAT 2020)より

国会 ベトナム社会主義共和国

法律番号:91/2015/QH13 独立・自由・幸福

民法典

ベトナム社会主義共和国憲法に基づき, 国会は民法典を発行する。

第四編 相続

第XXI章 総則

第609条 相続権

個人は自己の財産の処分のために遺言を作成し,法令に基づいて相続人に自己の財産を残し,遺言又は法令に基づいて遺産を享受する権利を有する。

個人でない相続人は遺言に従って遺産を享受する権利を有する

第610条 個人の相続に対する平等権

すべての個人は,自己の財産を他人に残す権利,遺言又は法律に基づいて遺産を享受する権利に関して平等である。

第611条 相続開始の時点・場所

1. 相続開始の時点は,財産を有する者が死亡した時点である。裁判所が人の死亡宣告をした場合,相続開始の時点は,本法典第71条2項で確定される日である。

2. 相続開始の場所は,遺産を残した者の最後の居所である。最後の居所が確定されない場合,相続開始の場所は,遺産の全部がある場所又は大部分がある場所である。

第612条 遺産

遺産は,死亡した者の固有の財産,他人との共有財産のうち死亡した者の財産持分から構成される。

第613条 相続人

個人である相続人は,相続開始時点において生存している者又は遺産を残した者が死亡する前に胎児となって相続開始時点の後に出生し生存している者でなければならない。遺言に基づく相続人が個人でない場合,相続開始時点において存在していなければならない。

第614条 相続人の権利と義務の発生時点

相続開始時点から,相続人は死亡した者が残した財産に対する権利,義務を有する。

第615条 死亡した者の残した財産的義務の履行

1. 他の合意がある場合を除き,相続人は,死亡した者の残した財産の範囲内で財産的義務を履行する責任を負う。

2. 遺産が分割されていない場合,死亡した者の残した財産的義務は,遺産管理者によって,死亡した者の残した財産の範囲内で,各相続人との合意に基づいて履行される。

3. 他の合意がある場合を除き,遺産が分割された場合,各相続人は,死亡した者の残した財産的義務を,自己が受け取った財産部分を超えないように履行する。

4. 個人でない相続人が遺言に基づいて遺産を享受する場合,個人の相続人と同じように死亡した者の残した財産的義務を履行しなければならない。

第616条 遺産管理者

1. 遺産管理者は,遺言により指定された者又は各相続人との合意により選定された者である。

2. 遺言で遺産管理者を指定せず,各相続人がまだ遺産管理者を選定できない場合,遺産を占有し,使用し,管理している者は,各相続人が遺産管理者を選定できるまで,その遺産を引き続き管理する。

3. この条第1項及び第2項の規定に基づき相続人がまだ確定されず,遺産管理者がまだいない場合,その遺産は権限のある国家機関によって管理される。

第617条 遺産管理者の義務

1. 本法典第616条1項,3項に規定する遺産管理者には,次の義務がある。

a) 遺産のリストを作成する;法律の他の規定がある場合を除き,他人に占有されている,死亡した者の遺産に属する財産を回収する。

b) 遺産を保管する;文書による各相続人の同意を得なければ,財産の売却,交換,贈与,質入れ,抵当の設定又はその他の形式による財産の処分をすることができない。

すみれ

「日本の遺言執行者とは、また違うみたい。」

c) 各相続人に遺産の状態について通知する。

d) 自己の義務に違反して損害を加えた場合,損害を賠償する。

đ) 相続人の請求に基づき遺産を引き渡す。

2. 本法典第616条2項に規定する遺産の占有者,使用者,管理者には,次の義務がある。

a) 遺産を保管する;財産の売却,交換,贈与,質入れ,抵当の設定又はその他の形式による財産の処分をすることができない。

b) 各相続人に遺産について通知する。2020年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト(PHAPLUAT2020)

c)自己の義務を違反して損害を加えた場合,損害を賠償する。

d)遺産を残した者との契約による合意又は相続人の請求に基づき遺産を引き渡す。

第618条遺産管理者の権利

1. 本法典第616条1項,3項に規定する遺産管理者は,次の権利を有する。

a) 相続財産に関係する第三者との関係において相続人を代理する。

b) 各相続人との合意により報酬を得る。

c)遺産の保管費用の支払いを受ける。

2. 本法典第616条2項に規定する遺産の占有者,使用者,管理者は次の権利を有する。

a) 遺産を残した者との契約による合意又は相続人の同意に基づき,遺産を引き統き使用することができる。

b) 各相続人との合意に基づき報酬を得る。

c)遺産の保管費用の支払いを受ける。

3.各相続人間で報酬額について合意に達しない場合,遺産管理者は合理的報酬額を得る。

第619条同時点に死亡した互いの遺産の相続権を有する複数の者の相続

互いの遺産の相続権を有する複数の者が,同時点で共に死亡したか,いずれの者が先に死亡したか確定できないことにより同時点に死亡したと見なされる場合(以下,「同時点で共に死亡した」と総称する。),それらの者は,互いの遺産を相続することができない。各自の遺産は,その者の相続人によって受け取られる。ただし,本法典第671条の規定に基づく代襲相続の場合を除く。

第620条遺産受領の拒否

1. 相続人は,遺産の受領を拒否する権利を有する。ただし,その拒否が他人に対する自己の財産に関する義務の履行を逃れる目的である場合を除く。

2. 遺産受領の拒否は,文書によりなされ,周知のため遺産管理者,他の各相続人,遺産分割の任務を引き受ける者に通知されなければならない。

3. 遺産受領拒否は,遺産分割前に表明されなくてはならない。

すみれ

「相続放棄のようなものかな。」

第621条遺産を享受する権利のない者

1. 次の者は,遺産を享受する権利がない。

a) 遺産を残した者に対する故意による生命・健康の侵害行為又は著しく苛め,虐待する行為,その者の名誉,人格を著しく侵害する行為に関して有罪判決を受けた者

b) 遺産を残した者に対する扶養義務に著しく違反した者

c)他の相続人が享受する権利のある遺産の一部又は全部を得る目的で,他の相続人の生命を故意に侵害した行為に関して(有罪)判決を受けた者

2020年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト(PHAPLUAT2020)

d)遺産を残した者の意思に反して遺産の一部又は全部を得る目的で,遺言の作成において,遺産を残した者に対して詐欺,強追又は妨害;遺言の偽造,遺言の変造,遺言の破損,遺言の隠匿をする行為をした者

2. 遺産を残した者が,この条1項に規定する者の行為を知っているが,そのまま遺言に従って遺産をそれらの者に提供する場合は,それらの者は,遺産を享受する。

第622条実際に相続する者4がいない財産

遺言,法令に従った相続人がいない場合,又は相続人がいるが,遺産を享受する権利がないか,遺産の受領を拒否する場合,財産に関する義務を履行した後に残った,実際に相続する者がない遺産は国家に属する。

第623条相続の時効

1. 相続人の分割請求の時効は相続開始から不動産につき30年,動産につき10年である。この期間が満了したときは,遺産はその遺産を管理している相続人に属する。遺産を管理している相続人がいない場合,遺産は次のように解決される。

a) 本法典236条の規定に基づき遺産を占有する者の所有権に属する。

b) この項第a号に規定する占有者がいない場合は,遺産は国家に属する。

2.相続人が自らの相続権の確認又は他人の相続権の否認を請求する時効は,相続開始から10年である。

3.相続人に対する死亡した者が残した財産についての義務履行請求権の時効は,相続開始から3年である。

第XXII章遺言による相続

第624条遺言遺言は,死亡時に,他人に自己の財産を移転することを目的とする個人の意思を表明するものである。

第625条遺言者

1. 本法典第630条1項a号の規定に従った条件を十分に備える成年者は,自分の財産を決定するため遺言をする権利を有する。

2. 満十五歳から十八歳未満の者は,遺言をすることにつき父,母,又は後見人の同意を得たときは,遺言をすることができる。

第626条 遺言者の権利

遺言者は,次の権利を有する。

1. 相続人を指名する。相続人の遺産を享受する権利を排除する。

2. 各相続人に対する遺産の分け前を決める。

3. 遺贈,祭祀のために遺産における財産の一部を保存する。

4. 相続人に義務を引き受けさせる。

5. 遺言保管者,遺産管理者,遺産分割者を指名する。

第627条 遺言の形式

遺言は文書によりなされなければならない;文書により遺言することができないときは,口頭で遺言することができる。

第628条文書による遺言

文書による遺言は,次のものからなる。

1. 証人のない文書による遺言

2. 証人のある文書による遺言

3. 公証された文書による遺言

4. 確証された文書による遺言

第629条 口頭による遺言

1. ある者が,死亡の危急に迫っており,文書による遺言をすることができない場合,口頭による遺言をすることができる。

2. 口頭による遺言をした時点から3か月の後,遺言者が存命で意識がはっきりする場合,口頭による遺言は当然取り消される。

第630条 合法的な遺言

1. 合法的な遺言は,次の条件を満たすものである。

a) 遺言者は,遺言作成時において,意識がはっきりしていて,詐欺,強迫,強制を受けていない。

b) 遺言の内容が法律の禁止事項に違反せず,社会道徳に反しない。遺言の形式が法律の規定に反しない。

2. 満十五歳から満十八歳未満の者の遺言は,文書によりなされなければならず,父,母,あるいは後見人の遺言作成についての同意を得なければならない。

3. 身体障害者又は識字できない者の遺言は,証人が文書で作成して,公証あるいは確証されなければならない。

4. 公証,確証のない文書による遺言は,この条第1項に規定される各条件を全て満たす場合に限り,合法的と看做される。

5. 口頭で遺言をする者が少なくとも二人の証人の前で最後の意思を表明して,その表明の日の後に証人が筆記してその文書に共に署名するか又は指印を押した場合,その口頭による遺言は,合法的なものと看做される。口頭で遺言をする者が最期の意思を表明した日から5営業日以内に,遺言は公証人あるいは確証権限を有する機関により証人の署名又は押印を確認されなくてはならない,

第631条 遺言の内容

1. 遺言は,次の主要な各内容からなる。

a) 遺言をした年月日

b) 遺言者の氏名と居所

c) 遺産を受領する,個人の氏名,機関,組織の名称

d) 残した遺産と遺産の存在場所

2. この条第1項で規定する各内容のほか,遺言はその他の各内容を有することができる。

3. 遺言を略字や記号で書くことはできない。遺言が複数の頁により構成されているときは,各頁に番号を記し,遺言者が署名又は指印する。

遺言が消去,修正された場合,遺言を自ら書いた者又は遺言の証人は,消去,修正の隣に,名前を記載しなければならない。

第632条 遺言の証人

次の場合を除き,何人も遺言の証人となることができる。

1. 遺言者の遺言又は法令による相続人

2. 遺言の内容に関係する財産の権利,義務を有する者

3. 未成年者,民事行為能力喪失者,行為認識制御困難者

第633条 証人のいない文書による遺言

遺言者は,自筆で遺言書を書き,署名しなければならない。

証人のいない文書による遺言は,本法典第631条の規定を遵守しなければならない。

第634条 証人のいる文書による遺言

遺言者が自筆で遺言書を書かない場合,遺言書を自らタイプ打ちをする,又は他人に書くこと若しくはタイプ打ちをすることを依頼することができるが,少なくとも二人の証人がいなければならない。遺言者は,証人の面前で遺言書に署名し,又指印をしなければならない。証人は,遺言者の署名又は指印を確認し,その遺言書に署名する。

証人のいる文書による遺言をするにあたっては,本法典第631条及び第632条の規定を遵守しなければならない。第635条 公証又は確証のある遺言

遺言者は,遺言書の公証又は確証を請求することができる。

第636条 公証営業組織又は社級人民委員会における遺言の作成の手続

公証営業組織又は社級人民委員会における遺言の作成は,次の手続を遵守しなければならない。

1. 遺言者は,公証人又は社級人民委員会の確証権限者の前で,自分の遺言の内容を宣言する。公証人又は社級人民委員会の確証権限者は,遺言者が宣言した遺言の内容を書き取らなければならない。遺言書が,正確に書き取られ,自分の意思が適切に表明されたことを確認した後,遺言者は,その遺言書に署名し,又は指印を押す。公証人又は社級人民委員会の確証権限者は,遺言書に署名する。

2. 遺言者が遺言書を読めない,又は聞けない,署名できない,指紋を押すことができない場合,証人を依頼し,その証人は,公証人又は社級人民委員会の確証権限者の面前で,確認署名をしなければならない。公証人又は社級人民委員会の確証権限者は,遺言者及び証人の面前で遺言書を認証する。

第637条 遺言を公証し,確証することのできない者

公証人,社級人民委員会の確証権限者が次の各場合のいずれかに属する場合,遺言を公証し,確証することができない。

1. 遺言者の遺言又は法令に基づく相続人

2. 遺言又は法令に基づく相続人である父,母,妻又は夫,子がいる者

3. 遺言の内容に関係する財産の権利,義務を有する者

第638条 公証され,確証された遺言と同一の価値を有する文書による遺言

1. 公証又は確証を請求することができない場合に,大隊以上の隊長に確認される軍人の遺言

2. 船,飛行機に乗っている者の,その船,飛行機の長によって確認される遺言

3. 病院,治療施設,その他静養施設で治療している者の,病院,施設の責任者に確認される遺言

4. 山岳地帯,島嶼部において考察,探査,研究をしている者の,部門責任者によって確認される遺言

5. 外国滞在中のベトナム人の,その国のベトナムの領事機関,外交代表者に承認される遺言

すみれ

「これはベトナムの人にとっては良いかも。」

6. 臨時的に拘置されている者,暫定留置されている者,監獄にいる者,教育施設, 治療施設において行政処罰措置を受けている者の,その施設の責任者に確認される遺言

第639条 公証人によって遺言者の所在地で作成される遺言

1. 遺言者は,公証人に対し,自己の所在地に来て遺言を作成するよう請求することができる。

2. 遺言者の所在地で作成する手続は,本法典第636条の規定に基づき公証営業組織における手続と同じように行われる。

第640条 遺言の修正,補充,代替,撤回

1. 遺言者は,いつでも遺言を修正し,補充し,代替し,撤回することができる。

2. 遺言者が遺言を補充する場合,作成済みの遺言と補充した部分は,同等の法的効力を有する。作成済みの遺言の一部と追加した部分が矛盾するときは,追加した部分のみ,法的効力を有する。

3. 遺言者が新遺言を遺言に代替する場合,前の遺言は撤回される。

第641条 遺言の寄託

1. 遺言者は,公証営業組織に対し,遺言書を保管するか,他者に遺言を寄託するよう請求することができる。

2. 公証営業組織が遺言書を保管する場合,本法典又は公証に関する法令の規定に基づき保管,保存しなければならない。

3. 遺言書を保管する者は,次の義務がある。

a) 遺言の内容の秘密を保持する。

b) 遺言書を保存,保管する;遺言書を紛失し,破損した場合,遺言者に直ちに通知しなければならない。

c) 遺言者が死亡した時,遺言書を相続人又は遺言を公表する権限を有する者に引き渡さなければならない。遺言書の引渡しは,文書によりなされなければならず,少なくとも二人の証人の前で,引渡人と受取人に署名される。

すみれ

「コピーはもらえないのかな。」

第642条 紛失し,破損した遺言

1. 相続開始の時点以降,遺言書が紛失又は破損して,遺言者の意思が十分に表明することができず,遺言者の願望を事実どおりに証明する証拠がない場合,遺言がないと看做され,法定相続に関する規定を適用する。

2. 遺産がまだ分割されないうちに遺言が見つかった場合,遺産は,その遺言に従って分割される。

3.遺産分割請求の時効期間経過前で,遺産分割後に遺言を見つけた場合,遺言に従った相続人が請求すれば,遺言に従って再分割しなければならない。

第643条 遺言の効力

1. 遺言は,相続開始の時点から効力を有する。

2. 遺言は,次の場合において,全部又は一部の効力を有しない。

a) 遺言に従った相続人が,遺言者より前に又は同時に死亡した

b) 相続人であると指定された組織,機関が相続開始時に存在しない。

遺言に従った相続人が複数いるが,その中に遺言者より前に若しくは同時に死亡した相続人がいる,又は遺言に従った相続人であると指定されたいずれかの機関,組織が相続開始時に存在しない場合,その個人,機関,組織に関係する遺言の部分のみが効力を有しない。

3. 相続人に残された遺産が相続開始の時点において存在しない場合,遺言は効力を有しない;相続人に残された遺産の一部だけが存在する場合,存在する遺産に関する遺言の部分は効力を有する。

4. 遺言に合法でない部分があるが,残りの部分に影響を与えない場合,その合法でない部分のみが効力を有しない。

5. 一人の者が,一つの財産に対して複数の遺言書を残した場合,最後の遺言書のみが効力を有する。

第644条 遺言の内容にかかわらない相続人

1. 遺言者から遺産を享受させてもらえない又は遺産が法律に基づき分割された際の法定相続人の一人分の三分の二より少ない遺産の分しか享受することができない場合,次の者は,法定相続人の一人分の三分の二と同等の遺産の分を享受することができる。

a) 未成年の子,父,母,妻,夫

b) 成年者となっているが,労働能力がない子

2.この条1項の規定は,本法典第620条の規定に基づき遺産受領を拒否した者,又は第621条1項の規定に基づき遺産を享受する権利を有しない者に対しては適用されない。

第645条 祭祀に用いられる遺産

1. 遺言者が遺産の一部を祭祀用に残した場合,その遺産の分は相続の対象にならず,遺言で指定された者に引き渡され,祭祀のために管理される;指定された者が遺言を適切に,又は各相続人の合意に基づいて実施しない場合,各相続人は,祭祀用の遺産を祭祀のために管理するその他の者に引き渡す権利を有する。

遺言者が祭祀用の遺産管理者を指定しない場合,各相続人は,祭祀用の遺産管理者を選任する。

遺言に従った相続人全てが死亡した場合,祭祀用の遺産は,法定相続人の中でその遺産を合法的に管理している者に属する。

2. 死亡した者の全財産がその者の財産義務を精算するのに十分ではない場合,祭祀用の遺産を残すことができない。

第646条 遺贈

1. 遺贈とは,その他の者に贈与するために,遺言者が遺産の一部を残すことである。遺贈は遺言に明確に記載されなければならない。

2. 受遺者が個人の場合,相続開始時点において生存している又は遺産を残した者が死亡する前に胎児になって相続開始の後に出生し生存していなくてはならない。受贈者が個人でない場合,相続開始時点で存在していなくてはならない。

3. 受遺者は,遺贈される遺産の分に対する財産義務を履行しなくてもよい。遺言者の全財産が遺言者の財産義務を精算するのに不足している場合,遺贈用の遺産は遺言者の残りの義務履行に用いられる。

第647条 遺言の公表

1. 文書による遺言が公証営業組織に保管される場合,公証人が遺言の公表者となる。

2. 遺言者が遺言の公表者を指定した場合,その者は遺言を公表する義務を負う;遺言者が遺言の公表者を指定しない又は指定したが指定された者が遺言の公表を拒否する場合,残りの相続人が合意により遺言公表者を選定する。

3. 相続が開始した後,遺言の公表者は,遺言を複写して,遺言の内容に関係するすべての者に送付しなければならない。

4. 遺言の写しを受け取った者は,遺言の原本との対照を請求する権利を有する。

5. 遺言が外国語で作成される場合,その遺言書はベトナム語に翻訳され,公証又は確証されなければならない。

第648条 遺言の内容の解釈

遺言の内容が明確でなく,相互に異なる複数の理解方法がある場合,遺言に従った相続人は,死亡した者の生前の事実どおりの願望に基づき,死亡した者と遺言による相続人との関係を考慮して,遺言の内容を解釈する。それらの者が,遺言の内容の理解方法について一致しないときは,裁判所に対し,解決を請求する権利を有する。

遺言の内容の一部を解釈することができないが,遺言の残りの部分に影響を与えないときは,解釈できない部分のみが無効となる。

第XXIII章 法定相続

第649条 法定相続

法定相続は,法令が規定する相続の順位,条件と相続の順番に従った相続のことである。第650条 法定相続のいくつかの場合

1. 法定相続は,次の場合に適用される。

a) 遺言がない。

b) 遺言が合法でない。

c) 遺言による相続人が全員遺言者より前に死亡した又は遺言者と同じ時点で死亡した;遺言による相続人である機関,組織が相続開始の時点において存在しない。

d) 遺言による相続人と指定された者が遺産を享受する権利を有しない又は遺産受領を拒否した。

2. 法定相続は,次の遺産の部分に対しても適用される。

a) 遺言において処分されない遺産の部分

b) 遺言の無効な部分に関係する遺産の部分

c) 遺産を享受する権利を有しない,又は遺産の受領を拒否した,遺言者より前又は同じ時点で死亡した遺言による相続人;相続開始の時点において存在しない,遺言により遺産を享受する機関,組織,に関係する遺産の部分。

第651条 法定相続人

1. 法定相続人は,次の順序に従って規定される。

a) 第一相続順位は,死亡した者の配偶者,実父,実母,養父,養母,実子,養子からなる。

b) 第二相続順位は,死亡した者の父方の祖父母,母方の祖父母,実の兄弟姉妹,父方の祖父母,母方の祖父母である死亡した者の実孫からなる。

c) 第三相続順位は,死亡した者の曾祖父母,死亡した者の伯父・伯母,叔父・叔母,死亡した者の実の甥・姪,死亡した者の実の曾孫からなる。

2. 同じ相続順位にある複数の相続人は,相互に均等の遺産部分を享受する。

3. 死亡したか,遺産を享受する権利を有しないか,相続権を取り消されたか,遺産の受領を拒否したかの理由で先相続順位の者がいない時にのみ,次相続順位の者は相続を享受することができる。

第652条 代襲相続

遺産を残した者の子が,遺産を残した者より先に死亡した又は同時に死亡した場合,遺産を残した者の孫は,自分の父又は母が存命していれば享受する遺産の部分を享受することができる;遺産を残した者の孫も,遺産を残した者より先に死亡した又は同時に死亡した場合,曾孫は,自分の父又は母が存命していれば享受する遺産の部分を享受することができる。

第653条 養子と養父,養母と実父母との相続関係

養子と養父,養母は,互いの財産を相続することができ,また本法典第651条,第652条の規定に基づき遺産を相続することもできる。

第654条 継子と継父,継母との相続関係

継子と継父,継母は,親子のように面倒をみて,扶養している関係であるときは,互いの財産を相続することができ,加えて本法典第652条,第653条の規定に基づき遺産を相続することもできる。

第655条 妻,夫が共有財産を既に分割した;妻,夫が離婚申請中である,又は他の者と結婚した場合における相続

1. 婚姻している間に妻,夫が共有財産を既に分割し,その後,一方が死亡した場合,存命者は,遺産を相続することができる。

2. 妻,夫が離婚申請中であるが未確定である又は離婚を認めた裁判所の判決,決定に法的効力が生じていない間に,一方が死亡したときは,存命者は,遺産を相続することができる。

3. 死亡した者の寡掃又は寡夫は,別の者と結婚しても遺産を相続することができる。

第XXIV章 遺産の精算と分割

第656条 相続人の集合

1. 相続開始が通知された,又は遺言が公表された後,相続人は,次のことを合意するために集合することができる。

a) 遺産を残した者が遺産管理人と遺産分割人を指定しない場合,遺産の管理人と遺産の分割人の選定,それらの者の権利と義務の確定

b) 遺産の分割方法

2. 相続人の全ての合意は,文書によりなされなければならない。

第657条 遺産分割人

1. 遺産分割人は,同時に,遺言で指定された又は相続人の合意によって選定された遺産管理人であってもよい。

2. 遺産分割人は,遺言どおりに,又は法定相続人の合意どおりに,遺産を分割しなければならない。

3. 遺産を残した者が遺言で許可した,又は相続人の合意がある場合には,遺産分割人は報酬を受け取ることができる。第658条 精算優先順位

財産義務及び相続に関する費用は,次の順序に従って精算される。

1. 慣習に従って死亡した者の埋葬にかかる合理的な費用

2. 未済の扶養料

3.遺産の保管費用

4. 死亡した者に依存している者に対する支援金

5. 労働賃金

6. 損害賠償金

7. 税金,国家予算に納入しなければならない他の金額

8. 個人,法人に対するその他の債務

9. 罰金

10. その他の各費用

第659条 遺言による遺産の分割

1. 遺産の分割は,遺言者の意思に基づいて行われる;遺言が相続人ごとの相続分を明確に確定していないときは,遺産は,遺言に指定された者に対して均等に分割される。ただし,他の合意がある場合を除く。

2. 遺言が現物による遺産の分割を確定している場合,相続人は,現物とその現物から生じる天然果実と法定果実を受け取るものとし,現物が遺産分割の時点で価値が滅少していてもその現物を引き受けなければならない;他人の故意過失によって現物が滅失した場合,相続人は,損害賠償を請求する権利を有する。

3. 遺言が財産の総価値に対する比率で遺産の分割のみを確定している場合,この比率は,遺産の分割時点における遺産の残存価値に基づいて決められる。

第660条 法令による遺産の分割

1. 遺産を分割するとき,同相続順位の相続人が胎児で未出生であっても,他の相続人の享受する分と同じ遺産の部分を取っておかなければならない。その相続人が出生後も生きていれば,その遺産の分を享受する。出生前に死亡したならば,他の相続人が享受する。

2. 相続人は,遺産の現物分割を請求する権利を有する;現物で均等に分割できない場合,相続人は,現物を価格鑑定すること及び現物を受け取る者について合意することができる;合意できなければ,現物は売却され,分割される。

第661条 遺産分割の制限

遺言者の意思又は相続人の全ての合意により,遺産が一定期間の後に分割される場合,その期限が満了した後にのみ,遺産は分割される。

遺産相続の分割請求で,遺産分割が存命している妻又は夫及びその家族の生活に著しく影響を与える場合,存命当事者は,裁判所に対し,相続人が享受する遺産の部分の確定と一定期間において分割させないよう請求する権利を有する。この期限は相続開始の時点から

3年を超えない。3年の期限が満了しても,存命当事者は,遺産分割が依然として家族の生活に著しく影響を与えることを証明することができれば,裁判所に対し,3年を超えない期間の一回延長を請求することができる。

第662条 新しい相続人が出現する又は相続権が取り消される相続人がいる場合の遺産の分割

1. 遺産の分割後,新たに相続人が出現した場合,遺産の現物による再分割はしないが,遺産を受け取った相続人は,受け取った遺産分に相当する割合で遺産分割時点における新相続人の遺産分に相当する金額にて新相続人に対して清算を行わなければならない。ただし,他に合意がある場合を除く。

2. 遺産の分割後相続権が取り消される相続人がいる場合,その者は遺産を返還し,又は遺産分割時点に享受した当人の遺産の価値に相当する金額を他の相続人に対して清算しなければならない。ただし,他に合意がある場合を除く。

第五編 外国的要素を持つ民事関係に適用する法令

第XXV章 総則

第663条 適用範囲

1. この編は,外国的要素を持つ民事関係に適用する法令について規定する。

その他の法律に外国的要素を持つ民事関係に適用する法令に関する規定があり,本法典第664条から第671条の規定に反しない場合は,その法律が適用される。反する場合は,本法典第五編に関連を有する規定が適用される。

2. 外国的要素を持つ民事関係とは,次のいずれかに属する民事関係をいう。

a) 参加する少なくともいずれか一方の当事者が外国の個人,法人である。

b) 参加する各当事国はともにベトナムの公民,ベトナムの法人であるが,当該関係の確立,変更,実施,消滅が外国において生じている。

c) 参加する各当事者はともにベトナムの公民,法人であるが,当該民事関係の対象が外国に所在する。

第664条 外国的要素を有する民事関係に適用する法令の確定

1. 外国的要素を有する民事関係に適用する法令は,ベトナム社会主義共和国が加盟する国際条約又はベトナム法に従って確定される。

2.ベトナム社会主義共和国が加盟する国際条約又はベトナム法に,各当事者が選択権を有するとの規定がある場合,外国的要素を有する民事関係に適用する法令は,各当事者の選択に従って確定される。

3.この条第1項及び第2項の規定に基づき適用する法令を確定できない場合,適用法令は,その外国的要素を有する民事関係と最も密接に関係する場所を有する国の法令である。

第665条 外国的要素を有する民事関係に対する国際条約の適用

1.ベトナム社会主義共和国が加盟する国際条約が,外国的要素を有する民事関係に参加する各当事者の権利義務に関する規定を有する場合,その国際条約の規定を適用する。

2.ベトナム社会主義共和国が加盟する国際条約が,外国的要素を有する民事関係に適用する法令について,この章の規定及び他の法律と異なる規定を有する場合,その国際条約の規定を適用する。

第666条 国際慣習の適用

本法典第664条2項が規定する場合において,各当事者は国際慣習を選択することができる。その国際慣習の適用結果がベトナム法令の基本原則に反する場合には,ベトナム法令を適用する。

第667条 外国法令の適用

適用する外国法令に相互に異なった理解の仕方がある場合,その国において権限を有する機関の解釈に従って適用しなくてはならない。

第668条 参照25法令の範囲

1. 参照法令は,この条第4項に規定する場合を除き,適用法令の確定に関する規定及び民事関係に参加する各当事者の権利義務に関する規定からなる。

2ベトナム法令を参照する場合,適用する民事関係に参加する各当事者の権利義務に関するベトナム法令の規定を適用する。

3第三国の法令を参照する場合,適用する民事関係に参加する各当事者の権利義務について第三国の法令の規定を適用する。27.

4本法典第664条2項に規定する場合,各当事者が選択する法令は,民事関係に参加する各当事者の権利義務に関する規定であり,適用法令の確定に関する規定を含まない。

第669条 複数の法令体系を持つ国の法令の適用

複数の法令体系を持つ国の法令が参照される場合,適用法令はその規定の国の法令が規定する原則に基づいて確定される。

第670条 外国法令を適用しない場合

1. 参照される外国法令は,次の場合には適用することができない。

a) 外国法令の適用結果がベトナム法令の基本原則に違反する。

b) 訴訟法の規定に基づき必要な各措置を適用したにもかかわらず,外国の法令の内容を確定することができない。

2. この条第1項の規定に基づき外国法が適用されない場合,ベトナム法令が適用される。

第671条 時効

外国的要素を有する民事関係の時効は,当該関係に適用する法令に基づき確定される。

第XXVI章 個人,法人に適用される法令

第672条 無国籍の者,多国籍の者に対する適用法令確定根拠

1. 参照される法令が個人が国籍を有する国の法令であるが,その者が無国籍である場合,適用法令は,外国的要素を持つ民事関係が生じた時点でその者が常住していた地の国の法令である。その者が外国的要素を持つ民事関係が生じた時点で複数の居所を有していた,又は居所を確定することができない場合,適用法令は,その者が最も密接な関係を有する地の国の法令である。

2. 参照される法令が個人が国籍を有する国の法令であるが,その者が多国籍者である場合,適用法令は,その者が外国的要素を持つ民事関係が生じた時点で国籍を有し,常住していた地の国の法令である。その者が外国的要素を持つ民事関係が生じた時点で複数の居所を有していた,居所を確定することができない,又は居所と国籍を有する地が相互に異なる場合,適用法令は,その者が国籍を有し,かつ,最も密接な関係を有する国の法令を適用する。

参照される法令が個人が国籍を有する国の法令であるが,その者が多国籍者であり,その中にベトナム国籍がある場合,適用法令はベトナム法令である。

第673条 個人の民事法律能力

1. 個人の民事法律能力は,その者が国籍を有する国の法令に従う。

2. ベトナムに所在する外国人は,ベトナム法令が他の規定を有する場合を除き,ベトナム公民と同じ民事法律能力を有する。

第674条 個人の民事行為能力

1. 個人の民事行為能力は,この条第2項に規定する場合を除き,その者が国籍を有する国の法令に従う。

2. 外国人がベトナムにおいて民事取引を確立,実施する場合,その外国人の民事行為能力はベトナム法令に従って確定される。

3. ベトナムにおける個人の民事行為能力喪失,行為認識制御困難又は民事行為能力制限の確定は,ベトナム法令に従う。

第675条 失踪又は死亡した個人の確定

1.失踪又は死亡した個人の確定は,この条第2項に規定する場合を除き,その者に関する最後の情報があった時点の前にその者が国籍を有していた国の法令に従う。

2.失踪又は死亡した個人のベトナムにおける確定は,ベトナム法令に従う。

第676条 法人

1. 法人の国籍は,法人が設立された地の国の法令に従って確定される。

2. 法人の民事法令能力;法人の名称;法人の法定代表者;法人の組織,再編,解体;法人と法人構成員の関係;法人及び法人構成員の法人の義務に対する責任は,この条第3項が規定する場合を除き,法人が国籍を有する国の法令に従って確定される。

3.外国法人がベトナムにおいて民事取引を確立,実施する場合,その外国法人の民事法令能力はベトナム法令に従って確定される。

第XXVII章 財産関係と身分関係に対して適用される法令

第677条 財産の分類

財産の動産,不動産への分類は,財産がある地の国の法令に従って確定される。

すみれ

「財産がある国の法令、か」

第678条 所有権及び財産に対するその他の権利

1. 所有権及び財産に対するその他の権利の確立,履行,変更,消滅は,この条2項が規定する場合を除き,財産がある地の国の法令に従って確定される。

2. 輸送中の動産に対する所有権及び財産に対するその他の権利は,その他の合意がある場合を除き,動産の輸送先の地の国の法令に従って確定される。

第679条 知的所有権

知的所有権は,知的所有権の対象が保護を求められる地の国の法令に従って確定される。

第680条 相続

1. 相続は,相続される遺産を残した者が死亡の直前に国籍を有していた国の法令に従って確定される。

すみれ

「国籍で決まるんだ。」

2. 不動産に対する相続権の行使は当該不動産の所在する地の国の法令に従って確定される。

第681条 遺言

1. 遺言の作成,変更又は撤回の能力は,遺言作成,変更又は撤回の時点で遺言作成者が国籍を有する国の法令に従って確定される。

2. 遺言の形式は,遺言が作成された地の国の法令に従って確定される。遺言の形式も,次の各国のいずれかの法令と合致する場合,ベトナムにおいて公認される。

a) 遺言を作成した時点又は遺言作成者が死亡した時点で,遺言作成者が常住していた地の国

b) 遺言を作成した時点又は遺言作成者が死亡した時点で,遺言作成者が国籍を有していた地の国

c) 相続遺産が不動産である場合,不動産の所在地。

第682条 後見

後見は,被後見人が常居する地の国の法令に従って確定される。

第683条 契約

1. この条第4項,第5項及び第6項に規定する場合を除き,契約関係における当事者は,契約に対する適用法令の選択につき合意することができる。適用法令につき各当事者間に合意がない場合,その契約と最も密接な関係を有する国の法令が適用される。

・・・中略・・・・・

第六編 施行条項

第688条 経過規定

1. 本法典が効力を有する日の前に確立された民事取引については,次のように規定される法令を適用する。

a) まだ実施されていないが,内容,形式が本法典の規定と異なる民事取引については,取引主体は引き続き民法典33/2005/QH11及び民法典33/2005/QH11を詳細に規定する各法規範文書の規定に基づき実施する。ただし,民事取引当事者が取引の内容,形式を本法典に合致させ,本法典を適用するために修正,補充する合意を有する場合を除く。

実施中の民事取引で内容,形式が本法典と異なる場合,民法典33/2005/QH11及び民法典33/2005/QH11を詳細に規定する各法規範文書の規定を適用する。

b) まだ実施されていない又は実施中であるが,内容及び形式が本法典の規定と合致する民事取引は,本法典の規定を適用する。

c) 本法典が効力を有する日の前に実施が完了したが紛争が生じている民事取引は,民法典33/2005/QH11及び民法典33/2005/QH11を詳細に規定する各法規範文書の規定を適用して解決する。

d) 時効は,本法典の規定に基づき適用する。

2. 本法典が効力を有する日の前に民事に関する法令の規定に基づき裁判所が解決した事件の,監督審,再審の手続に従った異議申し立てのために,本法典を適用しない。

第689条 施行効力

本法典は,2017年1月1日から施行効力を有する。

民法典33/2005/QH11は,本法典が効力を有した日から効力を失う。

本法典は,ベトナム社会主義共和国第13期国会第10会期において採択された。

国会議長

グエン シン フン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

すみれ・ポリー・番人

「お疲れ様でした。上原ひろみさんすごいですね。」

ベトナム社会主義共和国統一企業法

ベトナム社会民主主義共和国

準拠法

ベトナム社会主義共和国統一企業法

会社の種類

有限会社・株式会社・合名会社・私営企業

二人以上有限会社

社員(会社構成メンバー、出資者、以下同じ)は、組織でも個人でも認められるが、社員の総数が50名を超えてはならない。

社員は、企業への出資額の範囲内で、企業の債務又はその他の財政義務に対し責任を負う。

有限会社は、企業登記証明書の発給を受けた日から法人格を有する(第47条)。

有限会社は、株を発行することができない。

一人有限会社

組織または個人により所有される一人社員有限会社

株式会社(第110条)

会社法定資本が複数の等分に分けられ、個々の等分が株式である。株主は、組織でも個人でも認められる。株主の人数は最低3名で、上限はない。

株主は,債務及びその他の企業の財産義務につき,企業に出資した額の範囲内で責任を負う。

株式会社は,企業登記証明書の発給を受けた日から法人格を有する。

株式会社は資本を呼び込むため各種の株式を発行する権利を有する。

合名会社(第172条)

会社の共同所有主として、同一の名前で共同経営する合名社員の数が、少なくとも2名である。

合名社員は、個人でなければならず、会社の債務についてすべての個人財産をもって責任を負う。

出資社員は、出資額の範囲内で会社の債務に対する責任を負う。

私人企業(第183条)

一人の個人が主体的に営み,企業の全活動に関し,自己の全財産をもって自ら責任を負う企業。

私人企業主の投資資本は企業主が自ら登記するところによる。私人企業主は,投資資本の総数を正確に登記する義務を負う。

商号

企業の外国語による名称及び企業の略称(第40条)

企業の外国語による名称とは,ベトナム語の名称をいずれかのラテン文字系統の外国語に翻訳した名称をいう。外国語に翻訳する際は,企業の固有の名称を維持し,又は外国語における相応する意味に従って翻訳することができる。

 企業が外国語による名称を有する場合,企業の外国語による名称は,企業の本店,支店,駐在事務所,経営拠点又は企業が発行する各取引文書,資料書類及び印刷物上に,企業のベトナム語の名称より小さな文字で印刷又は記載される。

 企業の略称は,ベトナム語の名称又は外国語による名称を略記したものである。

支店,駐在事務所及び経営拠点の名称(第41条)

 支店,駐在事務所,経営拠点の名称は,ベトナム語の文字表にある各文字,“F,J,Z,W”の各文字,数字及び記号により記載されなければならない。

 支店,駐在事務所の名称は,企業の名称に加え,支店については「支店」,駐在事務所については「駐在事務所」という熟語を含まなければならない。

 支店,駐在事務所,経営拠点の名称は,支店,駐在事務所及び経営拠点の建物に記載され,又は据え付けられなければならない。支店,駐在事務所の名称は,支店,駐在事務所が発行する各取引文書,資料書類及び印刷物上に,企業のベトナム語の名称より小さな文字で印刷又は記載される。

発起人(第4条)

企業を設立する又は設立するために出資する組織,個人

基本定款の記載事項(第25条)

・会社の本店の名称,住所;支店及び駐在事務所の名称及び住所

・経営分野,業種

・定款資本;株式会社については株式総数,株式の種類及び株式の種類ごとの額面額

・合名会社については各合名社員の,有限責任会社については会社所有者,社員の,株式会社については発起株主の氏名,住所,国籍及びその他の基本的な各特徴点,並びに有限責任会社及び合名会社については,それぞれの社員の持分及び持分の価額,及び発起株主の株式の数,株式の種類,種類ごとの株式の額面額

・有限責任会社,合名会社については社員の,株式会社については株主の権利及び義務

・管理組織機構

・有限責任会社,株式会社については法定代表者

・会社の決定の採択方式;内部紛争の解決原則

・管理者及び監査人に対する報酬,給与及び賞与の確定根拠及び方法

・社員が会社に対し,有限責任会社については持分,株式会社については株式の買取りを請求する権利を有する諸場合

・税引後の利潤の分配及び損失処理の原則

・会社が解散する各場合,解散の手順及び財産の清算手続

・会社の定款の修正,補充の方法

施行効力(第212条)

1. この法律は2015年7月1日から施行効力を有する。企業法(2005年11月29日付)及び企業法第170条を修正,補充する法律(2013年6月20日付)は,以下の各場合を除き,この法律が発効した日から施行効力を失う。

a) この法律が効力を有するより前に設立された有限責任会社については,出資の期限は会社の定款の定めるところによる。

b) 国が定款資本を掌握する各企業は,2017年7月1日より前に,この法律第189条2項及び3項の規定を確実に遵守するため,再構成を行わなければならない。

c) 2015年7月1日以前に出資,株式買入を行った国が掌握する株式又は持分を有さない各会社は,この法律第189条2項の規定に従う必要はないが,相互保有の割合を増やしてはならない。